日々の未来の青春譚 -メビウスアーカイブ-   作:逃げるレッド五号 5式

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22.【砂没の学び舎攻防戦】

 

 

 

 ―――タタタッ、タタタタタンッ!

 

 校舎前…校庭に積もった砂の絨毯を踏み締め()()に向かって前進する、ヘルメットを被った黒セーラーの少女たち。

 自分らの武力誇示のためか、それとも戦意高揚のためのパフォーマンスなのか、或いはその両方か…空へと無駄な発砲を繰り返す。

 

「ひゃははは! 攻撃、攻撃、攻撃せよ!ヤツらは物資が枯渇している!攻め落とすならば今日だ!!」

 

 彼女達は武装不良グループ“カタカタヘルメット団”。

 アビドスの砂漠地帯とその周辺、そしてアビドスに隣接する学園自治区外縁部を縄張りとしている200〜300人規模の武闘派不良集団であり、どのような依頼も金さえ積まれれば引き受ける傭兵部隊としての顔も持つ。

 連邦警察――ヴァルキューレ警察学校ゲヘナ支部から指定危険学生団体として登録、公開手配がなされているそれなりのワルだ。

 

 今この場にいるのはその内の約100人、二個歩兵小隊。

 

「やつら、補給線を絶たれてんだ、ちゃちゃっと攻め落とすぞ!」

「なー。これ終わったらどうするよ?」

「班長に外食奢ってもらおうぜ。久々にアカレンガに行きてえ。アタシ、金鮪(キングロ)の大トロ爆弾巻きが食べたいんだ」

「いやいや…まずはアジト戻ってシャワー浴びようって。流石に砂だらけのまんまはさ…」

 

 一般団員たちの顔はフルフェイスヘルメットに阻まれ口元すら見えないが、声色からして士気も戦意も高いようだ。

 敵…アビドスの窮状を既に知っている故の、楽観も多少は混じっているかもしれない。中には依頼完遂を前提とした今後の予定を話し合う子らもいた。

 

 彼女らが引き受けた依頼は、「アビドス高校中央市街地南区本校舎別館の奪取並びに制圧」である。

 依頼主の詳細は不明…だがその代わり()()は豪華だった。

 

「よおし、堂々の正面突破だぁ!校舎を占領しろ!」

「走れ走れ、校舎ん中に一番早く入った班には特別ボーナス出すってよ!」

「ドローンも迫撃砲も飛んでこない…やっぱ連中、タマもガソリンも空っぽなんだ!」

 

 ゲートが開きっぱなしの別館校舎正門から堂々入場するヘルメット団員の多くが腕に抱いてるのは、カラシニコフの最新モデル“AK-12”系自動小銃(AR)

 前金の一つは、学園都市でも最新の部類に入る、銃火器を筆頭とした歩兵装備の無償給与であった。

 

「こんだけの武器がありゃあ、アビドスの連中相手でも!」

「これまでの分、2倍…いや3倍返しにしてやらあ」

 

 AK-12アサルトライフルに関しては、カイザーPMCの北部(レッドウィンター)方面軍――陸軍第4師団で近年採用が決定、配備が進められている外界ライセンス生産品だという。

 どのようなルートで斯様な高級装備を入手してこちらに引き渡しているのか、ヘルメット団の彼女達も疑問に思ってはいたが、藪蛇を嫌って詮索はしなかった。

 貰えるものは取り敢えずありがたく全部貰っておく…それが彼女達のポリシーである。

 

「一番乗りはワタ――」

 

 ―――ジュンッ! ジュジュンッ!!

 

「あぁ?……応射だと――」

 

 最先鋒を走っていた団員の4、5m手前の砂地が数回赤い閃光と共に小さく爆ぜた。

 それが()()()()であると理解した彼女とその後ろに続く他の団員たちは足を止め、件の射撃が飛び出してきた校舎の正面玄関を睨んだ。

 

『こちらは、連邦捜査部シャーレ。別館校庭グラウンドに侵入中の武装集団、カタカタヘルメット団に警告する。すべての武器を収め当該施設の管理領域から撤収、学区自治権の侵害行為を直ちに中止してほしい。なお、撤収の意思が見受けられない場合、実力による防衛行動を実施せざるを得ない。当方は無益な戦闘の生起を望まない。再度警告する――』

 

 正面玄関前のコンクリ製階段に立っているのは、右手に持つ拡声器でヘルメット団に撤収を促す白衣の大人であった。左手には威嚇射撃に使ったと思しき無骨な大型拳銃が握られている。

 

「今のがビームってやつか? 生で初めて見た」

「あれって連邦捜査部……シャーレの先生よな。でもなんでこんな辺境の自治区なんかに今更…?」

「アビドスの連中が救援要請を出してたんだろ。小賢しい」

 

 だがカタカタヘルメット団は狼狽えなかった。

 

「呑気なこと言ってるぜまったく。――おい、構うな。あれは向こうの時間稼ぎだ。耳を傾ける必要はない。あの大人を狙え!」

 

 リーダー格…赤ヘル団員の指示を受け、呆けていた前列が得物(ライフル)を構え直し、その銃口を砂漠地帯に不釣り合いな配色のコートを羽織る大人に何の躊躇いもなく指向した。

 ………以前にも記したように、彼女らを含む大半のキヴォトス人は、外の世界の人間がどれほどの物理的耐久性を保持しているかを理解しておらず、また浸透もしていない。

 向ける銃も、その引き金も、恐ろしいほどに軽い。

 

 白磁の外套に身を包む青年は苦しげに…否、悲しげに顔を歪ませた。

 停戦交渉は失敗した。

 

「たかが大人一人で何になる。この戦力差で降伏?置かれてる状況分かってるのか? 普通逆だろ、こっちのセリフだってんだよ」

 

 アビドスの在校生は5名。そして増援だろうシャーレの人員はおそらく栗毛頭の大人のみ。

 故に。頭数、装備、物資の質においても圧倒的優勢なのはどう考えてもカタカタヘルメット団の側、主力の筈のアビドス生徒が誰一人迎撃に出てきてないことが何よりの証左であるとして、彼女達の殆どがそう捉えていた。

 

「―――集中砲火で蜂の巣にしてやる。撃てっ!」

 

 ババババババッ!!

 

 だからこそ、弾丸がシャーレの先生へ無遠慮に殺到するのは、予定調和に等しい事象だった。

 

 “シッテムの箱”を媒介してアロナが操る概念障壁(アロナ・バリア)は、シッテム機器本体のバッテリー残量と紐付けられているために常時生成及び維持ができるほど長持ちするモノではない。

 また、南区本校舎別館に来るまでの道中で消耗していたために、アロナはシッテムを低電力モードに切り替えていた。

 

『バリア、緊急展開しますッ!』

 

 彼女にミスはない。これは、()()()()()()()()()()の進み方だ。

 これはミライが身体を張り過ぎた故の心配からきた反射的行動。

 

 なにせ件の先生…ミライはといえば完全に棒立ちの姿勢。

 アロナが障壁を展開し終える、あるいは“事前の打ち合わせ”とやらの動きが始まる前に、小銃弾がその身を貫く方が早いと思われた――

 

 

 

「―――うへぇ〜、上からちょっち失礼するね〜」

 

 

 

 ―――が、しかし。

 

―――ガガガガガッ!!

 

「っ!! あのアビドス校章付きの盾は…!」

 

 彼とヘルメット団の間に太陽のシンボルが刻まれた漆黒の鉄壁が突如空から現出し、着地。それが彼に迫っていた凶弾を全て塞ぎ止めた。

 

「ホシノちゃん!」

 

 漆黒の鉄壁の正体は、アビドス高校の長――ホシノが操る帝政アビドスの遺産が一つ、大型タクティカルシールドであった。

 多用途戦術防盾“Iron Horus”は既に防御機構を起動・展開済み。この小さな要塞は、複数…一個小隊による自動小銃での集中射程度ではびくともしない堅牢さを有する。

 

「ドンピシャだったねぇ。どーお、ミライ先生?怪我は無い?」

 

 ホシノはミライによるヘルメット団の説得が失敗した時、真っ先に標的となる彼を守るために正面玄関直上の二階フロアで待機していたのだ。

 

「ありがとう。おかげで擦り傷一つ無いよ」

「良かったぁ〜。先生が奴らの前に立つなんて言い出した時もびっくりしたけど、外の人ってすごく“脆い”ってアヤネちゃん聞いてたもんだからさ〜まさかホントに言ったままのことやるなんて思ってなかったなぁ…

 ――うん、取り敢えずここから動こうか。撃たれっぱも嫌だし」

「そうだね」

 

 ホシノの言う通りだ。いつまでもこうして不利な場所にいる理由は皆無である……と思っていると、玄関付近にて迎撃態勢を整えたシロコ、セリカ両名による援護射撃が始まった。

 

「ん、ホシノ先輩、ミライ先生。援護する」

「今のうちに一旦下がって!」

 

