稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第97話 初詣

「大凶……!!?」

「私は大吉だったから、中吉みたいなものだね!」

「いや、おみくじは大吉、吉、中吉、小吉、末吉、凶、大凶の順だから、二人で中間をとるのであれば小吉だな」

「めんどくさ……」

 

 年越しは家族で大盛り上がりし、元旦。

 大酒を食らって潰れている父親二人、その面倒を見る母親二人を置いて、俺と満は初詣に来ていた。周りを見ればやはり初詣にきている人は多く、ほとんどが家族や恋人、友人ときている。

 俺も例に漏れず、毎年初詣は帝斗と透華ときている。少し早くついてしまったため、悪いと思いながらおみくじの誘惑に抗えず、こうしておみくじを引いているというわけだ。

 

「いやしかし、俺の大凶のみを結び、満の大吉を持ちかえれば、プラスマイナスでプラスになるのではないか?」

「確かに! でも綺麗に結べる?」

「子どもじゃあるまいし、バカにするなよ!」

 

 ちぎれた。

 

「ま、まぁ、神様もおみくじをちぎっちゃったくらいで怒らないだろうし……」

「新年早々縁起の悪い……」

 

 俺の手元には、乱暴に千切られた大凶がひとつ。そういえば大凶だからとすぐに結んでしまったが、お告げを読むこともしていなかった。もう千切れてしまっているから、読むのに少し苦労する。

 待て、お告げを読まずに大凶だからという理由だけで結ぼうとした挙句、千切ってしまうというのは流石に神様も怒るんじゃないか? そのような無礼者、神様のお告げを受ける資格すらないと思われても仕方がない。第一、お告げを受け取ろうともしていなかったんだ。いくら寛容な神様であろうと、すべてを許してしまっては神様としての威厳に関わる……いや、そもそも神様に対し、俺ごときが威厳を気にするのが罰当たりなのではないか?

 

「あ、いた。あけましておめでとうございます」

「あけおめ。佐藤、満ちゃん」

「あ、透華! 西園寺さん! あけましておめでとー!」

「先輩、ボロボロになったおみくじ持って何してんスか?」

「大方、大凶を引いて結ぼうとして千切っちまって、そういえばお告げを読んでいなかったことを思い出して罰当たりなんじゃないかって考えてるってとこだろ」

 

 大方どころの騒ぎではない。なぜ俺をこうも理解してくれているんだ?

 

 が、大凶であったとしても、帝斗と透華がいるのであればめちゃくちゃ運勢が悪いというわけでも……もしや、帝斗と透華が俺の側から離れるということがありえるのか!? 大凶を引いた上、お告げも読まず千切ってしまったんだ。ありえない話ではない!

 

「ありえないっスね」

「バカなこと考えてねぇで、お参りするぞ」

 

 ありえないらしい。困ったな、父さんを見た後だと俺の心を読める帝斗と透華に甘え過ぎるわけにはいかないと思いたいが、楽すぎて甘えてしまう。

 そうだ、この一年は己を律する一年としよう。いつまでも甘えていてはいけない。俺自身が本当の意味で自立し、帝斗と透華を安心させなければ。なんだ満。同じ決意毎回してるよね、だと? だからこそ決意だと言うのだ。芯が通っているということに他ならない。

 

 お参りには列ができている。日本は宗教色が薄く、神様にお祈りする機会はほとんどないが、一年に一回は初詣という形で神様にお祈りをする。そう考えてみれば厚かましいような気もするが、それでも受け入れてくれるということは、やはり神様はお心が広い方なのだろう。もしかしたら俺もご利益を賜っていて、だからこそこうして人生なんとかなっているのかもしれんしな。

 

「お参りって、口に出さない方がいいんだっけ?」

「逆だ、出した方がいい。名も名乗らず、願い事を秘めているだけで叶えてもらおうというのは都合がよすぎるだろう。いやしかし、年に一回くるだけなのに願い事を言うというのも、作法がしっかりしていようと都合がよすぎるのでは……?」

「なら感謝だけ伝えさせてもらえばいいだろ。去年はありがとうございましたって」

「ちなみに毎年悩んでるっスよ、それ」

 

