日々の未来の青春譚 -メビウスアーカイブ-   作:逃げるレッド五号 5式

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05.【シッテムの白箱(アロナ)

 

 

 

 何処までも続く青い空、揺蕩う白い雲。

 煌めく水平線と、波風打ち寄せる砂浜。

 小鳥のさえずり、セミの合唱。

 天井は無く、壁は取っ払われ、床は所々水浸しの…ひどく平和的でありながらひどく退廃的な青空教室(ブルークラス)

 

(……ここは、“シッテムの箱”が作っている空間…なんだろう)

 

 そこにミライは立っていた。

 シャーレ部室の地下生活区画で、“シッテムの箱”を起動し音声パスワードの認証をクリアしたら…いつの間にかこの場にいた。

 状況的に、いま自身がいる場所は、シッテムの箱()()であると彼は仮定した。

 

 何故ここまでミライは困惑、若しくは疑問のレベルで収まっているのか。それは、空間に“悪意”が充満しておらず、邪気の類いを感知できなかったから…と言うのもあるが、彼は何らかの異空間・超空間に居るという事態が今回が()()()()()()()からである。超深海、裏世界、怪獣墓場、四次元空間、試作(プロト)マケット怪獣の説明でも挙げた仮想電脳(サイバー)空間、次元湾曲空間(ウルトラゾーン)…自分の意思で赴いた場所、そして意思に反して巻き込まれた場所を足し合わせれば、異空間での滞在経験は豊富であると言えるほどだ。

 要は、こう言った事態に慣れていた。又、キヴォトスに訪れた直後のデジャヴもあってだったかもしれない。

 

(…五感の全てが生きてる)

 

 鼻腔をくすぐる潮の香りと、心地良いそよ風を感じた。

 

(――現実のそれと大差ない環境とそのランダムかつ膨大な変化を生成・維持するのに、どれだけの演算処理がされているんだろう…少なくとも、並のタブレットがやれる範疇は軽く超えてる。ここは只の擬似空間じゃない)

 

 廃墟といって差し支えない荒廃具合の教室や、その外に広がる海岸を見回しながら、この空間の考察をミライはしてみるが、彼は技術畑の出身ではない。同僚のブルー族、ヒカリに聞けば何か分かったりするのだろうか…と思うぐらいで思考を打ち止めた。

 

「くううぅぅ……くううぅぅ……」

 

(それに…小さな女の子が、寝てる)

 

 そんな異空間…風通しの良すぎる教室の真ん中に置かれた学習椅子の一つに座り、これまた懐かしい木製机に上半身を突っ伏して睡眠を堪能している白リボンの蒼い少女が一人。

 彼女とミライ以外に、この空間にいる存在は見当たらない。眠る少女はここの住民…電子生命体(“コンポイド”)であったりするのだろうか?

 

「むにゃ…カステラにはぁ……いちごミルクより……バナナミルクのほうがぁ……」

 

(それにしても、ホントに幸せそうだなぁ…)

 

 少女の心底穏やかな寝顔で、だらしの無い笑みを浮かべながら垂涎している。しかも時折、聞けば小腹が空くような寝言を呟きながら。

 

「うへへ…コッペパンにはぁ…コーヒーミルクを〜……」

 

「コッペパン…僕だったらメロンオレをお供にするかな」

 

 少女の寝言に自然とミライは独り言の感覚でそれに応じていた。彼女には聞こえていようがいなかろうが関係ない。

 少女が寝言とは思えない饒舌っぷりで甘味のお供について語るものだから、ついつい自分の好みも呟きたくなってしまったのだ。

 

「えへへへぇ…まだたぁくさんありますよぉ…?」

 

「まだあるんだ」

 

 ……だが、いつまでもこうしてはいられない。甘味のお供にする清涼飲料水の話の続きも大変興味深い、が…今は“シッテムの箱”を用いて、サンクトゥムタワーの管理権限の回復に取り掛からねばならないことをミライは思い出す。

 

「――そろそろ話を聞いてみないとな…」

 

 この空間でアクションを起こせる対象は、現状考え得る限りだと目の前の蒼い少女だけ。

 幸せそうな夢を見ているだろう彼女を起こすのに申し訳なさを強く感じたが、情報が全く無いという状態が続くのはただの時間の浪費になるのでよろしくない。

 背に腹は代えられなかった。

 

