ダンジョンにボンゴレ十代目が行くのは間違っているだろうか 作:薔薇餓鬼
―――そして、ついにラキアの進軍が始まった。
「来たか」
現在ツナはフィンの指示された場所でレフィーヤやティオネを始めとした団員達と共に身を隠していた。
すると甲冑を身に纏い、馬に跨る騎馬兵達がこちらに向かって来るのが3人の視界に映る。
「さて……」
それを確認したツナは炎を大空から霧へと変化させ、煙幕を構築する。そしてそのまま両手に地につける。
(ぶっつけ本番だが……)
そしてツナは両手から霧の炎を大量に放出する。放たれた炎は徐々に何かの形を作り出す。
『―――ォオオオオオオオオオオオオオ!!』
「「えっ……!?」」
直後凄まじい咆哮が戦場に響き渡り、レフィーヤとティオネはそれを見て驚きのあまり固まってしまう。なぜならツナが作り出したのはここにいる筈のない、17階層の階層主であるゴライアスだったのだから。
「ひ、ひぃいいいいいい!!」
「な、何だあれは!?」
「にっ、逃げろぉおおおおお!!」
突如として発生した煙幕の中から現れた巨大な化け物を前に兵士達は瞬く間に恐怖に支配され、そのまま凄まじい勢いで撤退して行く。
「ふぅ……」
敵の姿が見えなくなったのを確認したツナはゴライアスの幻覚を解き、炎の属性を霧から大空に戻す。
「まさか幻覚でゴライアスを作るなんて……」
「え、えげつないわね……」
ゴライアスという彼らにとって未知の化け物を作り出し、敵を恐怖のドン底に落とすというやり方を見て味方であるレフィーヤとティオネですら引いていた。
「いや、これは駄目だな……」
「ええ!? どうしてでですか!?」
「あれだけ巨大な幻覚を作ろうと考えた時点で炎の消費が多いのはわかってはいたが……その想定以上に炎を消費してる。これじゃ炎の無駄遣いでしかない」
(だとしても充分過ぎるでしょ……)
武力を用いず何百という数の兵士達を一瞬にして撤退させていながら、なお不満に感じていることがティオネには信じられなかった。
「やはりこの程度のレベルじゃ、本来の幻覚を使いこなせないな……」
「この程度って……以前の
「いや、実際大したことはしていない。俺の幻覚は普通の状況だと効力を発揮しないからな」
「どういうことですか?」
「今、ラキアの兵士達はオラリオの選りすぐりの【ファミリア】達を相手にするという無謀な戦いに挑んでいる状態だ。Lv.がかけ離れた存在と相手することに、当然恐怖に感じている筈だ。そんな余裕のない状態で、ゴライアスという恐ろしい化け物が出現したとすればどうなる?」
「……戦意を失います」
「その通りだ。
「要するに、その場の状況や相手の心理を利用した上でないとあんたの幻覚は効果を発揮しないってことね」
「そうだ、だが俺は本来術士じゃない。だから普通に幻覚を使ったところで、お前達のような結束の強い【ファミリア】や勘の鋭い奴、百戦錬磨の相手や生粋の術士には通じない。そこが俺の幻覚の弱点だ」
((弱点って何だっけ……?))
幻覚が無くともツナは圧倒的な戦闘センス、機動力に加えて多種多様な技や武器を持っている。だから幻覚が使いこなせなかったところで何の問題もないのではと2人は感じていた。
「とりあえず、フィンの元に戻って指示を仰ごう」
この場の敵を撤退させた以上、これ以上ここにいる意味はない。自分の足にレフィーヤとティオネを掴ませ、そのままフィンのいる拠点まで飛んで戻る。
「―――という訳で敵は撤退させた。次は何をすればいい?」
「そ、そうかい……」
ゴライアスの幻覚で一瞬で撤退させたというツナの報告を聞き、フィンと周囲の団員達は皆一様にその顔を引きつらせていた。
「……とりあえずティオネはガレスと合流、レフィーヤはリヴェリアと合流してくれ」
「「はい」」
フィンは先にティオネとレフィーヤに指示を出し、2人は指示された場所へと向かった。
「沢田綱吉、まだ幻覚は使えるかい?」
「問題ない」
「少し面倒な役割を押し付ける形になるが、構わないかい?」
「何だ?」
「各地の戦場を回って、僕達や
「成る程な。攪乱して相手を撤退させつつ、こっちの配置を把握出来なくするつもりか」
「話が早くて助かるよ」
フィンの指示を聞いたツナは、彼が何を考えているのかを直感で理解した。
基本的にラキアの兵士達はオラリオの冒険者が圧倒的な力を見せつければ恐怖し、すぐに逃げる。1人の冒険者相手にすら手も足も出ない状態で、そこからさらにフィン達が現れればラキアの兵士達は混乱し恐怖に陥るだけでなく、情報が錯綜し相手の指揮官もどこに誰がいるかわからず、戦略を立てづらくなるのだ。
「それに、何もせず撤退してくれれば【
「そういえばそうだったな……」
生きてさえいればたとえ負けたとしても【
「ただし、【フレイヤ・ファミリア】のいる戦場ではやらないでくれ。もしそれをやればラキア相手に苦戦していると思って、彼らのプライドを傷付けることになる。そうなれば確実に敵意が君に向くだろう。特にアレンやガリバー兄弟は君に1度負かされているから、絶対戦いを仕掛けてくると言っていい」
「こんな時でも私情を優先するのか、【フレイヤ・ファミリア】は……」
「それも当然さ。【フレイヤ・ファミリア】の団員は全員プライドが高い上、主神であるフレイヤの寵愛を手に入れる為なら同じ【ファミリア】の団員だろうと蹴落とすような派閥だ。それにあそこでは毎日、団員同士での殺し合いを行われているからね」
「殺し合い……!?」
「ああ。屈強な戦士を生み出す為、朝から晩まで団員同士で殺し合っているんだ」
「……主神のフレイヤは何も言わないのか?」
「神フレイヤの命令ではなく、団員達が自発的に行っているのさ。だが、それ故に屈強な戦士達が次々に生まれている」
「よくそれで組織として成り立っているな……」
「確かに本気で殺し合いはしているが、実際に死人は1人も出ていない。【フレイヤ・ファミリア】にはアミッドと肩を並べる
「伊達にお前達と肩を並べる派閥じゃないってことか……」
「それに加えて、指揮官であるヘディンは頭の切れる男だからね」
「ヘディン……確か【フレイヤ・ファミリア】の幹部だったか」
「ああ。ヘディンの指揮はオラリオの中でもトップクラスだ」
「お前より上なのか?」
「もしヘディンと戦略で勝負すれば、10回中4回は負けるね。僕が勝ち越しているのは指の疼きがあるからに過ぎない」
「そこまでか……」
ヘディンが強いのはあの時一目会っただけでもわかったが、まさかフィンと同等、いやそれ以上の頭脳の持ち主だとは思っておらず、驚かざるを得なかった。
「とりあえずお前の指示通り、戦場を回って来る」
「よろしく頼むよ」
ツナは炎を逆噴射させ空中を飛び、戦場へと向かって行く。
(……疼いているな)
ツナの姿が見えなくなり、フィンの親指が疼き始める。
(やはり沢田綱吉の言う通り、これから何かが起こるのか……)