稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第84話 楽園都市 (2)

 『楽園都市』は、様々なイベントがある。ステージもそうだが、『project:talk』のように、各所でライバーがイベントを担当しており、個人を推している人ならともかく、複数のライバーや箱推しをしている人などはタイムスケジュール管理に苦労することだろう。

 『project:talk』を終えた俺は、バレないように会場内を練り歩いていた。もちろん変装している。眼帯は外し、ウィッグをつけ、マスクも装着し、体型を隠せるよう厚手のコートを着ている。満を連れていれば丸わかりであるため、実体化は解いている状態だ。

 

《佐藤さん、絶対喋らないでね?》

《一言もか……?》

《だって、佐藤さんが喋ると生き様が漏れるから》

 

 声を出して喋るわけにはいかないということになり、じゃあどうやって満と会話しようかと悩んだ末、さっきやってみたらできた思念での会話を満と交わす。俺のオカルトに関する才能が留まるところを知らない。

 俺は別に現実とVTuberとで極端に声を変えているわけではない。俺を知っている人が集中して聞けば、「あれ、もしかして……」と気づけるレベルではあると思う。だから、極力喋らない方がいいという理屈はわかるが、一言もか……。

 

《でも、帝斗と透華を見つけたら嬉しくなって駆け寄る自信があるから、その時は止めてくれ》

《犬じゃん。いいよ》

 

 犬……。聞かなかったことにしよう。

 

 会場は大いに盛り上がっているようで、『project:talk』の話や、参加したイベントの話などで持ちきりだ。物販で手に入れたグッズのお披露目も行っている。《不審者みたいだからやめて!》と満に注意されたが、ニッコリ探偵団のグッズを持っている人を見かけたらちょっと覗きたくなるのは許してほしい。ほら、聞きたいじゃないか。話しとか。

 

「アザミん冷たかったなぁ……」

「マジで興味なさそうだったもんな」

 

 む、アザミの話か。アザミが『project:talk』でどんな対応をしていたかはなんとなく知っている。興味のある相手とのみちゃんと会話をしていて、あとは塩対応だったらしい。アザミらしくて、飾る気がまったくないというのは美徳ではあるが、ファンが悲しく思うのも無理はないか。

 

「正直興奮したわ」

「俺も」

 

 大丈夫だったようだ。うんうんと頷いていると、《佐藤さん、キモい》と満に罵倒される。いや、同意したわけじゃなくてよかったなと思っただけだぞ!? 冷たい扱いをされて興奮する性癖は持っていない! まぁ、属性として塩対応が刺さるというのは理解できる。そもそも、アザミのキャラ的にファンだからといって甘い対応をするのは解釈違いであり、ちゃんと興味がなければ塩対応をするからこそ、普段のあざとさが強力な武器になるというものだ。甘い対応をしてしまえばあざとさに『媚び』の色がついてしまう。しかし塩対応であれば、『俺たちに興味がないのに、反応を見てからかってくださっている』というマインドになるというわけだ。だからこそ『興奮』に変わるということであり、それならば俺も理解できるといった意味の頷きだということだ。わかったか?

 

《そのキモい思考を延々と脳内に叩きつけられるの、めちゃくちゃストレスなんだけど》

《すまん》

 

 ちなみに、思念で会話をしている時はいつもより思考が透けるらしい。本当に申し訳ないと思っている。

 

 しかし、会話をちょくちょく聞いていると、『prooject:eden』の視聴者は理解がいいと感じる。さっきのアザミの対応の受け取り方もそうだし、俺のような人間を受け入れてくれていることもそうだ。男性Vが女性Vに絡むだけで炎上する時代もあったと聞いていたからかなり怯えていたが、なぜか俺は燃えない位置を確立しているし、それは理解ある視聴者であったことと、イベリスをはじめ、運営側の統治が行き届いているからだろう。なんなら、男女カップリングの創作をちらほら見かけるくらいには受け入れられている。この前もアザミに俺と月宮さんのカップリング創作を見せられて、動揺の末気が付いたら夜が明けていたからな。

 

《お似合いっちゃお似合いだけど、仕事のパートナーみたいな感じだよね》

《お似合いなど、月宮さんに申し訳ないだろう》

《月宮さんに申し訳ないって思う方が申し訳なくない? 月宮さん、そういうの気にしないだろうし》

 

 俺、敗北。確かに月宮さんは「別に、あんた普通にいいやつよ。付き合えるかどうかは別として」と言ってくれるタイプだ。なんか傷つくな……。

 

 あと、あれだ。俺のぬいぐるみを持ってくれている人は、ほとんどがニッコリ探偵団でそろえてくれているのも嬉しい。そうでなくとも、俺と満が一緒になっていないのを見たことがない。俺という人間は周りに支えられていなければ成り立っていないからな。

 

《月宮さんとアザミさんもいるのかなぁ》

《どうだろうな。流石に固まって行動するとバレるリスクが上がるから、別で行動しようとは言ったが……》

 

