稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第79話 Pendulum Beat (3)

 翌日。どう考えても黒衛さんが怪しいとあたりをつけた俺たちは、花籠総合病院近くの二階建てのカフェで黒衛さんが出てくるのを待っていた。

 俺たちがゴミを分別している間に、所長が黒衛さんの勤務情報を入手してくれて、今日は午前まで、午後頭からはフリーらしい。

 あとわかったことは、黒衛さんには研究者の側面もあり、研究内容は『ペンデュラムスキルの可能性』。

 今各々に現れているスキルは『無限に広がる可能性のうちの一つ』に過ぎず、自身の経験、相手との相性等によって、ペンデュラムスキルはいくらでも変化する、といった内容が書かれている論文を所長が見つけてくれた。有能すぎる。

 

「ねー、ニコ先輩」

「なんだ?」

「なんか考え込むのは無理ないですけど、そろそろ私の目の前にある現実に向き合ってくれませんか」

「満が頼んだものだろう? 責任を持って飲み干せ」

「そうですけど、特大サイズにしても特大過ぎません? これ。全部飲み切れたら賞金差し上げます! のサイズじゃないですか!」

 

 満の目の前には、つい先ほど運ばれてきたココア特大サイズがある。はじめ運ばれてきた時、人の頭が転がったのかと思った。つまりそれくらいのサイズだ。何リットルあるんだ? これ。飲み切るのはかなりきついぞ。

 メニューを見てみるが、飲み切れたら賞金などという文字は見当たらない。本当に特大サイズというだけで、破格の値段設定がされているくらいだ。多分あれだろう。時々ある、学生用に安く多くを提供している店。飲み物でやる店は聞いたことがないが……。

 

どう考えても張り込みに適してないサイズで草

注目を浴びに浴びるためとしか思えない

ニコが飲んだらめちゃくちゃお腹壊しそう

ニコじゃなくても壊すだろ

 

 満が不満気な表情でココアをストローで飲み、「おいしい!」と機嫌を直す。こういうところは単純で助かる。いや、単純というと聞こえが悪いか。いいところを見つけるのがかなりうまい、というべきだろう。

 

「しかし、ペンデュラムスキルの可能性か。俺の口八丁も、嘘を現実にする……そうだな、嘘から出た実(エイプリル・フール)とでも名付けるか。そのようなものに変わる可能性があると考えると、ワクワクするな」

「ニコ先輩はそのままでいいですよ」

 

 いいところを見つけてくれよ。いや、今の俺のままでいいということか。反射的にバカにされたと感じてしまった。被害妄想が激しいのは俺の悪い癖だ。

 

忘れた頃に出てくる厨二病要素

一瞬でこの発想が出てくるのは素直にすごい

普段そういうことばっか考えてるんだろうな

男の子だし……

男の子っていう年齢じゃないだろ

 

 ただ、今の俺のままでいいと思ってくれていたとしても、やはり強い能力に憧れてしまうのが男というもので、容疑者かもしれない黒衛さんが書いた論文を食い入るように読み込む。論文が出たのは今から三年前か。まだ満が大学生の頃で、事務所に入ってきていない頃だな。懐かしい。あの頃は、今の所長とコンビを組んで、日々自分自身に役立たずの烙印を押していた。

 

「三年前っていうと、私が事故った年ですね」

「何? そうなのか」

「あれ、言ってませんでしたっけ」

 

事故!?

満ちゃん、シナリオ内でも……?

いや、このシナリオ内のニコにオカルト要素はなかったから、満ちゃんは生きてるはず

幽霊だっていうのはやめてくれよ

 

 なんでもないように首を傾げた満は、特大サイズのココアを処理しきるためか、言葉の前にストローで中身を減らす。

 

「旅行先から帰る時に事故ったんですよ。お姉ちゃんもいて、奇跡的に軽傷で済みました」

「あぁ、そうか。よかった、大事に至らなくて」

「お姉ちゃんがいたから、まさに幸運ってやつですね!」

 

 無意識下でペンデュラムスキルが働くこともあるのだろうか。いや、その頃の満はまだホルダーではなかったから、ペンデュラムスキルの発動条件は満たしていない。となると、素の運で軽傷で済んだということか。俺も運はある方だが、やはりペンデュラムスキルが幸運ともなると、一般と比べてかなり運がいいのかもしれない。

 

 満がココアと格闘し、ついに勝利した頃。「私、フードファイターいけるかもしれません!」とまたも自分のいいところを見つけたと同時、病院から黒衛さんが出てきた。

 