「サンキュ〜二人とも」

 

 相手が慌てて散開し始めた中、盾を展開させたままホシノはミライを庇いつつ、遮蔽物――経年劣化著しい朝礼台の陰へ退避する。

 

『ミライ先生、プランA(説得)が失敗した以上、プランB(撃退)に移行するしかないかと………指揮をお願いします』

 

 対策室で渡され装備したアビドス製戦闘用インカムからアヤネの声がする。

 

「分かった。アヤネちゃん、まず偵察ドローンからの映像をシッテムに寄越して。状況を確認でき次第、すぐに指示を出すよ」

 

『了解です!』

 

「お、こっちから動く感じ? いいよぉ、やっちゃおう」

 

 彼女の要請をミライは引き受ける。校庭上空を旋回するクアッドドローンが逐次共有してくるリアルタイムの地上映像をシッテムで確認する。

 

「―――ノノミちゃん、位置に着いてる?」

 

『はーい!こちらはポジションに着いてますので、準備万端ですよ〜!』

 

 アヤネのおかげで敵集団の展開具合はほぼ把握した。それにアビドスの子達はミライの提案した作戦を理解してしっかり準備を整えてくれている。

 

 反撃の用意は出来ていた。

 

「……よし。それじゃあこれから僕が別館防衛戦の戦術指揮を執る。みんな、準備はいいね? ――自衛戦闘、開始!」

 

『『『おぉ〜!!』』』

 

 

 

 ミライの号令を端にして、敵集団側面に位置する__砂に半ば埋もれてしまっている__グラウンド砂海の離れ小島、旧陸上部器械倉庫に単身での移動を終えていたノノミがまず動いた。

 

「ではでは、制圧射撃…行っきま〜す♣︎」

 

 彼女の愛銃――“リトルマシンガンV(ファイブ)”が唸りを上げる。本来ならば歩兵携行火器とならないそれから繰り出される火力は破格である。

 

―――ブォオオオオオオーーーーン!!!

 

 デコレーションされた多銃身機関銃から吐き出される横殴りの鉄の暴風雨が、別館校舎奪取に固執する襲撃者達の無防備な左翼集団の戦列をズタズタに引き裂いた。

 

「本日は多めに回してま〜す!」

 

 薙ぎ倒される多数のヘルメット団員。中には赤ヘル…現場幹部が何名か混じっている。

 

「ぎゃあ!?」

「あだっ!痛え!!」

「くそ、どっからだ!?」

「――ポロップ!」

「新人がやられたァ!」

「9時方向、200m先の建物に重機(HMG)!」

 

 意識外からの攻撃に虚を突かれ、指示役も削られたヘルメット団は慌てふためく。

 校庭中央で身を隠せるのは、どこからか転がってきた砂岩、放置された廃棄予定だったろう防弾ロッカーや水害用土嚢の小山ぐらい。校舎側から撃たれている以上、このままでは十字砲火を受け続けることになる。

 

「放置したら面倒なことになる。…各班無線手に伝達!」

 

 そこでカタカタヘルメット団歩兵部隊は大胆にも隊の三割…まだ動ける30名を敵重機関銃(ノノミ)無力化へと回した。

 

「………敵銃手は数少ない友軍と孤立している。包囲してやればすぐに音を上げて降参するさ」

「グラウンド内の砂丘を遮蔽にして接近しろ!走れば滅多に当たらない!当たっちまったらその時よぉ!」

 

 ノノミに向けられた歩兵は皆、チョッキさえ着ず小銃一丁に手榴弾数個装備の「超」が付くほどの軽装具合である。

 そのためにノノミへの接近速度は正に快速の域。天然の防御陣地である砂丘をもってして被弾を抑え、半包囲の陣形で彼女が籠城する器械倉庫へ着実に近づきつつあった。

 

「こちらノノミです。ヘルメット団、約30人が私の方に食いつきました!」

 

『分かった!――シロコちゃん、アヤネちゃん、ドローン展開!器械倉庫周辺に近接航空支援(CAS)! 支援攻撃が始まったらノノミちゃんは倉庫裏口から校舎に後退を!』

 

『ん、標的捕捉。火力支援を行なう』

『ドローン、空爆コースに突入させます!』

 

 ミライの指示を受け、ノノミは撤退準備に移り、シロコとアヤネが管制するドローン群は縦列編隊で軽装団員たちに襲い掛かる。

 

―――シュバババババッ!!

 

 先陣を切るはシロコ所有の空中火力投射プラットフォーム――空撮用デュアルコプター。

 その光学観測装置(カメラ)付き中央フレームの両側面に取り付けられた4連装ミサイルポッドが火を噴く。

 

「無人機だぁ!」

「迎撃しろっ」

「ライフルでどーにかなるわけ――ぐえっ」

 

 砂丘は多少起伏に富んではいるものの、空からは丸見えだ。碌な対空火器を有さない地上部隊にとって、攻撃・観測用、大型小型に関係無くドローンは死神に等しい。

 

 恐慌して撃ち返す者、逃げ惑う者の区別なく、予め割り当てられていた目標に汎用ミニマムミサイルが次々突っ込む。

 一人一発…計8人のヘルメット団員に直撃、そして小さくない爆風で周囲のその他数名を巻き込み撃破してみせた。

 

―――カシャンッ! カシャシャン!

 ―――ヒューン…!

 

「ヤツら、もしかして補給が―――」

「こっちに落ちてくるっ!?」

「構うな!建物まで前進しろ!」

 

 それの追い討ちとして、アヤネが操作している後続の汎用クアッドドローン3機が、機体下部の懸架装置に2個1セットで吊り下げていた手の平大の手製小型無誘導爆弾を投下していく。

 これらの爆撃コース上に居合わせた不幸なヘルメット団員らも、ミサイルの餌食となった団員同様、例外なく吹き飛ばされ脱落していった。

 

『―――ミサイル残弾ゼロ…一時帰投させる』

『全機、屋上の補給ステーションへ!』

 

 一航過で対地攻撃装備を使い果たしたアビドスドローン群は、そのままスピードを維持して器械倉庫上空から離脱。補給のために別館校舎へ帰投した。

 

「今のうちに距離を詰めろ!」

「死なねえから死ぬ気で走れェッ!」

「やられた分、たっぷり返してやる…」

 

 それにより、ドローン空襲という脅威は去ったため、空爆を耐え凌いだ数名のヘルメット団員らは器械倉庫へ急ぎ突入した。

 

 しかし、中はもぬけの殻であった。

 どうやら裏口から重機関銃とその銃手は逃げたらしい。その証拠に、足下にあるスニーカーの靴跡が裏口まで延びている。だがそう遠くまではまだ行ってないはずだ。大型火器を持ったままの移動などスタミナを急速に消費するのみ。彼我の距離も大して広がってないだろう。

 

「「「え……」」」

 

 倉庫の裏口を抜け、校舎方面に目を向けた彼女達は、そこで驚きのあまり呆けてしまった。

 

「は、疾すぎんだろ…もう校舎に着きそうじゃん…」

「両手でデッケエ銃持ってあそこまで走れるとか…」

「どんな鍛え方したらあそこまで動けんだ」

 

 なぜなら、件の機銃手は自分らが所持する小銃よりも遥かに重量のある__本来なら二、三人でやっと動かせる__“M134”系重機関銃を保持していながら、その足枷(デバフ)を全く感じさせない軽快な足取りで校舎目指して疾駆していたからである。

 既にこちらと向こうは200か300mも離れている。

 

「エグいっすね、腕力も脚力もゴリラ並み――」

 

 追撃を諦め、ミニガン持ちのアビドス生に向けた愚痴を一年生戦闘員がうっかり口にした1秒後――

 

―――ブォオオオオオオーーーーン!!!

