日々の未来の青春譚 -メビウスアーカイブ-   作:逃げるレッド五号 5式

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04.【九尾の一目惚れ】

 

 

 

D.U.外郭地区

 市街地中枢部

  連邦捜査部(シャーレ)部室棟 近辺

 

 

 

「――あらら。連邦生徒会は来ていないみたいですね。フフッ、まあ構いません」

 

 歩道橋の手摺りの上に立つのは、狐面の少女。

 少女は黒に赤の混じった長髪、ピンと縦に伸びる狐耳、紅く輝く桜を思わせる“天輪(ヘイロー)”……そして、百鬼夜行連合学院の生徒たちが好んで着る、セーラー服と着物を組み合わせた、黒の合体制服を纏っている。

 

「あの建物に何があるかは詳しく存じませんが、連邦生徒会が大事にしているモノと聞いてしまうと……壊さなければ気が済みませんね…」

 

 彼女こそ、連邦矯正局より脱獄した「七囚人」が一人、“厄災の狐”――狐坂(コサカ)ワカモだった。

 今回の外郭地区での暴動を扇動した張本人である。

 

「嗚呼……久しぶりのお楽しみになりそうです。ウフフフ♡」

 

 眼下にはこの蜂起に呼応して集結した、外郭地区とその周辺にたむろしていた停学・休学、或いは退学した素行不良児たち。拳銃(HG)から多銃身機関銃(MMG)まで、彼女らの得物は多彩である。

 これに加えて、土嚢や角材、コンクリ片を掻き集めて形成した複数の簡易陣地がシャーレ部室(ビル)が立つ広場を最終防衛線として、何重にも囲っている。

 連邦生徒会所有建造物の周辺一帯を制圧した武装不良生徒たちは、これを取り返しに来るだろう者達を迎え撃つ態勢を整えていた。

 

―――ボガアアーーンッ!!!

 

 唐突に響き渡った爆発音。

 

「近いですね……何事ですか?」

 

 ワカモは無骨な携帯無線機を胸元から取り出すと、爆発地点方面に陣地を築き警戒にあたっていたグループに現状の報告を求めた。

 

 聞くまでも無かったが、敵対勢力の所属と規模は絞っておいて損は無い。

 

 治安維持のために走ってきたヴァルキューレの警官隊か?

 或いは召集に呼応しなかった別派閥の不良グループ、若しくはヘルメット団か?

 

 それとも――

 

『連邦の白い車両(やつ)が来たっ!奴ら、疾――』ブツッ!

『銃、銃が()()()()()!助けて――』

『先頭にミレニアムのセミナーがいる!その横に青シャツの大人が――』

『正実の制服まで見え――』

 

――本命の連邦生徒会派遣部隊、か。

 

「この段階で来れたと言う事は、所属を問わない混成部隊、でしょうね。それも間に合わせでありながら少数精鋭の。――ですが驚きました。部隊の中に大人まで混じってるなんて。……噂の“先生”なる人物でしょうか…?」

 

 無線越しでも分かる宇宙世紀(一年戦争)を思わせる要領を得ない狼狽ぶりと荒唐無稽ぶり、ここからでも聞こえる連続した爆発の轟音、そして近づきつつある激しい銃声から考えるに、最前線は完膚なきまでに叩き潰され、破られたのだろう。

 前線から聞こえる電子へ変換された阿鼻叫喚には耳を貸さず、ワカモは慌てる素振りを微塵も見せることなく思案に耽る。

 

「――騒動の中心人物を発見!対処します!」

 

 刹那、ズドンッ! と重音が聞こえた。

 それを聞き逃さなかったワカモは、勘で右へちょこんと首を傾げた。

 すると、先ほどまで頭があった空間を、少なくない“神秘”が込められた.30-06スプリングフィールド弾が通過していった。耳元で風切り音が聞こえる。紙一重の回避であった。

 

「フフッ。連邦の子犬たちが現れましたか。お可愛いらしいこと」

 

 こちらを見上げ、銃口を向ける色とりどりの少女達…と、奇天烈な銃を持つ一人の大人。

 部隊と言うにはあまりに小さすぎる集団がそこにいた。

 

 仮面の中に潜むワカモの琥珀の瞳は笑っていない。

 彼女がスッと平手を前に向けると、それを合図に歩道橋下の陣地から銃弾が一斉に飛び出した。

 数秒間に渡る制圧射撃を挟んだ後、陣地内より小銃(AR)短機関銃(SMG)持ちの前衛スケバン達が現れ、雄叫びを上げながら連邦生徒会分隊へと肉薄する。

 

