三話目、いよいよ猪野くんとオリキャラ達の戦闘シーンを書いてみました!
少しでも、呪術廻戦の雰囲気を出しつつ、読者の方々を楽しませる事が出来ますように!
北関東の山岳部某所にある廃トンネル。
今から二十年ほど前に、居眠り運転をした乗用車と危険運転をしていたバイクがトンネル内で衝突した事が原因で他の車を巻き込み、死者数が十を超える大惨事が発生した。
その日を境に、そのトンネルでは事故が多発するようになり、これは事故死した者達の祟りだと恐れる周辺住民達の声は日に日に大きくなっていった。
この事態を重く見た役所は、やむなしとしてトンネルを閉鎖する事にした。
以来、このトンネルに近付く者はいなくなり、永らく放置されていた。
※
「そこに怪談マニアを自称する大学生三人が侵入し、内二人が呪殺されたというのが今回の概要です」
「残りの一人はどうなったんすか?」
車の後部座席に座っていた猪野は、車を運転しながら淀みなく説明する補助監督に尋ねた。
「一命は取り止めていましたが、両脚が大型トラックに轢かれたように潰されていて、精神はすでに廃人状態で殆ど口も聞けない状態でした。経緯が判明したのは、問題の廃トンネルに行く事を大学の友人数名に話していたからです」
「呪霊の存在が秘匿されている以上、この手の馬鹿は何時になっても減らないな」
「呪霊は見えない人の方が多いからねぇ。呪術師の長年の悩みだよぉ」
猪野の隣で辛辣な言葉を放つ郡に、助手席に座っている鶯は相変わらず少し間延びした緊張感のない口調で返事をした。
猪野達が向かっているのは、当然その廃トンネル。
廃トンネルに巣食う呪霊を祓う、それが高専入学初の猪野の任務だ。
その同行者に担任の小倉鶯と同級生の郡夜刀彦が選ばれた。
呪術界の首脳陣である総監部からのお達しによると、今回の被害や残穢から察するに呪霊の強さは二級相当だと想定される為、準二級術師の郡夜刀彦と三級術師の猪野琢真の二名が妥当だと判断される。
しかし、まだ不確定要素が多い事や猪野達がまだ二級以下である点を考慮し、準一級術師である小倉鶯の同行を認める、というものだった。
こうして、猪野達と補助監督の今川判を含めた四人構成で、呪霊を祓いに行く手筈となった。
「やっぱり此処は事前に情報共有しておいた方がいいよな? 郡の術式って何なんだ?」
味方の術式を知っておかなければ、連携を取るどころか互いに妨害し合う事態になりかねない。
「そうですね、僕の術式は……」
※
しばらくして、猪野達を乗せた車は問題の廃トンネルに到着した。
禍々しい気配が漂い、入り口からほんの先すらも全く見通せない暗黒が巣食う、古びたコンクリートのトンネルだった。
「着いたねぇ、やっぱり放置されていた期間が長い分、呪霊も溜まっていそうだねぇ」
車から降りた鶯は、憂いを帯びた表情で、何処までも真っ暗な廃トンネルをじぃっと凝視した。
「呪霊はこのトンネルから出てこない為、トンネルに入らなければ被害はありません。早々に閉鎖された事と派遣出来る術師の確保が難しかった事から、無期限での放置という状況になってしまっていたようです」
「それで、新しい戦力になる俺達が高専に入学したし、新しい被害者が出ちまったから、いい加減派遣して祓おうって事になった訳か」
資料を読みながら、説明をする今川の言葉をやる気満々な様子の猪野が引き継いだ。
「それでは、帳を下ろします」
今川はそう言うと、中指と人差し指を合わせて立てた。
『闇より出でて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え』
今川が詠唱を会えると、空中から墨を流したように暗黒がゆっくりと降り注ぎ、猪野達を中心に一帯を包み込んだ。
“帳”
呪術の基礎の一つとも言える、初歩的な結界術の一つである。
「完了しました。皆様、どうかご武運を」
今川の言葉を聞き、やる気に漲っていた猪野は、よっしゃあ、と意気込んだ。
入学式ではキャラ負けし、自己紹介では五条悟の乱入でおざなりになったりと、イマイチ見せ場に恵まれなかった事もあり、必要以上に張り切っていた。
「猪野、油断するなよ」
「うんうん、気を付けながら頑張ろうねぇ」
熱くなる猪野とは対照的に、郡は冷静な態度を崩さず、鶯も相変わらずのんびりとした雰囲気を纏ったままだ。
その熱量の違いからか、廃トンネルの中へと一番に足を踏み入れたのは、猪野だった。
トンネルの闇に爪先が触れた瞬間、先程まで感じなかった寒気と空気の澱みを猪野は感じた。
予想以上に濃密な呪いが充満している。
嫌な空気してやがるぜ。
本能的な嫌悪を覚えて顔を顰める。
その直後だった。
いだいよぉぉおおお……。
う、うで、うでうでうでうでうでうでうでうでうでぇ、うでどごぉぉぉぉおおお?
