──―一秒、二秒、三秒。
水色のニンジャがタタミの上でザゼンを組んでいる。
目を瞑ったまま微動だにしない彼は一見寝ているかのようだが、その周囲は滲み出るカラテによって厳かな雰囲気に包まれていた。
木人や高圧井戸、「高級感」だの「タイガー・ダンジョン・クエスト」だのといった仰々しい文言が躍るこの施設にあって、そのニンジャだけがゼンめいた沈黙を維持している。
その電子マイコ音声より数秒早くヤクザスラングが響く。トレーニングボットとして用意されたクローンヤクザが雪崩れ込んできたのだ。
「「「「「ザッケンナコラー!」」」」」
「イヤーッ!」
ザゼン姿勢のままニンジャが跳躍! 背面ジェットが赤い爆煙を上げ瞬く間に空中へ躍り出る!
「イヤーッ!」
「「「グワーッ!」」」
回転回し蹴りが炸裂! ジェット推力で増幅された蹴りがクローンヤクザ十体の首を薙ぎ払った!
「イヤーッ!」
BRATATATA!!
「「グワーッ!」」
直後にヤクザガンを乱射! 残るクローンヤクザ三十二体はヘッドショットを受け即死!
マイコ音声がタイムスコアを告げる。ニンジャは息を吐いた。文字通り一呼吸の間に、彼は四十余りの命を奪ったのだ。
「ドーモ、ラスターチカ=サン。仕上がったか? ニュービー」
後ろから声を掛けられたラスターチカは振り返り、奥ゆかしくオジギする。
「ソニックブーム=サン。ドーモ」
「ドーモ」
ソニックブームもオジギを返すが、それは角度の浅い略式のものだ。
ヤクザの会合のように、両者の間には不可視ながらも明確な身分の差があった。
「少しカラテが足りねえが、まあ上出来だろう。ニュービー、最初の仕事だぜ」
ソニックブームに連れられるままトレーニング施設を出ると、入り口には二人のクローンヤクザが立っていた。
「着替えろ」ソニックブームが言った。「装束は生成できるんだったよな」
言われるがままジュー・ウェアを脱いだ。たちまち水色の輝きが体を包み、ニンジャ装束が形成される。
「あの、ソニックブーム=サン」
エレベーターに乗りながらラスターチカは質問する。「今から何が」
「今日はな」ソニックブームはこちらに脇目も振らなかった。「
「ハイ」生返事を返す。
エレベーターが開く。その瞬間だった。
「貴様か。ソニックブームがスカウトしたとかいうニンジャは……ドーモ、ラオモト・カンです」
「ドーモ。ラスターチカです」
ラスターチカは本能的にドゲザした。その一言一句一文節に至るまで殺気が漲っていた。
びりびりと空気が震えるのが、わかった。
「面を上げい」
その言葉を聞いて顔を上げる。黄金メンポに包まれた恐ろしい顔貌を見て、ニンジャなのだと悟った。
「よい心がけだ。此奴にはニンジャネームがすでにあるのだな」
「その通りです、ラオモト=サン」
ソニックブームが地に膝を付けてオジギする。マッポーの世にも息づく厳格なる礼儀作法。
「オヌシは飛べるのだったな?