 

 ――校舎に駆けていたはずであるベージュ髪のアビドス生が突然振り向き、同時に彼女の多銃身機関銃(リトルマシンガンV)が本日二度目の大咆哮を轟かせた。

 連続射撃の反動を()()()()()()()()ソレから繰り出されるは、M61高貫通弾の火雨。

 

「ぶべっ!」

「な、なんで――」

「ギッ!?」

 

 銃弾由来の貫徹エネルギーは、ヘルメット団員らの身体に到達する直前に彼女ら自身が持つ“天輪(ヘイロー)”の加護によって、すぐさま非致死性の衝撃エネルギーに置換されたが、勢いそのものまで丁寧に殺されているわけではない。重度の打撲相当のダメージが加わる被弾の連続が彼女達を待っている。

 

 また、そのあまりの威力に何名かの制服はボロ雑巾が如く千切れ飛んで……否、弾け飛んでいった。修繕は難しいだろう。

 

「…………」

 

 数往復に及ぶ執拗かつ苛烈で無慈悲な薙射が終わった頃には、ノノミと相対していた襲撃者たちは皆、意識を捨てて地に伏していた。

 …倒れ伏すヘルメット団員たちは知り得ぬことだが、彼女たちを見ていたノノミの瞳からハイライトが消えていた。所謂、“ゴミを見る目”であった。

 

「……制圧かんりょ〜♣︎ 早く皆んなと合流しなきゃですね!急がないと!」

 

 つい先ほどまでヘルメット団員に向けていた静かなる怒りは何処へやら。目のハイライトを取り戻し、いつもの調子でえっほえっほと再び駆け足で、ノノミは校舎正面玄関前へ急ぐのだった。

 

 

 

 一方、校舎正面での戦闘は………

 

「誰でもいい、前線を押し上げろ!」

「無茶っすよそれ!あいつらアホみたいなエイムで撃ってくるんすから!!」

「顔出したら顔なくなるっての!」

「タマも段々少なくなってきてんだが…」

 

 結論から記すと、カタカタヘルメット団歩兵部隊主力にとって不利な形で膠着状態に陥っていた。

 

 その理由は単純だ。

 

 物量ではカバーしようが無いほどにある練度の差、である。

 補給という最大の障壁が排された防衛(アビドス)側に脱落者は発生しておらず、逆にこちらの何人かが顔を出して射撃すれば、そのうちの一人が確実に撃破されていった。

 これを二、三十回繰り返されたのがこの現状である。

 

 ……まともに動けない。釘付けにされている。

 

 陣頭指揮を執っている赤ヘルの一人はそう思っていた。機銃攻略の別働隊がどうなっているのかさえわかっていない。

 

 ヘルメット団側に、焦りが募りつつあった。

 

―――バババッ バババッ――キンッ!

 

 改“SG-550”系自動小銃――“WHITE FANG 465”の火線が特徴的な金属音と共に途絶えた。

 

「ん…弾が切れた」

 

 廃車(トーチカ)となって久しいグラウンド整備用の軽トラックの車体に隠れるシロコは、スカートやシャツの胸ポケットに片手を突っ込み弄るが、彼女が今一番に欲している予備の5.56mmマガジンは無い。

 火力投射が途切れるのはマズい。一桁名の戦闘部隊にとってそれは致命的になり得る。

 

『そちらに支援物資を投下します!受け取ってください!』

 

 だが、インカム越しにシロコの呟きを拾っていたアヤネが、ドローンで弾薬コンテナを投下。少々突風に煽られたがシロコの近場に落着させた。

 

「ん、ナイスタイミング。けどちょっとズレたか……セリカ、カバーお願い。弾薬を回収する」

「了解っ、シロコ先輩! タイミングはそっちに合わせるわ!」

「いくよ…3、2、1――いま」

 

 遮蔽物と遮蔽物の合間…敵から視認・攻撃される恐れはあるが、銃が撃てねば何もできない。

 セリカの援護を信じて、合図と同時にシロコは軽トラックの陰から勢いよく飛び出した。

 

「やっと出てきやがったなぁ! お前ら、あの耳付きを吹っ飛ばせ!」

 

 待ってましたと言わんばかりに、思い切り遮蔽から身を晒した血の気の多い赤ヘル団員は、その直後にセリカの“シンシアリティ”による頭部狙撃を受けて倒れる。

 …が、赤ヘル団員の指示を聞いていた数人の黒ヘル…一般団員が、虎の子の高威力衝撃信管式(インパクト)手榴弾(グレネード)をシロコ目掛けて一斉に投擲した。

 

「シロコ先輩、グレネードッ!」

 

 セリカが叫ぶ。シロコが見上げる。

 日を浴びて黒に鈍く光る手榴弾が五つ、放物線を描き落ちてくる。それら一つひとつに、装甲戦闘車の装甲に穴を空けるほどの炸薬が詰められている。いくらシロコとて、至近での被弾を一度でも貰えば戦闘不能になるだろう。

 シロコ、セリカ両名は体感時間が恐ろしく長く引き延ばされる感覚を覚えていた。

 

「当たれ……ッ!」

 

 が、終わりは突然に訪れる。

 赤き光条が五本、蒼空を疾った。

 

―――ドッカァアーーンッ!

 

「「「は…?」」」

 

 手榴弾はすべて中空で射抜かれ爆散。凄まじい爆風と衝撃波が生じ、粉塵が舞う。

 あり得ない現象を目の当たりにして唖然とするヘルメットの少女たち。

 

「なんとか全部当てれたか…シロコちゃん、怪我は!?」

 

「あ、う…うん、怪我はしてない」

 

 シロコは窮地を脱した。

 

 青年の呟きを耳にした生徒は皆、彼に視線を向けた。

 彼…ミライの手には光学拳銃“トライガーショット”が握られていた。トライガーは速射性、連射性に優れ精密性にて劣る形態――ショートバレルモード。

 ミライは()()で弾道も速度もバラバラな空中の手榴弾五個をほぼ同時に迎撃するという離れ業をしてみせたのだ。

 

 なお、彼自身は生徒が手に保持している銃器を狙撃することと比べたら、遥かに心理的及び技術的難易度は低いと思っていたりする。

 

「今、手榴弾を空中で…?」

「嘘だろ」

「そんな芸当が――」

 

 だが常人からすれば並の技量と集中力では成し得ない、もはや芸術とも言える神業である。その始終を目撃してしまったヘルメット団員たちは明らかに狼狽えていた。

 彼女たちの攻撃の手が止まる。

 

「―――中々良い腕してるねミライ先生。うんうん、おじさんも負けてられないなぁ」

 

 その隙をアビドス最強の少女が見逃すはずがなかった。

 

「パパッと距離詰めちゃうね〜。みんなカバーよろしくぅ」

 

 彼女の黄金と紺碧の眼がぱっちり開かれる。

 

『わ、分かりました!』

「ちょっ!ホシノ先輩、早いってば! ――シロコ先輩、右翼から二人詰めてきてる!」

「ん。了解、そっちは私が相手する」

 

 桜色の迅影が校庭に躍り出た。されどもそれの捕捉は容易ではない。自身の背丈と等しい甲盾を持っていながら、俊敏性は異次元の域。

 駆けていく桜影の狙いは――敵集団前衛の懐。

 

「まずはひとーつ」ジャコッ!

 

「へ?」

 

 最初の()()()は、スポンサー供与のレベルⅡ規格ボディアーマーを着込み安心しきっていた一般団員だった。

 防弾プレートで守られている彼女の腹部には、いつの間にかアビドス印のセミオートショットガンの銃口が押し当てられていた。

 

―――ズガァン!!

 

 なんの躊躇いも無くホシノは愛銃“Eye of Horus”を撃発、12ゲージ散弾を襲撃者に叩き込んだ。

 悲鳴を上げることもできず意識を刈り取られ後方へ吹き飛ばされる黒ヘル団員。

 

「ふたーつ」

 

―――ガゴォッ!

 

「え゙ん゙っ!」

 

 それを目で追ってしまった横の団員が第二の被害者となる。凄まじい速度で繰り出された戦術防盾のシールドバッシュを顔面…ヘルメットでモロに受け、奇声と鼻血を出しながら仰向けにぶっ倒れた。

 

「このチビッ――!」

 

「みーっつ」

 

―――ズガァン!!

 

「ブフォアッ!?」

 

 ようやく事態を把握し、自陣のど真ん中で好き勝手暴れている桃色頭にAKを向けた中堅団員がそれより先にヘルメットのバイザーへ散弾を接射され三番目の犠牲者となる。響く断末魔、仰け反る体、粉砕し飛び散る赤のプラスチック片。

 

「よっつに、いつーつ」

 

―――ズガンッ! ズガンッ!!

 

「〜〜〜ッ!?」

「へぶっ!」

 

「どんどんいくよ〜」

 

 ……更にそこから一分と経たず、立っていた団員は皆、ホシノに近接戦を仕掛けられ次々ノックアウト。

 ヘルメット団前衛はたった一人の生徒によって壊滅状態に追い込まれた。

 

「――――ふぅーっ。うへぇ…まだいるのぉ?」

 

 中衛と後衛のまとまった集団はシロコ、セリカの射撃と補給を終えていたアヤネのドローン爆撃隊に阻まれ、前衛の援護にまわることができなかった。

 カタカタヘルメット団歩兵部隊の残存戦力は20名を切っている。

 

「前の奴らがやられちまった!」

「たった一人で片付けるとか、どうなってんだよ」

「くそ、小鳥遊ホシノは化け物か!?」

ごっ゙ぢみ゙でる゙ぞ(こっち見てるぞ)ぉ"!!」

 

 桜髪の小さな戦乙女の舞いを見ていたヘルメット団残党は恐慌した。

 しかしそれでも銃は手放さない。心許ないと言え、それが最後の()()()()…抵抗手段であるからだ――が、それは「戦闘継続の意思アリ」と捉えられる行動である。

 

「―――は〜い、皆さんお待たせしました〜! 機銃掃射、いっきますよ〜!!」

 

 校庭とグラウンドを一望できる小山と化した砂丘のてっぺんから、ほわほわとした声が聞こえた。発された単語と声の主である少女が持つ得物はだいぶ穏やかではなかったが。

 

 キルゾーンに追い込まれているヘルメット団になす術は最早無い。

 

―――ブォオオオオオオオーーーンッ!!

