TS司祭とカス聖騎士 〜〜〜カスよ、龍に届いているか 作:マンコションベ
さてさてクソ領主をぶっ殺す為力が欲しくて来ました……なんて言えるはずないしどうしようか
とりあえずここから歩いて一日程度での村……エミル村で産まれた事。そこで善良なパパとまあまあ善良なママとできの良いお兄ちゃんと二重の意味でいい性格をしていておれの事を慕ってくれてた妹と一緒に過ごした事を伝えた。
楽しかった日々の事も。かけがえのない日々がもう失われた事は隠したが。
「いいなーお姉ちゃんを慕う妹、うちのバカズクなんて人間国宝たるユカリさんの事を汚物だの妖怪屁こきまな板だの言ってまともな扱いして来ないんだもん! あのボケてめえも同レベルのまな板の分際で年上様にガタガタ言いやがって!」
口の中のものを飛ばしながらユカリが言う。うげ、顔についた。
「まあそのシズクさんも多分いい子だと思うぜ。まあおれの妹には敵わないけどな! 妹はおれ目当ての男−妹経由でおれに近づこうとしたんだろうな−にしょっちゅう告白されては用済みになって振られるのを繰り返していたけど一切おれをうらまなかったし本当に良い奴だったんだ」
「良いな良いなーうちのバカズクと交換して欲しいよー」
「ああ、そう言えばちょっとだけユカリに似ていたかもな、あいつは」
おれに近づく踏み台として利用されまくったあいつは立派に擦れてなかなか手強い性格になってしまった。
それこそ眼の前の厄介ユカリに匹敵するほどに。
それでもおれの事を悪く言ったり恨んだりは一切してこなかったのは本当に感謝している。
「へー、お前良いとこに産まれて幸せだな」
「ああ! 幸せ
「お前と結構話してきたが生い立ちすら知らなかったわ、考えてみりゃお前人懐っこい癖に全然自分の事話さないだろ」
いや、おれ基本人見知りだし……ユカリともあんまり話さないし……あれ? そういや何でフレッドにはこんなスラスラ話せるんだ?
男相手には表面上はどんなに愛想よくしても常に一線を引いていたし家族以外と話す時はいつも内心緊張していた。
前世でも一人を除いて現実ではずっとろくに喋れなかったんだ。
そして可愛らしい顔面という最強の武器を得ても根本的に対人関係の能力が壊滅的という欠点は変わらなかった。
俺が気負わず素の自分を出して話せた人間はあいつ、家族、そしてフレッドだけだ。
何故おれは眼の前の、それもあまり柄の良くない見た目をした男を一目見たその日から信頼しているんだ?
いくら寂しさを感じていたとは言え他の男には発動する警戒心がなんでこいつ相手には機能しなかったんだ? 謎だ。
謎といえばフレッドの生い立ちもだ。
「フレッド、お前も自分の事は全然話さないだろ。ほれほれはけはけ」
無くなったグラスにありったけの酒を注ぐと奴はちびちび飲みつつボソボソ言い始めた。
「ん~~話してやっても良いけどシンプルに胸糞悪い話と不幸自慢が始まるだけだぞ」
「良いから教えろよ、この流れでお前だけ何も言わないのはずるいもん」
「話せー!」
何故か顔が曇っている。もしかして聞かないほうが良かったか?