 月宮さんは勉強のために『グレート・エンターテイメントショー』を見に行くと言っていた。名前で丸わかりだが、リニスのソロステージだ。ソロとは言いつつも、聖麗やイレイナさんといったゲストも参加するらしい。

 アザミは特に何も言っていなかった……いや、シゲキの『シゲキ的シゲキ的なシゲキ』に顔を出しに行くと言っていたか。何をするかわからないからやめておけと言ったが、言って聞くようなアザミではない。なぜかシゲキを嫌ってはいるが、同じ研究者として興味がないわけではないだろうからな。

 

 『楽園都市』はステージとオープンに分けられている。オープンは無料配信、ステージは最初の方は無料配信で、途中から有料配信となる。オープンは会場内各所に設置されたモニターで、ライバーが配信する、というものだ。『シゲキ的シゲキ的なシゲキ』もそれにあたる。さっきまでは『ミラクル・オシャレチェック』が行われていた。グレートだとかミラクルだとか、小学生のようなセンスだ。わかりやすくていい。

 

《しかし、ここにいる人が明日の俺たちのステージを見に来てくれるのか……》

《わくわくするね!》

《あぁ。今日、確かに俺たちを応援してくれる人が実際にいることがわかった。今は緊張よりも、喜びの方が勝っているな》

《んふふ》

《なんだ、随分嬉しそうだな》

《なんでもー?》

 

 えらく上機嫌な満がふわふわと俺の周りを浮遊する。多分だが、俺が前向きなことが嬉しいんだろう。

 前向きにもなる。あれだけ俺を応援してくれている人がわかっていて、緊張だけして目も当てられないステージにするわけにはいかない。という気持ちが緊張に繋がりそうではあるが、不思議とそこまでわいてこない。信じられないくらい自然体だ。

 

《明日もいい日になるといいね、佐藤さん!》

《俺のことをハムスターだと思っているのか?》

《そんなに可愛くないでしょ》

《わかってるんだよそんなこと!》

 

 ちょっと面白いことを言おうとしただけじゃないか! ちくしょう!

 

 

 

 

 

「あれ、佐藤だよなぁ」

「先輩っスね」

 

 視線の先では、時々何もない場所へ顔を向ける男の姿があった。声はまったく出してないけど、あの挙動は佐藤だ。俺と透華にはわかる。

 まぁ、俺と透華にはわかるっていうレベルで、佐藤にしてはうまく溶け込めている。この半年と数か月で、社会への溶け込み方を覚えたみたいだ。

 

「どうする?」

「や、話しかけるのはダメじゃないっスか? 喋ったら生き様が漏れちゃいますし」

「同意見」

「ですよね」

 

 あと、俺たちの姿を見かけたら犬みたいに寄ってくるだろうから、あいつの前に姿を見せるのもあまりよくない。寂しいが、逆方向に行くか。

 

「やー、でもなんかあれですね」

「ん?」

「先輩が認めてもらえてるのがすごい嬉しくて、にやけそうになるのを我慢するのが辛いっス」

 

 頬をむにむにしながら可愛いことを言う透華に、思わず笑ってしまう。あとで佐藤に教えてやろう。

 実際、透華の言う通り今までを考えれば信じられないほど佐藤は認めてもらえている。一番新人だっていうのにステージをもらえたからか、そもそもこの会場にきているのは佐藤、もしくはニッコリ探偵団の誰かのファンだっていうのもあるだろうけど、歩いていると佐藤の話をそこそこ耳にする。

 そうだよな、あいつは見つかってなかっただけっつーか、見つかりにいってなかったっつーか、そんな感じなんだ。どう考えたってあんな面白がりがいがあるやつなんてそうそういない。

 それに、面白いだけじゃなくていいやつだ。さっき泣いて蹲ってる人がいたから声かけたら、「に、ニコが神対応すぎて……大丈夫です、すみません」って言ってたしな。

 

「明日、ステージに立ってお客さん見た瞬間、腰抜かしそうっスよね」

「かもな。そう考えたら一日目に『project:talk』を持ってきたのは英断だった」

 

 佐藤に『自分を応援してくれている人がいること』を意識させるのとさせないのとで大分違う。あいつは律儀なやつだから期待には必ず応えなければならないっていう思考をするやつだが、支えてくれる人には無意識下で甘えるクセがある。甘えてばかりじゃだめだっていう意識はあるけど、心のどっかで拠り所にするんだ。

 だから、『project:talk』で応援に来てくれた人は、丸ごと味方だって判断する。いつも配信を見に来てくれている人も味方だとは思っているだろうが、実際に顔を見るのと見ないのとじゃえらい違いだからな。

 

「あー、そういえば西園寺さんでしたっけ。一日目に持ってきたの」

「おう。同じ日にしたら普通に潰れるからな、あいつ」

 

 一日目にしないと、会場を歩くなんていう発想にも至らなかっただろうしな。会場を楽しもうっていうのもあるだろうけど、一番は視聴者の実際の声を聞こうと思って会場を歩いているはずだ。

 