 ミライは心を鬼にして、少女を起こしにかかる。

 

 ……その柔らかな頬を指で突っつくという形で。

 これが彼の考えた中で、小さな少女に対し最も厳しい起床の促し方であった。まだ見ぬ心の中の()()()()()()()に「そーゆーとこだよ先生?」とジト目で指摘された気がしないでもなかった。

 

「ごめんね…ちょっと起きてくれないかい…?」ツンツン

 

「うみゅ…まだですよぉ……しっかり噛まないと……」

 

「おーい、お願いだから…?」プニプニ

 

「でもぉ……うぅぅん……んうぅぅ……」

 

 ミライの声がようやく届いたのか、指で中々開かない目を擦りながらむくりと顔を上げる少女。

 

「むにゃあ……んもう……ありゃ?」

 

 徐々に開かれていく少女の瞳。

 自然とそれは横に立つミライへ向けられる。

 彼女はこの場にミライがいることをここでようやく認識した。

 

「ありゃ、ありゃりゃ……え?あれ?あれれ? うあああ!?も、もうこんな時間!?」

 

 すると、ガタタン! と椅子を跳ね飛ばしながら彼女がこちらを捉えながら立ち上がった。その目を大きく見開かれており、顔は赤くなっている。

 わたわたオロオロと一人、少女は驚き慌てる。

 

「せ、先生…? この空間に入ってきたっていうことは、ま、ま、まさかミライ先生……!?」

 

「そうだよ。僕がヒビノ・ミライだ。君のお名前は?」

 

 少女はミライを既に知っているようであった。

 「まさかの人物」は確かに自分であるとミライは優しい笑みを浮かべながら頷き、彼女の背丈…目線が合うように彼は片膝をついて尋ねた。

 

「うあ…わああ……落ち着いて、落ち着いて……。――えっと、まずは、そう…そうです、自己紹介から!」

 

 二、三度の深呼吸を行なった後、少女がミライに真っ直ぐ気をつけの直立不動の姿勢で向き直る。

 

「私はアロナ!この“シッテムの箱”に常駐している()()()()()()()であり、()()()O()S()、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」

 

 ここでミライの疑問…この空間が何であるかの予想が正解であったことがしれっと判明。

 それと同時に、彼女…アロナが何者であるかも彼女自身によって明かされた。先ほどの可愛らしい寝言を溢していた同じ口から出るとは思えない単語群が機械的に列挙された。

 自我獲得に至り特異点(シンギュラリティ)に到達した人工知能(AI)のそれに匹敵する、高度知能を持った電子的存在にして、この仮想空間の一から十…その全てを掌握・演算するシステムそのもの、そしてそれを操る統括者…それがアロナという蒼のセーラーを纏った幼い少女であった。

 

「……この空間も、全部キミが…アロナちゃんが作り出したのかい?」

 

「えへへへ……はい!当空間は、私が無意識下で随時自動生成・更新している仮想母体環境(マザーボード)であり主要ファームウェアです!!そのため私が居眠りしてても…休眠(スリープ)状態(モード)でも、ブッツンすることはありません!!」

 

「それは……とっても優秀な、敏腕秘書さんなんだね」

 

 これ、科学技術局の面々に話したら全員ひっくり返るんじゃなかろうか…とミライは思った。

 自身の存在と、生活環境を一挙に非物質空間に作り上げそれを維持しているなど、宇宙を見渡してみても…実現できる種族は片手で数えられるほどにしか満たないだろう。

 アロナと“シッテムの箱”を用意できた連邦生徒会長…彼女は一体何者なのだろうか。

 

「えっへん!! もっと、もっと褒めてくれてもいいんですよぉ〜?」

 

 にへらとした笑顔でくねくねと体を捩るアロナ。

 

 救いなのは、アロナが身体年齢相応の無邪気な性格と至極真っ当な善性の思考を有していることだ。

 ……仮にアロナと同等以上のスペックを持つ電子生命体や人工知能が暴走などしてしまえば、宇宙進出過渡期の星系間文明レベルであっても一週間も経ずに灰燼へ帰せる。“人工天球(ビートスター)”や、“巨大人造頭脳(ギルバリス)”がそういったものの最たる例と言えよう。

 

「――ん?あれ……うああ!?教室隅っこの床に新たな穴が空いちゃってます!昨日までは無かったのに!?………ミライ先生、もしかして…“シッテムの箱”の外層部の一点に極端な圧力(プッシュ)を掛けたりしましたか?」

