日々の未来の青春譚 -メビウスアーカイブ-   作:逃げるレッド五号 5式

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17.【追想のユニフォーム/純情のワカモ】

 

 

 

D.U.外郭区 中枢市街地

 連邦捜査部(シャーレ)部室(ビル)

  本棟地上区画 捜査部事務室(オフィス)

 

 

 

 アカレンガ特災――“G2事案(ゲスラ・アタック)”。

 

 官民両方に少なくない被害__内、艦船(洋上)被害が7割を占める__をもたらした現代キヴォトス史上2例目となるこの怪獣災害は、凡ゆる意見や憶測が飛び交ったりもしたが、三日という時間が過ぎた頃には特災自体に向けられていた熱りもほぼ収まった。

 

『――アカレンガ港の被災区画の復旧は、当初の予定通り本日末で完了する見通しだと港湾管理当局が発表しました。怪獣ゲスラが湾に撒き散らした汚染液並びに肉片も、有志企業と区政清掃課の尽力によって既に約9割が処理済みとのことです』

 

 余波の混乱が一週間以上も続き、今でも被災地のインフラ復旧と建造物の修繕などが一部残っている怪獣災害の1例目――“G事変(ゴメスショック)”と比べれば、かなりの差である。

 規模だけで見ればG2事案はG事変を一個二個どころか十個二十個すっ飛ばしたぐらいの…「怪獣総攻撃」とも言えそうな広域侵攻に相当していたが、その混乱であったり動揺が少なかったのには大きく分けて理由が3つあるとされる。

 

『また、その除染活動で活躍したのは、ミレニアムから無償供与されたBluetooth搭載式吸引ろ過装置“ドンドン吸い込む君Nタイプ”でした。汚染された海水ごと有害物質を取り込み、新種の分解バクテリアを潤沢に利用したクリーンフィルタ層で除去する仕組みだそうで、使用した作業者からは『市販してほしい』といった声が相次いでおり、有志企業代表のゴスペル建設からは――』

 

 まず、衝撃的前例(ゴメス)があったこと、次に、外郭区とは違いこちらは建造物等の被害が少なく復興の目処が立っていたこと、そして最後に…迎撃戦に赴いた各実力組織の部隊が()()()()()()()()()()()こともあってだった。

 又、キヴォトスに現れ暴れた大型怪獣が未だ三種類しかおらず、加えてそのどれもが最終的には__ウルトラマンの参戦もあって__撃滅されていることも手伝っているだろう。

 

『――先の港湾防衛戦におけるカイザーコープの軍事部門企業…カイザーPMC陸軍部隊による一連の武力介入に、管理当局と連邦生徒会統括室及びD.U.アカレンガ区行政府は中立協定の重大な違反行為であるとして遺憾の意を表明しており、対するカイザー本社側は『傘下企業に対する、根拠なき妄言、謂れのない誹謗中傷にはグループ全体で断固とした対応をとる』と宣言しました。更に、未確定情報ではありますが、同社の広報法務部にカイザー理事会が動員指示を直接出したとの話も関係筋より回ってきてます』

 

 要は、被災地の住民や当事者学園の関係者などを除いた、市民・生徒の多くが早くも怪獣災害を一般の大規模事件やテロ、或いは台風だったり地震だったりの延長線上の出来事――即ち「なんやかんやでどうにかなる事象(コト)」だと解釈し、それらと同列のものとして並べ始めていたがため、沈静化のスピードが規模に反して異様に速かったのである。

 ……このタイプの環境適応、一種の()()とも形容できる…楽観ムードの()()と言うのは憂慮すべき危険な部類に入るが…この件について警鐘を鳴らそうとも、結局は当人らの意識認識の問題に帰結するので、どうしようもないのが実情だったりする。

 

『――さてさて、お次は巷で話題再沸騰中の独立連邦捜査部…通称シャーレが保有していると言う巨大ロボット、ウインダムについてになります。

 二日前の連邦生徒会による公式記者会見では、不知火カヤ防衛室長より、多用途大型機械であるとの説明がされましたが、市民による防衛戦の現地戦闘映像が提供されて以降は、複数の軍事専門家などから『左腕の赤いパーツは明らかに戦闘用の装備…即ち()()であり、元からウインダムは純粋な戦闘用ロボットである可能性が高い。これは連邦生徒会の説明と大きく剥離、矛盾している』といった指摘の声も上がっています』

 

 何せ“実感”が希薄なのだ。アホみたいな数の学園自治区を抱えるバカみたいにデカいこの超大陸で、怪獣の脅威を実際に肌で感じた人々の母数が圧倒的に少ない故に起きてる事故とも言うべきものであり、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

 

『これの追及が先日の連邦行政委員会の定期会議でも為されましたが、不知火防衛室長は『安全保障及び防衛戦略上の特別機密に該当する案件のため、明確な回答は差し控える』の一点張りで押し通しており、一部の連邦議員からは非難のヤジも飛びました』

 

 怪獣情勢の黎明期に突入した文明…特に人口が多く技術力もそれなりにある星で頻繁に見掛ける光景が、ここキヴォトスでも再生されようとしていた。

 

『………そして、外郭区のゴメスに続き、またしても人々の前に現れ怪獣を打ち倒し颯爽と飛び去った赤の巨人…ウルトラマンメビウスの行方について、オデュッセイア・ヴァルキューレが総力を挙げて捜索中とのことですが、未だ何も掴めていない状況であるようです。――――ここで一旦CMを挟みます。CM明けは皆さんお待ちかねの【今日のジャンガリアンハムスター】のコーナーです!!』

 

 

 

 それらの話はさておき。

 

 

 

 朝。

 

 晴天の空を映すシャーレオフィス。

 

 ようやく守備位置(ポジション)が固まった事務室のスマートテレビ…点けっ放しとなっているそれの画面には、四日前のアカレンガ区怪獣事件の後処理を取り扱った特集ニュースが流れている――が。

 ニュースそっちのけでミライは執務机に着いて手元の何かを眺めていた。

 

「……新川さんたち、元気そうで良かった。魚もアカレンガの海に段々戻ってきてるようだし」

 

 笑みを浮かべる彼の手にあるのは、港湾警備依頼の期間で世話になったアカレンガ臨海町村の若手漁師…アライグマ獣人の新川からシャーレ宛てに送られてきたミライへの感謝の手紙と、クレーンで吊るされた体長3mはある巨大な黄金(ゴールド)マグロと村民達の集合写真である。写真に写っている村民達は誰もがはち切れんばかりの笑顔を見せていた。

 新川直筆の手紙の内容を読むに、どうやらこのゴールドマグロはG2事案以降に初めて獲れた大物第一号であるとのことだ。

 