 

 射撃開始の宣言と同時に、多銃身機関銃が唸る。遮蔽物に数人単位で固まっている残存ヘルメット団員らに満遍なく連続かつ高速でばら撒かれる無数の機関銃弾。

 ヘルメットを被った不良児達は次々に立ち昇る砂煙の中へ消えていった。

 

「うわーん!アタシのヘルメがぁ!!」

「なんで勝てないんだよ!?」

「てったーい!撤退だ!」

「ダチが伸びちまった、誰か運ぶのを…」

「待て、勝手に撤退の号令を――」

 

 錯乱した一人の非赤ヘル団員が口走った「撤退」の叫び。これによって統率が取れなくなったヘルメット団歩兵部隊は壊乱。彼女らは戦闘不能になった仲間たちを放置することなく引き摺る若しくは背負うなどして全員でなんとか撤退を開始した。

 

「ノノミちゃんの射撃が決定打になったみたいだねぇ。削れるだけ削れたし、追撃戦は不要かな…?」

 

 ……そこまで他者(仲間)を思い遣れるのなら、斯様な悪事に手を染めるような真似はしないでもらいたいものだ――とアビドスの面々は内心そう思うのだった。

 

 

 

『―――カタカタヘルメット団、校外エリアより離脱を確認。戦闘終了と判断します。……やりましたね!』

 

 偵察ドローンを介してヘルメット団歩兵部隊の動向を監視していたアヤネからの実質的な勝利報告を受け、アビドスメンバーは歓声を上げた。

 

「ん、戦術の勝利だ」

「わあ⭐︎ 私たち、勝ったんですね!」

「あははっ!どうよ、思い知ったかヘルメット団め!これが私たちの実力よ!」

「ふぃ〜っ。一仕事終わったって感じだねい。おじさん、缶ジュースを浴びるほど飲みたいよ」

 

 いえーいと代わる代わるハイタッチする一同。校舎から出てきたアヤネと共にミライはその輪に加わり、事態収束の喜びを分かち合った。

 

「みんな、お疲れ様」

 

 ミライが労いの言葉を掛けると、シロコが抱きつく勢いで一番に寄ってきた。

 

「ん! ミライ先生のおかげで助かった。この恩はいつか絶対に返す。私は義理堅い女」

「そんな大層なことはしてないよ。やるべきことをしただけさ」

「手榴弾を撃ち抜く人間なんて初めて見た。先生の射撃技術と練度はすごい。もっと胸を張るべき」

「………うん、分かった。ありがとう」

 

 過度な謙遜は一周回って嫌味になる、と聞いた覚えがある。それ故にミライは彼女の称賛を甘んじて受け入れることにするのだった。

 

「そうだよぉ先生? あんなびっくらぽんなミラクルショット、おじさんでも中々真似できないよ。…シロコちゃんを守ってくれて、ありがとね」

「うん。こちらこそ、ありがとう」

 

 素直に感謝を述べながらぺしぺし背を叩いてくるホシノからは、対策室で対面した際と同じ“圧”は生じていなかった。警戒の色は皆無であり、安堵の類いが含まれた眼差しを後輩(シロコ)たちへ向けるのみであった。

 

(ホシノちゃん……この子は………)

 

 何と言い表せば良いのか、分からない。今のやりとりで余計にあの時の、同一人物とは思えない“圧”と懐疑の念が宿った瞳は何だったのか謎に包まれていく。

 ホシノは誰にも言えないナニカを抱えている…? そんな気がしてならなかったが、その思考途中にノノミが背後から声を掛けてきた。

 

「ヒビノ先生の指揮、噂に違わぬものでした!これが大人の力なんですね⭐︎」

「ノノミちゃんの陽動がなかったら、もっと苦しい状況になってたかもしれない。ありがとう。…けど、危ない役回りを押し付けてしまって――」

「――いえいえ、母校を守るために体を張らない理由なんてないですから! 自分たちの居場所は自分たちで守る…お力添えしてくださったヒビノ先生に感謝こそすれ、問責するようなことはいたしません」

 

 むん!と笑顔でマッスルポーズをとるノノミ。

 そんな彼女の背からこちらに顔を出しお辞儀をするのはアヤネである。

 

「救援物資の融通から防衛戦への参加まで…ミライ先生、助かりました。ありがとうございます」

「アヤネちゃんも。指揮のサポートをしてくれてありがとう。それに、あれだけ複数のドローンを正確に操作できるなんてすごいじゃないか。あれも独学なのかい?」

「はい。そうなんです。…私にできるのは皆んなのサポートぐらいですから」

「ぐらいだなんて言っちゃダメだよ。それも立派な――」

 

 アヤネとの会話中、ミライの目は一人だけ輪から外れている生徒…セリカを捉えた。

 ミライが歩み寄ろうとしているのを察知した彼女は、何故か苦々しい――嫌そうな顔をする。

 

「な、何よ? 私に何か用?」

「セリカちゃんにもお礼を言いたくて」

「…別に。ノノミ先輩も言ってたけどさ、当たり前のことを当たり前にやっただけよ私は。何かが欲しくてやったわけじゃないし」

「それはそうかもしれないけど、当たり前のことを当たり前に…っていうのは誰しもが完璧に出来ることじゃないと思うんだ。だから、ありがとう」

「……ッ!!」

 

 己の突き放すようなぶっきらぼうな物言いに対しても誠実な返しをしてきたミライにセリカは面食らったようである。それを誤魔化すためか、何も言わずに校舎の昇降口に駆け出した。

 

「………ええっと、取り敢えず教室に戻ろっか。お話の続きは中でゆっくりお茶でも飲みながらにしない?おじさん、もう喉がカラッカラなんだよねぇ…」

 

 ホシノの提案に、先んじて校内入りしたセリカを除く全員が首を縦に振って同意の意思を示した。

 

 

 

______________

____________

_________

 

 

 

 数分後。校舎二階の対策室へ戻った一同は、まず中途半端だった自己紹介を改めて行なうこととした。

 なお、シャーレの軽機動装甲車はアロナによる遠隔操作にて校舎裏手の搬入口前へ移動済みである。

 

「じゃあ先頭バッターは私」

 

 それぞれパイプ椅子、ソファ、学習椅子に着席している面々を見回せる位置にあるホワイトボードの前に立つのはシロコだ。

 

 彼女の背後のホワイトボードには丸っこい文字で「みんなで自己紹介!」と書かれている。その文字の周りに描かれたデフォルメのモモフレンズキャラたちはノノミの自信作だ。

 

「これで2回目だけど……アビドス高校二年、対策委員会行動班長、砂狼シロコ。趣味はジョギングとサイクリング、身体を動かすこと全般。最近ハマってるのは、()()()()()()()()()()()()。改めてよろしく」

 

「………キヴォトスって銀行強盗とその計画、準備自体は合法なんだっけ?」

 

 スタートは好調…と思われていたのはシロコが口を開いてから数秒までであった。

 アウトもアウト、ド真ん中どストレートの空振りド三振である。

 

「何言ってんの?良いワケないでしょ」

 

「そうだよね!?」

 

 まさか、まだ自分の知らないキヴォトスの常識(例外)があったのかと首を傾げるミライに、そんな常識あってたまるかとセリカが呆れ顔で一蹴した。

 

「…今の所、銀行強盗はしないんだよね? シロコちゃん?」

 

「……………」

 

「し、シロコちゃん? その沈黙は…?あの、目を逸らさないでシロコちゃん。ここで“うん”って言ってくれないと僕はヴァルキューレ側に立たないといけなくなっちゃうから!」

 

「う……それは困る。勝てるビジョンが見えない先生を敵に回したくない」

 

「勝てるビジョンが見えてたらまた違う回答をしてたようにも聞こえたけど…じゃあ銀行強盗はしないんだよね?」

 

「うん。……今は()()

 

「シロコちゃん!?」

 

 今の返答では心配になるなんてものじゃなかった。自分の生徒が庇いようのない犯罪者にはなってほしくない…その心は果たしてどれぐらいシロコに響いているのだろうか。すべては彼女のみぞ知る。

 なお、これがいつものシロコの言動なのか、他のメンバーは呆れからくる苦笑や溜め息をしてみせる程度の反応で収まっていた。

 

「――で、このツンデレな黒髪猫耳の子が黒見(クロミ)セリカ。対策委員会の会計担当だよ」

 

 ミライからの追及から逃れるためか、シロコは二番バッター…後輩の紹介に移った。

 

