ウィザーディング・ワールド・オブ・リコリス・リコイル   作:峰霧 澪

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お久しぶりです。今回は組み分けの儀式になります。
誤字・脱字などありましたら修正いただけますと幸いです。


#3: Sorting Hat|組み分け帽子

 マルフォイ一行が消えたあとは、楽しい汽車の旅だった。たきなは相変わらず鼻クソ味やらゲロ味やらに当たって顔をしかめたり、〝蛙チョコレート〟に逃走されていたりしていたが(前の方からもう一匹の蛙チョコレートが飛んできたのを千束は見逃さなかった)、千束はセント・パンクラス駅の近くで買い付けた人間界のお菓子を持ち込んでいたおかげで難を逃れた。

 十輛の客車を()いた古めかしい汽車は、分厚い濃霧のヴェールを突っ切り、甲高い汽笛の音を響かせながら、陽がおちても矢のように(はし)りつづけた。穀倉地帯を抜け、湿地帯を抜け、市街地を抜け――そして長い長いトンネルを抜けたところで、ようやく汽車は速力を減じた。

「あっ! ほら見てたきな、お城だよ!」

(はしゃ)ぐ千束の声に被さるように、ホグワーツ魔法学校への到着を報せる(しゃが)れ声の車内放送がコンパートメントの外で響く。――車窓には墨を垂らしたような(ほり)と、その只中にそびえる細長い高塔に囲まれた荘厳な城が広がっていた。

「ずいぶん大きな城ですね……サグラダ・ファミリアみたいです」

「桜田ファミリー?」

「違います」

たきなが千束のどうしようもないボケにぴしゃりと突っ込んでいる間にも、汽車はぐんぐんと城に近づいていき――軋むようなブレーキの音と、一段と大きな汽笛を響かせながら停止した。

「イッチ年生! イッチ年生はこっちだ!」

窓の外から粗野そうな、野太い声が聞こえてくる。角灯(カンテラ)を持った巨躯の男の声だ。

その声に釣られるように、客車からぞろぞろと出てきた一年生が二列に並ぶ。ローブに着替えた千束たちが遅れて列に並んだときには、大男を先頭にした長蛇の列は、ゆっくりと濠に浮かんだ幾十という小舟に乗り込みはじめていた。

 

城の階段――驚いたことに一定時間ごとに組み変わるようだった――を上りきったところには、厳めしい顔の魔女が立っていた。彼女の背後には荘厳な彫刻の施された巨大な扉が控え、脇では煌々と篝火(かがりび)がたかれている。

「マクゴナガル先生、イッチ年生を連れてきやした」大男がいった。

「ご苦労様、ハグリッド。ではここからは私が」マクゴナガルという名らしい先生が大男――ハグリッドに返す。ハグリッドが扉を通っていなくなると、マクゴナガル先生は一年生のほうに向き直っていった。

「ようこそ、ホグワーツ魔法学校へ。これからあなたたちは大広間で上級生と対面することになりますが、その前に組み分けの儀式を済ませねばなりません。あなたたちの家となるのは四つの寮――グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、そしてスリザリンです。よい行いは寮の得点となり、規則違反は減点となります。そして学期末に最高得点を取った寮には、寮杯が授与されます」

どうやら英国独自のカレッジ・システムに、規則違反を自粛させるための得点制度を導入したものらしかった。

「ねぇねぇたきな……」たきなが独り感心していると、千束が不安そうに肩をつついてきた。「さっき後ろから『組み分けの儀式でトロールと戦わされる』って話が聞こえてきたんだけど……」

「まさか」これには流石にたきなも驚いた。トロールというものを見たことはないが、人間相手ならともかく、魔法生物との戦闘となれば、魔法なぞ覚えていない二人が素手で対処するのは難しい。

「そんなことはないとは思いますが……念のため、戦闘準備だけはしておきましょう」

二人が拳銃の遊底を静かにスライドさせて弾を込めるのと、マクゴナガル先生が扉を開けて戻ってくるのは同時だった。

「では組み分けを始めます。ついてきなさい」

大広間に入った一年生たちは口々に静かな歓声をあげた。――それもそのはず、四台の長い長い机が並ぶ広間の天井は、天井をすっかり取り去ったかのように満天の星空が見えており、宙には何百本、何千本という蠟燭が浮いていたのだ。

「あの空は本物じゃないの。魔法で夜空に見えているだけ……」いやにハキハキとした声の女子生徒の解説が、どこからともなく聞えてくる。――だが、一年生たちの目は一つの古ぼけた三角帽子に釘付けだった。

「ここでお待ちなさい」一年生を帽子の前に整列させ、マクゴナガル先生がいう。「今から名前を呼びます。呼ばれた生徒は前に来なさい。組み分け帽子を被せます」

どうやら組み分けの儀式とは、この古ぼけた帽子を被ることのようだった。魔法生物と戦わなくてよいとわかり、列のそこここから安堵の声があがる。

「では……アンドリュー・カーター!」

 

アルファベット順に始まった組み分けが始まってしばらくすると、Cの段に入り――そして、ついに千束の番がきた。

「チサト・ニシキギ!」

千束が帽子を被ると、帽子はなにやら小さな声で独り言を言いはじめた。

「ふぅむ……勇気にあふれた子だ。死線を潜ったのは一度や二度ではあるまい。そして名誉のためではなく、誰かのために勇気を使う……面白い子だ」

帽子が低く笑い、しばし沈黙する。――そしてやおら口を開き、高らかに宣言した。

『よろしい、ならば―――グリフィンドール!』

グリフィンドールの長机からドッと歓声があがる。――千束はたきなに目配せをすると、椅子からぴょんと跳び降り、グリフィンドール生の間に消えていった。

千束が終わってからだいぶ経ち――千束の少し後に呼ばれたマルフォイは帽子を被るまでもなく『スリザリン!』と叫ばれていた――、今度はたきなの番がきた。

「タキナ・イノウエ!」

たきなが少し脚を強ばらせながら壇上に上がると、グリフィンドール席の千束と眼があった。――体ごとこちらを向き、隣の席を空けてたきなに笑いかけている。

『なかなか面白い子だ。冷徹な合理で目的を完遂する鋼の意志を持ちながら、友のためならば死地をも(おそ)れぬ勇敢さも持っている……ふむ! 難しい。実に難しい』

帽子は面白そうに静かに笑うと、たきなに言った。

『スリザリンに入れば、君には魔女としての洋々たる未来が約束されるだろう。だが君は合理一徹ではない。友のためならば命すら(なげう)つ勇気も宿している。……ひとつ(たず)ねよう。偉大なる目的と友の命、どちらかを選ばなければならぬとすれば――君はどちらを取るかね?』

そう訊かれた瞬間、たきなの脳裡(のうり)に千束の姿が浮かぶ。視線の先で笑顔を浮べながら自分を見つめる彼女の姿に、死を受け入れ、眼の奥の灯が消えたあの日の彼女の姿が重なる。

たきなは静かに眼を閉じ、落ち着きはらって答えた。

「昔なら、任務を優先したでしょう。でも、今は…………」

『よろしい』帽子が毅然としていった。『大義なき選択には、より大きな勇気が伴う。しかし、それでも友を選ぶのならば――――グリフィンドール!』

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