稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
《佐藤さん、大丈夫?》
「ハァッハァッ……」
《過呼吸起こしてる……》
楽園都市、当日。既に開場しており、大勢の人が楽しんでくれている。
が、俺はまったく楽しめない。もうすぐ俺の『project:talk』の時間だ。準備は完了していて、後はお客さんを待つだけ。俺にとっては、縛り付けられた状態で俺に向かって銃弾が発射され、それが眼前に迫っているのと同じこと。つまり、最初の人と一言話した瞬間死ぬ可能性すらある。
満が実体化を解いた状態で、俺の周りをふよふよ浮いて「頑張って! 佐藤さんなら大丈夫だよ!」と全力で励ましてくれている。
「満、手を握ってもいいか……?」
《もうすぐ死ぬわけでもあるまいし……いいけど》
俺の情けないお願いを快く受けてくれた満は、俺の手を両手で握ってくれた。幽霊だというのに体温という概念が存在し、更に温かい。幾分か平静を取り戻した俺は、呼吸を落ち着かせるために深呼吸。数度繰り返すと、やっといつもの呼吸が戻ってきた。
こうしていると思い出す。以前はタバコを吸っていたから、こうして極度の緊張状態に会った時には必ずタバコに頼っていた。あの時とは随分状況が変わってしまった……いや、変えてもらったと言うべきか。
「ふぅ、落ち着いた。すまない満、情けない姿を晒した」
《それはいつも通りだから別にいいよ。落ち着いたところ悪いけど、一人目くるって》
「なっ、なにっ!? まだ準備ができていないぞ!?」
《落ち着いたのに……?》
正面にあるモニターを見れば、俺のブースに女性が入ってきた。本当に始まるじゃないか!! まずは服装を褒め……いや、それは昨日月宮さんからなんとなくキモそうだからやめろと言われたじゃないか。じゃあ何を話せばいいんだ? 何も思いつかない!!
何にせよ、まずは挨拶か? こんにちはだな。こんにちはでいいんだよな? おはようやこんばんはと間違えて言ってしまったら、俺が日本にいないと誤解を与える可能性がある。挨拶一つとっても細心の注意を払わなければ。
「コッ、こんにちは!!」
『わ、こんにちは!』
裏返った!!!! しかし相手は気にしていない様子だからセーフか? というかよく見たら俺と満のグッズをめちゃくちゃ持ってくれている。これには触れていいのか? 服装というわけではないから、キモくはならないはず。よし、行くぞ!
『事前告知にもありましたけど、満ちゃんいないんですね』
「えっ、あっ、と、隣にいますよ! ほら!」
《佐藤さん、私の姿見えてないから》
「あっ、そうか! えーっと、その、今手を握ってもらっています!」
『え、そうなんですか? ふふ、かわいい』
クソ!! なぜか知らないが好感触とはいえ、いらないことを言った!!! 考えてみろ、『26歳男性が、女子中学生に手を握ってもらっていると女性にカミングアウトする』姿を!!
そもそも、出鼻をくじかれてしまったのがいけなかった。向こうから話を振ってくれるとは……。それ自体はありがたいことだが、さっきのように焦っていらないことを言ってしまうから、次何かを聞かれた時は落ち着いて答えることにしよう。できるかどうかはさておいて。
『えーっと……その、いつも見てます!!!』
「い、いつも見ていただいています!!」
《ニコさん、お礼! お礼!》
「ニコさん、お礼! お礼!」
《ボイスチェンジャーの頃のクセ出てる! お礼言ってってこと!》
「あっ、そういうことか! いつもありがとうございます!!」
女性が俯いて口元を抑えて肩を震わせている。まさか、俺があまりにもキモすぎて泣かせてしまったか!? 俺はなんてことを……!!
