日々の未来の青春譚 -メビウスアーカイブ- 作:逃げるレッド五号 5式
「――伝説はここから…始まる……!!」ドンッ!!
(これまた濃いのが来たな…しかもお隣の自治区の生徒か)
ヘビクラはドアを開けた先頭の少女の身なりを見て、瞬時に何処の学園出身かを導き出した。
言動は……気にしなくても良いだろう。
「ちょっと、ナツ! 玄関で突っ立ってないで早く中に入って」
「いやいや、凡ゆる物事には順序というヤツがあるのだよカズサ。つまりこれは――」
「ねえ、もしかしてお店混んでるの?」
「違うんじゃないかな」
9時過ぎに喫茶へやってきたのは、ここらじゃ珍しい“トリニティ総合学園”の…ザ・御嬢様校なセーラー服を着た少女達だった。
トリニティ総合学園。“有翼人”とも呼ばれる“天使族”の、それも学園都市の有力財閥や大企業の令嬢たちの多くが通う、騎士道精神と淑女としての礼節及び心構えを学び育む最上級名門校。
又、“キヴォトス三大校”の一角であり、地球の西欧諸国…特に
(他所からのご新規様は大歓迎の万々歳と喜びたい……が、よりにもよってゲヘナと犬猿のトリニティからとは)
「…見ての通り今の時間、席は空きに空きまくってる。お好きな所へどうぞ」
「ほ〜い」
「……どーも、おにーさん」
「私、ここの席ね!」
「失礼します」
…そして、自治区境界の大半を占める隣接校のゲヘナ学園との関係は、最悪。一触即発のギリギリを維持している笑えない状況だ。
古くからの因縁とも言うべきものが両校の間にはあるらしく、今でも生徒個人同士から部活同士に至るまで、自治区隣接地域とその周辺で大小の武力衝突が発生しているほど。
両校の多数派となっている種族同士の性格や関係が相容れぬから、と言うのもあるが、何故ここまで関係性が悪いのかの具体的な原因や理由は現在に至るまで判明していない。
「トリニティの学生さんだろ?ゲヘナ観光は初めてか?」
「いや、ゲヘナには何度かスイーツ巡りで訪れてるよ」
「ふっふっふっ……何を隠そう、我らは“放課後スイーツ部”ッ! まだ見ぬ甘味たちと出逢い、それを味わうことで感じられる幸せを分かち合うために結成したトリニティの精鋭チームなのだ。そんな我々に死角は無い…!」
「えっと、部員はこの場にいる四人で――」
「――全員一年生だったり」
“過去のあれこれは知らんが、とにかく憎い”。
特に何の理由もなく、トリニティとゲヘナの子供達を中心にして、両自治区の住人らの多くは世代を重ねても互いに差別と排斥を止めず繰り返しているのだ。
「スイーツ巡り、ねえ…と言うことは今日も?」
「そだね。まーもともと今回は、おにーさんのお店がターゲットだったわけなんだけど」
一年生オンリーのスイーツ部の中でも大人びた印象を受ける、黒髪ショートボブにマゼンタのインナーカラーが特徴的な猫耳生徒__
店主のカズサに対する来店時の第一印象は、「物静かで無愛想」だったが、こうして接してみると案外フランクでフレンドリーである。
彼女の話を聞くに、嬉しいことにどうやら茶店『蛇』の名はトリニティにまで届いてるらしく、密かに噂になっているのだとか。今回、その噂を確かめるべく、カズサら放課後スイーツ部はゲヘナ自治区へ「スイーツ遠征」なるものを発動してやってきたのだと言う。
……この子らのような、特段差別意識の無い普通の学生がゲヘナ・トリニティ両校で希少な存在であるなどとは思えない。思いたくはない。
だが…彼は知っている。挫折や絶望を何度も経て、それでもなんとか這い上がってこれた“大人”故に知っている。
互いにいがみ合い、蔑み貶し合ってきた者たちが、今日の明日で頭を下げて謝って、仲良しこよしの握手をしようなんてのは到底不可能…夢のまた夢であると。
一度、強い負の感情を
「……へえ、そいつは光栄だ」
辛気臭くなる話は置いておこう。
客は客、仕事は仕事である。向こうがこちらへ危害を加えない限りはしっかりもてなすし、敬意を払い差別はしない。これが彼の今の仕事へのスタンスである。
「今週は『朝から晩まで部活に打ち込みなさい』っていう生徒会指定の部活動強化期間ってヤツでさ、いつもの授業が免除されてるんだよね。だから朝イチの自治区間バスでゲヘナに来れたんだ〜」
それに、ヘビクラ自身はトリニティに対する負の感情は希薄であり、全体的な印象も「ちょっとドロドロしてそうな乙女の園」というもので落ち着いている。良くも悪くもかの学園並びに自治区と接点が__懇意にしてもらっている取引先の気の良い獣人族や実直なロボット族の大人ぐらいとしか交流が無いため__少ないからだ。
「ほお、イマドキ珍しいな。
「よその自治区の街並みとか、風景もゆっくり見たかったてのもあるかも。…私達、スイーツとかファッション関係以外だとトリニティから中々出ないから」
ふ〜むなるほど、とヘビクラは相槌を打ちながら、また別のある懸念が頭の中で膨らんでいた。
(……しっかしまあ
ヘビクラがトリニティから遥々やってきてくれた新規団体様である彼女達に懸念しているのは、それだった。
茶店『蛇』を出た後の、帰り道で縄張り意識の強い“過激派”とのいざこざに巻き込まれることと、その学園間でのトラブルとして発展し緊張状態にある両校の新たな火種となることを憂いていた。
(ま、なるようになる…か)
「へいマスター、一つ聞いてもいいかな」
ヘビクラは思考を打ち止めた。
どことなーく抜けた性格をしていそうな……否、間違いなく抜けている桃色ポニーテールのちっこい浪漫派感性女子__
「こん中でオススメのデザートを教えてくれ。とびっきりのやつを頼むぜ」
しかも、いつどこから取り出したのか、気付かぬうちにサングラスを掛けていた。何故だか妙にマッチしている。ヘビクラのおもしれーやつリストが久方ぶりに更新された。
彼女のこのノリは日常的なものらしく、カズサは特段アクションを返さずスルー、パーソナルカラーがシアンなチョコミント少女__
「モーニングでのおすすめは、“白玉アイス”だ」
「ほうほう、すんごくうまそげな名前のデザートじゃないか。そうは思わんかね、御三方?」
ナツが蛇腹式メニュー表をテーブル上に広げ、店長のオススメデザートの写真が載ってる箇所を全員に見せてやる。すると三人は揃ってそれを覗き込んだ。
ワイングラス染みたガラス製の皿に乗っている半球上のアイスとその周りに盛られた白玉、それらに満遍なく掛けられたフルーツソース…垂涎ものの甘味であるのは間違いない。
「へ〜アイスとソースはこの欄から自由に選んでいいんだ。それなら……おにーさん、私、ストロベリーアイスとストロベリーソースで」
「なら私はコーヒーアイスにチョコソースにしよっかな」
「チョコミントアイスにチョコソースをお願いします!」
「ミルクアイスとストロベリーソースをチョイスしよう。知ってるかな? 古来より牛乳と苺のコンビは――」
「――注文、承りました〜」
――なにやらスイーツの哲学、或いは雑学を口にし始めたナツを華麗にスルーし、注文を確認したヘビクラは厨房へそそくさと消える。
そこからは、注文のデザートを作り配膳。甘味の感想を受け取ったり、トリニティ関係のたわいない雑談を交わしたりし、彼女達が退店する時間になった。
「ご馳走様です。また来るからね、おにーさん」
「とっても美味しかったです!」
「あとで口コミ書いといたげる」
「大変美味であった〜」
「帰り道、気をつけて帰るんだぞー」
満足そうな顔をして店から出て行く放課後スイーツ部。彼女達の手には店のスタンプカードが握られていた。
また近いうちに訪ねてくれるだろう。
そん時は何かサービスしてやるか、と考えながら店長はトリニティ生の四人組を見送った。
―――12時。
昼時である。多くの人間にとっては午後への活力を得、英気を養うための時間であり、飲食を提供する側の人間にとっては最も労力を伴う忙しい時間だ。
平日の昼に訪れる学生客の数は、昼休憩の時間や立地との相性の悪さもあって少ない。が、来る者は来る。
だがこの時間帯に来る
そう、ここで言う猛者とは、学園のカリキュラムなど平気で蹴って自由を謳歌してるような問題児たちのことである。
――バアンッ!! ガランガラーン!
