東京都立呪術高等専門学校たいやき   作:神楽天狗

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 前回からかなり間が空いてしまいました……(汗)
 いきなり猪野くんにそこそこの洗礼を浴びせてしまった上にオリキャラ過多ですが、楽しく読んで戴ければ幸いです。


猪野琢真、高専入学

 

 二〇一二年四月某日、十五歳の猪野琢磨は東京都立呪術高等専門学校ーー通称、高専東京校に入学した。

 

 彼の実家、猪野家はそこそこ優秀な術師を輩出している歴とした術師の家系であった為、当然のように高専への入学が決まっていた。

 

 猪野は“来訪瑞獣”という自らを霊媒として霊獣の力を行使出来るという優れた術式を持っており、入学前から家族や繋がりのある呪術師と共に呪霊を祓った経験もあった。

 

 なので、入学が決まった時点で猪野の階級はまだ三級ではあったが、周囲の大人達からは、準二級への声掛けも間近だと噂されており、その事が猪野にとって大きな自信になっていた。

 

 つまり、この時の猪野はちょっと天狗になっていたのである。

 

「今年は四人と例年より少し多めらしいな……ま、それでも俺が一番だろうけど」

 

 そう独り言を言って、誰に見せる訳でもなくドヤ顔を浮かべる猪野は用務員に案内されて体育館へと足を踏み入れた。

 

 自分こそが主人公だと言わんばかりの自信を胸に突き進む、猪野は横目にチラリと自分以外の入学生を見た。

 

 その時、猪野は初めて同級生達を目撃したのだが、一目見て先ず思ったのがーー。

 

 キャラ濃いな、おい!

 

 その一言だった。

 

 先ずスゲー美人が二人(後に一人が男だと知って更に驚いた)もいた。

 

 そして、三人目は雰囲気からして“俺、エリートですが何か?”な感じの奴だった。

 

 あれ、俺が一番地味じゃね?

 

 同級生達が纏っているオーラが明らかに只者ではない。

 出会い頭に負けた気分になってしまった猪野は、心の中で少し凹んだ。

 

 …………ま、術師は外見じゃなくて実力だしな!

 

 俺の活躍はこれから始まるんだ!!

 

 そう思い直した猪野は、大きな声で“やってやるぞー!”と叫んだが、それが学長の夜蛾正道が話している最中だった為、それに気付いた途端に、夜蛾からの説教が始まった。

 

 しかも、美人な同級生二人からの忍び笑いをする声と、残り一人からの見下げられた視線を送られるという屈辱的なオプション付きで。

 

 こうして、猪野は入学早々にちょっと折れそうになった自尊心を奮い立たせたのだった。

 

   ※

 

「今日からぁ、君達の担任になる小倉鶯だよぉ。よろしくねぇ」

 

 語尾がのんびりと間延びした独特の口調で喋るのは、黒い眼帯で右目を覆った背の高い女だった。

 

 小豆色の髪を後ろでお団子風に結い上げ、パンツスタイルの黒いスーツを着ており、少し垂れている左の目は、翡翠のように澄んだ緑色をしていた。

 

 彼女の名前を猪野は少しだけ聞いた事があった。

 準一級の呪術師の中でも、かなり腕の立つ優秀な術師だという噂。

 

「あぁ、フレンドリーな感じでぇ、ウグちゃんって呼んでもいいよぉ?」

 

 しかし、目の前でニコニコしながら砕け過ぎなくらい緩い雰囲気を醸している彼女が、そんな凄腕とは些か信じられなかった。

 

「じゃあ、次はみんなの自己紹介ぃ、お願いねぇ」

 

 こうして、次は俺達が自己紹介をする番になった。

 

 そして、そのトップバッターは、俺だった。

 

 よし、此処で一発、猪野家の超新星にして呪術界の期待の星(自称)である、俺の存在をバシッと印象付けてやるか!

