稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第78話 Pendulum Beat (2)

 花籠総合病院。この街で一番大きな病院だ。自動ドアを抜ければ、病院特有のアルコールの香り。空気が澄んでいる気がするのは、清潔感が保たれているからだろうか。清潔といえば、一週間前に拾ったゴミを事務所の倉庫にぶち込んだままだった気がする。誰も片づけて居なければ、もしかしたらとんでもないことになっているかもしれない。そもそも、分別をせずに手あたり次第袋に入れていったから、分別する必要もある。

 ……今はゴミのことを考えるのはよそう。

 

「なんか、若い人多いですね」

「ん? ……確かにな」

 

 満がソファに座って診察を待っている人を指し、首を傾げる。偏見だが、病院は若い人が少ないと思っていた。今は流行り病もなく、季節の変わり目でもないから風邪が流行っているわけでもない。もしかしたら流行り病の前兆が今目の前にあるのかもしれないが。

 

「とりあえず、遠野と菊池がこの病院を受診したかを聞いてみるか」

「大丈夫ですか? ちゃんと聞けます?」

「バカにするな! 聞ける!」

 

 満が意地悪く笑いながらおちょくってきたことに腹を立て、受け付けに大股で向かい、相手が女性であったため沈黙していると、横から満が現れて「虹ヶ丘探偵事務所の赤羽満です。少しお聞きしたいことがあって」と言って、俺に目配せした。引っ込んでいろということか。

 

想像通りダメで草

女の人相手だとほんとダメだな

TRPGでくらいコミュニケーションできてもいいのに……

それだとニコじゃないだろ

 

 適材適所というやつだ。満はコミュニケーション、俺は思考。満が力になれていないと落ち込むことを避けるために敢えて活躍の場を与えてやったわけであって、別に俺のコミュニケーション能力が著しく低いわけではない。

 

 満が話を聞いている間、若者を観察することにする。字面だけ見ると犯罪者予備軍のようだが、どうしても若者がこれだけいるということに違和感がある。

 体調。別に普通そうだ。健康診断か何かか? いや、見たところ年齢は学生、学生ならば学校で健康診断を行うはずだ。

 となると、仮病か? だとしても、わざわざ病院にくるか? 診断書をもらえれば受診した証拠にはなるが、金をかけてまで仮病を偽装するか? それほど仮病を偽装しようという情熱があるのなら、それを正しい方向に向ければ何か一つくらい成功しそうなものだが。

 

「先輩?」

「ん、あぁ、悪い。少し考え事をしていた」

「何かわかったんですか?」

「いいや、違和感を拭おうと努力していただけだ。そっちは?」

「二人は9日前、事件があった日から数えて一昨日に受診したみたいです。担当した医者の方ももうすぐ時間を作れそうって言ってたんで、ちょっと待っててくださいーって話でした」

「なるほど、わかった。ありがとう」

「いえいえ!」

 

満ちゃん、有能

自分の失敗を認めず逆ギレするやつと比べたら、ニコは全然マシだな

その代わり失敗し続ける

それは言わない約束でしょ

 

 歯を見せて笑う満につられて笑う。本当にいい人だ。おちょくられて「できらい!」って言ってあえなく撃沈した俺に対し、それに言及しないなんて。俺は優しさに救われている。本気でこの事件において俺が役立たずだったらクビになるかもしれない。

 クビになったらどうするか。新しく探偵事務所を立ち上げ……ダメだ、虹ヶ丘探偵事務所に勝てるビジョンが見えない。俺一人でひっそりと終わっていくビジョンは見えた。どうしてこう後ろ向きなビジョンばかり見えるんだ。

 

「お待たせいたしました。虹ヶ丘探偵事務所の探偵の方ですか?」

「んおぁ」

 

 少し落ち込んでいる俺に、若く溌溂とした声がかけられる。顔を上げれば、声の印象通りの、白衣を着た男性が柔らかな笑みを浮かべて立っていた。担当医の方だとすぐに気づいた俺は姿勢を正し、名刺を手渡す。男性でよかった。

 

アルが医者!?