またしても荒ぶるドアベル。最早その音色は悲鳴に近い。
買い替えの最短記録が再更新されるのも時間の問題かもしれない。
「うふふっ。新たな美食の気配に惹かれて我慢できず…席は空いておりますか?」
豪快に開け放たれる木製扉。扉の向こうに立つのは、悪魔族の女子四人組。便利屋……ではなかった。
まず店内へ入ってきたのは、グループの先頭に立っていた、軍服を思わせるゲヘナの学園指定制帽を浅く被り
クールな表情で入店してきた秀麗な彼女だが、腰の黒い尻尾と背中にある蝙蝠似の片翼はそのイメージに反して忙しなくペチペチパタパタと動いていた。
「げ、お前らか……!」
「あら…つれない反応ですわね、ショウタさん」
「……尤もな反応だと思うんだが? そこんとこどう思われてもおりますか、
茶店のマスターはただ心底嫌そ〜に顔を顰めた。
彼はここまで露骨にげんなりするほど、彼女含むこの四人組に苦手…と言うよりも厄介な集まりだという認識をしているようだ。
「おっじゃまっしまーす!」
「ヘビのお兄さん久しぶり〜」
「フフッ♡ 来ちゃいました」
そんな彼の心情や表情とは対照的に彼女達の雰囲気は非常に明るい。残る三人もニコニコ顔で入店してきた。
「お前らっ!まだ一週間は出禁だっつっただろうが!!」
ここで珍しく声を荒げて待ったを掛けたのはヘビクラだ。期限付きの出禁処置を下したグループが平然と飲食サービスを利用しようとしているこのおかしな流れを止めなければならなかったからである。
「あら?何のことでしょう…?」
「こんのテロリスト共ぉ…反省の“は”の字すら見えねえ」
銀髪の少女、
「…ヘビクラさん。貴方、私たちが何者であるか忘れているのではなくて? 私たちは世に存在するあらゆる美食を日夜追い求める同志の集まり……“美食研究会”ですわよ?」
ゲヘナ美食研究会。略して「美食研」とも呼称される、グルメレビューや食事に関する研究・探究を行なっている部活である。
先にも紹介した会長を務める三年生、
底無し胃袋の持ち主である三年生、
ゲテモノ通な二年生、
少食な暴食屋の一年生、
――以上四名から構成されている。
四人の
ここまで纏めると、一見普通の…午前の団体客だった放課後スイーツ部のようなふんわりとした部活かもと想像するだろう。
……がしかし、現実は
そのあまりの過激さ、活動によって発生する損害や風評から、母校たるゲヘナ学園では“要注意部活”として風紀委員会・万魔殿から認定されており、ゲヘナ領内ではその動向を会員単位で同学園の諜報機関“情報部”に随時監視されてるほどには大変警戒されている――
「私たちは其々が美食と捉え考える料理への愛で満ちて……いえ、溢れております。その自由で開かれた愛と終わりなき探究の道の前では、どのような事柄も些細なものへと変わるのですわ!」
――が、意外なコトに美食研はこれまで体制側の部活、委員会等から指名手配や活動停止、活動是正要求を受けたことはあるものの、強制捜査や解体命令といった類いのお達しを受けたことが無い。
その理由は簡単で、彼女達が行なっている行為とそれによって引き起こされる事案…その凡そ半分ほどが、図らずも風紀委員会、万魔殿、情報部にとって
ここで、彼女らが暴れる「ある特定の条件」に結びつく主な
詰まるところ、美食研は自分達独自の尺度で定めた“食”の道理を外れた禁忌行為を犯した対象に制裁を加えているのである。
「黒舘、お前らのこと頭ごなしに全部否定する気は微塵もないんだけどな?………“自重”って言葉、知ってる?」
食材の産地偽装から衛生管理の不徹底に至るまで、“食”に関する凡ゆる不正、不法、罰則行為や問題を起こした個人や団体のみに実力行為での是正運動を独断で展開しているのだ。
無論、これらは私刑行為のそれに等しい…のだが、実際、情報部でさえ輪郭が掴めない悪徳な飲食提供業者や団体が彼女達の爆破テロによって露見することも多々あり、風紀委員会及びヴァルキューレ警察ゲヘナ支部署が捜査・摘発のために動く足掛かりにもなっている側面がある。
故に治安維持組織から意図的に野放しにされていると言っても良い。
ただ上でも触れてるように、たしかな彼女らなりの信念や使命感の下に行われているものとは言え、やり方がどれも過激で度が過ぎてるために、見えぬ悪を成敗し公にする義賊として評価する者もいれば、単に自己中心的な悪党であると断ずる者もいる。
「美食家の辞書に、そのような言葉は載っておりませんわ。仮に載っていたとしても、すぐに破り捨てますので」
「そっかぁ」
又、美食研はSNSに公式アカウントを開設しており、そこではかなり詳細かつ正確なグルメレポートや美食、食事への価値観、こだわりを真摯に発信・掲載している。
