稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第86話 楽園都市 (4)

 映像には俺と満がリビングにいる光景が流れている。俺と満しかリビングにいないということは、月宮さんとアザミは仕事に行っているときか。

 共同生活の動きの再現をしたが、映像チェックは少ししかしていない。あとは「当日に知った方が面白い反応ができる」という運営の指示で、どういう映像が流れるかは把握していないから、今流れているのがいつでどういう場面かはわからない。

 

 ただ、画面に『※優姫とアザミが仕事で自分だけ仕事がないため、暇をしているニコの様子』という注釈が表示されたことでどういう場面かはっきりした。

 

「俺がほぼ無職であることを浮き彫りにする必要はないだろう!?」

「私、空中でくるくる回っててあまりにも暇そうなんだけど……」

「すまないな、私に仕事があって」

「流石に何日も仕事は休めなかったから……」

 

 なぜ俺がいきなりこんな辱めを……! 注釈が出た瞬間会場から笑い声が聞こえてきたのも納得いかん。人の無職を笑うとは何事だ! いや、無職ではないんだが。

 

 ソファで暇そうに天井を見上げている俺と、空中でくるくる回っている満。ちょくちょく目が合った瞬間にじゃんけんをしているあまりにも暇な映像が数秒流れた後、鍵が開けられる音が流れた。その音に俺が飛び起きて、満は回るのをやめて玄関の方へと飛んでいく。

 

『二人ともおかえり!』

『おかえり、月宮さん、アザミ。し、仕事お疲れ様……!!』

『ただいま。あんた、やっぱり仕事なかったのね』

『ただいま。帰宅してすぐに歯を食いしばられたのは初めてだな』

 

 場面がリビングから玄関に移り、満が二人に飛びつきながら、俺が歯を食いしばりながら二人を迎えた。俺、歯を食いしばっていたのか……。気を付けなければ。いくら俺に仕事がないからといって、ちゃんと仕事を頑張っている二人に対し失礼な態度すぎる。でも月宮さんも「やっぱり」って失礼だと思うんだが。

 

「ニコと満ちゃん、帰る度に飛んできて犬みたいで可愛かったわね」

「普通にニコが小さく見えたな」

「仕方がないだろう。カメラもあったから極力家にいるようにしていたが、かなり暇だったんだ」

「いつやったか忘れたけど、架空スポーツのフォーメーション考えるくらい暇だったもんね」

 

 架空スポーツの名前まで決めていたが既に忘れた。どれだけどうでもいいことをしていたんだ、俺たちは。

 

 そして、映像がリビングのソファに座る俺とアザミ、洗い物をしている月宮さんと満へと切り替わる。おい、俺。なぜ一日中暇をしていたクセに洗い物をしていないんだ。無職の亭主関白はタチが悪すぎるだろう。

 その俺の憤慨ともいえる疑問は、画面に現れた『洗い物をしようとしたが、優姫とアザミの箸を意識して断念し、何もすることなく休んでいるニコの様子』という注釈によって解決した。

 

「なぜ俺を情けなくするんだ!」

「情けないからだろう」

「情けないからでしょ」

「情けないからよ」

 

 情けないかららしい。俺は涙した。会場からは笑いが起きた。どうやら俺は笑われる存在らしい。

 

「というかアザミ! 風呂上がりなのに俺との距離が近すぎるだろう! 離れろ!」

「そういうことは今言わないでくれ」

 

 映像の中の俺とアザミは、少し近づけば肩が触れ合うような距離にいる。そのせいか俺がアザミとは逆側の天井の隅を見つめて気を逸らしている。童貞が透けているぞ、俺! もっと男らしく堂々としろ! 観客も「童貞ー!」という謎の声援を送ってくるな!