 

「あ……たしか、指に力を入れすぎちゃって………ごめんなさい」

 

「…アロナちゃんは心が青い空のように広いので、許しちゃいます。外層部には自動物理修復を掛けて直すので、次からは気をつけてくださいね?」

 

G.I.G(了解)…」

 

 ()()()()発展していたメビウス駐在時の地球でさえ、意図せぬ人的・機械的エラーや、敵性星人をはじめとした第三者による悪意を伴った電子的介入(ハッキング)を起因とする“原子力兵器(核爆弾)”などの戦略超兵器群の誤起動と誤射を人類(彼ら)は極端に恐れていた。これを自己の意識で平然とやってのけてしまう悪意を持った存在がいるとなれば……大変危険である。

 

 けれども、このようにぷりぷり怒っているアロナを見ていると、現状その点を気にする必要が無いのだとミライは思い至る。いつの間にか肩に勝手に入っていた力が抜けていくのが分かった。

 

「…でも、こうしてやっと会うことが出来ました! 私はここで先生を、ずっと、ずーっと……ずぅーっと、待ってました!!」

 

 腕をいっぱいに広げるジェスチャー付きで、嬉しさをこれでもかと振り撒きながら、アロナは満面の笑顔でミライの来訪をはしゃぎ喜ぶ。

 

「ずっと、一人で……僕を待ってくれていたの?」

 

 ……その「()()()」が子供の言う数日数週間の「(むかし)」とイコールでは無いようにミライは聞こえた。彼女の喜色の中に、僅かな…ほんの僅かな、切ない()()の感情が混じっているように感じたからだ。

 その安堵が何に対してのモノであるかは知り得ない…が、何か大切なピースを丸々一つ、忘れてしまっている気がしてならないのだ。

 彼女の笑顔は初めて見る筈なのに。とても大切()()()んだと感じている。

 

「……待たせてしまって、ごめんね」

 

 自然とミライはアロナの頭を撫でていた。蒼色の少女は、気持ち良さそうに目を閉じて頭をぐいぐいと彼の手の平に押し当ててくる。

 

「ふへ、ふへへぇ…! だいじょーぶです、先生!何も四六時中ずっと…と言うわけではなかったので。私だってお腹が空いたり、遊びたくなったり、眠くなったりもするんですから!」

 

 むふんと、ささやかな胸を張ってアロナはそう告げる。

 

「…カステラには、いちごミルクよりバナナミルク、なんだよね?」

 

「へああっ!? な、何故ミライ先生がそれを!?」

 

 アロナが後ろへ小さく跳ね、間合いを取って構えた。

 なんだろう…“ウルトラ兄弟”の次男、マン兄さんの構えにすごく似ている。不用意に近づけばこの体格差であっても背負い投げをかまされそうだ。

 

「あははは…ちょっと小耳に挟んだだけだよ。――これからよろしくね、アロナちゃん」

 

「…! はい!こちらこそ、よろしくお願いしますね、先生! 実は、まだ身体のバージョンが低い状態でして、特に声帯周りの調整が必要なのですが……実務に支障はありませんので、これから様々な面で先生をサポートしていきます!」

 

「今日からキヴォトスで過ごしていくことになるから…困った時は頼りにさせてもらうね」

 

「ふふふ!アロナちゃんにお任せください!!」

 

 ばちこーんサムズアップをアロナはミライへ元気に返した。

 

「――では、早速ですが形式的な生体認証を行ないます!! ……うぅ、少し恥ずかしいですが、手続きですから仕方ないですよね。先生、もう少し私の方に寄ってくれませんか?」

 

 アロナの頼みにミライは「分かった」と応え、片膝立ちのまま半歩、彼女の前へ近づいた。距離は凡そ大人の腕一本分ほど。至近距離、である。

 それを彼女は確認すると、右手の人差し指をミライの前にスッと向けた。

 

「さあ、この私の指に、先生の指を合わせてください」

 

 促されるまま、ミライは戸惑うこともなく自身の右人差し指をアロナの指へとおっつける。

 …GUYSが非番だったある日の休日、リュウに連れていかれて観せてもらった()()()()のポスターがふと頭を過った。

 

「……まるで指切りして約束するみたいでしょう?」

 

「そうだね。指切りげんまん、か……懐かしいなぁ」

 