 遮蔽物に飛び込み銃撃を凌いだミライ達、即席分隊はすぐに反撃。正確無比な射撃でスケバンを次々と無力化していく。陣地に居座る固定砲台として弾をばら撒いていた多銃身機関銃(MMG)大人(ミライ)光線拳銃(トライガーショット)の連続狙撃により即座に沈黙を余儀なくされた。

 

「……私はここまで。後は任せます」

 

 想定していたよりも、()の瓦解速度が早いようだが、些事な問題だ。

 ワカモは本来の目的を果たすために戦線を離脱。歩道橋下へ素早く飛び降り、その行方をくらました。

 

 

 

「逃げられてるじゃない!? 追うわよ!」

「いいえ、落ち着いてくださいユウカ。生半可な行動をしてはなりません。私たちの目標はあくまでも、シャーレの奪還……このままシャーレのビルまで前進するべきです」

 

 愛銃に替えの弾倉を差し込みながら、ワカモの追撃へ移るぞと息巻くユウカ。

 それに待ったを掛けたのはハスミである。電撃的な進攻を成功させ、即席分隊の中で押せ押せのムードが見え隠れしてきたからこそ、勢いはそのまま…それの方向を誤らぬために彼女はここでブレーキ役となった。

 

「……うん、まあいいわ。あいつを追うのは私たちの役目じゃないってことね」

 

 ハスミの言葉を受け、本来の冷静さを取り戻したユウカが納得を示し、構えていた二丁の愛銃を下げた。

 

「――それに、伏撃(アンブッシュ)の可能性も考えられます」

「引き込まれてからの袋叩き…数で劣る即席分隊(私たち)が最も避けなければならないケースです」

 

 追撃せずの判断は適解であると、陣地内の制圧を終えて合流してきたチナツとスズミも肯定する。

 

「皆んなの意見は揃ったようだね」

 

「はい。建物の奪還を優先で、このまま引き続き進むとしましょう」

『シャーレ部室棟までは、500mもありません。ルート上にある残りの敵防御陣地は、部室前に敷かれた一箇所のみです。他地点にある拠点・陣地群は、ヴァルキューレ警備局と刑事局が対処します』

 

「よし。それなら―――行こう」

 

 ミライの号令の下、即席分隊は建物の陰や裏路地から時折出てくるゲリラスケバンを蹴散らしながら、シャーレへ真っ直ぐ走っていく。

 

 こちらへ攻撃を加えてくる不良生徒の数と戦い方を見るに、時間稼ぎの色が濃くなっているとミライは察する。相手側の保有戦力も底を尽き始めているらしい。

 これならばシャーレ前の最終防衛線に固まる集団を無力化、各地の集団を警察機構(ヴァルキューレ)が潰せば、この外郭地区の暴動は一気に終息するだろう。

 

『シャーレ前の防御陣地を目視で確認。これまでと同様に、機関銃(MG)が主体のようです。擲弾や無反動砲の類いは見当たりません』

 

 そう考えている内に、分隊後方に随伴するリンの装甲車から、最後の陣地へ向けて制圧射撃が繰り出された。陣地前の簡易バリケード群を、隠れていたスケバン諸共容赦無く削り取っていく。

 

「――当てる…!」

 

 統率の取れていない不良生徒達は火線を集中させるようなことも出来ず、それぞれ光線拳銃(トライガーショット)によって武器(愛用品)を消し飛ばされ戦意が失せて鎮圧されるか、即席分隊からの集中砲火を受けて意識ごと無力化されるか、その圧倒的な戦力差を今更察して散り散りに逃亡を試みるかの三択しか採れる行動は無かった。

 尚、三番目の選択をした不良生徒たちは、ハスミによる頭部狙撃とスズミの自家製(オーダーメイド)閃光弾投擲の()()を受けて逃げ延びることは誰一人叶わず、他択を選んだ子らと同じ運命を辿った。

 

 

 

「……よし!建物入口前まで到着!!」

 

 ユウカが愛銃を握ったまま、小さなガッツポーズを見せる。陣地内の残敵の掃討は完了した。

 

―――ゴゴゴゴゴゴゴ!