 しかし、俺の思考も理解できる。きっと映像の中の俺は「アザミとこんな距離でいるわけにはいかない。いや、しかし距離を離すとアザミが悲しむか? そんなことはないと思いたいが、アザミは俺たちのことを好意的に想ってくれているし、表面上は気にしていないように見えても実際は傷つくかもしれない。むしろ意識することの方が失礼なんじゃないか? アザミは俺をいい友人として信頼してくれているからこそのこの距離であり、それ以上の意味はない」などと思っているのだろう。俺のことだから手に取るようにわかる。

 

 そんな俺の意思を無視するかのごとく、アザミが動いた。『あーん』と言って俺の口元に手を伸ばす。アザミの手にはクッキーがあり、それを俺は戸惑いなく口にした。

 

「なっ、何!? アザミからの『あーん』を普通に受け取っただと!?」

 

 直後、起きた出来事に気づいた映像の中の俺が、ソファから跳ね上がって転げ落ち、無意味にドタバタしながらアザミから遠ざかっていった。普通じゃなかった。

 

『なっ、何!? アザミからの『あーん』を普通に受け取っただと!?』

「おんなじこと言ってるわよ、あんた」

「安心するくらいにニコはニコだな」

「あーんくらいであんなに動揺しなくても……」

 

 うるさい!! 俺は女の子から「あーん」をしてもらったことなんて……満と透華からはあるか。でも身内だからノーカウントだ! 

 

『ニコ、どうしたの?』

『つっ、月宮さん! アザミが、アザミが!』

『ニコさん。どうせアザミさんにからかわれただけなのに、アザミさんが急に苦しみ初めて吐血したみたいなテンションやめて』

 

 映像の中のアザミがけらけら笑っている。許せん……!

 俺が憤慨しながら立ち上がり、アザミの隣に座る。ちらちらとアザミを見ているのが意識していることがまるわかりで本当に恥ずかしい。俺は客観的に見たらこんなにわかりやすいのか。どうりで帝斗と透華に思考を読まれるわけだ。あの二人が特別すごいと思っていたが、どうやら俺がわかりやすすぎるだけだったらしい。時代が時代なら、「この問題、ミッドナイト・サイコナイト!」といったように『わかりやすいこと』の代名詞として俺の名前が使われるくらいにはわかりやすい。

 

 しかも、クッキーを自分で手に取ってドギマギするくらいには意識している。「こ、これが、さっきアザミから『あーん』してもらったクッキー……」と思っていそうで本当に愚かだ。それが観客にも伝わっているのか、クスクス笑っている人が見える。なぜこんな辱めを受けなければならないんだ……!

 

『ニコ、どうしたんだ? クッキーをじーっと見つめたりして』

『い、いや? なんでもないが』

『ん? ……あぁ、そういうことか』

『……? !!!????』

 

 アザミが俺を見て、餌を待つひな鳥のように口を開ける。「あーん」をしろということか!? アザミめ、なんといういやらしい真似を……!!

 

『アザミ、なんといういやらしい真似をするんだ! 自分の体はもっと大切にしろ!』

 

 映像の中の俺も同じことを言った。どうやら俺はいつまで経っても俺らしい。

 

「口を開けて待ってるだけでいやらしい真似って、童貞も行くところまで行ったわね」

「童貞を時代みたいに言わないでもらえるか? というか正常な反応だろう! こればかりは同意を得られる自信がある! なぁみんな!」

 

 あれだけ俺を笑っていた観客が、一瞬にして静まり返った。チクショウ!!

 いやでも、客観的に見たらわかる。こっちを見て口を開けただけで「自分の体はもっと大切にしろ!」と言うのはかなり気持ちが悪い。これからは本当に気を付けようと思う。だが、前提として、俺はアザミから『あーん』をしてもらった後であり、正常な精神状態ではなかったということは留意してもらいたい。なぜ俺は留意してもらいたいのに口に出して言わないんだ?