「実はこれで生体情報…指紋を確認するんです」

 

「へぇ…これでもう登録はできたってこと?」

 

「あ、いえ、まだですよ? 指に残った指紋を目視で確認するんです。安心してください、すぐに終わります!こう見えても、目は良いので!―――どれどれ…?」

 

 早速ミライの指紋を登録してくれているらしい。

 …随分と古典的な、悪く言うといい加減な確認の仕方だなと思わなくも無い。それでも、ミライはまず疑ってかかるスタンスではないので、手抜きだとか不真面目だとかそう言ったことは思わなければ指摘もしない。「一生懸命やってるんだな〜」ぐらいである。

 アロナが目をジッと細めて指紋を読み取っている様は、見掛けの年相応に可愛らしかったと記しておこう。

 

 尚、ミライは知る由も無いが、この時のアロナは「よく見えませんが……まあ、これでいいですかね?」といった具合で、なあなあに済ませていた。リュウがこの場に居合わせ彼女の内心を把握していたら恐らく“バカヤロー”案件である。

 

「……はいっ!確認終わりました!」

 

「ありがとう。――アロナちゃん、生体認証の登録が終わったってことは、この“シッテムの箱”の機能はもう使えるってことでいいんだよね」

 

「勿論ですよぉ! 早速お仕事ですか!腕がなります!! 私は何をすればよろしいですか!!」

 

「えっとね…実は―――」

 

 ぶんぶん肩を回して準備万端とアピールしているアロナに、ミライはサンクトゥムタワーの管理者たる連邦生徒会長が行方不明となってしまい、タワーの制御能力が喪失したことによってキヴォトスの行政が停滞中であり、これを速やかに復旧させなければ混乱は拡大してしまう旨を分かりやすく簡潔に説明した。

 それを聞いてふむふむとアロナが顎に手を当ててコクンと頷いた。こちらの事情を理解してくれたようである。

 

「―――それでタワーの制御を…」

 

「アロナちゃんは、彼女のこと…連邦生徒会長のことは何か知らない?」

 

 ここに来るまででミライが何度も聞いた肩書き。

 リン達はある程度面識があったりするようだが、それを尋ねてみても、輪郭のぼんやりとした回答しか貰えなかった。皆も知っている筈なのに、いざ聞かれれば明確な答えを返せない…なんとも不思議であった。

 

「私はキヴォトスの情報の多くを知ってはいますが…連邦生徒会長についてはほとんど知りません。彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかも……うぅ、お役に立てずすみません…」

 

 無意識下でこれほどの生活環境を組み立てているちびっこ秘書さんなら、彼女関連でそれ相応の記録データを持っているかもしれないと思っての質問であったのだが、彼女を構成する情報に大きな欠如があるとのことで、詳細を知ることは出来なかった。

 力になれなかったからとうるうる目に涙を溜めているアロナにミライは頭を撫でつつ、労いの言葉を掛けた。

 

「…さ、サンクトゥムタワーの件でしたら、私の方で何とかできそうです!」

 

「本当かい!? …じゃあ、お願いしてもいいかな?」

 

「お任せを! それでは、サンクトゥムタワーのアクセス権の修復を行ないます。少々お待ちください!」

 

 

 

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「――サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了…。先生、サンクトゥムタワーの制御権を回収できました。今、同タワーは、私アロナの完全な統制下にあります」

 

「お疲れ様、アロナちゃん」

 

「ありがとうございます! ――今のキヴォトスは、先生の支配下にあるのと同然です!」

 

 一個人が国家の凡ゆる主導権を握っている…「事実上の独裁が可能」であるのと同義の公言を、キラキラとした顔でそうさらっとアロナはウキウキ気味にしたが、当のミライは一瞬その言葉に寒気を感じた。

 

「先生がこの場で口頭承認をしてくだされば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できます。……でも…大丈夫ですか?」

 

「うん?何がだい?」

 

「連邦生徒会に…制御権を渡しても……」

 

 なにやらアロナは連邦生徒会自体…というよりも、連邦生徒会という()()にタワーの制御権を移譲するという行為に思うことがあるようだ。

 

 おかしい。

 “シッテムの箱”は連邦生徒会の所有物であり、それに伴ってアロナも所属は連邦生徒会になるはず。

 

(アロナちゃんは、連邦生徒会を信用していない…? だけど、何故……………いや、今はそれでも…)

 

