稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第74話 ハッピーバースデー!

「さて、今日お前たちに集まってもらったのは他でもない」

「ニコさん以外がそのセリフ言うの初めて聞いた……」

 

 昨日、「事務所の会議室取ったからこい」とアザミからDMが届き、何もわからないまま事務所に到着。月宮さんがいないのはどういうことだろうか。まさか、月宮さんに何かあったとか……!? いや、昨日配信していたはずだし、身内に不幸だとかそういうこともなかったはずだ。じゃあなんでいないんだ?

 

「……その顔を見るに、なぜ集められたかわかっていないようだな」

「すまん。まったく心当たりがない」

「本当に?」

「記念日を忘れてしまった彼氏か俺は。もったいつけずに教えて……いや、アザミがそう言うということは俺が自分自身で気づくべきことなんだろう。少し時間をくれ」

「お前が私の彼氏なわけがないだろう。ならせてやってもいいが」

 

 椅子をなぎ倒し、跳ね上げられた机を満が抑えてくれたのを見ながら、努めて冷静に思考する。

 

「冷静になれてないよ」

 

 だから努めてと言っているだろう。

 

 まず、月宮さんがいないというところから推測するべきだ。俺と満とアザミだけで考えるべき何かがあるということ。しかし直近でアザミと何かをするということは聞いていない。もしかしたら俺が連携を受けていないだけかもしれないが、帝斗に限ってそれはない。いや、イレイナさんとの件があったから、その可能性もなくはないのか?

 だが、アザミが『俺自身で気づくべき』と思っているのであれば、『誰かから連携を受けるようなこと』ではなく、『俺が当然わかっておくべきこと』なのだろう。となると、同期が大好きなアザミのことだから、月宮さん関連で何かがあるという可能性をまず考えるべきか。

 

 さて、何があったか。月宮さんは11月1日に誕生日を迎え、この前「誕生日グッズって、まぁ、祝ってもらうっていう意味で出すのは正しいんでしょうけど、めちゃくちゃ浮かれてるみたいでなんか恥ずかしいわね」とものすごく共感できることをぼやいていた。

 

 これじゃないか?

 

「月宮さんの誕生日か」

「よかった。もう少し遅れていたら」

「そこで言葉を切るのやめてくれないか。わからないこと以上に怖いものはない」

「なになに? もしかしてサプライズとか?」

 

 そうだ、月宮さんの誕生日だ。なぜすぐに出てこなかったんだ俺は。つい昨日「お前たちに集まってもらったのは他でもない。月宮さんの誕生日が迫っている!」と帝斗と透華に相談し、「どうせプレゼント何にしたらいいかとかだろ。気持ち気持ち」「気持ちっスね」と軽く流されたばかりだと言うのに。もしかしたら軽く流されすぎてそのまま意識から薄れていったのかもしれない。

 

 俺の手を引いて椅子に座らせてくれながら目を輝かせる満に、アザミは神妙な面持ちで頷いた。

 

「あぁ。そして、非常に情けないことに私は親しい友人の誕生日を祝ったことがない」

「なるほど。しかしアザミ、俺はサプライズという単語がトラウマになる事件があった。祝い事に関して俺たちで考えても答えは出ないと思うが」

「出るか出ないかじゃない。考えるべきなんだ。私たちは優姫の同期であり、友人だからな。優姫も特別に想ってくれている……と思いたい」

「うーん、かわいい」

 

 後半にかけてもじもじするアザミを見て、満が深く頷いた。わかる。

 

 確かにそうだ。帝斗と透華も気持ちと言っていたし、100点の回答でなくとも、祝いたいという気持ちで考えたというプロセスが大事になる。言ってしまえばそれは祝われる側のセリフでもあるが、祝う側もそういう気持ちでなければ何も動けない。特に俺やアザミのような人間は、感情よりも理屈が先にくるタイプだからな。

 

「というわけで、優姫の誕生日に何ができるか、徹底的に議論したい。頼めるか、満」

「そういうことならとことん付き合おう。というわけで満、積極的に案を出してくれ」

「早速私頼みじゃん。私も月宮さん大好きだから出すけど」

 

 俺とアザミは肩を竦めた。やれやれ。俺とアザミならそもそもこのような相談をする前に案の一つや二つ考えてきている。それがないということは、まったく浮かばなかったということだ。それを理解できていないとは、満はまだまだらしい。