「フードファイターの夢を追うぞ!」

「えっ、いやっ、黒衛さんを追いません?」

「間違えた!」

 

普通間違えんだろ

ニコは普通じゃないだろ

多分焦ったんだと思う

 

 クソっ、満の新たな才能に喜んでしまって間違えた! あの量を残さず飲み干したことをつい称賛したくなったのも原因だろう。反省せねば。

 

 カフェを飛び出し、黒衛さんの後を追う。車に乗り込んだことを確認して、俺たちも乗ってきた車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 見るからに高級そうな家に入り、しばらく張り込んで。夕方になって再び黒衛さんが車に乗ってどこかへ出て行った。このまま黒衛さんを追うのもありだが……。

 

「本当に忍び込むんですか……?」

「所長の勘は当たるんだ。隣で見てきたからわかる」

 

 所長命令で、「黒衛の自宅に忍び込め」と言われた。俺としては、もっと黒衛さんの情報、行動を見てから、黒衛さんの家に何かがあると確定してからの方がいいと思ったが、こういう時の所長の勘は必ず当たる。クールだなんだと言っておいて、アグレッシブすぎるんだ、あの人は。

 所長仕込みのピッキングを披露し、ドアを開ける。満がかなり納得のいっていない表情をしているのは、正常な倫理観だ。これで何も見つからなければ俺たちが犯罪者となる。調査の一環だとはいえ、ピッキングして家に入るのはやりすぎだ。『虹ヶ丘探偵事務所』という名前があるから恐らく見つかっても豚箱行きはないだろうが、明らかに越権行為。俺もあまりというかかなり気が進まないが、やるしかない。

 

そういえばニコって、幽霊にお願いして住居侵入できるのか……

絶対やらないだろうけどな

本当にオカルトの才能を持ってるのがニコでよかった

正しい力は正しい人間に宿るもんだろ

聖麗……?

 

 家に入って、手分けして捜索する。しかし、目ぼしいものは見当たらない。普通の家だ。非常にマズい。冷や汗が止まらない。

 

「ニコ先輩……」

「落ち着け。そもそも、何かあるとしてもどこか見つかりにくい場所に隠しているはずだ。見られてはマズいものを見える場所に置くか? そんなはずないだろう」

 

冷や汗ダラダラ

早口で草

ニコ、犯罪者になる

満ちゃんは脅されたってことで

 

 キッチンに立って、痕跡が残らないように何かないか探す。普段料理をしないのか、乾ききったスポンジがあるだけだ。医者としての仕事が忙しいのか、まだ研究を続けていて自炊の時間すら惜しいのか。いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。何か見つけないとまずい。

 がむしゃらになってキッチンの下の棚を開ける。何もない。

 

「……あれ?」

「どうした、満」

「なんか、空気が通る音しません?」

 

 満の言葉に、弾かれたようにスマホを取り出して、ライトをつける。そして、奥の方。本当にわずかにだが、壁がずれている。

 

「でかした、満」

「へへ、五感いいんですよ、私!」

 

ニコ、耳が遠くなってるのか……?

ジジイの耳を持つニコ

脳だけは動くニコ

ピッキングはしたから……

 

 壁をずらすと、空洞が続いている。俺が先頭になって進んでいくと、やがてはしごが見えてきた。慎重に降りていくと、広い廊下が広がっている。左右に扉が一つずつ、奥に扉が一つで、計三部屋あるようだ。

 

「よっ、と。ニコ先輩、怪我してないですか?」

「そこまで運動ができないわけじゃない。大丈夫だ」

「ならよかったです。どうしましょっか」

「どこからでもいいが……右の部屋から入るか」

「了解です」

 

 鍵がかかっているだろうと思っていたが、予想に反して扉が開く。拍子抜けしながら部屋に入ると、そこには。

 

「当たりか」

「……みたいですね」

 

 四方の壁に打ち付けられた釘にかけられた、無数のペンデュラム。部屋の中に広がっていた光景がそれだった。

 ペンデュラムというのは、同じように見えて実は少し違う。それは形だったり色だったり……しかし、この部屋にあるペンデュラムはすべて同じ。

 

「黒衛さんにペンデュラムを見せてもらえばよかったな。だが……」

「もしかして、『複製』……」

 

アルが黒……

現実だと一番やらなさそう

シゲキとかならわかるけど……

シゲキは隠れてこそこそやらないだろ

シゲキならもう世界が終わってそう

 

