気が付いたら書き始めていました。
対戦お願いしますルーテナント
自分自身の名前に強いコンプレックスを抱いていた頃、西暦2015年7月30日の夜。
私、花本美佳はこれまでの全ての人生の色が塗り替わるほどの衝撃的かつ運命的な出会いを果たすことになる。
突然胸の内を駆け巡った、今でも理解できていない不思議な衝動に駆られ、私は家を飛び出し自転車を走らせた。こんなことなど初めて、ペダルを回す足は何故か最近頻繁に発生するようになった地震に遮られながらも、そこに着くまでは絶対に止まれないとしか思えなかった。
そうして衝動が示した先に辿り着いたのは、完全に荒れ果ててしまった小さな古い神社。直前の地震のせいだろう、中の社は倒壊してしまって……
呼吸が、できなくなった。
だってそこには……月の明かりに照らされた、見るも麗しい神様が……いたのだから……。
艶やかな漆黒の髪が夜風に流され、光と闇の両方を併せ持ったかのような瞳から頬を伝う涙……そんな、私と同じ年頃に見える少女の手にある不釣り合いと思えそうなそれも、逆にひどくその光景を神秘的なものにしたてあげていたかのだから……
一瞬で心を奪われた。1秒の半分にも満たない瞬間の出来事で、緊張で体が動かなく、息もできなく……
それが、この日の運命的な出会いの始まりの瞬間……
もう一つの運命との出会いの直前に起こった、我が生涯最大の出来事である。
ちっぽけな小学6年生の私、郡千景は夏休み中のこの日、家出をした。お父さんに何も言う事もなく、黙って家を出た……。
だってあんな家の中に居ても、息が詰まる……。自分で散らかしてばかりで一向に片付けられる兆しの無い汚部屋が目につく度に感じる不快感……私にも感じるそれを、一丁前に自分も感じて不機嫌になるお父さん……。
さらに1日中……不倫をして出ていったお母さんの悪口と、その面影を宿してしまった娘の私に突き刺さる、存在その物を邪魔だと思っているのを隠そうともしないお父さんの視線。
夏休みで学校に行かずに済んで良かったなんて、とてもじゃないけど思えなかった。あっちはあっちで、不倫したお母さんの娘ということで自分の存在価値全てを否定され続ける日々ではあったけど、あの家に居ても私が私で居る事を許してはくれない。学校の中で壊してもいいオモチャとして見られるか、家で棄てられない面倒なゴミとして見られるかのどちらかでしかない……。
だから、家出をした。先のことなんて何一つとして考えてなんかいないけど、それでも夏休み中あそこに居るよりは何倍もマシな気がした……例え野垂れ死にしてしまうとしても……。
(……これからどうすればいいんだろう……どうなるんだろう、私……)
ここずっと人なんて来ているとも思えないほど寂れた神社の片隅で、私は一人、途方に暮れている……。気が付けば私の足はこんな誰も来ようとは思わない場所にまで動いていて、そこで……今、全く見えない先の事だけを考えながら座っている。
(……私、どうしてこんな所にまで来たんだろう………どうして、こんな事ばかり考えなくちゃいけなくなったんだろう……)
ただ、ただ、漠然とそんなことを考える。時間を潰せるようにと思って持ってきたはずの携帯ゲームを取り出すことはなく、答えのないその問を、私自身に問いかけ続ける……。
昔はそうじゃなかったはずなのに……友達だっていたはずだったのに……家族だって、いたはずだったのに……。繰り返し、答えにもならないそんな愚かな問いかけだけが頭の中を過り続ける。頭の真上にあったはずの太陽が、山の向こうへと姿を消そうとするまでの間、ずっと……
「…………どうして、私なんだろう…………っ」
地面が、揺れる。
(……また、地震……最近多い……)
……ずっと考えていた……そう言うには少しだけ、語弊があった。
何故だかは知らないけど、今日は妙に多く地震が発生していた。小さくもなく、かといって慌てるほど大きくもない、揺れているんだってはっきりと認識できる程度の大きさしかなかったけど、それが今日だけでも10回近くあっただろう。
……こうも地震が頻発すると、何か良くない災害の前触れだったりしないだろうか……ここに来て私の心の中に新しい不安が芽生える。いっそのこと家に戻った方が安心なのでは……でもそうしたらまたあの窮屈で息苦しい世界に逆戻りだ……。
そして、そんな不安に駆られた時に限って……現実はまた、私の心を嘲笑う。
(えっ……!?)
