日々の未来の青春譚 -メビウスアーカイブ-   作:逃げるレッド五号 5式

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24.【熱砂の剣戟】

 

 

 

 砂漠にて対峙する二体の巨人。

 

―――セアッ!

 ―――ア゙ア゙ッ!

 

 衝突するのは、赤の拳と銀の拳。強く握り固められた両者の右拳だ。遅れて伴うのは、地に響く戦意溢れる咆哮。

 かち合った握り拳を互いに引っ込めると、次は鉄拳の打ち合いだった。

 ストレート、ストレート、ストレート…連続鉄拳の()()()が続く。

 

 アパテー巨人形態の外殻装甲は、思考金属同士が何層にも渡って読んで字の如く強固に結合しているため、耐久性は不定形な流体形態を軽く凌ぎ、飛翔形態と同等以上を実現している。

 人型に固定化された個体間ネットワークは高強度を担保しつつ筋繊維を模した内部構造に変形させ、爆発的な身体能力を発揮する。

 

―――……ハァッ!!

 

 不意にラッシュを止めたメビウスが、アプローチを変える。アパテーの放つ鉄拳を手背で受け流し、そこから後ろ回し蹴りを繰り出した。

 

―――バォオオッ!!

 

 すると今度はアパテーが彼の蹴りを両腕で防ぎ止め、意趣返しのように後ろ回し蹴りをメビウスへ応酬した。宇宙金属に鎧われた脚…それによる蹴撃が襲いくる。

 しかしメビウスは間一髪で身を反らすことで、力任せに繰り出されたキックを回避。そのままバックステップからの軽やかなバク転を数回挟んでアパテーから距離を取った。

 

 …睨み合いを挟み、次に始まったのは高速牽制光弾による中距離砲撃戦だ。両者の手刀から放つ、或いは放たれる光弾を、時に同じ光弾で迎撃し、時に拳で弾く。

 “砲撃戦”とは比喩ではない。大柄な猛獣さえ数匹数頭まとめて握り潰せるほどの巨大な手から放たれる光弾の直接的な威力と衝撃力、その加害範囲は正しく大型水上艦艇の主砲の域に匹敵する。

 

《近接戦に射撃戦、どちらの対応にも大した差は無い…いや、僕の動きを学習しているからなのか。――これは、やりにくい》

 

 故に、地上での炸裂はあまり望ましくない。メビウスは光弾の無力化にも意識を割いている。対するアパテーは、そんな対面の巨人を観察し、「それぐらい、こちらも出来るぞ」とでも示すかのように彼と同じく光弾を地上で炸裂させることなく無力化、或いは空へと弾く。挑発とも取れるが、その動きに驕りの類いは見当たらない。

 

《――まるで…()だ。しかもそれで厄介なアドリブまで繰り出してくる。金属生命体…想像以上の難敵だ》

 

 アパテーはメビウスの戦闘スタイルを模倣し、徐々にその再現の正確性を高めつつあった。

 模倣に()()()()が加わり始めたらいよいよ危ない。撃破までの時間はそう長く掛けられないだろう。

 

《金属生命体――トゥースピクスの学習速度…これは、長引かせるわけにはいかないぞ》

 

 再度、距離を詰めようとメビウスが動く前に、アパテーが先に走り出した。

 メビウスもそれに応じ、二度目の激しい格闘戦が展開される。

 

 顕現したメビウスの胸部…カラータイマーは現在「青」である。が、()()()()()の彼は依然、危険域(「赤」)の手前にあることを忘れてはならない。この均衡はいつ崩されてもおかしくは無かった。

 

 

 

「――ウルトラマンメビウスがアビドスに出現するなんて…」

 

 砂漠を疾走するアビドス学籍のHMV——高機動車。

 ウルトラマンと金属生命体の戦いに巻き込まれないよう、それらと大きく距離を取って走行中だ。

 

「今のところ、五分五分のようですけど…」

「メビウスが相手してる金属生命体…ってやつ、段々動きが人間(ヒト)っぽくなってきてない?」

 

 上のように話しているのは、運転手のアヤネ、後部座席にすし詰め状態になっているノノミとセリカの三名だ。

 

「ん。学習…してるんだよ、アイツは。きっとメビウスの動きを見て奪って、自分のモノにしてどんどん強くなってる」

「え゙っ、それてかなりマズイんじゃないの」

 

 車内中央、銃座に着いているシロコが遠巻きにでありながら、アパテーの変化を見抜いていた。

 そこに助手席のホシノが頷きながらも、自分たちが今すべきことを一同に再確認するよう促す。

 

「あの戦いの行方も気になるけど、まずミライ先生の捜索が先だよ。もしかすればその場で身動きが取れなくなってるかもしれない。急ごう」

 

 アヤネのタブレット端末で得た情報より、ミライのHMVは現在ホシノらがいる地点よりもやや奥――砂丘の向こう側で金属生命体の攻撃を受けて破損・擱座し走行不能となっている可能性が高いと言う。

 また、彼女が空中警戒のために飛ばしていたドローンも、先のアパテー落着の余波で全機損失していたため、砂丘の向こう側の状況は足を運んでみなければ確認できない状態となっていた。

 

「インカムでの呼び掛け、タブレットへの発信…どちらも反応が無いのは嫌な予感がします。通信手段が使用不能になっただけであればいいのですが…」

 

 黒煙が立ち昇っているのはここからでも見える。外界人である先生のことだ…キヴォトス人では何てことない負傷が生死の境を彷徨う重傷となっている可能性が高い。こちらからの呼び掛けに答えないのも、もしかすると………

 

(どうか無事でいてよ、ミライ先生…)

 

 最上級生でありそれなりの場数を踏んでいるホシノは平静を装っているが、内心では過去に()()()()となった“先輩”と彼を重ね、焦燥を募らせていた。

 

「皆さん!これより戦域を大きく迂回して2号車のロストポイントに向かいます! また運転が荒っぽくなるかもしれませんが、どうかご容赦を!」

 

 アヤネが眼鏡を掛け直すと、皆に一言断りギアを上げ、アクセルを目一杯踏んだ。加速する高機動車。

 アビドスの面々は、先生の無事を祈るのだった。

 

(……でもおかしいな…。なんでおじさん達、ミライ先生のHMVが攻撃されたのに――()()()()()()()()()()()()()、いくらインパクトがあったとはいえ…直後に現れた()()()()()()()()()()()()()()()()んだろう…? おじさんはともかく…皆んなが、そこまで他人に冷たくなったとは思いたくないんだけど…)

 

 …ただ、ホシノ一人だけは、何か形容し難い違和感を抱きながら、ミライ捜索に臨むのだった。

 

 

 

―――ジィーーッ

 

 二体の巨人の決闘を覗いているのは、何もアビドス対策委員会だけではなかった。

 カイザーPMC空軍の無人攻撃機〈MQ-1(プレデター)〉。それが2機、各々の哨戒担当空域から引き抜かれ、急遽アパテー追跡の任を与えられていた。

 

 静かなる捕食者(プレデター)らの光学センサーから得られる情報は逐次、PMC113前線基地の指令センターへ送信されている………

 

 

 

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カイザーPMC第113前線基地

 中央区画 基地総司令部庁舎

  地下作戦指令センター

 

 

 

『―――プレデター5、プレデター12、共に戦域現着。観測を開始』

「中央モニターに観測映像を回せ!」

 

 F-4E戦闘機一個飛行小隊並びにRF-4戦術偵察機の計5機とその操縦人員を一挙に失ったカイザーPMC空軍第13飛行団は、これ以上の人的および物的損失は許容しかねるとして今次戦闘への直接干渉を一時中止。事態に新たな変化が起こるまでは無人機(プレデター)による空中偵察に留めるという消極的対応へ方針を転換した。

 

『……特殊生物6号、トゥースピクスが変形したと思しき体高50m級の銀色の未確認人型実体とウルトラマンメビウスが交戦中。また、付近にアビドス高校車輌を確認…2輌の内1輌は大破炎上中。大破車輌の搭乗者の安否はプレデターのセンサーからでは確認が困難』

 

 これに伴いアパテーとメビウスの交戦地域の遥か後方の空域に、第一次攻撃隊に抜擢された第31戦闘飛行小隊と、第二次攻撃隊となった第33戦闘飛行小隊——〈F-4E ファントム〉戦闘機が4機、〈F-16V ファイティングファルコン〉戦闘機が4機に、有人機追従仕様の〈X-47B(ペガサス)〉改めMQ-47B無人戦闘攻撃機16機を伴う一個飛行大隊規模の混成攻撃部隊となり合流、これを空中待機させていた。

 

『——砲兵大隊より、自走ロケット砲展開完了の報告あり。砲撃指示があれば、いつでも——とのこと』

 

 また、前線基地の陸軍区域では駐留地上部隊である第13陸戦連隊隷下の第3砲兵大隊が、射程距離に優れる自走多連装ロケット砲システム——〈M270 MLRS〉を多数展開。