 

 だが。不良生徒たちは、まだ隠し玉を温存していた。

 

「………うん?この音は…?」

「気をつけてください。恐らく、情報にあった巡航戦車です!」

 

 チナツの言葉に「そうだ」と答えるかのように砂漠迷彩(デザートカモ)を纏った、“十字軍”の名を冠する無限軌道の鉄竜が即席分隊の前にその姿を現した。

 

『――部室棟敷地内より、敵戦車出現。数は1。先生、こちらは火力差を鑑みて一時後退します』

 

「了解。周辺警戒は頼んだよ」

 

 ミライはかつて、GUYS JAPAN(極東・日本支部)基地(ベース)敷地内所在の総合図書館を利用して、地球人類の戦史を学ぶ過程で()()の存在を知った。

 

 地球での()()の名称は、〈Mk.Ⅵ クルセイダー〉巡航戦車。

 同惑星で勃発した「人類史上最大最悪の戦争(第二次世界大戦)」にて、ブリテン…イギリス連合王国陸軍が投入した20t級の快速戦車である。

 

 GUYS JAPAN基地車両部に配備されていた“主力戦車(MBT)”群、〈74式(ナナヨン)〉や〈90式(キューマル)〉を知るミライからすれば、前世代の型落ち(ロートル)もいいところである。だが、腐っても「戦車」だ。生身で戦う以上、その脅威度がゼロになることはない。

 

「あれは、クルセイダーⅠ型……! 私の学園(トリニティ)の制式戦車と同じ型です!」

 

 陸戦の覇者が、彼女達と相対する。

 

 リンの報告とハスミからの敵陸戦兵器…クルセイダーの情報を聞き、ミライが分隊へ新たな指示を出す前に、それの有する2ポンド砲が火を吹いた。

 即席分隊の前方至近に砲弾は着弾。アスファルトの地面が榴弾の炸裂を食らって勢いよく弾け飛ぶ。

 続け様に同軸機銃の連射が分隊に襲いかかる。ミライ達は近場の遮蔽物へ、ローリングで飛び込み素早く身を隠した。

 

「不法に流通された物品に違いないわ!PMC(民間軍事会社)に流れたのを不良たちが買い入れたのかも! つまり――」

 

「つまり?」

 

 壁に背を預けて隣にいるユウカの言葉の続きを促すミライ。

 

「――ただの動くガラクタってことだから、いくら壊しても構わないってことです!」

 

 ユウカは自信に満ち溢れたドヤ顔の回答を彼に出し、勇んで銃を構え直した。他メンバーもそれに黙って頷きを返す。

 そのあまりの切り替え具合と回答(解釈)内容、そして周囲の反応にミライが目を点にする。

 しかし脳内宇宙からの帰還時間はこれまでで最速最短である。彼は早くもキヴォトスに順応し(毒され)つつあった。

 

「……えっと、あの戦車を破壊していいのなら…僕に考えがある。皆んなの力を貸してほしい」

 

 対戦車装備を有さない地上部隊にとって、戦車は正に陸の王者(天敵)。生半可な攻撃は装甲の前に等しく弾かれ、問答無用で吹き飛ばされる。いくら歩兵戦車よりも装甲の薄い巡航戦車であっても、歩兵からすれば難敵であることに変わりない。

 碌な策も用意せず真正面から吶喊…というのはあまりにも無謀である。

 ミライの直接戦闘能力や指揮能力の高さは即席分隊の全員が認めている。助力を仰ぐ彼の言葉に、快く頷きを返した。彼女らの顔には信頼が滲む微笑が見て取れた。

 

 2ポンド砲と機銃の猛攻を受けて、遮蔽物ごと身体を揺さぶられながらも、ミライは四人それぞれに「考え」に関する現状確認を取っていく。

 

「ユウカちゃん! さっき話してくれた電磁障壁(バリアシールド)は、あとどれぐらい使える?」

「――“Q.E.D”をフルで起動できるのはあと一回分、あの戦車砲の直撃なら、一度の使用で二回までギリギリ耐えられます!」

 

「スズミちゃん! お手製閃光弾はいくつ残ってる?」

「――衝撃信管型が二本のみです!」

 

「チナツちゃん! 今使える医療(メディカル)キットは?」

「――即効性の回復剤が一人分残っています。又、弾薬に余裕があるので、適時援護に回れます」

 

「……よし。ハスミちゃん! 徹甲弾はあと何発持ってる?」

「――三発です」

「あの戦車で徹甲弾が通用する、有効な箇所は?」

「車体側面。…それも砲塔部であるなら、難なく貫けます」

 

 最後に、戦車撃破の要となるハスミの「理論上、装甲目標も貫通可能」な対物弾の残数と有効な射撃箇所を尋ねた。

 四人の返答を瞬時に整理し、即座にミライは指示を出す。

 

「…まずは相手の足を止めるよ。前からユウカちゃん、スズミちゃんの順で、斜め方向から対象へ一列縦隊で突撃。ユウカちゃんは電磁障壁を展開、無理はしないで。スズミちゃんはすぐ閃光弾を投擲できるように準備を。そのタイミングで、()()戦車の足を止める」

