稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第75話 偶然

「何!!??? チャンネル登録者数が20万人を突破しているだと!!!???」

「久しぶりだね、その導入」

 

 20万人を突破したが、初心を忘れないという意味でやってみた。

 

 月宮さんとアザミも20万人を突破している。三人横並びで順調なのは本当に嬉しい。『楽園都市』での3Dお披露目にも追い風となるだろう。

 しかし、まさかここまで順調にいくとは……。今までの俺の人生を考えれば考えられないことだな。順調にいったことなんて、学歴くらいしかない。つまり俺が順調にいっていなかったのは、俺自身で選択したオカルト事務所の所長という進路のせいということになる。それは認めたくないから、なんだかんだ今まで人生順調だったということにしておこう。帝斗と透華もいたしな。

 

「20万人か……何か記念配信をせねばな。ASMRとかどうだ?」

「ほんとに無理」

 

 ほんとに無理らしい。かなりドン引きしながら言ってきたから、素直に従っておこう。流行ってるのに……。

 ただ、俺もわかっている。俺を見てくれている人たちは、俺のASMRなど求めていない。厳密に言えば求めてくれている人はいるかもしれないが、それはかなりの少数だ。記念配信と銘打つからには、申し訳ないが大多数が受け入れてくれるような配信にせねば……いや、むしろ記念配信だからこそ特別なものにした方がいいんじゃないか?

 

「ASMRはやめとけ」

「ASMRは信じらんないっスね」

 

 帝斗と透華からもストップが入った。これは本格的にやめておいた方がいいらしい。まぁ、俺もASMRをするといっても何を話せばいいのかわからず、高性能で高価なマイクを前に立ち尽くす未来しか見えないから、やらなくて正解だと思う。

 しかし、身内が身内のASMRを止めるというのは自然なことではないか? 共感性羞恥というやつだ。もしかしたら、俺の視聴者は俺のASMRを求めているかもしれない。

 

 試しに視聴者にアンケートを取ってみるとするか。

 

 爆速で『いらない』が伸びている。dicecodeでも月宮さんから『やめなさい』、アザミからも『おもしろいが、やめておけ』、マリーからは『私にだけにして』。反応速度も爆速なのは嬉しい限りだが、そんなに否定しなくてもいいんじゃないかとも思ってしまう。俺も元々需要がないと思ってはいたからそこまでダメージはないが、そんなに需要がないのか……?

 

「うーん、じゃあ何をすればいいんだ……」

「ASMRしか手札なかったの……?」

「佐藤がカードゲームの主人公じゃなくてよかったな」

「毎回手札事故っスもんね」

「覚えてろ! 絶対に俺一人で記念配信の内容を考えてやる! 行くぞ、満!」

「飯までには帰ってこいよ」

「事務所出るなら掃除しとくっスね」

「いつもありがとう!!」

 

 二人に感謝を告げ、事務所を飛び出す。実体化にも慣れたもので、最初は歩くことに苦労していた満も、今では難なく俺の隣を歩いている。今日が休日でよかった。勢いのまま飛び出してきたが、平日だったら間違いなく職質され、なんだかんだで俺が身バレしていたかもしれない。俺と満に限ってはほとんど二次元か三次元かという違いしかないが、俺が身バレすることによって周囲に危険が及ぶのは避けたいからな。

 

「なんか勢いのまま飛び出したけど、どこ行くの?」

「どこに行こうか……。なんかこういう場所で考え事していたらカッコいいみたいな場所、ないか?」

「それ考えてる時点でカッコ悪いけど……。うーん、お墓とか?」

「連想が幽霊すぎるだろう。それに、俺がお墓に行ってしまえば人気者になって考え事一つできなくなる」

「確かに」

 

 街中に入ったため、幽霊関連のことは喋らないように注意する。よく考えれば、俺は身バレする要素が多くないか? そもそも見た目からして同じ格好をすればほぼ同じ見た目になる上、女子中学生を連れている成人男性、更に幽霊が見えて話せて触れられる。言い逃れができない要素が揃いすぎている。なぜ俺は今まで身バレしていなかったんだ? 外に出ていなかったからか?