同アカウントのフォロワーは五桁を軽く超えており、キヴォトス飲食業界でも有数のインフルエンサーとして数えられ、このアカウントから評価を受けた飲食店はたちまち繁盛するようになるのだとか。
なお、稀にこのアカウントの投稿から犯行予告や上記の不正業者等の情報発信も行なわれるので、なんとゲヘナ風紀委員会やヴァルキューレ警察公式アカウントからもフォローされていたりする。
「……と、言うことでヘビクラさん? 本日早朝、便利屋の後輩達に提供したと言う新作オムライスをお願い致しますわ」
哀れにも、そんなある意味傍迷惑なゲヘナ生たちのお眼鏡にかないロックオンされたのが、茶店『蛇』とそこの店長であるヘビクラなのだった。
「なーにが、と言うことで、だ。……待て黒舘、どっから試食の話知った?」
「ですから美食の気配を察知して…ですわよ。美食ある処に美食研あり…なのです。詳細については企業秘密、ということでよろしくお願い致しますね」
「そっかぁ………………んじゃ、大変心苦しいのですが、本日のところはお引き取りください」
虚空を仰いでいたヘビクラが出禁団体排除のため動く。一切の感情を殺し、ロボットのような無表情で四人組を店の外へと押し出しはじめた。
「ちょ、ちょっとお待ちくださるヘビクラさん!? それはあんまりな仕打ちではありませんの!?」
「そうだそうだー!横暴だよー!厳重に抗議するー!!」
「店長さ〜ん、私たち…我慢はあまり得意じゃないですし好きでもないんですよぉ〜?」
「オムライス…おいてけ……オムライスおいてけぇ!」
これに対して美食研側は一部の会員が極度の空腹から凶暴化するなどして頑強に抵抗。
「何遍も言わせんな、出禁期間中だろうが!期間過ぎてから来いって言ってんだよ!」
大の大人1名vsグルメ女子4名の、一進一退の不毛なる攻防が店内にて勃発した。
さながら、おしくらまんじゅうの様相を呈している。
「駄目なもんはダメだ、ケジメはしっかりつけろ! 大人しく帰れ!!」
人はなぜ争うのか。なぜ分かり合えないのか。愛とは何か、正義とは何か…本当に不毛な争いだ。
店主の元相棒であり知人である風来坊がこの光景を目にしていたのなら、吹き出して大いに笑ったことだろう。
「――――あーもう、分かった!分かったから! ほらっ、新しく作ったケーキセット、これで今日は引き下がれ!な?」
ブーイングを垂れながら店の外まであと一歩のところで踏ん張り続ける美食研。これを鎮めるためにヘビクラは最後の手段を採った。
デザートメニュー試供品の提出である。
数種類のケーキが詰められたボックスが入った手提げ袋をハルナに押し付け、「新しく作ったケーキセット」という単語に意識を割かれ守勢が削がれた美食研を何とか店から押し出すことに成功した。
「……しょうがありませんわね。今日はこのケーキセットとヘビクラさんの誠意に免じて、手を打つことにしましょう」
玄関のドアを境に立つハルナが不服そうな他の会員たちを諌めつつ、退散することをヘビクラに約束した。それも、頬をやや赤く染め嬉しそうな声色で。
その後、彼女達はまだ日が昇っているゲヘナの街中へと消えていった。
「く……無駄に疲れた…」
顎下に伝う汗を、袖を捲った腕で拭いながら、膝へ手を当て息を整えるヘビクラ。その両肩は呼吸に合わせて大きく上下していた…大人に急な運動はキツイのである。
こうして
―――15時半。
所謂「おやつのじかん」に該当する時間帯だ。
現在、茶店『蛇』には、テーブル席に客が二人座っている。
「――苺パフェ最高〜!」
「同じく、さいこー!」
苺パフェをスプーンでつついている客二人は地元ゲヘナの高等部生徒である。
片や桃髪のギャル系JK、片や白髪のサバサバ系JK……両人とも“陽キャ”に種別されるだろう活発そうな印象を与える女子であった。
「そういや
「だいじょぶ! 今日はウチらのクラス、午前授業だったから!」
「どうヘビっち、羨ましいでしょ?」
厨房で洗い物をしている店主から投げかけられた問いにまずサムズアップと共に元気に答えた桃髪JKが、
「あー羨ましー羨ましいわー」
「えー?なんかワザとっぽくない?」
「喋り方に感情が籠ってないよね」
「ソンナコトナイゾー」
彼女たちはゲヘナ学園の帰宅部__リーダー的立ち位置のキララ本人は“キラキラ部”と自称している__である。故に放課後は他の委員会や部活に所属する生徒らと違い、このように食べ歩きやショッピング等を楽しんでいるのだ。
「……んまあ、俺は好きでこの仕事やってるしなァ。休日=仕事が無い日になるし、羨ましさとか魅力ってヤツはあんまし感じないな」
「おー、大人の余裕っぽいのを感じる!」
「日々が充実してるってわけだ」
「そーそーそんな感じ」
三人で話をしていると、不意に玄関のドアが開く。新たな来客のようだ。
―――ギイ、カランカラーン!