 ……更に読み進めれば、不漁解消と港湾復興を祝して漁村で近々開催される予定のイベント…魚介グルメフェスタへの参加をミライに求める文面まであった。

 なお、やはりと言うべきか、新川はミライがゴールドマグロ未食者であることを覚えていたようで、最後には「約束した通り兄チャンと婦警の嬢ちゃんには死ぬほどキングロ食わせてやるからな!」という文言が達筆で力強く書かれていた。

 

 ミライは手紙終盤の上記内容に苦笑しながらも、海と共に生きる彼らの生活が、少しずつ元の日常のそれに戻っていることに安堵し頬を緩ませた。

 

「キリノちゃんに後で連絡入れておかないと…」

 

 グルメイベントへの同行をキリノに打診しなければ、と考えながらミライは、机上に置いている白のタブレット端末…“シッテムの箱”に目を向ける。

 シッテムの箱は起動状態であり、その画面にはアロナとマケット怪獣のリムテッド(デフォルメ)アバターたちがわちゃわちゃとしている青空教室(電脳空間)の和やかな光景が映っていた。

 

『あ、見てくださいウインダム! この記事でもウインダムの活躍が載ってますよ!』

『クワ〜!!』

 

 青空教室の真ん中にある勉強机にはアロナが着いており、その膝上には愛くるしい二頭身ウインダムがちょこんと座っている。

 彼女が机に広げ指を差してウインダムに見せているのは、新聞紙状にしたネット記事である。

 そこには、【連邦驚異の白いヤツ!スーパーロボット・ウインダム見参!!】という好意的見出しと、ウインダムが湾上で大型ゲスラに高回転硬芯鉄拳(ドリル・フィスト)を打ち込む瞬間を捉えた特大画像が張り付いていた。

 

 これにウインダムはご満悦のようで、自我なきロボットとして取り上げられてることに怒りを感じてる様子は無かった。

 ――と、言うのもこれは、彼…ウインダムの知能が、キヴォトスにおける怪獣に対する市民感情を理解できるぐらいには高かったが故である。要するに彼は“割り切る”ことを覚えていた。

 それができたので、ここ数日の彼は自分をロボットとして取り上げ、その活躍を讃える記事であったり番組であったりも純粋に喜びながら見ていた。何なら学園都市で著名な模型メーカーで早くも(無許可で)商品化を進めているという話を耳にした時には両腕でガッツポーズをしてみせている。

 

 斯くしてミライとリンの懸念は杞憂に終わったのである。

 

『ブモー!』ピロロロロ!

 

 問題はといえば…()()()した他のマケット怪獣――その末っ子であるゼットン__アバターの見た目はただのデフォルメでなく、“2代目”の要素も混じっている__がややご機嫌斜めなことぐらいだ。

 彼もアカレンガ港で活躍したかったらしい。……いや、これはアロナの両膝の上という特等席を奪われていることに対する癇癪か。

 

『ああ!喧嘩はダメですよゼットン!!』

 

 次男坊(ウインダム)に飛び掛かろうとする末弟五男(ゼットン)をアロナがどうどうと諌め、残りのマケットたちがゼットンに引っ付いてなんとか止めようとしている。

 ここでゼットンがマケット兄弟たちを力任せに強引に振り払ったり、瞬間移動(テレポート)からのドロップキックと言う直接攻撃(ダイレクト・アタック)を次男坊に対して実行へ移していないあたり、ウインダムと同じく彼も彼なりに状況を飲み込んでいるのだろう。

 

 数分も経てばゼットンは落ち着きを取り戻し、マケットの兄弟たちの輪に加わった。やはり彼も本気でブチギレていた訳ではなかったのだ。

 結果としてミライによる小喧嘩の仲裁は不要だった。青空教室で和気藹々としているマケット怪獣らの自立性(自律性)と協調性は21世紀当時よりも格段に成長(進歩)しているらしい。

 

 アロナと彼らが出逢ってからまだ二週間も経っていないが、こうした出来事を見ていると両者の心や意識の壁というのはとうの昔に取っ払われているようだ。

 打ち解けて仲良くなるのは良いことだ、とミライは思う。又、それがずっと続いてほしいとも。

 

『―――本格的な夏に突入しようとしているキヴォトス。皆さんはどのような服装で今年の夏を過ごしますでしょうか?悩んでいる視聴者の方々もいらっしゃると思います!

 …ですので!本日のクロノスモーニングでは、最近の夏季ファッショントレンド、夏の季節コーデの情報をお送りさせていただきますっ!』

 

 ふと、スマートテレビの音声が耳に入ってきた。それは完全な気まぐれであった。

 

 キヴォトスにも春夏秋冬…四季があると言うのはミライも既に知っている。また、それぞれの季節における風習文化――お花見、スイカ割り、落ち葉焚き、雪だるま等が根付いているのも把握している。

 

 そういえば。「季節コーデ」なる単語も、GUYS在籍時代に同期の女性隊員(コノミ&マリナ)がよく口にしていた。

 当時ファッションにとことん無頓着だったミライは、彼女らに洋服店をたらい回しにされ、着せ替え人形が如くあーでもないこーでもないと片っ端から服と言う服を試着させられたな、としみじみ思い出す。

 

 そんな懐古とニュースの内容を脈絡なく紐付けたことで、唐突に彼は気になった。己の仕事服…純白に群青を差し色とした連邦生徒会の制服について。

 

「……連邦生徒会の制服って、夏服冬服とかってあるのかな」

 

 これまで会ってきた連邦生徒――リンにカヤ、モモカにアユムらが着ている制服はデザインの大部分は一緒であるが、それぞれワンポイント差異があるものを着ている。

 ヘソ出し、袖切り、たくし上げ…日本の学園であれば定期的に行われる「身だしなみチェック」の風紀イベントで指導が一発で入るコト確定な………最早個人で非正規に改造してるのではと思えてしまうほどの制服ばっかりだ。

 そこで出たのが上の疑問であった。

 

『――はい。勿論です先生! 夏季制服、冬季制服だけでなく、それらの中間制服に私服タイプ、先生が着ているようなコートタイプなどを含めると沢山あります! 上下の組み合わせだけでも二十通りはくだりません!』

 

 執務室の虚空に消えようとしたミライの独り言を拾ったのは、彼の敏腕秘書ことアロナである。

 ホログラム体でシッテムの画面から飛び出し、制服のカタログを開いて見せてくれた。その膝上は右をゼットン、左をウインダムが占拠している。

 

『制服関連で何かお悩みが? 私的には、いまの制服もミライ先生に十分似合ってると思いますよ!』

 

「ありがとう。……いや、悩みというか。うーん、悩み…ではあるのかな。今着てるこの、生徒会指定コートの…」

 