 まぁ案外、探そうと思っていなければ見つからないレベルではあるということだろう。他人のことを気にする余裕のある人間など、現代社会ではあまりいない。あと今気づいたが街中に出てしまったら記念配信について満と話すこともできない。何のために事務所を飛び出したんだ。

 

「……ん?」

「あっ、つ……秋月さんじゃない? あの人」

 

 どこか個室にでも入るかと考えていた時、見覚えのある後ろ姿を見つけた。あの凛とした綺麗な後ろ姿は、俺の見間違えでなければ月宮さん……秋月さんだろう。ここは街中だ。旅行中のように、心の中でも秋月さんと呼ぶように心がける脳に切り替える。

 

「どこ行くのかな?」

「声をかけてみるか」

「佐藤さんが人に声をかける……!?」

「バカにするな! お前はそこで歯を食いしばって見ていろ!」

「別に悔しくはないけど……」

 

 いくら自他ともに認めるコミュ障であるとはいえ、秋月さんほど交流の深い相手であれば声をかけるくらい造作のないことだ。満め、俺の隣にいるのにそんなこともわからないとは、嘆かわしい。今からの俺の姿を見て、満の中の俺をグレードアップするといい。

 

 ……しかし、秋月さんは完全にプライベートだ。俺と約束したわけでもない。だとすると、俺に話しかけられたら迷惑なんじゃないのか? それに、もしかしたら人に知られたくないプライベートを過ごす可能性もある。誰にだって隠し事の一つや二つはあるんだ。もしそうだったとしたら、俺がここで声をかけるというのは秋月さんに多大な迷惑をかけることになる。その可能性があるなら話しかけるべきではないのではないか? 

 

「意気地なしオブ意気地なしじゃん」

「いやしかしだな満。お前も俺の心が透けて見えているだろうから説明する必要もないだろうが、今は完全なプライベートであって」

「必要ないよ。透けて見えてるから。佐藤さんが声かけないなら私が行くよ?」

「待て。今から彼氏とデートだったらどうする? 秋月さんならやんわりと挨拶だけ交わしてバイバイしてくれるだろうが、その場面を彼氏さんに見られていたら、いらない修羅場が生まれるかもしれない」

「あー、確かに。考えすぎだとは思うけど、ない話じゃないよね。秋月さーん!」

「俺の考えがくだらないならはっきりくだらないと言ってもらえないか?」

 

 俺の言葉は満に届くことはなく、満は元気よく走って、振り向いた秋月さんにダイブする。それを華麗に受け止めた秋月さんは目を丸くした後、すぐにふにゃっと表情を緩ませて満の背中に腕を回し、ぽんぽんと優しく叩いた。

 

「満ちゃん? 佐藤さんも。奇遇ね」

「奇遇! 嬉しい!」

「こんにちは秋月さん。今から彼氏とのデートだったとして、この場面を彼氏さんに見られ、後々修羅場になってしまったらすまない」

「何そのキモい妄想。彼氏いないし、いたとしてもそんなことで修羅場になるような彼氏ならごめんよ」

「女子中学生を連れた俺のような男が秋月さんと話していたら、全世界の男は不安になるだろう」

「そんなに自分を卑下するもんじゃないわよとは思うけど、それはそうね。私が間違っていたわ」

 

 なぜ俺が正しかったのにこんなにも悲しいんだろう。正しいからといって、それがすべての意味で正しいわけではないことを俺はこの時初めて知った。

 

 というか、彼氏いないのか。いるイメージはなかったが、秋月さんほどの人に彼氏がいないというのも違和感がある。これほど素敵な女性なのに、世の中の男は見る目がないらしい。出会いがないのか? いや、あったとしても男側が秋月さんに釣り合うか不安になる……それもない。世の中の男は俺のように恋愛に対して自信がない人間ばかりではない。

 

 やめよう。これ以上このことを考えても俺が悲しいだけだ。

 

「ねー秋月さん。これからどこに行くの?」

「ふらーっとしてただけ。特に予定はないわ」

「へぇ、意外だな。秋月さんは何をするにしても目的を持つのかと思っていた」

「間違ってないけど、たまにはね。何も目的を持たないっていうことから生まれる何かもあるでしょうし。ほら、実際二人にこうして会えたしね」

 

 オシャレなことを言って華麗にウインクを決める秋月さん。ここにイベリスがいたら「オシャレ人間国宝よ!! 私が全財産をつぎ込んで保護するわ!!」と狂喜乱舞し、ただの街中がディスコと化していたに違いない。現に、満は秋月さんに撃ち抜かれ、胸に頬ずりしている。胸に頬ずりしている!!!!???