 発射命令さえ下れば、戦域内の無人機から随時提供される座標情報を基にして、銀の巨人に鋼鉄の雨(スチールレイン)を浴びせる用意を整えていた。

 

「アレが、トゥースピクス?馬鹿な、どうやったらあんな形に…分裂できるだけではないのか。あれでは最早変形というよりも変身だ」

「まるで甲冑、ゲヘナやトリニティの中世騎士のような出で立ちをしている…」

「気味が悪いほど二脚での姿勢制御が安定しているな…あの人型形態をとるのが()()()ではない? それともアレがトゥースピクス本来の形態ということか」

 

 巨大存在同士によって繰り広げられている特大プロレスを無人機の映像越しに見ている陸空軍幹部と基地幕僚ら。

 

「やはり近隣自治区の駐屯地や空軍基地、そして大陸戦略軍に応援を求めるべきだ。アレをこの大陸にこれ以上のさばらせてはならん!」

「アビドスに今すぐ緊急展開が可能な即応部隊はごく僅かだ。挙げるにしても、もっと現実性のあるプランを――」

「あまりに悠長ではないのかそれは……!」

「クソッ、ICBM(大陸間弾道弾)さえ使えれば…」

「…不規則に動く標的に、どうやってあのデカブツを当てろと?」

 

 彼らは大きく二つの塊となってその戦闘の行く末を注視している。

 片方はトゥースピクス…アパテーについて思案する者たち、残りのもう片方はウルトラマンメビウスについて思案する者たちだ。

 

「特殊生物だけでなく、ウルトラマンまでアビドスに進出してきたか」

「いつの間に…」

土着企業(ネフティス)はダンマリのようだ。…地元の危機に欠片も反応を見せんとは。何か抱えてるのではなかろうな」

「自治区の管理代行をこちらに丸投げして、大急ぎで()()した連中だ。この地に情なんか無いんだろうよ」

「昼前に現れた第4号(グドン)第5号(ゼットン)もだが、旧アビドス自治区はいつから化物どもの巣窟になった?」

「元々、この地には未確認の弩級暴走オートマタがいたのだ。今更何を狼狽える必要がある」

「しかしだな――」

 

 不意に、地下指令センターのゲートが開かれた。センター内の人員の殆どがそちらへと視線を向ける。

 

「む…やつらは」

 

 基地司令でありアビドス自治区駐留軍最高指揮官でもある巌流寺上級大将もまた、彼らと同じように顔をゲートの方――より正確にはノーアポでこの立入禁止区域に臆せず入場してきた黒スーツの()()二人と、それらと同じく黒一色に染められている複数の護衛…特務仕様の軍用オートマタへ向けた。

 

 この時、巌流寺上級大将の周辺に控えていた幹部たちの幾人かが、彼の機嫌が急激に悪化していっていることに気づいていた。

 

「……あのぉ、彼等は?」

 

 昇任したての若手幹部の一人が状況を飲み込めず近くの先任幹部に尋ねる。

 

「あれは“ゲマトリア”の先生方だ。()()()()()だよ」

「ゲマトリア…例の外部アドバイザーですか? それに、あちらの…純人族(ヒューマ)の方はもしやゴスペル建設の黒部(クロベ)代表取締役では…?」

「その通り。まあ大物中の大物だな。だが客人も所詮、客人だ。いくらなんでもこれは横暴が過ぎる。そうだろ? みてろよ、警備隊長が今に飛び掛かるぞ…」

 

 センターの中央に歩みを進める部外者の暴挙を許さぬ者らがいた。既に彼らの手にはホルスターから引き抜いた機関拳銃、あるいは自動拳銃のいずれかが握られている。

 

「止まれえ!! 誰の許可を得てセンターに入場してきた!ここは最重要機密指定エリア、基地の心臓部だぞ!それを知っての狼藉か!!」

「それも、火器を所持させた護衛兵(オートマタ)を伴ってくるなどとは! これは何の冗談だ!!」

 

 基地守備隊を統括する陸軍幹部とその副官だ。

 彼らはセンター内の警備兵と警備オートマタをインカム一つでかき集め、“ゲマトリア”と呼ばれた客人とその護衛役であるオートマタらを瞬く間に半包囲してみせた。

 

「…クックックッ。いえ、失敬。なにせ鍵が開いていたものですから」

 

 これに対し、客人…全身を“黒‍”と形容できる大人(怪人)――黒服が、銃口を向けられながらも落ち着いた様子であっけらかんと答えた。

 

「ゲートはオートロック、その前には歩哨がいた筈だ!素通りなぞ許すわけが無い!巫山戯るのも大概にしてもらおう!!」

 

「おや、おかしいですね。こちらの事情をご説明したところ、歩哨の方々は深く理解を示してくださり快く入場を許可してくださったのですが…」

 

「……おい、誰かゲートの様子を直接確認しに行け!」

「客人でも限度がある…!いい加減に――」

 

 それを聞いた守備隊長らが額に青い動力パイプを表出させて激昂したが、黒スーツの客人たちは余裕たっぷりの様子である。なんならビジネススマイルまでサービスしていた。

 

「事前の説明無しでの地下司令部への入場、どうかお許しください」

 

 ここで頭を下げながら次に口を開いたのは、黒服と同じく天輪を持たない、それでいて事情を知り得ぬ者からすれば一見()()でもなさそうな純人(ヒューマ)族の大人――否、黒部メフィラスだった。

 

「下される処遇は如何程のものであれ甘んじて受け入れる覚悟です。しかしながら、今は我々の話を聞いていただきたい。ここからの詳細は黒服が。…貴方がたにとっても決して悪くないお話であることは保証いたします」

 

 黒部に膳立てされた黒服は改めてセンターの面々へ一礼を挟んで話し始める。

 巌流寺陸軍上級大将以下、基地幕僚の面々が発するオーラは依然として“最悪”である…が彼はそれしきのことでは動じなければ気にもしない。

 

「クックックッ…差し出がましい真似であることは重々承知しておりますが、この非常時だからこそ情報共有を…ですよ。我々がこうして訪ねたのはそのためです。何せ、我々の頼もしいパートナーであるPMCの皆様が――」

 

 ――何やら苦戦されているようですので、と神経を逆撫でする余計な一言を添える黒服。

 

「黒部君も、皆様が第6号特殊生物――“爪楊枝(トゥースピクス)”と呼称しているあの()()()()()に、とても興味を持っていましてね。これならば、ちょうど()()()もできますから一石二鳥でしょう。クックックッ…」

 

 巌流寺陸軍上級大将以下、PMC幹部らは皆、この黒服の癇に障るねちっこい喋り方が大の苦手であった。

 しかし、貴重な情報を得られる機会である故に自制はした。若しくは、それに対する憤りよりも彼の口から出た情報由来の衝撃が優っていたからかもしれない。

 

「金属…生命体……だと。そのようなモノが」

「アレは金属でありながら、我々と同じように生命活動をしている存在というコトか…」

「地底に深海、砂漠と来て、今度は空を一つ飛ばしに宇宙怪獣とはな。どおりでメタルチックなわけだ。全身そのものが元々金属製だとはふざけてやがる」

「宇宙空間を単身遊弋する非有機生命体…SFはもう十分だ、勘弁してくれ」

 

 常識を彼方に捨ててきたとしか言えない不可思議な存在の情報提示を外部アドバイザーより受け、再び基地幕僚と陸空幹部らはざわついた。一部は「お手上げ」とばかりに万歳してみせる者も確認できた。

 

「——いや、待て。黒服殿、黒部殿、まず貴殿らが何故こちら側の状況をさも当然のように把握しているのかを教えていただきたい」

 

 幹部らを押し退け前に出てきた大尉の鋭い二対の瞳(クアッドアイ)が、ゲマトリアの二人に向けられた。

 

「おや…これはこれは山風(ヤマカゼ)陸軍大尉。お久しぶりですね。アカレンガの一件では随分ご活躍されたとか…」

 

「活躍、というものでもないかと。…前置きは無しで続きをお願いしたい」

 

 彼、山風陸軍大尉からの()を受けても、黒服と黒部の態度は相変わらず余裕綽々といった様子だった。

 

「失礼致しました。ええ、そうですね…探究の道に身を置く我々にとって、情報とは生命にとって無くてはならない水そのものと等しい。…目的目標は違えど、我々も御社のように優秀な()()を揃え独自の情報網を構築・維持しています。ただそれだけの事ですよ」

 

 わざとらしく両肩を上下させ、「これでご理解いただけましたか?」とでも言うような仕草を交えて黒服は山風陸軍大尉の疑問に答えた。

 

「そうであるなら…単刀直入に聞かせていただこう。貴殿らゲマトリアは、特殊生物第6号――トゥースピクスについてどこまで知っている?」

 