 所属元へ忌避感…疑念を持つような彼女の発言にミライは引っ掛かったが、どの道、サンクトゥムタワーの機能不全が続けば都市一つが将来的に壊滅する可能性がある以上、ここで「それもそうだね」とアロナに同調してサンクトゥムタワーの制御権譲渡を中止してしまうという選択は取れなかったし、そうする尤もらしい理由も見出せなかった。

 

「そうしないと、大勢の人が困ってしまうんだ。……大丈夫、もしアロナちゃんが懸念しているようなことがこの先起こったら…その時は僕が大人としての“責任”を負う。だから――」

 

 ――だから、きっと…彼が選ばれた(呼ばれた)のだろう。

 

「――僕は…ヒビノ・ミライは、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会へ移管することを、ここに承認する」

 

「…分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移譲します!」

 

「……アロナちゃん、あともう一つ頼みたいことがあるんだけど――」

 

 

 

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連邦捜査部(シャーレ)部室棟

 地下生活区画 大広間(ホール)

 

 

 

「――……はい。分かりました」

 

 “シッテムの箱”により電力供給停止が遠隔解除され、照明設備が全て稼働を開始したことで、光が灯った地下区画。

 

「先生、こちらでサンクトゥムタワー制御権の確保が確認できました。これからは連邦生徒会長がいた頃と同じように行政管理を続けられますね」

 

 そこでリンが区画大広間のカウンターに置かれていた固定電話で、サンクトゥムタワー側に待機していた部下の連絡役行政官からの報告を受け取っていた。

 

「よかった…」

 

「お疲れ様でした、ミライ先生。キヴォトスの混乱を防いでくださったことに、連邦生徒会を代表して深く感謝致します…」

 

 “シッテムの箱”内での制御権移譲がアロナによって行われ、そこで少々()()を挟んでから、アロナに見送られつつミライの意識は現実世界…地下区画へ無事帰還を果たしていた。

 

「そんなに畏まらなくていいよ、リンちゃん。困った時はお互い様…なんだから」

 

 尚、“シッテムの箱”の擬似空間と現実世界の間には時間の()()があったようで、アロナと体感一時間のやりとりを経て戻ってきたと思っていたミライは、リンに「音声パスワードの認証から凡そ数分程度」しか経っていないと言われ、狐につままれたような顔をしてしまった。

 

「…ここを攻撃した不良達と停学中の生徒達については、これからヴァルキューレの交通局、警備局、刑事局、公安局と防衛室の()()()()が合同で追跡、これを捕縛し、矯正局へ再連行します」

 

「うん、そこはリンちゃん達の裁量に任せるよ」

 

「そのようにさせていただきます。―――さて、それでは“シッテムの箱”の受け渡しは終わりましたし、私の役目は終わったようですね」

 

 お疲れ様…そう言おうとしたミライに、リンが何かを伝え忘れていたと小さく挙手をした。

 

「…あともう一つありました。先生に連邦捜査部シャーレの部室棟をご紹介いたします。ついてきてください」

 

 これからミライの居場所となる拠点。

 それの案内をリンにしてもらうこととなった。

 

 

 

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連邦捜査部(シャーレ)部室棟

 本棟地上区画

 

 

 

「――ここがシャーレのメインロビーとなります。長い間、空っぽでしたけれど…ようやく主人を迎えることになりましたね」

 

 リンの先導を受けながら地上区画へと到着したミライ。

 いくつかの階段と通路、そしてドアを抜けた先には、出入り口に【空室 近々始業予定】と太ペンで手書きの貼り紙がテープで貼り付けられた、爽やかな陽光と青空を映す全面ガラス張りの綺麗なロビーがあった。

 そのロビーを抜けて、左右スライド式扉の前にミライは案内された。スライドドアの片方をリンが開け、「どうぞ」と彼に入室を促した。

 

「ここは?」

 

 部屋の中へ入ると、連結され一つの島になっている複数のオフィスデスクと、そこや床、棚に積まれた大量の段ボールと書類が目に入った。

 

「この部屋がシャーレの部室…先生の仕事場です」

 

「僕はこれから何をすれば?」

 

 直近かつ重大な問題であった、外郭地区暴動の鎮圧とサンクトゥムタワーの正常化は…やることはやり終えている。

 光の国で警備隊教官をやっていたミライ(メビウス)であるが、それは青少年の教育者と言うよりも()()の先任伍長に近い立場だった。

 地球・日本式の教育のようなことをしてみようにも、彼にそのノウハウは無い。しかも、リン曰くこのキヴォトスでは「教員」は絶滅しているとのことで、その事実はミライを大いに驚かせた。

 聞けば授業は教育用のBD(ブルーレイ)で省力化されており、授業時間中教室内に常在する()()はと言えば生徒の居眠り等の内職を注意する「監督官」相当の職員ぐらいだと言う。

 

 大人としての“役目”は分かっている。

 だが、そんな()()()()()()()学園都市で、「先生」として何をすればいい?