「ど、どうも……って、ちょっとシロコ先輩! “ツンデレな”は余計じゃない!?そこ絶対にいらないでしょ! なんか私の扱いというかイメージが雑じゃない!?」

 

 ふしゃー!と猫ばりのすごい剣幕でシロコの紹介に異議を唱えたのは紹介された本人であるセリカ。

 

「でもセリカは――」

「もうっ!でももヘチマも無いってば!」

「ん、洒落臭い。私がツンデレといえばセリカはツンデレ」

「アホの理屈よそれは!!」

 

 目を三角にして抗議するセリカとそれを全く受け付けないシロコのじゃれ合いを微笑ましく見守るミライはといえば。

 

(そう言えば、マリナさんが“ツンデレ”ってリュウさんみたいな人のことを指すって言ってたっけ……)

 

 …彼女たちのやりとりを見守りながら旧友の言葉を思い出していた。

 

「うが〜! いくら先輩でも、限度があるわよ! 覚悟してよね!?」

「…いいよ、受けて立つ」

 

 猫の如く素早く飛び掛かるセリカをいなすシロコ。シロコの表情に変化は無い。

 その態度はツンデレ後輩の扱い方を一から十まで心得ている故か、それとも単に図太い神経をお持ちなだけであるのかは不明である。

 

「え、えっと、では改めてご挨拶を……私が、アビドス高等学校一年、委員会では書記とオペレーターを担当している奥空アヤネと申します。よろしくお願いします、ミライ先生」

 

 同級生(セリカ)と先輩の戯れには一旦ノータッチでアヤネがミライに名乗りぺこりと丁寧に頭を下げ、ミライもそれに対して応える。

 

(アヤネちゃんは……何処となくコノミさんに雰囲気が似てるような気がする)

 

 なるほどそれは一理あるかもしれない。ショートかつ黒寄りの髪色に赤ふち眼鏡、穏やかな物腰の人物で、チームのサポート役…と多少こじつけ感も否めないだろうが共通点は確かにあるだろう。

 

「こちらこそ、改めてよろしくね。アヤネちゃん」

 

 ミライは手を差し出し、アヤネも同じようにして握手を交わす。

 

「―――ん。どっちも、私の可愛い後輩達」

 

 セリカを片腕で抑えながら、自分のことのように誇らしげな顔をしてみせるシロコ。

 彼女が羽交い締めにしているその自慢の可愛い後輩の片割れがそろそろ爆発しそうだが、相変わらずシロコは気にしてない。

 …どうやら自然の掟である弱肉強食と能力的序列の格付けは、この教室内でも適用されるようである。ミライは傍観しているしかなかった。

 

「はーい!そして私が十六夜(イザヨイ)ノノミで〜す♣︎ シロコちゃんと同級の二年生ですので、よろしくお願いします〜!因みに委員会では盛り上げ担当大臣です!」

 

「うん、こちらこそよろしくね」

 

 後ろからアヤネに抱きついて自己紹介をするのは先の別館防衛戦MVPであるノノミだ。

 

(ノノミちゃん、スタミナもあるけど足もジョージさん並みに速かった。掴みやすい取っ手があるとはいえ…重機関銃を持っていてあれだけ動けるなんて。どんなトレーニングをしているんだろう? 今度聞いてみようかな)

 

 彼女のずば抜けたフィジカルには素直に驚嘆した。あれだけの重量物を戦闘中に振り回しておきながら、汗ひとつかいておらず呼吸も乱れていない。

 

「へいへいへ〜い。こういうやつのトリは三年生だよね。ミライ先生、おじさんが委員長の小鳥遊(タカナシ)ホシノだよぉ、よろしくね〜?」

 

 もう何度か下の名前呼び合ってるから何か不思議な感じだねえ〜と頬を指で掻きながら言うホシノ。

 

(ホシノちゃん……この子は……………何か、抱えている…今はそれだけしか分からないけど)

 

 ミライは彼女の放ったあの圧と視線、そしてあの戦い方――それらの元…根源に何があるのかは分からない。だが、邂逅の際よりは警戒されていないのは確かである。

 交流を重ねていけば、いつか話してくれる日が来るのだろうか…?

 

「いや〜まさか勝てちゃうなんてさ〜? ほぼ中隊規模だったよね、ヘルメット団もかなり本腰入れてたみたいだったけど」

「まさか勝てちゃうなんて、じゃありませんよホシノ先輩…勝てなかったら学校が不良の拠点にされてしまうところだったじゃないですか…」

「先生の指揮が良かったね。私たちだけの時とは明らかに違った。戦力差があそこまでかけ離れていながら、余裕を持ってヘルメット団の歩兵部隊を撃退できちゃったんだから。大人の力ってすごい」

 

 シロコの言葉にアビドスメンバー全員が頷いた。

 ……いつの間にかセリカがシロコから解放されている。

 

「…えっと、気になってたことなんだけど…皆んなが所属してる、その…対策委員会ってどんな組織なんだい?」

 

 ミライの質問に、アヤネがハッとしたような顔をする。

 何度か彼女らの口から「委員会」、「対策委員会」という単語が出たが、その中身についてミライはまだ把握できていない。

 

「あっ、そうですよね。そこの説明がまだでした。私たちは“アビドス廃校対策委員会”です」

 

「廃校対策委員会…」

 

「はい。対策委員会は、このアビドスを蘇らせるために有志が集った部活となります」

 

 彼女曰く、現時点に於ける事実上の同学園行政府…即ち、生徒会組織――厳密にはそれの代替組織でもある、らしい。

 

「うんうん!全校生徒で構成される、校内唯一の部活でもあります!」

 

 全校生徒とは言いますが、私たち五人だけなんですけどね…とノノミは苦笑混じりに言った。

 

「…他の子達は――」

 

「他の生徒は皆んな、転校したり退学したりして自治区から出て行った」

 

 あっけらかんと答えるシロコ。しかしその口元は小さく不満げに「へ」の字に曲がっていた。

 

「自治区の殆どの土地がこの有様だから、地方集落からここ、中央市街地に至るまでどこも住民はいなくなって…」

 

「現状では、私たちだけでは先のヘルメット団のようなグループから守りきるのが難しく…在校生としては恥ずかしい限りではありますが……」

 

「もしシャーレの、先生からの支援が無かったら今度こそ万事休すでしたね」

 

 シロコ、ノノミ、アヤネはそう言うが孤立無援の中よくここまで耐え抜いてくれた、とミライは思う。

 今いる彼女達のこれまでの頑張りが無ければ、アビドス高校は数年前の時点で瓦解していたに違いない。

 

「だねー。諸々底をついてたし、覚悟はしてたね。いやぁ中々良いタイミングに現れてくれたよ、先生」

 

「間に合ったようで本当に良かったよ…」

 

 それと同時に、駆けつけることが、事態を知ることがもっと早くできていれば…というたらればも胸中に渦巻いていた。

 だがそれは間違っても口にしない。できなかったことを後からどうこう考えようとも過去は変えられないし、戻れもせず、現状も未来も勝手に好転しないのだと彼は知っている。そしてそれが何の慰めにもならないとも理解していたからだ。

 

「あとで、先生が持ってきてくださった残りの物資も校舎内に運び込みましょうか。シャーレのLAVも野晒しのまま…というのはアレなので、校舎横の通学バス用大型車庫に――」

 

 ミライができるのは、何もできなかったという事実を噛み締め、これからの糧にし、そうしてより良い明日(みらい)へと繋げるために行動することだけだ。

 

 彼の心情などはさておき、会話は続いていく。

 

「――先生のアビドス入りと、ヘルメット団との戦闘のドタバタで今のいままで言えなかったけど…」

 

 突然シロコがこれまでの会話の内容をぶった斬った。その顔は至極真面目で、眉は逆八の字を形成している。

 先ほどまでの気持ちのほほんとした無表情は影を潜めていた。

 彼女は御託を並べることはせず、本題に入った。

 

「今日の登校中、アビドス砂漠にある埋没都市のひとつ…旧エフタル市のあたりに怪獣が出た。それも2体」

 

「「「ええっ!?」」」

 

 驚く一同。ただ、ホシノは閉じかけであった眠そうな瞼を僅かに開けるという反応をしてみせた。新たに発生した自治区内問題に対する考えを巡らせ始めたのだろう。

 なお、当事者の側であるミライの反応は言わずもがなである。

 

「そ、それは本当ですか!? シロコ先輩!?」

 

「ん…事実、だよ。流石にこれはジョークじゃない。証人はミライ先生」

 

 シロコが指差す方向にはミライが座っている。アビドスメンバーは揃ってミライに目を向ける。

 

「ヒビノ先生もその現場にいたのですか?」

 

「う、うん。シロコちゃんと会ったのもそこでなんだ」

 

 ノノミの問いにミライは首肯する。

 

「怪獣はどっちもテレビに映ってたのと同じサイズ…大型だったと思う。姿形も体色も何もかもが全然違ったけど」

 

