ウィザーディング・ワールド・オブ・リコリス・リコイル   作:峰霧 澪

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第4話です。誤字・脱字などありましたら修正いただけますと幸いです。


#4: Dumbledore’s Warning|生徒諸君に警告する

 たきなが千束の横に落ち着いたあとも、組み分けの儀式はつづいた。

 Pの部ではハリー・ポッター(()せて頬のこけた頼りなさそうな丸眼鏡の子だった)がグリフィンドールに組み分けされ、グリフィンドール生が「ポッターを取った!」と歓声を上げたし、Wの部ではロナルド・ウィーズリー(全身ボロを纏った赤髪の子だった)がウィーズリー家だからという適当な理由でグリフィンドールに入れられていた。

 最後にブレイズ・ザビニがスリザリンに決まると、ダンブルドア校長――という名らしかった――がおもむろに立ちあがった。――白く長い(ひげ)に半月型の眼鏡、それに骨ばった長い指と、いかにも老練な魔法使いといった風体だ。

「さて、ホグワーツの新入生諸君、入学おめでとう! 組み分けも無事終わったことだし、歓迎会を始めるとしようかのう。だがその前に、わしから二言、三言、言わせてもらいたい――それ! まぬけ(ニトウィット)泣き虫(ブラバー)残り物(オドメント)つねってやるぞ(トウィーク)! 以上!」

 ダンブルドアが言い終わるが早いか、机に並んでいた金の皿に、()()()()()()山のようなご馳走があらわれた。鶏の丸焼きにロースト・ビーフ、ロースト・ポーク、ラム・チョップ、マッシュ・ポテト、そして山盛りの()()()()……別の皿に目を移すと、茹でた豆や人参、南瓜(カボチャ)――そしてなぜか薄荷(ハッカ)飴が、これまた山のように盛られていた。

「見て見て! お肉がいっぱい! ご飯ないかなぁ~」山盛りの肉を見て千束が喜びの声をあげる。

「ないと思いますよ。ここイギリスですし。……それにしても、さっきの間抜けとか泣き虫とかって、一体なんだったんでしょう?」たきなが突っ込みながら不思議がる。

「ご馳走を出す魔法の呪文とかじゃない?」

「まさか……あんな脈絡のないのが呪文なんて困りますよ」

 そんなことを言っていると、千束の背中に悪寒が走った。――しかも、()()()()

「ひっ!?」

予想外の出来事に慌てふためいた千束が振り返ると、中世風に襞襟(ひだえり)をつけた、半透明の男が宙に浮いていた。

「美味しそうに食べますね、お嬢さん」

「もー、びっくりしたじゃん……おじさんも食べる? 美味しいよこれ」

笑顔にもどった千束が肉まみれの皿を差し出すが、男は悲しげにかぶりをふった。

「そうしたいのは山々ですが、食べたくとも食べられないのです。ゴーストなのでね……でも懐かしくなって、こうやって時々見にくるのです」

「お供えしたら味だけでもわからないかな?」千束が残念そうにいった。「おじさんのお墓の前に置いておくとかさ」

「そんな話はついぞ聞いたことがありませんが……今度試していただけますか? 四百年ほど食べていないもので。――おっと、自己紹介がまだでしたね。私はグリフィンドール塔のゴースト、名をニコラス・ド・ミムジー=ポーピントン卿と申します」

「僕、君のこと知ってる!」ニコラス卿が(うやうや)しく自己紹介をすると、横から威勢のいい声が飛んできた。くだんのウィーズリー少年だ。

「兄さんたちから聞いてるよ! 『ほとんど首なしニック』だ!」

「いえ、むしろ呼んでいただくのであれば、ニコラス・ド・ミムジー……」

ニコラス卿が憤然とした様子で名前を言い直しているところへ、今度は黄土色の髪の子が割り込んできた。

()()()()首なし? どうしてほとんど首なしなの?」

 妙なあだ名で呼ばれた上に話を遮られたニコラス卿は、憤懣(ふんまん)やるかたなしといった様子でむんずと左耳をつかむと、そのままグイッと持ち上げた。――九分どおりバッサリと斬られた首が、かろうじて繫がっている皮を境目にしてドサリと肩へ落ち、女子生徒の甲高い悲鳴の交じったざわめきがあちこちから上がる。