 

 そんな気持ちで意気揚々といった感じで、猪野は黒板を背景に直立し、深呼吸を一つすると声を張り上げた。

 

「俺、猪野琢真……」

 

「やっほー、ウグちゃん! 今年の新入生はどう?」

 

 突然、ガラガラッと戸を引く音と共に、楽し気な男の声が教室内に響いた。

 

 そのせいで、やる気でいっぱいだった猪野の自己紹介は遮られてしまい、締まりを無くしてガクッと姿勢を崩してしまった。

 

「誰だよっ!? これから自己紹介するってのに……」

 

 猪野の不満の言葉は、教室に入って来た人物の姿を目にした途端に引っ込んでしまった。

 

「あ、ごめんねー」

 

 軽い口調で謝罪の言葉を口にしたのは、目を覆い隠すように包帯を顔に巻いた、長身の若い男だった。

 

 その男の事を、この場にいる全員が知っていた。

 

「あぁ、五条くんだぁ。どうかしたのぉ?」

 

 鶯が男の名前を口にした事で、猪野達は教室に現れた男が間違いなく、本物の“五条悟”である事を理解した。

 

 五条悟。

 

 呪術師の世界で彼の名を知らぬ者はいない、世界に数える程もいない特級呪術師の一人にして現代最強の呪術師。

 

 生きる伝説といっても過言ではない、そんな超大物人物の突然の登場。

 

 しかし、鶯は猪野達と殆ど変わらない態度で五条に察していた。

 

 あの五条悟と仲が良いのか、と猪野の中で鶯に対する評価がグンッと上がった。

 

 だが、それよりも驚く事がすぐに起きた。

 

「悟ー、ちゃんと入学したよー」

 

 なんと、同級生の一人が五条の名前を呼び捨てにしたからだ。

 その同級生は、気怠そうな雰囲気を纏った美少女だった。

 

「あ、出海! ちゃんと入学出来たんだねー」

「入学するように誘ったのは悟でしょ? もう決まってると思ったら、普通に試験と面接があって疲れたよ」

 

 少し頬を膨らませた出海に対して、入学出来るかは最終的に学長の判断で決まるからね、と悪びれる様子もなく五条は答えた。

 

「いやー、良かった良かった……ところで、君はなんて名前?」

 

 同級生の紅一点である出海に話し掛けていた五条は、急に猪野の方へ顔を向けて尋ねてきた。

 

「え? お、俺? い、猪野琢真です!」

「うんうん、よろしくねー」

 

 猪野の名前を聞いた五条は、アッサリと返事をすると、残る二人の方へと声を掛けていた。

 

 しまった、気を取られて雑な自己紹介しちまった!

 

 しっかりアピールする事を忘れていた事に気付いたものの、すでに時遅く、五条の関心は完全に猪野から外れてしまっていた。

 

「郡夜刀彦、階級は準二級です。五条特級術師殿、お会い出来た事を光栄に思います」

 

 すでにエリートっぽい奴が恭しい態度で自己紹介をしており、五条は、そんな堅苦しいのはいいよー、と手をヒラヒラと振りながら言っていた。

 

 ていうか、あいつ準二級って俺よりも上じゃん。

 

「じゃあ、君は?」

「姫宮京雅です。初めまして、五条先輩」

 

 最後の一人が艶っぽく不敵な笑みを浮かべながら、五条に挨拶をすると、五条は、ああ、と何かを思い出したように右の拳で左の掌を軽く叩いた。

 

「君が姫宮家の子か。将来有望だって噂聞いてるよ」

「そりゃどうも」

 

 そして、あいつは結構有名だったらしい。

 

 そういえば、姫宮っていう苗字には聞き覚えがあったな、と此処にきて猪野は思い出した。

 

 五条悟からのスカウト、階級が上、将来有望株……。

 

 スタート地点でかなりの開きがある実情に、猪野の天狗の鼻はすでに折れていた。

 

 そんな猪野の心情などを無視して、五条は何かを考えるような素振りを見せていた。

 

「たくま、いずみ、やとひこ、きょうが……じゃあ、四人合わせて“たいやき”ね!」

 

 ……どうやら、呑気に猪野達のまとめた呼び方を考えていたらしい。

 

 これが、猪野琢真と五条悟の出会いだった。





 最後まで読んで戴けましたら、心より嬉しい限りです。
 次回は猪野くんとオリキャラ達を交えて任務編へと突入させる予定ですので、またしばらくお待たせしてしまうかもしれませんが、頑張って書いていきます。

 ちなみに余談なのですが、教師に関しては結構悩んだりしました。
 当初は五条先生を担任にするつもりだったんですが、調べたら原作での猪野くんと五条先生って繋がり薄そうで、それを知ると五条先生と猪野くんの師弟関係が想像し難くなり、日下部さんだと違和感ないけど、そもそもにわかの自分が日下部さんの事をあまり知らない上に、何となくもうこの時点で二年の方の担任してそうだなと思い、熟考の末に無難なオリキャラになりました(苦笑)
 ちなみに名前の由来は、たい焼きの中身というか餡子です(笑)
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