「スミマセン」
「まあよい。ヒョットコは割るまで中身を確かめられぬ……ラスターチカよ、いつまでそうしている? タイムイズマネー!」
その檄が部屋の気圧を上げた瞬間、ラスターチカは反射的に叫んでいた。
「ヨロコンデー!」
「ムハハハハハ! その意気や良し! ワシには金が要る。ワシの手足となって金を稼ぐのだ! ソウカイ・シックスゲイツとして! ムッハハハハハハ……」
「……ハァーッ! ハァーッ……!」
ラオモトの前から退出した瞬間、ラスターチカは過呼吸を起こして廊下に倒れこんだ。未だ一人のニュービー・ニンジャでしかない彼にとって、ラオモトは対面するだけでもあまりに刺激的だった。
立ち上がれない。貧血めいて呼吸すらままならず、打ち上げられたマグロのようにタタミに這いつくばってえずく。ソニックブームが背中を叩いた。
「拾った時のお前ならあそこで死んでたぜ。仕上がってんじゃねえかよ、ラスターチカ=サン」
その剛直な声を聞いてなんとか呼吸が落ち着いてきた。必死にこくりこくりと頷く。
ラオモトは今まで見てきたどんなものよりも恐ろしくて、同時にどんなものよりも力強かった。惰弱な己の考えなど及びもせぬ強大な、ニンジャ。
そうだ、あれがニンジャなのだ。ヒトを超えし半神的存在。
「……ラオモト=サン……ラオモト=サン」
その名がニューロンに渦巻き続けていた。まるで遺伝子コードにまで刻まれたかのように。
「改めて最初の
「ハイ」
ラスターチカは立ち上がった。
「デスセイタン・ヤクザクラン。前のオヤブンは従順だったが今はクズだ。上納金も渋ってやがる……お前はまだ新入りだからな、まず手本を見してやるよ。ついて来い」
「ザッケンナコラーッ!」
「アイエエエエエエ!」
重金属酸性雨の中、くぐもった悲鳴が事務所に響いた。暴力を好み、恐怖で大衆を虐げるヤクザであってもニンジャにはかなわない。
「ソウカイヤはな、シリアスなんだよ。
CRRAAASH!! 「容赦しないと思う」と達筆に描かれたショドーが破り捨てられる!
「アイエエエ!」屈強なオヤブンの顔が恐怖に澱む!
「なあ、選ばせてやるよ」ソニックブームが失禁寸前な顔をしているオヤブンに詰め寄った。「今ここでケジメしてドゲザすればもう一週間待ってやる。一週間後に払えなかったら一日一人若いモンを殺す」ナムアミダブツ!
「アイエエ、できません」
「だから選ばしてやるっつったろうがコラー! 今すぐ全額払えば許してやるよ。今すぐだ! 持ってこい!」
「アイエエ! それもできません!」
「ザッケンナコラー! 成せば成る! 道具出せッコラー!」
「アイエエエ!」
そのマッポーめいた情景を、ラスターチカはあっけにとられながら眺めていた。ラオモト・カンを見た今では多少落ちるとしても、ソニックブームもまたニンジャである。今まで見てきたヤクザも皆このようにニンジャという元締めがいたのか。暴力の世界に君臨するヤクザたちにさえも。
あのカワチにも、きっと。
「できるじゃねえか。来月からはしっかり頼むぜ、オヤブンさんよ」
「アイエエ……」
万札の詰め込まれたアタッシェケースをいくつか、そしてオヤブンの指を抱えながら、ソニックブームはドアを蹴破って出て行った。ラスターチカも慌ててその後をついていく。
「とまあ、ナメた奴には暴力が一番効く……
「ハイ」
「それから暴力は加減に気をつけろ。これが下手だと夜逃げされる。飴と鞭だ」
「なるほど」
「お前は舐められそうだな……ちょっと待ってろ、これ着ろ」
そう言って目の前に出されたのは真っ白いマトイ・ジャケットだった。背中に太陽を背に上るドラゴンと「総会六門」の文字が刺繍されている。むろん、金糸で。
「よし。威厳が出たな、似合ってるぜ」
「は……ハイ」
ラスターチカは引きつった笑みを浮かべた。自分の審美眼が劣っているだけで一般的には似合っているのだと思うことにした。
それから何度目かの交差点で家紋タクシーが止まる。
「デスセイタン・ヤクザクランの事務所はあそこだ。俺はバックアップする。マズくなったら呼べ」
「分かりました」
錆びついた階段を上ると、「デスの悪魔な」「アブナイ」とショドーされた威圧的なドアがある。一般的なヤクザクランのあつらえだった。
そのドアノブを捻ろうとして、やめた。彼らはすでに上納金を滞納している。
「イヤーッ!」
CRRRASH!! グレネードにも耐える鋼鉄製のドアが吹き飛んだ!