地面が揺れる最中、それに合わせてベキベキと木製の何かが砕ける音が。その発生源は、この古ぼけた神社の社だった。
社はそのまま振動によって足が崩れ、倒壊する。大きな音を響かせながら、社は完全に崩壊してしまった。
「……まさか、倒れるなんて……」
驚いた……でも恐る恐る近づいて見てみると、折れていない箇所でもだいぶ傷んでいるように見えた。元からボロボロで手入れもされていなかった神社の社だ……。今日の地震がなくたって、いつか自然に崩れていたかもしれない。要はこうなってしまったことだって、仕方のない結末だったのだろう……。
「……誰にも見向きされていない……か」
私自身もそうだ。誰にも見つけてもらえず、誰にも気にも留めてもらえず、ずっと一人……。
この社も、私と同じで誰にも見つけてもらえず……そして、誰も見向きもしないまま壊れてしまったんだ。
「……? ……これって……」
社が崩れた際に、その中にある何かが外に放り出されてしまったのだろう……一瞬光って見えたそれは、砕け散った木片の無い地面に落ちていた。
私の手は自然と動いて、その物体を手に取って……
「何……? これ……? 刃物……?」
……この社の神様へのお供え物……だったのだろうか……。大きいけどすっかり錆び付いてしまって、その上柄も付いていない……変な刃。
……結局誰も居なくなり、見捨てられる。呆気なく崩れてしまった神社の社から見つかった、役目を果たせずじまいであろうそのまま朽ちていった刃物を見て、手にとって……
私は、思った……酷い悲しみを、感じながら……
この刃は誰にも見向きもされず、ずっとここにいたんだ。こんな誰も来ない社にずっと放置されて、錆び付いて。
手入れしてくれる人も、存在に気付いてくれる人もいない。
だから私は……そんな刃に……まるで自分自身がそうなってしまったかのように思えて……
「ずっと……一人で……私と同じだ……ずっと、一人で、打ち捨てられて……」
………………
涙が……頬を伝う。暗い夜の中、月明かりだけがその顔を映している。
落ちた涙は、独りぼっちの刃の上に……
遥か空高くから落ちてきたそれは、背後の崩れた社の上に……
ドゴォッッ!!!!!
「ッ!!!?」
その瞬間、背中に浴びせられたのは巨大な何かに押し出された激しい空気の濁流。そして鼓膜が破れそうになるほどの爆音……。
突然の風圧に私の身体は宙を舞い、勢いよく前へと吹き飛ばされる。
「っ! きゃぁあああ!!」
受け身なんて取る暇もない。当然の結果、地面に思い切り叩きつけられてしまう。不幸中の幸いなのか、持っていた刃は風圧を受けた際にポロっと両手から落としてしまったため、刺さってしまうなんてことはなかったけど……
(!? 何!? 今の!!?)
痛みもあるけど、それよりも驚嘆の方が勝っている。何が起こったのかさっぱり分からないけど、そもそも頭の中が全く回ってくれない。
それでもほぼ無意識にだけど、地面に倒れた私は取りあえずは頭を上げることくらいはできて……
「あ、ああああの……!!」
「……っ!」
見上げると、そこに見えたのは人の顔。私と同じ年くらいの、眼鏡をかけた三つ編みの、知らない女の子の顔だった。
「だだ、大丈夫ですか!? あの、思いっきり倒……お倒れになられたように見えましたけど……!」
「……え、ええ……」
なんでこんな寂れた神社に、こんな女の子がいるんだろう……って、私も人の事は言えないか……。
少しだけ、今の状況を確認しよう……。……突然、大きな何か私の後ろに落ちてきた……? その勢いで私は吹き飛ばされてしまって、たまたまこの神社の中にいた、目の前の少女の前に転がり込んでしまった……って、こと……?