「いらっしゃい」
ドアベル君の音色が荒ぶ……ることはなかった。優しく丁寧にドアが開けられたからである。少しだけ玄関口のオブジェクト群の寿命が延びた。
「どうも…店長さん。お久しぶりです。予約していた特製プリンを受け取りに来ました」
「おう
「はい。
扉をそっと閉じ、店主に軽く会釈をしたのは、ボリューム満点なえんじ色の長髪が目立つダウナー少女だった。
ゲヘナ学園生徒会にして自治政府の“
彼女は
又、同組織内の数少ない常識人であり隠れた苦労人の一人であったりする。
「いっつもパトロールご苦労さん。今日もコーヒー、一杯飲んでくか?」
「ええ、勿論いただいていきます」
彼女を一言で表すならば、「頭の回るサボりの達人」だ。
不要な労力が発生する突発的な面倒ごと、厄介ごとには極力関わろうとはせず、どうすれば体力や精神の摩耗を抑えられ、安定して効率良く且つ他人にバレず小休憩ができるのか…それを実際に計画し実行に移して成功させているのが、この棗イロハなのである。
ただ、与えられた業務は真面目にキッチリこなすので、自己中心的なサボり魔では無い。彼女曰く、大抵のサボり行為は性格から来ていることを否定しないが、上司の無茶苦茶な命令を躱す方法の一つとしても常用している、と証言している。
「イロハっち、はろはろ〜!お仕事お疲れ様〜!」
「はろはろ〜イロハっち。今日もあのおっきい戦車で来たの?」
「はろはろ〜、です。はい、イブキが大好きなプリンの調達で…」
イロハは定期的に茶店『蛇』へ業務の一環で、週に一度訪れている。
それは万魔殿のマスコット的生徒、飛び級生のイブキが毎日午後三時に食べるおやつ…茶店特製の特濃プリンの買い出し補充である。
「そういやイブキはどうした、連れてきてないのか?」
「…イブキは私の
「……それ、ゼッッッタイに羽沼絡みだろ」
「ご名答です。マコト議長があの子と約束してた
「あー、あのゴメスねぇ……それはまあ…そうなるか」
……
それは万魔殿装甲師団所属の重戦車という武力を定期的に同店と学園を往復させることでの「勢力圏の誇示と同領域での諸犯罪・非行の抑止」だ。
恐らくコレは、史実世界の21世紀地球・日本国をはじめとするアメリカ合衆国と同盟関係にあった各国が受けている“核の傘”と同様の効果を狙っているものと推測できる。ただ、一国の行政組織と首都の外れにある個人経営の喫茶店という小さいのか大きいのか分からない規模と対象に置き変わっただけである。
「――ですので、早くイブキに機嫌を直してもらわないと私含め万魔殿の役員の九割強が機能不全に陥ります。それを防ぐ為に今日は私一人で来店しました。因みに虎丸の師団無線から聞いた報告では、現時点で万魔殿本部施設内勤務者の六割が既に脱落してるっぽいです」
イロハの口からもたらされたのは万魔殿の壊滅具合。
三人は己の耳に入ってきた情報の内容を疑った。
「え、イロハっち、イブキちゃんのそれ大丈夫なの?」
「ちゃんと重大インシデントに発展してんじゃねえか」
「マジで?明日学校無くなってるかもしれないってこと?」
……このままではゲヘナに明日は無い。風紀は乱れ、ヒノム火山は噴火し、“
カウンター席に座りミルク無しシロップ少々のアイスコーヒーを飲むイロハを除く、三人の顔がもれなく引き攣った。
件の生徒……丹花イブキがゲヘナのアイドル兼マスコットと言う評価や認識は前々から学園内であったものだが、ここまで影響力がある子であるとは正直思わなかった。
これなら「今のゲヘナのリーダーは誰か?」という質問で彼女の名前を出してしまう生徒がいるのも、今回の惨状を見れば無理からぬことだと言えるのかもしれない……多分。
「……なあ、やっぱもしかしなくても、棗にコーヒーご馳走してる場合じゃない…よな」
店主は訝しんだ。彼の問い掛けに仲良し帰宅部コンビが普段は見せない真面目もマジメな表情でコクリと揃って頷きそれを肯定する。
学園が国と定義できるこのキヴォトスで、自治区の運営を司る中枢…政府たる生徒会が「無い」状態となるのは致命的である。
先のD.U.全域を支配している
「――言われなくとも、ここでカフェインと糖分の補給を済ませたら直ちに戻りますよ…」
「それなら良いんだが、帰還途中に虎丸乗員の全滅だけは避けろよ…」
一瞬だけ眉間にシワを寄せるイロハ。
しかしすぐにいつもの仏頂面に戻ると、まだ半分ほど残っているコップを口に運ぶや否やぐいっと傾け、一気にコーヒーを飲み干した。
「――――ぷはっ……あたぼうです。コーヒー、ありがとうございました。代金はここに」
「ほ〜い、あんがとさん」
「それでは失礼します」
中身が空いたガラスコップを代金とセットでカウンターの向こうにいるヘビクラへ渡し、逆に彼から渡される__一週間分のプリンが詰められた保冷剤入りのテイクアウト用の__白の紙箱を掴み、席から立ち上がると小さく会釈して退店。
――ガチャッ カランカラーン
「…………二人とも…取り敢えずパフェ、おかわり…する?」
喫茶店から出来ることは、無い。あとはイロハ次第である。
故にキララとエリカは店長から提案されたパフェの二つ目を迷わず追加注文。それを完食し支払いを終えた後、茶店『蛇』から出た。
ヘビクラはパフェグラスを四個洗った。
……翌日の結果だけを記すと、ゲヘナは変わらず朝からゲヘナしていた。イロハがプリンでイブキとの和平交渉を成功させたのだ。
斯くして、ゲヘナ崩壊の心配は杞憂に終わることとなる。
―――17時過ぎ。
昇っていた初夏の太陽が地平線の彼方へと沈み始め、空が暖かなオレンジ色に染まってゆく。多くの人々が家路に就く時間だ。
茶店『蛇』にはこの夕刻あたりに、夕食…ディナーメニューを頼む客がそこそこの数、訪れる。
「お前も、そろそろまた整えないとなぁ」
今は夕方繁忙のピークが過ぎ、ヘビクラはと言えば使用済みとなったテーブルの後始末を終わらせ、ハルカから返された盆栽を弄っていた。
――バアン! ガランガラーン!
