日々の未来の青春譚 -メビウスアーカイブ-   作:逃げるレッド五号 5式

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古代禍威獣 ゴメス


登場


 


06.【空想(怪獣)の産声】

 

 

 

 ―――時は巨大生物(カイジュウ)出現より少し前…シャーレ部室奪還作戦終了が連邦生徒会により公式宣言された直後に遡る。

 

 

 

D.U.外郭地区

 市街地外縁部

  D.U.区道9号線

 

 

 

『――こ、こちらは…ヴァルキューレD.U.外郭支部、交通局です……み、皆様の献身的ご協力もあり、9号線上にて発生した暴動は沈静化致しました。本当に、本当に…ありがとうございました……』

 

 外郭地区の外れ、片側四車線の幹線道路。解消しない渋滞に苛立った暴徒集団とヴァルキューレの交通局警官隊が銃撃戦を繰り広げていた場所である。

 そこでは、制服がボロボロなヴァルキューレ交通局員が予備の携帯スピーカーを持って、ぜぇぜぇ呼吸しながらアナウンスしていた。

 

『えー……又、外郭地区中枢で行われておりました、連邦生徒会主導の鎮圧活動が完了し、事後処理の段階に移ったとの報告もあり…これによって9号線の交通規制は終了となります。ご不便をお掛けしました……只今よりバリケードを撤去し全開放、通行の解禁を――』

 

 そう、座席のクッションや空の弾倉を投げつけられていたあの警官の子である。

 元々内気な性格だったのかもしれない。その声は若干涙声気味で、口から出ているアナウンスは満身創痍手前だった。血気盛んな様に聞こえた、あの「一斉検挙」の号令も…堪忍袋の緒が切れた末の、彼女が出せ得る限りで最大の怒声をぶちまけたものだと思われる。

 

「――思ったより早かったな…」

「ああ。一応元宮(モトミヤ)書記に連絡しておこう。これなら遅れも軽微と報告し直すだけで済むだろう」

 

 暴動に加わらず車内で__SNS(モモトーク)などで暇を潰しながら__大人しく待機していた人々は、待ち望んでいた道路の全面通行再開の報を素直に喜んだ。

 それは古代生物のミイラを輸送中の、10tトラックに乗る万魔殿の役員生徒二人も同様であった。

 

『皆様から見て左側…第一車線から順にバリケードをこれから撤去していきます! 誘導員の指示に従って発進・走行してください!!』

 

 万魔殿のトラックは第二車線の中団。誘導を受けるのはもう暫くしてから、だろう。

 

「…………なんか揺れてないか? このトラック」

「そりゃあエンジン掛けてるし…何せ前議長が新車導入を渋って格安で購入した十数年モノの中古車だ、あちこちガタでも来てるんだろう」

「…それもそうか」

 

 助手席に座っている方の生徒がトラックの異常を指摘したが、このトラックの詳細(スペック)を良く知る運転手生徒の推測を聞いて、それ以上はトラックの振動に関して尋ねることはしなかった。

 

「……そういえば。この新しくできた喫茶、もう行ったか?」

 

 ヴァルキューレ交通局の誘導まではまだ時間がある。

 助手席生徒は喋り好きであるらしく、すぐ次の話題を運転手に振った。

 スマホを片手にその画面__ゲヘナ自治区で数週間前にオープンし現在生徒の間で話題沸騰の飲食店“茶店『(へび)』”__を見せながら呟く。

 

「ん?――ああ、ゲヘナ市街地郊外の。いや、まだだ。最近は帰寮が19時以降でな…気になってはいるんだが……」

「聞いといてなんだけど、実は私もまだなんだ。次の土曜、二人で行かない?」

「行きたい…! それで、勿論頼むのは看板メニューの――」

 

 自治区(生徒会)の役員とは言え、彼女達もその仮面を一旦外せば年頃の乙女二人になる。

 飲食店の話題でキャッキャしたりもすると言うもの。付け加えるなら、一般的な…帰宅部のような生徒たちと比べるとプライベートの時間は短いわけで。

 その手の話を始めてしまうと中々止まらなくなるのだ。

 

「「――“夜明けの珈琲(サンライズ・コーヒー)”!!」」

 

 ______コンコン!

 

 外からのドアノックで、盛り上がっていた二人はハッと我に帰る。

 ドアガラスを開き、下を覗いてみれば、官帽を目深に被った小柄なヴァルキューレ警察官__あの誘導員の子__がこちらを見上げて立っていた。警官少女は運転手の顔を確認すると敬礼してみせる。

 

「お待たせしました。車両の発進をお願いします! …何かありましたか?」

 

「いや、特に問題はない。すぐに進む」

 

 馬鹿正直に「気になってる喫茶店の話で盛り上がって周りが見えてませんでした」なんてのを言うのは、万魔殿役員のプライド的に許容できないので、キリッとした態度(虚勢)で極めて無難な回答を警官少女に返すことに落ち着いたのだった。

 

「安全運転でよろしくお願いしますね!」

 

 ドアガラスをスイッチで閉め、にこやかな顔で綺麗な敬礼をする外のヴァルキューレ生に軽く手で会釈してから、運転手は変速機(ギア)レバーに手を掛け、足をクラッチとアクセルのペダルに添えて踏み込み、いざ前進―――

 

「………………あぇ?」

 

 ―――する()()()()

 

「…ん?どうした?」

 

 相方から出た滅多に聞かない間の抜けた声と、一向に進まぬトラックの様子から、助手席生徒が尋ねる。

 

「……進まない」

「…何が?」

「トラックが」

「アクセルを踏めば――」

「――もう踏んでる」

 

 たしかに…助手席生徒が運転手(相方)の足元…ペダルに目を向けてみれば、ガスガスとアクセルを何度もなん度も目一杯踏んでいる右足が確認できた。

 正しく異常だった。運転手の顔には少なく無い量の脂汗が伝っている。このトラックを良く知る彼女にも原因は分からない模様だ。

 

 エンストではない。エンジンの振動は、振動は………

 

 

 

【推奨BGM】ウルトラマンブレーザー『UB_M-59』

 

 

 

「……やっぱり揺れ方がおかしい。荷台の方から変な音も鳴ってる気がする」

「後ろの格子から何か見えるか? 煙とか何か――」

 

 やはりトラック自体に異変が起こっていると指摘する助手席生徒。

 異変を確かめるべく、身を捩って二人は背後…後部に取り付けられているガラス付き格子から荷台の様子を目視確認しようとした。

 

_____メキョッ……!!

 

 その刹那。目の前の荷台の内側から、()()が突き出した。……()()()()()()()

 

「「ひっ!!」」

 

 荷台内側から表出した()()を見て二人はギョッとする。荷台の中身はとうの昔に死に絶えた物言わぬ古代生物のミイラだけだ。

 そのミイラ搬入の際だって、百鬼夜行側の作業を目を離さずに見ていた。何かが紛れ込む…生きた猛獣が荷台に潜んだなんてのは有り得ない。

 ……そもそも、現代のキヴォトスで荷台側面や天幕として取り付けられている鉄板鋼板を引き裂けるような生物がいるなど、見た事も聞いた事も無い。

 

 やはりミイラそのものが動いているのか?