 情報を向こうから出してきた、ということはこちらに探られても痛くない情報なのだろう。

 それほどまでに特殊生物関連の情報量差を大きく開けられている…とも捉えられる。

 だが貴重な情報であることに間違いはない。彼らに比べればカイザーPMCが掴んでいる特殊生物関連情報などあってないようなモノ。この際、可能な限り引き出してやろう、と山風陸軍大尉が考えるに至ったのも当然の帰結と言えた。

 

「どこまでと…そうですね、かの存在の特性…能力と生態を僅かながら。あとは――」

 

 黒服が開示する情報を脳内選別している横で、彼の部下にあたる黒部はセンター中央の特大モニターに映る人型形態の金属生命体を見て興味深そうに何度も頷いていた。そして黒服の方に顔だけ向けて一つ尋ねた。

 

「失礼。黒服、アレに識別呼称(レジストコード)はあるのですか?」

 

 黒部に呼ばれた黒服が彼の方に顔を向ける。

 

「ええ、恐らくは…“アパテー”でしょう」

「ほう。アパテー…ギリシア神話に登場する欺瞞と不実の女神――“アパテ”から取ったのでしょうか。あの変形能力からイメージしたとなれば頷けます。……しかし()()()とは?何か気掛かりでも?」

「私の有する()()上にある、第二群体(“アルギュロス”)らしき要素も少々混じっていまして、アレをそのままアパテーと定義してしまって良いのか、と考えてしまい…」

 

「それでは、あのウルトラマン——メビウスでしたか。彼の胸部中央の結晶体…今回は赤色に点滅せずに青色のままを維持しているように見受けられますが、あれは? もしや生命維持装置か何かで?」

「そういえばお話していませんでしたね…。ええ、アレは“カラータイマー”と呼ばれている代物です。彼ら自身の活動限界を報せる役割を担っており、青は正常、赤の点滅は危険域に突入したことを意味します。一説では、予備のエネルギーを貯蓄しておくことも可能なのだとか」

「なるほど。——体色の変化ではなく装置で状態を……こういった点も()()のですね」

「ほほう!()()()は体色変化だったのですか、なんとユニークな」

 

 このまま行くといよいよ分からない二人の世界に入りそうだと思った山風陸軍大尉が咳払いを一つ無理矢理捻じ込み、ここで彼らに待ったを掛ける。

 

「黒服殿……」

 

「あ、あぁ! 大変失礼いたしました。私としたことが…これは私の悪い癖ですね」

 

「今口にしていた金属生命体…アパテーの資料とやらは我々にも共有が可能なものだろうか。もしそうであるなら提供を打診したい」

 

「……ふむ。そうですね、特に隠すものでもありませんし、少々こちらで編集したものでも良ければ構いませんが。あと、そちらに確認したいのは…」

 

「確認…?」

 

「ええ。――この基地に旧型光学ディスク(DVD)のドライバーはありますか?」

 

「DVDの…?まあ、あるにはあると思うが…」

 

 なにぶん古く希少性の高い資料でしてね…持ち出せて尚且つ提供できる媒体というのがとても限られているのですよ——と、頼んでもいないのにベラベラ語り出す黒服。

 

 一方、そんなものなのだろうか…と、山風陸軍大尉は怪訝に首を傾げつつも自身の部下を数名呼び、指定された機材の用意を指示するのだった。

 

「五月雨式になるが黒服殿、あの特殊生物——アパテーに攻略法は……いや、撃破まで出来ずともヤツを戦闘不能に追い込めるような——」

 

 現在に至るまで、キヴォトス人類が通常兵器を使用しての大型怪獣の単独撃破、又は撃退した例は無い。連邦捜査部“シャーレ”の機動ロボ(ウィンダム)は外界輸入品であるとのことであるし、大型にトドメを刺しているのは殆どウルトラマンメビウスだった。

 

「ええ、条件を揃えられれば可能ですよ?」

 

 前例と呼べる実績が無く、ダメ元で聞いた質問であったが、思っていたよりもあっさり答えが飛んできた。

 

「は? まさか…それは本当に——」

 

 あまりにあっさりしていたものだから山風陸軍大尉は一瞬呆け、聞き返してしまった。

 

「ですから、可能()()()()()()。簡単ですよ、アパテー含む金属生命体は皆、無数の思考する金属が集まった謂わば“寄合所帯”。要はそれら同士の物理的接合を無理矢理にでも断絶させ、()()でなくしてしまえば良い」

 

「断絶させるとは、どうやって?」

 

「大火力、大質量の継続的な集中投射です。跡形もなく四散させれば、彼らは再接合と相互通信に苦戦し、やがては諦め単体毎の思考能力を保護するために次々と休眠状態になる筈かと。彼らの定義する“死”とは思考能力を完全に喪失し、何の特性も有さない無名金属となることですから」

 

 彼の論を聞いていると実現性は確かにあるように思えてきた。しかし、ここからが問題である。

 

「随分と詳しいな………いや、答えていただき感謝する。その点は承知した。では、必要戦力は如何ほどと試算されているか聞いても?」

 

 実現可能とされる条件を今のカイザーPMCが満たしているか、だ。

 

「ふむ…そうですね……少なくとも、御社が所有されている超重戦車か重歩行戦車、又は陸戦艇——陸上戦艦(ランドバトルシップ)が複数必要となるでしょう。通常の砲兵だけであのサイズの金属生命体を相手取るのは無謀という他ありません。外皮を削り、剥がすことまではできるでしょうが、それは無力化には程遠い行為であり——」

 

「———ば、バカを言うな!」

 

 ここまで黒服と大尉のやり取りを聞いていた者の一人——やや小太りのPMC陸軍将校がワナワナと拳を震わせながら声を上げた。

 

「〈D級装軌式陸上戦艦〉は基本的に各連隊に1隻配備されている、我が陸軍の戦略兵器(きりふだ)たる移動要塞だ!それの集中運用が前提など…本基地の保有戦力では勝負にならないと暗に言っているに等しいではないかっ!!」

 

 次に堪らず立ち上がったのは彼の横にいた前線基地の補給・整備を指揮する幕僚だった。

 

「その通りだっ!第一、ベース113配備の“D(ダブデ)3”は定期整備の最中…地下ドッグから1ミリ動かせんぞ!」

 

 ——D(ダブデ)級装軌式陸上戦艦。

 過去、キヴォトス超大陸・内陸部での作戦活動における火力支援…特に艦砲クラスの自走可能な大口径砲の拡充と絶対的な戦域支配力を備えた戦略兵器を求める陸軍の声に応え、外界亡命技術士官の協力を受けて当時のPMC技術開発陣が生み出した前代未聞の大型陸戦艇である。

 

 艦両舷に50cm超の大口径実弾連装砲を2基4門搭載し、各所には近接対地対空火器として多砲身機関砲、連装速射砲を設置。

 カイザーPMC戦略総合技術研究局の独自改修で、艦後部の内部構造が機動兵器一個中隊規模を収容可能な格納庫となっており、艦後部上部には格納庫と直結するエレベーターシャフトを備えた簡易ヘリポートと垂直発射装置(VLS)を有するに至ったこの自走要塞は、ゲヘナ学園の陸上巡洋艦(超重戦車)〈P1000 ラーテ〉や百鬼夜行の多砲塔重戦車〈オイ車〉を凌ぐ対地制圧能力を固持し、他の陸空部隊と協働すれば局地的な航空優勢を確保可能でもあることから、同艦の移動情報が漏れるだけで各学園自治区の機甲・砲兵の戦力配置が大慌てで変わるほどであった。

 

 しかしながら、その図体に比例して掛かる建造・維持コストも当然莫大であり、量産体制は保持してるものの現在までに建造が完了し配備まで終えている同級艦は10隻は超えるが20隻まで届いていない。

 そのため、基本的に各師団各連隊に1隻ずつ置く…といった形に現在はなっており、配備先によってその運用法や所有部隊はまちまちである。本基地に配備されている同級3番艦——“D3”は駐屯する第13陸戦連隊司令部直轄の前線司令部兼移動要塞として運用されている……が、先に兵站・整備担当のPMC幹部が言ったように同艦は稼働不可の状態となっている。……無論この情報は軍機である。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

「——ですので、理論上可能ではある…という形で申し上げたのではありませんか。皆様、どうか冷静になってください。……そもそも、我々と彼らでは元の()()が違う。彼らは、文字通り全く別の世界で度重なる熾烈な生存競争に打ち勝ってきた絶対強者たちです。仕方のないことでしょう」

 

「どこまでも他人事のような口ぶりで…!」

「この連中をセンターから今すぐ追い出せッ!」

「それでは我々はあの戦闘をただ見ていることしかできんのか…」

 

 PMC幹部らが苛立ち、或いは無力感から拳をきつく握るが、黒服はそんなことは知らぬと話を続ける。

 

「知恵はあれども力も工夫も足りない、そういった状況は非常にもどかしいモノだと此方も思います。

 ……現在、アパテーの模倣レベルは稚拙極まりないですが、かの存在の真の強みは驚異的な学習能力とそれを基にして行なう適応のペースです。

 アパテーが()()()()を知り尽くした時、オリジナルを上回る戦闘技量をもってソレを駆逐・排除しにかかるでしょう。そうなった時、次にアパテーが取る行動は…………」

