ダンジョンにボンゴレ十代目が行くのは間違っているだろうか   作:薔薇餓鬼

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標的(ターゲット)41 絶望(ディスピア)

 

 

 

 

 

 

 新たに生まれた女体のことを精霊と呼んだアイズ。

 

(間違いない!! こいつだ!!)

 

 ツナは女体が変貌を遂げる前にすでに超直感で何か嫌な予感を感じていた。そして今、目の前にいる存在が超直感が感じ取っていたものだと理解する。

 

『アリア!! アリア!! 会イタカッタ!! 会イタカッタ!!』

 

「っ!?」

 

『貴方モ、一緒ニ成リマショウ?』

 

 歓喜の声を上げていた精霊だったが、アイズを見た途端、子供のように無邪気にはしゃぎ始めた。アイズは金縛りがかかったかのように動けなくなり、他のメンバーはアイズの方を振り返っていた。

 

『貴方ヲ食ベサセテ?』

 

 精霊の口角が上がる。そして精霊に自身の魔石を献上していた芋虫型と食人花が一斉にツナたちの方へと振り返り、前進する。まるで精霊に付き従うかのように。

 それと同時に階層の入り口である連絡路の前に緑の肉の壁が発生する。これによってツナたちは退路を断たれた。

 

「総員!! 戦闘準備!!」

 

 度重なる異常事態(イレギュラー)に加えて退路を断たれて多くの者が動揺する中、フィンは叫んだ。フィンの号令によって団員たちは我に返り戦闘体勢に入った。

 

「フィン!! 儂も前に出るぞ!!」

 

「どうせいつもとやることは変わらねぇ!! ぶっ殺す!!」

 

 先に前衛に出たのはガレスとベート。腐食液を躱しながら不壊属性(デュランダル)を振るい、芋虫型と食人花を消滅させていく。

 

「【X(イクス)レーザー】」

 

 ツナは58階層にて新たに得た技で芋虫型と食人花の魔石に撃ち抜いていく。ただ撃つだけではなくガレスとベートが前に出やすくなるように、標的(ターゲット)を選んでいた。

 

「レフィーヤ、狙いは女体型、詠唱を始めろ!! ラウルたちは魔剣でアイズたちを援護!!」

 

「わ、わかりました!!」

 

「はいっす!!」

 

 緊張が抜け切らないもののレフィーヤは詠唱を始め、ラウルは炎の魔剣を振るった。炎の魔剣の援護射撃によって周囲は爆炎に包まれるも、アイズたちは次々に怪物(モンスター)たちを消滅させていく。

 

「突っ立って高みの見物というものもなぁ」

 

 戦闘員よりも武器の整備員として遠征に参加した椿であったが、Lv.5の冒険者である為、食人花を太刀で斬り裂いていった。

 

『フフッ』

 

 だが精霊は動揺するどころか、この状況を楽しんでいる様子であった。

 すると下半身に無数の植物の触手がツナたちに向かって一直線に放たれた。100M(メドル)の距離から放たれた触手は凄まじい勢いで向かって来る。

 

「「重いっ!!」」

 

 ティオネとティオナが触手に向かっておもいっきり武器を振り下ろす。しかし2人のパワーを持ってしても触手を破壊するどころか、むしろぶつけた衝撃が自分自身に響いていた。

 

「ナッツ」

 

「GURURU…GAOOOOOOOO!!」

 

 ツナは上空からナッツが触手に向かって咆哮を放った。ナッツの放った天空の雄叫び(ルッジート・デイ・チエーリ)によって触手は周囲の密林と調和し、植物は普通の植物と同じ強度になる。

 が、

 

(再生能力持ちか……)

 

 だが触手がナッツの咆哮の影響を完全に受ける前に触手を自切した。そして自切した部分から再び触手が生えてくる。

 明らかに異常な存在な上に会話できる程の知性を持っている。故に通じなかったことに対して驚きを見せておらず、むしろ再生能力を持っているという情報を得ることができたと考えていた。

 

(何だ?)

