私もこんな感じの話を描けるようにしたいです。
個人的な話ですが、先日のキンスパに参加して、やはり音楽は素晴らしいと実感しました。
吹奏楽部の練習は各パートに別れて練習を行う。楽器の重いパーカッションは音楽室で練習を行い、水気と陽射しが駄目な木管楽器は室内で。そして雨に濡れても大丈夫な金管楽器は教室が空いてない場合、外で練習を行う。
トランペットパートは音楽室から出て、すぐの渡り廊下で練習を行う。北宇治高校の三階渡り廊下は由貴が通ってた小中学校と違い、通常の渡り廊下の屋根部分を屋外通路として造られている。由貴の通っていた学校は校舎内を繋ぐ廊下だったので、この造りは珍しいと思った。探せば他の学校も同じような構造をしているのかもしれない。
しかしこの渡り廊下幾分か不便に感じるのは確かだ。まず、屋外という事は、屋内と違い天候に左右されやすい。雨天時は屋根がないので通路に水が溜まり、梅雨の時期ともなれば毎日雨が降り続ける為実質通行不能に等しい。夏になれば、太陽にずっと照らされ続けるうえに高い湿度による蒸し暑さが襲う。おまけに風が強ければ思いっきり影響を受ける。気候が穏やかな時以外ではこの渡り廊下を使うのは大変だろうと、由貴が初めて訪れた時の感想だ。
滝から指示された通り、今日から海兵隊の練習を始める。初心者向けの簡単で吹きやすい楽曲だから、吹くだけなら一日練習すれば簡単に吹ける。
あくまでも吹くだけならの話だ。滝は海兵隊を合奏が出来るクオリティーになったら呼べと部員たちに通達した。つまり、滝が合格を出せるレベルに達していなければ次の段階には進めない。
「にしても、あんた本当に上手ね。いつからトランペットやってるの?」
由貴が演奏していると隣で演奏していた優子が声を掛けてきた。渡り廊下で香織を除く、トランペットパートのメンバー各々が両端に並んで練習をしていた。香織は一年生係という役職に着いている為、現在、管楽器を担当する一年生の腹式呼吸の練習を見ている。
「少し間隔は空いてますが、幼い頃からずっと吹いていました」
「へぇー通りで」
それだけ話すと、お互い海兵隊を吹き始める。トランペットの奏でる海兵隊のメロディーが響き渡る。単純なトーンの繰り返しは基礎練習としては悪くない。
「お待たせ。みんな練習は捗ってる?」
「香織先輩!お疲れ様です!」
しばらく練習をしていると、扉を開く音と共にトランペットと楽譜を持った香織がやってくる。優子は演奏を止め、元気な声を上げて香織の元へと向かう。トレードマークとも言うべき、黄色いリボンがピョコンとなったような気がした。つられるようにその場にいた全員が演奏を止めて香織に挨拶をした。
「新入生の練習、どうでしたか?」
「うん。みんな良い子たちで初心者の子もしっかり取り組んでいたよ」
「当然です。香織先輩が指導してるんですから!」
「そんなことないよ」
先ほどに比べて優子の声色が高くなっている。どうやら香織を相当崇拝しているようで、何かと持ち上げようとしている。
「それじゃあ、みんなで合わせましょう」
香織の言葉にメンバーは定位置に戻る。楽譜を開いてトランペットのチューニングを済ませ、香織が合図を送る。トランペットの高らかな音色が再び北宇治に響いた。
「いっせーので三」
「いっせーのーで……一」
ホルンパートに当てがわれた教室から聞こえる指スマの声。小学生の頃、由貴も幼馴染みやクラスの友人とすぐ出来る遊びとしてよくやっていたのを覚えてる。それが今、ホルンパートのメンバー数人で行われていた。他のメンバーも窓際の席に座って雑談をしていた。
パート練習中、トランペットの音以外の楽器があまりにも聞こえてこない事に疑問を感じ、トイレに行くと嘘をついて他のパートの様子を見に来たのだ。
トランペットの練習場所から低音パートの音は聞こえていたので、そこは無視して、下の階で練習しているホルンパートの様子を見に来ていたのだ。
「それでさ〜」
「そうそう」
練習とは名ばかりの雑談と遊びに没頭して、ドア越しにいる由貴に気付かないでいる。チラッと由貴は教室へと視線を向ける。机の上には誰にも吹かれず、ただ無造作に置かれたホルンのラッカーが寂しく光ってるように見えた。