 

「「了解!」」

 

「ハスミちゃんは、こちらの陽動が始まり次第、戦車の側面を狙撃できるポイントまで移動。配置完了後は僕からの合図があるまで射撃は待機。チナツちゃんは、ハスミちゃんに随伴して、狙撃態勢に入る彼女の代わりに周辺の索敵と迎撃をお願い」

 

「承知しました」

「はい。任せてください」

 

「――これより、巡航戦車の撃破を試みる! 行動開始!!」

 

 ミライの号令で、即席分隊の少女達が一斉に動き出す。

 遮蔽物から飛び出し、巡航戦車の前にまず躍り出たのは正多角形平面状の青色電磁障壁群…“Q.E.D”を自身に覆ったユウカである。片手に自動小銃、もう片方に閃光弾を握ったスズミがそれにピタリと続く。

 ユウカの“Q.E.D(スキル)”の派手さも相まって、反射的に巡航戦車が車体を接近してくるユウカとスズミに向けて砲撃を加える。

 二人は囮としての役割を十分果たしていた。次は、ミライの番だった。

 

「―――“メテオール規約”第7条を適用し、現地判断で“メテオール”発動を緊急解禁。ブルーチェンバー、“キャプチャーキューブ”を使用する」

 

 ――ガシュンガシュン!

 

 ミライは“メテオール”使用の形式的な口頭通達をし、トリプルチェンバーを二度回転させ、接続シリンダを「レッド」から「ブルー」へと切り替える。これは非殺傷“メテオール”弾の一種、“キャプチャーキューブ”が選択されたことを意味する。

 同“メテオール”弾は、ドーム状光子防壁(バリア)の形成能力___ 障壁生成能力を有していた怪獣や星人の同能力メカニズムをGUYSが擬似再現・応用改造した___を有しており、一時的な閉鎖空間を作り出しての目標物の防御、反転して拘束にも使える傑作装備だ。その強度は、無双鉄神の全火力投射さえ容易に弾き返し、気体液体固体…あらゆる物質を微塵も通さない。

 

 ――メテオール規約第7条。「危機的状況ニ於イテ、使用ノ可否ヲ取ルコトガ不可能ナ場合ニノミ、特例トシテ此レヲ解禁ス」。

 “メテオール”発動許可(承認)権を持つのは、基本的に各方面支部実働部隊隊長以上の上層部役職者であるが、勿論、例外処置も複数ある。それの筆頭がメテオール規約第7条だ。

 敵性勢力への対応を指示する総本部や方面支部司令部と言った上層部との通信が何らかの形で途絶、若しくは、現地実働部隊の最高階級者が死傷し戦闘続行・部隊指揮が不可能となった場合、直接戦闘に携わっている隊員へ“メテオール”発動の段階的な許可権と使用権を委託するというもの。

 当時のCREW GUYSは、“メテオール”兵装の使用に__非地球産のオーバーテクノロジー故に__安全性等の観点から厳しい管理規約、使用制限を設けていた。

 

「―――効果範囲は自動補正、効果時間は10秒に手動設定」

 

 この世界(キヴォトス)でGUYS隊員としての資格、身分を持つのはミライのみ。

 恐れず拡大解釈して言い換えれば、彼が現在の、現地実働部隊の最高階級者及び最上級指揮官として……GUYS“メテオール”戦術装備群の自由裁量が許されているたった一人のクルーであるという事である。

 

「おい、あの青いバリア張ってる紫頭を早く吹っ飛ばせ!」

「狙いがつかネェンだわ! おい運転手、戦車動かすな!思い遣りの精神は何処だよ!?」

「操縦手だ!二度と間違えるなクソが!! そんなもん路地の弾薬ゴミ箱に殴り捨ててきたっての!!」

 

 前衛二人に意識が向いているクルセイダーの車体中央にミライが照準を合わせる。

 戦車に搭乗している少女達は、今回の戦闘が初陣なのだろう。時折前進後退を挟む、()()()()トーチカのような動きをしており、巡航戦車の機動力(長所)を活かすことなく完全に殺していた。「碌な隠蔽(カモフラージュ)もせずに棒立ちしてやがる装甲目標はタダのデカい的同然…いや、ソレ以下だ」とGUYS極東(日本)支部が誇る射撃の名手二人…リュウとジョージが口を揃えて言っていたことをミライは思い出し、小さな笑みが溢れた。

 この程度の動的かつ大型の目標ならば、ミライはGUYSの射撃訓練で腐るほど撃ってきた。狙い澄ました箇所に当てることなど、造作も無い。

 

「…スズミちゃん、閃光弾投擲!」

『――はい!!』

 

 ここでスズミに閃光弾投擲をインカム越しに指示する。

 視界の端で、ミライへの返事をすると共に、スズミが綺麗な投球フォームで閃光弾を投げるのが分かった。

 

(これが、僕の奥の手(切り札)だ…!)