 

(親指が……)

 

 するとツナは超直感で、フィンは親指の疼きでこれから何か起ころうとしているのを感じ取る。

 

「リヴェリア。詠唱は待て」

 

「フィン?」

 

 通常、魔道士は前衛が時間を稼いでいる間に詠唱をするのが基本。そんな状況で詠唱をするなという命令が出たことに違和感を覚えるリヴェリア。

 

「親指の疼きが止まらない……何かが来る……」

 

(何が来る……?)

 

 これから何かが起ころうとしていることを理解したフィンとツナは精霊を注意深く観察し、思考を巡らせて何が起ころうするのかを予測しようとする。

 

「【火ヨ来タレ】」

 

「詠唱!?」

 

 なんとここで精霊は魔法の詠唱を始め、下半身に巨大な魔法円(マジックサークル)が展開される。精霊が詠唱を始めるという事実にアイズは驚愕すると、全員の顔つきが変わる。

 魔法は人類の(えい)()の結晶。本能のままに人類を喰らう怪物(モンスター)には会得することは不可能な技術である。

 

「【X(イクス)レーザー】!!」

 

 ツナは詠唱を止める為に即座に炎の光線を精霊に向かって連射する。複数の炎の光線が精霊へと向かって行く。

 

「ダメか……!?」

 

 だが精霊の下半身に備わっている花弁(はなびら)が精霊の体を覆い光線を防いだ。詠唱を阻止するどころかかすり傷すらつけることすら叶わないと知ってツナは苦渋の表情を浮かべる。

 

「リヴェリア!! 結界を張れ!!」

 

 フィンは精霊の詠唱が止められないという最悪の事態に備えてリヴェリアに指示。リヴェリアは焦りの表情を見せながらも詠唱を始める。

 

「せ、斉射!!」

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

 

 サポーターのラウルたちは魔剣を、同じくサポーターのレフィーヤが58階層にて大量の怪物(モンスター)たちを一掃した魔法を放つ。

 魔剣による魔法攻撃とレフィーヤの放った数百もの炎の矢が精霊を襲い、凄まじい轟音が59階層に響き渡る。

 が、

 

「ははっ……あれが効かないというのか……!?」

 

 しかしレフィーヤたちの放った魔法を精霊は花弁だけで防ぎ切った。悪夢のような光景を目の当たりにして椿は無理やり笑みを浮かべていた。

 

「【猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号咆ヲ我ガ愛セシ英雄(カレ)(トキ)ノ代償ヲ】」

 

「【舞い踊れ大気の精、光の主よ。森の守りを結び、大地の歌を持って我等を包め。我らを囲え】」

 

 リヴェリアの足元に翡翠(ひすい)色の魔法円(マジックサークル)が展開される。

 精霊とリヴェリアは同時の詠唱。しかし精霊はリヴェリアの詠唱文よりもさらに長い詠唱文をとんでもない速さで詠唱していく。

 精霊が唱えているのは超長文詠唱。長文詠唱よりもさらに長い詠唱を唱える必要のある魔法である。唱える文章が果てしなく長いが詠唱が完成してしまえばとてつもない威力となる。

 

「相手にも近づけない……!?」

 

 精霊の超長文詠唱を止めようと近づこうとするアイズたちだったが、大量の触手によってアイズたちは阻まれ精霊に近づくことすらできない状態であった。

 

(空中からなら!!)

 

 ツナは空中から精霊に近づいていく。精霊は空中にいるツナに対しても警戒を怠っておらず、ツナにも触手を放ってくる。ツナは触手の雨を掻い潜りながら前進していく。

 が、

 

(しまった!!)

 

 だがツナの左足に触手が絡みついた。ツナの視線の先から触手が地面の中から飛び出し、ツナの足に絡まっていた。

 超長文詠唱を止めようという焦りによって前方に意識が集中してしまった為、下への意識が疎かになってしまっていたのである。

 するとツナを串刺しにしようと触手がツナに向かって一直線に向かう。

 

「ナッツ……っ!?」

 

 ツナは天空の雄叫び(ルッジート・デイ・チエーリ)にて触手の殺傷力を無力化しようとしたが、左足に絡まった触手がツナをグルグルと回し、そのままツナを投げ飛ばした。

 

「くっ!!」

 

 凄まじい勢いで飛ばされたツナであったが、なんとか体勢を整えると両手を後方に移動させて炎を噴射させて止まることに成功。地面へ激突するのを防いだ。

 