違う、後悔する前にまずは謝罪だ。悪いことをしてしまったのなら、謝る以外に選択肢はない。
「す、すみません。配信越しならまだしも、直接俺のキモさを浴びさせてしまって」
『っ、くふっ……い、いえ。キモいなんて思ったことないです。ちょっと、かなりおもしろくて』
「キモいなんて思ったことがない!? 満、どうだ! 俺はキモくないらしいぞ!」
《私に喋りかけてどうすんの!》
「た、確かに。すみません、俺はあなたと話したい」
『えっ、あ……はい! お話しましょう!』
《佐藤さん、落ち着いて言葉を選んでね? 無理だろうけど》
しっ、しまった!! ナルシストのするナンパみたいなことを言ってしまった! これすらも好意的に受け止め、お話ししましょうと言ってくれるこの人はかなりいい人なんだろう。よかった。普通の人が相手なら通報されるところだった。
しかし、女性はなにやらもじもじしている。何かを言いたそうにしている、のか? 前までの俺ならトイレに行きたいと勘違いし、どうすれば失礼にならないように伝えられるかを考えているところだったが、今の俺はそうではない。こういう時は、話しやすくするのが俺の役目だろう。
「えっと、その、何か話してくれようと、していますか……?」
《話しやすくするために吐いた言葉がそれ?》
「うるさい! 何か話をしてくれようと見えているのはあくまで俺の視点からでだけであって、もしかしたら俺の勘違いかもしれないと直前で悩んでしまった結果こうなってしまっただけだ!」
《だから私と話さない!》
「はいっ! 俺はあなたと話したい!」
《それ、私が言えって言ったみたいに聞こえるからやめてよ!》
『あの!!』
「はいっ!!」
俺が満と口論していると、女性が意を決したように顔を上げた。突然のことにびっくりして姿勢を正すと、女性は顔を上げた勢いのまま話し始める。
『いつも配信で元気もらってます! 面白いし優しいし、言葉の全部に嫌味がなくて、純粋でまっすぐでかわいくて、もうちょっと自信持ってって、ただの視聴者である私が無責任に言えないですけど、少なくともあなたのことが大好きな人間が一人はいるって思ってほしくて、今日きました! えっと、大好きです! 応援してます!』
「……ぐすっ、ありがとうございます」
《ふふ、泣いちゃった》
ちゃんと話さないといけないのに、あまりにも嬉しすぎて涙が流れてしまった。本当に嬉しい。俺のような人間を応援してくれている人がいるとは……。周りに応援してくれている人はいたが、この人は俺と関わりもなく、配信を見てくれているだけ。それなのにここまでストレートに応援してもらうと、心に来る。
ちら、と時間を見れば、もうすぐ三分。始める前は長いと思っていたが、やはり始まってみるともっと欲しいと感じてしまう。残り時間が少ない中で何を伝えるべきか、わからない俺ではない。
「本当に、ありがとうございます。俺も、視聴者が、あなたのことが大好きです。こんな俺ですが、これからも応援してもらえると本当にありがたいです。あなたの存在が、ミッドナイト・サイコナイトを大きくしてくれるということを、俺はこれから先忘れることはありません」
『……ぐすっ』
《あー! 泣かした!!》
「えっ、いやっ、ちがっ、泣かせるつもりは!」
弁解の余地もなく時間がきてしまい、女性は泣いたまま退室してしまった。最後に一礼してくれたから最悪な印象にはなっていないとは思うが、泣かせてしまったことには変わりない。もうダメだ俺は。女性を泣かせてしまうなど、両親になんと謝罪していいかわからない。
女性を泣かせてしまったことによる後悔に頭を抱えている俺とは違い、満はにこにこと笑いながら俺と繋いだ手をぶんぶん振っている。そんなに俺が選択を間違えてしまったことが滑稽か!?
《んーん。佐藤さんのことが大好きな人がいて嬉しいなーって!》
「満、幸せになりたいんだったら早く言ってくれ」
《私はもう十分幸せだけど》
涙がちょちょぎれた。もうこの先泣くことはないと思う。
涙と一緒に緊張も流れていったのか、それとも先ほどの女性が俺に勇気と自信をくれたのか、恐らく後者だろう。最初の緊張が嘘のように消え、ることはないが、少なくともガチガチに緊張することはなくなっていた。
落ち着いた気持ちで次の人を待っていると、また女性が入ってくる。金髪をベースに、様々な色のメッシュが入った派手な女性だ。まさか、この人も俺の視聴者なのか!?
女性は俺の前にくると、髪色の印象からは想像もつかないほどの穏やかな笑顔を浮かべ、『顔見せて話すのは初めまして、かな?』と口を開く。
「え?」
『あー、その感じじゃわかってないな?』
「……もしかして」
顔見せて話すのは、と女性は言った。そして、聞き覚えがある声。確か、満をみんなに見てもらおうと、新お披露目の付近で……。
「七色さん!?」
俺と満の容姿……もとい、ガワを描いてくれている七色さんじゃないか!! なぜこんなところに!?