 違うだろう。そうであるのは物語の中のみ。生命活動を停止したものの、腐食せずに原型をある程度保っている「遺骸」をミイラ…と呼ぶのだから。

 

 それなら…()()は何なのだ?

 目の前の、猛獣を超える所業をしてみせているこの爪の()は、荷台の中に隠れているモノは何だ?

 

 本能的な“恐怖”……キヴォトスでは無縁の筈な“死”が近くに感じる。

 

 少女二人は小さな悲鳴をあげながら、手と手を掴み合って仲良く震え上がることしかできない。

 

______メキメキメキ……

 

 突き立てられた鉤爪が、破断箇所を徐々に広げていく。

 そしてある程度まで壁である金属板を引き裂き終えると、巨大な爪は荷台の奥へと…闇の中へと引っ込んだ――

 

 

……ギョロッ

 

 

 ――が、その代わり、荷台の裂傷部から“鬼火(火の玉)”を彷彿とさせる淡い光の灯った円眼が不意にこちらを覗いた。

 非生物的な無機質さを内包しているように思えるも、それと同時に何かを値踏みするかのような…見定めるかのように蠢く視線。明らかに彼女たちを個々に認識していた。

 その()を一言で表すなら、「不気味」。ひどく得体の知れないものに思えた。

 

___コンコンコン!

 

「ちょっ、大丈夫ですか!? 後ろの方から何か出てきてますよ!早く、早く降りてください!!」

 

 未だ全貌の見えぬ未知なる存在から目を離せず、身動きも取れずにいた車内の万魔殿生徒二人の現状を強めのノックと共に打破したのは、先ほど声を掛けてきた…彼女らよりも頭二つ三つ分小さいヴァルキューレ生であった。

 

 警官少女からしてみれば、見送ろうとしたトラックが数分経っても進まなかったわけで。

 運転手の様子を直に見たがコミニュケーションは取れたので問題は無さそうだったし、トラックより前方の車線上に走行の障害になる停止車両はもういない。それに、後ろの車列から鳴らされている「早く行け」のクラクションを無視するのも変だった。

 そのため、何らかの異常が起こったのかと__手持ちの誘導灯を車高の高いトラックの運転席からでもこちらの接近が分かるよう上に掲げながら__トテトテ近づいていったところ…トラック車体の後方、荷台部分を内側から破ろうとするヒトの何十倍も巨大な爪を彼女は目撃したのだ。

 

 ヴァルキューレ生の彼女であっても当然怖かった。あの爪の持ち主が荷台から自分へ今に飛び掛かってくるじゃないかと言う怯えで体が震えていた。

 間違いない。アレは「猛獣」の枠を超えている。自分らの管轄じゃない。

 ……彼女達、警察官が治安維持活動(有事)の際に対応する最悪の相手というのは、パニック状態に陥った善良な市民と、それらを巻き込んで暴れる敵…テロリストの二種類だ。決して、鉄板を悠々引き裂くような怪力を持った化け物ではない。

 

「もしもし!!ゲヘナの人、聞こえてますか!? ドア開けますよ!!」

 

 それでも、彼女が逃げずにトラックの乗員を助けるために駆け出せたのは、いつもキヴォトス市民の傍に寄り添う頼れるヴァルキューレ警察学校生…「街の警察官(お巡りさん)」としての意志と矜持があったからだ。

 ヴァルキューレ生は、フロント横をノックしてみても乗員の少女らが窓を開けたり、そこから顔や手を見せる等の反応が無かったので、声を掛けつつすぐにステップへ飛びついてドアを開け放つ。

 そこには格子の向こう側を怯えた目で見ながら、縮こまって固まる二人の少女がいた。

 

「手をこっちに!早くっ!!」

 

 乗員少女二人はヴァルキューレ生の声に反応し、その言葉に無言で勢いよく頷きながら、差し出された手を素早く握った。だが両名とも腰が砕けているらしく、車内から引っ張り出すのに体格差もあって少々手間取ったが、何とか問題のトラックから離れることが出来た。

 

 その間、荷台に潜む化け物は鉄板を切り裂いて外界にその姿を晒そうと躍起になっていた。

 車体を大きく揺らし、天幕にあたる上方の板を黒い巨腕で突き破ったところからして、正体の露見は特に気に留めていないようである。

 

「な、なんだぁ!? トラックが跳ねてるぞ!!」

「降りろ降りろアレはやばい気がするっ!」

「見えたぞ…怪物だ…!中からデッカイ腕が……!」

「ねえ〜なんかあったの〜?」

 

 道路上の他の車両からはトラックの怪奇現象を察知した人々が続々と降りて様々な反応を見せる。不穏と混乱は静かに伝播しつつあった。

 

「――こ、こちら交通誘導2-8!9号線仮設指揮所、応答願います!!」

『こちら仮設指揮所、誘導2-8、感度良好。どうぞ』

「担当区域の道路上にて異常事態!し、至急応援を乞います!どうぞ!?」

『指揮所より誘導2-8、異常事態とは何か。詳細を求む。どうぞ』

「か、怪物、きっと怪物です!! 」

 

 不気味なるトラックから物理的距離を取れたヴァルキューレ交通局員は、なんとか携帯無線から、撤収作業が始まっていた現地指揮所へ緊急連絡を飛ばすことが出来ていた。尚、既にゲヘナ生二人には退避を勧め、この場から下がらせている。

 

『……? 落ち着け誘導2-8。具体性の乏しい憶測での報告は御法度だ。怪物というのは大型動物…トラやゾウ、アカフユグマといった猛獣の類いのことか、どうぞ?』

「あ、アレは猛獣なんかじゃありません!もっと恐ろしい……荷台の金属フレームをあっという間に切り裂いて――」

 

――バリバリバリバリ!!

ガッシャァアアン!!!!!