『スーツコートの新調、或いは再設計を考えてる――ってことですか?』

 

「うん。そんな感じに近いかも。キヴォトスで先生になったことへの、僕なりの決意表明…それの可視化、って言ったら良いのかな。それに――」

 

 続けてミライは言う。

 

 もう一つの理由は、有事の際の()()となるためだと。現場で「あそこに“シャーレ”がいる」と――対処組織が眼前で活動していると分かれば、群衆心理の暴走もある程度は抑えることができるだろうし、逃げ遅れた市民の捜索の際にこちらが万一見つけられなくとも向こうが見つけてくれる可能性が高まるのも期待できる。

 これら効果の有効性については、外界……地球極東区域の歴代防衛チームという偉大なる先駆者(前例)がある。

 

「―――って言うことなんだけど…。どうにかなるかな、アロナちゃん」

 

 存在自体が秘匿される極秘要撃部隊や国軍の延長線上にある純粋な特殊部隊といった一部例外を除き、何処の特捜防衛チームも、隊員が着る戦闘服は()()()()()…目につく且つ覚え易いデザインと配色であることが多い。

 実際、ミライも所属していたCREW GUYSの実働部隊用制式隊服は、明色…橙をメインに、黒・白をサブカラーとする、「迷彩効果なぞクソ喰らえ!」と言わんばかりの…それはもう派手派手な戦闘服であった。

 ……但し、気をつけてもらいたいのは、特捜チームの隊服はどれも最新技術の塊であり、身体防護性に優れる素材を多用しているため、現行の凡ゆる戦闘服を置き去りにする性能を備えているので、実戦運用に耐え得る――という必須条件はあっさりクリア済みなのである。

 

『そんなことでしたらお任せください、ミライ先生。連邦生徒会の制服はオーダーメイドも対応してますよ!』

 

 要は、シャーレの制服を上記の法則性を組み込んだモノにしたいとミライは思っているのだ。

 今のミライが着用中の代物は、ボタン留め式のモダン風コートに大人サイズの学ラン。

 白色に染められているこれら真新しい未改造の新品制服は、確かに「連邦生徒会所属である」ことをハッキリ示してはくれているが、彼が顧問を務める部活動(シャーレ)のエンブレムだったりは刷られておらず、「独立連邦捜査部所属である」()()()示す要素に今ひとつ欠けているのは事実だった。

 

「へぇ、防刃繊維のインナーなんてのもあるんだね……選択肢が多くて悩むなぁ……」

 

 手を顎に添え首を傾げて唸るミライ。想定よりも大幅に多いバリエーション。これらの組み合わせ(アセンブル)を考えるだけでも軽く2、3時間は溶けるだろう。

 悩む時は大いに悩むのがミライという青年である。

 

『配色の変更も問題なく通ると思いますよ。先生が望むデザインそのままの制服が出来上がるかと!』

「それなら―――」

 

 アロナからの説明を聞きながら、悩み抜きつつも脳内でデザインを固めていく。

 …………そんな時だった。

 

「――どのようなお召し物でも、貴方様であれば全て似合うと私は思っております♡」

 

 席に座るミライの背後…より正確に言うならば左斜め後ろから、妙に艶がかった少女の声が聞こえてきたのは。

 自身とアロナしかいないと考えていただけに――あまりに突然のことだったものだから、ギョッとして後ろへ振り向くミライ。

 

「ワカモちゃん!?」

 

 目を見開くミライの背後に、彼の気配察知だけでなく、アロナ管理のシャーレ・セキュリティ網さえ躱わして控えていたのは、素顔を狐の面に隠す百鬼夜行連合の問題児…“厄災の狐”の二つ名を持つ黒髪狐耳の少女、ワカモ。

 連邦生徒会矯正局に収監中であった彼女は、とある扶助者の協力で行政麻痺の混乱に乗じて脱獄し、先の外郭区暴動を扇動後、ヴァルキューレ刑事局・公安局、防衛室長直轄指揮の特務部隊――A〜Fまである六つの精鋭小隊()の半数をも動員した大規模な追跡活動を容易に振り切り、暫くの間消息不明となっていた。

 

 そのワカモが、今、ミライの前に立っている。

 

「はい。貴方様のワカモ、でございます」

 

 …矯正局指定の重要凶悪生徒「七囚人」に名を連ねる危険人物に該当するそんな彼女。

 が、しかし。今の雰囲気は敵対ッ!殺伐ッ!ブッ殺す!…といったモノではなく、彼女自身から滲み出ているオーラは暖色の――「幸せ」そのものであった。

 又、彼女の毛並みの良い立派な尻尾はブンブンと左右に大きく、そして忙しなく振られている。

 ご機嫌もご機嫌である。恐らく、仮面の中に収まっている彼女の顔は喜色満面といったところだろう。

 

 ……自分が初恋一目惚れした相手が目の前にいて、尚且つ自分と会話を交えてくれている…これ以上の贅沢を望めば天罰が下る、とこの時のワカモは本気で考えていた。

 

 なおワカモが現在進行形でしているのは住居侵入…明らかな不法行為である。

 

「ごめん気づいてなかった…いつからワカモちゃんは?」

 

 だがミライはそれを咎めるどころか、ワカモがシャーレに登庁しているのを把握していなかったと逆に自分に非があったと謝罪した。いや、彼の側に非は全く無いはずなのだが。

 

「今朝、貴方様が寝間で起床する手前には既に入場し、お側で控えておりました」

 

「…朝からずっとってことだね」

 

「左様でございます♡」

 

「次からは一声掛けてくれると助かるな」

 

「承知致しました♡」

 

 ……また、この時、室内で唯一ツッコミ役に回れた人物であるアロナは、再び青空教室内でわちゃわちゃし始めたマケット怪獣らの遊び相手として振り回されていた。ツッコミ不在と言うトンチキ空間誕生の瞬間であった。

 

 この恐ろしき空間で、二人の会話は何事も無かったかのように進む。

 

「……先ほどから貴方様が()()()()口にしていた事は全て聞いておりましたので、このワカモ…微力ではありますが、お召し物選びのお手伝いをさせていただきます」

 

 

 

――先生って、独り言が多いですよね――

 

 ………不思議なことに、キヴォトスの人々はアロナを認識できない。

 上のものは、港湾警備依頼期間中のキリノと直近二日(昨日・一昨日)にやってきた生徒ら__ノア、ユウカ、ハスミ、チナツ__から出た言葉の大雑把な意訳である。

 彼女達にアロナについて尋ねてみたところ、アロナの声は聞き取れず会話は不成立。タブレット画面内、ホログラム出力に関係なくその姿はどうやっても見えないらしい。シッテムの画面に彼女と一緒に映るマケット怪獣(かわいいマスコット)らは問題なく認識できコミニュケーションも取れるのに、である。