 

「理解できた上で呆れてるんだよ」

 

 やれやれ。理解されていたらしい。俺とアザミは両手を挙げて降参のポーズをとった。

 

 俺とアザミから早速頼られた満はふわりと浮いて、会議室の隅にあったホワイトボードを引っ張ってくる。そして、置いてあったペンを手に取って『月宮さんのお誕生日に向けて!』と真ん中に大きく書いて、これでは出た案を書くスペースがないことに気づいてすぐに消し、上の方に控えめに同じ文字を書いた。

 

「かわいいな」

「だろう?」

 

 頬を緩めて満を見るアザミに同意する。同じホワイトボードを使うのでも、『オシャレ』しか書かなかったイベリスとは大違いだ。

 

「んーと、まずはサプライズするかしないかだよね」

「俺がサプライズできると思うか?」

「あらゆる意味で驚かせることができるとは思うが、本当にやりたい意味でのサプライズはできそうにないと思っている」

「あぁ。流石アザミだ」

「なんかカッコつけて喋ってるけど、情けなさを強調してるだけだからね」

 

 『サプライズ:ニコさんが×』とホワイトボードに刻まれる。おい、アザミも×かもしれないだろ。なぜ俺だけができないと決めつけているんだ。

 まぁ仕方がない。俺にはサプライズを大失敗した経験があるし、証拠もあるんだ。そんなやつがもう一回サプライズをしようなどと……いや、待てよ。一度無理だったからやめるのか? それをし続ける人生に果たして発展はあるのか? 自分には向いていないからやめるというのは選択肢として正しいが、俺のようにできないことの方が多い人間が、そもそもサプライズ自体あの時初めてやったような人間が、一度ダメだったからと言ってそれをトラウマと呼び、諦め続ける人生でいいのか?

 

 俺はVTuberになって社会に進出し、コミュニケーション能力も改善されている。であれば、できなかったことでももう一度チャレンジし、更に人間として成長するべきだ。いや、べきじゃない。俺がそうしたい。

 

「少しいいか」

「お前が長々と考えていたということは、サプライズに対して何か思うことがあるのだろう。であれば自然、お前の性格なら一度失敗したサプライズにも挑戦してみようという気持ちが湧き上がったというところか」

「なぜ俺はこんなに考えていることがすぐにバレるんだ?」

「露呈してるんだよ。人間性が」

 

 それはいいことなのか悪いことなのか。俺は俺自身を悪い人間ではないと思っているから、いいこと寄りな気がする。

 満はなぜか嬉しそうに笑った後、『サプライズ:ニコさんが×』を消し、『サプライズ:ニコさんが前向き!』と元気いっぱいな字で書いた。

 

「しかし、月宮さんはサプライズを嬉しいと思うだろうか?」

「誕生日に花束をもらえるのは嬉しいと、スパダリ王決定戦で発言していた。花束などという実用性のないものをもらって嬉しいと感じるのなら、サプライズも嬉しいだろう」

「後半のめちゃくちゃな偏見は別として、私も嬉しいって思ってくれると思うよ!」

 

 そういえばそんなことも言っていたな。アザミは俺たちの配信、俺たちが出る配信をすべて見ている上、記憶力もいいらしい。

 花束が嬉しければサプライズも嬉しい、というのは偏見に聞こえるが、あの発言のニュアンスから想像するに、『プレゼントが何か』というわけではなく、『気持ち』を重視しているようなものだった。つまり、『喜んでもらいたくてサプライズをしたい』という『気持ち』を嬉しく思ってくれるはず。少々乱暴だが、理屈としては理解できる。

 

「問題は、どんなサプライズをするかだ」

「当日の優姫の予定は、配信だな。あまり優姫が他ライバーと絡みにいかないからと、視聴者たっての希望で凸待ちするらしい」

「何っ。ならサプライズは邪魔になってしまうか?」

「配信時間以外で時間もらえばいいんじゃない?」

「そうだな。優姫が凸待ちするというのなら、私たちがいかない理由もない。その時間はサプライズもできないから、自然とそうするしかないか」

 

 誕生日くらい自分の好きな時間を過ごしてもいいのに、月宮さんは配信者の鑑だ。企業所属で誕生日グッズも出ると言うのなら誕生日での配信も義務になるかもしれないが、きっと月宮さんは見てくれている視聴者の「祝いたい」という気持ちを汲んで、配信してくれるのだろう。自惚れではなく、客観的に『VTuberの誕生日』というものをコンテンツとして捉えた上で。

 しかし、せっかくなら盛大に祝いたいと思っていたが、配信があるなら微妙か? いや、配信前に祝って、凸待ちに突撃し、その話題で視聴者を楽しませるということもできる。むしろ微妙どころかいいまであるな。

 

 ……待て、視聴者を楽しませる? そして凸待ち? サプライズ?