 片方は土色で、片方はところどころ白い真っ黒くろすけだった――とシロコは補足した。

 

「それでシロコ先輩…そいつらはどうなったの?」

 

 セリカが恐る恐るシロコに尋ねた。彼女が、と言うより対策委員会の面々が__自治区初出現と推定される__怪獣の動向を気にするのは当然のことと言える。

 自分たちが生活する地域に、各地で甚大な被害を齎している歩く災害が現れたのだ。事態を把握しようとしない方がおかしい。

 また、怪獣を目撃・遭遇した人物たるシロコがこうして無事に五体満足で登校できてる理由を知りたいがために出た質問でもあった。

 

「私が直に姿を見た時には、両方とも敵対してて、市街地の外れで争ってた。決着は5分も掛かってなかったと思うな。黒い方が土色のを空に投げ飛ばして、黒いのが火の玉?…を頭から発射して、それで土色を倒した」

 

「もしかして、遠くから聞こえた大きな爆発音と一瞬空がオレンジ色になったのは…」

 

 アヤネの推測にシロコは頷く。

 

「うん。多分、黒いやつの攻撃」

 

「ここからでも観測できたのですから、現地はもっと酷かったのでは? シロコ先輩もミライ先生も、よくご無事で…」

 

「道端にスクラップ化してた重戦車があったから、咄嗟にその裏に飛び込んでやり過ごしたよ。上の耳は塞ぐの遅れちゃったけど…今はもう大丈夫」

 

 そういってシロコは元気に獣耳をぴょこぴょこ動かしてみせる。ノノミが我慢できずに彼女の耳をモフり始めた。なんとも微笑ましい光景である。

 

「ええっと…戦いに勝った、その黒い怪獣の行方は分かりますか?」

 

 アヤネの問い。シロコは腕を組むと数秒沈黙した。眉間に皺を寄せて悩んでいる。どのように説明しようか四苦八苦してるようだ。

 …悩みながらも、取り敢えず説明するつもりであるらしい。彼女は口を開いた。

 

「う〜ん…ありのままのことを言うなら…()()()。緑色の光と一緒に」

 

「「「消えたっ!?」」」

 

 またしても素っ頓狂な声をあげて驚く一同。相変わらずホシノのリアクションは薄い。

 

「な、なんの前触れも無く、そんなデカい図体の怪物が消えたってわけ?」

 

「そうとしか言えない。だよね、ミライ先生」

 

「えっ、あ、うん。そうだね。そうだったと思う」

 

 同じ目撃者として話を振られたミライだったが、突然のことであったのでなんともまあ微妙かつ怪しい反応を返してしまった。

 

「黒いやつが消えた地点を目指して走っていったら、そこでミライ先生を見つけた」

 

「なるほど。そこでお会いしたんですね」

 

「そういうこと。…で、ここまでがみんなへの報告なんだけど、()()()()はミライ先生への()()

 

 モフられれるがままの状態から脱却したシロコが真っ直ぐミライを見遣る。それに敵意や疑心はなかった。ただ純粋な興味を伴っていた。

 

「単刀直入に聞くね。……先生はあの2体の怪獣について、どこまで知ってる?」

 

「…凡そは」

 

「やっぱり。……ここもまだ電波は完全には死んでない。連邦生徒会のシャーレ発足会見はテレビで見た。先生が怪獣に関わる組織にいたとまでしか会見では説明が無かったけど、先生の持つ光線銃やあの身のこなし、冷静さ、戦闘指揮を直接見た今なら分かる。ミライ先生は、怪獣と戦う組織…軍にいた()()()なんじゃない?」

 

「うん。その通りだよ。僕はGUYSっていう防衛組織に在籍していた」

 

「「「ガイズ……」」」

 

「GUYSは――」

 

 以前に記した、“ハヤセ・レポート”レベルの詳細かつ正確な外界情報を保有しているのは、現キヴォトス三大校と連邦生徒会の上層部…その中の更に一握りぐらいである。

 シロコが言っているように、リンはシャーレに関する記者会見にて展開する外界情報を絞った。それは、ミライというシャーレの責任者として連邦生徒会長によって推薦され登用されるに至った大人の職歴などについてもまた同様だった。

 

「―――はぁ〜なるほどです⭐︎ 先生はGUYSの実働隊員…即ち現場側の方だったんですね〜!だから怪獣の知識も豊富であると……それにしても、外の世界では怪獣や宇宙人という存在がごく当たり前のものだとは驚きです」

「怪獣や…それに宇宙人が絡む有事に対応する超国家的実力組織とは…まるで、旧SRTみたいですね」

「どおりであれだけ強いわけだ…聞けば聞くほど滅茶苦茶エリートじゃないのアンタ…」

「ん、ミライ先生は戦闘機もバイクも乗りこなせるんだね。カッコいい。やっぱり先生はすごい」

 

 そのため、ミライが行く先々で「キヴォトス赴任前に何をしていたのか?」と聞かれる度に、今のようにCREW GUYSから説明をしなければならない。

 

「怪獣についてはどこから話せばいいんだろう…」

 

 現在、GTYSアーカイブドキュメント上に載っている__マケット関連を含む__怪獣の諸情報の取り扱いは、リン、アユム、カヤとの協議、そしてヒマリの助言を受けて平時は基本的に展開させないことで決まっている。

 なお、キヴォトスにおいて出現が予期される、或いは確認された既知怪獣に限り情報を関係機関・団体・学園にその都度情報を開示・共有する方針で話がついている。

 

「ええっと、まず土色の怪獣は、グドン。別名を地底怪獣っていうんだ。その名前の通り、惑星の地下に棲んでる凶暴な肉食性怪獣で――」

 

 シッテムの箱からホログラム出力されるのは、グドンの3D全身モデル。

 続けて、それらの周囲にドキュメント上にあるグドンの静止画像や特殊生物被災地で撮られた写真、地球人類との交戦映像が浮かび上がってくる。

 

「ひゃあ、おっかない顔してるねぇ。おじさん夜中のトイレ一人じゃいけなくなっちゃうよ」

「映像では戦車(M41)による集中射でも怯んでない…おまけに地中潜航能力なんてものまで持ってるなんて……」

「こんなのがアビドス砂漠にもいたっていうの!?」

「腕がムチみたいになってるんですね〜」

「ん、あれを振り回して得物を仕留める。黒いのと戦ってる時、あのムチの()が全然見えなかった」

 

 グドンの記録を見ての感想を言い合うアビドスメンバーたち。反応は様々だった。

 

「あれ…? 映ってる資料が……」

「なんか急に画質が上がったわね」

「より鮮明になった気がします〜」

ヘイセイ(平成)…期――グドン、二代目…?」

 

 昭和期の資料がすべて展開され終え、平成期…GUYS JAPANとウルトラマンメビウスが交戦した二代目個体のアーカイブデータが入れ替わるように出力を開始した。

 

「……もしかして、この二代目ってヤツとミライ先生は戦ったの?」

 

 投影されるホログラム資料の各所に載っている「CREW GUYS」マークの一つを指差すホシノ。

 ミライが身につけているライトキャップや汎用コートに付いているシャーレのエンブレムとの類似していることから、関連性に気づいたようだった。

 

 ホシノの指摘にミライは頷く。

 

「そうだね。僕らはこのグドンと戦った。新生GUYSの初陣だったからね、よく覚えてるよ。……本当に、よく覚えてる」

 

(そうだ、皆んなでガンフェニックスを“俺たちの翼”にして、はじめてカレーライスを食べて…その矢先のことだったから。あの時はひたすら我武者羅に向かっていって――)

 

 まだまだ戦士として荒削りだった頃の自分を、そしてグドン戦に至るまでの懐かしき日々を思い返していた。

 

「……もしかして、おじさん何か()なこと聞いちゃった…?」

 

「ううん、違うよホシノちゃん。あの頃が懐かしくてね。悪い思い出じゃないんだ」

 

「…そっか」

 

 こちらを気遣って尋ねてきたホシノの表情が、ミライには安堵と悔悟の念が入り混ざったように見えたが、それを指摘することはやはりしなかった。

 

 代わりに、ホシノへ何か声を掛けようとした時、アヤネが遠慮がちに手を上げた。

 

「あの、ミライ先生。黒い怪獣についても教えてくださいませんか?」

「そうよ、このグドンってやつを倒した怪獣。こっちが生き残ってるんだったら、アビドスにとって現状一番の脅威じゃない!」

 

 ヘルメット団なんかとじゃ比べものにならないわ!――と言って派手に椅子を倒しながらセリカが立ち上がった。

 

 彼女――セリカの焦り、危機感の発露は理解できる。

 グドンの脅威度はシロコの証言とアーカイブ資料で皆んなが正しく認識した筈だ。だからこそ、そんなグドンを打ち倒した(マケット)ゼットンがそれ以上の脅威であると考えるのは至極当然のこと。

 