 

 ここで一旦黒服が言葉を切った。

 

「…とはいえ、そこまで深刻に考えなくとも()()()ですよ」

 

 彼がこうして喋っている間にも、メビウスとアパテーの戦闘は続いている。

 画面の向こう側——灼熱の太陽が照りつける広大なアビドス砂漠での戦いは、新たな段階へ突入する。

 

 赤の巨人が腕装から光子刀剣を抜剣。対する銀の巨人もこれに応え、擬似腕装(ダミーブレス)より刺突性と取り回しに優れる宇宙金属レイピアを生成した。

 

「…なぜ、そう言い切ることができる?」

 

 ここで今まで口を開かずにいた巌流寺上級大将がはじめて黒服に問う。

 

 画面のメビウスとアパテー…両者が構える。

 黒服は熱砂の決闘をバックにして、一拍置くと上級大将の問いに答えた。

 

 

 

「アパテーの相手をしているのが、()()()()()()だからです」

 

「なに……?」

 

「光の戦士ウルトラマンは、()()()()のですよ」

 

 黒服の言葉を聞いた黒部(メフィラス)から笑みが一瞬消えたが、その顔はすぐにいつも通りの涼しげなものに戻った。

 上級大将をはじめとするカイザーPMCの面々は、黒服の哲学的かつ抽象的な論に首を傾げるしかなかった。

 

 元より、理解などしてもらえなくとも問題ないと考えていた黒服は困惑する者たちを一瞥した後、顔を大モニターの方へ向け直す。

 

「さあ。ヒーローの戦いぶりを、その行く末を…この特等席で、此処にいる全員で見ようじゃありませんか。こんなもの、滅多に観れるものではないのですから…」

 

 

 

 地下指令センターの中央モニター。その画面では、鋼の巨人と光の巨人が同時に斬りかかり…再び激闘が始まった———

 

 

 

_________

____________

______________

 

 

 

 ———ヘァアアッ!!

 

 両者の剣撃が重なり、鍔迫り合う。硬質化させた宇宙金属で造られた白銀の宇宙細剣(レイピア)は…“闇”と対になる“光”と言う絶対的属性を付加され、時に概念さえ両断せしめる光子刀剣と何度目か分からぬ正面からのかち合いを経てなお、刃こぼれ一つ落としていなかった。

 

 ———パォオオオオッ!!

 

 アパテーはメビウスのブレードを振り払い、レイピアによる連続突きを繰り出す。

 

 アパテーという集合体を構成する思考金属たちは、これまでの生存競争で得た経験則から、有機生命へ致死傷を与えるに際して刺突貫通が物理攻撃手段の中で最も安定性があると、彼らなりの最適解に辿り着いていた。

 

 故に近接武器は単なる模倣ではなく適応を施し、生成した。突き殺すだけならば槍の方が遥かにアドバンテージがあるが…対象に取って代わると決断した金属生命体はそういった点においては酷く()()であり…今回の場合、アパテーは「一本の剣でメビウス(オリジナル)に勝つ」ことに固執した。

 無論、この細剣による攻めがあまりに効果が無いという判断にいつか達すれば、アパテーはそのアプローチを変え、左腕だけでなく右腕にも細剣を生成して二刀流としたり、第三第四の腕を生やしてそれぞれ戦鎚(ハンマー)戦斧(アックス)に変形させる、又は光子刀剣の完全再現にまで踏み切ろうとするかもしれない。

 

《突きは正確…狙いは急所への一点集中か。散らしてこないなら良い…これは、()()捌ける》

 

 一方のメビウス。怒涛の連続突きはその初速こそ脅威だが、アパテーの()()が絞れているため受け流しての対応に危なさはない。精密すぎる攻撃は熟練の戦士にとっては寧ろ…といったものの典型だろう。

 が、先に彼が思ったように、時間を掛け過ぎれば経験という名の“利”を失することも承知している。

 こうして劣勢の防戦状態をアパテーにいつまで()()()()()()()か、いつこちらが打って出て切り崩すか…そのタイミングを見極めようとしていた。

 

————……オオッ!!

 

 その時だった。

 遂に痺れを切らしたのか、アパテーが突如レイピアをブレードに変形させ、空いている右手からは高速牽制光弾を連射。メビウスの意識の処理を右手、そこから放たれる光弾に釘付けにする。

 

《目眩し——戦法が変わった…? いや、これは…》

 

 至近距離での光弾乱打にメビウスは一瞬ながら意表を突かれた。

 

《フェイント…!》

 

 やはりそれは考えなしの攻撃ではなかった。光弾とアパテー本体によって隠れた死角から繰り出されたのは、左腕の()()()()

 嫌でも気にせざるを得ない光弾の近距離発射に被せる形で、わざと目の前で腕部の変形を見せ、対処の択を乱す…なんとも狡猾なやり方だ。

 

———グッ!!

 

 威力の低い光弾の被弾を許容し、本命の一撃の回避に徹する…のを完全に全て成すには、コンマ数秒という時間はあまりに少なかった。

 メビウスは複数の光弾を胴体に受け、レイピアの高速刺突が右脇腹を掠った。脇腹の小さくない裂傷からは光の粒子が大気中へと溢れていく。それは人間で言うところの出血だった。

 だが痛みに身を捩らせている暇はメビウスに無い。

 

———セアッッ!!!

 

 ———ズ……ッ!

 

———バオ゙オッ!?

 

 さりとて彼も…メビウスもやられてばかりではなかった。刺突を避けるために咄嗟に行なった回転跳躍を利用し、その着地と同時に居合からの横一閃でアパテーの右腕を斬り飛ばした。鋼の巨腕が砂地に沈む。

 

 脊椎反射で、失った右腕を咄嗟に左腕(レイピア)で庇う仕草を見せつつ地を蹴り後方へ回避跳躍に入ろうとするアパテー。

 

《…逃すか——!!》

 

 しかしメビウスは逃さない。態勢の立て直しを許す気が無い彼は、迷わず前へ踏み込みアパテーに肉迫。

 

———セヤァアーッ!!

 

 ———ザンッ!!!

 

 猛々しい咆哮と共に振り抜かれるメビュームブレード。強固な接合構造をしていた鋼の巨人の残る左腕…それをプラズマスパークの光刃は易々と斬り落とした。

 

 ……二脚で身体を支える人型存在が両腕を失うのは、重心のバランス保持に難儀する——要は致命的な隙が生じる可能性が大きく高まるに等しい。

 実際、既に回避行動…跳躍の最中であったアパテーは、着地後の姿勢制御に手間取った。最悪(転倒)は免れたが、よろけたのである。

 それも、本来であれば着地直後の隙を消すためにローリング、或いは更にサイドステップ等を挟まなければならないところを、だ。

 

 ——アパテーは、金属生命体である。

 

 アパテーは、無数の思考金属が集合し一塊となった群体だ…という話は、先にした通りである。

 金属生命体は、似通った思考傾向を持つ思考金属で群れる…という話もまた、先にした通りだ。

 金属生命体を構成する思考金属たちは、核となるリーダー役の思考金属を中心にして群体を形成しその規模を拡大する…という話も同様にしただろう。

 

 つまり…思考金属たちでも、完全に意志を統一することは不可能なのだ。必ず何処かで、()()が発生する。

 だからこそ、核たる司令塔的存在の思考金属を選抜する。する必要がある。彼らでさえ、その必要があるのだ。

 これが意味するのは、何らかの影響によって()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性も有る…ということだ。

 

 そう。正しく、今のような…強敵(メビウス)と対峙した時のように。

 

————オ、オオ………!!

 

 メビウスによって両腕を飛ばされた時点で、アパテーを形成する、末端の思考金属から各部位の核を担う上位思考金属に至るまで…彼ら、アパテー思考金属群は、思考・意思が複数に分裂してしまい、統制を僅かに失った。

 身体の各所、それも細胞単位で()()が生じ、マトモに動けなくなるなど、考えたくもない事態だろう。

 

————目の前の天敵の排除を優先すべきだ。

——否、各々で離脱し再起を図るべきだ。

———迅速に対象を抹殺せよ。

—————模倣を中止するべきではない。

——この劣勢は何が起因で生じたものか、回答されたし。

———敵の戦闘能力は予想以上である。

——————恐ろしい。

——当群より離反兆候を確認。統率信号の再発信を具申。

————分断された腕部との合流を優先すべきだ。

——————反対、喪失部位は新規に生成するべきだ。

———敵前でのソレは自殺行為になり得る。

————ならば有効な代替案を即時提示せよ。

 

 群体性の思考金属たる彼らは、個体間で認識の齟齬が生まれようともその修正が可能であると判断する限りは、群れの繋がりを維持させようと…()()をし改善しようとする極めて民主的な種族である。

 だが、この議論に思考リソースを割き過ぎてしまうと、行動が疎かになるのは言うまでもない。

 揉めに揉めた末、アパテーは本体の腕部根本と、切断された両腕の両方から接合役の思考金属を凄まじい速度で伸長させ始めた。それはさながらロケットパンチの逆噴射機構が如き動きだった。一瞬でアパテーの両腕は復帰した。

 

———セアッ!

