ダンジョンにボンゴレ十代目が行くのは間違っているだろうか   作:薔薇餓鬼

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100話目です。


標的(ターゲット)100 正義(ユースティティア)

 

 

 

 

 

 

賭博場(カジノ)事件の翌日。

 

「おはよう、リュー」

 

「おはようございます、沢田さん」

 

 ツナはリューとの約束通り酒場にある内庭にやって来ていた。リューの方はすでにツナと戦う準備の為に構えを取り、準備運動を行っていた。彼が来た事に気付いたリューは構えを解き、ツナの方を向いた。

 

「こんな朝早くにすみません。仕事の関係上、どうしても早朝以外に時間がないものでして」

 

「ううん。大丈夫だよ」

 

「それでは早速で申し訳ないのですが、始めてもよろしいですか?」

 

「俺は問題ないよ」

 

 稽古はリューの仕事が始まるまでの僅かな時間しかない為、時間が惜しいのだと察したツナはポケットから27と書かれた手袋を取り出し、両手に装備する。

 

「……いつでもいいぞ」

 

 そしてツナの額に大空の炎が灯り、瞳の色はオレンジ色に変化する。手袋もグローブへとその形状が変化し、(ハイパー)化が完了した。

 

(隙がない……)

 

 腰を少し落とし木刀を構え、攻撃の隙を伺うリューだったがツナの隙は全くなく、出るタイミングを掴めずにいた。

 

(なら隙を作るしかない!!)

 

 このまま待ってもツナの隙は出来ず、膠着状態が続くだけと判断したリューは地を蹴り、そのままツナの間合いへと一瞬にして移動。そのまま右手で握った木刀で神速の刺突を繰り出す。リューの片手突きをツナは横に1歩だけ移動して躱した。

 

(今だ!!)

 

 だが躱されことに対しリューは微塵も動揺しておらず、すぐに持っていた木刀を逆手に持ち変え、そのまま後方を振り向くことなく再び刺突を放った。

 

「っ!?」

 

 後方から繰り出された刺突を右手で握ろうと手を伸ばすツナ。だがあと少しで木刀に手が届くというところでリューは刺突が寸止めした。そのことにツナは動揺すると同時にリューは即座に反時計回りに回転し、逆手に持った状態の木刀を薙ぎ払った。

 

(……やるな)

 

 凄まじい勢いで木刀が自身の顔面に迫るも、ツナは左アッパーで木刀の表面を殴り付けリューの放った左薙の軌道を強制的に変えた。

 

(流石です)

 

 リューはそこからバク宙をするとツナの顎に向かって右足によるサマーソルトを放った。それに対しツナは顔を仰け反らせてリューの蹴撃を躱す。

 

(いない……)

 

 ツナが再び正面を向いた時にすでにリューの姿はどこにもなかった。

 

(後ろ!!)

 

 背後からリューが両手で握り、木刀を左から右におもいきり薙ぎ払った。ツナはバク宙してリューの右薙を躱した。

 

(1人で闇派閥(イヴィリス)を壊滅させたというだけあって戦闘慣れしてるな)

 

 リューのサマーソルトを躱した際にツナは顔を仰け反らせた。その際視界は強制的に上を見る事になる。そして自分が再び正面を向く前に死角から強襲した。冒険者を引退してはいえど、確実に標的を仕留める為戦いを繰り返した経験がここで生きているのだとツナは感じた。

 一方で背後から躱されたリューは勢いを落とすことなく駆けていき途中で方向転換すると同時に、リューは敏捷のステイタスを全解放し今までにないくらいに加速し、一瞬にしてツナの間合いへと移動した。

 

(もらった!!)

 

 バク宙して地面に着地する前のツナの左足に向かって、リューは左斜め下からおもいっきり木刀を薙ぎ払った。

 地面に着地する寸前は無防備になる。それに加えてここで今までにない程の加速したのは敵の虚をつく為にリューは全速力で加速したのである。

 

(幻覚!?)