憩いの時間は短かった。
無慈悲かもしれないが、思い出してもらいたい。ここはゲヘナである。
無造作に開けられ、店内の壁と激突する扉。そしてそれに引っ付いている運命共同体とも言えるドアベル君がこの店の主人に
彼ももう………長くはあるまい。
「ハーーハッハッハァ!! 店主よ、今日もキンッキンの冷凍ラムネを頼む!」
高らかな笑い声を上げ、ほぼ蹴破る勢いで店内へ入って来たのは、白衣を纏った背丈の低いツノ持ちのゲヘナ生だった。
「
彼女が白衣の下に着ている赤シャツには所属組織…部活のロゴが描かれている。
「んん?何やら誤解してはいないか、店主。今日は
「それも含めて言ってんだろうが」
……その所属部活は“温泉開発部”。同部は便利屋並びに美食研と同じく、要注意部活認定を受けており、幹部級生徒全員が顔写真付きで指名手配もされている。
部活名にあるように主な活動は
…現在の温泉開発部は当代部長の思想に強く影響されていて、浪漫・芸術路線に傾倒している。
「こう見えても、我々も協定に従い活動しているんだがねぇ」
その部長がカスミである。人心掌握術に長け、持ち前のカリスマ、温泉と__本人が趣味の一つとして挙げている__“爆破”への旺盛かつ異質な情熱と相まって、部員たちからの信頼は心酔の域に達している。
温泉開発の最前線指揮官…現場監督を毎回自主的に担ってきたことで培われた狡猾さと戦術眼には目を見張るものがあり、他勢力の参謀役生徒らと比べても引けを取らない。
「発破で生じるクソでかい振動と轟音が俺の睡眠を妨げてるんだわ。店に直接的な被害がなくとも、俺個人には色々と苦痛が来てんの」
「それはすまない……が、こちらとて努力は惜しんでいないぞ?」
又、そもそもの地頭が良く、機械に対する幅広い知識と開発能力を持ったメカニックでもあるが故、温泉開発部は彼女が作り上げた
「はあ……ンなら、もっと発破の回数とか抑えるなりしてくれ」
「うむ、その件については善処すると約束しよう!」
「…
「ああ、メグには一年生たちに
「ホントに物騒なモンばっか揃えてるよな……」
「ハーッハッハッハッ!! 褒めても今は手製ダイナマイトぐらいしか出せないぞ店主よ」
「褒めてねぇっつの。あと店内は爆発物厳禁だ」
「おっと、これは失敬」
ひょいっと何処からか出した赤い筒を仕舞うカスミ。そして何事も無かったかのようにカウンター席に座った。
「今日も
「ああ。それで頼む。いやあ店主には感謝しかないぞ!こんな上手いラムネは味わったことが無かったからなあ!」
体と不釣り合いなサイズである白衣…萌え袖となったそれをブンブン振り回すカスミ。
この店を訪れる彼女ら温泉開発部には冷凍処理が為されたラムネが人気を博している。
これは、キンキンに冷えた炭酸飲料とその容器が、過酷な熱射の中で長時間作業する彼女たちにとって冷却剤になるのと同時に、水分・糖分も補給できる命の水となるからである。茶店『蛇』の特製ラムネには百鬼夜行の自治区を流れる一級河川から汲んだミネラル満点の天然水が使われているのだ。
その美味さは目の前のカスミの反応を見れば一目瞭然だろう。
「…………さて、鬼怒川。いまからでも今夜の予定は変更しちゃあくれないか?」
改まり神妙な態度と表情でカスミに問い掛けるヘビクラ。
「フハハ!……すまないが店主よ、それは出来ない相談だ。こちらも譲れないモノというのがあるのだよ」
「そっかあ……」
彼の心からの訴えは軽く却下された。どうやら、これ以上の交渉は無駄らしい。
だがヘビクラも引き下がらない。彼は今、かけがえの無い毛根と胃壁の明日を守る戦いに身を投じているからだ。そう易々と諦めたりはしない。
ならば…と、昼間と同じく虚空を仰いでいた店主が動く。
「――これ、鬼怒川が常連だから話すんだけどな?」
………彼は幾度も死線を潜り抜けてきた“大人”である。「こんな時のため」の
それを今、叩きつける。
「今日の夜、ここらを風紀委員長が周るらしいぞ」
無論、嘘である。大嘘だ。
しかしながらカスミにとっては――
「ひ、ひぇええええっ!! な、なぜ空崎ヒナが!?」
――効果は絶大。彼女も現風紀委員長の
知略に優れ、大人数の部員を完全に統率するカスミであっても、どんな障害も正面から消し飛ばす風紀委員長だけは抗いようの無い天敵なのだ。
「そりゃお前…深夜パトロールでだろ。それに、前も言ったと思うがアイツもここの常連だぞ?」
半分嘘、半分事実だ。実際彼女…風紀委員長は今日の夜、この店を訪れる。予約客として。
治安維持という責務に忠実な彼女のことだ、その時間帯に要注意部活(
そう考えれば、ヘビクラはほぼ十割事実しか言っていないとも言えた。
「ひぇっ…よりにもよって何故今日なんだ! …ええい、こうしてはいられん! すまんが店主、今日はこれで失礼する!メグたちと合流し、作業予定の変更と代替案を早急に考えねばならなくなったからなっ!! 有益な情報の提供、感謝する!!」バヒューン!!
「おー、気をつけて帰れよ〜」
―――ガチャッ! カランカラーン!
カスミは大急ぎで退店した。ヘビクラは若干の申し訳なさを感じたが、後悔はしていない。
実際問題、彼女らが引き起こす爆破事故等は最早遊びの範疇ではなく、立派な大規模テロであり、所謂「悪の所業」だ。叱責で済むモノでは無くなっている。
だが、今の彼女達…キヴォトスの子供達の大半は、見ず知らずの人間による熱心な説得を聞き入れ悪行を止めるほど素直で利口でもない。しかも、それなら実力行使で無理矢理にでも…とやろうすれば、今度は頑強に抵抗し、逆にこなくそとやり返してくる。
故に、時にはこのような方法が一番有効かつ適切であったりするのだ。
ある時には行動の抑止是正、またある時には行動の助長推奨の効果を与える「噂話」なるモノが、学生にとって貴重な情報源の一つであるのは、いくら文明が発展しようとも何処の世界であれ不変らしい。
「問題はこれで何日もつか、だな…」
さて、件のウワサ…「風紀委員長単騎による直轄市街地での抜き打ち夜間警邏」であるが、今回は前者の効果を遺憾なく発揮したと言えよう。
既にカスミが走りながら、無線で現場組の全部員に緊急招集を掛けているハズだ。恐らくはこれで暫くの間は…カスミが次なる一手を導き出すまで、直轄市街地郊外での温泉開発部の活動は沈静化することだろう。
取り敢えず今日は安眠できそうだ。
―――凡そ18時10分。
日が暮れ、月明かりと夜闇が世界を支配している。
ただし市街地…建造物が放つ文明の光は途絶えていない。それはディナーメニューのラストオーダーが18時半である茶店『蛇』もだった。
同店の閉店時間は19時である。この時間まで居座る客はあまりいない。
「―――なるほど。郊外全域から
閉店間際ということもあり、店内の客はカウンター席に座る幼い見た目をした悪魔族の少女のみ。
「ああ。勝手に名前使って悪かったな
「ショウタが謝る必要は無い。実際、私はここに来ている。抑止の手段としてそれが有効であるなら、今後も使ってくれて構わない」
だが驚くなかれ…その背丈と体躯には不釣り合いな黒と紫の重厚な“
「客としてだろ?」
「来た事実に違いは無い」
ぴしゃりと言い切ったヒナは、自身の目の前に置かれているデミグラスハンバーグセットの攻略に戻った。
一口食べる毎に、そのアメジスト色の瞳がキラキラと輝く。目つきも普段の冷たく鋭いものから、穏やかな“オフ”のものに変わっている。
「…それと、情報部から話は聞いた。温泉開発部以外に、便利屋と美食研も姿を見せたって」