 『複製』。同じものをそのまま複製できるペンデュラムスキル。ただし、構造が複雑であれば、それに比例して複製するのに時間がかかる。

 

「……」

「ニコ先輩?」

「いや、ペンデュラムの構造は、どの程度複雑なのかと思ってな。俺たちは『ペンデュラムスキルが使える』ということがわかっているだけで、ペンデュラム自体が何であるかはわかっていない。俺たちどころか、世界中がな。その事実から考えると、ペンデュラムの構造が複雑であることは確実だろう。それをこの量……。それに、ペンデュラムスキルを使っているということは、少なくとも一人は共犯者がいるということだ」

「あ、確かに!」

「まぁ、ペンデュラムスキルを後天的に発現させられる者がそうだろう。『複製』ではどうやっても発現させられないからな」

 

 元々、共犯者はいるだろうと思っていた。黒衛さんが犯人だったとして、『複製』だけでは遠野と菊池が後天的にペンデュラムスキルを発現したことに説明がつかない。だとすると、発現させることができるペンデュラムスキルを持った者が共犯者である可能性が高い。その人物のあたりをつけられていないのが少しマズいな。

 

ほんとに適材適所だな

フィジカル担当満ちゃんと、頭脳担当ニコ

ただし、ニコは普段ポンコツとする

愛嬌あっていいじゃん

 

「何にせよ、ひとまず当たりであることは確かだ。写真を撮って所長と……明さんに送っておいてくれ。彼女なら話も早いだろう」

「了解です!」

 

 満が写真を撮って所長と明さんに送ったのを確認した後、部屋を出て、最初に左側に見えていた扉を開ける。こちらも鍵はかかっておらず、すんなりと開いた。

 中は資料室のようで、等間隔に並んだ棚に、所狭しとバインダーが敷き詰められている。バインダーを手に取って中を見てみると、老若男女、様々な人物の顔写真と名前、年齢、性別、住所、そしてペンデュラムスキルの有無、ペンデュラムスキルの詳細が記載された資料が1ページずつ綴じられている。几帳面にあいうえお順でまとめられているようだった。ページの最後には、×印がつけられている。

 

「……不気味ですね」

「医者というよりは、研究の方だろうな。よく見れば、数人はペンデュラムスキルに斜線が引かれ、別のペンデュラムスキルが書かれている」

「『ペンデュラムスキルの可能性』」

「だろうな」

 

 黒衛さんには、本来のペンデュラムスキルを知る術があるということか。論文では遺伝子情報でもある程度はペンデュラムスキルの方向性がわかると書かれていたから、医者という立場を利用して調べたのかもしれない。だとしても、かなりの執念だ。これだけの量を、データで持つことを恐れて紙でまとめるなど、正気の沙汰ではない。褒められるべきことではないが、称賛に値する。

 

「俺と満のページはないな。所長のページもない」

「お姉ちゃんのページありました! って、さんかく……?」

 

 満の持っているバインダーを覗き込むと、明さんの情報が記されたページの最後に『△』が記されていた。他の人は『×』だったが、明さんは『△』。恐らくペンデュラムスキルを元に何かを判別しているのだろうが、思い当たらない。ペンデュラムスキルが書き換えられているわけでもない。

 

姉御、標的にされてるのか?

姉御が危ないとか?

『幸運』が何かに使えるとか

実際の姉御とアルなら、アルが返り討ちにされそう

 

「……最後の部屋に向かうか。これ以上情報はないだろう」

「了解です」

 

 どことなく元気がないように聞こえた満の声に、なんて声をかけるかと悩んでいる間に最後の部屋、その扉の前についてしまった。本当に俺はコミュニケーション能力が著しく欠如している。いつも元気づけてくれている満が沈んでいるというのに、一つも力になれない。

 だが、認めるしかない。それが俺の今の弱さだ。それに、甘える形になってしまうが、満は一人でも上ってくる。俺のようなものに助けられなくとも。そんな強さを持っているのが満だ。

 

 予想通り、何かを振り払うように頭を横に振った満の目が、いつもの可愛らしいものから凛々しい目つきに変わっていた。

 満が俺を見る。頷いた満を見て、最後の部屋の扉を開けた。

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part18

 

527:このライバーがすごい! ID:Dfs+QI1dQ

休憩!

 

528:このライバーがすごい! ID:UnONvOMad

マリーの焦らし上手!