「【代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ火精霊(サラマンダー)ノ化身炎ノ女王(オウ)】」

 

 地面への激突を回避したツナであったが、破滅をもたらそうとしてくる精霊の超長文詠唱は進行中。破滅へのカウントダウンは徐々に迫っていた。

 

「総員、リヴェリアの結界まで下がれ!!」

 

 精霊の詠唱を止めることが不可能だと判断したフィンは退却を命令を出す。一同はリヴェリアの結界まで退却する。

 

「【大いなる森光(しんこう)の障壁となって我等を守れ。我が名はアールヴ】!!」

 

 そしてリヴェリアの魔法の中でも最強の強度を持つ魔法の詠唱が完了する。

 

「【ヴィア・シルヘイム】!!」

 

 リヴェリアの魔法円(マジックサークル)が光り輝き、一同をドーム状の結界が包む。

 

「【ファイアーストーム】」

 

 リヴェリアの結界魔法が発動したほぼ同時のタイミングで精霊の魔法が放たれた。放たれたのは津波のように広範囲かつ膨大な炎であった。炎は怪物(モンスター)たちも、密林も何かも燃やし尽くしていった。

 

「このっ……!!」

 

 この結界が壊されれば仲間の命の危機。最悪、死んでしまう。リヴェリアは死ぬ気で結界を維持していた。

 が、

 

「結界が……!?」

 

 だが一同に絶望的な光景が視界に映る。都市最強の魔道士の持つ最高強度の結界にヒビが入っていき、それが徐々に広がっていく光景を。そして理解する。リヴェリアの魔法ですらこの魔法を防ぎ切ることは不可能なのだと。

 

「ナッツ。形態変化(カンビオ・フォルマ)

 

 この絶望的な状況の中、ツナはナッツを形態変化(カンビオ・フォルマ)させた。するとボンゴレ・ギアに噴射口が取り付けられツナの炎圧が上がる。

 

「なっ!?」

 

 ツナは前に出るとリヴェリアの左肩を右手で掴むと、そのままリヴェリアを後方へと突き飛ばした。突然のことにリヴェリアは驚きを隠せないでいた。

 そしてリヴェリアの結界が膨大な炎によって破られた。

 

「はぁあああああ!!」

 

 ツナは結界が破られたと同時に両手を上に向けると掌と噴射口から炎を射出する。噴射口から炎を後方へ噴射することにより、後方へ吹き飛ぶのを阻止。前方に放った炎で皆を護る為に炎をドーム状に展開した。

 

(頼む!! 持ちこたえてくれ!!)

 

 ツナはありったけの炎を使って炎のドームを展開していた。それも炎を使いきる勢いで。

 

「うぉおおおおおおおおおお!!」

 

 ツナは雄叫びを上げるとさら炎圧がさらに上昇。結界がより強化なものとなる。

 そして精霊魔法による膨大な炎の波が消え去り、ツナは仲間たちを護ること成功する。

 

「防ぎ切った……」

 

「た、助かりました……」

 

 あの絶望的な窮地を脱することに成功したのだと知ってラウルとアリシアは安堵する。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 だがツナは片膝をつき、肩で息をしていた。超長文詠唱を防ぐのに膨大な炎を消費した為、流石のツナも消耗していた。

 

「すまない……私が不甲斐ないばかりに……」

 

「いや……お前の結界がなければ護り切れなかった……」

 

 リヴェリアは自身の未熟さ故にツナに負担をかけてしまったことを謝罪する。だがツナは自身の炎だけではあの魔法を防ぎ切るのは無理だということを理解していた。

 

(危機は乗り切った……だが……)

 

 絶望的な危機を乗り越えることには成功した。しかしフィンの表情は芳しくなかった。

 精霊の魔法による被害をゼロにした功績は大きい。しかし精霊に近づくことすらできない状態で、最大戦力であるツナが戦力ダウン。状況は今だに精霊の方が優勢であった。

 

(考えろ!! この状況から逆転する為の一手を!!)