 

 しかしリューの右切上がツナの右足に直撃した瞬間、ツナの体は霧散して消える。リューは今斬ったのは幻覚だったのだと気付いた。

 今まで自分の攻撃をツナ自身の力だけで躱され続けたため、意図的に幻覚から意識を外してしまっていたのだ。

 

(あの時か!!)

 

 ツナはリューの右薙をバク宙で躱した際、リューが再び自分の方へと向く前に自身の幻覚を構築し、そのまま炎を逆噴射させて上空に移動。そして地面に着地する前の幻覚の自分を見せることで、自分が確実に仕留めて来るように誘導させられたのだとリューは理解する。

 

「……勝負ありだな」

 

「参りました……」

 

 リューの背後からツナの手刀が首元に突き付けられる。リューは負けを認め、肩の力を抜いた。

 

「悪いなリュー、スキルを使って」

 

「スキルを使わないというルールは設けていませんでしたから。それに私は沢田さんが幻覚を使えることを知っていたはずなのに、それを忘れていた……お陰で私の未熟さを気づくことができました。むしろ感謝しかありません」

 

 事前確認もなしにスキルを使ったことに対して謝るツナでだったが、リューは微塵も気にしてはいなかった。

 

「やはりあなたを鍛練に誘って正解でした」

 

 今までは1人で鍛練していたがどこか物足りなさを感じていた。だが短時間とは言え久々に全力を出して戦えたことで、リューは清々しい気持ちになっていた。

 

「ずっと1人で鍛練してたのか?」

 

「ええ。冒険者を引退したとはいえ、私は指名手配の身ですし……身分を隠しているとはいえ、絶対にバレないという保証はないですから」

 

「そうだったな……だが戦争遊戯(ウォーゲーム)は中継されてたはず。それで正体がバレたりしないのか?」

 

「問題ありません。神ヘルメスが上手くやってくれていますので」

 

「そうか」

 

「後はあの男が気づいたかもしれませんが……逮捕された以上、私の正体がバレることはないでしょう」

 

「テリーのことか?」

 

「はい、ですがテリーという名前は偽名です。あの男の本当の名はテッド。まだ【アストレア・ファミリア】がオラリオで活動していた時に一網打尽にした男の1人です」

 

「……なら何故そのテッドが賭博場(カジノ)にいたんだ? 逮捕したんじゃないのか?」

 

「テッドは最後の最後にアストレア様に助けて欲しいと懇願したのです。そしてアストレア様はテッドの言葉を聞き入れた。きっとテッドが改心することを信じたかったのでしょう」

 

「だが当の本人は改心するどころか、更に罪を重ねていたという訳か」

 

「……ええ」

 

「お前の主神は慈悲深い神なんだな」

 

 テッドのようなどうしようもない男にも更正させる機会を与えていた事を知り、ツナはアストレアが神格者なのだと感じた。

 

「はい。アストレア様はとても優しく、凛々しい方で私たちも彼女を母親のように慕っていました」

 

(……)

 

 リューからアストレアの神物像を聞いたツナは何か違和感が引っ掛かる。

 

「リュー。お前は本当に破門されたのか?」

 

「え?」

 

「お前の話を聞く限り、アストレアがお前を破門するとはどうしても思えない」

 

「正義を司る神の眷属でありながら復讐の道を選んだのですから、破門されて当然です。それにアストレア様は私に言いました、正義を捨てなさいと。アストレア様は私に失望されたのです……」

 

「あのテッドに更正の機会を与えるような神が、そんな理由でお前を破門にしたとは俺は思えない。そもそもリューが復讐の道を走る切っ掛けになったのは、闇派閥(イヴィルス)のせいだということはアストレアだって知っているはずだろ」

 

 テッドは自分の欲を満たす為だけに罪を犯した。だがリューは復讐がしたくてした訳ではない。闇派閥(イヴィルス)が罪を犯した事で自身も罪を犯す道が選択肢として浮かんでしまった。

 アストレアは悪意を持つテッドを信じ、許そうとした。だがリューの復讐心は悪意からきたものではなく、大切な者たちを奪われた悲しみからきたもの。復讐は決して正しいとは言えないが、それでもリューの根底にあったのは仲間を愛した純粋な想い。その想いに対しアストレアが失望するとはツナはどうしても思えなかったのだ。