「アイエエ!?」
「ザッケンナコラー!」
「ドーモ、ソウカイヤのラスターチカです。オヤブンはどちらですか」
できるだけ抑揚のなくした声で問いかける。その時!
「ザッケンナコラグワーッ!」
横からドス・ダガーで一突きしようとしたレッサーヤクザが一撃で叩き伏せられる! いかにニュービーといえどニンジャと人間の間には雲泥の身体能力差!
「オヤブンは?」
「うるせえ小童ーッ!」幹部と思しき男がヤクザガンを乱射!
「イヤーッ!」しかしラスターチカは流麗なブリッジ動作でこれを回避! ワザマエ! 背面からジェット噴流が上がり、その爆炎にヤクザたちが吹き飛ばされていく。
「グワーッ!」
その間にラスターチカは奥のデスクに座っていたヤクザをホールドアップし窓を破壊! そのまま外へ果てしなく上昇!
「アイエエエ!」
「貴方はオヤブンですか?」
「アイエエエ! そうです!」
「上納金、すぐ払ってください。それとも一緒にドライブしますか?」
「アイエエ! ゴメンナサイ!」
「それから」ソニックブームにもらったメモを確認した。「メン・タイの売り上げが落ちてますね。もっとガンバロ」
「アイエエエ! 人手が足りません!」
「クローンヤクザが売れています」
「アイーエエエエエ!」オヤブンの絶叫が一層大きくなる。
(((今時リアルヤクザにこだわってるクランはクローンヤクザが嫌いだ。上手く焚き付けろ)))
ナムアミダブツ! これは元
「では戻りましょう。上納金払ってください」
「アイエエ……」
抵抗する余力も失ったオヤブンは失禁しながらうなだれた。彼らが上納金を払わなかったのは決して造反の意図からではない。隣接するブディズムパンクとの抗争により財政難に陥っているのだ。
もちろん、ラスターチカはそれを知る由もない。
「安い! 安い! 実際安い……」
しとしとと降る雨の中、遠くからマグロ・ツェッペリンの広告音声がオヤブンの耳を捉えた。まるで哀れなヤクザのインガオホーを嘲笑うように、淡々と。
「……ウオオーーッ! ザッケンナコラー!」
「なっ、貴様!?」
アブナイ! 将来に対する不安が深淵に住まう獣のように口を開けたとき、このオヤブンは危険なヤバレ・カバレに出た! ポケットから隠し持っていたチャカ・ガンを乱射!
BLAM! BLAM! BLAM! BLAM!
「グワーッ!?」
右肩三発被弾! いかなニンジャとて銃弾に耐えられるわけはない! 至近距離から銃撃を受けたラスターチカは見る間に失速し、ネオン管に彩られたストリートへ墜ちていく。
「ハァーッ、ふざけた服着やがってクソニンジャがコラーッ!」
攻撃が効いていることに勢いづいたオヤブンが毒づく! ラスターチカは想定外の事象に驚きながらもオヤブンを振りほどこうと抵抗!
CRAAAASH!! 墜落!「「グワーッ!」」
「ハァーッ、ハァーッ……」
先に立ち上がったのはオヤブン! ドス・ダガーを抜きカイシャクを試みる!
「ザッケンナコグワーッ!?」
「ザッケンナコラー!」
オヤブンの顔面にトビゲリが命中! エントリーしたのは……ソニックブームだ!
「ドグサレッガー! 俺の舎弟にテメッコラー!」鼻面を折られた顔面を更にパンチ!