 目は逸らしておこう。別に意識しているわけではないが、俺は紳士だからな。

 

「二人はなんで外に? 珍しいじゃない」

「アレのことでな。少しゆっくり考えようとして、考えられないところまで歩いてきてしまった」

「あー、アレね。せっかくだし、百合香も呼んでお互い意見でも出し合う?」

「わ、やった! よかったね佐藤さん。私と佐藤さんだけの知恵じゃどうにもならなさそうだったから」

「そんなことはない! と強がりたいが、素直にありがたいな」

「ちょっと待ってて。電話しちゃうから」

 

 道の端に寄って、秋月さんが白菊に電話をかける。邪魔になってはいけないからと満は秋月さんから離れ、ちょこちょこと俺の方に近づいてきた。動きが小動物っぽくて可愛い。

 秋月さんは電話で一言二言話した後、電話を切ると、満を手招きして腕の中に収めた。

 

「引くぐらいすぐに行くから、そこで待ってろだって」

「お待たせ」

「本当に引くぐらいすぐにくるやつがいるか!!」

 

 秋月さんの背中からひょっこり顔を出した白菊に驚きのあまり飛びのいた。秋月さんと満も驚いて目を丸くしている。白菊と距離の近い二人がその程度なら、飛びのいた俺がバカみたいじゃないか?

 いち早く驚きから解放された満は、「こんにちは!」と手を挙げると、すかさず白菊がハイタッチ。それに喜ぶ満が可愛かったのか、秋月さんが満を抱く力をやんわり強めた。

 

 なんだ。その、疎外感すごいな。

 

「どうした佐藤、寂しそうだな。私が抱きしめてやろうか?」

「お、おいおいおい。ま、まだ昼だぞ?」

「そういう問題じゃないと思うよ、佐藤さん」

「佐藤さんのソレは今に始まったことじゃないから置いとくとして、近くにいたの? 百合香」

「あぁ。特に予定もなくふらついていたんだ」

 

 じゃあ、俺たちは偶然タイミングよく外をふらついたということか。

 それは、なんか嬉しいな。

 

「佐藤さん、どうしたの? なんか頬ゆるゆるになってるわよ」

「偶然二人と会えたのが嬉しいんだって」

「なっ、ばっ、満! 恥ずかしいから言うんじゃない!」

「何を恥ずかしいことがある。私も嬉しいぞ」

「私も嬉しいわよ」

「もちろん私も!」

 

 人生の幸せ度数をグラフで表すのなら、間違いなくこの瞬間はありえないほど跳ね上がっている。生きててよかった。

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part18

 

81:このライバーがすごい! ID:owm+A9ltR

休日昼間なのに、ニコの配信がない……?

 

82:このライバーがすごい! ID:BwAl6fV+I

優姫ちゃんとアザミんもないから、もしかして……

 

83:このライバーがすごい! ID:SDvFOr5aj

休日に一緒に遊ぶって仲良しかよ

 

84:このライバーがすごい! ID:exjxlF9Nb

仲良しだろ

 

85:このライバーがすごい! ID:4ioMHIC1Q

ぜひ遊んできた報告をしてくれ

 

86:このライバーがすごい! ID:uCKqNiDNL

20万人突破パーティとかしてるんじゃね?

 

87:このライバーがすごい! ID:lyCUnRELf

そういえば三人とも20万人突破か

 

88:このライバーがすごい! ID:+7KIRTjEI

順調で誇らしい

 

89:このライバーがすごい! ID:PiO6yIC09

記念配信何すんだろ

 

90:このライバーがすごい! ID:HUBV1CR3J

まだ全員何する予定とか言ってないよな?

 

91:このライバーがすごい! ID:xWFt9K5wJ

>>90

俺、全員の配信全部見てるけど、聞いてない

 

92:このライバーがすごい! ID:rowm7iA51

優姫ちゃんとアザミん、ASMRやってくれないかなぁ

 

93:このライバーがすごい! ID:u/H8SyH8j

優姫ちゃんに囁きボイスで叱られたい

 

94:このライバーがすごい! ID:UHmKCj4cw

アザミんに囁きボイスで転がされたい

 

95:このライバーがすごい! ID:E8nX1/5QE

おい!! ニコのASMRも求めろよ!!