「あー。そうだな…今日は珍しくゲヘナの三大問題児組が全部来た。―――そろそろ頭ハゲそう」
疲れた笑いを見せる闇の店長。…毛髪の危機は割とガチだったりする。
「ショウタも大変なんだね…」
それは似た境遇に身を置く者だからこそ、彼の行ないを見てきた彼女だからこそ出た、共感と理解を含ませた労いの言葉であった。
「風紀委員長サマほどじゃねえよ」
謙遜するヘビクラ。
ゲヘナで短くない時を過ごしてきた彼もまた、彼女の…大人さえ真っ青になるぐらいの人知れぬ苦労や努力の数々を見てきた。
いつ報われるかも分からない活動を淡々と毎日休まずこなし、自分の時間さえ惜しまず返上して職務に臨む彼女を見てきた。
だから彼は否定する。一番頑張っているのはお前だと、否定する。…そして身を案じてしまう。
その小さくも大きく見える疲れた背中を見ていると、何故だか放ってはおけないからだ。
「……空崎、お前もちゃんと休む時は休むんだぞ。ガキの頃の睡眠ってのは大人の睡眠の何十倍も大切だからな」
きっとそれは、ヘビクラが無意識にヒナの姿をこれまで出会い別れた誰か…或いは全員と重ねているからに違いない。
「うん…分かってる」
「なら良い」
…そこから暫く二人が言葉を交わすことはなかった。
閉店時間を気にして、ヒナが食事に集中し始めたからである。
それを察したヘビクラが、だから時間は気にすんなって言ってるだろと苦笑する。
ヒナは風紀委員会の業務内容と勤務時間から、日中に茶店『蛇』へ赴くことがほぼ不可能だ。
大抵いつもラストオーダーの時刻手前に来店して料理の注文を済ませ、店主と一対一で雑談をし、時計を見て思い出したかのように食事へ勤しみ、店主がゆっくり食えと言ってもそれを頑なに固辞する…と言う動きが、彼女の茶店ルーティンとなっている。
「―――ご馳走様。今日も美味しかった」
「それはそれは……かの風紀委員長サマからお褒めに預かり、光栄の至りでございます」
「…ショウタ。それ、やめて」
「へーい」
ヒナの鋭い眼光がヘビクラを射抜く。
しかし彼が動じることはなかった。どこ吹く風と間の抜けた返事をするだけである。
このやりとりも、何度か交わされてきたものだ。
…ヒナの翼の動きをよく見れば、先の発言と態度とは正反対に、満更でもなさそうにパタパタ羽ばたいていた。
「それじゃ、またねショウタ」
風紀委員の制服を着直し、愛銃“終幕:デストロイヤー”を担いだヒナが別れの挨拶を告げる。
「おう。スタンプカードも新しいの用意しとくわ。帰りは気をつけてって…言わなくても大丈夫だったな。風紀の活動、頑張れよ〜」
「うん、頑張る。…………風紀委員会は、いつでも貴方のことを歓迎する。
最後に、「たまにはこっちにも顔を出してほしい」という旨の、遠回し気味なお誘いと何らかの一件に関する回答への催促をして、彼女は店をあとにした。
―――バタン…!
「“指南役”ねぇ……」
一つ大きく深呼吸をしてから、ヘビクラがぽつりと呟く。
「やだやだ、ガラじゃねえんだよな、ガラじゃあ……」
ヒナが店のドアを閉める瞬間まで浮かべていた優しい微笑みはスッと消え、何か思い詰めたような…どこか物悲しい表情になっていた。
彼は店の窓から僅かに見える星空を見遣る。
「……遊び盛りのガキにチャカとかチャンバラなんて、要らねえだろうがよ」
闇の店主が低いトーンで吐き捨てた言葉は、誰にも拾われることは無かった。
―――夜が、更けていく。
―――
殆どの住民が寝静まる深夜。
直轄市街地郊外の外れのハズレに在る、今は稼働しておらず、不良でさえ近づきたがらない不気味な産業廃棄物処分場。
――ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…!
無機質で生気を感じさせぬ、不気味なほどに揃った多数の足音。それは「軍靴の響き」を想起させる行進である。
「……コイツらどっから湧いて出てきたんだ?」
処理場のど真ん中に、刀を握った邪悪で禍々しい風貌のヒトガタが…
……月明かりに照らされる、それらの白色の金属質なボディには、本来あって然るべき製造メーカーや登録番号といった記載義務情報が一切刻まれていなかった。
「さてはオマエら、ゲヘナの外から来やがったな」
それに対し、頭部の光学センサーを黄金色に発光させながら、粛然と半包囲の陣形で詰めてくる人型オートマタたち。
全機体が__キヴォトスで流通していない未知の__実弾型自動小銃の照準をジャグラーへ合わせた。
――ジャキッ!
「………そうかよ」
彼等の返答は、鉛玉であった。
――ババババッ! ババババババッ!!
発砲と同時にジャグラーは予備動作を経由せず、オートマタの反応速度を凌駕する超人的脚力を解放し、フェイントも混ぜず真っ直ぐ駆け出した。
超高速で動く彼から滲み出る闇のオーラが、「質量を持った
…真っ正面から吶喊してくる魔人へ、集団中央のオートマタ数体が辛うじて弾丸を命中コースに運ぶことができたが、それらは全て抜刀斬撃によって無力化され魔人へ損害を与えるには至らなかった。
「流れ弾が夜更かしした市民の皆サマに行っちゃ目も当てられねえ。…さっさと斬るか」
この時点で、ジャグラーとオートマタ軍団前衛の彼我の距離は数mまでに縮まっていた。
魔人の双眸が獲物を見定め、翡翠色に鈍く光る。
「この一太刀で
そこは、既にジャグラーの間合いである。
―――ザンッ!!!!
“蛇心剣・新月斬波”…三日月型に生成された闇のエネルギー刃を横一線に放つ、“蛇心流”剣術における大技の一つである。
闇が高濃度に凝縮された斬撃は、生物はおろか、鋼の肉体を持つ機械存在も容易く斬り裂く。
「……オマエらに地獄があるかは分からんがな」
暴走オートマタ集団が形成していた包囲陣のど真ん中で新月斬波を繰り出したこともあり、暴走オートマタの大半は機体の上下両断を受けて沈黙。被弾が軽微であった機体も、斬撃の余波と直撃を喰らった残りの機体の爆散に巻き込まれ機能停止に追い込まれた。
暴走オートマタは残らず全て、金属スクラップへと還った。
「う〜ん、爽快。切れ味バツグン♡」
蛇心剣の反り部分を指でなぞるジャグラーは、砂利の地面に転がる一体のオートマタの残骸へ歩み寄ると、腕部ユニットが握っていた無傷の小銃を拾い上げた。
「さあて、
彼、魔人ジャグラスジャグラーは、最近ゲヘナ自治区及び
依頼の契約金は高額で、受ける依頼も夜間限定であるが、受けた依頼の完遂率は驚異の100%。凄腕も凄腕だった。
「…無駄を徹底的に廃した軽くて扱い易い、至ってシンプルな実弾銃、だな。良い銃だ。……だが、デザインに人間味がまったく
今回の暴走自動人形群との戦闘も、ゲヘナ地元企業からの「市街地郊外の産廃廃棄場に未登録かつ無所属と思われる正体不明のオートマタが複数侵入し稼働し続けている。調査をしてほしい」という依頼を遂行した結果だ。
調査対象が攻撃してきたため、純粋な調査ではなくなってしまったが。
「……推理ごっこするには何もかんも足らな過ぎじゃね?」
推理考察に使えそうな情報源はそこらに散らばるオートマタの残骸とそれらが所持していた装備のみ。
ここで悩み続けていても答えには辿り着けそうになかった。
「取り敢えず依頼は完遂、っと。ついでに風紀の〜……
思考を切り替えたジャグラーは、依頼主に依頼完遂を、虚空から取り出した
その後モモトークアプリを開き、【甘雨アコ】なる人物との個人チャットに先の画像を僅かな文章__コレ、調べとーいて♡って感じのやつ__と共にブン投げて閉じた。
――ザッ!