「アイエエエ!」
「ソウカイヤに造反しやがってふざけんじゃねえぞコラー! ケジメつけろ!」
「アイエエエ!」
ヤバレ・カバレさえ不発に終わったオヤブンは、ついに無抵抗となった。
「ラスターチカテメッコラー! 何ヘマやらかしてんだコラー!」
「アイエエ! ゴメンナサイ!」
帰路につく家紋タクシーの中でラスターチカは襟首を掴まれていた。
「暴力じゃニンジャに勝てる奴はいねえ。だが慢心してるサンシタは別だ! あんな腐れモータルに寝首かかせんじゃねえ!」
「アイエエ! ゴメンナサイ!」
「だが……」ソニックブームの腕力が不意に優しくなる。「事務所のドアを蹴破るのは悪くねえ。いい無慈悲さだった」
「エッ……」
「お前は根性がねえが、腐ってもニンジャだ。無慈悲なソウカイ・ニンジャになれる素質ってのがある」
「ソニックブーム=サン……」
ソニックブームは肩を叩いた。「ガンバレヨ。お前には期待してるからな」
「……! ヨロコンデー!」
先ほどまでの恐怖はもはや無かった。自分の体が感じたこともないソンケイに震えているのがわかった。
#SOUKAI@BURNOUT:ラスターチカ=サン
同僚のバーンナウトから急を知らせる連絡が来たのは、三件目の仕事を終えた時だった。
#SOUKAI@LASTOCHKA:ハイ
#SOUKAI@BURNOUT:ソニックブーム=サンが死にました
「……は?」
先走ったのは困惑だった。ソウカイ・シックスゲイツの実力者にして強力無比なソニックカラテの使い手。荒削りな戦法ながらそのワザマエは豊富な経験に支えられたベテラン。そして何よりも、自分のメンターが。
それがよもや、まさか。
「誰に」
#SOUKAI@BURNOUT:ヤモト・コキというニュービー、それから
#SOUKAI@BURNOUT:ニンジャスレイヤーという者です
「ニンジャスレイヤー……」
ラスターチカとてその名は聞いたことがあった。数年前突如現れ、たった一人ながらシックスゲイツを数人討ち取るほどの実力を持った大敵。彼がソニックブームを殺したに違いなかった。
#SOUKAI@BURNOUT:インセンティブが増額されています
#SOUKAI@BURNOUT:ASAPで殺すべきです。協力をお願いします
「イエス」と言いかけたラスターチカは思わず口を噤む。ソニックブームをもほぼ単独で下した強敵を、高々二人で倒せるものだろうか。倒せまい。いや───ふと気がついた。端末を握りしめる右手は、さっきからやけに震えていた。
違う。これは、きっとこれは理屈ではない。説明できない何かが、ラスターチカの心を阻んでいる。
#SOUKAI@LASTOCHKA:功を焦りすぎでは? 我々が手に負える相手とは思えません
「ハァー……腰抜けのサンシタが」
バーンナウトは高層ビルの上で悪態をついた。ギョクヤマ・ストリート辺り一帯を見渡せるそこは、ニンジャにとって絶好の待ち伏せ場所であった。
#SOUKAI@BURNOUT:これは実際チャンスですよ。ニンジャスレイヤーを殺せば昇進は確実、シックスゲイツ入りも有り得る。この機を逃す手はない
#SOUKAI@BURNOUT:ソニックブーム=サンの無念を今こそ晴らすときです
矢継ぎ早に文章を送ると、少し間をおいて返信があった。
#SOUKAI@LASTOCHKA:わかりました
「ククク。身代わりができた」
バーンナウトは思わずほくそ笑む。いざという時はラスターチカを囮にして罪を被せればいい。これでリスクヘッジも完璧だ。
「じゃ、ぼちぼちニンジャスレイヤーでも探しますか」
「その必要はない」
「……エ?」
予期せぬ第三者の声にバーンナウトが振り返った。しかし寂れたビルの屋上には自動販売機とゴミ箱があるのみ。
……しかし、おお、見よ!
「私は───」
ゴミ箱からジゴクめいた声が響いたかと思うと、
CRAAASH!!
「オヌシを殺すのみ。逃げなどせぬからだ」
ブッダ! ゴミ箱が四散し、そこには赤黒の忍者装束を着た男!
そのメンポには「忍」「殺」と刻まれている!