 

 歪みないライナー性の放物線を描いて、閃光弾が目標であるクルセイダーに到達するのと同時に、一筋の青き光芒がトライガーショットの銃口より放たれた。

 

 戦車へ亜光速で迫った青の光線は、それの手前で大きく()()()

 すると、眩い閃光を発しながら、青く煌めく半透明状の角張りドーム型バリアが炸裂地点…巡航戦車を中心に現出。その内部にクルセイダーを閉じ込め、動きを封じた。

 

――――カッ!!

  

 間髪入れず、次にクルセイダーを襲ったのは、ドーム内へ既に入っていたスズミ自慢の閃光弾である。衝撃信管が戦車との接触を起こして作動。眼球への無遠慮な暴力が解き放たれた。それも、()()()()()()()()()()()()()

 

「「「ま、眩しいッ!?!?」」」

 

 キャプチャーキューブは、単なる光の防壁…或いは牢獄ではない。

 バリアを形成するシールドは、外部からの凡ゆる干渉をシャットアウトさせる性質と、内部で運動エネルギーを()()()()()させる性質を有しているのだ。

 

 要は何人たりとも逃れられないキャプチャーキューブ内で閃光弾の炸裂光が増幅及び拡散し続け、クルセイダーとその乗員らは真っ白な世界へ優しく包み込まれたのである。これを受けたのが地球人であったならば、網膜が焼け切れ失明を起こし再起不能となっていただろう。それほどの威力だった。

 

「――ハスミちゃん」

『お任せを…!』

 

 …そんな「懲役十秒」とも言える地獄のような時間(体験)を何とか乗り越えたスケバン搭乗員達を待っていたのは、“インペイルメント”から放たれた一発の徹甲(M2)弾の着弾(被弾)であった。

 

「――あ」

 

 徹甲弾は砲塔側面の装甲を易々と突き破り、中の乗員を巻き込みながら安置されていた砲弾等の火器類に接触し、誘爆。今度はクルセイダーの内部で轟音と共に閃光が迸ることとなった。

 

『敵巡航戦車…撃破を確認。見事なお手並みでした、ミライ先生』

 

 車体のあちこちから黒煙を噴き上げて沈黙する巡航戦車の真横に、連邦生徒会の装輪装甲車が停車する。車体上部の無人銃座だけは、だんまりを決め込むクルセイダーを静かに指向していた。

 

「ありがとう、リンちゃん。でも、ここにいる皆んなの力があってこそだったよ」

 

 シャーレ周辺の戦闘は、巡航戦車撃破により終息。

 即席分隊とミライはここでようやく一息つけた。

 

『各地の暴動の鎮圧も順調のようです。これで外郭地区の都市機能の麻痺も解消されていくことでしょう。……それでは先生、シャーレ部室棟の地下で合流しましょう』

 

「了解。なら、僕は先にシャーレの中に入ってるね。――皆んなは暫く地上の警戒をお願い。あと、降参した子達の拘束(捕縛)と怪我の応急手当ても頼めるかな」

 

 即席分隊としてここまでついて来てくれた四人にシャーレ周囲の警備と負傷者の処置を頼み、彼女たちが了承の意がこもった返事をくれたのを確認すると、ミライは笑顔を見せてから、シャーレ部室棟の地下へ続く階段を降りて行った。

 

 

 

「うーん……これが一体何なのか、全く分かりませんわね。これでは壊そうにも……――」

 

 最低限の光源のみが点灯している、無機質な近未来的デザインの通路の先に広がるのは、薄暗いシャーレの地下生活区画。その大広間(ホール)だ。

 そんなホールの中央で、ワカモは小首を傾げながら手に持った目新しい白のタブレット端末をぺちぺちと叩きつつ見つめていた。

 

 連邦生徒会所有物の尽くを破壊する…それが彼女の本来の目的であり、やり方でもあるが……何も毎度毎度ただひたすら、やたらめったらにするといった訳でもなく。破壊する対象とした代物がどれ程、連邦生徒会が損失した際の財産的・精神的ダメージが見込めるか、それらを鑑みてから実行に踏み切ることだってある。痛くも痒くもない低価値なモノを幾ら損失させようが、相手が嫌がらないのであれば無意味かつ徒労になってしまうからだ。

 