 どうやら俺は進歩がない人間らしい。先ほど満にした言い訳は撤回しようと思う。

 そういえば、毎年参拝の列に並んでから悩み始め、同じことを帝斗に言われ、毎年感謝だけを告げていた。であれば、今年もそうするべきだろう。そもそも、俺は何かを神様に叶えてもらえるほどできた人間ではない。まずは自分の力のみで這い上がり、どうしてもという時に願い事をするべきだ。神頼みとは、努力し、精進を続ける人間にのみ許された特権だ。

 

 やがて、俺たちの順番が回ってくる。お賽銭を静かに入れて鈴を鳴らし、二礼二拍手の後、自身の名と感謝を告げて一礼。心が洗われたような気分だ。毎年のことだが、この時から新たな一年が始まったことを実感する。

 

「何かお願い事をしたのか?」

「私は佐藤さんの健康と無事!」

「俺も」

「私も」

「願い事まで介護されるのか……」

 

 満は俺の健康=自分の健康だからまだわかるが、帝斗と透華まで……もっと自分のことを考えてもいいのに。確実に俺より幸せになる権利と資格がある。というか初詣で人の健康と無事を祈る者が、幸せにならなくていい理由がない。

 ……そうか、三人が俺の健康と無事を願ってくれたのなら、俺が三人を幸せにすればいいだけの話! ギブアンドテイクというやつだ。それに、俺自身の幸せも、三人が幸せであることと同義!

 

「ありがとう。必ず俺が幸せにする」

「たけちーが幸せにしてくれると聞いて」

「ワタシも♡」

 

 俺の両肩に手が置かれ、驚きのあまり叫びそうになるが神様の前だと慌てて口を抑える。そうしてから振り向けば、マリーと聖麗がいた。マリーは頬を染めてもじもじしており、聖麗も頬を染めてもじもじしている。マリーはともかく聖麗はやめろ!! 気持ちが悪い!!

 

「あけましておめでとー」

「あけましておめでとうございます。西園寺さんと羽崎さんははじめまして。ワタシ、陰陽師の(くるわ)と申します」

「あ、そっか。私は芹沢(せりざわ)(ゆき)。よろしく」

 

 言われて気づく。そういえば、ここは人目があるからVTuberの名前で呼ぶわけにはいかないのか。あと聖麗は郭って苗字だけか? それとも名前がそれだけなのか? 現代日本において珍しいにもほどがあるが、聖麗であれば何があってもおかしくない。それか、陰陽師がそういう決まりでもあるのかもしれんしな。

 しかし、マリー……芹沢は振袖で、郭は袴か。二人ともよく似合っている。透華も初めの方は振袖だったがあるときから着なくなって、残念に思って聞いてみれば「先輩と一緒にいると浮くんスよね」と思いきり刺された。俺がだらしなくでごめん……。

 

「そ、それで、幸せにしてくれるっていうのは……期待していいのかな?」

「違う! 幸せにするというのは満と帝斗と透華に言ったんだ!」

「幸せにしてくれないんだ……」

「い、いや、幸せにできるものならしたいが」

「私、準備できてます」

「いやだから芹沢が期待しているような意味での幸せではなく」

「ワタシも♡」

「お前は黙っていろ!!」

 

 ええい、くねくねしながら近寄ってくるな!! お前デカいから怖いんだよ!! わかるか、袴を着た大男にくねくねしながら近寄られる恐怖が!! わからないだろうな、お前自身がやっているんだから!

 郭を押しのけて、深呼吸して息を整える。ちなみに透華は芹沢を見て少し面白くなさそうにしていて、帝斗は俺をキャッチボールに誘うタイミングを伺っていた。なるほど、そういう状況か。

 

「芹沢さん。ちょっと話さない?」

「いいよー。ちょっとあっち行こっか」

「て、帝斗!」

「キャッチボールか!?」

「違う! なんとかして止めてくれと助けを求めたんだ!」

「アナタが止めるべきでは?」

「貴様に言われる正論が一番腹が立つ……!」

 

 わちゃわちゃしている間に、透華と芹沢は二人でどこかに行ってしまった。あぁなってしまっては、男に入る隙などない。申し訳なく思いながら満を見れば、胸をどん、と叩いた。

 

「妙な空気を明るくするのは得意だから、任せて!」

「すまん、苦労をかける。ちなみに、得意になった理由はもしかして俺か?」

「あはは」

 

 愛想笑いをかまし、満は二人のところへと走っていった。満が俺に、愛想笑い……!!