「何ッ……」
「ドーモ、バーンナウト=サン。ニンジャスレイヤーです」
赤黒のニンジャは決断的に、威圧感のこもったオジギを披露する。丁寧なアイサツだ。
「ド、ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。バーンナウトです。貴様どうしてここに!?」
「状況判断だ」
「くッ、狂人が」呆気に取られたバーンナウトはそう吐き捨てることしかできない。おそらく先程のIRCを逆探知されたのだ。ウカツ! そうであれば囮作戦も筒抜け! 己の不注意を呪う他ない!
#SOUKAI@BURNOUT:ニンジャスレイヤーですゴミ箱から現れました至急応援「イヤーッ!」
「グワーッ!」
応援要請を行おうとしたバーンナウトを強烈なケリ・キックが襲う!
「イヤーッ!」バーンナウトが右腕でガードしつつ左フック! しかしニンジャスレイヤーはフラミンゴめいて足を引っ込め回避!
「イヤーッ!」
すかさずニンジャスレイヤーのチョップ・ツキ! バーンナウトは流麗なブリッジで回避!
「イヤーッ!」
ブリッジ態勢のままバク転! マカーコ・キックがニンジャスレイヤーの顎を叩く!
「グワーッ!」
しかし追撃を緩めない! 「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」容赦ない連続セイケン・ヅキ!
「クッ……!」バーンナウトはワン・インチ距離にまで間合いを詰められていく! これではウカツな反撃ができない!
(((野郎、カラテが強すぎる! 一発でも当たればオダブツじゃねえか!)))
「イヤーッ!」
スリケンを投擲しつつ連続バク転でワン・インチ距離から離脱! と共に腰のカタナを抜く!
「俺を見くびるなよ、狂人め」
言いながら、彼は両手で持ったカタナをニンジャスレイヤーに向ける。危険なイアイドーの構えだ。
「これで俺も一撃必殺だ! イヤーッ!」
バーンナウトが踏み込み斬撃! 「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは高く跳躍して回避を試みる……「グワーッ!」
空中のニンジャスレイヤーが銃撃を受けて崩れ落ちる! 轟音! 青いジェット噴流を背負って現れたのは……ラスターチカ! 救援要請を受けた彼はレーダー・ジツによって素早く位置を特定し急行したのだ!
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン! ラスターチカです!」
なおも銃を構えながら、水色のニンジャは敵に向かってアイサツした。絶叫同然の、激情に濁って上ずったアイサツ。
眼前の怨敵は
「ドーモ、ラスターチカ=サン。ニンジャスレイヤーです……何人来ようと同じ事!」
赤黒のニンジャは空中にもかかわらず流麗にオジギ動作! そのまま着地し、バーンナウトの上段切りを両手で挟み込むシラハドリ・アーツ! しかし!
「グワーッ!」
これは何ということか! バーンナウトの刃が燃えるように赤熱し、ニンジャスレイヤーの掌を焼いた!
「ハハハーッ! 油断したかニンジャスレイヤー=サン!」
バーンナウトが興奮に上ずった笑い声! オムラ・インダストリ製プラズマ・カタナには、バッテリーを暴走させ刀身を高熱化する機能がある!
「イヤーッ!」
BLAM! BLAM! さらにラスターチカのヤクザガン銃撃が上空から降り注ぐ!
「グワーッ!」
咄嗟に突き出した左腕でガードするも貫通! 大口径重金属弾はニンジャにさえ痛打と成り得るのだ!
「イヤーッ!」
追い打ちめいてバーンナウトが渾身の斬撃! ニンジャスレイヤーはなすすべもなく受けることしかできない! 即席ながら何たるコンビネーションか!
「グワーッ!」赤黒の装束から鮮血が迸る!
「ハハハ! イヤーッ!」勝利を確信した笑みを浮かべながらバーンナウトは後退し納刀! イアイドーの中でも最大級の威力を誇る抜刀術で止めを刺すつもりだ!