クッソ人気出そう

若者がいっぱいいたのもそのせいだろ

アルなら老若男女に人気出そうだけどな

 

「虹ヶ丘探偵事務所のミッドナイト・サイコナイトです」

「同じく、虹ヶ丘探偵事務所の赤羽満です」

「ミッドナイト・サイコナイトさんと赤羽満さんですね。私はアルテュール・黒衛・カンセールです。遠野さんと菊池さんについて話をしたいと伺っています。こちらへ」

 

 俺たちに背を向けた黒衛さんについていき、応接室に通される。促されるままソファに座ると、黒衛さんがお茶を淹れてくれた。礼を言えばふわりと微笑み。

 なるほど、人間的に負けている部分が多そうだ。ぜひコミュニケーションについて伺いたいが、今日はコミュニケーションを教えてもらうために伺ったわけではない。

 

 遠野と菊池がひったくりをしたこと、ペンデュラムスキルを使っていたこと、二人はホルダーではなかったこと。それらを伝え、診察時の様子、来院理由を聞くと、黒衛さんは少し悩むそぶりを見せた。

 

「ここだけの話ですが、バイトを休みたいからと来院なされたんですよ。一応、痛み止めの薬も処方しました」

「なる、ほど……特に変わった様子もなく、ペンデュラムも持っていませんでしたか?」

「えぇ。わざわざバイトを休みたいがために来院したことに罪悪感はあったように感じましたが、それ以外は特に。ペンデュラムも持っていませんでした」

 

 薬の処方がいいのか悪いのかは置いておこう。結構グレーな気もするが……。

 いや、待て。ということは、「バイトを休みたい」という理由を知って、その説得力を持たせるために薬を処方したということか? つまり、ロビーに若者が多かったのもそれが理由か?

 

「失礼ですが、ロビーにいた受診者は若い方が多かったように思えましたが、もしや」

「……お恥ずかしい話、口裏合わせと言いますか。サボる理由をくれる医者として有名のようで」

「なんとまぁ、それは」

 

よくない

休むためにそこまでするか?

むしろ休ませるためにそこまでするか?

寄り添ってるって言えば聞こえはいいけど

 

 そこまでする理由は……優しすぎるから、か? 見たところ人は良さそうだ。若いこともあって、感性も若者と近く、共感するところもあるからかもしれない。ただ、医者として……というのは探偵である俺が言うのも違う話だとは思うが、休む理由作りで薬を処方するのは色々いただけない。

 が、今は事件に関係する事実だけ考えることにしよう。とはいっても、休む口実に二人が受診し、休む口実を黒衛さんが与えた、というだけだが……。

 

「答えられるのであれば、で構いません。黒衛さんはホルダーですか?」

「はい。ペンデュラムスキルは『複製』です。触れたものを複製できますが、構造が複雑であればあるほど時間がかかってしまう、使い勝手がいいのだか悪いのだか微妙なものですね」

「へー! すごい! 倫理観がある人が持っていれば、すっごく便利ですね!」

「ありがとうございます」

 

複製ってすごくね?

飯とか水とかも複製できるのか?

一生暮らせるじゃん

俺なら複製のペンデュラムスキルが発現した瞬間に働かないことを決意する

 

 複製、か。俺は口八丁なのに。世の中不公平じゃないか? いや、世の中が不公平なのは学生の時からわかってはいたが、あんまりだ。複製なんて、かなり重宝されるスキルだろう。医者という一般的に見れば「偉い」と言われる職業に就けるのも納得だ。

 俺が一人黒衛さんの凄さに納得していると、黒衛さんが申し訳なさそうに声をかけてくれる。

 