 いや、愛想笑いをさせる方が悪い。聞いてはみたが俺が原因であることは俺自身も確信している。生活どころか、配信中でも変な空気をどうにかしてもらった経験が数えきれないほどあるからな。

 ……満にも休暇をやるべきか? 俺に構わなくていい一日というものを設けるべきかもしれん。

 

「まぁまぁそう気を落とさず。ここは男同士でしかできない話でもして盛り上がりましょう」

「男同士でしかできない話……? すまんが、性的な話はあまり得意ではない」

「そうですか。それでは、西園寺さんに今まさに憑りつこうとしているオカマの幽霊についてはどうでしょう」

「嘘ォ!? そんなことなってんの!?」

 

 慌てて帝斗を見ると、帝斗の真上。そこに、筋骨隆々で濃い青髭の、とても口には出したくない服装のオカマの幽霊がいた。あんな漫画に出てくるタイプのオカマがまだ日本に存在していたのか!?

 

《あら、バレちゃった。せっかく憑りついて貪りつくし、性欲の限りを尽くそうと思っていたのに!》

「マズい! 帝斗、落ち着いて聞け! お前はこのままだと、憑りつかれて貪りつくされ、性欲の限りを尽くされる!」

「本当にどうにかしてくれ! 頼む!」

「いやァ、ですがまだ悪霊ではないんですよねぇ。信じられないことに」

「アレが悪ではない……!?」

《当たり前よ! アタシは純粋にその子が気に入ってるだけだもの! 人の恋心を悪だなんて失礼しちゃうわ!》

「た、確かに……! 申し訳ございませんでした。軽率な発言でした」

「何言ってるかわかんねぇけど、何言い負かされてんだよ!」

 

 し、しかし! 確かにオカマさんが帝斗のことが好きだというのは俺に止める権利はない! 誰かが誰かを好きになるのは自由で、強い気持ちとは抑えられないものだろう!? 俺は間違っていない!

 が、このままだと帝斗が憑りつかれ貪りつくされ、性欲の限りを尽くされてしまう。悪霊ではないとはいえ、それだけは何としてでも阻止しなければならない。

 

「郭。何かいい案はないか?」

「一番楽なのは、貪りつくしている間に気持ちが増大し、悪霊となってくれることですかね」

「おい。詳しくねぇけど生贄にしようとしてんのはわかるぞ」

「クッ、しかし、こちらの事情で悪霊にさせるというのは自分勝手すぎないか……!?」

《ぐっ、この気持ち……抑えられない……!!》

「順調に悪霊化しようとしていますよ」

「帝斗、なんて罪深い男なんだ……」

「知らねぇよ……」

 

 悪霊とは、自我を失い、人に害をなす霊のことを指す。今のオカマさんは、帝斗に対する気持ちが抑えきれずに増大し、悪霊になろうとしているということだ。クソッ、どうにかできないのか!? ただ人を好きになっただけだというのに、それだけで除霊されるというのはあまりにも理不尽すぎる!

 

「帝斗! どうにかできないか!?」

「どうにかできるとしたら二人の方だろ!」

「いえ、西園寺さん。アナタは男として決断しなければなりません」

「何をだよ!」

「あの人の気持ちに応えるか、応えないかだ! なぜその程度のこともわからん! 見損なったぞ!」

「いきなり見損なわれる俺の気持ちにもなれよ!」

《アタシ、どうなっちゃうの……!?》

「そのままであれば、悪霊となり、ワタシの除霊対象となります」

《悔いはないわ!》

 

 理性を本能が上回ったオカマさんを中心に黒い瘴気が渦巻いて、その瞬間郭の手から絶大な力が放たれ、除霊が完了した。え!?? 悪霊化のシーンは!!? もう少し待ってあげてもよかったんじゃないか!? 見たことあるか、変身シーンで変身が終わる前に攻撃される場面!

 

「ふぅ、これで安心ですね」

「え、もう終わったのか?」

「あぁ……クソッ、俺にもっと力があれば……!」

「結局なんだったんだ……?」

 

 きっと、俺にもっと成長しろという神様からのお告げだろう。除霊されてしまったオカマさんに手を合わせ、新たな一年に、新たな決意が添えられた。

 

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