ホルンパートだけではない。トロンボーン、クラリネット、フルート、ダブルリード、各パートまともに練習している様子が一切なかった。
少なくとも、由貴が様子見をした時点で練習していたのは、サックスとパーカッション。それに廊下で一人練習していたオーボエくらいだ。
タイミングもあるだろうがあの様子からして、まともに練習していないというのはなんとなくだが想像出来た。海兵隊は初心者向けだけあって、単調なメロディーが続いて飽きやすい。初心者はともかく経験者からすれば退屈になる。ましてや高校から吹奏楽を始めたとしても、一年間は楽器の経験をしている上級生からすれば今更海兵隊なんて……となるのも頷ける。
「はぁ……」
由貴はため息を吐く。このまま行けば明日の合奏練習は酷いものになるのは確実。演奏云々の前にやる気を一切感じ取れない。全国大会を目標にしたからってすぐに部内の雰囲気が変わるとは思ってなかったが、まさか顧問から課せられた課題すらまともに取り組まないのは問題ではないだろうか。
「遅くなりました」
「おかえり〜」
練習場所に戻ると、パートメンバーは休憩中なのか談笑をしていた。たまたま近くにいた秋子がそう声を掛かると視線を元に戻した。
「そしたら滝野ったらさー」
「お、おい。それ言うなよ」
近くで友恵と純一、沙希そして秋子の四人でコミュニケーションを取り合っていた。どうやら純一が何かをやらかしたみたいで、それをネタにして友恵は会話を弾ませていた。
そこから少し離れた位置では、香織と優子の二人が談笑していた。
「やっぱり納得出来ないですよ」
「でも、滝先生だって何か考えがあって海兵隊を指示したんだと思うよ?」
「そうかもしれないですけど、今更海兵隊なんてやる意味ないですよ。そんなことより、来月のサンフェスの曲を練習した方が絶対良いですって」
「優子ちゃんの言うことも分かるけど、まだサンフェスで何を演奏するのかも決まってないのに練習は出来ないよ?それに、滝先生もサンフェスの事は分かってるはずだから」
どうやら優子は滝に対して不満があるらしく、それを香織に聞いてもらっていたみたいだ。やはりというべきか、海兵隊の練習に対して思うところは誰もが抱いているようだ。香織はそんな優子を諭すように優しい口調で言う。滝の意図は分からないものの、何かしらの意味があることには気が付いていた。問題は、それで抑えられるのかという話になるのだが。
「あれ?そういえば、高坂がいないですけど?」
この場には由貴を含めて六人しかいない。休憩中であればどこかに行っているだけかもしれないが、麗奈が練習していた位置には、楽譜台と楽譜は置いてあるのにトランペットがなかった。
由貴の疑問に沙希が振り返って答える。
「高坂さんなら、ちょっと前に個人練習に行くって言って、どこか言っちゃったよ」
「……一応聞きますけど、休憩って俺が抜けてからですか?」
「そうだね。キリが良いから休憩にしようって」
練習から抜けて各パートの様子を見てから戻ってくるまでの間、だいたい二〇分くらいしか掛かっていない。休憩するにはちょうど良い時間ではある。しかし、麗奈にとって、トランペットパートの緩い雰囲気は肌に合わなかったのだろう。実際、由貴が戻ってきたにも関わらず、練習を再開させようとする空気は感じない。パートリーダーの香織が声を掛ければ練習は再開するだろうが、香織は優子の愚痴を聞いている為、代わりに副パートリーダーで最上級生の沙希が率先してまとめないといけない。そんな彼女は、他のメンバーと会話に花を咲かせている。パート内のコミュニケーションは確かに必要だと由貴も思う。どんなに個人の実力が高くても、パート内でのコミュニケーションが取れてなければ意味がない。
もっとも、今回は由貴が抜け出した事がきっかけなので口出しは出来ないが。
「すみません、個人練習に行ってきます」
とりあえず、今は自分の練習に集中しようと思った。
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