 それ故に、今回もそういった値踏みを、件のタブレット端末にしてみようと起動を試みたのだが……画面は暗転したまま、値踏みの対象にもなるスペック把握や、内部データの拝見も叶わず、「もしやこれは、破壊する必要もない廃棄予定の不良品なのでは?」という考えがワカモの頭の中で浮かび始めていた。

 

「――あら?」

 

 不意に、狐耳がピンと反応する。僅かな音を拾った。

 自身の背後…通路の方から、一人分の足音が近づいていることを彼女は察知したのだ。

 長銃を右手のみで握って、即座に音源の正面に体を振り向かせる。

 

「かなり早く辿り着かれたのですね…少しは――」

 

 ――おやりになりますね、と最後までワカモは言えなかった。

 銃口を向けた先には、先ほど何度か姿を見た大人が銃をホルスターにしまって…丸腰でそこに立っていた。

 

 ワカモの身体は金縛りにあったかのように固まる。パタン、と手に持っていたタブレットが床に落ちた。

 

「――あら、あららら…………」

 

 それは何故か。

 彼女は視たからだ。()()()からだ。

 己と真正面で物怖じせずに立つことができている大人の眼を。こちらに向けられた大人とは思えぬ、夢を追いかける子供(少年)の如きどこまでも真っ直ぐな眼差しを。

 そして、その奥底で、裏表の無い純粋さと慈しみのこもった猛々しく、それでいて穏やかに燃え続けている…理想をただ標榜するだけの凡人のそれではない、ある種の苦難を乗り越えて身につけたのだろう確かな芯の強さを秘めた意志()の炎まで、彼女は視えてしまった。

 

「…はじめまして、で良いのかな。僕はミライ、ヒビノ・ミライ。――キミが、ワカモちゃん?」

 

 こんな、悪意の「あ」の字も知らぬような、ここまで透き通った純真無垢な心を持つ人物と、ワカモは出逢ったことがなかった。

 

「……あ、あぁ…」

 

 どうすればそのように在れるのか?

 どうすればその在り方を保っていられるのか?

 

「し、し……」

 

「し?」

 

 故に惹かれた。

 故に思った。

 ただ、この方のことをもっと知りたい、お慕いしたい…そして許されるのならばその傍らに在りたい、と。

 

 要するに…“一目惚れ”したのだ。

 

「失礼いたしましたーーっ!!!」

 

 ただ、溢れ出した好意に歯止めが掛からず、碌な挨拶もミライに返せぬまま、その場から脱兎の如く逃げ出したしまったのだった。

 

「あ!待って……って……行っちゃった」

 

 バヒューン! と擬音が聞こえてきそうなスピードで、裏口に繋がる通路へと消えたワカモを追おうかとなったところで…

 

「お待たせしました、先生。……? 何かありましたか?」

 

「リンちゃん!」

 

 リンが彼女の退散とほぼ同じタイミングで大広間にやって来た。

 

「実は――」

 

 ミライは、ワカモと思われる生徒がいたことを話すべきか、僅かな時間躊躇したが…彼女がいたこと、先ほど外へと逃げたこと、危害は加えられなかったことを簡潔に説明し、彼女の最後あたりの挙動不審な言動については言及しなかった。

 

 それを聞いたリンは一瞬驚いたように眼を見開く反応を見せたが、すぐに普段の様子に戻った。ワカモに対する次善の策はもう用意しているらしく、本題に移るようである。

 

「――ここに、連邦生徒会長が残したモノが保管されています」

 

 リンが床に無造作に転がるタブレット端末を拾い上げ、サッと埃を払ってからミライにそれを差し出した。

 

「……幸い、傷一つなく無事なようですね。…ミライ先生、受け取ってください」

 

「この端末を…僕に?」

 

「はい。これが、連邦生徒会長が残したモノ。“シッテムの箱”です」

 

 白のタブレット端末改め、“シッテムの箱”をリンからミライは受け取る。

 一見すれば、外観上は何処の家電量販店でも並んでそうなごく普通のタブレットである。

 裏返してみたり、電力の供給されていない黒いままの画面を指でなぞったりもしてみるが、特に異常などは確認できない。リンに視線を返すと小さく頷いて説明を再開した。

 

「普通のタブレット型端末に見えますが、実は正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みのすべてが、一切…不明なのです」

 

 連邦生徒会長が残したモノでありながら、リンを含む連邦生徒会の人間が何一つ中身を把握できていない代物であると言うのか。

 正体不明の謎端末(“シッテムの箱”)を持つ彼の両手の動きが一瞬強張る。指先が力み、端末の画面中央左端から、ミシッ…と言う音を出してしまった。

 