その時、背後十数mの距離で何者かが砂利を踏む音が聞こえた。
殺気を感じなかったため、魔人は刀を腰に戻し、ゆっくりとそちらへ振り向いた。
「ンン? よお、鬼方ァ」
そこには便利屋68の課長…カヨコがいた。
彼女の脱力した右手には
背後の相手が誰か判明したジャグラーは、フランクに彼女の名前を呼んだ。ジャグラーはカヨコと知り合いであるらしい。
カヨコの方も表情を緩め、それに応えて空いている左手を小さく振った。
「なんだ、
………そう。傭兵魔人ジャグラーは、ヘビクラが変身した姿。詳細は省くが、ヘビクラは“闇の魔人”としての力を備えているのだ。
彼はその力を使い、人知れず深夜に傭兵活動をしていた。
「ああ、まあそんなとこだ。……で、なんで鬼方がここにいんの?」
カヨコの質問に答えながら、ジャグラーはヘビクラの姿へと戻った。
尚、ヘビクラは自身が傭兵ジャグラーであることを公言していない。
それなのにカヨコがヘビクラがジャグラーだと知っているのは、過去に一度彼の変身を目撃したからだ。
「ウチの事務所によく遊びに来る野良の子がいたんだけど…最近顔出さなくって心配で。その子が大体どこを縄張りにしてるかは知ってたから、それで探してたんだけど……」
……カヨコは、猫が大の好きだ。
和解せんとする勢いで好いている。
「あー、ドンパチの音聞こえたから様子見に来たワケだ。んでそのネコは見つかったのか?そっちの方が大事だったろ」
「うん、見つけたよ。その子、他の野良に世話焼いてた」
ヘビクラは店を出て近場の路地裏で魔人に変身しているが、これを偶然にも猫探しの依頼で同じ路地裏に入ってきたカヨコに見られたのである。
何とも言えないが…これが本当に身バレの理由だ。
だがカヨコは常識人であり口は堅い。ヘビクラのもう一つの姿については深く踏み入って聞こうとはせず、便利屋の仲間を含むゲヘナの他住民に言いふらすこともしなかった。
「んじゃ、ちょうど帰るとこか」
「そんなとこ」
故にヘビクラの二重生活を知る者はキヴォトスでカヨコ一人なのである。
………今のところは。
そこから、やることを終えた二人はたわいもない雑談をしつつ、家路への歩みを進めるのだった。
その頭上では、綺麗な白い三日月が、静かにゲヘナ自治区を照らし見守っていた。
―――闇の
あと
がき
皆様、わっぴ〜!(気さくな挨拶)
健康診断で肝機能系がレッドラインだった
はい、今回はゲヘナのネームドラッシュ回でした。ミライ先生サイド軽く超える人数出ましたね…なんでだよ。
書きたい内容を一話で全部収めようとしたら、どの内容もかなり駆け足気味になってしまった…便利屋の社長と一緒に反省します。
※毎度お馴染みピックアップ解説コーナー
(独自設定独自解釈共にもりもり)
今回も長め。ホントに補足しかしてないんで、すっとばしてもらっても問題無いです。
◯トリニティ総合学園・放課後スイーツ部
トリニティの誇るスイーツ・デザート四天王。
和洋中…ありとあらゆる甘味を味わうべく、活力ある四人の一年生たちによって結成された新進気鋭のほのぼのグループ。
銃火器が絡む火薬臭い騒動に巻き込まれたりさえしなければ、後述するゲヘナの
茶店『蛇』の常連になるっぽい。取り敢えず再来店は確定している。
◯ゲヘナ学園・美食研究会
ゲヘナの誇るグルメ四天王。
会員の単独行動が存外多く、必ず集団で何か(やらか)してるという訳ではない。そのため規律ある部活…というよりもカジュアル勢もガチ勢も集う上下関係の無いエンジョイ系緩め同好会のような雰囲気に近い。
だが、要注意部活として知られているだけあり、メンバーそれぞれが自らの美食への信念を貫き通すための、料理・食事にまつわる
茶店『蛇』グランドオープンの際には、公式アカウント“@EATorDIEOfficial”で宣伝するなどした。
過去に数回、何故かヘビクラのことを簀巻きにしようと試みたが闇の気配察知で尽く避けられ捕縛を断念するに至っている。
ヘビクラと知り合ったのは便利屋68よりも一月遅い二ヶ月前…彼が店を開く準備期間中あたりである。
同校給食部の二名が(不)名誉会員となっている。
茶店『蛇』の常連グループその2。
◯ゲヘナ学園・情報部
名前が出たので独自設定(強火)込みで一気紹介。
学園内外での諜報活動を主な任務とする非公表部活。同部の細かな内情を知っているのは各上位部活・委員会の幹部生徒以上のみ。
他校への隠密偵察から煽動工作、自校の運営・存続を揺るがすような不穏分子の調査及び予防的実力排除まで行なう影の組織である。なおその秘密主義な体制故に部の規模は極めて小さく、充足した一個小隊より少ないとも囁かれている。
所属部員となる志願生徒に対し、仮入部時点で徹底的な思想診断と体力検査による選定が行われ、入部後は万魔殿にも劣らない思想指導が行われる。施される思想指導で万魔殿と違うのは一点のみで、帰属意識と奉仕精神を向けるよう定めている対象が学園を治める議長個人ではなく、学園という
因みに、部の活動時間は週毎のローテーション制で、福利厚生支援も充実してるため、実は風紀委員会や万魔殿よりも比較的ホワイトな環境だったりする。
又、あの
同部は“
◯ゲヘナ学園・
イケイケイマドキ女子高生二人組が結成した未公認部活。部活動申請を出していないため、まだ正式な部活になっていないだけで、何かやらかした、或いはやらかしてるから未公認…と言うワケではない。
部の活動目標は「アオハルする」ことであり、美味しいクレープ屋を見つけることから、社会貢献、社会奉仕活動を自主的に行なうことまで、その内容は彼女たちの裁量によるところが大きく、自由で幅広い。善良すぎる…
茶店『蛇』の常連コンビ。
♪ハロ〜ハロ〜えぶりばでぃ〜
◯ゴジラ
日本四大特撮の一角であるシリーズの名称。
又、今もなお世界にその名を轟かせている“怪獣王”の
