稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第95話 家族

 大晦日。一年の終わりであり、少しすれば新しい一年が始まる特別な日。一般的に、かどうかはわからないが、そういう日、俺は実家に帰るようにしている。

 俺はほぼ毎日配信しているから一応視聴者に「大晦日は配信しない」と言うと、「当たり前だろ」「お前みたいなやつは大晦日くらい家族と過ごせ」「金稼げてますって安心させてやれ」と色々言ってもらえた。ありがたい限りだ。

 

 しかし、その中で痛いところを突かれた。それは、「家族にはV活動のこと言ってるのか?」というコメント。

 結論から言えば、言っていない。俺を育ててくれた両親に対し隠し事をするなどもってのほかだと思ったが、やはり俺たちの親世代はそもそもVTuberというものを知らない、知っていても忌避感がどうしても出てしまう。俺の両親に限ってそれはないとは思うが、やはり伝えることを躊躇してしまった。

 

 そうでなくとも、いい大学を出たのにも関わらず、依頼のないオカルト探偵事務所の所長をやっているような男だ。そんなやつが、そっちで稼げないからVTuberを始めましたなど、普通に考えれば会社に就職しろと言われるに決まっている。その方が安心だからだ。

 

 という、様々な理由で伝えていなかったが、今日伝えようと思う。今までも何度か伝えるタイミングがあったが、その度にチャンスを逃してきた。

 今日は違う。なぜなら、3Dお披露目配信を乗り越え、胸を張って『project:eden』の一員だと言えるようになった。ここまできたら、VTuberをやめることなど考えられん。既に、『ミッドナイト・サイコナイト』、『ニコ』は、俺の一部となっている。

 

「佐藤さん。家の前でおんなじこと考えながら心の準備を初めて1時間経つけど、どういうつもり?」

「待ってくれ……ほんとうにすまん……」

 

 そう、伝えると決めたんだ。伝えると決めたのに、足が竦んでしまう。いい両親だし、否定はされないと思う。確信していると言ってもいい。ただ、万が一、億が一にもVTuber活動を否定されてしまえば、俺はその時VTuber活動の方を取れるのかという不安がある。

 こんな俺を育ててくれた両親には、感謝してもしきれないくらい感謝している。思えば不義理で不出来な息子だった。学歴だけは立派だが、友人もほとんどおらず、厨二病をこじらせ、依頼のないオカルト探偵事務所を立ち上げ。安心とは程遠い息子だ。そんな俺を見守ってくれていた両親に、あろうことか隠し事。

 

 いつだって、子どもというのは親に怒られるのが怖いものだ。

 

「もう……パパさんとママさんが怒るわけ……ないじゃん」

「お前も不安がっているじゃないか!」

「だって! あの二人なら怒らないだろうなーって思ってても、客観的にみたらダメ息子だもん!」

「ぐっ……」

「私もごめんなさいした方がいいかな……。VTuberになったことが間違いだったって絶対言いたくないけど、世間から見たら公務員とかそういうのになった方が安心するし、それに佐藤さんがパパさんとママさんに隠してることも黙認しちゃったし……」

「いや、満が謝る必要はない。すべては俺が臆病だったことが原因だ」

 

 いけない。俺が実家の前でうじうじしているがばかりに、満を後ろ向きにさせてしまった。俺がしっかりしていなくてどうする。俺はただの27歳成人男性ではない。未来を担うべき満が隣にいるんだ。いつまでも情けないままでは、それこそ両親に怒られる。

 敷地内に入り、鍵を差し込む。ゆっくりと回せば、鍵の開く音が聞こえた。

 

「ただいま」

「ただいまー!」

 

 ドアを開けて中に入ると、どたどたという足音が聞こえてきた。そして、ゆっくりと歩きながら父さんが、その後ろから母さんが迎えてくれる。

 

「おかえり、たけし、満ちゃん」

「外、寒かったでしょ? あったかくしてるからおいで」

「はーい!」

「満、手洗いうがいはしっかりな」

「わかってる!」

 

 俺のよくないところが出た。両親の前だからと、しっかりした大人を演じてしまった。満はいい子だから言われなくてもわかっているというのに……。

 反省は後にしよう。両親に心配をかけるわけにはいかない。ゆっくりと靴を脱ぎ、満とともに洗面所へ行って手洗いうがい。鏡に映る母さんが、微笑ましそうに俺たちを見ているのが気恥ずかしい。あとその後ろで父さんが組んでいる腕の肘だけが見えている。気にしてくれているなら、どうせならちゃんと見てくれ。

 

 手洗いうがいを終えてリビングに入ると、母さんが俺にコーヒーを、満にココアを渡してくれる。腕を組んで待っていた父さんの前には何も置かれず、父さんがしょんぼりした。いや、まだコーヒーあるだろ。

 

「ありがと!」

「ふふ、満ちゃんほんとに可愛いわねぇ」

「えへへー。ママさん、そっち行っていい?」

「もちろん」

 

 満は両親、特に母さんに懐いている。俺は一人っ子だったし、娘のように可愛がってくれるからだろう。満の実の両親にも何度か会いに行っているが、なんというか快活で、甘やかすとは少し違う可愛がり方だからな。その点、母さんはべったべたに甘やかしてくれるから、満が懐かないわけがない。

 そして、満が母さんに甘えだすと取り残されるのが俺と父さんだ。父さんも満が可愛くて仕方がないはずなのに、「いや、年頃の娘さんにおっさんの俺が……」と遠慮していることはわかっている。その度に、俺は父さんとの血の繋がりを強く感じる。