 ————パォオッ!!

 

 接近するメビウス目掛け、復帰した左腕部を再び変形させ…今度は光子刀剣を再現し、これを振り下ろした。意思統一が半端なためか動きに繊細さを欠いているが、どうやら一刀への拘りはまだ続いているようである。

 受け止める格好となったメビウスは片膝を付き、押し負けないよう抜剣中の左腕を右腕で支える。

 

《———無理矢理押し切られる…!》

 

 メビュームブレードに食い込むアパテーの光子刀剣。このままではメビウスが刀剣ごと脳天から真っ二つに両断されてしまう。

 アパテーは光子刀剣へ加える力を更に強める。散り続ける火花。

 それを見上げるメビウスの目には、まだ諦めの色は滲んでいなかった。

 

《いや、まだだっ!!》

 

 これで終いとばかりに、アパテーが一気に光子刀剣をメビウスへ押し付け——

 

 メビウスブレスからブレードが投棄(パージ)されたことに気づくのに一手遅れた。ポッキリと折れるように光の刀身が重力に引かれて落ちていくのをアパテーは自身の目で追っていた。

 ……既に目一杯体重を前に掛けた状態だ。重心の制御は限られる。メビウスはアパテーの足下に潜り込んでいた。

 前のめりに体勢を崩したアパテーに待っていたのは、光の巨人による神速の回転蹴り(ケイシャーダ)

 それは、目にも止まらぬ疾さでアパテーの頭部にめり込む勢いで叩き込まれた。予期せぬ一撃を貰い動揺したのか、たまらず仰け反り後退する鋼の巨人。

 

オオオオォ……!!

 

 怨嗟の叫びと共に、ぐにゃりと歪むアパテーの頭部。それは生物であれ即死と判断されてもおかしくない造形だ。

 ……崩れた頭部の形状を修復しながら、メビウスの捕捉を続けようとするアパテーだったが、ふと気づけば光の巨人が自分から距離を取っている。

 

 

 

 ここでアパテーの思考金属たちは、勝敗に直結する重大な決断を迫られた。

 

 

 

 この短時間で相手に尽く出鼻を挫かれ、鋭い反撃を立て続けに受けて劣勢に陥ったアパテーは、次に先手を取り損ねればいよいよ巻き返しが難しくなると考えていた故、メビウスが取った行動の意図を、この刹那に思考せねばならなかった。

 

 最終的に、アパテーは短過ぎる時間での行動予想は困難であるとし、事前に得ていた__あまりにも少ない__データを基に、「メビウスは光波熱線による決着を選択した」ものと結論付けた。

 鋼の巨人が必殺光線“メビュームシュート”を再現すべく、その準備動作に入る。対面のメビウスは右手を添えていた左腕を横に振り抜き、光子刀剣を再抜刀した。

 

 アパテーは——思考金属群体は、この時に勝利を確信した。こちらの予想が良い意味で裏切られた、と。相手は最良の択を選び損じたのだ、と。

 今更抜剣し駆け出したところで、光波熱線の照射は阻止できない。照射さえ始まれば回避は不可能だ。

 

 つまり、“詰み”の状態だった。

 

 しかしながら光の戦士は構わずアパテーに向かって走り出した。思考金属たちは、それを破れかぶれの特攻だと断じ嘲笑した。

 

————セヤーーッ!!

 

 完全修復されたアパテーの両腕が十字を組み終えるのと、疾走するメビウスが左腕——メビュームブレードで迷いなく()()()()()()のはほぼ同時の事であった。

 

————………………?

 

 …アパテーは、メビュームブレードを単なる光子刀剣と見誤っていた。

 その光り輝く刀身が、瞬間的かつ爆発的な()()をさせることができるなど夢にも思わなかった。適切な交戦距離を保っていると信じて疑わなかったのだ。

 

———ドガァアアアーーーーンッ!!

 

 だからこそアパテーは、己が「8」の字に斬られていることに気づけず、切断音が自分から聞こえたこと、そして光波熱線がいつまで経っても放たれないことに疑問を抱いたまま、プラズマスパークエネルギーとの劇的反応を起こし内部から爆発。模倣人型形態を維持できずに連続爆発を起こしてバラバラに四散するのだった。

 

《………なんとか、倒せた》

 

 爆心地を中心に、手の平サイズの微小な固体状思考金属が大量に砂地へ散らばる。

 それらにはもう周辺の同族と再集結する意思…というよりもそれを為す余力を失っているようだった。中には既に仮死状態に入ったものもあった。

 集合体の基幹金属らが光子刀剣(メビュームブレード)の高純度のプラズマエネルギーに直で晒され殆ど死滅したために、新たな統率者がポッと現れない限りは再活性化することは——半永久的に無いだろう。

 

———ピコンピコンピコンピコン

 

 気づけばカラータイマーは赤色点滅を始めていた。メビウスは砂漠から青空へ立ち昇る黒煙を少しの間見つめた後、地上にいるアビドスの生徒たちを探そうとした。

 

「——メビウス!まだ終わってない!!」

 

————!!

 

 しかし、ホシノの声を聞きすぐに自身の思考を戦闘態勢へ再度切り替えた。

 彼女の指摘の通り、黒煙の向こう側からアパテーの()()…一本の飛翔銀槍が彼目掛けて突進してきた。

 

 煙幕を突き破り、マッハ3で正面から迫る銀槍に対し、メビウスは必殺光線(メビュームシュート)で応えた。

 

 出力と射程を自ら制限することにより実現する、溜め——即ち発射準備動作の短縮を経て繰り出される明色の一撃必殺の破壊光線は、避ける素振りすら見せない飛翔銀槍に命中。二度目の爆発がアビドス砂漠の上空で発生。アパテーの特攻は封殺される形となった。

 

《………ホシノちゃんの声が無かったら、僕は——》

 

 今度こそ、アパテー金属群体の撃破に成功したメビウス。

 

「あっ、メビウスの姿が!」

 

 車窓から乗り出していたセリカがメビウスを指差し叫ぶ。

 

 地上を走行する高機動車(HMV)に顔を向け、ホシノ…そして対策委員会の子たちにサムズアップをし、そのままメビウスは自身の巨人体を光の粒子へと徐々に変換していくと、その姿をアビドス砂漠から跡形もなく消すのだった。

 

 

 

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カイザーPMC第113前線基地

 中央区画 基地総司令部庁舎

  地下作戦指令センター

 

 

 

『——ウルトラマンメビウス、消失!』

 

 砂漠の戦いの決着をプレデターから送られてくる映像で確認していたカイザーPMC。

 先ほど、メビウスがアパテーを撃破した際にも大きなどよめきがあったが、過去2回は飛翔後に行方をくらましていたこともありメビウスの地上消失に再度どよめきが走った。

 

「死んだ、のか? 敵性生物と共倒れした…?」

「所謂、瞬間移動の類いかもしれん。あのポーズを見せた後に即ポックリは無いだろう」

「レーダーは既に反応無しだ。どんなカラクリを使っている…」

「唐突に現れては唐突に去る…正に神出鬼没だな。特殊生物も特殊生物で大概だが…」

「ウルトラマンの胸部器官、“カラータイマー”と言ったか?…あれが、戦闘終盤には赤色に点滅していた。ゲマトリアの先生方の話の通りなら、もしやゴメス有事やアカレンガ港防衛戦の際は万全の状態では無かったのではないか」

「あれでもまだ、だったということか。底知れんな…かの存在は…」

 

 指令センター内の空気はアパテーが殲滅されたことによる安堵とメビウスの驚異への畏怖で占められていた。

 

「——これでようやくヘリを出せる。アパテーの、新種金属のサンプルを確保できるかもしれんぞ」

「馬鹿者めが!あの砂漠に()()()()はいないのだから、ロストした第32飛行小隊とゴーストアイの捜索救難こそ先だろう!!」

「陸軍には輸送ヘリ中隊、空軍には救難ヘリ小隊がある。争う必要は無いのでは。それに、第5号“ビートルホーン(グドン)”のサンプル採集を行なっている部隊からも抽出し捜索隊に充てれば良い」

「社員の、兵士の命を何と心得ているのだ!」

 

 また、アパテー殲滅による事後処理に関して、幹部間で意見が割れていた。金属生命体を構成していた未知の宇宙金属の採取を急ぎ優先するべきという声と、スクランブルした空軍航空部隊のパイロットらの捜索救助を第一に進めるべきという声の二つである。

 なお、どちらも大事だ、どちらもちゃんと行えば良いのではないかという無思慮な日和見陣営は主流意見双方から袋叩きに合うこととなった。

 

「——やめんか!!」

 