核エネルギーを操る純地球(人類)産の最強格怪獣にして、世界線によっては宇宙警備隊の介入・撃退がブラック寄りのグレーゾーン行為になってしまう完全生命体である。
予め断っておくが、
最近(当社比)だとシン化したりハリウッドに呼ばれたりシンギュラったりマイナスに叩き落としたりで引っ張りだこだった。
因みに、キヴォトスには『ゴジラ』や『妖星ゴラス』に類するSF・モンスター特撮作品として、劇場版ペロロジラシリーズのみ存在が確認されている。
茶店でのイロハのあの台詞は、単なる言い間違えである。……ヘビクラだけは一瞬硬直する反応を示したが。
JJ「襟巻きを外しちゃマズイ」
◯ゲヘナ学園・温泉開発部
爆破、掘削お手のもの。ゲヘナ…否、キヴォトスで一番「日本ブレイク工業」の社歌が似合うだろう学生テロリストグループ。元からあったものを活用するよりも、全てゼロにしてイチからブっ建てるスクラップ&ビルド派が幅を利かせている。
部員数は多く、同校風紀委員会の200名一個中隊とほぼ同数とされている。因みに部員の大半が作業員兼戦闘員だが、これまで開発した温泉と建設した温泉街、銭湯の保全及び運営を行なう管理人兼警備員として抜擢される者も少数ながらいる。
土地の
茶店『蛇』の常連グループその3。
活動場所が基本屋外なので、暑さを忘れられる氷菓とラムネ、長時間労働用のスタミナを得られるライス系メニューが好まれている。
???「そう。キヴォトス星雲の果てからやって来た、浪漫と芸術の爆弾魔、カスミーマンである」
◯オートマタ
キヴォトス市民権を有するロボット族とは違い、独自の感情や意思を持っておらず、命令を受けて行動する機械存在群のことである。基本的に人権の適用はされない。
ロボット族とオートマタを混同してしまうと、彼らにブチギレられる。
市民の間では、「オートマタ」と聞くと、ロボット族と容姿の近い人間大の二足歩行型
官民双方のあらゆる分野、場面で活用されている。又、中には違法投棄された後に暴走状態へ陥り動き続けている機体や生産元も管理者も一切不明な未知の稼働機体なども存在し、こうした“野良オートマタ”が社会問題となっている。
…因みに、近年、ロボット族の市民への
◯
闇の魔人へ変身した彼の
変身条件は闇の力が周囲の空間に一定量集中していること。その闇の力を身体へ取り込んで魔人化する。闇の量、若しくは質が半端だと活動時間や使用技に制限が掛かる。
この姿では愛刀“蛇心剣”を抜き身の状態で常に携帯しており、闇属性エネルギーに対する耐性や、五感・身体能力も大幅に向上している。そのスペックは50m級存在とも互角に渡り合えるほどである。
キヴォトスでは、刀一本で必ず依頼を完遂する“高級傭兵ジャグラー”として深夜の賞金首狩り等の…闇の小遣い稼ぎに赴く際、身バレを防ぐ為に変身を多用している。
尚、闇を含む“マイナス・エネルギー”とは切っても切れない関係にある“悪魔族”が多く住むゲヘナ自治区だからこそ容易に魔人態への変身ができている。
全高50mへの“巨大化”は、凡ゆるエネルギーが不足しているので現時点では難しい。
………魔人態の彼に喧嘩を売り見事
これも全てトゲトゲ星人ってヤツの仕業なんだ…
◯甘雨アコ
ゲヘナ風紀委員会の副委員長職に該当する行政官を務める同委員会幹部生徒の一人。ぐう有能。なお性格とファッション()に難あり。
有志命名のキヴォトス学名は【ゲヘナヨコチチハミデヤン】。
上司…風紀委員長の空崎ヒナを病的なまでに敬愛している青い狂犬チワワ。ヴァルキューレ公安局局長のケモ耳お巡りさんとは一切関係は無い。
今回は名前だけでの登場。本編デビューはまだまだ遠い。
???「かまへんかまへん。“栄光ある孤立”や」
全然余談ですが、感想の返信でミライ先生時空の『ウルトラマンZ』についてをチラッと触れましたのでここでお話しさせていただきます。
本作のミライ先生の時空……「“ザ・キングダム”による暗躍や“デビルスプリンター”の干渉も無かった」世界線での『ウルトラマンZ』開始に繋がった出来事ですが、なんと――
「セレブロゲネガーグ
――に置き換わってます。はい、群れです。群れなんです。
衝撃!ミライ先生の世界線では、セレブロは多数のゲネガーグを確保済み且つ群れていたのだ!!(ナ、ナンダッテーー!?)
しかし外部から碌な支援を得られず、ベリアルの細胞片の確保も十分に出来ず、移動用に拵えた宿主の強化が不可能となり切羽詰まった寄生生命体らは大博打に出たのです。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる理論ですね。要は、生き残ったヤツらだけが真の
群れの総数は先生方のご想像にお任せします。
…ただ、光の国の備えはエグかった。警備隊の精鋭隊員らの大多数は“ザ・キングダム”事案がそもそも発生してないので宇宙警備隊本部に常駐しており……ウルトラの星への降下に踏み切った未強化寄生体ゲネガーグとセレブロ'sを暖かく出迎えたのは原作世界線以上に苛烈で濃密な対空砲火。滝のような殺意マシマシの光撃を受け群れの殆どが撃墜され……待ち合わせ場所であるZ地球へ奇跡的に辿り着けたのは、因果の収束なども手伝ってか…原作と同様、ウルトラメダル並びにゼットライザーを強奪できた一体だけになりましたとさ。
某文明自滅ゲームの最終結果は…まあ、ブルトン回収される直前のメビウス兄さんが地球人のハルキと面識があるので…うん。
あーあ、セレブロが愉快なブンドドをやめてユナちゃんに解剖されてしまいました。これも全てアブソリュート・デストラクションとゴルゴムと陸八魔アルとアクアギャクテンポインターのせいです。あーあ。
さて、次回はなんかもうアビドスに何故かいた外星人のお話となります。
次回、【メフィラスの“やり方”】
お楽しみに。