「ん。黒い怪獣はもっと強かったよ。土色…グドンの攻撃はバリアを張って防いだし、瞬間移動で背後を取れて、特大の火の玉を吐けた」

「バリアにテレポートに飛び道具!? もっと危険度が跳ね上がったじゃない!?」

 

 ミライが今悩んでいるのは、アビドス高校に対するゼットンを含むマケット怪獣の情報開示であった。以前にも記したように、マケット怪獣の存在の公表は、ミライの“怪獣使い”説が蔓延する危険性のある行為だからだ。

 それに、彼女たちと出会ってからまだ半日も経っていない。一度疑われれば懸念の払拭は至難だろう。

 

 …単純に、グドンとゼットンの情報をアビドスメンバーに共有すれば済むといえば済むのだが、それで締めてしまうと、彼女達に「存在しない消息不明のゼットン」に対する警戒という要らぬリソースとを割かせ、心理的負担を与えてしまうことにもなる。

 

 そうなるのは、彼も本意ではなかった。

 

(――シロコちゃんを巻き込んでしまった事実…これを隠していくことなんて出来ない。僕は向き合うべきだ。彼女たちを信じる)

 

 それに、知らなかったとはいえ結果的生徒を戦闘に巻き込み、治癒はできているものの負傷させてしまった。

 ここで虚偽を伝えて乗り切ろうとしたら、自分は今後、シロコたちの顔を真っ直ぐ見ることはできなくなる…そんな予感というより確信があった。

 

「実は、黒い怪獣の方だけど……彼の名前はマケットゼットン。GUYSが造った防衛用人工怪獣(マケットモンス)なんだ」

 

 結論として、ミライはアビドス高校にマケット怪獣の情報開示を行なうこととした。

 

「ヒトが造った?」

「マケット、モンス…?」

「防衛用…の、つまり人工怪獣ということですか?」

「へぇ…そんなものまであるんだねぇ」

「だ、大丈夫なのそれって」

 

 なおこれは例外も例外な措置で、彼の良心と生徒数が一桁であるアビドスだったからこそできたモノであった。

 

「アヤネちゃんのタブレットに、ゼットンとマケット怪獣のデータを共有したから確認してくれるかい?」

 

「あ、はい。ありがとうございます。それでは早速――」

 

 アヤネがタブレットを起動させ確認する。それにつられて他メンバーが彼女の周りに集まり、タブレットの画面を覗き込む。

 

「ゼットン。別名は宇宙恐竜…」

 

「……宇宙恐竜ってなによ?」

「さあ…? どこかの星における、私たちで言うところの恐竜的立ち位置にある怪獣なのでしょうか?」

「宇宙人もいるって言ってたし、あり得ない話じゃないかも」

「見た目でいえば、キヴォトスの恐竜とは全然違うよねぇ。おじさん、どことなーく不気味に感じちゃうな」

 

「続けますね。――ゼットンは、敵性異星人にカテゴライズされているゼットン星人及びバット星人が過去、地球侵略のために投入した極めて強力な生体兵器である……えっ?」

 

 アヤネの読み上げの声が途絶え、五人の目が見開かれた。

 

「侵略兵器、ですか――!?」

 

「えっと何々……初代ウルトラマンを、倒したァ!? え、ウルトラマンって、あのメビウスみたいな巨人を倒したってこと!? 本当にバケモンじゃない!!」

「先生、これどういうことなの?」

 

「みんな、落ち着いて! アヤネちゃん、マケット怪獣の情報も開いて」

 

「わ、分かりました……」

 

 ミライの指示に従い、マケット怪獣のデータをアヤネが展開。小さなホログラム資料が複数、タブレット上に表示されていく。

 

「―――マケット怪獣とは、高エネルギー分子ミストなる特殊物質に、過去外の世界(ちきゅう)に出現した怪獣の諸データを注入し形態及び生態を模倣・再現、制御された擬似実体であり、対怪獣戦闘において有用な戦術兵器……といった感じですかね…」

 

 冷静に、かつ短時間でマケット怪獣の概要を自分なりに纏めたアヤネ。口にしたその内容は概ね正解である。

 

「マケットゼットンも、過去出現した…この初代ゼットン及び二代目ゼットンの観測情報を基に再現した存在――という認識であってますか?ミライ先生」

 

「うん、それでほぼ合ってるよ、アヤネちゃん」

 

 それでいて正しくマケットの仕組みとゼットンの相関性に気づいていた。

 先のゼットンの説明時に動揺を見せず、今のアヤネの解釈を聞いていたホシノとノノミも同じように察しているようだった。

 

「たとえ過去にどんな因縁があろうと、その要素が霞む、無視できるぐらいに強いヤツをそっくりそのまま再現できて、思いのままに操れて味方にできるなら…それを敵にぶつけるって考えはアリだよね。理解できる」

 

 沈黙を維持していたホシノが唐突にそう呟いた。

 

「マケットゼットン()…? それか、()()()…?――が、そのタイプだったんだろうね。今映ってる他のマケットの子たちは皆んな“非敵性”ってあるし、そんな感じでしょ、ミライ先生?」

 

「そうだね。たしかに、彼…マケットゼットンの基になったのは、敵性存在として認定された初代と二代目個体。ホシノちゃんの言うように、GUYS総本部はその戦闘力に目を付けたんだと思う」

 

「ただ、理解はできるけれど、それを実行に移せるかどうかはまた別の問題だよ。外の世界の人たちは、その選択を取らざるを得ないくらいに、相当追い込まれてたんじゃないかなって、おじさんは思ってるけど…?」

 

「そうだったかもしれない。あの頃の地球は、四半世紀ぶりに怪獣災害の連鎖発生が起こった時期だから」

 

「うへぇ…キヴォトスもキヴォトスだけど、外の世界は外の世界で大変だったんだね…」

 

「ミライ先生、マケット怪獣の一覧に()()()()()とありますが… これってつまり()()()()()()でしょうか?」

 

 ノノミが会話に入ってきた。彼女は、ホログラム資料に表示されているファイヤーウインダムのことを指差している。

 

「ノノミちゃんが考えてる通りだと思う。ウインダムも、ゼットンと同じマケット怪獣だよ」

 

 これらの装備を使ってマケット怪獣を呼び出すんだ…とミライはアビドスメンバーに五つのマケットカプセルを手に取らせ、GUYSメモリーディスプレイを見せてやる。

 

「このカプセルを、メモリーディスプレイ…モバイルパッドのソケットに装填して、引き金を引くことで、彼らが現れるんだ」

 

「あ、このカプセルがウインダムですね!」

「おじさんのはよく分からないなー…ただ、ツノが付いててまん丸で可愛いねぇ」

「こっちはトカゲ…いや、肉食恐竜みたいなヤツね…」

「私の手元にあるのは、かなりずんぐりとした体型の怪獣ですね。カタチは二足歩行の鯨偶蹄目、バッファローやウシのようにも見えます」

「ん…これがゼットンのカプセルだね」

 

「ホシノちゃんが持ってるのはリムエレキング、セリカちゃんが持ってるのはアギラ、アヤネちゃんが持ってるのはミクラスのマケットカプセルだよ」

 

 カプセルを天井の照明にかざしたり、じっと見つめている五人。そんな中、ゼットンのカプセルを握っているシロコが、他のカプセルとの()()に気づいた。

 

「……ゼットンのカプセルだけ、中の緑の結晶が黒ずんでるように見える」

 

「マケットカプセルは一度使用すると、分子ミストを充填するまで再使用ができないんだ。ゼットンは、ここに来る前にグドンと戦ったからね」

 

「そんな制限が……詮索するようで申し訳ないですが、他にも何かデメリットが?」

 

「マケット怪獣の実体維持時間、つまり行動可能時間は、180秒…3分キッカリ。タイムアップすると実体が急速に崩壊するようになってる」

 

「さ、3分…?短すぎない?」

「まあでも妥当なんじゃないかな? こんな代物、何も制限無しでじゃんじゃか使えたらおかしいよねぇ」

「なるほど。あの時はゼットンは瞬間移動をしたんじゃなくて、行動時間がゼロになったから消えたんだね」

 

「…そもそも前提が間違ってるかもしれないですけど、マケット怪獣たちの記憶(人格)のようなものついては、実体消失後どうなりますか…?」

 

 彼らはただの兵器ではなく、戦士だ。

 アヤネが思っていることをミライは察していた。

 

「生成実体と違って、マケット怪獣のデータは消えずにカプセルへ蓄積されていくから、使い切りじゃないよ」

 

「そ、そうなんですね…良かったです」

 

 そう言ってアヤネは胸を撫で下ろした。

 

「じゃあその分子ミスト…とかいうやつの補給はどうなのよ?ウチにはそれができそうな機材も物資も無いけど…?」

 

「そっちはそっちで問題ないかな。実はミレニアムのおかげで、補給手段はキヴォトスでも確立できたんだ。分子ミストを生成する粒子加速器はシャーレの部室にあるし、アビドスにはLAVで試作のポータブル補給器を持ち込んできてる。補給器にはカプセル三個分のミストが貯蓄してあるから、当面の間は大丈夫だと思うよ」