「いやー、普通に楽しみだな明日! なんか失敗してくんねぇかなぁ」

「失敗って……」

「俺さ、しっかりお膳立てした上で、なんか失敗して申し訳なさそうにしてる佐藤好きなんだよな。一番おもしれぇよ」

「西園寺さんって、普通に性格悪いっスよね」

「つってもアレだぜ? あいつなら笑える失敗になるってわかってるからだよ。あいつの失敗は成功みたいなもんじゃん」

「んー、まぁ確かに?」

 

 あいつの失敗らしい失敗は、俺にキャッチボールをさせる状況を作るところくらいだ。透華の前でそんなこと言えねぇけど。

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 par19

 

557:このライバーがすごい! ID:yU0NG3Z8y

シゲキ的シゲキ的シゲキ、シゲキ的だったな

 

558:このライバーがすごい! ID:2O3E51WA3

シゲキとアザミんがお互いにネットワークを構築して、侵入できた方が勝ち

結果

お互いのサーバールームに特殊部隊を送り込み、物理破壊を決行

アザミんが防衛戦で敗北

 

559:このライバーがすごい! ID:S6SNe2cCD

侵入はしてるけども

 

560:このライバーがすごい! ID:xK04yNpOW

アザミんが特殊部隊用意してるって聞いた時のシゲキ、めちゃくちゃ嬉しそうだったな

 

561:このライバーがすごい! ID:1vbHKYqJN

>>560

会場が壊れるくらいの声量で「随分シゲキ的なことしてくれるじゃねェか!!!!!!」

って叫んでた

 

562:このライバーがすごい! ID:UliwlmLua

ここまで触れてこなかったシゲキが嫌いな理由も聞けたしな

 

563:このライバーがすごい! ID:UtTEsbMd/

マジか、耳がなくなると思って配信見てなかった

 

564:このライバーがすごい! ID:b+u+IH4RR

>>563

最初から勝てないってわかってるから、どうしてもバカみたいな勝負に持ち込むしかないからだって

 

565:このライバーがすごい! ID:1Mg/nmCmP

だからってサーバールームの物理破壊を目論むか?

 

566:このライバーがすごい! ID:QkDHRZWiq

>>565

アザミんはシゲキの土俵である『シゲキ的』で勝負しにきたんだろ

 

567:このライバーがすごい! ID:OdZQEeqPt

まさかVTuberの配信で生身の人間の戦闘を見せられるとはな……

 

568:このライバーがすごい! ID:V3gf7lObb

普通に個人の資金で用意したらしいな

サーバーから特殊部隊から全部

 

569:このライバーがすごい! ID:j0+YO3r0a

そもそも特殊部隊ってなんだよ

 

570:このライバーがすごい! ID:qXGfr63y3

>>569

プロエジェでそういう細かい話は考えちゃいけない

 

571:このライバーがすごい! ID:rABljEUY9

>>569

頭空っぽにして楽しめる楽園を作るのが『project:eden』だぞ

 

572:このライバーがすごい! ID:dsbOTYR96

そういう意味じゃ、一期生は体現してるよな

 

573:このライバーがすごい! ID:/APwdYNn9

未だにクールとオシャレとシゲキを理解してるやつなんて、本人以外一人もいないからな

 

574:このライバーがすごい! ID:kHVRw6g+u

ニコと優姫ちゃんはどこにもお邪魔してなかったな

 

575:このライバーがすごい! ID:tg040yi6k

>>574

イベリスが探そうとしてたぞ

 

576:このライバーがすごい! ID:az3lGWHh7

イベリス「ニコと優姫のオシャレな気配がするのよね……」

 

577:このライバーがすごい! ID:PK1Qic9iS

怖すぎる

 

578:このライバーがすごい! ID:SS7NJsib/

イベリスなら本当に見つけそう

 

579:このライバーがすごい! ID:2/+39/Kq0

結局あのミラクル・オシャレチェックはなんだったんだ?

 

580:このライバーがすごい! ID:sqv0LTsxU

めちゃくちゃわかりやすかっただろ

会場の人を見てオシャレかオシャレじゃないかを判断するだけ

 

581:このライバーがすごい! ID:3cAvIvDGt

オシャレってイベリスに言われた瞬間、敬い始めるやつらいたけど

あいつら絶対イベリスのリスナーだろ

 

582:このライバーがすごい! ID:TQibH3Vkl

というかイベリスはどこから見てたんだ?

会場中の人のオシャレチェックしてたけど

 

583:このライバーがすごい! ID:ru0fgsTa2

イベリスだからそりゃ会場中見えてるだろ

 

584:このライバーがすごい! ID:N8QgrbhzX

オシャレだからな

 

585:このライバーがすごい! ID:e+jM27h2o

なんでもかんでもオシャレで片付くのずる過ぎる

 

586:このライバーがすごい! ID:rD0yNP2s3

>>585

それでいうとニコも似たようなもんだろ

大体ニコだからで片付く

 

587:このライバーがすごい! ID:qhribJwOO

クール、オシャレ、シゲキに並ぶニコ

 

588:このライバーがすごい! ID:NDLxr3ps8

名誉か不名誉かわかんねぇな

 

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