TS司祭とカス聖騎士 〜〜〜カスよ、龍に届いているか 作:マンコションベ
迷宮格言というものがある
【まだいけるはもう危ない】【分別は勇気の最良の部分】【家に帰るまでが迷宮探索です】といった悪意の迷宮を探索するにおいて重要なものだ。
色々あるが根幹は迷宮で起きることは予想できないからひたすら安全マージンを取ろうねというもの。
そして今日の迷宮探索においてもその精神は重要なものだった。
帰還をしようと地上への梯子に向かったおれ達に襲いかかって来たのはオーク✕9体
それをみたおれは黒系統第二位階【暗闇魔術】を発動する。
第一位階の【睡眠魔術】の使用回数が切れても第二位階の【暗闇魔術】は使えるのだ。
未知の呪文を後ろに飛ぼうとして回避しようとしたオークは非生物を腐食させ生物にまとわりつき動きを鈍くさせる暗黒に足を取られずっこけた。倒れ込んだオークに前世のあいつを彷彿とさせる身体能力でユカリが飛びかかった。
こいつもうフレッドの半分くらいの近接戦闘能力あるんじゃないかな。
そのまま手慣れた手つきで急所を破壊し次のオークに向かう。よしよし順調だ。
そう考えていた、油断していた。後ろからも魔物の部隊が迫っていることにも気づかずに
挟み撃ち!
「ユカリ! こっちは俺がなんとかする! エフィミアに援護を!」
「らじゃー!」
ユカリが跳ねる。ユカリのブロックを抜けてきた魔物が二匹迫る。おれは【石化魔術】を詠唱する。直後打ち出された灰色の弾丸が抵抗を貫き石に変えた。
しかし睡眠魔術と違い範囲が狭く単体相手にしか効果の無い石化魔術では2体の魔物を無力化するに至らなかった。
ギラギラとした加虐の欲求を滾らせた魔物が眼の前にきた。おれの戦意はくじかれなかった。
良いぜ、やってみろ、順応で肉体は強化された。まだ腕も盾にできる。
舌さえ無事なら手が潰れようが魔術は使える。そう簡単に屈すると思うなよ。
おれは迫った犬頭人身の魔物コボルトの繰り出した斬撃を防ぐべく手を交差させた。一瞬先の未来に訪れるであろう激痛を予期して歯を食いしばる
しかし予想していた激痛はついぞ訪れる事は無かった。
フレッドがぶん投げた剣がおれの眼の前の魔物を貫いたからだ。助かった! でもこれじゃああいつが素手で戦う事になってしまう!
「フレッドさんこれあげる! とりゃ!」
直後ユカリが投げた剣が、徒手空拳で暴れるフレッドを後ろから殴りつけようとしたコボルトの首筋にヒット。直後コボルトの首が吹き飛び血をまき散らす。
銀髪の聖騎士が血の雨の中跳ね返った剣をキャッチする。
それからは一方的な虐殺だった。ユカリの緻密な、技術力に頼った首刎ねとは違う純粋な腕力と速度による首刎ねの嵐がコボルト達を襲い、そして壊滅させた。
そしてユカリもあっさりともう片方の一段を壊滅させていた。こいつ本当戦闘能力高いな。
戦闘終了後フレッドが驚きの表情を顔に貼り付け駆け寄る。そして叫んだ
「お前これ真っ二つの剣じゃねーか! 俺が使っている剣より上質な奴だぞ、何でお前がこんな迷宮深層からしか出ない業物持ってんだよ!」
真っ二つの剣! 確か魔法の込められていない迷宮産武器では最強の性能をしているアイテムだ!
