TS司祭とカス聖騎士 〜〜〜カスよ、龍に届いているか   作:マンコションベ

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前話の魔除けの効果説明に持ち主を不滅の存在にする効果、転移魔術を習得させる効果を追加しました。


刎頸領域

 今日も今日とて迷宮一層に潜る。

 

 おれはいつもは潜る際に杖と地図だけ持って潜るのだが今日は完全に手ぶらだ

 

 迷宮に向かう際に会ったスラム街の子供にいつも使っている杖をねだられて渡してしまったのだ。なんでもその子が世話になっているおじいさんがフラフラで危なっかしいから杖を上げたいとのことだ。

 

 今思えばフレッドに買ってもらった装備をあっさりと誰かに譲ってしまったのは失敗だった、パーティーメンバーに迷惑がかかる。

 

 ただぶっちゃけた話になるが極論スペルユーザーに杖はいらないのだ。よっぽど高ランクのマジックアイテムでも無い杖の有無は限り魔術の行使、及びに効果に一切影響しない。

 

 じゃあなぜ魔術師が杖を持っているのかと言うと理由は三つ、一つ目は大陸最強のスペルユーザー、黒白問わず全7位階のあらゆる魔術を使いこなす【賢者】ワードナが杖を持っているため強い魔術師=杖を持つというイメージが定着しているから。

 

 おれも一度ワードナの手配書を見たが立派な髭と杖を持った齢100歳は超えていそうなおじいさんは御伽話の英雄の様な強烈な威厳を放っていた。魔術師とはこういうものだという強烈なイメージを脳にねじこまれるほどにその姿はさまになっていた。

 

 二つ目はボルタック商会の暗躍

 

 あのアホのボルタックが杖には魔術を強化する効果があるだの適当なデマ流しているためこの街へたどり着いた冒険者成り立て―通称ノービス―は真に受けて杖を持って迷宮に潜ってる。

 一つ目の理由に繋がるがワードナを例に出して強力な魔術師はみんな杖持ちだとか言って杖を押し売りしているのだ。

 

 そして三つ目、これが最も重要な理由なのだが単純に前衛に比べて体力の劣る魔術師が、体力の劣る後衛が前衛と足並みを揃える為には杖が必要なのだ。

 

 地球の話になってしまうが性別間の戦闘力と腕力の差なんて銃持ってりゃ簡単に埋められるのにも関わらず軍隊で何故女性が採用されないと思う? 単純に体力が無くて足並みを揃えられないからだ。

 

 そしてそれは現在女になっているおれにも当てはまる。

 

 魔術行使には糞の役にも立たない杖だが地球にも存在していない材料でできているのか信じられない程軽くそれなりに硬い。これを突きながら移動するだけでかなり体力が節約できる。もっとも化け物みたいな身体能力を持つ前衛二人についていく内にどうしても体力が切れてしまうが。

 

 二人の足手まといにならないようにおれは毎日2時間走り込みをしているが一朝一夕には体力は身につかない。

 

 そもそも俺は家族が死んでからずっと体を鍛えて来たが生まれ持った虚弱体質のお陰で全然運動能力が上がらない。おまけに諸事情により肉が食えないので体も作れない。今まではそんな欠点天賦の美貌の前では屁でもなかったがこの状況ではそうも言っていられない。

 

 そして杖ありでも体力の問題は深刻だったのに今日は杖なしだ。

 

 

 疲れた、辛い、吐きそう、内臓が痛い。

 みぞおちにボディーブローを叩き込まれた時の記憶が蘇る。

 吐き気と体の芯まで響く様な痛みがおれの心を折ろうとしてくる。

 

 見るに見かねたのかフレッドがスタスタとよってきておれに大丈夫かと声をかけてくる。

 

「ふひ、げほっ、おれは、おえっふひゅうだいじょ……ぶひええっ」

 

「……死にかけの金魚見てえな顔して言っても説得力ねえし倒れられても逆に迷惑なんだ。ちょっと休もうぜ」

 

 20分程の小休止を取った後もフレッドの方は相当気を使ってくれているのかあの身体能力からは考えられない程ゆっくり進んでくれているが問題は……

 

 配慮なんか知った事無いとばかりにすごい速さでずんずん先に行ったユカリだ

 

「遅いよ! フレッドさん! エフィミアちゃん! フレッドさんは偉そうにユカリさんに命令してくるくせに私より足遅いんだから今度から私に敬語を使ってね! 