「ニコラスさん……それ、繫がってないけど大丈夫なの?」

千束がおそるおそる訊くと、ニコラス卿は首をぞんざいに戻しながら、不満げな顔を少しゆるめて彼女の方へ向き直った。――どうやらちゃんとした名で呼んだのと、彼の首の断面を見て生徒たちが怖がったのがお気に召したらしい。

「ああ……お気遣いありがとうございます、お嬢さん。ですが大丈夫ですよ。これ以上切れることはありませんし、そもそも私たちゴーストがもう一度死ぬことはありませんから」

「へー、そういうもんなんだ……」

 千束が相槌をうちながらステーキの刺さったフォークを口に運んでいると、皿の上いっぱいに盛られていたご馳走がいきなり消え失せ、かわりにデザートの山があらわれた。

スーパーの冷凍庫を丸ごとひっくり返したかと思うほどの大量のアイスクリーム、林檎の甘い香りの漂うアップルパイや糖蜜パイ、それに大人の腕ほどもあるエクレア……たきなが横に目をやると、千束が目を輝かせてアップルパイ――しかもホールだった――にかじりついているところだった。

たきなは内心ため息をつきながら、ニコラス卿が今年こそグリフィンドールが寮杯を獲得するようにと(げき)をとばしているのを横目に、チョコレート味のアイスクリームを三つまとめて皿にとった。

 

 やがて全員が満腹になると(千束は今になって体重の心配をしていた)、デザートの山はきれいに消え去り、今度は壇上からダンブルドアの咳払いが聞こえてきた。

「さて、さて。みなよく食べ、よく飲んだことじゃろう。じゃが諸君が寮へ戻る前に、伝えておかねばならんことが二、三ある」

 彼の表情は、さきほどとは打って変わって真剣そのものだった。

「まず一つ。〝禁じられた森〟には、何人(なんぴと)たりとも入ってはならん。一年生だけではない。繰り返すぞ――何人たりとも、じゃ」

ダンブルドアは重々しく言葉を切り、グリフィンドールの机の方に何やら目配せをした。

「そして二つ。管理人のフィルチさんから、授業の合間に魔法を使う生徒への苦情がきておる。注意するように」

生徒たちの目線が一瞬、広間の隅に立っている、瘠せて禿げた小男に集中した。

「三つ。今学期は二週目にクィディッチの予選がある。寮のチームに参加したい生徒はマダム・フーチに申し出るように。そして最後に……」

 ダンブルドアはしばしの沈黙の後、半月眼鏡の奥で眼光を強めていった。

「四つ。今年いっぱい、何人たりとも四階の右側の廊下に立ち入ってはならん。むろん、凄惨な死に方をしたいのであれば、話は別じゃがの」

彼はホッホッホと笑ってみせたが、眼は笑っていなかった。――大広間全体が、気圧されたように静かにざわめく。

「四階の廊下だって?」金色に輝く〝P〟のバッジを襟につけた()の高い男子生徒が、(いぶか)しげにいった。「変だな。校長はいつも、立入禁止の理由を教えてくれるのに。僕たち監督生だって理由は聞かされてないぞ」

「ねえパーシー、あれって冗談で言ってるんじゃない?」とロンが不安げに言うが、パーシーはかぶりを振るばかりだった。

 ざわめきが静まってくると、ダンブルドアが「では、寝る前に校歌を歌おうかのう!」と、一転して楽しそうな声でいった。――魔法のオルガンがひとりでに音楽を奏で出し、金文字で書かれた歌詞が虚空に浮かび上がる。

 生徒たちはオルガンの音に背を押されるように、一人、また一人と、自由なメロディーを選んで歌いはじめた。




《ひとくち解説》
【チップス(chips)】
→スイカのように切ったジャガイモを揚げたあの料理のこと。英国の名物料理「フィッシュ&チップス(Fish and chips)」についてくるのがまさしくこれ。
日本では「フライドポテト」、米国では「フレンチ・フライ(French fries)」と呼ばれている[※]。
英国では日本でいうところのフライドポテトを「チップス(chips)」、ポテトチップスを「クリスプス(crisps)」と言うため、義務教育で米英語を習った日本人は大いに混乱することになる。

※――なお、「French(フランスの)」という形容詞がついているが、チップスはフランス発祥ではない。ベルギー発祥である。
だがアメリカ人が勝手に勘違いしてフランス発祥と言い出したため、「French fries」にされてしまった。インディアンといいフレンチ・フライといい、ずいぶんといい加減な話である。
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