 

 しかも自分とアロナの会話に至っては、すべて「違和感の無い独り言」に()()されていることが彼女らとの照らし合わせで判明した。…「アロナの無力化」を目論んだ異星人や怪獣の仕業、として考えるとやり方があまりに回りくどく、とてもお粗末である。そこまでのコトがやれるのならば真っ先に標的となるのは(ミライ)のはず。何者かからの攻撃…という考察にはペケが付いた。ならば、自分かアロナの()()なのかと言えば、それも何か違う気がした。

 

 この事象に対して、彼は当初大いに悩んだ…が、原因は分からず解決策は現状無いに等しく、アロナが特段気にしてる様子が無かった__こちらを心配させないための演技という線も捨て切れないが…__ため、最終的には、()()()()ことで落ち着いた。

 

 それ故。

 

「……ありがとう、ワカモちゃん。それじゃあ手伝ってもらおうかな」

 

 ミライはワカモの言葉に訂正を挟まず、制服選びに協力してくれることへの謝意を述べた。

 

「っ! はい、喜んで♡」

 

 そこから「センス◎」所持者のワカモを交えての本格的制服決めが再開した。

 

__

__

 

 

「貴方様、ニーパットは最初からズボンと一体化させてはいかがでしょうか」

「なるほど!そうすれば着用に使う時間も手間も無くなるもんね!」

 

「脇下と腹横は防弾よりも防刃性素材にした方が良いのかな。爆発物の破片飛散とかも考えると……」

(思案に耽る姿も絵になりますわね…)

 

「排熱用の通気口にはフィルターの追加もしよう」

「そうするとなると――」

 

 

__

__

 

「――――まあ!炎の意匠を取り入れたいのですね!」

 

「うん、僕にとって(ゆかり)があって…信念そのものを示すモノでもあるから」

 

 大前提として、動き易さと機能性・防護性を重視したい旨をミライは述べ、アロナが候補を絞って提示し、ワカモと共にその絞られた候補たちを吟味していた。

 ミライの思い切りの良さもあって、服装の組み合わせの話は想定よりも進み、かなり早い段階で大部分が確定した。

 

 ロングコートは据え置きとし、その下に着るものは防弾防刃繊維が編み込まれたミレニアム製ジャケット及びボトムス、耐熱耐寒のアンダーシャツに、スポーツシューズの軽快さを付与された最新モデルの軍用半長靴(ブーツ)、所属を示すための防護性皆無な野球帽(ライトキャップ)…という塩梅となった。

 コートと案に入ってない鉄帽(ヘルメ)を抜きにすると、まんまGUYS隊服(スーツ)の構成である。

 

 因みに、アロナが二人の会話を元にその都度デザインイメージをシッテムの画面に表示・更新してくれているので非常にわかりやすい。

 

 残るは色合い…配色と、細かな箇所のデザインのみであった。

 

「信念そのもの…素敵ですわ。土地によっては炎は清浄さも表すと耳にしましたので、清流の如き心の持ち主たる先生にピッタリの意匠かと」

 

 ミライの真っ直ぐな言葉にワカモは酔いしれているようだ。

 ……過去の彼女であれば、斯様な反応はしなかった。言葉だけを並べる者など、彼女が一番嫌悪する人種である。目線すら投げず鼻であしらっていたことだろう。

 だがミライは違う。ミライだけは違う。それはあの時…シャーレの地下区画での邂逅で、彼の瞳の向こう側…芯とも言うべきものを覗いたからである。

 

「そこまで言われるとちょっと恥ずかしいな…」

 

 聞けばミライと同じくワカモも“炎”が好きだと言う。

 

「ウフフ…話を戻しますが、意匠は制服へ全面に押し出すのか、それとも刺繍(ワッペン)等のワンポイントか…になるでしょうか」

 

 なお、彼女が炎を好く理由は後で聞いてみたのだが、「燃え上がる(さま)に盛衰の優雅さと儚さの風情を感じ………それから――」というところで、急にモジモジされ重要と思われる最後の部分は終ぞ教えてもらえなかった。

 

「そうだね。そこをあまり変え過ぎてしまうと本末転倒だから…ワンポイントの追加と差し色の変更、にしようか」

 

「かしこまりました」

 

 その話は置いておき。

 制服のメインカラーは白色を維持。サブカラーである青色を橙色に変更することとした。

 

 

 

「――これで完成…!」

 

 そして、更に30分ほど経過した頃には、()()であるジャケット胸部のワッペンと背部エンブレムの作成まで完了。

 シャーレを象徴するマークは、決して絶えぬ炎を纏った不死鳥(GUYS)の翼に、雪白の円環が刻まれた連邦白十字を組み合わせたモノになったのだった。

 余談だが炎の意匠の所々に桜を模した火華が散りばめられている。これはワカモの力作である。

 

「お疲れ様でした貴方様」

 

 ワカモがミライの横に回って労いの言葉を掛け、執務室隣接の給湯室で淹れてきた緑茶と和菓子を彼に差し出す。茶に添えられた菓子はワカモが持ち込んできた百鬼夜行のブランドものだ。

 

 …連邦生徒会という組織(公権力)を毛嫌いする彼女は、シャーレのマークに連邦十字を加えることに抵抗感があったが、最愛の人であるミライの意見を尊重するとして、食い下がることはしなかった。

 先にも記したように、今日のワカモは機嫌が良い。彼女はミライと二人きり__厳密に言えばアロナやマケット怪獣もいる__の空間で言葉を交わしながら過ごしているこの状況を、脳内で勝手に「お家デート」なるイベントへと変換・認識するまでに惚気の症状が進行している。

 多少のことで気が荒むことも無い。

 

「ワカモちゃんが手伝ってくれたおかげで、思ってたよりずっと早く出来たよ。それにそのまま事務作業まで手伝ってもらって……ありがとうね」

 

 慕う相手からの、心からの感謝の言葉と暖かな笑顔を受けて彼女の感情ゲージは感極まり天井を突き破っていた。青天井である。尻尾の振りも通常の三倍の速度になっていた。

 この域にもなれば、何が起ころうがすべて些事。向かうところ敵無しだ。

 

「勿体無いお言葉です…!」

 

「書類も午前の分は全部終わったし、ワカモちゃんには手伝ってくれたお礼もしたいから……ワカモちゃんが良ければ、一緒にお昼ご飯とか食べに行かない?勿論、代金は全部僕が出すから!」

 

「ハワワワワ…!」

 

「ワカモちゃん…?」

 

「ぜ、是非、お願いしましゅ…」

 