 

 ミライの疑問も分からなくはなかった。

 

「……シャーレは、権限だけはありますが、これといった目標が無い組織であるので、特に何かやらなきゃいけない……という強制力は存在しません」

 

「捜査部…って名前の割には…」

 

 超法規的組織としての権力こそあるが、それに反比例するかのようにその運営体制は()()と言える。

 

「面白いですよね。捜査部と呼称されてはいますが、そういった部分に関しては、連邦生徒会長は特に触れてませんでした。つまり、先生がやりたいと思ったことを何でもやって良い……ということですね」

 

「……一般的な規則(法律)、常識、道徳に則った範囲内で、だよね?」

 

 リンは「ええ。その通りです」と苦笑しながら答えた。

 これを額面通りに受け取ってしまうほどミライは鈍感ではない。大人としての自身の立場もしっかり弁えていた。

 ……ミライは、凡そ()()()()()()、犯罪者を出さなかった種族…ウルトラ族出身である。それに加えて、同種族が結成した宇宙の秩序と平和を守る治安維持機構の隊員であり指導教官の一員だ。

 権力の濫用に走ることは有り得ない。

 

「……本人に聞いてみたいことが幾つもありますが、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま。私たちは彼女の捜索に全力を尽くしているため、キヴォトス各地で発生する問題に対応できるほどの余力を有していません」

 

(………!!)

 

 そうか、分かったぞ。何故ああまで疑問に思って悩んでいたのだろう。

 やれること…否、やらねばならぬことは沢山あるじゃないか。

 

 リンによって連邦生徒会の現状が語られ始めた段階で、ミライは答えに辿り着いた。彼女が言わんとしていることを悟った。

 …連邦生徒会がリソースを割けない問題をシャーレが代わりに対応し解決する。

 

「――今も連邦生徒会に寄せられているあらゆる苦情や陳情……支援物資融通の嘆願、自治区の環境改善、落第生への特別処置、部活動の支援要請などなど…」

 

 単純明快である。要は「慈善事業(人助け)」だ。

 ()()()()()()()()()()を――メビウスとして宇宙警備隊でこなしてきた事を、またキヴォトスで同じように、ミライとしてやれば良いのだ。

 違うのは実施する活動の規模や内容の危険性ぐらいである。

 

 自分がキヴォトスで進むべき道が見えた気がしたミライは、自然と晴れやかな顔になっていた。

 

「その辺りに関する書類は、先生の机の上に沢山置いておきました。気が向いたらお読みください」

 

 親切(?)なことに、リンは予めシャーレ始動のための準備をしておいてくれていたらしい。

 

「すべては、先生の自由…ですので。――それではごゆっくり。必要な時には、またこちらからご連絡致します」

 

 ――そう言って部室から退出しようとしたリンがドアに手を掛けようとしたところで立ち止まった。

 耳を傾けてみると、携帯(スマホ)からコール音が鳴っているようだ。

 リンは制服ズボンのポケットからスマホを取り出し、呼び出し相手の名前が映っている画面を一瞥して__意外な相手だったのか数瞬だけ目を見開いていた__から、スライドさせて通話に応答した。それと同時に画面から通話相手がホログラムによって出力される。

 

「七神です。どうしました、カヤ室長? 不良生徒追撃作戦に精鋭の“F小隊”を出してくれたことには礼を述べたじゃないですか」

『――――――!――――っ、――――!』

 

 不知火(シラヌイ)カヤ防衛室長だ。

 彼女についてはミライも知っている。シャーレ部室奪還作戦時、D.U.外郭地区へ向かうための装輪装甲車を快く手配してくれた役員生徒だ。

 ここからでは二人の会話内容は完全には聞き取れない。…彼女がリンに連絡してきたとなると、内容はキヴォトスの安全保障関連とその報告あたりだろうか。

 ……だがそれにしては、身振り手振りがやけに多い気がする。

 