 耳の良いリンは、その軋んだ音をしっかり拾っていた。ミライが変に警戒してしまったのだと察して表現を訂正する。

 

「……説明の仕方が悪かったですね。謝罪します。……一応、その“シッテムの箱”は連邦生徒会長が先生のために用意したモノであるので、先生へ危害を加えるような機構等は内在していないはずです。彼女は、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだ、と言っていました」

 

「リンちゃんがオフィスビルで話した、()()()()ってコレの…“シッテムの箱”のことだったんだね」

 

「はい。……私達では起動すら出来なかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」

 

 連邦生徒会長が自分(ミライ)宛てに用意していた物ならば、起動できる可能性は高い。起動を手助けするような仕組みだって残してくれているかもしれなかった。

 ただ…これでダメならば、渡す相手が扱えない状態の物が何の役に立つのだ、何故残したのだ、という話である。仮にそのようになった場合、忽ち連邦生徒会長は「引き継ぎも無しに全てぶん投げして失踪した虚言癖持ちの壮大なポンコツ」と言う烙印を押されてしまうことだろう。……その烙印を押す人物(プレイヤー)が誰かは預かり知らないが。

 

「……では、私はここまでです。ここから先…“シッテムの箱”に関しては、全てミライ先生にかかっています。……私は、邪魔にならないよう離れておきます」

 

「分かった。それじゃあ、やってみるね」

 

 だが幸運なことに、()()はならなかった。

 

 “シッテムの箱”の液晶画面が点灯し、空色の背景と「S」を思わせるロゴを中央に映し出したからだ。

 連邦生徒会長は壮大なポンコツではなかったのである。

 光の灯った画面をまじまじとミライが数分ほど見ていると、立ち上がりを終えたのか、音声式のパスワード入力を要求するポップアップが生じた。

 

「これの、パスワード……」

 

 彼がこの白箱を起動させたのは、今ので初めてである。

 認証パスワードなぞ知るはずも――

 

 ――脳裏に過ぎるのは、何処かで聴いた“合言葉(符号)”。

 それが何かに導かれるように、口から自然に紡がれていく。

 

 

「………我々は望む――。我々は覚えている――」

 

 

 接続パスワード承認の文字が画面に浮き出る。

 

【“シッテムの箱”へようこそ、ヒビノ・ミライ先生】

 

 その下にはやや遅れて、彼の接続(来訪)を歓待する社交辞令染みた文言が並ぶ。

 

【生体認証及び、認証書生成のため、MOS(メインオペレートシステム)“A.R.O.N.A”に変換します】

 

 更に画面へ出力されたOS稼働開始を報せるポップアップを見た途端、ミライの意識は“シッテムの箱”から突然発された眩い光の中へ急速に消えていく。

 

 

 

 ――光の先には、晴れ渡った青空教室と、そこで幸せそうに眠る…小さな蒼い少女がいた。

 

 

 





 あと
 がき

 どうも、初めてのウルトラマンはネクサス、少年時代のリアタイはマックス・メビウスの22歳児投稿者の逃げるレッドです。
 
 …………あ、赤バー…? まだ三、四話っすよ…?
 高評価・お気に入り・感想・誤字報告をくださっている読者の皆様、本当にありがとうございます。
 元々は思い付きとオリトラマンクロスssの息抜きとしてひっそり書き始めた本作でしたが…まさかここまで反応をいただけるとは思っておりませんでした。
 今後もどうかミライ先生の物語を、よろしくお願いします…!
 いただいた感想は投稿・更新した際にニヤニヤしながら読んで返信させてもらってます。ウルトラかんしゃあ〜!! 感想や一言評価を見ていると、同世代の方がなんと多いことか…!こんなに嬉しいことは無い…!!

 完全な余談ですが、本作の仮タイトルは【ウルティメイトセンセイ】だったりしました。ギャグ臭しかしないですね、ええ。

 ここまで書いてようやっと気づいたんですが、この世界線の奪還作戦パーティ、strikerとspecial枠…ちゃっかりミライ先生とリンちゃん搭乗の96式も参加してたので何気にフルパ状態でしたね。
 
 狐坂ワカモだあ〜!!(例のレオ登場BGM付)
 純愛と情熱の化身ワカモ姐さん、純粋天然星人のミライ先生とエンカウント。この人、知らん間に女の子堕とすタイプの“あくしつうちゅーじん”です。皆んなも気をつけようね、同性()でも脳焼かれるから。

 尚、このキヴォトスのミライ先生、()()()()()あります。この会話、あの会話はどちらの声で…と言う判断は読者の皆さんにお任せします。明るげな声で生徒とお話しして、いざって時は爽やかな声で生徒をときめかせてしまうのだ…クックックッ…!