「ユカリさんヒイズル国の有数の名家出身なんだよね。札束でほっぺたひっぱたいて買ったに決まってんでしょ、あ、もうそれ使わないからあげる」
「良いの……マジ?! うおお、お前を生徒にして良かったと思えたのは初めてだわ、ありがとな!」
「ティッシュペーパーでも喜ぶ貧乏性のフレッドさんにはもったいないけどまあこれでも高位貴族の産まれですから! ノブレスオヴリージュって奴だよ!」
そしてユカリはおもむろに鎧も脱ぎだした。なんでも装備は動きが鈍るし繊細なコントロールをできないからこれからは素手+防具無しで戦うと決めたらしい。どうせ防具つけていても良い攻撃食らったら死ぬし純粋な腕力では武器があっても攻撃力が足りない。というわけで回避と即死に特化したキラーマシーンとなることを決めたようだ。
こいつの肝心な時にはいつもの言動からは想像できないほど思い切りが良くて合理的な思考ができる所は尊敬する。
強武器を手に入れてウッキウキのフレッドが真面目な顔を作って俺に話しかけてきた。口角がピクピク動いてるの隠しきれてないが
「さっきのあれ暗闇魔術だよな、お前司祭の癖してもう第二位階まで習得してんの?」
「うん……これもしかして伝えて置くべきだったか? 杖の事といいおれまたミスしちゃった?」
ヤバい、無能さがにじみ出てきた。前世と同じように見捨てられてしまう。やめてくれ、失望しないでくれ……おれを一人にしないでくれ。声が震える。恐怖で涙がにじみ出てくる。
それに対する反応はあっけからんとしたものだった。
「いや、まさかもう第二位階まで習得しているだなんて思いもしなかった。俺のミスだ。悪かった。杖の件だって怒って無いぞ。確かにあれな行動だったがお前の今までの行動を困っているであろう老人を見捨てられなかっただけだろうからな。ただ次から教えて欲しい。次の層からは本当ちょっとした油断が死につながる。最悪おれは死んでも良いけどお前らが死んだら洒落にならん」
経験上こういう時の死んでも良いはだいたい誇張だ。本当に死んだ事が無いからこそ言えるたわけた戯言。命に執着が無いと思っていたおれでも交通事故で死ぬ際には生を乞い願った。しかしこいつの死んでも良いには何か、一度死んだ人間が尚自分の生を無価値だと断定するような悲しい響きがあった。
フレッドが手を叩く
「よし、説教終わり、こっからはお前らの大好きな戦闘評価だ」
「エフィ、お前マスターレベルって分かるか? 冒険者の13段階の評価の最高ランク、いわゆる人類が到達できる最高到達点。それがマスタークラスだ」
まあワードナやトレボーのクソみたいに明らかに13段階評価じゃ収まりきらない奴もいるが基本はそうだとフレッドは付け加えた。
「そんでマスタークラスに到達した司祭でも全7位階中第三位階までの黒白魔術しか使えないのが基本なんだ、普通はな、それ故に司祭は産廃職と呼ばれ鑑定のためだけにパーティーに入れられる」
そう言っておれを見る
「ただお前は違った。もう第二位階に手を出している。断言して良いよ。この大陸で間違いなく3本の指に入る魔術の天才だ」
そして自分が褒められていないのでおむずがりになって水筒をぶくぶくしているユカリの元に向かいウンコ座りしてユカリと目を合わせた。
「おいユカリ」
ぶくぶく
「おいユカリ」
ぶくぶくぶく
「あの……ユカリさん?」
ぶくぶくぶくぶく
「もしもーし? ウルトラプリティーユカリさん?」
「何? なんの用?」
「お、やっと気づいた、お前もすげえよ。だけどな、俺が25年かけて必死に歩いて来た道をチンカスの擬人化みたいな小娘がすいすい歩んでいくのはかなり複雑な気分だ。正直俺がストイックに時間と労力と金と愛情をかけて築き上げたものをグチャグチャにされた気分だ」
「俺はとりあえず褒めて伸ばす方針だがお前ら二人とも天才だ、俺が教えた連中の中で確実に3本の指に入る程に優秀だよ」
ユカリが割り込み喚き散らす
「な……なら乳が無駄にデカくて顔が良いだけのエフィミアちゃんと世界の至宝、人類の頂点、天才素敵ナイスバディーのユカリさん、どっちのほうがすごいと思うの! お金を出しているのがどっちかよく考えてから答えてねフレッドさん!」
「10点満点中10点を出して来るやつと司祭職という特大のハンデを背負いながら9点を出してくるやつどちらも尊い。これは差別では無い、差異だ」そう締めくくった。
「……でさっきからなんなんだ、お前らの痙攣みたいなその妙ちきりんな動きは」
「みりゃ分かるだろ、喜びの舞だ」「みりゃ分かるでしょ、喜びの舞だよ」
「「ウヘヘヘへ、承認欲求満たされるの気持ち良過ぎだろ!」」
「お前ら……そんなんだから街で顔の割にそういう目で見れないだの凸凹アホコンビだの残念な扱いさ……れ……」
フレッドの視線が下がる。どこかはあえて言わないが俺の踊りに合わせてびったんびったん上下に揺れるある一部分に目が吸い寄せられていた。鼻血がつつーとたれていく。
複雑な気分だ。おれはかわいいと思れるのは大大大好きでもそういう目で見られるのにはまだ慣れていないのだ。元男だし今でも他人のおっぱいは大好きだがクソエロボディーを性欲100%のギラついた目で見られるとちょっとビビる。楽しいが恥ずかしい。後、若干の身の危険を感じる
まあ待ちたまえよ。フレッドくん、ここから先はおれがもう少しTS娘として経験を積んでからのお楽しみだ。
おれが踊るのを辞めると聖騎士ならぬ性騎士は下唇を噛んでこの世の終わりの様な表情を浮かべた。しかしすぐに閃いたと言わんばかりの表情を浮かべこういった。
「エフィ、お前は本当に凄い奴だな! いよっ世界一! 魔術の天才! 尊敬するでっ!」
……こいつぜってーまた喜びの舞踊らせて楽しむ気だ! その手には乗らんぞ! おれはそんなにチョロく無いんだ!
