稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第94話 久しぶり

 3Dお披露目配信終了後。そのままクリスマスパーティを開始し、満と星菜さんが仲良くしている光景にまた涙ぐみ、クールでオシャレだからとルイスとイベリスに絡まれている月宮さんを庇い、アザミとシゲキが勝負を始め、巻き込まれないようにおとなしくしていたら気づけばどこかへと姿を消していて、明さんに毎度のことだけど、と前置きされて星菜さんの俺に対する距離感について謝罪され。

 ぐちゃぐちゃで騒がしいクリスマスパーティは、満が眠りについて、星菜さんも眠そうに船を漕いだことでお開きとなった。

 

 明さんと星菜さんが先に帰宅し、今は俺と満、月宮さんとマリー、ルイスとイベリスが残っている。満は月宮さんの膝枕で気持ちよさそうに夢の中だ。前にも思った気がするが、光景が美しすぎて絵画かと思った。イベリスも「オシャレすぎる……!!」と言って膝をつき、静かに涙を流している。なぜ目の前にこんな変態がいるのに、月宮さんは平然としていられるんだ。

 

「すまない、月宮さん」

「ん? いいわよ別に。むしろ嬉しいし」

 

 優しく満の頭を撫でながら微笑む月宮さん。頭がよくて美人で運動ができて優しいって、どこまで完璧になれば気が済むんだ? 同期にそんな完璧な人がいると、俺のあまりの出来の悪さが浮き彫りになるから、もう少し手加減をしてほしい。

 月宮さんは満の枕となることを許してくれたが、このままずっとそうしてもらうわけにはいかない。かといって、気持ちよさそうに眠っている満を起こすのもなんだか悪い。

 

 そうしてどうしたものかと悩んでいる俺の服の裾が、控えめに握られた感触があった。

 

「マリー」

「ね、ニコちー」

 

 見れば、口をもごもごさせたマリーがいた。相も変わらず巫女装束で、色々身バレとか大丈夫なのかと心配するが、そこはむしろバレバレな恰好をするわけがないという心理を利用したものだと納得しておく。俺もなんだかんだバレやすい見た目をしているとは思うが、バレたことはないからな。

 しばらくその状態で口をもごもごさせた後、マリーは自身の懐から取り出したものを俺に見せ、こてんと首を傾げた。

 

「……久しぶりに、どう?」

 

 マリーの手にあったのは、赤マル。俺が吸っていたタバコだ。重めな上に出費もバカにならないからと最近はまったく吸っていなかった。禁煙後に吸ってしまえばまた吸うようになってしまうかもしれないが、断る理由もない。満が起きるまで付き合ってもらうとしよう。

 タバコとなればルイスも誘おうと周りを見てみるが、いつの間にかいなくなっていた。クールすぎて音もなく去るのか? あいつは。

 

「月宮さん」

「行ってきていいわよ。私たちはここにいるから」

「ありがとう。イベリスのことも見てやってくれ」

「どちらかというと、私が見られてる方だと思うけど……」

 

 行ってきていい、と言ってくれるだろうと思ったが、満を見てくれている月宮さんに一応断りを入れようと声をかけると、食い気味に了承してくれた。あと平然としてはいたが、イベリスからオシャレすぎると思われていることは認識していたらしい。

 

「じゃあ行くか、マリー」

「ん。ついてきて」

 

 俺が最近タバコを吸っていなくて、喫煙可能な場所を知らないことを察してか、マリーが先導してくれる。が、元喫煙者の性か、喫煙所の場所はイベリスに聞いて把握している。「屋内で許すとルイスがオシャレにバカバカ吸うからオシャレに外よ!」と言っていた。

 無駄にステンドグラスのような模様が刻まれている扉を開けると、外の喫煙所に出る。12月下旬ともなれば、中と外でかなりの寒暖差がある。外に出た瞬間肌を刺すような冷気に襲われて、思わず身震いした。タバコを吸う前だというのに、吐く息が白い。

 

 震えながら少し歩くと、明かりに照らされた街を見下ろせる。都会の夜空に星は見えないが、見下ろせば人工的な星空が広がっていた。以前の俺はその星空の一部ではなかったが、今はなれていると言ってもいいくらい社会に馴染み始めていると思っていいと思う。本当に成長した。

 

「ん」

「おぉ、すまんな」

 

 差し出されたタバコをつまんで口に咥えると、マリーが火をつけてくれた。一口目は火を保つために吸うもので、肺に入れるものではない。禁煙してかなり経つが、ヘビー、ともすればチェーンスモーカーと言われてもおかしくないくらい吸っていたからか、体がタバコの吸い方を覚えている。

 

 寒さで白くなる息とは別の、重そうな煙が口から吐き出される。そうしてから初めて、マリーが俺をじっと見ていることに気づいた。

 

「どうした?」

「や、なんでも……」

 

 慌てて視線を逸らしたマリーは、タバコを咥え、風で消えないよう手で壁を作ってから火をつける。そのまま少し吸って、細い紫煙を吐いた。普段も吸っているのか、かなりサマになっている。

 しばらくお互い無言で、久しぶりのタバコを味わった。脳がクリアになるこの感覚は、やはり中毒性のあるものだと再認識する。当時の俺は脳をクリアにする必要がないくらい何も考えなくてよかったのに、なぜ吸っていたのだろうか。確かカッコいいから吸い始めたのだったか。今でもタバコはカッコいいとは思うが、満が実体化できるようになった今、事務所で吸うのはあまりよろしくない。

 

「ね」

「ん?」

「どう? 久しぶりのタバコ」

 