「あー、俺様はクソオスとクソメスの合体事故でクソみたいにひり出されたクソみたいな産まれだよ。今思えばどっちもクソみたいな親だったけど一応今では俺に飯と家をくれた事だけは感謝してる」
初手で地雷踏んじまったよ。すまん、もう良いと言ってもフレッドは首を横に振り話を続けた。
「それでも俺には生まれつき戦う才能があった。それを振るうのも躊躇わなかった。最初は少しは善の心もあったのだとは思うが年を取るにつれどんどんカスになっていって」
脂汗を垂らして続ける
「そ……それで13にな……なった俺は立派に……クズになって無辜の人間と、よ、よりにもよって一番幸福にならなきゃいけない奴を、お、おお俺の手で……オエッ」
フレッドが吐き出した。
「落ち着け! 落ち着いて!」
背中をひたすらさすっている中見えた銀髪青年の顔は苦痛と悔恨に歪んでいた。
■■■
フレッドが便所から帰ってきた。その時には掃除も終わりゲラゲラ笑いながらフレッドが帰ってきた。
「わりぃ、飲みすぎた」
「大丈夫か! そんなに辛いなら今日はもうお開きにしようぜ、話したくない事を話させちゃったのも悪かったよ」
「あーすまんすまんさっきの嘘嘘。ちょっとからかって見たくなったんだ。
本当はどっかのおえらいさんとそこで働いていたメイドから産まれたんだよ俺、んでもって妾腹のガキなんていらないとか言っておえらいさんに捨てられて、その後に俺を出汁に成り上がる気満々だったメイドに期待外れだとか言ってポイ捨てされたんだ。
んでスラムで廃材拾いとか靴磨きとかやってる内に変なおっさんに拾われて聖騎士になって今に至ると言うわけだ、あー後ついでに明日からのミーティングもやるぞ、今ここで」
いきなり話変えたな。まあこんだけ露骨に話を変えられればコミュ障の俺でも生まれの話へ突っ込まれたくないのは分かる。まあ良いか、言いたくないことは言わないで良いんだ。
言いたくないことを聞いてしまったことは後できちんと謝ろう。
「俺の見立てではお前らも明日起きれば十三等級中の四等級、いわゆるレベル4になれるとは思う。そうなったら見習いは卒業、立派な冒険者だ。そして立派な冒険者になったということは二層でもやっていけるということだ。明日からは二層に潜る。ところで一層と二層の最大の違いは分かるか?」
「そりゃあ魔物の強さだろ」
「迷宮の構造の複雑さでしょ」
「惜しいな、大きな違いだが最大の違いでは無い。答えは致死性だ」
「エフィミア、ユカリ。仮にだが俺様とヨーイドンで本気で殺し合うとして勝てる可能性はどれくらいあると思う?」
「は? 無理だろおれがお前に勝てる要素なんてあるか?」
「ま、そう思うよな、んで? お前はどう思うよユカリちゃん」
「私は100回やって5回位でしょ、エフィちゃんは1回くらい」
「おお……すげえな。ユカリ、正解。それじゃエフィ、なんでか分かるか?」
首を捻ってうんうんうなりながら考える。動けーおれの灰色脳細胞!
「ええと……あ! ユカリは首はね、おれは睡眠魔術でワンチャン持って行けるからか?」
「よしよし偉いぞ賢いぞ、かなり運が絡むとはいえ一応現実的な範囲で格上を殺せるんだよ、お前ら」
またもや頭をワシワシと撫でられる。
撫でる手から体温が伝わってくる。温かい。
しかも褒められた事で口角が緩んじまってダメだ、えへへ。
あ、貴様チョロ……とか小声で言いやがったな、覚えてろ。
「そんでエフィ初めて俺とあった時の事覚えているか?」
絶望の中、銀髪の聖騎士が放った稲妻は今でもおれの脳裏に張り付いている。
まるであれはヒーローだった。
前世でおれをいじめ……それから何度もおれのピンチを助けてくれたあいつの様に。
なんだろう……こんな事言うとホモみたいだが……かっこよかった。おれが完璧に女だったら確実に惚れると断言できる程に
「すまん、辛い事思い出さし……」
「ああいや、そういうのじゃないから大丈夫だ。めっちゃ歯が鋭い兎共にやられかけてたよな、なんなんだあいつら」
「あいつの名前はボーパルバニー、通称“首刈り兎”
能力は攻防共に貧相、動きもあまり機敏でない、それでも奴は二層最強の敵だと言われている。
ユカリと同じ力、領域と首刎ねを持つからだ。
格上相手であろうと一発良いのが決まれば問答無用で即死させる力だよ。
あいつら偶に3層4層にも餌求めて降りていくらしいんだがそこの層の魔物もあいつ等には手を出さない。
戦闘力では圧倒しているにも関わらず、その戦闘能力差を決して低くない確率でひっくり返してくるあいつらは脅威なんだ、深層の化け物にとってもな。
そして俺やトレボー王といった人類の上澄み相手にもそれは有効だ。もちろんお前らにも」
ユカリがゴクリと唾を飲む
「そしてボーパルバニーやお前らの様に、格上に大してもワンチャンもっていける連中がゴロゴロいるのが二層だ。こっから先は命の危険が付き纏う」
「エフィお前はもう帰れ、助手として働いてくれたんだから賃金もやる。大切な家族がいるなら帰って学者でもやりながら俺様並みに良い男捕まえてガキこさえて……で二度と戻ってくるな。こっから先は危険過ぎる」