おがぁあざぁぁああんんんん!
身体中に痛々しいタイヤの跡が刻まれた、苦悶の表情を浮かべた顔が浮かぶ大小様々な肉片が、無理矢理絞り出したような低い声で苦痛の言葉を喚き散らしている。
出たなっ!
呪霊の存在を確認した猪野は、懐から髑髏を模した白い仮面を取り出した。
猪野が素早くその面を着けると、直後に彼の身体から呪力が迸り始めた。
「おしっ、それじゃあ一丁やってやるか!」
「猪野、勝手に突っ走るな」
先頭に立つ猪野に遅れまいと、郡も身体に呪力を漲らせて臨戦態勢に入る。
郡は普段から高専の制服の他に学帽を被り、大きめに黒い外套を羽織っている。
そこまでしっかりと着込むのは几帳面な性格によるものもあるが、外套まで羽織るのには理由があった。
それは、外套に下に日本刀の呪具を隠し持っているからに他ならない。
腰の左右に一本ずつ、更に外套の裏側には六本もの刀が縫い付けられていた。
「術式開放――【七使刀】」
郡の声を合図に、右側の腰に差した刀と外套の裏に隠されていた全ての刀が浮かび上がり、鞘から抜け出して鋭い刀身を露わにした。
合計七本の刀が空中に浮かび、切っ先をトンネルに巣食う呪霊達へと向けた。
※
「僕の術式は“付喪操術”です。その力で最大七本まで刀を自由自在に操れます」
郡は淡々とした口調で言った。
“付喪操術”は呪力を込めた道具を生き物のように操る術式。
郡の一族は代々刀を扱う術師が多く輩出しており、彼が刀を武器に選んだのは必然の流れとも言える。
「刀を七本? 常備してんのか?」
猪野の問いに対し、郡は当然だという表情で外套の端をを捲り、腰に差した一振りと外套に忍ばせている三本を見せた。
「……それって重いんじゃね? 動き難くねぇの?」
「僕達、郡の一族は鍛え方が違いますので」
これまた、さも当然と言わんばかりの態度で淡々と返してきた郡に答えに、猪野は感心するようなイラっとするような微妙な気持ちになった。
「郡家の術師は刀剣類の呪具の扱いに長けているんだよねぇ? 一度に七つも呪具を操れるなんて本当に凄いよぉ」
鶯も相変わらずのんびりとした調子で、郡の事を子供のように褒めていた。
※
い、いいいいいいいいいいいい、いだああああああああああああああ!!