「それではない? 外郭地区境界部の区道9号線で異常事態?()()()()が出現した? 野生動物の類いなら、麻酔弾を使用し捕獲してください。不可能なら射殺による駆除で構いません。害獣駆除のマニュアル通りで――」

『――――――っ!――――――!!』

「大きすぎる…? ヴァルキューレ警官隊が既に擲弾(グレネード)を使用したが()()()()? 広域封鎖と避難警報の発令準備が必要って……落ち着いてカヤ、本当にそこまで必要なの?」

「――――っ!?――!!」

「待って、対象が()()巨大化した?全高50m近くに? 詳細を教えて頂戴」

 

 “巨大生物”…その言葉に、ミライはひどく嫌な予感を覚えた。

 

『―――リンちゃん先輩、交通室からも多分ソレ絡みで報告〜』

「モモカも?」

 

 割り込むように出力されるホログラムが一人分増えた。

 こちらは顔だけ知っている。由良木(ユラキ)モモカ交通室長。「明太子チップス」の子だ。

 

『外郭地区の9号線直下に敷設してた、各種インフラ管路が今さっき全部断絶したんだよね。地中に併設されてた対圧センサーの記録見た感じだと、その巨大生物…?ってやつに上から押し潰されたっぽいよ? ……おかげで、外郭地区南部に住む人達は復旧するまでの間、暫くはプレハブ生活かもね〜』

「……取り敢えず、カヤは私の端末に現場の映像、若しくは画像をすぐ転送・共有して。モモカの方は――」

 

 新たに舞い込んできてしまった凶報へリンが対応を指示しようとしたところで、ヴァルキューレ緊急車輌のサイレンが複数聞こえた。

 

 

 

 ―――ドォオオオオオン!!!!

 

 

 

 そして凄まじい轟音。

 外郭地区中枢部市街地より離れた土地から聞こえたものだった。聞き慣れた戦車砲やロケット弾の類いよりも、遥かに重々しいものである。まるで、何かが()()()かのような……

 

 

 

「――高層ビルが倒壊…した?」

 

 

 

 リンはそう呟くことしか出来なかった。

 それはシャーレ部室の窓から良く視えた。青く透き通っているはずの空に、つい先ほどまで陽光を煌めかせる数十階建てだろうビルだったモノから、巨大な黒煙と粉塵が途切れなく昇り漂っている。眼前に広がる真っ青な縁なしのキャンバスが汚されていく。

 

 

 

「アレは……!!」

 

 

 

 どうしてここにと、ミライは驚愕する。

 この世界(キヴォトス)には存在し得ないハズの()()……その真っ黒な巨影が、そびえ立つ銀色の摩天楼と昇り続ける黒煙の中から垣間見えたからだ。

 

「カヤが言っていたのは、アレですか…。まさかこんなことが……」

 

 まだ接続中の二人のホログラムは…特にカヤの慌てふためきの様子は顕著になっていた。

 呆然とするリンと、険しい顔をしているミライの視線の先…そこには―――

 

 

 

「―――怪獣……!!」

 

 

 

 ―――空想の産物(かいじゅう)が箱庭の大地を堂々と踏み締めていた。

 

 

 





 あと
 がき

 どうも、アイリの可愛さにようやく気づいた投稿者の逃げるレッドです。

 ここのアロナァ!は甘え上手で褒められ上手です。何かドジしちゃって泣いてもナデナデして許してくれる優しいミライ先生が起動してくれてよかったね。ジープ師匠かオオトリ師範だったらこうはいかないぞ。
 おうおうアロプラシスターズちゃんよぉ、投稿者にもっと紫封筒くださりやがれです。

 キヴォトスでも巨大存在が暴れて大型施設とかバンバン吹っ飛ばしたら、普通に大規模災害扱いだと思うのよね……D.U.シラトリ区の復興作業イベント参加した身としては。

 第二回アンケートに投票してくださった読者の皆様、ありがとうございます。
 これに取り敢えず一言………………同世代いっぱいる…すげ。
 感想や一言評価で拝見しましたが、「世代直撃だった」系のコメントが多々あり、こういった方が本作を見つけて読んでくださってるんだなぁと嬉しくなりました。TDG世代の先輩方も結構多かったですね。安心してください、このキヴォトスにはTDG要素も詰め込んでいきますので…!
 これが魂の絆ってやつか…あったけえな…
 