※用語単語ピックアップ簡易解説コーナー(独自設定独自解釈共にもりもり)

◯宇宙世紀・一年戦争
 ネオフロンティアスペースの異母兄弟みたいな文明発展の仕方をした地球とそれを含む世界線の一つ。又、宇宙警備隊が観測はすれども介入は不可能であろう世界の地球とも言う。…簡潔に言えば、天パと赤い彗星がいるあの地球。
 宇宙移民を成功させ地球圏にその版図を広げつつあった地球連邦と、火星圏を根拠地とするジオン星人とが億単位の犠牲を払いながら(惑星内)戦争している。なんで宇宙警備隊は間に入れないんだろう(すっとぼけ)

◯巡航戦車 クルセイダー
 英国面の韋駄天戦車。
 バニラ、ピーチ、クランベリー、ローズヒップ、敵タンクにジェットストリームアタックをぶちかましますわよ!!

◯イカルガ・ジョージ
 GUYS JAPAN実働隊員の一人。元スペインリーグ所属のプロサッカー選手。“流星シュート”と__対怪獣・円盤航空戦でも通用する__類稀なる動体視力、空間認識能力を武器として同リーグ内にて頭角を現し、三年連続得点王として輝いていた次世代エースストライカーだった。しかし、「ウルトラマンのように、皆が憧れる“ヒーロー”になりたい」という夢とそこから生まれた性格、そして上記の才能が組み合わさって独り歩きしてしまったスタンドプレーを幾度も繰り返し、チームの勝利に貢献すれども周囲から理解も賞賛も得られず苦しんだ過去を持つ。
 サッカーでの負傷のリハビリのため日本に帰国していた矢先に、ディノゾール事変に遭遇。その際、ミライと交流を持ち、GUYSライセンス所有者であったこと、(ミライ)の馬鹿正直で暑苦しい(粘り強い)説得もあって最終的にGUYSへ正式入隊した。そこで仲間がいる尊さと、何かを皆んなで成すことの大切さを知った。
 入隊時期はミライの方が若干早いが、性格といった点からリュウに次ぐ、ミライにとって二人目の兄貴分的存在であった。……素行に難はあったものの、射撃と航空機の操縦センスがずば抜けて高く、リュウと双璧を為す非常に優秀な隊員。尚、メビウスの光の国帰還後は、GUYSを離れスペインリーグへ復帰したらしい。

 希少なギャグ・お笑い適正持ちの体育会系爽やかイケメンなので、財務室のアオイやゲヘナのマコト議長、セミナーのリオ会長との絡みを見てみたいし、晄輪大祭の球技種目に参加してはっちゃけちゃう姿は想像できる。やっぱりイカルガ・ジョージだ(テッペイ並感)
 因みに、入隊当時の年齢は20歳でリュウと同じ。若すぎる。

◯シッテムの箱
 原作『ブルーアーカイブ 』で、我々プレイヤー…先生がリンちゃんからチュートリアルで必ず貰うキーアイテム。いつも肌身離さず装備していることを強くお勧めする。
 タブレットにあるまじきチートとしか言えない数々の機能(?)を備えている。これがキヴォトス驚異のメカニズムちゃんですか。なあ、オマエ。オマエもメテオールだろ、メテオールなんだろオマエ…?置いてけ…青輝石置いてけェ!(某鬼島津)
 あとそれらを操る幼女もセットで入ってる。見てみてーあの子、青封筒いっぱい抱えてるよ。恐ろしいね、見てられないや。
 ……シッテムの箱を貰ってない読者先生とかいない…いないよね?

ヒカリ「なんだ……なんだこの、なんだこれ……?」
アーリートレギア「…………スーーーーーーッ」
エックス「え、なにキミ……そんなのまで出来るの? 怖……」
アキト「理解できぬ…!」

 ……頑張れば上の四人は何となくどんなもんか解析できるとこまで行けるんじゃなかろうか。
 

 もっと特撮×ブルアカss増えてくれ〜!!
 投稿者はシャーレのヘビクラ先生を誰か書いて供給してくれる日が来ると信じてます(他力本願寺)
 ゴメスは次々回にちゃんと出ますので、暫しお待ちを…!

 次回、【シッテムの白箱(アロナ)
 お楽しみに。

 

『あとがき』とはまた別で、詳細な登場怪獣・星人資料集(随時更新)を…

  • 作った方がいい
  • 『あとがき』の軽いやつだけでいい
  • ハッチャー!!
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