 

 フィンは現状を把握すると精霊を倒す為の方法に思考をシフトさせる。

 その時だった

 

「【地ヨ唸レ】」

 

 ここで精霊はさらに別の魔法の詠唱を始める。絶望的な状況から乗り越えた矢先にさらに絶望がやって来ると知って、一同は凍りついてしまう。

 

「【来タレ来タレ来タレ大地ノ殻ヨ黒鉄(クロガネ)宝閃(ヒカリ)ヨ星ノ撤退ヨ開闢(カイビャク)ノ契約ヲモッテ反転セヨ空ヲ焼ケ地ヲ砕ケ橋ヲ架ケ天地(ヒトツ)ト為レ降リソソグ天空ノ斧破壊ノ厄災。代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ地精霊(ノーム)大地ノ化身大地ノ女王(オウ)】」

 

 絶望に打ちひしがれるツナたちの気持ちなど知らずに精霊は詠唱していく。

 

「【メテオ・スウォーム】」

 

 魔法円(マジックサークル)が上空に展開されると、そこから大量の隕石が現れる。

 

「ラウルたちを護れ!!」

 

 フィンは一同に隕石から回避する為の行動を取るよう指示。それと同時に59階層全域に大量の隕石が降り注いだ。

 

「うわぁああああああああ!!」

 

 降り注ぐ大量の隕石。凄まじい轟音とラウルたちの絶叫が59階層に響き渡る。そして隕石によって一同は吹き飛ばされていき、地面に大量のクレーターが発生。59階層は大量の土煙に覆われる。

 

「ぁ……」

 

「クソがぁ……!?」

 

 隕石が降り終わる。ラウルは死にかけの状態、ベートは地面に指を突き立てながら精霊を睨んでいた。

 

「大丈夫かアリシア………!?」

 

「リヴェリア様……!?」

 

 アリシアはリヴェリアに庇われていた。自分を庇って重症を負ったリヴェリアを見て涙目になりながらショックを受けていた。

 

「お前ら無事か……!?」

 

「ガレスさん……!?」

 

 無理やり笑顔を作りながらガレスも他のサポーターを庇って重症を負っていた。そんなガレスを見てサポーターたちもショックを受けていた。

 

「アイズさん……!?」

 

「大丈夫……!?」

 

 吹き飛ばされたアイズに手を伸ばすレフィーヤ。アイズはなんとか返事をする。

 アイズは即座に【エアリエル】を使って風の鎧を纏って防御したのである。だが隕石はいとも簡単に風の鎧を貫いた。

 

「生きているか……?」

 

「死にそうよ……」

 

 右腕が真っ黒に焦げた椿が自分と同じく倒れているティオネに質問する。ティオネは瀕死の状態でありながらも返事をする。

 ティオネはサポーターに回復薬(ポーション)をかけられている状態であった。

 

(生きてるみたいだね……)

 

 フィンは自分が生きているということを自覚すると、なんとか立ち上がる。

 

「フィン!!」

 

「ティオナか……どうした?」

 

 自分と同じくボロボロになりながらも、慌てた様子で自身の元に近づいて行くティオナを見て、フィンは何が起きたのだと理解する。

 

「ツナが……ツナの姿がどこにもないの!!」

 

「何っ!?」

 

 ティオナの報告を聞いてフィンは顔色を変える。他のメンバーも動揺を隠せないでいた。一同は周囲を見渡すもツナの姿だけがどこにもいなかった。

 

「そんな……!?」

 

「まさか隕石を何発も喰らって……!?」

 

 サポーターたちはツナが隕石を何発も喰らったせいで跡形もなく粉々になったのではないのかと推測する。ツナが死んでしまったと知って一同の士気が下がる。

 

「クソ!!」

 

 フィンは右腕の拳を地面に叩きつけながら叫んだ。ヘスティアと生きて帰ることを約束したのにも関わらずツナを死なせてしまったことに。

 

(いや待て……本当に死んだのか?)

 

 だがすぐに我に我に返る。確かにツナは炎の使い過ぎで消耗していた。それでも死んだ瞬間を誰かが見た訳ではなかった。故にツナが死んだとは断定するには早いとフィンは理解した。

 

(まさか!?)

 

 フィンは即座に精霊のいる方向に視線を移した。すると土煙が晴れていき視界が良好となる。

 そして

 

「はぁ!!」

 

 フィンの視線の先には上空から精霊の顔面に右ストレートを喰らわせたツナがいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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