※用語単語ピックアップ簡易解説コーナー(独自設定独自解釈共にもりもり)
 
◯超空間・異空間での激闘の記憶
 生還してるっていう事実だけでも強いのに、色んなとこで戦ったことあるよはダメなんよ。それに経験あってもこんなタイプのハプニング前にして「どうにかしないと(現状の打破)」が先行して、全く何もせずに焦るだけってことにならないのはどうかしてると思う。気にするとこそこじゃないって絶対!
 メンタル鋼か? …鋼だったわ。
 Q.なんで相手のホームグラウンド的な場所で初見ながらも善戦して最終的に勝利掴んでるんです?孤立無援で、心身両方に少なくないデバフも付いていたのですよ?(最たる例としてTV後期ヤプール編を指差しながら困惑するカヤの図)
 A.仲間たちとの“俺達(不朽)の絆”があるので、何度でも起き上がって、立ち上がって頑張れるから。

◯コンポイド
 円谷巨大特撮ヒーロー作品『電光超人グリッドマン』の舞台の一つ、“コンピューターワールド”の原住民であり、人間と大差ない姿形と知能を有する人型電子種族。又、それと似た種族を指す名称。
 身体強度は、原住地(ワールド)のデータの脆弱性とハードの耐久性と密接に紐付いているので、総合値はやや地球人類を上回っていると考えられる。キヴォトス人…? そこと比べちゃダメでしょ…
 類似種族に“レプリコンポイド”なるものが存在する。又、二種族ともに、“ヒト”に成れる可能性を秘めていたりする。
 グリッドマンとSSSS.シリーズは名作なので、皆んなも観よう。リッカもユウカもあしふといな!!

◯ミライの好物(甘味)
 メロンパンが結構お気に入りらしい。尚、地球に駐在隊員として訪れてから初めてメロンパンの名前を耳にした時は、「メロンが丸々中に入っているパン」だと思っていた。ど天然である。

 …地球の食べ物なら余程のゲテモノじゃなければ、どれも美味しそうに食べてたので、給食部のフウカと美食研の鯛焼き(ショーバイハンジョー)ことハルナとは絶対会わせます。

◯トリニティのキャスパリーグ
 一体どこの放課後スイーツ部の卑しキャットなんだ…
 くそ…早くミライ先生を、カズサとキキョウとアキラに会わせてェ……!! ミライせんせ…メビウス自身ツシマヤマネコ(モチーフデザイン)だから仲良くなれるよ。多分。マーオ! マーオ!!

 ここで暴露しますが投稿者は猫派です。虎縞柄と白黒が好きです。バンドガチャは40連で惨敗…撤退しました。

◯マン兄さん
 初代ウルトラマン。大胸筋の神様。めちゃんこ強い。

◯「共に在れる時間」の大切さ
 誰かに置いていかれる…先に違う場所へと旅立たれる辛さ…苦悩を、彼は痛いほど良く知っている。
 大切な想い出を絶対忘れない彼が、何を忘却してしまったのだろうか。

◯特徴的なポスターの映画
 言わずと知れた某アメリカの名作SF映画。少年がチャリンコで月明かりに照らされた空を飛んでしまうあの作品である。
 因みに、この作品の劇中に登場する宇宙人の暫定呼称であり、タイトルにもなっている“E.T.”とは、「地球外生命体(Extra Terrestrial)」の略。

 …余談となるが、投稿者は内容うろ覚えだったので、最近見直してみたらE.T.の顔が全然幼い時の記憶と違ってぶったまげた。記憶の中では両手の生えた茶色い“光線(レーザー)級”だったのに…どうして…?


 さて、次はようやくゴメス進撃回。
 感想欄ではゴメスはこんな登場か?こやつが出るのか?などなど、皆さん考えてくださっていて感謝(ニヤニヤ)が止まりません。
 次回までに考察ぶち当てた方にはシロコ専用の愛用品、ミサイルドローン[スペシウム弾頭弾]を二つもプレゼントしちゃいます()

 次回、【空想(怪獣)の産声】
 お楽しみに。

 

『あとがき』とはまた別で、詳細な登場怪獣・星人資料集(随時更新)を…

  • 作った方がいい
  • 『あとがき』の軽いやつだけでいい
  • ハッチャー!!
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