 

 報告の途中で、耳を塞ぎたくなるよう異音が響き渡った。何かの断裂音と衝突音だった。それらの音の発生源は、今まで奇怪なる動きを見せてきたトラックそのものである。

 無線機から音源へ注意を向けたヴァルキューレ生は絶句した。それは車外に出ている一般市民達も同様だった。

 

「な、なに…あれ…………」

 

 彼女は掴んでいた無線機を手から離してしまった。

 

『――アレとはなんだ、誘導2-8。……聞こえるか、2-8!?応答せよ!! 何があっ――』

 

 音源となっただろうトラックは金属片やガラス片を辺りに撒き散らして横倒しになっていた。

 だが肝心なのはそこではない。皆が注目しているのは、ボロボロになった荷台部分側面からその上半身を音も立てずにヌッと出し、首にあたる部分を時折左右に振り周囲を覗っている全高30mに迫る「遺骸(ミイラ)」からまた別のモノへと()()した存在だった。

 

「あ、あ…あんなの、どうしろって……」

 

 

 

 ()()()には世界線を超えて様々な通称がある。

 怪物。怪異。物ノ怪。クリーチャー。モンスター。タイタン。超自然的存在。超常生物。特殊生物___

 

 ___そして、「怪獣」。

 凡ゆる知性体から“夢”、“浪漫”、“神秘”、“恐怖”、“脅威”、“畏敬”、“崇拝”、“侮蔑”、“排斥”…実に様々な対象として捉えられ解釈される“概念”であり“存在”。

 故にそれらに付与されるテーマ…“題目(タグ)”、“テクスト”は全て反発することなく宿せる。この世界では、表裏一体の…絶対の二面性を持つとされる“神秘”と“恐怖”でさえも例外ではない。

 

 箱庭(キヴォトス)は、そんな()()を「実体を持つ理外の虚構」として、図らずも迎え入れてしまったのである。

 

 

 

 歯を剥き出しにした肉食獣を思わせる凶険な顔つき、頭頂部から伸びる鋭利な一本の曲角、かつての地上で繁栄した大型肉食恐竜の如き黒の体躯、胸部から殿部にかけて張り付いている鉱物質性の深い群青に鈍く光る外部生体装甲、先端部に擬似口部器官を有する長大な尻尾……ソレは、地上の既存生態系の枠に収まらない「巨大不明生物」。

 我々の世界…観測(史実)世界のそれとほぼ同じ軌跡をなぞっていた並行世界の地球・極東にて初めてかつ突如として姿を現し、その巨体に見合った猛威を小さな島国(ニッポン)で存分に奮った人智の及ばぬ怪生物の一体。

 

 

 

 ――古代禍威獣ゴメス。

 これがソレの識別名称(レジストコード)である。

 

 

 

 異質。あまりに異質だった。あんなモノ、なんて形容しろと言うのか。言い淀んでしまったのもしょうがないと言えよう。

 ヴァルキューレ生はぺたりとその場に座り込んでしまった。

 

 いつもならば気に入らない奴にはすぐに銃を向け引き金を引くようなキヴォトスの悪童たちでさえ、今は顔を引き攣らせ立ち竦んでいる。中には後退りを始めている子もいた。

 「アレに()()()()()を出さない方がいい」とそう悟ったのだろう。荒事には慣れている筈の少女たちを尋常ではないほど萎縮(怯え)させていた。

 ゴメスがプレッシャーのような目に見えぬ何かを…“恐怖”を振り撒いてでもいるとしか思えなかった。

 

――パンッパンパン!

 

 刹那、横から破裂音が三発分。それと同じ数の火花が怪生物の胴部で散った。

 

 音の方向へ顔を向ければそこには、ヴァルキューレの正式採用拳銃の一種…“ニューナンブM60”系回転式拳銃(リボルバー)を、こちらに目をギョロリと動かして見据えながらも不気味な沈黙を保つ、かの怪生物へ構える同僚(友人)が立っていた。

 よく見ると、それの銃口からは白煙が出ている。先の発砲は彼女が独断で行なったものだと分かった。しかしその姿はやや頼りない。両足両手はガクガクと震え、呼吸も定まっておらず、及び腰である。あの射撃が全て命中したのも奇跡だったのかもしれない。

 

 だが、それでも一つだけ分かることがあった。

 

 彼女も“恐怖”と正面から戦っているのだ、と。

 …こちらに「早く立ってよ!」とヒステリックに叫んだその必死な顔は今にも泣きそうだったが。

 これに触発され、ヴァルキューレ生はなんとか両の手と足に力を入れて立ち上がると、自身の得物(愛銃)である“グロック19”系自動拳銃を震える手で引き抜いて同僚と共に怪生物と相対した。

 

 その時。

 

『――こちらはヴァルキューレD.U.外郭支部警備局!緊急車両が通りますッ!道路中央から一般市民の方々は轢かれたくなければ即座に退避しといてください!!』

 

 やって来た。彼女たちが、来るのを待ち望んでいた援軍(仲間)が。

 それは区道9号線上で発生した暴動の鎮圧用予備部隊として待機させていた警備局の戦力であった。交通局員の誘導2-8(彼女)から報告が途切れたことを受けて、仮設指揮所が機動隊に現場への急行と状況把握を指示…不明生物の対応に回してくれていたのだ。

 

『報告にあった不明生物を目視で確認!ホントに怪物じゃないか!? あ!あれは――』

 

 交通局交通機動隊のパトカーに先導され実弾装備で固めた重武装の機動隊員を満載した警備局の装甲車両群が、赤色灯(パトランプ)をギラつかせ、備え付きのスピーカーから馬鹿でかいサイレンをかき鳴らしやってくる。

 

 荒々しくも頼もしい、騎兵隊の到着だった。

 

『――前方に誘導2-8並びに2-5と思しき警官(ウチの生徒)を二名確認!保護しろ!! あの怪物の間に突っ込め!!』

 

 彼女達と怪生物…ゴメスの間に壁を作るようにして特型遊撃車や放水車が我先にと、どんどん割り込んでいく。乗り捨てられた一般車、前方・後続車と多少ぶつかろうが構やしない。先導の役目を終えたパトカーたちはそれに巻き込まれぬように近場で停まった。

 急停車したマル遊の後部ドアハッチが次々開け放たれ、中からゾロゾロと黒ずくめの機動隊員たちが素早く降車。彼女たちは車両群を砦に見立てて、そこで特殊銃…“MP5”系短機関銃(SMG)とポリカーボネート製の丸い盾を怪生物に真っ直ぐ構える。