猪野達の存在に気付いた呪霊達が、ゾッとするような声を上げて一斉に襲い掛かる。
しかし、呪霊との戦闘を入学前から経験している猪野は、怯まずに立ち向かっていく。
「二番【霊亀】」
そう言った猪野の身体から水のような呪力が溢れ出し、それが足元に集まると猪野はまるでスケートをするように地面を滑走した。
素早く、軽やかになった猪野は呪霊との距離を一気に縮め、呪力を込めた拳を無防備なボディにめり込ませた。
ぶぎゅう、と踏み潰された蛙のような気味の悪い声を上げて、呪霊の身体は破裂した。
「先ず一体!」
次々と押し寄せてくる呪霊を猪野は間髪入れず祓っていく。
「二体! 三体!! 四体!!!」
すると、今度は先程までとは明らかに強さが違う、巨大な肉片の呪霊が大きな口を開けて迫って来た。
「コイツは素手じゃ厳しいな……一番【獬豸】」
両手を前に突き出した猪野の前に、先の鋭く尖った一本の角が召喚された。
現れた角はドリルのように勢いよく高速回転をすると、目の前から迫る呪霊に向かって発射された。
ぐぶぅっ!!
【獬豸】の角に胴体を貫かれた呪霊は、短く気味の悪い悲鳴を上げて飛散した。
「はっ! 楽勝だぜ!」
猪野は仮面の下で余裕の笑みを浮かべ、小さくガッツポーズを取った。
呪術師にとって、そんな一瞬の隙が命取りとなる事がある。
ああぁん!!
術式で吹き飛ばした巨大な呪霊の背後に、もう一体呪霊が隠れていた事に猪野は気付かなかった。
ほぼ口だけのような姿の呪霊が歯を剥き出しにして、猪野を飲み込もうと迫って来た。
やばいっ!!
迫る呪霊の存在に遅れて気付き、慌てて【霊亀】の力で滑走を始めるが間に合いそうにない。
命は落とさずに済んでも、腕か足の一つは奪われる。
「“斬雨”」
重傷を負う事を覚悟した猪野の目の前で、大口を開けていた呪霊が頭上から勢いよく降って来た七本の刀によって串刺しにされた。
「“七刃回天”」
呪霊を串刺しにして祓った刀は、そのまま宙に浮くと柄同士を重なり合わせ、まるで巨大な回転鋸のように円形に高速回転を始めた。
そのまま、風を切る音と共に近くにいる呪霊達を次々と斬り裂いていく。
「油断をするな」
「お、おう!」
郡に助けられた猪野は、そのまま礼を言う暇もなく次々とやってくる呪霊を迎え撃っていった。
すると、郡の背後から一気に距離を詰めてくる呪霊の存在に猪野は気付き、助けられた借りを返そうと【獬豸】を放つ構えを取った。
「郡! 伏せろ!!」
しかしーー。
「問題ない……シン・陰流、簡易領域“抜刀”」
唯一腰に差したままだったら刀を手に構えると同時に、郡を中心にして2m弱の領域が一気に広がる。
領域の中に入り込んだ呪霊は、その瞬間に目にも止まらぬ速さで一閃した郡の太刀筋によって、瞬く間に祓われた。
こいつ、マジで強ぇっ!
猪野は途中で止めてしまっていた【獬豸】を近付く呪霊に放つと、すぐに他の呪霊への攻撃を再開した。
猪野の頭の中は、すでに自分の上をいっている同期に対して負けられないという焦燥に似た感情で満たされていた。
郡もまた、残っている呪霊が三級程度の雑魚が数体残っているだけの状況に自分達の勝利を確信していた。
焦りと慢心、それによって生まれたのが油断。
故に二人は、突如大地から迸ってきた強大な呪力に対して、驚いて何も出来なかった。
初の戦闘シーン描写でしたが、少しでも楽しんで貰えますようにと願っています(苦笑)
ちなみに、猪野くんの変身アイテムが目出し帽ではないのは、五条先生が六眼を隠しているのがサングラス→包帯→黒いバンダナといった具合に猪野くんも昔は違っていたりしそうだなという考えからです。
次回はウグちゃんの戦闘シーンを良い感じで書けたら良いな。