 

529:このライバーがすごい! ID:gmJcRZf/q

ニコ、ダイスほぼ失敗してたな

 

530:このライバーがすごい! ID:5QnLvvBEs

俺、実はまだダイスの仕様理解してない

 

531:このライバーがすごい! ID:JwI2NONha

>>530

アホすぎ

まぁ、TRPG触れたことなかったら仕方ないわな

 

532:このライバーがすごい! ID:Q+CXyM8yp

>>531

隠しきれない優しさ

 

533:このライバーがすごい! ID:98c6Cik8V

>>530

簡単に言うと、行動が成功したか失敗したかを判定するために、

1~100の目が出るダイスを振って、あらかじめ振った技能値以下の目が出たら成功、

技能値より上の目が出たら失敗

例えば、何かを探したいってときには【目星】って技能を振る

 

534:このライバーがすごい! ID:l+6o4dQuE

>>530

ニコは【目星】【聞き耳】っていう、見る・聞く技能を全部失敗した

 

535:このライバーがすごい! ID:8SqUZA2S0

逆に満ちゃんは全部成功だもんな

 

536:このライバーがすごい! ID:prK9H3e/+

こ、これは、ニコが最終局面ですべて成功させる伏線!?

 

537:このライバーがすごい! ID:OFphth548

ニコならありえるんだよなぁ

 

538:このライバーがすごい! ID:9uzlzZ/bb

あいつ、そういう星の下に生まれてるし

 

539:このライバーがすごい! ID:fsibbxPdW

このまま全部失敗でもおいしい

 

540:このライバーがすごい! ID:86//6Hisw

ニコのやることが全部正解になるチートみたいなところある

 

541:このライバーがすごい! ID:JIvx7enm/

大体のことが「まぁニコだしな」で片づけられるんだよな

 

542:このライバーがすごい! ID:oj2qilGy4

マリー「いつも思うけど、いいコンビだよね」

ニコ「まぁな。いつも助けられている」

満ちゃん「まぁね! いつも助けてるし、いつも助けられてる!」

おいおい

 

543:このライバーがすごい! ID:gyOoUBEih

ニコと満ちゃんが幸せにならない世界なら、いらない

 

544:このライバーがすごい! ID:RWGij2zMb

なんか、こう、プラスの感情をそのまま伝えあえる関係っていいよな

 

545:このライバーがすごい! ID:vLam+MNJ1

>>544

元気出せよ

 

546:このライバーがすごい! ID: RWGij2zMb

>>545

黙れ

 

547:このライバーがすごい! ID:KuJqtAV6S

クリティカルヒット

 

548:このライバーがすごい! ID:VrzHUpd9X

俺らは人のこと言えたもんじゃないからな

 

549:このライバーがすごい! ID:wV0zI6ccL

というかそもそも、プラスの感情伝えあえる関係性ってほとんどないだろ

 

550:このライバーがすごい! ID:1j7j61ODp

照れくささが勝つもんな

 

551:このライバーがすごい! ID:WFbL6W4f2

優姫ちゃんとアザミんも結構そのまま伝えるよな

 

552:このライバーがすごい! ID:zT+UHsrC/

多分、俺がニッコリ探偵団に混ざったら光で浄化されると思う

 

553:このライバーがすごい! ID:kAozeKCi3

自己肯定感を上げるプログラムかよ

 

554:このライバーがすごい! ID:kPmyFchS6

ニコ「なんか、こう、脳がバグるな。適度に休憩が入ると」

満ちゃん「わかる。境目がわかんなくなるよね」

マリー「入り込んでくれるのはめっちゃ嬉しいけど、危なくない?」

 

555:このライバーがすごい! ID:xmAEkjOav

明日から満ちゃんが「ニコ先輩」って呼んでそう

 

556:このライバーがすごい! ID:rDYbp2gK8

それはそれであり

 

557:このライバーがすごい! ID:1KYbTOJgw

そういえばニッコリ探偵団って一番後輩なんだよな

 

558:このライバーがすごい! ID:gjtEOBqbF

そろそろ来てもいい頃か?

 

559:このライバーがすごい! ID:x/UmU4Pf9

ニコが先輩になるのか……

 

560:このライバーがすごい! ID:nEr3Ej+OC

今ニコの配信を見てる誰かがデビューする可能性だってある

 

561:このライバーがすごい! ID:2jGtfMouX

ギクッ!

 

562:このライバーがすごい! ID:cYJrfZ/Od

ドキッ!

 

563:このライバーがすごい! ID:6ysbdQJ+g

ビクッ!

 

564:このライバーがすごい! ID:c3qiJqroQ

新人は三人か

 

565:このライバーがすごい! ID:2cZUQzata

全員見てんじゃん

 

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