 

 いや、いいのか? 俺は月宮さんの同期で友人であるとはいえ男だ。いくら燃えにくい性質であっても、流石にマズいような気もする。俺のせいで月宮さんにまで迷惑をかけてしまっては本末転倒だ。

 

「ニコ、何か思いついたのか?」

 

 一人で頭を悩ませる俺の顔をアザミが覗き込んでくる。そのアングルはキュンとするからやめてほしい。俺がまた擬音を口に出して、満から「キモい」と言われたらどうするんだ。前に擬音を口に出すからキモいと言われたことを気にして最近気を付けているんだ。やめてくれ。

 

「いや……うぅん」

「今ニコさんが悩んでる案採用! 楽しい! じゃあプレゼントをどうするかだね!」

「満、よく考えろ。いいと思うか? 俺は男で月宮さんは女性だぞ?」

「大丈夫でしょ。というかニコさんが男だって思ってる視聴者の人、多分いないよ?」

「お前たちは一心同体で以心伝心だからいいが、私にも詳細を教えろ。拗ねるぞ」

 

 口の先を尖らせてぶーたれるアザミに、俺と満が慌てて説明すると、アザミが「いいな、それ」と乗り気になった。もう俺がどう心配しようと決定事項だ、これは。

 あとは、今まで炎上しなかった俺の実績に祈るしかない。

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part17

 

871:このライバーがすごい! ID:reZayCxyp

誕生日おめでとう優姫ちゃん!

 

872:このライバーがすごい! ID:hpeKDGIDK

おめでとう誕生日優姫ちゃん!

 

873:このライバーがすごい! ID:HKadnJ8ue

優姫ちゃん誕生日おめでとう!

 

874:このライバーがすごい! ID:o34GoS8k7

めでたい

 

875:このライバーがすごい! ID:KEeBhL+Cg

凸待ちに来た人(上から順)

・星菜ちゃん&姉御(ニコつながり)

・アル(『project:SP』で選んでもらったから)

・マリー(友だち)

・イベリス(オシャレだから)

・ルイス(クールだから)

・シゲキ(シゲキ的だから)

・サラ(友だち)

・純花さん(友だち)

 

876:このライバーがすごい! ID:23XZP1FK9

おかしいのが挟まってる

 

877:このライバーがすごい! ID:lkrNvSXzg

一期生は凸待ちとか逆凸とかの参加率ほぼ100%だぞ

 

878:このライバーがすごい! ID:TSEBAmRE7

()内の理由が意味不明すぎる

いや、わからないでもないけど

 

879:このライバーがすごい! ID:XYZErvWKa

ニッコリ探偵団はまだか!

 

880:このライバーがすごい! ID:TFa8G5tsu

優姫ちゃんちょっとそわそわしててかわいい

 

881:このライバーがすごい! ID:p0yym2HM1

優姫ちゃんも待ってるよな、これ

 

882:このライバーがすごい! ID:spe1PGEJW

コメントで指摘された優姫ちゃん

優姫ちゃん「当たり前でしょ、待つわよ。祝ってほしいもの」

 

883:このライバーがすごい! ID:V12hRmFc6

尊い

俺、今日から生まれ変わることにした

 

884:このライバーがすごい! ID:w/XTVyDM8

冒頭で「凸待ちって祝ってくれって言ってるみたいで恥ずかしい」って言ってたのに

ニッコリ探偵団相手だと「祝ってほしい」なのほんとスコスコの実の全身スコ人間

 

885:このライバーがすごい! ID:nxw8Ymfku

>>884

近寄るな、化け物!

 

886:このライバーがすごい! ID:ja502/atm

>>884

スコ人間ってなんだよ、ぶっ飛ばすぞ

 

887:このライバーがすごい! ID:K34OJYGPH

>>886

そんな怒るようなことじゃないだろ

 

888:このライバーがすごい! ID:asQb6uydK

ニッコリ探偵団まだ?