 

 

 

 ……その後、運命の出逢いの時よりも情緒を成長させていたワカモは、そこから()()()()()になることなく、天然星人ミライからのランチの誘いを承諾することができた。

 ワカモの情熱と純愛が手繰り寄せた戦術的勝利である。

 彼女の心内では祝福のファンファーレが鳴り響き、サッカーのゴールパフォーマンスが如きリアクションをとる己がいた。

 

 因みに…ランチデートでワカモは一度身支度のために姿を消し、着物(私服)姿――仮面を取って待ち合わせ場所に立つのだが……ミライは一発で素面の彼女を見つけ、ワカモの脳を再び焼くことになり、そこから凡そ一週間、D.U.外郭区各地で地元ヘルメット団残党や不良を嬉々とした様子で狩り続ける絶好調な“厄災の狐”が現れ、同区の治安が急速な安定化の道を辿り始めるのはまた別の話。

 

 

 

 後日、この日発案の新制服一式は連邦生徒会専従契約の洋服店で即製作され、何事も無くシャーレに届くのだった。

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 おまけ【懐刀(メイド)懐刀(キツネ)と】

 

 

 

――時はG2事案終盤――オデュッセイア第2機動打撃艦隊によるアカレンガ湾内掃討開始直前。

 

 

 

D.U.アカレンガ区

 D.U.アカレンガ港 港内市街地

  商業区画中枢 特殊災害避難指定地域内某所

 

 

 

 敵性特殊生物、海獣ゲスラの集団上陸により戦場と化したアカレンガ港。

 湾の残党殲滅が始まっている中、内陸寄りにあたるこの地も避難指示によって一般人は一人もいない。

 

「―――回収地点(ピックアップポイント)まで残り5ブロック…ですか」

 

 そう。()()()()、一人もいない。

 静寂に満たされた無人街に立つのは戦闘制服(セーラー)に身を包んだ、ミレニアム・セミナー会長の懐刀である少女…トキ。

 彼女は任務であった対怪獣兵器の実戦テストを完了し、撤収の最中である。

 対怪獣戦闘と戦域離脱時に足を酷使し過ぎたトキは商業区にある商店街のメインストリートで息を整えていた。

 

(……見通しが甘かった。想定よりも体力の消耗と精神の磨耗が激しい)

 

 トキは自身がミレニアムの中でも上澄みの部類であることを自覚している。そこには幾分かの慢心があるが、実際に他者からの評価――専属契約を交わした主人であるセミナー会長のリオからも実力を認められている。

 

(取り敢えず、総括と反省は帰投してからにしますか…)

 

 だが悔しいことに、まだ修錬の余地があるらしい。やる事やった事自体は少なかったものの、初の対怪獣戦闘を経てトキはそれを思い知った。

 主人(リオ)からは常日頃、「改善点があれば逐次それを修正せよ」と言いつけられていた。………気は進まないが、ミレニアムに戻ったらスタミナ錬成のトレーニングメニューを新たに組むか、と考える。それが()に繋がるモノになるならば、やらない手はないだろうと。

 

(幸い回収時刻の方はまだ余裕が――)

 

 小休止を切り上げ、再び足を動かそうとしたその時である。

 

 

 

「――動くな。その制服、SRTの戦術セーラーだな」

 

 

 

 冷淡な声に突然背中を刺された。

 

(――ッ!! …声が届く距離までの接近を許し、気配を微塵も察知できず完全に背後を取られるとは…!)

 

 表向きには「メイド部」を名乗っている、ミレニアムが誇る優秀な暗部組織“Cleaning&Clearing”――通称「C&C」の実働部員(エージェント)…幻の5人目。

 コールサイン04。それがトキである。彼女の実力は先述の通りで、戦闘・隠密の各種スキルと練度、そしてセンスは極めて高い水準にある。

 

「しかも旧式の乙型後期。…市場に流れた中古品か、闇市場の粗悪品(デッドコピー)か、それとも…」

 

(向こうは複数、実力は此方よりも上…捕捉されている以上、下手に身動きも取れない…!)

 

 そんな彼女が何もできず先手を盗られた。トキの握り拳に汗が滲む。

 顔を僅かに横に向ける。見える範囲で3人。声色から凡そ分かっていたが、やはり他校の生徒であった。

 

(…あれはヴァルキューレ――選抜強襲ユニット(SAU)の制服。前線後方である此処に何故彼女達が配されている?)

 

 紺の活動服に黒の突入用防弾衣を纏ったヴァルキューレ生らしき少女達。手に持つメインアームの他に、彼女らの背には対戦車擲弾と大口径対物狙撃銃がマウントされている。怪獣との交戦を想定した装備と思われた。

 顔の全容こそゴーグルの反射とバラクラバで見えないが、暫定ヴァルキューレ生たちは皆、獣人の血を引いているらしく色とりどりの狐耳が軍用鉄帽の頭頂部からひょっこり飛び出している。

 

「あれほど頭上をピョンピョン音を立てて跳ねられれば、嫌でも耳が拾う」

 

 選抜強襲ユニット(キヴォトス版SAT)…SAUは各D.U.行政区のヴァルキューレ支部に置かれている、対人戦に於いて最強の特殊部隊だ。

 各局から選抜された優秀成績者で構成される同部隊は、同校警備局機動隊を様々な面で凌駕する文字通りの精鋭集団。機密性こそ高いものの、既にキヴォトス市民から存在とその実力を認知されている著名な部隊である。

 SATやSWATに比肩する彼女らはどちらかと言えば前線に向かわせるべき部隊だ。パワーローダーをも撃破可能な重装備を複数持たせているなら尚更。

 

(もしや、()()()…?)

 

 リオが傍受した通信からも、港湾防衛勢力側は後詰めも全て投入して、水際での侵攻阻止に全力を注ごうしていると判明している。前線から離れた内陸側で遊ばせておくなんて判断はしない筈。

 だからこそトキは疑念を持っていた。「あちら側も、()()()()()()く、所属を偽り独自の指揮系統の下で動いているのではないか」と。

 

 

 

 ここで補足するが、“SRT”とは今年の4月前後までこの学園都市に存在()()、連邦生徒会傘下にある最高位の法執行機関にして中立的軍事強豪校である。

 最高責任者たる連邦生徒会長の超人的権限の下、あらゆる学園自治区への武力介入が許されており、キヴォトスの危機には彼女達が真っ先に投入される。

 日本国におけるヴァルキューレが警察庁ならば、本校が連邦生徒会にとっての自衛隊…と言えば良いだろうか。

 

 因みに、“他自治区への介入”…この強権的部分が、クロノスら主要マスコミがシャーレを「第二のSRT」と呼ぶ理由でもあったりする。

 