 

96:このライバーがすごい! ID:LErVTLTCB

>>95

いやぁ……

 

97:このライバーがすごい! ID:hPKQHnk2N

>>95

ちょっと……

 

98:このライバーがすごい! ID:cy2y7McNV

>>95

うーん……

 

99:このライバーがすごい! ID:Cdb4Ew9uO

でも、ニコ声はいいじゃん

お姉さま方に需要あるんじゃね?

 

100:このライバーがすごい! ID:Lzwvy6s4I

誰かがセリフ監修するとかだとまだよさそう

ニコの一存でやると大事故起こしそう

 

101:このライバーがすごい! ID:LeniJMh0W

マリーに監修してもらおう

 

102:このライバーがすごい! ID:0/cZVFHjr

>>101

絶対に私利私欲のために監修するからNG

 

103:このライバーがすごい! ID:JxQLO34Jj

>>102

一回テストしようみたいなこと言ってひとり占めした後、配信させなさそう

 

104:このライバーがすごい! ID:06W+zObo0

色々なことを鑑みてナシだな

 

105:このライバーがすごい! ID:XQkxxct0S

というか別に記念配信とかしてくれなくてもいいんだよ

 

106:このライバーがすごい! ID:VV9YaiKAc

おめでとうさえ言わせてくれればいい

 

107:このライバーがすごい! ID:YYPFpXj1q

20万人にかこつけて、ニッコリ探偵団でコラボしてくれ

 

108:このライバーがすごい! ID:pG1Z4NO0p

ニッコリ探偵団が仲良く遊んでる部屋の壁になりたい

 

109:このライバーがすごい! ID:MPY2KDuJ5

>>108

邪魔すんな

 

110:このライバーがすごい! ID:4kTS5qKkk

>>108

俺たちは後日報告を聞くだけで満足するべきなんだ

 

111:このライバーがすごい! ID:bJyA7iEWP

実際、プライベートで遊んだことを教えてくれるって、結構すごいことだしな

 

112:このライバーがすごい! ID:l5b2LmMjA

どの口が言うんだって話だけど、プライベートはプライベートで配信関係なしでいいのにな

 

113:このライバーがすごい! ID:6/HwPQD4L

でも、ニコは多分遊んだことが嬉しくて誰かに聞いてほしくて言ってるだけで、

優姫ちゃんはある程度需要とか理解して言ってて、

アザミんは同期が大好きだから言ってると予想してる

 

114:このライバーがすごい! ID:crS0Whhaj

おい!!

アザミ・フレンジー
@azami_frenzy

ニコと満と優姫に会っていて、このままご飯に行こうという話になったが、

ニコが「友人がご飯を作って待っているから、今日はすまん」と言って帰った

学生みたいでかわいい

 

115:このライバーがすごい! ID:W9G1U24Lw

かわいい!!?

 

116:このライバーがすごい! ID:nNIi+e7SS

かわいい!!???

 

117:このライバーがすごい! ID:4kywBpfh3

ニコは律儀だよなぁ

 

118:このライバーがすごい! ID:6WKGPSnBm

てかやっぱり会ってたのかよ!!

ありがとうございます

 

119:このライバーがすごい! ID:7Ub6LlxX6

はー、今日も命が助かった

 

120:このライバーがすごい! ID:LXOB3MueW

アザミん、最近優姫ちゃんのことフルネームじゃなくて優姫って呼ぶよな

 

121:このライバーがすごい! ID:cKKiiXz3F

二人きりの時はそう呼んでるって言ってたけど

 

122:このライバーがすごい! ID:th7fWoXgA

もう表で呼んじゃったからいいだろって感じじゃね

 

123:このライバーがすごい! ID:jnN1vkxcI

おい!!!!

アザミ・フレンジー
@azami_frenzy

ニコの友人がさっきのを見たみたいで、私と優姫もお呼ばれした

都合がつけばニッコリ探偵団で配信する

 

124:このライバーがすごい! ID:K5ROpYqO/

やったあああああああああ

 

125:このライバーがすごい! ID:2IQwuQTsb

ニコの友だちはいいのか?

 

126:このライバーがすごい! ID:REdGU9JqV

>>125

気にするような人たちなら、ニコの友だちやれてないだろ

 

127:このライバーがすごい! ID:GB1r1k5jT

服着て待機するわ

 

128:このライバーがすごい! ID:kS1xUiDNs

>>127

逆になんで今まで全裸だったんだ……?

 

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