 

889:このライバーがすごい! ID:XyDoKUM1e

これでこなかったら、優姫ちゃん可哀そう

 

890:このライバーがすごい! ID:LTHF7OdOW

こないわけないだろ!!

 

891:このライバーがすごい! ID:vOtpvIeJ2

予定あるなら優姫ちゃんに伝えてるだろうしなぁ

 

892:このライバーがすごい! ID:NFIa52/ks

ニコが焦らしを覚えたのか……?

 

893:このライバーがすごい! ID:I0MBjWW7W

>>892

焦らしてるとしても、明らかにニコじゃなくてアザミんの知恵だろ

 

894:このライバーがすごい! ID:5bvzmlR0F

 

895:このライバーがすごい! ID:ltrSiGIw1

きた!!

 

896:このライバーがすごい! ID:G7YwwkSWm

音質悪くね?

 

897:このライバーがすごい! ID:Q4w/MmCFy

スマホか

 

898:このライバーがすごい! ID:C8ZX4UKpM

一緒にいるだと?

 

899:このライバーがすごい! ID:QEEotTEjF

優姫ちゃん誕生日オフ会(本人なし)ってこと?

 

900:このライバーがすごい! ID:rCBOETWHs

チャイム鳴った

 

901:このライバーがすごい! ID:OfwQs3xhl

向こう側からも聞こえなかったか?

 

902:このライバーがすごい! ID:iC+ZTYiOs

おいまさか

 

903:このライバーがすごい! ID:YBK8VRPC0

【朗報】ニッコリ探偵団、ガチ凸

 

904:このライバーがすごい! ID:g0E3clN5e

うおおおおおおおおおおお

 

905:このライバーがすごい! ID:bbwCq6shm

アザミん、貴重なお歌(ハッピーバースデー)を披露

 

906:このライバーがすごい! ID:ILXF+gA7m

満ちゃん元気いっぱいでかわいい

 

907:このライバーがすごい! ID:FbM1z8gp4

ニコ、無駄に美声

 

908:このライバーがすごい! ID:i4dmyZ9/0

歌とはいえ、今ニコが優姫って言ったか!?

 

909:このライバーがすごい! ID:AaM6mMySR

ニコ「いやぁしかし、友人だとはいえ女性の家はやはり緊張するな」

優姫ちゃん「別に今更ニコに見られたところで気にしないけど、最低限のマナーは守ってね」

アザミん「下着を散らかすような者ではなくてよかったな」

ニコ、動揺して転げまわる

満ちゃん「ちょっと、アザミさん! ニコさんの前で下着なんてえっちな言葉言わないで!」

 

910:このライバーがすごい! ID:73UGprc2/

 

911:このライバーがすごい! ID:xIDFcf+Hd

中学生かよ

 

912:このライバーがすごい! ID:nbk345bvn

下着ってだけでえっちになる想像力がマズいだろ

 

913:このライバーがすごい! ID:J8KqGsN35

お?

 

914:このライバーがすごい! ID:CAOjp6baC

え?

 

915:このライバーがすごい! ID:ZKsG+OxJ3

【速報】ニコ、感謝の手紙をしたためてきた

 

916:このライバーがすごい! ID:XxFellhxd

ニコらしいというかなんというか

 

917:このライバーがすごい! ID:OB0kPJpS+

花束も持ってきてたし、ほぼプロポーズだろ

 

918:このライバーがすごい! ID:pvO6ZQtIc

ニコ「あ、あとで読んでくれ」

アザミん「今ニコが読むんじゃないのか? 声に出して」

ニコ「そっ、そんな恥ずかしい真似ができるか!!」

優姫ちゃん「後でちゃんと読むわよ。配信的には視聴者のみんなも内容知りたいでしょうけど、ニコが私のために書いてきてくれたものなら、その……ひとりじめしたいし」

満ちゃん「うわ、月宮さんかわいい!」

アザミん「かわいいぞ優姫」

ニコ「かっ、かっ、かわっ、かわっ」

優姫ちゃん「ふふっ、無理して合わせなくていいわよ」

 

919:このライバーがすごい! ID:V+rGOQPfa

童貞すぎる

 

920:このライバーがすごい! ID:uDObkAvuc

ニッコリ探偵団が可愛いということで

 

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