『うん。やっほーニコちゃん。満ちゃんも隣にいるんだよね?』
「えぇ、います! テンション上がって俺の頭にしがみついています! 流石に満の声も乗せるべきか……ハァ!!」
「七色さん! じゃなくて、ママ? 久しぶりです! いつもありがとうございます! 私に体をくれてありがとう! ニコさんがヘタレだから全然お話できないけど、大好きです!」
俺を押しのけてテンションマックスで話し始める満に、七色さんは聖母のような笑み。愛しい者を見るときの目だ。わかる。俺も満に対して同じような笑みを向けている自信がある。
『私も二人のことが大好き。愛してる。こっちこそごめんね? もっとお話ししたいけど、あんまり自己主張するのもなーって思って』
「い、いえ! これに関しては俺が全面的に悪いです! コミュ障だから人見知りだからと、感謝をし、敬意を払うべきあなたとの関わりを薄くするなど、本当に申し訳ございません!」
『んーん。いいよ。配信全部見て、二人のママになれてよかったなって毎日思ってるから。それでお相子ってことにしない?』
「ニコさん。近いうちに七色さんをうちに招待しよ。会いたい」
「あぁ、もちろんだ。誠心誠意を尽くしおもてなしをするべきだ。って、全部見てくれているんですか!?」
『もちろん。自慢の子ですから。……といっても、自慢できるようにしてくれたのは、他でもないあなたたちと、周りの人だけどね』
胸を張ってから、恥ずかしそうに頭を掻く七色さん。な、なんていい人なんだ……!! なんて謙虚なんだ……!! きっと、普段から他人への感謝を忘れない人なんだろう。いつも最大限の敬意を払い、増長することはない。こういう人は誰からも嫌われることはないだろう。名前通り、虹のような人だ。大好きすぎる。
「いえ、そもそもあなたがいなければ俺たちはこうして生まれてくることはありませんでした。確かに俺たちは周りの人にありがたくも助けてもらっていますが、俺たちに命を与えてくれたのは他でもないあなたです。ですから、本当にありがとうございます」
「私も! ママのおかげでみんなに知ってもらって、ニコさんも私もすっごく嬉しいよ! ほんっとうにありがとう! めちゃくちゃ好き! ずっと言いたかった!」
『……私もすきぃー!!!!!!』
七色さんが泣き出してしまい、つられて俺と満も泣き出してしまう。もっと早くから交流を持つべきだった。伝えなければならないことがたくさんあったのに、俺が情けないばかりにこうしてご足労いただくことになってしまった。
俺たちの母上は素晴らしい方だった。既に七色さんと仲良くなっている帝斗と透華に八つ当たりを考えるくらいには。
「やっぱ気になんのか?」
「気に……なるっス。どっちかっていうと、ちゃんと喋れてるのかなーっていう心配ですけど」
ちらちらと、『project:talk』のあるブースの方を見る透華。会場にくるまでは佐藤に女の子が会いに来ることに対しての心配だったけど、今は佐藤がちゃんとやれてるかどうかの心配らしい。
あいつには満ちゃんがついてるから、最悪の事態はないと思う。それでも心配してしまうのが親心、っつーとちょっと違うか。友心? まぁ名前は何でもいい。とにかくあいつのことをめちゃくちゃ知ってて、普段からずっと一緒にいる身としては、行きすぎなくらい心配するってことだ。
俺としては、失敗したとしても視聴者が嫌な気持ちになるような失敗は絶対にしないと思ってるから、そんなに心配はしていない。あいつ自身が不都合だって思うことが起きたとしても、全体的に見ればいい方に好転するようなやつだ。そういう星の下に生まれてきてるからな、あいつは。
「あいつのブースから出てきた人捕まえて、感想でも聞いてみるか?」
「ヤですよ。そんなキモいこと」
「案外、いいことがあったら共有したくなるもんだし、そうキモくもないかもしれねぇけど、水差すもんでもないしな」
「みんな、楽しんでくれてるといいんスけど」
透華がそうやって心配を漏らした時、場内アナウンスを報せる音が鳴った。一日目のステージが始まる時間とは違うし、何かトラブルかと耳を澄ませた俺の耳に入ってきたのは。
『ご来場の皆様に、謝罪を申し上げます。『project:talk』のミッドナイト・サイコナイト、またの名をニコのブースですが、ニコが視聴者の皆様からの直接の応援を受け続け、涙が止まらなくなってしまったため、予定していた時間をずらして再開いたします。再開は15:30を目途といたします。誠に申し訳ございません。最後に、ニコの相棒である満からの伝言をお伝えいたします。「涙 素材」で検索したら出てくる音声みたいな状態になってしまいました。本当にごめんなさい、とのことです。それでは、引き続き楽園都市をお楽しみください』
アナウンスが終わると同時、そこら中から笑いが起きる。あいつらしいと言えばあいつらしいし、時間をずらすなんて予定を崩すようなことをしているのに、笑いが起きるのもあいつらしい。
透華を見れば、本当に嬉しそうに笑っていた。
「やっとわかったかって気分になったか?」
「ふふ。そうっスね。あと、よかったなぁって。こんなに多くの人に笑ってもらえて、本当に」
「……そうだな」
そうやって、あいつが受け入れられるのを素直に喜べる透華がずっと一緒にいたから、あいつもこうして成長できてるんだっていうのは、あいつの口から伝えてもらった方が嬉しいだろうなと思って飲み込むことにした。
ニッコリ探偵団 視聴者支部 part19
433:このライバーがすごい! ID:TYWGoMj6n
project:talkの体験レポまだか!