「終わりだニンジャスレイヤー=サン! イヤーッ!」
銀色に輝く刃が敵の胴を叩き切らんと迫る! イアイドー奥義ムーンシャドウ! ニンジャスレイヤーは……おお、見よ! あろうことかザゼン態勢をとりアグラ・メディテーション!
「スゥーッ! ハァーッ!」
「血迷ったか!? そのままカイシャクしてやる! イヤーッ!」
カキン!
カタナがニンジャスレイヤーの手前で急停止。シラハドリ・アーツでつかみ取られていた。だがバーンナウトの確信は揺るがない。先ほどのように刀身を赤熱させれば仕切り直しできるからだ。
しかし次の瞬間、───ニンジャスレイヤーの両腕に縄のような筋肉が浮かび上がり、カラテがみなぎっていく!
「イイイヤアアーーッ!」
パキン!
おお、ゴウランガ! ニンジャスレイヤーの恐るべきニンジャ筋力によって、そのカタナは赤熱機構を起動する間もなく折られたのだ!
「何ィーッ!?」
驚愕に目を見開くバーンナウト! 事態の急を察したラスターチカがヤクザガンを構えた時、ニンジャスレイヤーはザゼンをやめ立ち上がっていた。
「これでワン・インチ距離だ」
腰を沈め、カラテを構える。ニンジャスレイヤーの恐ろしい闘気に満ちたカラテを前に、バーンナウトはガードをとることもできず硬直していた。ドーに秀でたタツジンは時にイクサを交えることすらなく、視線のみで相手を殺すことができるという。それと同じ現象が今、起こっているのだ。
「ラ、ラスターチカ=サン! 早く撃てーーッ!」
「……ッ、…………ッ!」
バーンナウトに応えるべく、ラスターチカは両手で必死にヤクザガンの狙いをつけていた。はたから見ればニンジャスレイヤーの動きは隙だらけだ。上空というフーリンカザンもまたラスターチカに味方している。致命傷を仕損じたとしても、反撃を許さず追撃できるはずだ。それに、
今撃てば、仇を討てる。確実に、絶対にイサオシになる。
にもかかわらず、なぜ。
「ハアッ、ハァーッ、ハーッ……!」
なぜ、こんなにも身体が震える?
───ニンジャスレイヤーの両腕がさらにカラテを増し、決意のこもった踏み込み! ゆっくりと、まるで演舞のような動作で、確実な殺意を秘めたパンチが放たれる!
「イイイヤアアーーッ!!」
「アバーッ!」
まともに食らったバーンナウトの腹部がはじけ飛ぶ! これぞジュー・ジツの奥義、ポン・パンチだ!
バーンナウトの体は二つに裂け、断面からエクトプラズムめいた光体が流出!
「サヨナラ!」
しめやかに爆発四散! その爆風を受けながら、赤黒のニンジャは空を見上げた。メンポに爆炎が照り返し、「忍」「殺」の字をいっそう強調する。
「あと一人だ」
「アイエエ! イヤーッ!」
BLAM! BLAM!
恐慌状態のままヤクザガンの引き金を引く。当たらない!
「イヤーッ!」
急加速! 状況を不利と見たラスターチカは復讐を放棄した! 最高速度で離脱を図る!
「イヤーッ!」
逃走するラスターチカの眼前にスリケンが突き刺さった。振り向いた先にはニンジャスレイヤーが! 彼はビルにぶら下がった電光掲示板をパルクールヒキャクめいて次々に飛び移り、追撃しているのだ!
「バカナー! イヤーッ!」
思わず恐怖の声が漏れ出す! クナイ・ダートを投げ応戦! しかしニンジャスレイヤーには当たらない! ラスターチカは未だ偏差射撃を会得できていないのだ!
「畜生ッ!」
ラスターチカは高度を稼ぐため垂直上昇! ニンジャスレイヤーは高層ビルを垂直で駆け上がりさらに追撃する!
「くっ……!」
ニンジャスレイヤーが速度を上げていく! 両者の距離はすでにタタミ数枚分!