「凄い! 天才! かっこいい! かわいい! 無敵! 最強! 頭脳明晰! 質実剛健!」
うっへへー!
ではではリクエストに答えてもう一回!
踊り狂っているとボソッと「今夜はこれで良いか……」「これ見よがしに……」とか聞こえた様な気がしたが気にしない事にしよう。
■■■■
迷宮の外に出ると日が落ちていた。
三人揃っててくてく歩いているとフレッドが振り返った。
「ああそうだ、今日帰ったら飯でも食いに行くか? もうお前らは【ノービス】卒業と言って良いくらい強くなったしな。記念だ、奢るよ。それに……その……お前らの話も聞きたいしな」
ユカリの目がキラキラ輝いた。
「良いの?! ひゃっほい! ユカリさん貧乏人に奢らすタダメシ大好き! 下賤の者が必死こいて稼いだ金を貢がせるのたまんないよね!」
おれの目からは涙がドバドバ溢れてくる
「おれ……下心抜きで家族以外にメシに誘われるの初めてかも……そうか……これがリア充ッてやつなんだな!
でも良いのか? おれなんかがメシに行って……面白いこととか話せないしはっきりいってコミュ障だしつまらないしメシが不味くなるかもしれないし」
呆れたかのように眼の前の銀髪が言った。
「……お前ら友達いないの?」
それを聞いた瞬間ユカリの絶叫が響いた
「は、………………は、ははははははあー?! 私がいわゆるぼっちなのは愚物共がユカリさんの魅力に気づいていないだけですけど! 私が気づいていないだけで500億人はユカリさんの友達いるし欲しいと思ったことなんて無いし! あっあっあっそもそも友人なんざ覇道を極める邪魔にしかならないからあえて人を避けているだけだし私はかわいいし顔が良いし優しいから(以下略)」
おれは……おれはこちらの世界に来て家族がいたから寂しさを覚える事はなかったが友人がいたかと言うと微妙だ。
村の同世代の男連中も気の良い奴らだったが友人かというとまあ……うん
男女の友情は成立するかという質問に対しておれはためらわず「NO」と答える人間だ。そうなるまでに色々あったのだ。察して欲しい。
女連中には前世のトラウマがあって話しかける事すらできなかった。
やっぱりおれにはあいつしかいなかった。何で死んじまったんだ。おれの目を潰した奴らへの復讐なんていらなかったし保険金なんていらなかった。お互いジジイになるまでくだらない毎日を過ごせればそれだけで幸せだったんだ。
待て! 泣くな! ズビっと鼻を啜り目から涙がこぼれないようにして答える。
「うん、そう……ずっと昔は一人だけいたけれど……もう会えないんだ」
何かを察したかのようにフレッドの顔が曇った。
「……そうか。友がいないのは俺もだよ。……ずっと昔、俺なんざを友達なんて言ってくれた奴はいたけれどな。そいつとももう会えない」
絶望的な、暗い暗い雰囲気の中、空気を読まずなおわめき散らすユカリの妄言だけが救いだった。