 

 俺がクッキーを手に意味不明なことを言ったからか、洗い物を終えた月宮さんと満が俺たちのところにやってくる。満は俺が持っていたクッキーを行儀悪く飛びながら口で奪っていき、月宮さんは『あんまりからかわないの』と言いながら背後からアザミのほっぺを両手で挟んだ。それと同時、観客から歓声が上がる。

 

「こっ、こんなことをしていたのか!? 隣にいたのに見逃した! クソっ、満! なぜ俺のクッキーを食った!」

「おいしそうだったから!」

「なら仕方ないか。それに、また隣でやってもらえばいいだけのこと。頼んだ、月宮さん、アザミ」

「なんならあんたにやってあげましょうか?」

 

 椅子をなぎ倒し、後ろに転げ落ちる。つ、月宮さんがアザミのような冗談を!? 予想していなかったがあまり普段しないような動揺の仕方をしてしまった。普段していないはずなのになぜかやった記憶がかなりあるが、デジャブとはそういうものだ。

 しかし、このままでは俺は冗談を言われただけで転げ落ちた情けないやつだと思われてしまう。誤魔化すためにまるで何事もなかったかのように椅子に座って「ふっ、やってみろ」と言えば、月宮さんが立ち上がって俺に近づいてきた。

 

「ゆ、ゆるして!」

「私が命を取ろうとしてるみたいな怖がり方しないでよ。冗談よ冗談」

「優姫。冗談じゃなくていい。やれ」

「いやよ。ニコが死んじゃうもの」

「あぁ、もちろんだ」

「認めていいの? ニコさん」

 

 当たり前だろう。月宮さんにほっぺをむぎゅっとされたら、動揺のあまり死ぬ自信がある。そうでなくとも後遺症として月宮さんの手を見た瞬間、全身が麻痺してうまく喋れなくなることだろう。度々「すさまじい」と形容詞をつけられる俺の童貞を舐めないでもらいたい。別に誇りに思うことでもない。

 

 俺たちが騒ぎ始めると同時、停止されていた映像が再生される。アザミがクッキーを手に取って月宮さんの口元へ持っていき、月宮さんがそれをぱくり。

 

「こっ、こんなことをしていたのか!? 隣にいたのに見逃した! クソっ、満! なぜ俺のクッキーを食った!」

「何度も同じことを言わせないでよ」

「なら仕方ないか。それに、また隣でやってもらえばいいだけのこと。頼んだ、月宮さん、アザミ」

「何度も同じことを言わせないでくれる?」

 

 危なかった。同じことを言われていたらまた同じように転げ落ちるところだった。俺が鋼の精神を持っていて、月宮さんが優しい心の持ち主で助かった。流石にみんなの前で二度も転げ落ちるわけにはいかないからな。映像を合わせれば二度転げ落ちているが。

 

「どちらかというとやるのは私だからな。というわけでニコ、私がやってやろう」

 

 俺は転げ落ちた。

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part19

 

691:このライバーがすごい! ID:eXPsVm/R6

無料配信、終了!

 

692:このライバーがすごい! ID:K/uuP/YGs

ニコが転げ落ちるところは見せてくれたから満足

 

693:このライバーがすごい! ID:7uMmSxpn3

配信チケットを買ってない弱者がいるな

 

694:このライバーがすごい! ID:weLzYEtvW

いうて後からでも買って見れるし、無料配信で様子見は珍しくないだろ

 

695:このライバーがすごい! ID:M45eD6MjP

>>694

推してたらつべこべ言わず買うのが普通だろうが!

 

696:このライバーがすごい! ID:BX2JwsZPZ

こういう時に気持ちの差ってやつが出るんだろうな……

 

697:このライバーがすごい! ID:+qH3ab0AR

まぁ学生とかだとわからんでもない

 

698:このライバーがすごい! ID:MmINmc5K9

金の使い道は個人の自由だからな

 

699:このライバーがすごい! ID:6/ruW5d/R

でもこういうのって我慢しようと思っても、結局気になって買っちゃうんだよな

 

700:このライバーがすごい! ID:tA3rhag11

普通に現地で見たかった

 

701:このライバーがすごい! ID:RqiJnXISo

ニコはなんで自分のことなのに時々自分のことじゃないみたいなリアクションできるんだ

 

702:このライバーがすごい! ID:73go71jSk

ニコだからだろ

 