 

「最近、どうだ」

 

 父さんがコーヒーを飲、もうとして服に零し、「もう、何やってるの」と母さんに呆れられ、汚れた服を脱がされて既に用意されていた服を着せられる。威厳たっぷりに俺の近況を聞いた父さんになんて仕打ちだ。俺もあぁなるのかと思うと、帝斗と透華に面倒を見てもらっている現状に危機感を覚える。

 

「最近は……まぁ、うまくやってるよ。帝斗と透華も、変わらず一緒にいてくれるしな」

「そうか。本当に二人には頭が上がらんな」

「たけし。透華ちゃんとは私とお父さんみたいになっちゃだめよ? 私もこの歳のお父さんを介護するなんて思ってなかったから」

「それは言わない約束だろう、母さん」

「なら言わせないで?」

「はい……」

 

 父、弱し。ぽんぽんと慰めるように叩いてくれる満がいなければ、今頃父さんは威厳とともに崩れ去っていたことだろう。

 なんてことを言いながら、昔「お父さんには私がいないとダメだと思って」と惚気てきたのを覚えている。自分の親になんてことを言うんだと言われるかもしれないが、何度も父の醜態を見てきて、なぜ母さんは父さんと結婚したんだろうという謎がその時解けた。

 

 まぁ恐らく、「私がいないとダメ」という理由以上の何かもあるのだろうが、そこは突くべきではないだろう。両親の恋愛事情など、息子である俺からすると知りたくないものだ。

 

「というか、母さん。透華とはそういうのじゃない。透華に失礼だ」

「若い頃、お父さんも私に対してそう言ってたわね」

「聞けば聞くほどおんなじだよねぇ、パパさんと佐藤さん」

「俺と同じか……。ならなんだかんだうまくいくな」

「できればなんだかんだじゃない方がいいけど、幸せに生きてくれてるなら言うことないものね」

 

 女性はいくつになっても恋バナが好きなのだろうか。俺が透華の名前を出すと、嬉しそうに突いてくる。その度に似たようなやり取りをしているのに、なぜわかってくれないのだろうか。父さんはまったく突いてくることはなく、透華ではなく「帝斗くんは大事にしろよ」としきりに言ってくる。言われなくても大事にするが、父さんにも帝斗のような人がいて、失ったことがあるのだろうかと変に勘ぐってしまう。もっともこれは俺の考えすぎで、ただ単純に大事にした方がいいから大事にした方がいいと言ってくれているだけなのだろうが。

 

 ……と、ほんわか家族空間を楽しんでいる場合じゃない。俺は今日、VTuber活動をしていることを両親に伝えにきたんだ。このままでは、居心地のよさを言い訳にして、また言えなくなってしまう。とはいえ、どうやって切り出すべきか「そういえばVTuber活動は順調?」。

 

「え?」

 

 母さんにとんでもないことを聞かれた気がして、母さんを見る。母さんは満を膝の上に乗せて、満の小さな手をにぎにぎしながら、

 

「この前、3Dお披露目やってたでしょ? 色んな人に囲まれて楽しそうだったわねぇ。私、安心しちゃった。ちょっとネジが飛んでる人が多そうだったけど、いい事務所ね」

「ま、まさか、知っていたのか……?」

「もちろん。親ですもの」

 

 ……俺は、両親のことを舐めていたようだ。子どものことならなんでもお見通しか。俺が思っているより、両親は偉大だったらしい。

 

「おい、なんの話をしている?」

 

 違った。偉大だったのは母さんだけだった。いや、父さんも偉大には違いない。両親に優劣をつけるとは何事だ!

 

「お父さん、やっぱりわかってなかったのね。ふんわり伝えたら知った風に話すから、どうせわかってないんだろうなーって思ってたけど」

「なぜはっきり言わん!」

「知ったかするのが可愛くて……」

「俺はもう50を超えているんだぞ! そんな男に可愛いなどと」

「でもパパさん。長続きする秘訣は、女性が男性を可愛いと思えるかどうからしいよ?」

「……なら、悪くない」

 

 俺は何を見せられているんだ……? 両親の仲がいいのはいいことだが、俺の見ていないところでしてほしい。が、満がにこにこしているからまぁいいだろう。自分の好きな人が仲良くしているのが好きだからな、満は。なんていい子なんだ。今度満の両親に子育ての秘訣を聞こう。俺に相手はいないが……。

 悲しいことを考える時間ではない。知ってくれていたとはいえ、黙っていたのは事実だ。謝るべきだろう。

 

「その、黙っててごめん」

「何を謝っている。別に、親子だからといって隠し事をしていけないわけではないだろう? そもそも、常に言っているがお前の人生はお前が決めろ。俺たちにとってお前はいつまでも子どもだが、お前は大人だからな。それに、人の道を外さんのなら何も言わんし、お前なら外さんと信じている」

「さっきも似たようなこと言ったけど、私たちはあなたが幸せで元気で、こうして時々顔を見せにきてくれるだけで十分なの。あなたはお父さんそっくりだから、親不孝者だとか不義理だとかそういうこと考えてるんでしょうけど、十分立派で十分いい子よ。悪い子なら、とっくにちゃんとしなさいって叱ってるんだから」

 

 ……やはり、両親は偉大だったようだ。優しい笑顔で俺を見る両親と、にまにましている満から目を逸らし、コーヒーをすすった。

 

「あと、どの子が本命?」

 

 コーヒーを噴き出した。そういうのじゃない!!!!!

 

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