 

 

 ――閑話休題。

 

 

 

 無論トキも同校…SRT特殊学園のことは知っている。

 自分の留年が確定し一年生の再走が始まった春先、廃校処理が為されたと言うニュースを見聞きしていた故に印象に残っていた。

 

「脚に自信があるようだが、痕跡の隠蔽は意識していないのか」

 

 兎に角。……あくまで予想の域を出ないが、正直な話、一般校と旧SRT特殊学園のセーラー服は見分けがつかない。上から重ねるゴタゴタした装備等が組み合わされば余計に分からなくなる。であるのに、リーダー格――黒い狐耳の生徒はトキの欺瞞戦闘服を指してSRTに類する代物だと断定口調で言い放った。

 改造元の型式まで正確に言い当てるなんて芸当、余程のミリヲタかSRT出身生でも無い限りできないだろう。ヴァルキューレ内でもそこまで頓着する連中は少ない。特殊部隊であってもだ。

 

 ……只のSRTからの転校生と言う線も捨てきれないが、何か引っ掛かる。

 果たして――

 

「貴官の名と所属()()、そして避難指定区域(この場)にいる理由を答えろ。何らかの作戦行動であるか」

 

 ――ビンゴだった。“SRT”と“小隊”。点と点が線で繋がった。

 彼女たちは恐らく…SRT解体に併せた転校・就職勧告を無視し武装解除も受け入れず都市平和維持活動(M-PKO)を独断で続けている旧SRT生の一派だ。

 SRTの“小隊”とは、4人一班で編成される実働部隊の単位であり部隊そのものを指す。それに属していた生徒であれば、この異様に高い実力にも納得がいった。

 

「…妙な気を起こすことは推奨しない。ウチの狙撃手が先に動く」

 

(やはりスナイパーもいるのですか。……強行突破は――無理そうですね。しかし、最悪連行も有り得るとなると…)

 

 彼女たちはこちら(トキ)を同じ非合法活動に身を投じている元SRT生と誤認している節がある。ヴァルキューレ生なら“所属()()”と尋ねていただろう。

 ……だがここまでの推理ごっこも、現状を打開しなければ何の意味も無くなる。

 トキはここまでの情報を整理し、一か八かの大博打に打って出た。

 

「………飛鳥馬。飛鳥馬トキ。所属はIBIS(アイビス)小隊、コールサインはIBIS4です。与えられた任務は対怪獣装備の実戦テスト」

 

 それ即ち、開き直りであった。「堂々としてりゃ案外バレない」を彼女はやってみせたのだ。

 

「………アイビス…アイビスね。成る程、通りで貴女の顔も名前も私たちが知らないわけだ」

 

 リーダー格の横に立つ桃色の狐耳生徒がそう口を開いた。主人(リオ)とはまた違う方向の…母性を感じさせる穏やかな声色だった。

 彼女の言葉に黒耳のリーダー格が頷き、構えていた銃を下ろしてトキに「こちらに向け」と簡易的なハンドサインを飛ばした。

 トキはその指示に素直に従い、彼女らの方へ体を向けた。

 

 振り向けば、リーダー格の黒耳と、臨戦状態を維持している桃耳、そして両腕でこちらにバリスティックシールド二枚を構え突撃準備姿勢でいる黄色い狐耳持ちの生徒(タンク)が立っていた。

 

「小隊名は把握していたが、一年の小隊名簿の作成途中で我が校は機能を停止したからな。隊員の項目が未記載の小隊がかなり多かった。IBIS小隊もその一つだ。

 ……IBIS4、飛鳥馬。任務は対怪獣装備のテスト、と言っていたな。その携行発射機の形状…()()()()()はミレニアムか?」

 

 再度こちらに話を黒耳のリーダーは振ってきた。先まで背に浴びていた鋭い視線が、今度は正面からこちらを突き刺してくる。

 その眼はやはり特殊部隊のそれだった。

 

「……お答えしかねます」

 

 僅かな沈黙の後、トキは答えた。

 彼女の回答をリーダー格は一瞥し、数瞬の思案を挟んでからもう一度トキへ口を開く。

 

「…そうか。なら此方から聞くことはもう無い。……IBIS4、任務遂行中の貴官へ干渉したことを謝罪する。貴官は貴官の任務を今後も全うせよ」

 

「了解」

 

 ………ありがたい。どうやら解放されるらしい。

 トキは危機を乗り越えたのだ。しかし、感情は表には曝け出さない。いつもの鉄仮面を維持し彼女の敬礼に答礼すると、回収地点へと足を向け走り出した。

 

「――――IBIS4、飛鳥馬トキ」

 

 背中にまたリーダー格の冷たい声が飛んできた。トキは振り返らず、ただ立ち止まり耳を傾ける。

 

「貴官に――いや、君がS()R()T()()()()()()()()()()であるならば、その制服(ユニフォーム)を纏うことは、やめてくれ。以上だ」

 

「………………」――ダッ!

 

 黒狐の少女言葉を背に受けると同時に、トキは地面を蹴り狐耳分隊の前からその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

『―――ひゃ〜足はっや。こちらF04(マルヨン)。対象は完全にロスト。……ねぇ、ユキノ。あの子逃してホントに良かったの? まあこっちは二重で身分偽ってるからアシは付かないだろうけど』

 

 そう狐耳分隊のリーダー格生徒に無線越しで語り掛けるのは、同分隊の狙撃手であるF04ことオトギ。

 

01(マルヒト)から04へ。これで良い。彼女は恐らくミレニアムの掃除屋…“C&C”のエージェントあたりの人員だろう。下手に手を出せば今度はこちらがやられる側になる」

 

 狐耳分隊のリーダー改め、F小隊隊長――ユキノと呼ばれた狐耳の黒髪赤眼の少女は表情を変えずオトギの問いに返答した。

 

「装備の実戦テスト、ねぇ。ミレニアムは余裕綽々そうじゃない。私たち(SRT)の格好してコソコソやるなんて」

 

 黄髪の隊員、F03(マルサン)のクルミが、両腕の防弾盾を地面にガンッ! と下ろして面白くなさそうに口を「へ」の字に曲げる。

 

「…偽装工作自体はこっちが言えた義理じゃないけれどね」

 

 クルミをどうどう諌めるのは、隊のNo.2。並々ならぬ母性を感じさせる桃髪少女…ニコである。

 自分たちがやってるコトとどっこいどっこいなのでクルミの言葉に苦笑を滲ませていた。

 