434:このライバーがすごい! ID:5Bhq8NvCH
当日だからまだだろ
435:このライバーがすごい! ID:Uz1cBJZ95
しっかりしたレポじゃなくて、感想くらいは探せば落ちてるぞ
436:このライバーがすごい! ID:VUJNrTV+z
見つけた限りだと大体こんなの
優姫ちゃん
「心を奪われた」
「あれで恋をさせるつもりがないってマジ?」
「私、優姫ちゃんみたいな女性になります」
アザミん
「アザミんがマジで俺に興味なさ過ぎて泣いた」
「面白くなろうと誓った」
「研究分野の話したら、もっと話したいって言ってくれた。今日が最後の日でもいい」
437:このライバーがすごい! ID:YtbDaaDH3
優姫ちゃん⇒神対応
アザミん⇒塩対応(一部例外あり)
みたいな感じか
438:このライバーがすごい! ID:/rjKVNgI/
に、ニコは……?
439:このライバーがすごい! ID:p5tlELxuH
それがあんまり探しても見つからないんだよな
440:このライバーがすごい! ID:1l2xszy+p
目も当てられないくらいひどいか、感動しすぎて自分だけのものにしたいか……
441:このライバーがすごい! ID:j/+DNbKmV
どっちもあり得る
442:このライバーがすごい! ID:MB6YVvWPH
現地民からのお知らせ
ニコ、視聴者からの応援で感動し、号泣してproject:talk続行不能
時間をずらして再開するアナウンスが流れた
443:このライバーがすごい! ID:I28gMnwlF
草
444:このライバーがすごい! ID:LtPtWWbgw
草
445:このライバーがすごい! ID:J+ZimCkds
草
446:このライバーがすごい! ID:sTgTUPrye
本当に純粋なやつだ、あいつは
447:このライバーがすごい! ID:U3ZZlbL1P
ニコなら、好きですとか応援してますとか言ってもらえたら、
ちゃんと同じ熱量か、それ以上で返しそうだもんな
448:このライバーがすごい! ID:c0Vlti4Bf
感動しすぎて自分だけのものにしたい、の方が正解だったか
449:このライバーがすごい! ID:osDIHf+hV
>>448
多分、後日しっかりしたレポが書かれるタイプだと思う
450:このライバーがすごい! ID:lybm2kayf
俺普通にチケット外れたんだよなぁ
451:このライバーがすごい! ID:AWqua5k0L
俺たちはちゃんといるぞって言いたかった
452:このライバーがすごい! ID:PlmtOMLXa
マジでニコと話せた人が羨ましい
453:このライバーがすごい! ID:jdu8nrSL+
ニコは陰か陽なら陰だけど、光か闇なら完全に光だもんなぁ
454:このライバーがすごい! ID:Xs5YTA1fc
>>447
これ、マジでそうだとしたらニコと話せた人めちゃくちゃ嬉しいだろうな
「好き」には「好き」で返してくれるってことだろ?
455:このライバーがすごい! ID:c7/jQuqWQ
ニコの傾向として、伝えないとって思ったことは緊張取っ払って伝えるから、
まかり間違ってガチ恋勢がいたとしたら、昇天すると思う
456:このライバーがすごい! ID:Z8C3TN/H7
優姫ちゃんがガチ恋勢を増やし続けてる疑惑については?
457:このライバーがすごい! ID:2Oits/JYU
カッコよくて綺麗でかわいい女の子
恋するなって言う方が無理な話では?
458:このライバーがすごい! ID:HKdhb9TP9
平等に好意的に接してくれそうだもんな
459:このライバーがすごい! ID:wE4SF8ZFX
特別扱いはしないって思ってそうだけど、十分特別なんだよなぁ
460:このライバーがすごい! ID:jP0FOCca5
優姫ちゃんとお話したかった!
461:このライバーがすごい! ID:880ybDKwC
アザミんとお話したかった!
462:このライバーがすごい! ID:/BCjoPxzf
>>461
面白い人間じゃないとできないぞ
463:このライバーがすごい! ID:Sf5SN5ITk
アザミんに興味持ってもらうのむずすぎる
464:このライバーがすごい! ID:mhJykRe1S
ニコと優姫ちゃんが神対応だから、ニッコリ探偵団として塩対応でバランスとってるんだろ
465:このライバーがすごい! ID:Y8Jf3UoOJ
ニッコリ探偵団は全員嘘偽りがなさすぎる
466:このライバーがすごい! ID:r4BYT72K7
プロエジェは全員そうだろ
467:このライバーがすごい! ID:C3/mevCIR
現地民への嫉妬が止まらん
いいもん、明日配信でめちゃくちゃ応援するから