 先端で長くなった灰を灰皿に落とすと、マリーが街を見ながら尋ねてくる。「やはりいいものだな」と返せば、「そっか」と嬉しそうに微笑んだ。

 

「今は吸ってないんだよね」

「あぁ。人と会うことも多くなったから、俺のような人間はできるだけ相手に不快感を与えないよう気を付ける必要がある」

「ふぅん。私、好きだけどな。たけちーがタバコ吸ってる姿」

「ふっ、そうか。カッコいいだろう?」

「うん。カッコいい」

 

 フフフ……やはり俺はタバコを吸っているとカッコいいらしい。ん? タバコを吸っていると? それではまるで普段はカッコよくないみたいじゃないか? ……カッコよくはないな。容姿を褒められることはあるが、普段の言動行動で情けないと言われることの方が圧倒的に多い。

 ……また、タバコ吸い始めようかな。

 

「マリーは普段どれくらい吸うんだ?」

「んー、意識したことないけど、そんなパカパカ吸わないかも。たけちーと似たような理由で、人と会う予定があるときはあんまり吸わないかな」

「気のせいだとは思うが、久しぶりに人と意見が合った気がするな」

「そうなの? あーでも、大体慌ててるもんね。そういうときのたけちー、焦って変なことばっか言っちゃうし」

「変なことを言っているつもりはないが、周りからするとそうらしいな」

「変ではあるよ。たけちーらしいけど」

 

 変、変か……。焦ってはいようとも、俺は俺をまっとうしているつもりだから、やはり俺は変なのかもしれない。しかし、他人から見て変であっても俺にとっては普通であり、普通とは個人ごとにいくらでもその姿を変えるものだ。見方を変えれば『project:eden』にとっては普通の範疇にいると思う。それは周りから見れば変であることの証明になるが、俺の社会は『project:eden』だから、つまり俺は普通ということになる。

 

「マリー。俺は普通なのかもしれん」

「変って言っちゃった手前こういうこと言うのもなんだけど、変だとか普通だとか気にするだけ無駄じゃん? たけちーはたけちーなんだし、たけちーがたけちーだからみんなあなたのことが好きなんだし」

「お、おい、よせ、照れるだろう。フフフ……」

 

 照れながら灰皿にタバコを押し付けて火を消し、ポケットに手を突っ込んでタバコを探すが、持っていないことを思い出す。ちらとマリーを見れば、既にタバコを差し出してくれていた。柔らかい笑顔とともに差し出されたそれを「ありがとう」と礼を言ってから口に咥えると、流れるような動作で火をつけてくれる。かなり慣れた動作だ。もしくは、俺が介護されなれているのかもしれない。

 

「そういえば、今日はありがとう。クリスマスだというのにきてくれて、本当に感謝している」

「いーえ。そりゃまぁ、たけちーのお披露目ってなったらこないわけにはいかないでしょ」

「マリーからすれば普通でも、俺からすれば特別だ。また何かで返さねば……そうだ! ほら、見ろ! ここから見た街はイルミネーションに見えないか? クリスマスと言えばイルミネーションだ。存分に堪能するといい!」

「めっちゃ必死にオシャレなこと言おうとした感じすんね」

「思っても言うな」

 

 恥ずかしくなって目を逸らせば、くすくすとマリーが笑う。こういうときはタバコに逃げるに限る。思いきり吸い込んで、思いきり肺に入れて思いきり紫煙を吐き出すと、イルミネーションと称した街に雲がかかる。すると、マリーが「ちゃんと見せてよ、イルミネーション」と言ってまたからかってきた。遺憾!!

 

「クソッ、スマートになりたい……!」

「たけちーはそういうところ含めてたけちーなんだから、それでいいじゃん」

「いや、度々思うんだが、俺は甘やかされすぎている。俺だからという理由で仕方がないなと許してもらえることが多すぎる」

「だって、それがたけちーだし」

「情けなくないか?」

「だって、それがたけちーだし」

「なぜ肯定されているのにこうも惨めな気分になるんだ……?」

 

 タバコを咥えて眉間に皺を寄せると、マリーがまた笑った。俺をいじめて随分楽しそうだな!!

 

 

 

 

 

「んん……」

「おう。起きたか」

 

 帰り道。結局目を覚まさなかった満を背負って歩いていると、背中で小さく身じろぎして満がむにゃむにゃ言い出した。なぜこうも庇護欲を掻き立てるんだ、こいつは。

 満はしばらくむにゃむにゃすると、俺の背中に頬をすりすりしてくる。起きたのなら飛べるだろうという野暮なことは言わず、小さく笑うだけに留めておいた。

 

「あれ……」

「どうした?」

「たばこ吸ったの? 懐かしいねー」

「マリーと少しな」

「え、西園寺さんにキャッチボールさせる気……?」

「いや、そんな事態にはならなかった。流石にクリスマスにもキャッチボールをさせるわけにはいかん」

 

 満に言われて、そういえばと思い出す。普段のマリーは満に激重だと初対面で認識されるほどだったのに、タバコを吸っている時はそうでもなかった。

 なぜだろうか、と首を捻ってみたが、きっとタバコを吸っていたからだろう。気持ちが落ち着くからな、タバコは。

 

「これからもたまーになら吸っていいんじゃない? 私、タバコのにおい嫌いじゃないし」

「あー……そうだな。誘われたらありがたく乗ることにするか」

「うん。懐かしくておちつくー」

 

 満はへにゃへにゃ笑って、しばらくしてまた眠りについた。

 

 ……これは、明日は筋肉痛か?

 

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