ウィザーディング・ワールド・オブ・リコリス・リコイル 作:峰霧 澪
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「やぁぁぁっと着いたぁぁ!」まだ暑さの残る9月のロンドンに着いた2人はここ──キングス・クロス駅に来ていた。
2人の乗る列車が出発するホームは──9と
「それで……9と4分の3番線でしたっけ? いったいどこにあるんでしょう」
「さぁねぇ~少なくとも私には9番線と10番線しか見えないけどね」
2人の押しているカートには、籠に入った
「しかしどうしましょう……列車の出発時刻まであと15分もありません」
たきながそう言ったが、千束は早くも駅員に聞きに行っていた。
「Excuse me sir, how can we get to the platform No.9 3/4? (すみません、9と4分の3番線ってどこですか)」
「9 and 3/4!? I have no bloody idea about what the 3/4 is! (4分の3だと!? そんなもん知るか!)」
たきなには英語はあまり理解できないが、どうやら9と4分の3番線の場所を聞いて悪戯だと思われているようだった。
「あっはは……悪戯だと思われちゃった」
「そりゃそうですよ。0番線はあっても9と4分の3番線なんて聞いたこともないですしね」
「だよねぇ~……あっ! たきな! あれ見て!」
千束が指差すほうを見ると、2人と同じように大荷物を押している少年が9番線と10番線の間に立つ柱に向かって突進していた。
「危ない!──あ、あれ?」
気が狂ったのかと思うのも束の間、彼の姿はカートごと消え失せていた。千束はしばらく眼をぱちくりさせると、眼を輝かせてたきなの方を向く。
「ねえ今の見た!? あれだよ! 9番線と10番線の間に見えないホームがあるんだよ!」
「でも私たちもできるとは限らないじゃないですか」
たきなは半信半疑のまま反駁するが、千束は行く気満々だった。
「じゃあ早速行ってみよう!」
「ちょ、ちょっと待ってくださ……」
たきなが制止する前に、千束は柱に向かってダッシュし……消えた。
「き、消えた……」
さすがに後を追わないわけにはいかず、たきなも目をつぶり、ヤケクソで柱に突進する。
「────えいっ!」
そして目を開けると、そこには堂々たる
「本当に、あった……」
「ほらたきな! 魔法の汽車だよ!」
茫然自失とするたきなを尻目に、千束はご満悦の様子だ。
『Hogwarts Express on platform 9 3/4 will leave in 10 minutes. All aboard, please.(9と4分の3番線に停車中のホグワーツ特急はあと10分で発車致します。ご乗車願います)』
「ほらあと10分だって! 急がなきゃ!」
2人は貨物車に荷物を預けると、最低限の荷物──杖、制服、それに
「はぁ~……乗り遅れるとこだったよ」
「千束が荷物を雑に仕舞いすぎなんですよ。おかげで杖と制服を引っ張り出すのに5分も掛かったじゃないですか」
「ごめんごめん」
2人が軽口を叩いていると、菓子が山ほど載ったカートを持った客室乗務員がやってきた。
「お嬢さんがた、お菓子はいかが? 百味ビーンズに蛙チョコレート……」
だが、彼女の口上は千束の驚いたような声に遮られる。
「え、日本語?」
「日本語? なんのことだい?」
まさかイギリス人が流暢な日本語を話すとは思っていなかった2人は、てっきり「Beef or chicken?」あたりの定型文を想像していたのだ。──だが、どうやら彼女は英語を話しているつもりらしい。
「いえ、なんでもありません。そこの……ビーンズ? をください」
「……はい、10クヌートね」
たきなが誤魔化したが、客室乗務員はまだ不思議そうな顔をしていた。だが、それ以上は追及してこず、10枚の銅貨を渡すと次の客室へ行ってしまった。──振り返ると、千束が真剣な顔で考え込んでいる。
「どうしたんですか、千束?」
「さっきの人から聞こえてきたのは日本語だったのに、
「さあ……というか千束、そこまで見てたんですか」
「まあね~。銃弾に較べたらちょろいもんよ」
「そうですか……」
たきなが呆れていると、千束は菓子には眼もくれず、小さなブリーフ・ケースを取り出した。アルミ合金製のケースの中に納められていたのは拳銃──
「千束も食べたらどうですか?……うっ!」
「? なに?どしたの?」
「これ……本当に食べ物なんですか? 病気で吐いたときみたいです……」
「えーとどれどれ……あー、多分これだね。『ゲロ味』」
「うえ……」
初っ端からゲロ味を引いてしまったたきなが呻いていると、不意にコンパートメントの外から声がした。
「やあ。ここ、空いてるかい?」