 

 

 

 ―――廃校対策委員会との情報共有はここから小一時間続いた。

 

 

 

「――取り敢えず、ミライ先生が情報開示を行なってくださったおかげで、先生と連邦生徒会がマケット怪獣の情報を制限した理由は分かりました」

「今、ヒビノ先生が話された内容は、かなりシビアなものです。すべては無用な混乱の発生を防ぐためだったんですね」

「いま教えてくれたことは話さない。約束は守る」

「わ、私もよ! ウチの学校にはウチの学校の事情があるように、先生にも先生なりの事情があるって分かったから」

「まあ事情も丁寧に話してくれたし、おじさん的には何も異論は無いよ〜。安心してねミライ先生、アビドスの子たちはみーんな口は堅いからさ」

 

「……ありがとう、皆んな」

 

 立ち上がり、こちらの事情を理解してくれたホシノたちに頭を下げるミライ。

 

「さてさて。気になってたことも聞けてスッキリしたことだし、“やれること”やっちゃおうか。実はもう計画はある程度練ってたんだよね」

 

 パンッ――とホシノが両手を叩いてそう提案した。皆の頭上には疑問符が浮かんでいる。誰もピンと来てないようだ。

 

「やれること…ですか?」

「それって…?」

「ええっ! ホシノ先輩が自分で!?」

 

 よく学園の運営方針を相談しているアヤネとノノミが心当たりが無いと首を傾げ、セリカは先輩らしくないと驚きの声を上げた。

 そんな彼女たちに、うへへへへ…驚かないでよく聞いてね? と前置きした。

 

「おじさんさぁ、カタカタヘルメット団の前哨基地(アジト)潰したいな〜って考えてるんだよね」

 

 凡そ女子高生の口から生涯出ないだろう物騒な単語の羅列であったが、ここはキヴォトスである。この世界に異常なスピードで適応しつつあるミライも特に驚きはしなかった。

 

「…するのは別にいいけど、いつやるの?」

 

 セリカが他メンバーを代表してホシノに聞く。

 

「今から」

 

 ふにゃりとした笑顔でホシノは答えた。

 

「「「今!?」」」

 

「うん、いま。奴らは数日毎にこの校舎に攻めるサイクルを最近続けてるじゃん?また二日三日経てば仕掛けてくるのは分かるよね。

 なら、今度はこっちから仕掛けちゃう。奴らの拠点を襲撃するんだよ。いまが一番疲弊してるだろうからさ」

 

 ホシノが提案したのは、敵…カタカタヘルメット団がアビドス進出の橋頭堡として築いた前哨基地に対する打撃作戦であった。

 

「奴らのアジトはここから30kmぐらいだし、先生のおかげでこっちは補給の問題は心配しなくて良い。やるなら今しかないと思うんだ。……どうかな、皆んな」

 

「ナイス提案だよホシノ先輩。その計画、乗った」

「シロコ先輩と同意見。連中にやっとツケを払わせる時が来たわね」

「私も賛成です〜♣︎ お相手も、まさかこちらが長躯襲撃を掛けてくるなんて夢にも思ってもいないでしょうし。効果はかなり高いんじゃないかと思います」

「それはそうですが……ミライ先生はいかがですか?」

 

「僕かい?」

 

 襲撃の“次”を無くす方法としては、積極防衛――予防攻撃は理に適っている…とミライは思う。

 捉え方によっては専守防衛の範疇であるし、彼女達にはこの襲撃を実行するための正当性と大義名分がある。

 自治区領内の治安維持活動として制限なく動ける事案であった。

 

(彼女たちには、()()を実行する権利がある)

 

 それに、彼はキヴォトスにもM78ワールド宇宙のように、一度灸を据えてやらねば話し合いのテーブルに着こうともしない連中がいるのだと認識している。

 彼女達がやろうとしているのは、単なる私怨のやり返しではなく、次の惨事を防ぐ抑止及び秩序の回復に繋がる実力行使だ、と解釈していた。

 …尤も、D.U.外郭区広域暴動の鎮圧作戦時に既に導き出し終えていたものでもあったので、その解釈自体にあまり抵抗感は無かった。

 

「僕は…皆んなの意見を尊重するよ。校舎防衛戦の時と同じように、協力させてほしい」

 

「よぉーし。先生のお墨付きも貰ったことだし、すぐにやっちゃおー!」

 

 ミライの同意を得たホシノは敵拠点強襲作戦実行を高らかに宣言した。

 

「ん。『善は急げ』ってことだね。行こうか」

 

「わかりました。今回は私も同行します。幸い、車庫には動かせる〈高機動車〉が二輌あるので、それを使って向かいましょう。弾薬も多く載せられますし」

 

「さあ、あいつらのアジトにカチコミかけに行くわよ!」

 

「はーい⭐︎ それでは、しゅっぱ〜つ!」

 

 アビドスメンバーと、ワンテンポ遅れてミライが対策室から飛び出した。

 

 

 

______________

____________

_________

 

 

 

「ねえ、どういうことよ?」

 

 出発から数十分後、カタカタヘルメット団前哨基地まで残り数kmの地点で、対策委員会とミライ顧問は車両から降車して呆然と立ち尽くしていた。

 

「……なんか()()()()()? ヘルメット団のアジト」

 

 何故なら、襲撃目標であった前哨基地と思しき建造物群が、黒煙を吐き、爆音を上げながら燃えていたからだ。

 双眼鏡など使わなくても分かる。現地は大変な混乱状態に陥っているだろう。

 

 

 

 一体、誰が―――時は少し前に遡る。

 

 

 





 あと
 がき

 皆様、わっぴ〜!(気さくな挨拶)
 今更の報告ですがアニバにて、なんとか無事に例の四人お迎えした投稿者(逃げるレッド)です。
 俺は大体400連(2天)+10連って感じだったが、お前はトリコ?

 おケイさんの制服立ち絵、ありがとうございます…ありがとうございます!――ところで(唐突)、私はゼットンを二機伴ってきた(錯乱)
 リオのリオが(アリスも)カーニバルすぎる。“過酷(かくご)”の面でサクラコ様を凌駕し得る者が現れようとは…ん、やはり人類は恒星系ごと滅却(エ駄死)されるべき。粛正の刻を待って跪いて。

 …マルクト姉様があまりにおいたわしすぎて辛かった。そろそろ司祭たちを撃滅しないとダメだと投稿者は思うんだ。


 
 大変お待たせしました。レッド君さあ、解説パートのやりとり部分で三ヶ月間も悩んでたってマジ?
 もう(ころ)すしかなくなっちゃったよ…
 日常パートだとか雑談まわりの描写しっかり書ける人、本当に尊敬してます。オラにそのセンスを分けてくれェッ!


 
 ※毎度お馴染みピックアップ解説コーナー
 (独自設定独自解釈共にもりもり)

◯暫定アビドス高校校舎――本校舎南区別館
 本校舎の“別館”と命名されてはいるものの、その扱いや環境は“分校”のそれに近い。
 
 校舎敷地内には陸上競技グラウンド、テニスコート、球場、送迎バス用の大型車庫等を備え、館内には各種教室に体育館、多目的講堂(ホール)、資料倉庫、図書室を、屋上にはヘリポートやドローン用自動補給ステーション、各階ベランダなどにはソーラーパネル、小型風力発電機、迫撃砲台…とそんじょそこらの学園よりも遥かに高水準な設備の数々を有していたが、その大半は現在砂の下に埋もれてしまっている。

 バス用車庫にはいくつかの装甲車両とヘリコプター、ドローンの予備機があり、アヤネによって整備・管理されている。



 コノカさん、実装ってマ?
 ありがとう…ありがとう……銀髪ギャルなんてね、なんぼおってくれてええですからね。

 因みに今回の戦闘教材は『亜人』と『ジョン・ウィック』でした。
 更新までまたかなり期間が空くかもしれませんが、引き続きよろしくお願いします。

 
 
_______
 
 次回
 予告

 既に別勢力の手によって壊滅状態となっていた前哨基地。そこでミライたちは少なくない不法物品を押収した。

「――なんでこんなものをヘルメット団が…?」

 以前より謎であったカタカタヘルメット団の物資供給網や、保有していた最新装備の出所などを探るため、そして今後の廃校対策活動を議論するために帰途へ就くミライたち。

『未確認飛行物体を複数確認!数は4! こちらに急速接近中!』

「何よ、あの空飛ぶ槍みたいなヤツらは!?」
 
「非有機物のようですが…生体反応まで出てます!」

 そこに強襲を掛けたのは、宇宙よりやってきた意思を持つ恐るべき金属生命体であった!

 

 次回、メビウスアーカイブ
 【剣闘のアパテー】
 
 お楽しみに。
 
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