 それらの一部は、二人の元へと走ってくる。又、それを追い越して、軽装備の交機隊員たちが二人目掛けてパトカーから猛ダッシュで駆け寄ってきた。

 

「後輩!大丈夫か!!」

 

 目元に涙を含ませながら、先輩警官たちの一人が二人を「よかった、よかった…!」と安堵を呟きながら抱き寄せる。

 

「おい、そこの誘導の一年ズ、大丈夫だったか!?」

「交通局の新人たち、よく耐えた。こっからは警備局の番だ」

「あんなオオトカゲ、さっさと吹っ飛ばしてやるさ」

「こちら第二中隊!交通局の誘導員二名と合流!彼女らの母隊である交機隊と共にこれを保護した!!」

 

 丸盾持ち(ライオット)の機動隊員らが、交通局集団の前に立つと、彼女らを中心にして防御陣形を作りながら、労いの言葉を掛けると同時に怪物ゴメスに対する啖呵を口々に切った。

 

「周りの市民や学生は退避済みか」

「残る厄介ごとは……」

「アイツ……どっから湧いてきやがった!」

「仮にもキヴォトスの中心、D.U.に姿を見せるとはな」

「上の方にはコレ伝えてんだろうな!?」

 

『――まずは放水砲で小手調べだ。……ウチの生徒にガン飛ばしやがった分、たらふく呑ませてやろう!! ついでにそのまま後ろの建物に張り付けにしてやれ!!』

 

『『『了解』』』

 

 ここで、遊撃車上部から半身を出している、拡声器を持った強面の機動隊指揮官が水攻めを指示。

 それに従ってゴメスの周囲に位置取る数台の放水車が砲塔を旋回させる。ゴメスは()()()()()凡そ25m強。

 一見、射角や高度差から来る射程距離の問題もあって放水砲は役不足なのではと懸念されるかもしれないがそこは問題ないだろう。何せここは地球人の何倍もの肉体強度を有する人型生命体が闊歩するキヴォトス。日本警察所有品と瓜二つな姿形である特殊装甲車両の放水砲も、対キヴォトス人向けの威力(スペック)であり、本家(日本)との差はダンチだった。

 

 ……相変わらず、ゴメスは尾を振りながら静かに立つのみ。

 

 向こうが動かぬのなら好都合と機動隊指揮官が号令を出す。

 

「各車、放水開始!!」

 

 斯くして、民衆が見守る中、幾本もの__並のキヴォトス人でも直撃を受ければ後方へ何十mも吹き飛ばされる__殺人的水流がゴメスの頭目掛けて放たれた。

 放水攻撃は見事に顔面へ命中!

 ……されど、当のゴメスはなんのその。体表に多量の水が当たっていることを認識すると、原始ザメ(ラブカ)を想起させるずらりと並んだ歯が見えるその恐ろしい大口をガバッと開けて、超高圧放水をさながら上向き蛇口の水を飲むが如く悠然と受け止め始めたではないか。

 

「四台分の同時放水を食らって身じろぎ一つしないか…っ! 正実の委員長(“歩く戦略兵器”)にさえ、たたらを踏ませた投射量だぞ!?」

「歯医者じゃないんだよウチの学校は!!」

「あの勢いの水を食らっても微動だにしてない…それどころか、むしろ浴びてイキイキしてるように見える!」

 

 並の猛獣ならば堪らず逃れようとするほどの高圧放水がちっとも効かないことに、機動隊員たちは動揺する。

 何故ならあの高圧放水砲とそれの集団運用戦術は、一年前に開催されたヴァルキューレ混成警邏部隊とトリニティ治安維持部隊(正義実現委員会)による合同対抗(実戦)訓練にて「ヒトの形をしたトリニティの戦略兵器」から()()()()を貰っていたからである。…独国系列の重戦車をたった数発で消し飛ばすほどの膨大な“神秘”が込められた超火力ショットガン二丁を操り、再生怪獣も斯くやという回復力と頑丈(タフネス)さ、“月光怪獣”(デルタンダル)“超音速怪獣”(ヘイレン)も一目置くような機動性・俊敏性を併せ持つ、()()人間大の怪物を、模擬戦とは言え押し留めた実績があったのだ。

 例え未知の大型生命体相手であろうとも通用するだろうと、思っていたからこその、どよめきだった。無理もない。

 

『…放水車、後退! 第一、第三中隊の散弾銃(SG)擲弾銃(GR)要員、盾持ちと一緒に前へ。込める弾を間違えるなよ!』

 

 指揮官による再度の号令を受け、放水車が水を吐き続けながら後退し、その空いた対ゴメス包囲の穴に、今この場に集結している機動隊が編成し得る最大の火力投射部隊__前衛がライオットシールド、中衛がフルオート・ショットガン、後衛がグレネード・ランチャーの三列横隊__が素早く埋める。

 

『――交通局、パトに引っ提げてきた鎮圧ドローンを全て起動させろ!』

 

 ヴァルキューレ警察学校が保有している全パトカーの後部トランクスペースには、機銃を二門若しくは、連装マイクロミサイルポッド2基を備えた強行偵察並びに暴動鎮圧用小型円形ドローンが必ず1機以上は搭載されている。

 それも投入しろと指揮官は言ったのだ。今回頼られるのは、おそらく打撃力に一定の信頼がある後者…ミサイルの搭載仕様機だろう。

 その命令に従って、交機の少女達が何処からかドローン操作端末と思しき、車の鍵大の小型装置を取り出し、それに付いているボタンの一つを押した。すると、現場に停まっている複数の交機パトカーの後部トランクが自動で開放され、その中から先程説明した円形ドローンが空中へ射出されていき自律飛行を開始する。

 

 ジリジリと距離を詰めてくるヴァルキューレ生たちと武装ドローンを、「水分補給」を打ち切られたゴメスは開けていた口を閉じその場でただ見下ろすのみであった。

 

『――射撃ヨーイ!!……撃てぇええ!!』

 

 瞬間、ヴァルキューレ警官隊による、火花と白煙に包まれながらの銃器の盛大なオーケストラが始まった。

 鉛できた暴力的な音符が招かれざる客(ゴメス)に殺到する。

 この合奏の主役は、何と言っても直接照準のグレネードランチャーより小気味の良い音と共に飛翔するずんぐりとした擲弾たちであった。弾頭は催涙(ガス)弾ではなく、榴弾。それは炸裂による爆発で、腹底を震わせる見事なものを奏でた。

 又、その主役を引き立たせている存在…32連ドラムマガジンを取り付けた自動散弾銃から休みなく放たれる12ゲージのスラッグ弾と、小型ドローンから斉射される汎用マイクロミサイルと5.56mm弾も忘れてはならない。