 

「例えそうだとしても、今の私に正義を語る資格などない……いや……あの日から私の正義は無くなった……」

 

「……お前は復讐のせいで正義を見失っただけだ。俺は知っているぞ、お前の正義を」

 

「え……!?」

 

 失ったと思っていた自分の正義をツナが知っていると言われ、暗い表情を浮かべていたリューの顔が驚きの表情へ変わる。

 

「お前はアンナを助けるために賭博場(カジノ)に乗り込んだ。そして俺たちを助ける為に戦争遊戯(ウォーゲーム)に参戦してくれた。自分の正体がバレる可能性だって充分あったのにも関わらずだ」

 

「それは……」

 

「もしリューが助けに行こうとしなければテッドは逮捕されず、アンナたちも解放されなかったはずだ」

 

 シルがポーカーで勝利したことでテッドは本性を露にしたが、そもそもリューが助けに行こうと決意しなければテッドの逮捕とアンナたちの解放は叶わなかっただろう。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)で俺の作戦が成功出来たのはリューが参戦してくれたからだ。【アポロン・ファミリア】の半数を1人で相手にし、アポロン派の団員を多く倒してくれた。お前がいてくれたから俺たちは戦争遊戯(ウォーゲーム)で勝つことができたし、反アポロン派の団員たちもやっとアポロンの呪縛から解放された」

 

 ツナの作戦が成功したのはリューの存在が大きかった。リューがいなければ作戦は成功しなかったと言っていい程に。

 

「お前も見たはずだ。あのみんなの笑顔を」

 

 【アポロン・ファミリア】に勝利した時のベルたちの笑顔や、アポロンから解放されたダフネたちも笑顔になったことを。

 

「お前は仲間を失い闇派閥(イヴィルス)たちに復讐した末に指名手配された。だが正義は無くなったと言いながらもお前は弱き者たちを救う為、戦うことは止めなかった。そしてお前のお陰で救われた者たちもいる。誰がなんと言おうとそれこそがお前だけの正義だ。違うか?」

 

「ぁ……」

 

 ツナの言葉を聞き、リューは言葉を失った。そして両目から溢れんばかりの涙が溢れ落ちる。

 

「ど、どうした!? 大丈夫か!?」

 

 まさかリューが泣くとまでは微塵も思っていなかった為、ツナは動揺し慌て出す。

 

「すいません……嬉しくてつい……」

 

「う、嬉しい……?」

 

「私にはもう、正義などないと思っていました……」

 

 あの日からリューの心の奥にはずっと(わだかま)りがあった。ミアやシルに助けてもらってもなお消せぬ蟠りが。しかしツナが自分の正義について気づかせてくれたお陰でその蟠りを溶かしてくれた。全てを支え包み込む大空のように。

 

「ありがとうツナ(・・)。私に正義を気づかせてくれて」

 

「っ!?」

 

 リューは涙を拭うとツナにお礼を言った。そんなリューの表情は今までにないくらい眩しい笑みであり、ツナは顔を赤らめた。

 

「沢田さん?」

 

「す、すまない……お前がそこまで笑顔を見せたのは初めてだったから……驚いたというか……!?」

 

「っ!?」

 

 まさか自分がそこまでの笑顔になっていたとは意識していなかった為、リューは顔が真っ赤になる。

 

「話が長くなってしまってすまない……そ、そろそろ稽古を再開するか……?」

 

「は、はい……!!」

 

 その後、気まずい雰囲気になりながらも稽古は続くのであった。

 

 

 

 

 

 




本当は稽古だけで終わらせようと思ったんですけど、なんかシリアスになってしまいました……

やっぱり深層に落ちたっていう状況とベルのあの行動があるからこそ、14巻はあのシーンは感動するんですが僕の力ではあんな風なシーンを書くのは無理でした。

次回は面白くするつもりです。

X(旧Twitter)→https://twitter.com/husuikaduti

評価→https://syosetu.org/?mode=review&nid=340850

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