 それを一喝したのは巌流寺基地総司令だった。幹部らは口を一斉に閉じる。センター内はしん…と静まり返った。

 

「いつまでうだうだと言い争っておる!——13連並びに13飛には、今次戦闘においてMIAとなった兵の捜索及び救助の協働任務を与える! 連隊長、飛行団長、これを駐留軍司令の権限で最優先任務とする。早急に作戦を立案し、実行に移せ。…できんとは言わんよな?」

 

「「ッハ!!」」

 

「うむ。したらば、すぐにかかれいっ!」

 

 巌流寺基地総司令の言で慌ただしく動き出す指令センター内のPMC兵士たち。

 

「後方空域に待機中の攻撃隊をアパテー爆心地周辺空域へ進出させろ!そのまま同空域警戒中のプレデターと共に、派遣される捜索部隊のエアカバーを担ってもらう!」

「第2歩兵大隊の半数を航空兵捜索に動員する!同大隊に非常呼集を掛けるのだ。交代要員も叩き起こせ!!」

「陸軍第2輸送ヘリ中隊、空軍904救難ヘリ小隊は急ぎ——」

 

 

 

「……それでは、私はこれで」

「ええ。また後で落ち合いましょう」

 

 その様子を一瞥し黒服と黒部は何やら数度言葉を交わすと、黒部が護衛のオートマタを引き連れ指令センターのゲートへと歩き出した。退出するつもりのようである。

 それを見ていた山風陸軍大尉が、黒服の下へ急ぎ向かう。

 

(——あの二人は別々に動くつもりか…? そうはさせるか。彼らに問い質したいことは山ほどある。今年に入ってから現れ始めた我々人類に敵対的な巨大特殊生物…怪獣について、そしてそれらを尽く殲滅する目的不明の非敵性人型存在…ウルトラマンについて)

 

 黒服が大尉に気づいて会釈をした。

 

「おや、山風大尉。お疲れ様です」

 

「黒服殿、黒部殿はどちらへ?」

 

「ああ…黒部君は今から()()()()()と言っていましたよ。彼の積極性と行動力は実に素晴らしい。見習うべきところは多々ある」

 

「現地に…?失礼ながら、()のあては。向こうと基地とで距離は優に50kmは超えているはずだが…」

 

「クックック……彼の好奇心は距離の制約を受けませんので。——ああ、そういえば。センターへの無断入場をした件について、処分内容は如何様なものになりそうでしょうか?」

 

「驚いた。てっきり有耶無耶にして退散されるかと思っていたが」

 

「ククク…少々心外ですねぇ」

 

「…………貴殿らへの処分は軽いものになるだろう。基地幕僚も、それらを統べる巌流寺司令も、そして自分も、納得しかねるものであるが…だ。貴殿らが提供する情報は我々にとってどれも非常に有益なものであるというのも事実であり……今回と今後の貢献分で軽減される形になると思われる。完全免除ではないが」

 

「いえ。ご配慮、痛み入ります」

 

「——我々としては金属生命体…アパテーは撃破されたと考えている。貴殿らゲマトリアはどう捉えている?有識者としての見解を聞かせていただきたい」

 

「そうですね。完全に…ではないでしょうが、ウルトラマンの光波熱線を直であれほど受けたのです。先の人型形態や飛翔形態を維持できる規模まで再集結するのは難しいのではないかと。群れは小さいモノがいくつか出来上がる可能性はありますが、それら単体がキヴォトス文明を脅かす存在に再びなるとは考えられません。今の彼らは対戦車装備で事足りる」

 

()()()は後始末が少々手間だと、そう仰りたいのか?」

 

「潜伏する残党の放置というリスクを御社がどう捉えるか次第でしょうね。……他に、何か聞きたいことがあったのでは?」

 

「…………黒服殿は、“ヒーロー(ウルトラマン)は必ず勝つ”——と仰った。アレはどういう意味か。何らかの確証があっての発言か」

 

「額面通りの意味ですよ。私にとってはそれ以上でも、それ以下でもない。だから考え過ぎはよろしくないと言った筈です……きっと私も、貴方も、その他遍く全てのキヴォトス人類も、この超大陸(ステージ)に生きる哀れで無知な群衆(エキストラ)に過ぎないのですから。…黒部君はあまりこの表現が好きではらしいですがね」

 

「エキストラ…?」

 

「失礼。喋り過ぎましたね。…一旦ここでお開きとしましょうか。ちょうど、私の()()が来たようですから」

 

 そう言う黒服の左右後ろに、完全武装済みの前線基地警備部の兵士が歩み寄ってきた。彼らが口を開くよりも先に、黒服は指示に従う姿勢を示し、山風陸軍大尉に会釈をすると待機(聴取)部屋を聞き自ら歩み出すのだった。

 

(彼らは、どこまで……このディスクの中身を見れば、自分にも少しは理解できるモノが増えるのだろうか……)

 

 警備兵に監視されて移動する黒服を無言で見送ると、山風陸軍大尉は自身の手元にある、アパテーに関する情報資料がダビングされたDVDへ視線を落とした。

 

(……いや、識らなければならないのだろう。人類(われわれ)に残されている時間は、存外少ないのかもしれないのだから)

 

 

 

 ………カイザーPMCアビドス平和維持駐留軍は少なくない兵力を割き、アパテー戦において撃墜された第32飛行小隊並びに第904飛行中隊偵察飛行小隊所属機の航空兵捜索救助活動を実施。

 結果として捜索対象であった航空兵6名は、凡そ7時間半にも及ぶ捜索活動の末、全員が停死状態で発見。…ヒトとしての形を保っていなかったものの、復元蘇生に必要な最低量の身体主要パーツを回収する事ができたため、実質的な殉職者は奇跡のゼロとなったのだった。

 

———毎回毎回()()()という現状は決して放置してはならない問題である。

 

 しかしながら、これは偶然の産物であり、今回撃墜された空軍機のパイロットらが非機人族であれば結果は全く違っていたと言う指摘がアビドス駐留軍内部から相次ぎ、これを契機にしてカイザーPMCでは対特殊生物を意識した戦術研究と装備開発がこれまで以上に推進されていくこととなる。

 

 また、特殊生物第4号(グドン)から炭化した表皮破片、第6号(アパテー)からは非活性状態の宇宙思考金属を複数回収することに成功し、これらは例外なく“第66実験基地”に鉄道網を用いて輸送された。

 回収分を超過したモノは、徹底的な焼却処理が為され、第6号の残党についてはその場で()()()()()駆除されるに至った。

 

 以降、アビドス平和維持駐留軍はPMC本社総司令部へ今次案件を報告し、喪失兵力の補充・補填のために奔走することとなる。

 

 

 

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———時は、アパテー撃破直後に遡る。

 

 

 

アビドス高等学校学園自治区

 アビドス砂漠地帯

  アパテー戦闘跡地

 

 

 

「メビウス、消えちゃった…」

 

 不安気にそう溢したのはセリカだった。彼女の獣耳は分かりやすく項垂れている。

 彼女にとってウルトラマンメビウスとは、分かり易いヒーローそのものであり、正体は不明なれどもキヴォトスを守るために戦ってくれている「理由無き善の者」であることはもはや疑いようが無かった。

 

 途方もない困難を前にしても、臆せず前へ踏み出しひたすら立ち向かいぶつかっていくあの姿は、母校の窮地を救う使命感に燃える真っ直ぐな彼女に、確かな勇気と活力を与えた。

 だからこそ、ある種恩師とも言える存在の原因不明の消失には戸惑いより不安が勝っていた。

 

「恐らく戦闘が終結したと判断して離脱したのでは? 過去に確認されているのは飛翔による離脱のみですが、可能性は高いと思います」

 

 そんな彼女を気遣ってか、同級生のアヤネが優しい口調で諭す。

 

 アビドス廃校対策委員会の面々は、メビウスとアパテーの戦闘終了直後にミライのHMVの反応が失探したエリアに到着。捜索のためアヤネ運転のHMVより全員が降車していた。

 彼女らの目の前には、腹を横にして砂地に転がっている自然鎮火した大破状態のHMVがある。アビドス校章が付いたソレは、間違いなくミライが運転していた高機動車だった。車内にミライがいないことは、既にホシノが確認済みだ。

 

「こっちにバッチグゥ〜した後に倒れちゃった〜は、おじさんも考えられないかな。元気だしなってセリカちゃん。メビウスはきっと無事だからさ」

 

 続いてホシノもセリカの頭を撫でながら落ち着くようなだめた。

 

「アヤネちゃん…ホシノ先輩…」

 

「そうそう。メビウスもミライ先生も、きっと……っ」

 

 この時、ホシノはハッとした。

 ——まただ、またミライ先生が()()()の思考になっている。

 

(……今はミライ先生探すことが先決だって自分で言った筈なのに…! なんで捜索を急ごうともしないで駄弁ってるんだ私たちは…!?)