 ――彼女ら四人は防衛室長直轄の六つある極秘特務部隊の一つ。F小隊である。

 ゲスラの内陸流入阻止のため、ヴァルキューレ特殊部隊に扮し後方へ秘密裏に遊撃役として配置されていたのだ。

 元SRTの精鋭生徒のみで構成されたこの特務部隊の存在を知るのは、唯一の上長にあたる防衛室長…不知火カヤと、副室長含む数人の側近のみ。

 

「かの学校の隠匿主義は今に始まったことじゃない。こちらが把握してない情報を抱えてもいるだろう……ここで変に突っついて()()()をご破産にさせる勇気は私には無い」

 

『え、何それ。初耳なんだけど…誰から?』

 

 上層部の話は未把握だったオトギが聞き返す。

 

「防衛室長にエスプレッソの缶を一つ奢ったら包み隠さず喋ってくれた」

 

 ……なんともまあ学生っぽいというか、重要な部類の情報の漏洩元が漏洩元だったために、小隊一同の間に微妙な空気が生じた。

 

「…カヤちゃんらしいですね」

「じょ、情報管理ぃ…」

『とんでもガバじゃん…!』

 

 あらあらと困ったように笑うニコと、上司のポンコツぶりに頭を抱えて呻くクルミに、インカム越しで笑いを押し殺しているオトギ。

 三者三様の反応を黙って見ていたユキノが、ほんの僅かに笑みを溢す。

 

「……む、噂をすれば…室長様本人からの通信だ。各員、秘匿回線」

 

 丁度その時、上司(カヤ)から連絡が入った。四人は鉄帽側面のインカムを弄り、通信回線を繋げる。

 

「こちらF小隊F01」

『――お疲れ様です。いきなりで申し訳ありませんね』

「いや、問題ない。そちらで何か動きが?」

『オデュッセイアの機動艦隊による湾内のゲスラ掃討が完了したとのことです。これに伴い、アカレンガ区臨海部全域での残存個体捜索に防衛室及びヴァルキューレを動かします。F小隊は現在いるエリア内の確認を終え次第同区より撤退準備に入ってください』

「F01了解した。通信終わり」

 

 …彼女たちを指す本当の名は、“FOX(フォックス)小隊”。

 

「…さて、F小隊各員。聞いての通りだ。残りのブロック内をクリアリング後、地下インフラ管路から撤収する。行くぞ」

 

 旧SRT歴代最高峰の三年生小隊にして、防衛室長の隠し刀。

 

「F02、了解しました」

「トカゲとヤモリとヘビは苦手なんだけどなぁ…F03了解」

『そうは言うけど、レンジャー訓練で死ぬほど捌いてたじゃんか。――F04、了解。そっちに降りてくよ』

 

 超巨大学園都市の平和を影より守る最後の砦。そして、公正なる揺るぎなき正義の番人であり…狩人である。

 

 

 

 ―――彼女達の悲願は「母校(正義)の復活」。

 

 

 





 あと
 がき

 皆様、わっぴ〜!(気さくな挨拶)
 友人の勧めでヒロアカを履修し始めた投稿者(逃げるレッド)です。面白すぎて二週間でアニメ6期真ん中まで観ちゃいました。
 推しキャラは心操君、エミリー、レップウです。
 うぉおおヴィジランテ早く観てえ!!

 再登場の孤坂ワカモだぁあ〜!!(テッペイ)
 “おまけ”にてFOX小隊、フライング登場。またしても本編より本編ぽくなるという謎。…FOX小隊とエリカさんの実装待ってます。
 
 なんだろう。アビドス編入る前にブレーザーとアークが終わって新作のオメガが始まろうとしてるとか時空歪んでないすか…?()
 …執筆・更新頑張ります。

 
 
※毎度お馴染みピックアップ解説コーナー
 (独自設定独自解釈共にもりもり)

◯ドンドン吸い込むナウ
・コスト:4
・水文明 / 呪文
S(シールド)トリガー
・自分の山札上から5枚を見、その中より1枚を相手に提示して手札に加え、残りを好きな順序で山札下に置く。こうして提示したカードが火または自然の文明を有しているなら、任意で敵獣を1体指定し、それを持ち主の手札へ戻してよい。

 元覇権のサーチ兼バウンス万能呪文。ドンナウ系呪文は優秀な後継サイクルカードがちょくちょく刷られている。投稿者はボルカが好き。
 個人的には(準4c)シータ刃牙とか超次元コントロール、青緑ジャイアントのイメージ。

 ※エンジニア部の浄化装置の元ネタです※

◯アマガイ・コノミ
 GUYS JAPAN実働隊員の一人。茶髪ボブに赤いメガネがトレードマークな女性クルー。18歳。
 主にフェニックスネストでオペレーターを担当。マケット怪獣の投入などで稀に前線に立つこともあった。
 
 元々は東京の“みやま保育園”で保育士のアルバイターとして働いていたのだが、ディノゾール事変時に同園で飼育しているウサギたちを避難させるべく単身保育園に戻るという行動を取り、その際のちに同期クルーとなるミライ、リュウらと出会い、ミライの熱烈スカウトを受けて入隊した経緯を持つ。
 取り残されたウサギたち__園に着くまでリュウたちは園児だと勘違いしていた__の移送のため集まったメンバーにディノゾール事変後、ミライがGUYS入隊の声掛けをしに行っているので、彼女こそ新生GUYS JAPAN誕生のキッカケを作ったある意味最重要人物(キーパーソン)だと言える。

 性格は気弱で臆病。しかし心の奥底に秘めている勇敢さには目を見張るものがある。
 また、子どもと接する機会が多い故か感受性が非常に豊かで、細かなことへの気づきが多く、マケット怪獣__リムエレキング、ミクラス__に懐かれてもいる。

 とんでもない余談だが、アロナが出力したお気に入りの仮想衣装であるGUYSスーツ…それのスカートは彼女関連の記録から抽出している。
 
 …仮にアマガイさんがシャーレの先生だってなったら、RABBIT小隊との絡み考えない人はいないと思う。誰だC&Cのバニーガールとの絡みも挙げようとしてる不埒な輩は!!(自供)
 あとはアヤネやチナツ、便利屋68、ゲーム開発部あたりとかもか。補習授業部の担任をナギちゃんに頼まれた時なんかものすごい喜んでそう。ミカとのトークも弾みそうだなぁなんて(例の裏切りシーンから目を背けながら)
 メガネがあれば何処でもできる「魔法のおまじない」がシャーレ当番のメガネ生徒たちの間で流行りそう。流行れ。

◯カザマ・マリナ
 GUYS JAPAN実働隊員の一人。茶髪のロングストレートが目を引く女性クルー。19歳。二人の弟がいる。
 世界大会レベルの実力を持つ若き女性バイクレーサーだが、ミライの誘いを受けGUYSへ入隊した。