 

 拳銃一丁、二丁のそれを軽く上回る衝撃力と貫通力による同時攻撃(即興演奏)。それは質、量ともにヴァルキューレが今叩き込める最高火力だった。

 爆炎に次ぐ爆炎。息切れを知らない火線。

 ゴメスの上半身が瞬く間に黒煙の中に消える。

 これだけ食らえば化け物とは言え、只では済むまい。現場の誰しもがそう確信していた。

 

『どうだ………………なっ!』

 

 ……だがしかし、そのような思いは尚も火線が突き刺さる黒い霧から、より黒い一角の頭と口尾がゆらりと無造作に傷一つ無い姿を表出したことによって握りつぶされた。

 

「……っ!! 不明生物健在!不明生物健在!! 射撃の効果を認められず!」

「おいおい嘘でしょ…」

「ゆ、誘導弾が効かない野生動物がいてたまるもんか!」

 

『包囲を崩すな!各員、弾薬再装填急げっ!!』

 

 先程までの威勢は霧散し、彼女達の狼狽が表面化した。

 血の気がサーッと引いていくのが分かるのだ。今は辛うじて統率は維持できているが、崩壊の色が帯び始めているのは指揮官も理解していた。

 幽霊や機械の類いならいざ知らず…アレも生物である筈。このキヴォトスにおいて、これほどの銃砲撃を受けて平然としていられる生き物なんてのは本来存在し得ない。少なくとも、痛みにもがくぐらいの反応があってしかるべきなのだ。

 それが、無い。一切無い。

 

「――なっ!? 不明生物、動きます!」

 

 一同が呆気に取られている時、静寂を保っていたゴメスが「今度は此方の番だ」と言わんばかりに、とうとう動いた。

 

――ズン……ズン……ズン……

 

 一歩、一歩…その歩行速度は、摺り足でのものと言うのもあり酷く遅く見えた。だが、その足先が向けられたのはヴァルキューレ警官隊である。

 威嚇の咆哮も上げず、こちらを見下ろしながらただ淡々と歩みを進め、確実に距離を詰めてくる巨獣。警官隊から散発的な銃撃が放たれるが、その身体全面にある暗青色の分厚い鉱物性生体装甲が難なく弾き、健気な悪足掻きを許さない。

 

『仮設指揮所、こちら機-1! 不明生物にこちらの銃火器が全く通用していない!既に対象は前進を開始しており、押し留めることは困難!! 至急、他地区及び中央本部より応援を求む!!』

『――指揮所より機-1。中央本部並びに連邦生徒会防衛室には現在こちらで直接掛け合っている。増援の速やかな編成・派遣を要請してはいるが、まだ見通しは立っていない。最寄りの部隊も混乱により発生した交通麻痺で駆けつけるまで今暫くかかるとのことだ…』

『そんな…』

『――外郭支部とその他周辺支部の航空局が武装ヘリ(ガンシップ)緊急発進(スクランブル)中だ。…彼女らと協力し、遅滞戦闘へ移行せよ。地区南部市民の避難のためにも、可能な限り時間を稼いでもらいたい。耐えて(堪えて)くれ…!』

 

 戦況は絶望的としか言えず増援は雀の涙ほど。それでいて上から出されたのは事実上の死守命令である。

 ―――そんなの「無理だ」った。

 

 彼女たち…ヴァルキューレ警察が本来相手取るのは先にも書いたように、困りごとを抱えた市民であったり、大人子供関係無くトチ狂った元善良市民(犯罪者)であったり、何処ぞで暴走したオートマタやドローンだったり…差異はあれども()()()()()()だったのだ。今日まで、「大きな敵」と言うのは、最大でもややヒトより大きい…2〜5m程度の二足歩行機動兵器が関の山であり、その枠に収まっていた。

 彼女らの誰も、こんな規格外の怪物とドンパチ戦うためにヴァルキューレの門を叩いたわけではなかった。そんな物好きは、今は無き“SRT特殊学園”に入っていたことだろう。

 

 ……結論から言うと、彼女達は用意出来ていなかったのだ。

 ()()()()()キヴォトスでは経験し得えなかった「死と隣り合わせ」の戦地に赴く心の準備を。

 

「――!? 不明生物、進行を停止!」

「何だ…辺りに何かあるのか……?」

「おい、アレが見てるのって」

 

 突然、ゴメスが前進を止めた。何を思考しているのかを人々は感知し得ない。

 

――――バキャッ!

 

 しかし、それが取った行動を目の当たりにして、警官隊は蒼白な顔を更に青ざめた。

 その長尾の先端にある擬似口部器官を器用に用い、道端に放棄されたタンクローリー__車体と貯蔵タンク部には“カイザーエネルギー”のマークがあった__を噛んで(掴んで)持ち上げたのだ。何と言う怪力。何と言う自重。

 ……そして、彼女たちの記憶が正しければ、あの企業のタンク車の中身は大量のガソリンである。それを裏付けるかのように、宙に浮かぶタンクからはオレンジに染色された透明な液体が滴っていた。

 

 ゴメスはこちらを見つめている。

 

「ヒッ……尻尾でタンク車を――」

『総員伏せろォオ!!!』

 

 尻尾のしなやかな()()()()によって()()()()タンクローリーが警官隊の眼前に飛んできたのと、指揮官が大声を張り上げたのはほぼ同時だった。

 

「っ!?」

「あがっ!」

 

 指揮官の怒号に反応できず、尚且つ中腰よりも高い姿勢…立射姿勢で固まっていた機動隊員の多くが、勢いよく転がってきたタンクローリーに巻き込まれ後方へ無造作に弾き飛ばされた。ただ飛んでいっただけの者はまだマシで、真後ろに自動車や建物といったオブジェクトがあった者は二度の衝撃と激痛をモロに身体に受け、その場で意識を失い倒れてしまっていた。

 

 又、これらより悲運だったのは、タンクローリーが転がった先にいた後退中であった一台のポンプ車とその乗員たちであった。バック走での回避運動など無論間に合うはずもなく、受け身を取る準備さえできずに砲弾と化していたタンクローリーと息つく暇もなく接触。

 ポンプ車は乗員を乗せたまま、タンクローリーと大きな一つの鉄塊となって、とあるオフィスビルの一階部分にめり込む勢いで叩きつけられた。直後、行き場を無くした貯蔵タンク内のガソリンが反応し、まだ人の入ったぐしゃぐしゃの鉄塊は大爆発。灰色の街を赤々と照らす巨大な焚き火が出来上がった。