「申し訳ございません。もうそろそろ……」

「あぁ、いえ、こちらこそ申し訳ございません。貴重なお時間をいただきありがとうございました」

「ありがとうございました!」

「いえ。また何かご協力できることがございましたら、なんでも仰ってください」

「はい。その際はよろしくお願いいたします」

 

なんかこう、アルがむずむずしてるとこ見ると畏まってくるな

畏まってるところみてむずむずしろ

ニコとアル、仲いいからそれが余計にむずむずする

男の人に対しては初対面でもいけるんだな

 

 黒衛さんに頭を下げ、応接室を出る。そのまま病院の出口まで送ってくれた黒衛さんに再度お礼を言って、病院を後にした。

 

「いい人でしたね!」

「いい人、ではあるかもしれんが……」

「?」

 

 完全な善意でサボりの口実作りをしているのならそれでいいが、無視してはいけないことのような気がする。事件二日前受診時に二人はペンデュラムを持っていなかった。病院に行った時は隠していた可能性もあるが、もし単純にその時点ではペンデュラムを手にしていなかった場合、受診してから事件当日までのどこかでペンデュラムを手にしたということになる。

 だとすると、黒衛さんが事件と関係性があるという可能性を捨てるわけにはいかない。

 

「というわけだ。可能な限り黒衛さんについて調べてみよう」

「ほえー……わかりました!」

「なんだその間抜けな声は」

「いやぁ、恥ずかしながら、いい人だったなーって思うことくらいしかできなかったもので……」

「探偵という職業上、疑うことは必要だ。だが、人のいいところのみを見る善性は誰にでも持てるものではない。考えが至らなかったと落ち込むよりも、自分の善性を褒めてやれ」

「!! えへへ、ありがとうございます!!」

 

 気まずげに首の後ろに手をやって笑う満を励ますと、すぐに切り替えていつもの明るい笑顔に戻った。この、切り替えが早いところも満のいいところだ。俺にないものを持っている。

 

「それに、なんだ。補い合うのがパートナーというものだからな」

「ですね! 違う形だからこそ、合わさった時はぴったり重なりますし!」

「そういうことだ」

 

 一緒の形でも重なるが、今それを言うのは野暮だろう。どちらからともなく顔を合わせ笑い合ってから、俺たちは事務所への帰路へついた。

 

おい、パロディボイス出せ

今がそれじゃね?

リアルでも十分相棒だけど、ここでも相棒すぎる

尊いを映像化したらこうなる

普通に義務教育の教材にするべきだろ

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part18

 

457:このライバーがすごい! ID:j3a1BiDMd

あんなにいい感じで帰ったのに、ゴミの分別と処分命じられてて草

 

458:このライバーがすごい! ID:f8NLkjJRD

ニコ「さっきまでいい感じだったのに、なぜゴミの分別をしているんだ……」

満ちゃん「黒衛さんについては所長が調べてくれるって言ってましたから……私たちはゴミを調べましょ……」

ニコ「ゴミを調べて事件が解決するならやる気も出るが」

 

459:このライバーがすごい! ID:b7KCNpAJb

元々は遅刻のペナルティとして自分で集めてきたんだろうが

 

460:このライバーがすごい! ID:Aqg352aDZ

でも妙に似合うな

 

461:このライバーがすごい! ID:fh9N28ONg

>>460

ゴミが似合うは普通に悪口だろ

 

462:このライバーがすごい! ID:H7cVLHZAm

 

463:このライバーがすごい! ID:XdhW2SMkn

マジか

 

464:このライバーがすごい! ID:xlvM50m+x

ゴミの中から大量の処方箋の袋を発見してて草

マジで事件に関係するもん出てきたな

 

465:このライバーがすごい! ID:ElSRvpytO

神に愛された男、ニコ

 

466:このライバーがすごい! ID:K9NJDrx06

満ちゃん「先輩! ゴミ分別してよかったですね!」

ニコ「やはりな。俺があの日遅刻したのも、ゴミを収集し、事件進展の一手を打つためだったからな!」

満ちゃん「それは嘘でしょ」

ニコ「はい」

 