 

 無意識にそうなっているのが余計タチが悪い。自分が嫌になる。

 

「——ん、高機動車から緊急脱出して、そして私達と連絡が取れなくなった状況で、身の安全を守るとしたら……()()()に隠れるんじゃないかな」

 

「えっと、ガソスタ…よね多分。八割九割埋まってるから分かりづらいけど」

 

 シロコが指差す方向には、僅かにキャノピーとそれの支柱が砂から顔を出している廃墟——ガソリンスタンドであったろうものがあった。

 

「俗に言うロードサイド店舗ですね。旧帝政時代の自治区マップの情報によれば、今は見る影もありませんが昔はここらは一面荒野で、気休め程度の無人販売店と無人給油所があったのみらしいです。おそらくはソレでしょうね」

 

 確かに、ほぼほぼ埋まり掛けているが、よく見れば砂山の一部が崩れており、そこからキャノピー下に潜れ込めそうだ。それはさながら簡易的な特火点(トーチカ)、又は地下壕(シェルター)のようであった。

 

「建物自体に戦闘起因の損傷も見受けられないですし、シロコちゃんの言う通りかもしれません。先生はあの廃スタンドにいるのではないでしょうか?」

 

 ノノミがシロコの言に賛意を示した。大破したHMVから廃スタンドまでの間にミライと思しき足跡等は無いが、砂の崩落と飛散で消えたと考えるのが妥当だ。

 

 いくら軍歴ある大人とはいえ、砂漠の真ん中——それも巨大存在暴れる戦闘領域内で移動手段が消し飛べば、碌に移動もできなかった筈である。

 戦闘の余波を貰わないよう身を守れる場所に隠れるというのは悪い択ではない。下手に手を出すより利口と言える。

 

「じゃあなんで戦闘が終わったのに姿を見せないのよ」

 

 アビドスの五人は、蜃気楼に揺れる廃スタンドへ揃って目を向けた。ミライがキャノピーの中から顔を出してくる様子は無い。

 

 ………その時だった。

 

————ビュオオオオッ!!

 

「わ゙っ!突風!?」

 

 不意に廃スタンドと彼女達の間を塵旋風が横切った。そして次の瞬間には———

 

 

 

「おーい! 皆んなぁ〜!!」

 

 

 

 ———彼女達が探していた大人…ミライが安堵の笑顔を携え廃スタンドの方からこちらへ走ってきていた。

 

「「「先生!」」」

 

「皆んな、怪我はしてないかい?」

 

 ところどころ煤に汚れているが、五体満足のミライ。彼は自身のことよりも五人の心配をしていた。

 

「それはこっちのセリフよ!」

「高機動車は大破、連絡は不通…どれだけ心配したか…!」

 

 一年生ズからのごもっともな声に、ミライは苦笑して謝るしかない。

 

「ご、ごめんね…」

 

「うへぇ、こっちは全員怪我無しだけど、ミライ先生はどうなのさ?」

「ちょっと失礼しますね、念のため確認させてください」

「ん……触診する。これに拒否権は無い」

 

 そしてジリジリと詰め寄るホシノ、ノノミ、シロコ。

 

「あの…僕は大丈夫だから——」

 

 彼にそれ以上の有無を言わせず、三人に揉みくちゃにされての負傷確認が行われた。

 

「………右の脇腹、切れてるねぇ。傷自体は浅いけど出血はしてるし。…もしかしてミライ先生は傷には黙って唾つけとけば治るって思ってるタイプ?」

 

 結果、ホシノがジャケット下のアンダーシャツ越しに右脇腹部分から血が滲んでいるのを発見。ミライの負傷を看破した。

 

「高機動車からの脱出の際に破片な何かで切ってしまったんでしょうか」

「これは滲みて痛いヤツだ」

 

 不思議なのは上着であるシャーレコートやジャケット、そして肌に接していたアンダーシャツにさえ()()()()()()()()()()()()ということだ。

 しかし、()()()()()今はどうでも良い。ホシノはノノミとシロコの二人に指示を出し、ミライのシャツを捲らせ高機動車に置かれていた応急処置キットで手当を行なった。

 

「あのさ先生…怪我してるなら怪我してるって言ってほしいな。勿論、そこには先生なりの優しさとかあるんだろうけど…おじさんたち的には素直に言ってくれた方が助かるし嬉しいよ。それに…我慢して一番辛い思いをするのは先生自身でしょ?」

 

 彼女の口調こそ穏やかだが、節々に心配と怒りが滲んでいる。

 

「それは……ごめんなさい」

 

 誤魔化す際は申し訳なさそうな苦笑を見せる、謝る際は己の非を認め弁明もせず素直に謝る…()()()()だ。どこまでも“先輩”が過ぎる。

 だからだろうか、自分(ホシノ)が自認している以上にミライを気に掛けるのは。

 だからだろうか、心が絆されてしまって怒れるに怒れなくなってしまうのは。

 

「…じゃ、この話はこれでおしまい。怪我人をずっと炎天下の日差しの中にいさせるのも良くないから——」

 

 アビドス対策委員会は、ミライの応急手当てをし終えると全員で高機動車に搭乗。

 

「——帰ろっか。皆んなで、学校に」

 

 帰路の道中に何かが起こるといったことも無く、アビドス本校舎南区別館へ帰還を果たすのだった。

 

 

 

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おまけ【闇のアドバイザー】

 

 

 

ゲヘナ学園自治区

 本校舎直轄市街地 郊外

  喫茶店 “茶店『(ヘビ)』”

 

 

 

「ふふん♪これを見なさいマスター! どうよ、この依頼内容と報酬金額っ!」

 

 アビドス自治区にて三度目、四度目の特殊生物出現事案が発生したが、その情報はシャーレ顧問のミライ或いはカイザーPMCが連邦生徒会へ展開するまでは大陸全域に拡散することはない。

 つまり、過疎化著しい自治区から出る情報というのは、内容の質は低く、伝播の速度が遅くなる…ということだ。報道学園——クロノススクール経由の速報も、よくて事案発生の翌日になるだろう。

 

「そんな大声出さなくとも聞こえてんし読めるっての陸八魔」

 

 昼過ぎの茶店“蛇”では、上のような怪獣出現のことなぞ知る由もなく…常連グループの“便利屋68”四名がカウンター席に座り、厨房で食器洗いをしている店長ことヘビクラに絡んでいた。

 

「依頼者は匿名…アビドス自治区内の不法滞在者排除、詳細は依頼受諾後に改めて、か。それに前金でこの額出すってのか?……う、胡散臭ぇ〜。陸八魔、悪いコトは言わねえからこの依頼はやめとけ」

 

 もっとマシなもん探してきな——とヘビクラは依頼書をアルに返す。しかし彼女は何か言いたげであったので話してみるようヘビクラは促した。

 

「で、でもやっと舞い込んできた大口の依頼よ!? コレを逃したら次はいつ受けられるか…それに、一流のアウトローは依頼を選り好みしないもの——でしょ!」

 

 こんなにデカい案件を頼まれるぐらいビッグになったのか、とヘビクラから褒めてもらえると思っていた健気な少女は、何とかして__自分たちにとって事実上の保護者的立ち位置の人物と化している__店長に背中を押してもらおうと食い下がる。

 そんなアルの様子を黙ってみていた課長…カヨコがここで口を開いた。その顔には若干の呆れが混じっている。

 

「社長…店長がここまで言ってくれてるんだからさ、一回検討し直そうよ。この人、()()()()()にも鼻が効くのは、社長が一番よく分かってるでしょ」

「うぅ…でもぉ……これに賭けないと、後々もっとキツくなって…」

「クフフ〜。ムツキちゃんはどっちでも良いかな〜って。アルちゃんにお任せするよ、どう転んでも面白いことは起きそうだし♪ あ、ショーちゃん特濃プリンおかわり〜」

「わ、私は何があろうとアル様についていきます…どこまでも…!」

 

「なあ陸八魔。ゲヘナ自治区内の依頼募集は——」

 

「——条件の良い依頼は、あの高級傭兵(ジャグラー)が軒並み掻っ攫ってるからスッカラカンよ! 会ったら一度顔でも尻でも引っ叩いてやりたいわ!私初めて知ったの、憧れと妬みが同居するってこと…!」

 

「おー……」

 

 この時、店長と鬼方課長の目が合った。片方は目を逸らし、もう片方はジト目で何かを訴えかけようとしているようであった。

 

「と、とにかく! この依頼は受ける方向で行くから!だから暫くマスターに顔を見せれなくなっちゃうと思うけど、依頼達成の暁にはここで盛大にパーティ開いてあげちゃうんだから。もちろん、諸々の費用は私持ち…でね!」

 

 こうしちゃられないと、アルは席を立つ。事務所に戻り匿名依頼を受けるための準備に取り掛かるとのことだった。

 

「待ってなさい!憧れのアウトローライフ〜!! 絶対に完遂してやるわよぉ!!」

「クフフ…やっぱアルちゃんはこうでなくっちゃ! じゃ、またね〜ショーちゃん」

「店長さん、プリンご馳走様でした。お、美味しかったです…代金はこちらに。あ…アル様の分はこちらです。そ、それでは私もこれで」

 