 

「っ!――盾を上に構えろーっ!!」

 

 しかしこれでは終わらない。巻き込まれたオフィスビルは、中層建築物であったのも災いし、爆発の余波によって少なくないガラス破片__砂つぶの極小から、ドアサイズのものまで__を地上へと吐き出したのだ。ガラスの雨の下にいるのは、まだ避難していなかった市民たちと負傷者多数のヴァルキューレ警官隊。いくら肉体強度が高いキヴォトス人であっても、この鋭利な降雨は無視できるものではなかった。

 

「うぁ……ぁぁ……」

「…助けて…くださぃ……」

「あ、足が! 足が挟まって!動かない…っ!!」

 

『――放水3号車を救助しろ!急げっ!』

 

 ガラス片のスコールが止んだ後、ハッとした機動隊指揮官が火の中に沈む鉄塊から乗員を救助するように周囲の隊員へ指示を出す。硝子の雨を凌いだ軽傷の警官たちがすぐにオフィスビルへと走り出す。

 その背後で、嘲笑うかのようにゴメスはゆっくり前進を再開した。

 

「おい!そこで固まるな! この子を担ぐの手伝え!」

「――負傷者を退がらせろー!また巻き込まれるぞ!」

「こちら第3中隊A小隊!負傷者多数! 動けません!!」

「我々はどうすれば…!?」

「―――後退…撃ちながら後退!下がれよ、あのトカゲに踏み潰されたいのか!」

「おい!勝手に向こうへ行くな!」

 

 タンクローリー投擲による一連の出来事で、重軽傷者を多数出してしまったヴァルキューレ警官隊の対ゴメス包囲網に綻びが生じ、壊乱するのは予定調和に等しかった。

 

『こちら機-1!指揮所、聞こえるか! 不明生物に対する遅滞戦と封じ込めは失敗…隊内に重傷者多数!我に指揮能力既に無しっ!部隊は壊滅!繰り返す、部隊は壊滅!!我々はどうすればいい!?』

 

 無線に叫ぶ指揮官の顔は焦燥一色だった。目の前に広がる惨状に、ただ拳を握ってることしかできない己の無力を悔やんでいる。

 

 無闇矢鱈に乱射に近い発砲を続ける者。

 呆然と怪生物を見上げ立ち尽くす者。

 傷を負い血を流している仲間を必死に助ける者。

 職務を放棄して背中を向けて逃走する者。

 指揮車両に縋って次の命令を求める者。

 

 果敢にもゴメスへと立ち向かった少女達は心身ともに削られ、ボロボロの有り様だった。

 

『―――こちら外郭支部。同区9号線上にて発生中の非常事態を、中央本部は甚大かつ可及的速やかな対処を要する喫緊のものであると改めて認識した。それに伴い、本部は指揮能力に限界があるものとして、現地仮設指揮所を解散・完全撤収させた。これより現地展開中の全部隊の指揮権は連邦生徒会・防衛室へ移される。以後は同委員会が下す命令に従われたし』

『なっ!? 指揮所から聞いていないのか!我々は戦闘能力の大半を喪失している!今更指揮系統の変更など話している場合では――』

 

 ()()()()()()()ゴメス(アレ)警察機構(ヴァルキューレ)の対応しなければならない敵…?

 既存の警察力では対処しきれない巨大生物を相手にまだ戦えというのか?

 冗談だろう? 如何に“市民の盾”でも限度はある。

 “身体を張る”覚悟と“命を捨てる”覚悟は似て非なるもの。イコールなどでは断じてない。そうであってたまるものか。

 ……街の定点カメラやら何やらで現場(こちら)の状況は理解しているはずなのにと、上層部(会議室)の悠長なやりとりに憤りを露わにし悪態を吐かんとしていた指揮官の視界が、不意に緑一色となった。それはゴメスが蹴り飛ばした普通乗用車であった。

 

―――ガッシャアアン!!

 

「なっ…指揮車がやられた!」

「先輩、先輩が……っ!」

「あの怪物、ピンポイントで狙ったのか!?」

 

 部下達には努めて弱気を一切見せず、崩壊しつつある現場を辛うじてまとめていた少女が乗る特型遊撃車が、緑の凶弾を受け、車体側面を大きく歪ませて派手に横転した。

 

 ゴメスの一挙手一投足を注意していたが故、自分らの精神的支柱が突き崩されたワンシーンを彼女達はその目でしかと見てしまった。

 

 それを合図に、9号線上でゴメスと対峙していた警官たちの、何かの()がぷつんと切れた。黒い瘴気とも形容できる“恐怖”が一気に彼女達の体から噴き上がる。

 その“恐怖”の()()が、ゴメスへと吸い込まれるように飛んでいき、それらはスゥ…っと怪生物の中へと溶けていった。

 

 するとどうだろう。ゴメスの全身が仄かに光った。

 次の瞬間、ゴメスが急激に変容する。より大きく、より恐ろしく。“元いた世界(原作・原典)”の姿へと近づいていく。

 気づけば怪生物の全高は、40m近くへと成っていた。

 

「に、逃げろぉーっ!!」

 

 ヴァルキューレ警察の実力排除の尽くが失敗したことを悟り、募らせていた危機感を爆発させたのだろう。目の前でそんな止めようの無い怪生物の巨大化を目撃したことも重なったのかもしれない。

 銃は携帯してないが身体強度の高いキヴォトス出身の大人達__ロボットや獣人__が、誰かが発した言葉を聞いた途端に我先にと、悲鳴をあげながら蜘蛛の子を散らすように逃げ出し始めた。歩道にいた歩行者や、道路沿いのオフィスビル群の中から一部始終を見ていた者たちも同様だった。

 先ほどまでスマホ片手に見物者(野次馬)となって対岸の火事(いつものこと)と処理し傍観していた市民たちが、ゴメスの纏う「死の“恐怖”」にあてられ、遂に本格的なパニックに陥った。

 

 これが更なるゴメス変容のキッカケとなってしまった。

 逃げ惑う一般市民たちも、ヴァルキューレ警官隊と同じ黒い瘴気…“恐怖”を次々に噴き出し始めたのだ。

 

 ――このゴメスが学園都市で実体化するにあたって()としたのは、キヴォトスの大気中に無尽蔵に漂う“神秘”と、この都市内で長年渦巻いてきた大人子供が想像する様々な未知への“恐怖”であった。……“神秘”と“恐怖”の塊であるこのゴメスは、詰まるところキヴォトスに()()()()で強大になる可能性を秘めており、しかもそこで“神秘”或いは“恐怖”が湧き出る泉がポッと出たとなれば……変容に更なる拍車が掛かるのは当然だった。

 

 二度目の急成長を経て、ゴメスの全高は50m強となった。

 

ズゥン………ズゥン…………!