 思ったことは男が相手でもズバズバ言えるほど気が強く、仲間が貶されれば負けずに張り合い、仲間が落ち込んでいれば発破を掛けるなど、頼れる姉御肌な性格。
 人間離れした聴覚を持ち主で、僅かな音の違いを聞き分けたり、怪獣の小さな鳴き声を聞き取ったりも出来た。
 それに紐付いたものか、短期の集中力はずば抜けて高く、射撃の腕はリュウやジョージに勝るとも劣らない。GUYSマシンの操縦に関しても同様。主に多目的重戦闘機〈ガンローダー〉にジョージと共に乗り戦った。

 GUYSへ入隊してからは、他メンバーと同じように実戦経験だけでなく人間的成長を重ね同期のジョージとは、似た境遇と心根から互いを理解し、“相棒”の間柄と言っても遜色ない関係を築くに至った。
 ()()()()()()()()の彼の大ファンだったが、イタリアの伊達男ばりに女性に鼻を伸ばすところ、スポ根漫画世界の日本人ばりにアツくなりやすいところ、変に寒いボケ・ギャグをぶっ放すところ等々…TVに映る試合などでは見えないような一面の数々を見て、呆れて妬いて――年相応の乙女の感情も向けていた。
 某僧侶の言葉を借りるなら「もう付き合っちゃえよ!!!」状態だった。

 マリナ姐さんはバイク繋がりでフウカ、あとは最近登場した暴走族のリーダーちゃんとの絡みが想像しやすい。
 個人的には百鬼夜行や山海経あたりの生徒たちとも相性良いのかなと。

◯完全瀟洒メイドのトキちゃんさん
 ミレニアムに帰投後、リオ会長に包み隠さず全て正直に報告した。会長からは労い7割、叱責3割で色々言葉を頂戴した。
 ユキノの真意を察している。
 曰く「IBIS(トキ)はやっぱりバレてましたか。南無三」とのこと。

◯SRT特殊学園
 “Special(特別) Response(対応) Team(チーム)”の名を冠する、連邦生徒会長直属の学園(組織)。政治的中立を謳う一級の公立軍事強豪校であり、同じ連邦管轄のヴァルキューレ…警察機構では不相応な有事に対応する特殊部隊を育成・運用し学園都市を守護するために創設された。校訓は「正義断行 精強無比」。
 人員の練度と装備の質は他校や都市企業をも寄せ付けぬ、外界世界の先進国正規軍レベルに匹敵し、連邦生徒会長の権限の元、あらゆる自治区での介入行動が許されている超法規的武力集団()()()()

 各学年毎に十数個編成される“小隊”なる4人一組の実働部隊があり、そのサポート役…後方支援や研究開発等に従事する部活動・クラブも存在していた。
 
 弊作世界線では、本編開始前…連邦生徒会長の失踪に伴う最高責任者の不在により、新学期前には学園機能がストップし、5月時点で「責任なき過剰軍備は不要である」として解体――廃校処理が行われた。
 現在、旧SRT生の大半は、軍事系学園やヴァルキューレ、オデュッセイア、ミレニアムに転校、或いは依願中退・退学処置の後、()()の選択を選んでいる。又、備品返却等の指示に未だ従わず未所属のまま潜伏、非公認の都市平和維持活動に身を投じているSRT解体反対派と言った一部生徒らも存在する。
 なお都市平和維持活動(M-PKO)とは、脅威を事前に摘み取る()()()()や、衆目に晒された状態で行なう()()()()を指す。

◯防衛室長直轄特務部隊 第六班“F小隊”
 SRT解体により、散り散りになりかけたところをカヤ防衛室長によって拾われた精鋭“小隊()”の一つ。
 ヴァルキューレの選抜特殊部隊に偽装し「F小隊」として現在は活動している。
 本来の部隊呼称は「FOX(フォックス)小隊」。
 六つある秘匿特務部隊の中で最強の練度を有し、防衛室長の指示に最も忠実なチームで、彼女の最後の切り札でもある。「厄災の狐(ワカモ)の制圧」というヤベー実績がある。
 
 同小隊はカヤと交わした約束にして彼女らの“正義”の道程である「SRT復活」成就のため、他小隊と共に身を粉にして動いている。

 どうでもいい話だが、“TPC(地球平和連合)”が発動した超兵器開発計画とは一切繋がりは無い。



 さてさてようやくVol.2の終わりが見えてきました。
 次回(平和)+ミレニアム訪問回(必須)とSP回(次章予告)で対策委員会編に突入します。
 これからもどうかよろしくお願い致します。


 
_______
 
 次回
 予告

 ある日、シャーレのポストに入っていたのは、百鬼夜行連合学院の一生徒からの手紙。
 ミライが拝見してみると、ミライがウルトラマンであると知ってると仄めかす内容が書かれていた。

「――この文だけじゃ何も分からない。これはただのイタズラじゃない気がする。確かめに行こう」

 ミライの秘密を何故知っているのか? 何らかの意図を抱えた異星人の仕業か、それとも行き過ぎたイタズラか。
 彼女(?)の真意を直に会って見極めるため、ミライはアロナをお供に百鬼夜行自治区へ赴く。

 そうしてミライが訪れたのは、都市部から離れた田園地帯にポツンと佇む、老舗の風情漂う一軒の駄菓子屋。
 この店に、件の生徒がいる。
 いざ覚悟を決めて、店の戸を開く。

「やあ。ようこそ、ウルトラマンメビウス。…いや、ここはヒビノ・ミライ先生と言っておこうか」

 そこにいたのは、紛れもなく異星人だった。

「――遠路はるばるよくここまで来てくれた。私はキミが……いや、()()()が来るのを待っていたのだ。ささっ、そんなとこにいつまでも立ってないで、上がってくれたまえ」

 店裏…畳が敷かれ、ちゃぶ台が置かれた生活空間(和風居間)に招かれるミライとアロナ。

「――茶でも呑みながらゆっくり話そうじゃないか」

 部屋の主人に勧められるまま座布団に腰を下ろし、ちゃぶ台を挟んでこちらを見つめる異星人にミライは問うた。

「……お前の企みは何だ」

()()…ふぅむ企みか。そうだな――」

 四畳半の空間で繰り広げられる異星人同士による対話の行方は何処へ向かい何処へ着地するのか?

「――私の企みは………」
 

 次回、メビウスアーカイブ
 【史上最速の降伏】

 キミは…百鬼夜行の夕焼けを見たことがあるか。

 お楽しみに。
 

Vol.3にて、ビナー君とまず戯れるウルトラ怪獣は…

  • 磁力怪獣 アントラー
  • 地底怪獣 グドン
  • 甲虫怪獣 タガヌラー
  • 金属生命体 アパテー
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