 エフィミアちゃんは胸にそんな無駄にでっかいもんぶら下げてるからそんなに体力ないんだよ! 舐めてんの?! ああ、ユカリさんはちょっとばかりスレンダーな体型で良かったー!!」

 

 平常運転のユカリのセリフを聞いてフレッドのこめかみに青筋がたった、やっば、漫画的表現かと思ったけどマジで青筋って立つんだな

 

「………………エフィ、近くに魔物の気配は?」

「ん? 何で? 無いよ」

「サンキュー、ちょっとあの馬鹿に説教してくる」

 

 ぬるりと風の様にフレッドが動いてユカリに接近する。

 危機を感知したのかユカリが物凄い勢いで逃げようとするが首根っこを掴まれおれから見て死角となる通路に引きずり込まれた。

 

 直後ドンッと音が響いた。

 

 は? 殴った? 

 あいつ迷宮探索中ずっとユカリにキレながらも暴力だけは絶対に振るわなかったのに! 

 

「フレッド! 俺は怒って無いからユカリを……」そう言って駆け出して通路に入るとそこにいたのは壁ドンの体勢で固まった銀髪の青年と恐怖のあまりに漏らした紫髪の少女だった。

 

 その後必死でフレッドと漏らしたユカリを仲裁していった。

 

 フレッドの方は「すまん、やり過ぎた。そんな漏らす程脅すつもりは…これ加害者が言っちゃダメな奴だな、改めてすまなかった」と深々とユカリに頭を下げた

 

 ユカリの方は仲裁が終わった途端

「ありがとー! エフィミアちゃん好き好き!」

 と言いながらおれに抱きついて頬を擦り付けてきたかと思うとおれの後ろに隠れフレッドに向けてあっかんべーをしている。

 

 このオリハルコンメンタルは見習いたいものがある。本当こいつ無敵かよ。

 

 ■□■□

 

 本来冒険者のパーティーは前衛をやれる人間を3人以上入れて組むのが定石とされている。

 

 理由は簡単、敵が後衛に向かうのをブロックするために必要な前衛の最低数が3人だからだ。

 

 一応狭い通路等の閉所で戦闘する場合はそれ以下の人数でも後衛に敵が向かうのを防げたりするがあまり根本的な解決法ではない。

 

 今回っているルートは細い通路のみを通るよう眼の前を歩く銀髪が厳選しているため前衛二人―聖騎士と忍者―でもブロックしきるるがこれから下層に向かうにつれどうしてももう一人前衛を入れる必要が出てくるだろう、おれの身の安全の為に。

 

 そう思っているとユカリが叫んだ

 

「前方2時の方向! 敵はオーク7体!」

「発見ご苦労! 俺はブロックしかしねえからお前らでなんとかしろ!」

 

 敵の数が多い、躊躇う事無く睡眠魔術を詠唱する。

 

 現状7回しかない睡眠魔術の使用回数をもう5回も消費しているが実戦でも出し惜しみしていたら間違いなく死ぬ。使わなくて良い時に使わないのが一番重要だが使わないといけない時に使うのもまた重要なのだ。

 

 ユカリが走る、おれは睡眠魔術を発動させる。低層において猛威を振るう毒霧が振りまかれるが不運な事に眠らせられたオークは7体中3体だけだった。

 

 毒霧の中兎の様に跳躍したユカリも斬撃を放つ

 