――ガチャッ カランカラーン…

 

 何処ぞの通信教育事業社のCMを彷彿とさせるセリフを発しながらアル、そして彼女に続く形でムツキとハルカも退店していった。

 

「…………行っちまったか…。あー、鬼方」

 

 ガシガシ頭を掻きながらヘビクラはカウンター席にまだ座っているカヨコに声を掛ける。

 

「うん、分かってるよ。社長のサポートはしっかりするから。ホントに万が一の時は…」

 

「おう。大人は使える時に使うもんだ。お前や浅黄、伊草が揃ってりゃ大抵の荒事は大丈夫だろうと思うが、ヤバいことなったら遠慮なく呼べよ〜」

 

「いっつもごめんね…」

 

「気にすんな。慣れたもんだ。まぁ……なんか今回は俺にも少し責任があるような気がしないでもないからなぁ…」

 

「……そう思うなら、少しはウチらの分も残してほしいんだけど」

 

「残飯貰って嬉しいヤツなんていないだろ」

 

「店長、言い方…」

 

 こうして原典世界同様、便利屋68のアビドス入りが確定した。————イレギュラーを一人加えて。

 

 

 





 あと
 がき

 皆様、わっぴ〜!(気さくな挨拶)
 職場の繁忙期が終わった投稿者(逃げるレッド)です。大変お待たせいたしました。

 ブルアカもウルトラシリーズもデュエマもガルパンも…どこもお祭り状態でオジサンすごく嬉しいナ!
 拙者、自分が摂取してるコンテンツはずっと続いてほしい侍に候う。
 次の殿堂でモモキングダムXが逝きそうで怖いです。退化ハザード没収しないでほしいっすねぇボッシャーン。

 余談ですが、弊作アパテーの飛行形態は『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』劇場版に登場した地球外変異性金属生命体“ELS(エルス)”小型種をイメージしてました。こっちは同化能力なくて良かったねぇ…ホントにねぇ…あったらあったでロボット族の天敵すぎる。

 今更な話ですが、ウルトラシリーズ——『オメガ』が終了し、『テオ』が開始しましたが……テオ、面白いですね。OPも戦闘BGMも素晴らしすぎて好きって言うレベルじゃねえぞ!!
 
 やっぱ青トラマンよなぁ(厄介ウルヲタおじさん)
 イブキくん(←!?!?)の周りにいるメンバー、全員良い人そうで良かった…と思いつつ、曇らせ展開が始まらないか勝手に戦々恐々としています。地球的常識だとか文化の違いに興味津々…なんか既視感あるなぁ、メビウスだなぁ、メビウスだよこれ。
 失われし平成の味がする(帰ってきた厄介ウルヲタおじさんジャックⅡ世)



 ※毎度お馴染みピックアップ解説コーナー
 (独自設定独自解釈共にもりもり)

X-47B(ペガサス)或いはMQ-47B 無人戦闘攻撃機
 アメリカ合衆国空軍が計画した軍用無人航空機。
 史実(観測)世界では開発計画が中止となり、量産及び実戦配備されることは無かった。現在は主にミリタリー系創作作品の空で飛んでいる。
 しかしながら、同機を用いた飛行実験等で得られた貴重なデータの数々が、米国の新世代無人航空機の開発ノウハウを会得するための礎となったことは確かである。

 弊作キヴォトスにおいては、カイザーPMC空軍が有人機依存からの脱却と人員損失リスクの低減を狙って外界より導入した最新鋭多用途無人機の立ち位置にある。
 同空軍の配備機は、有人機へ追従するオペレーター要らずの半自律型なるカイザー独自発展機が大半を占めている。

◯セイント・ネフティス
 原作『ブルーアーカイブ』にも登場する、アビドス高校自治区の古参土着企業。規模としては広大なアビドス経済圏を支えるほどで、様々な事業に手を伸ば()()()()
 
 なお、アビドス衰退期に突入以降は、社の成長が止まりその勢力を徐々に小さくしていった。そのため現在では、倒産を回避するべく本社を自治区外に移転し活動している。

◯カイザーPMC大尉 改め山風(ヤマカゼ)PMC陸軍大尉
 前回とアカレンガの際に登場した話の通じるカイザーの軍人さん。
 巌流寺上級大将や烏丸補佐官、結城伍長と名前持ちロボット族を続々出してしまったので、大尉だけ「大尉」のままだと違和感を感じ、オリジナル準ネームドからオリジナルネームドへ格上げ。
 
 ご存知の方が既に多くいるとは思うものの、参考キャラは『地球防衛軍5/6』の“軍曹(ストーム2)”であり、名前の由来はそのコールサインたる「(ストーム)」を分解したもの。

D(ダブデ)級装軌式陸上戦艦
 艦船クラスの大型陸戦艇。あらゆる地上目標を薙ぎ払う大口径砲、充実した迎撃兵装、頑強な複合装甲、複数の連隊——一個師団規模の兵力を操れる指揮通信能力に、機甲戦力の運搬能力をも備えた移動要塞である。外界先進国家にて軍技術者であった亡命漂流者の協力もあって誕生した。
 
 地上における絶対的な戦域支配を可能とする本級は、その図体に相まった莫大な建造費と維持費、そして人的資源を欲するため、就役数は現時点でようやく二桁を超えたところ。
 主砲となる50cm越えとなる2基の馬鹿げた大口径連装実弾火砲はオデュッセイア工廠部に依頼した特注品__PMC海軍は重戦艦クラスの艦艇を保有した事が無く、存在しない艦載砲の転用は不可能であったため__であり、これを一度使うだけで整備費と特注弾薬の在庫が溶けていくことは陸軍では有名。
 なお、この主砲を拠点防空用に社内開発された連装対空電磁投射砲——対空レールガンに換装が可能であり、強固な自走防空拠点としても動かせる故、本級を運用する一部の運用部隊では地理的、戦略地政学的観点から主砲を電磁投射砲へ置き換える判断を下している。

 第1師団(ゲヘナ方面軍)隷下のアビドス駐留軍——第13陸戦連隊には、大口径砲を搭載した3番艦“D(ダブデ)3”が配備されている。現在は地下ドッグにて定期メンテの最中であり、アパテー戦ではその姿を見せることは叶わなかった。
 元ネタは、やはり『機動戦士ガンダム』に登場する“ジオン公国軍”が運用した〈ダブデ級大型陸戦艇〉。



 前回のあとがきに黒服登場はまだまだ先と言ったな?——アレは嘘だ。

 アビドス編の初期プロット書いてた頃に、【梔子ユメ ツルギの入れ物(うつわ)】概念がパッと頭の中に浮かんだことがありました()
 ホシノの呼びかけに「誰だ、お前」ってテレパシーで冷たく返すユメ先輩(in並行同位体ハンターナイト)…唆るなぁ。
 
 ウルトラマンヒカリと相性良さそうな生徒、筆頭はユメ先輩とサオリ姉さんのお二人だとか勝手に考えてます。
 え、スバル姉さんはどうなのって…?彼女はさすらいの風来坊が脳を焼くので^^

 引き続き、弊作をよろしくお願い致します(ー ー;)


 
_______
 
 次回
 予告
 
 夕焼けに染まる校舎で、ミライは対策委員会の面々からアビドスの知られざる窮状を明かされる。
 ホシノたちの助けになりたい一心で、彼は改めて協力を申し出た。皆んながそれを快く受け入れる中——

「——私は認めない!認めないんだからッ!」

 ——セリカだけは納得せず、一人でそのまま帰宅してしまう。それ以降、セリカのミライに対する態度は刺々しいモノになる。

「あっ、セリカちゃん——」

「——あんまり馴れ馴れしく話しかけないで」

——
————
——————

「……ということが続いてね…」
 
「うへ〜ミライ先生も洗礼を受けたんだねえ。まあセリカちゃんも多感なお年頃だからさ、大目に見てあげてほしいな〜」

「会ったばかりの、見ず知らずの人間を信用するのは難しいことだってことは、僕もよく分かってるよ。ただ……」

「いつまでもこのままじゃ辛い…よね。てことなら話は早い!」

 セリカとの距離感を感じたミライは他の対策委員会メンバーに相談すると、ホシノたちは嫌な顔一つせず話を聞いてくれた。

「おじさん達も、セリカちゃんが放課後に何処で何してるかは気になってたからさぁ〜」

 また、ホシノ曰く、「目的が一致しているのなら一緒に動くのが吉」…らしい。

 

「“セリカちゃん追跡大作戦”、始動しちゃおう!」



 ホシノらの勢いに流される形で、ミライはセリカの尾行に加わることとなり——

 次回、メビウスアーカイブ
 【セリカの非凡なる日常】

「えっ!? やっぱりこれダメな事だったの!?」

 果たして、ミライはセリカから信頼を勝ち取ることができるのか?
 
 お楽しみに。
 

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