467:このライバーがすごい! ID:i+FZ/T8K2

 

468:このライバーがすごい! ID:U+xd0wPlv

正直でよろしい

 

469:このライバーがすごい! ID:OzTIprTht

これ、めちゃくちゃアル怪しいじゃん

 

470:このライバーがすごい! ID:J1oMxs89K

そもそもアルが医者やってる時点で怪しい

 

471:このライバーがすごい! ID:fhZvawnsi

それはメタだけど、まぁわかる

 

472:このライバーがすごい! ID:SBvb7ADp7

これでルイスが犯人とかだったら笑う

 

473:このライバーがすごい! ID:e1mlIMCIA

ルイスが犯人だったらギャグになりそう

 

474:このライバーがすごい! ID:O5EHw+miF

満ちゃんが犯人とかやめてくれよ……?

 

475:このライバーがすごい! ID:Jb9rQxY7/

プレイヤーだからないだろ

 

476:このライバーがすごい! ID:mBvf1paFW

>>475

TRPGは個別ハンドアウトってものがあってな

自分しか知らない目的とかそういうのが事前に配られることがあるんだよ

 

477:このライバーがすごい! ID:hKFmdzRj/

>>467

忘れてるだろうけど、ニコと満ちゃんは一緒にいるから多分それはないぞ

 

478:このライバーがすごい! ID:cTbEzhwdc

>>477

忘れてるだろうけど、ニコが勉強して個別ハンドアウトの存在知ったから、

満ちゃんにパソコン買い与えて別の部屋でやってるぞ

 

479:このライバーがすごい! ID:VuxqM2/uk

配信に本気すぎる男、ニコ

 

480:このライバーがすごい! ID:+EKx+Aj6k

ニコ、俺誇らしいよ

 

481:このライバーがすごい! ID:6zypJJ/Fk

稼ぎが少なかったクセに、羽振りがよくなって……

 

482:このライバーがすごい! ID:LEJUA5pR9

えっ、それって満ちゃんが個人配信できるってことですか?

 

483:このライバーがすごい! ID:1VbBhHgcd

!!

 

484:このライバーがすごい! ID:8PjQ1Nhdv

!!

 

485:このライバーがすごい! ID:EU4SYBWTs

でも満ちゃんとニコはセットだからなぁ

 

486:このライバーがすごい! ID:7PbghgmoN

またTRPGやってくれる機会があったら使うくらいでいいだろ

 

487:このライバーがすごい! ID:XxzJhuFBh

休憩

満ちゃん「ニコさんの探偵っぽいところ久しぶりに見た」

ニコ「いつも隣にいるお前が久しぶりなんて言うと、依頼がないと思われるだろう!」

マリー「ないでしょ」

ニコ「ないが!?」

 

488:このライバーがすごい! ID:aAQmzWD+M

満ちゃん、現実に帰ってくると少しニコに対し攻撃性が増す

 

489:このライバーがすごい! ID:2NGAIuhB6

距離が近くなるから遠慮がなくなるんだろうな

 

490:このライバーがすごい! ID:mjIwCQdtt

どっちの満ちゃんもいい

 

491:このライバーがすごい! ID:w0IM5LKAA

ニコは正直、シナリオ中の方が頼りになるというか……

 

492:このライバーがすごい! ID:YMVEXb/zm

現実のニコがバラエティ要素強すぎるんだろ

 

493:このライバーがすごい! ID:UtODMML6e

探偵業に集中したらシナリオ中のニコみたいに頼りになるんじゃね

 

494:このライバーがすごい! ID:zZUSJ0Eb6

探偵業に集中できる未来がないから、一生見ることができない

 

495:このライバーがすごい! ID:nQ1GKMP3e

公式で探偵”パロ”みたいな感じでネタにしないかな

 

496:このライバーがすごい! ID:TiNMYqDrn

ニコが遺憾の意を示しそう

 

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