 

 地上の矮小な存在がぴーぴー喚こうが何しようが、アスファルトの大地を割りながら巨獣ゴメスは進撃する。その行進を妨げる者はいない。

 一歩踏み出せば、地べたに置かれている鉄の()()()を踏み潰し、自身の半身よりも低い()()は擦り潰す。

 長大な尻尾をひとたび振り下ろせば、小さな生き物たちと鉄のつぶてが面白いように跳ねたし、愉快な鳴き声も聞こえた。

 

ズゥン……ズゥン………ズゥン………!!

 

 そして、行く手を阻むように立っていた()()()()()()()()()の一本を、尻尾で横に薙ぎ払い幹の真ん中からへし折った。

 灰の巨木は重力に従って小気味の良い音と煤だらけの黒煙を出しながら整っていたその形を徐々に崩していく。

 己の所業に一区切り付けたのか、禍威獣ゴメスはその歩みを止めキヴォトスの蒼天を仰いだ。そして――

 

 

 

 ―――ヴォオオオオオオーーーッッッ!!!!

 

 

 

 ――この揺籠(世界)に、自身の存在を誇示する大咆哮を轟かせた。

 

 

 

 子どもの国から…空想(悪夢)の産ぶ声が聞こえてくる。

 

 

 

 





 あと
 がき

 どうも、最近『ミカナギラジオ 武勇伝』概念を見つけて爆笑していた投稿者の逃げるレッドです。脳内ボイスとセリフがハマりすぎる。
 キララちゃん実装しましたね!……エリカさんは…どこ…?……ここ?

 最近、ハーメルンとかpixivで特撮×ブルアカssがちょこちょこ増えてきてきた気がする…おじさん嬉しいよぉ〜

 また、本作のお気に入り登録が200を超えました…ありがとうございます!!……ソンナニメビウストキヴォトスジンガスキニナッタノカ、センセイ、ゲマトリアノカタガタ。アリガトウ…ヘッヘッヘッ……
  
 ……さて、大変お待たせ致しました。
 キヴォトス怪獣第一号は、シン版のゴメスです。
 騙して悪いが…コイツもゴメスなんでな(AC並感)
 総称こそ違えど、シン版禍威獣(かいじゅう)たちも、れっきとした“怪獣”に属する存在だろうという……「如何なる存在を“怪獣”と定義・呼称するのか」を投稿者なりに考えた結果…このサブタイとなりました。

 どの『ウルトラQ』メインテーマも好きですが、今作のゴメス登場にはブレーザーのアレンジ版をチョイス。不気味だけど覗きたくなるようなあの感じ…実に良いです。

 拙者、モブ生徒ちゃん達のみが活躍したり頑張ったりわちゃわちゃしたりする話やシーンが大好き侍に候。義によって助太刀(カイシャク)致す。
 モブキャラのデザインや動きが凝ってる作品は大体名作です。ガルパンが良い例……見た目スケバンB(SMGちゃん)なエリカ車装填手ちゃんの名前そろそろ出してくれませんか、GuP公式サン!

 
※用語単語人物ピックアップ簡易解説コーナー
 (独自設定独自解釈共にもりもり)

◯万魔殿役員モブさんズ(仮称:運ちゃん&助手ちゃん)
 どちらも通常の書類業務をこなす一般役員であり、マコっちゃん親衛隊に属する選ばれた()()生徒でもある。ゲヘナでも上の下ぐらいに精鋭であるモブな筈の彼女たちだが…今回は未知への恐怖が優ってしまい活躍は無し。運ちゃんは色々しっかりしていて、助手ちゃんは野生的勘は強いけど地頭がちょっと残念なギザ歯っ子イメージ。
 …因みに、軽いネタバレ(?)かもしれないが、彼女達はこの後ゲヘナへ五体満足で生還する。その時は勿論、他の親衛隊・役員メンバーやマコっちゃん議長、イブキちゃん、忠猫ライオンマルに集られ無事を喜ばれたり泣かれたりされる。

 この二人や下記紹介のモブちゃん達が今後本編に再登場するかは未定。みんなのおうえん、まってるぜ!!

◯茶店『(ヘビ)
 なんか最近ゲヘナ自治区内にできたワンマン経営の珈琲屋さん。店主(マスター)がダーティなイケメンだとゲヘナ生の間では専らの噂。看板メニューの“夜明けの珈琲(サンライズ・コーヒー)”味わうよりも、店主の(ツラ)を拝むために通う子たちが多い。
 ……なんと、かの悪名高きアウトロー結社“便利屋68”の事務所が喫茶店の上…二階にあり、彼女達と同校帰宅部の溜まり場ともなっている。
 開店してから何故か、周辺の治安がすこぶる良くなった。多分この店、『ジョン・ウィック』のコンチネンタル・ホテルみたいな不可侵非戦闘領域(銭湯ラムネ味)になってる。

手榴弾(マツボックリ)を食らった交通局モブキューレの子(仮称:誘導ちゃん)
 小柄(ネル・アリス・おじさん(ホシノ)レベル)で、臆病な性格のヴァルキューレ警察学校一年生。D.U.外郭区支部の交通局交通機動隊に配属された新米エリートで、D.U.ヴァルキューレ学園校舎…本部の生活安全局にいる同級生こと中務(ナカツカサ)キリノに憧憬の念を密かに抱いている。尚、後述の同僚ちゃん含む周囲からはバレバレの模様。
 見た目は一般ヴァルキューレモブちゃんをポニテにした感じ。
 担当している本来の仕事は警察車両での地域巡回(パトロール)。白バイとパトカー両方とも扱えるが、本人的には白バイの方がお気に入りかつ得意であるらしい。

◯交通局モブキューレちゃんの同僚(仮称:同僚ちゃん)
 名称の通り誘導(マツボックリ)ちゃんの同僚であり幼馴染の子。こっちは一般ヴァルキューレモブちゃんをショートのサイドテールにした感じの見た目で、背は中の中。
 交通局の誘導ちゃん一筋。ややツンの素質を持っている白バイ隊員。
 ゴメス出現時、愛車かっ飛ばして愛する誘導ちゃんを助けに来た。すっごい健気。感動的だな(^U^)
 尚、ゴメスの二度の巨大化を目にして二人仲良くポッキリ心が折れた。