703:このライバーがすごい! ID:Bd/6M0eIx

ニコみたいなライバーは今後出てこないだろうな

 

704:このライバーがすごい! ID:NsONn8fTH

満ちゃんと優姫ちゃんとアザミんと一緒だからこそっていうのもありそう

 

705:このライバーがすごい! ID:+kqSnARPf

>>704

その場合、見つかるのがもっと遅くなるだけで、結果はあんまり変わらない気もする

 

706:このライバーがすごい! ID:BC/a34UL+

ニコは人に恵まれすぎ

 

707:このライバーがすごい! ID:fJMO7rNKt

ニコがいいやつだからだろ

 

708:このライバーがすごい! ID:HBxGwqdaX

ところで、今ここにいるやつらは全員チケット買ってないってことか?

 

709:このライバーがすごい! ID:RBFM8qLVF

>>708

俺は買ってる

 

710:このライバーがすごい! ID:QaZwY/gH5

>>708

買ってる

 

711:このライバーがすごい! ID:lQ0lm8nU3

>>708

買ってる

絶対に見るべき場面がきたらお前らに買えって言えるようにここにいるだけ

 

712:このライバーがすごい! ID:MPw57Oq6y

ていうかほぼ買ってると思うぞ

 

713:このライバーがすごい! ID:dglKl0rGr

ネタバレOKだから言うけど、ニッコリ探偵団での宅飲みが見られるぞ

 

714:このライバーがすごい! ID:N81ZzlSs5

>>713

これだけでもうここにいるやつ全員がチケット買っただろうな

 

715:このライバーがすごい! ID:jtwhaUofo

いやぁ、ちょっとお金が……今月ちょっと厳しくて……

 

716:このライバーがすごい! ID:6QAtuXQRY

>>715

アザミんが優姫ちゃんの肩に頭預けて、ぽーっとしてる姿見られるぞ

 

717:このライバーがすごい! ID: jtwhaUofo

今月の飯、虫に決定

 

718:このライバーがすごい! ID:NUZWukGwz

アザミん、お酒に弱いんだな

 

719:このライバーがすごい! ID:/+9nqlR84

いや、弱いフリしてるだけかもしれないぞ

 

720:このライバーがすごい! ID:lLEBPYPoD

ニコが褒めちぎりマシーンと化した……

 

721:このライバーがすごい! ID:OpgPSjKkM

尊いという言葉の本当の意味を知った

 

722:このライバーがすごい! ID:tEpDiKa+7

こんな素晴らしい映像のディレクターズカット版が販売されるって本当ですか?

 

723:このライバーがすごい! ID:VqnTdzH6v

それだけであと5世紀は生きられる

 

724:このライバーがすごい! ID:ZFXKFpZ1+

>>723

神もニッコリ探偵団を見る時代がきた

 

725:このライバーがすごい! ID:OIA/fgy3E

そりゃあニコがいるからな

神様が一番好きそうなタイプだろ

 

726:このライバーがすごい! ID:dbuIcRh9d

しかし、やっぱり歌って踊ってとかはないか

 

727:このライバーがすごい! ID:pt7VujIOc

酔ったニコは歌って踊ってたぞ

 

728:このライバーがすごい! ID:qdk9fACsu

>>727

そういうのじゃないんだよ

 

729:このライバーがすごい! ID:IBNWUdy33

いつかはやってくれるだろ

やるとしたら、がっつり練習してちゃんと見せられるレベルって本人たちが納得してからか

 

730:このライバーがすごい! ID:rwYtxi5S4

ステージの最後でやってくれるって信じてるぞ!

 

731:このライバーがすごい! ID:ATcqDLMPs

ない

ニコの性格的に、あるとしたら無料配信部分で言ってるだろ

 

732:このライバーがすごい! ID:9eP+BwMQ0

確かに

 

733:このライバーがすごい! ID:bmcSd6V/G

確かに

 

734:このライバーがすごい! ID:Em6E/UIYb

次に期待だな

 

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