 オークは睡眠魔術を食らった仲間を盾にしてユカリの斬撃を受け止めた。睡眠魔術を食らった対象等どうせ死ぬのだから有効活用してやろうという魂胆だろう。

 

 ユカリの斬撃が盾にされたオークの首筋に吸い付くように命中した。

 

 その途端盾オークの首が宙を舞った。

 

 言い忘れていたが盗賊及び忍者の専用能力には【領域】と言うものがある。

 

 迷宮への順応が進んだことで人外の領域まで強化された五感を戦闘に応用する特殊技術。

 

 研ぎ澄まされた、体外どころか非接触のものまで触ったように感じる拡張された触覚を活かして、レントゲンの様に範囲内に入ったモノ全てを解析し肉体の耐久力の低い所、破壊されると致命的な箇所を探知して急所を導き出す超人的技能だ。

 

 解析さえできてしまえば後は脆いところをなぞるようにして剣を動かすだけで相手は死ぬ。

 

 要はジェネリック直◯の魔眼。

 

 これを発動し急所を見破り死のラインをなぞった事によって見事にオークの首は宙を舞ったわけだ。

 

 これこそが忍者のクラスに就いた者に許された文字通りの()()技、首刎ね(クリティカルヒット)

 

 耐久力を無視した即死攻撃だ。

 

 しかし仲間を盾にして即死攻撃を防いだオークの棍棒での攻撃がユカリに迫る。彼女は剣でその一撃を防いだものの剣が弾かれユカリは無手となってしまう。

 

 まずい、援護しないと! そう思いおれが魔力を練って【睡眠魔術】を打ち込もうとした瞬間オークの首が飛んだ。

 

 その前には手刀を振りかぶった体勢のユカリがいた。

 

 すっげえ! 

 

 素手でも首刎ねを繰り出せるのか! 

 

 その技量も、失われた剣に執着すること無く最適行動を取れる判断力も、武器を失ったところで怯まないその胆力も、全てが卓越している。

 

 戦う者として洗練された一連の動きはさっきまで小便を漏らしながら泣きわめいていた女と同一人物とは思えない程に美しかった。 

 

「エフィ! 訓練の為一体そっちに流すぞ、いけるか!?」

「OK、任せろ!」

 

 そういった途端にブロックを抜けたオークがおれに迫る。毒の様な陰気な活力を浮かべた目でおれの肢体を舐め回す様に見てくるオークを見た途端領主の顔がフラッシュバックする。

 家が焼かれる前なら腰が抜けて立てなくなっていただろう。

 

しかし今は別だ。

「怯むと思うのかよ、これしきのことでよぉ」

 黒い何かが腹の底から巻き上がる。おれは……この先、殺人という禁忌に手を染める。絶対に。そしてジル兄すら殺したクソ野郎を殺すためには強くならねばならないんだ! もっともっともっともっと! 魔術も! 肉体も! 精神も! こんなところで屈してたまるか! 

 

 決意を込めて睡眠魔術を詠唱する。しかし現実は非情だ。強い意志を込めて撃ったその魔術は失敗しオークが二発目の打撃にておれを仕留めようと棍棒を振りかぶった。その瞬間フレッドの剣とユカリの手刀が飛んできた。オークは瞬く間に上半身と下半身、顔と胴体を泣き別れにされ三分割された。

 

戦闘終了だ、よっしゃー!

 

「どうだいフレッドさんよ、おれさまの戦いっぷりはよお」

 

「貧相な耐久力のスペルユーザーなのに敵を前にしてビビらずよくやったよお前は、実戦で前衛が崩れてもやってけそうだ」

 

 わしわしと俺の頭をフレッドが撫でてくる。

 

 うひー褒められるの気持ちいー! 

 

「もし実戦でお前が敵の攻撃に晒される事があったらその時は遠慮なく俺を盾にしてくれ、俺めっちゃタフだし」

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