◯アカフユグマ
 “レッドウィンター連邦学園”自治区内に生息する同地域固有種のクマ。同連邦学園の生徒会組織“レッドウィンター事務局”の現書記長によって自治区保護動物指定を受けている。
 外見は大方ハイイログマ(グリズリー)だが、ツキノワグマと同じように胸に独特の白い模様がある。因みにその模様は「⭐︎」。そのせいか別名に“ホシクズグマ”と言う可愛らしいものがあるが、平均サイズはホッキョクグマと同等の2〜3.5mほど。全然小さくないし可愛くもない。
 性格は攻撃的…喧嘩っ早いが、それに反して非常に痛がりらしく、ゴム弾を二、三発喰らうとすぐに退散する。なんならちょっと大きめぐらいの木の棒でシバかれても後退六速でたちまち逃げる。このあんまりな打たれ弱さから、赤冬生に“ボコられグマ”とも揶揄されているのだとか。

 やーってやるやーってやるやーぁってやるぜ♪

◯ヴァルキューレ警察警備局・機動隊
 荒事なんでもござれな緊急展開武闘派集団。キヴォトスでは誰も彼もが銃を平然と持っているので、どっちかと言うと「銃器対策部隊」そのもの。
 公安局、()()()()()に並ぶ「現場のプロ」で、その練度は非常に高い。その集団戦闘能力はゲヘナの風紀委員会を凌ぐ。伊達に毎日ライオットシールドと電磁警棒(スタンバトン)と鉄拳(救護ッ!ならぬ確保ッ!)で銃持ちのスケバンやヘルメット団を殴り飛ばしてるわけじゃない。
 同校部活グループの中でも縄張り意識はかなり強い方で、ヴァルキューレやD.U.の管理領域に侵入して悪さした犯罪者、無法者は一切容赦せずに叩きのめしていることで有名。

 単純に、今回のは相手となったヤツとの相性が諸々悪すぎた。指揮官ちゃんは良く頑張った。

◯ハイドロポンプ時のやりとり
 EDF5/6のレンジャー隊員たちが放ったコロニスト(二足ガエル)へのセリフが元ネタ。向こうの地球では人類が繁栄している時間軸に我々が良く知る昆虫や一部の両生類がいないらしい。昆虫キモォス(こっちに来ます)!!

 投稿者は2PV2、4、4.1、5、6でストーム1 やってました。大好きなビークルは、N()P()C()()コンバット・フレーム“グラビス”です。
 使ってるけどさぁ……なんでプレイヤー用のやつはあんな趣き深い重量二脚になったの…?(泣) せめて足回りだけでも中間ニクスぐらいのにしてほしかったよぉ…

 水流…乾燥…ジャミラ…砂漠…アビドス…………あっ

◯トリニティの歩く戦略兵器
 何処ぞのハンターナイトと同名の黒髪少女。ツルギィ…
 普段(任務)の奇声奇行や昭和シリーズの地球人めいた戦闘力から誰も手がつけられない狂人だと、同じ部活のメンバー以外の多くの生徒たちに誤解されている。
 その中身は、ただの礼儀正しく内気で人想いな、何処にでもいる普通の可愛い女の子。つまり、振れ幅(ギャップ)が凄い常識人である。信じて。
 
 恋愛モノの創作物が大好きなんだよこの子…めっちゃ良いコなの……
 キミ、心に安斎千代美(アンチョビ)姐さん宿ってない?
 
巨大不明生物第1号(古代禍威獣) ゴメス

 ヴァルキューレD.U.外郭支部の子達の心にがっつりトラウマを刻んだ。
 
 空想特撮映画『シン・ウルトラマン』の冒頭…前日譚的エピソード群にて登場。別名は原点シリーズを参照に命名。
 ウルトラの星の代わりに“光の星”がある世界の地球・日本にて出現が確認された特殊生物…それの第一号である。
 同地球の日本国関東地方、新東名高速道路谷ヶ山トンネル工事現場より復活し、官民の両方にその巨体を用いたシンプルな進撃(歩行)と長尾を用いた打撃()()で甚大な被害を与えたと考えられている。最終的に出動した自衛隊が総力戦を仕掛けてなんとか駆除に至った。
 
 M78ワールドやそれの類似世界群の宇宙に広く分布し、地球を筆頭とした大陸型惑星の地下空間を生息域としている“古代()()ゴメス”とは名称等、極めて類似点が多い。

 シン版ゴメスは、元祖『ウルトラQ』と続編ウルトラシリーズで触れられている「既存哺乳類の祖先」設定が薄いように見受けられるが、本作のキヴォトスに出現した個体には、それを含むQと特にX及びZ地球個体の各種設定を魔改造がてら取り入れている。そのため、あんな見た目でもしっかり哺乳類判定。実にややこしい。それに加えて心霊・オカルト要素も濃い。おい超天才美少女ハッカー、どうにかしろ。

◯カイザーエネルギー
 キヴォトスの大企業“カイザーコーポレーション”のグループ企業の一つ。
 エネルギー部門相当の会社で、キヴォトス内外で採掘した各種天然資源の流通・販売、そして電力・水道・都市ガスの提供を生業としている。実はカイザーPMCやインダストリー、コンストラクションはこの企業に頭が上がらなかったりする。
 ロゴマークは胴部分に雷マークを刻んでいる王冠を被ったタコ。



 今回は、前回触れたようにゴメス進撃回+前回最後の時系列までに幹線道路で何があったのか、ヴァルキューレがどれくらい初動対応を頑張ったのかをお伝えしたく書いた、非ネームドキャラ達の長めな奮闘回、となります。
 そのためリンちゃんや即席分隊、ミライ先生、アロナは登場しませんでした。申し訳ない。

 特撮に登場する警察や消防だってカッコいいからね………小さい頃はよく積み木とLEGOでハリボテミニチュアタウン作って、ウルトラマン・怪獣ソフビとトミカのパトカーやら持ってブンドドしたもんです(隙自語)

 次こそ、みなさんお待ちかねの、来たぞ我らのウルトラマン回です!



※2024/05/16 日間総合ランキング15位、ありがとうございます!!



 次回、【再臨のメビウス】
 お楽しみに。


Vol.2アンケート

  • 【フトモモのユウカ/ノアの微笑】
  • 【全知の美少女】
  • 【史上最高のバ美肉】
  • 【海辺の怪 -港湾警備依頼-】
  • 【闇の|店主《マスター》】
  • 【追想のユニフォーム】
  • 【メフィラスの“やり方”】
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