「イヤーッ!」
跳躍するニンジャスレイヤー! その到達点はラスターチカ! 獲物を狙うイーグルめいたトビゲリが腹部に突き刺さる!
「ゴボーッ!」
ラスターチカは嘔吐! 戦闘中ゆえカラテ警戒をとっていながら重すぎるダメージ! なすすべもなく宙を舞う!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
続けて右フック! 一撃でラスターチカの右手骨折! 残酷なほどのカラテ差! もはやイクサですらない殺戮が行われようとしている!
(((嫌だ……死にたくない!)))
赤くにじむラスターチカの視界に、誰もいないビルの屋上が映る───「イヤーッ!」
ラスターチカのノズルが青い還流を上げる! その軌道はビルの屋上に衝突しかねない! アブナイ! 危険なヤバレ・カバレに出ようというのか!?
「イヤーッ!」
残ったわずかな血中カラテをかき集め、ラスターチカは屋上にセイケン・ヅキ! ブーム! けたたましい破裂音と共に衝撃波が空気を割き、ビル屋上を砕く!
瓦礫の中から姿を現したのは……おお、ナムアミダブツ! 夥しいほど大量に設置された
「ハァーッ……捕まえてみろ、ニンジャスレイヤー=サン!」
言い捨てたラスターチカはジェット噴流をさらに上げ、宙返りしながらセントリーガンビルへ突入!
BRATATATATATATATA!!
ドサンコ・グリズリーをも一撃で殺す徹甲弾の雨が降り注ぐ! だがラスターチカの速度には追い付けない!
「ヌゥーッ……イヤーッ!」
ニンジャスレイヤーも追ってセントリーガンビルへと落下! しかし自由落下のスピードにセントリーガンは容易く銃口を向ける!
BRATATATATATATATA!!
「グワーッ!」
徹甲弾の雨! その隙にラスターチカは秘密脱出口から外へ飛び出る!
CABOOOM!!
刹那、ノズルからさらに炎を上げて急加速! 恐ろしいセントリーガンビルはみるみる遠ざかっていく。
「ハァーッ、ハァーッ」
速度を上げて高空へと離脱しながら、ラスターチカは必死にレーダー・ジツを働かせる。周囲に敵反応なし。チャフやフレアさえも誤魔化せないこのレーダーが言うのなら、一先ず安心であろうか。
IRC端末にはソウカイネットからの警告が何度も通知されていた。おそらくはバーンナウトと共に造反を疑われているのだろう。事実彼は抜け駆けを試みていたのだから。
無論ラスターチカは何も知らない。だがバーンナウトは死に、彼は生き残った。責任をとれるのは自分だけだ。
しかし、彼には同時に先ほどまでのイクサがニューロンに焼き付いてならなかった。あれほどのワザマエを持つ者がソウカイヤに楯突いている。自分ではまるで相手にならないほどの、狂人が。
セントリーガンビルに押し込めることはできたが、あれで死んだだろうか。死んでいまい。あのニンジャスレイヤーがその程度で死ぬとはとても思えない。
あの忍殺メンポ。執念と憤怒に満ちた瞳。全てが忘れられない。
一夜明ければメンターは死に、自分はと言えばその仇討すら果たせずに逃げ延びるのがやっと。世界の真実を見せつけられたかのように、彼のニューロンは無意味な流動を続ける。
「……」
空を見ると、久方ぶりに満月が暗雲から顔を出していた。かの月もまた世界の真実を覗いたとき、何を囁くのだろう。いつものようにインガオホーと嘯くのか。
「トコロザワ・ピラー上空ドスエ」
ふと、IRC端末の自動音声が現実に引き戻す。その声と共に翼を遊動させ、ラスターチカは急降下する。
重金属酸性雨の降りやまぬ夜空に、青色の航跡が刻まれていった。
次回が最終回となります。現状ほとんど書きあがっていないのでもう少し時間かかりそうです、すみません……