……あ、相変わらず、何が起こったのかはさっぱりだ……。目の前の三つ編み眼鏡少女もその目を見れば明らかに動揺していた。オロオロと慌てふためきつつ、恐る恐るといった様子で倒れた私に手を伸ばしてはくれて……
「た、た立て!!! ましゅる!!! ……でひょうか!?!?!?」
……可哀そうに……言葉が噛み噛みになるばかりか裏返るほどパニックになっている……。それを思えばなんだか私の方は案外冷静なんだなって思えてきた……。そう思うついでに擦りむいてしまった痛みを感じながらも、伸ばされたその手を取らせてもらった。
「はぁうっっ!!!!!」
「あ、ありが、とう…………えっと……」
……ここにきて私の対人スキルの低さが顕著に出てしまっている……。突然訪れた変な状況だからというのもあるけど、そもそも全く知らない初対面の相手とどう接すればいいのかなんて……なんと続けていいかすら分からずに完全に言葉が詰まってしまう。
思わず彼女の顔から目を逸らしてしまう。だけどこの時、逸らした視線の先に一台の自転車が見えた。大きくはない、大人ではなく小学生が乗れるサイズの普通の自転車だ。人なんてほとんど来てない場所だっていうのも分かっているし、ほぼ間違いなく彼女の物だろう……。
薄暗くて見えづらかったけど、自転車の前輪カバーには文字……漢字四文字の名前のようなものが綴られていて……
「はなもと……よしか、さん……?」
「!!!!?」
「……違った……? よしか、みか、よしよし、みよし……よしかだと、思ったけど……」
……で、どうなのかしら? 書かれていた下の名前、美佳……普通に呼べば、みかと呼ぶ人が多そうだけど、なんだか私にはそうは思えなかった。昔から私は名前を
「……女神……様……!」
「……え?」
「よ
『───その声……』
「「!?」」
私も、よしかさんも、不意に後ろから聞こえた機械的な声に驚き、反射的にその方向を向く。
……そもそもの、こんな状況を引き起こした、落ちてきた巨大な物体……先ほどまで舞っていた土煙は完全に消え失せていて、月明かりがその全容を私達に晒していた。
『どうやらうまくいったみたい……だ』
「喋っ……た……!」
落ちた状態のまま固まっていた巨体が、折りたたまれていた両脚を伸ばして立ち上がる……。
透き通るような、それでいて月の光で反射する純一色の蒼は美しく、まるで空を閉じ込めたかのような……。
動き……それに併せて靡く純白の衣はこの上ない神聖さを。女の人が長髪を束ねた様を模しているように見える黄金の頭部は煌びやかな優雅さを。
立ち上がり、こちらを振り向いた、人のような形をしながらも人とは思えないような造形をしたそれは……濁して言う必要などない、全てが金属で形作られた一人の女性のような姿をした機械人形……即ち、巨大ロボット。ゲームや漫画の中でしか見たことのない空想の産物が……その頭部のガラスのような瞳を以って、私達をしっかりと捉えていて……
「っ!?」
嬉々とした声で、そのロボットは……私に向けてそう言った。
…………わけが、分からない……。全く理解が追いつかない……。
恐怖とか、混乱とかよりも、真っ先に頭の中を駆け巡ったのはそんな言葉だった。
(な、何……? えっ……夢!?)
『…………千景? どうかしたのか……』
「……!」
『むっ……その腕、擦り剝いて怪我をしているではないか…! 大丈夫か、千景!?』
「なんで……私の名前を……」
謎の巨大人型ロボットは、私を見つめながら私の名を呼ぶ。それはまるで私とこれが……あのロボットが知り合いであるかのような言い方で……
だけど、私にはそんな記憶は当然ないし、そもそもあんな巨大なロボットなんて見たこともない。だから今の私の衝撃は生まれて初めての大きさで、こんな些細な怪我の事なんて本当に忘れていたくらい……。
何故、このロボットは私の名前を……顔を知って……? 私は当然の如くその疑問を目の前の彼女にぶつけようとして……。
「……ちか…げ……千景…様……! ……それが女神様の御名前なのですね!?」
……突然私の隣にいた少女が、私に対して大声を出した。眼鏡の向こうの大きく見開かれたその瞳は、まるで宝石のような輝きで……な、なんで今……?
「さ、様…? というか…め、女神ってまた……!? 気を取り乱してしまうのはわかるけど落ち着いて……えっと……よしか…さん? で、結局いいのかしら……?」
こんなカオスな状況、いったいどこから対処していけばいいのか……。困り果てていた私への助け船は……意外な所から現れた。
『よしかだ、千景』
「っ!!」
『
花本…美佳……よしか……。良かった、合っていた……。
…………待って待って待ってってば。違う違うそうじゃない。この謎ロボット、私の名前だけじゃなく彼女の名前も知っているのはどういうことなのよ……! こっちの謎が減ったかと思いきや逆に向こうが増えてるじゃない……!
空から飛来した未知の存在が自分の事を知っている恐怖染みた事態……嫌な予感を感じつつ、同じ状況に陥っているであろう花本さんを横目で見て……
「か……神様ぁ!!」
…………なんか、目をすごくキラキラ輝かせながら子供みたいにボロボロ涙をこぼしていた……。神様って……アレが……?
『……あ、あれ? か、神……千景だけじゃなくて、私も?』
「……な、なんなのこの子……」
……ここには私以外には変なのしかいないの……? 困惑して麻痺していた頭が回復してきたのか、少しずつ、ようやくイライラが募り始めてきたわ……。
「ああもう!! 何なのよこれは!!」
『うおっ…!? ち、千景…?』
「っ!!? し、失礼いたしました!!!」
「あ……ごめん、ちょっと声が大きすぎたわ……」
「い、いえ! お気になさらず!!」
「……ともかく……そこのロボットは何者なの……いきなり空から現れて……何が目的なのよ……?」
怒鳴り声ではないにしても、我ながら十分すぎるほど声に不快感が滲み出てしまったものだと思う……。
『むう……今日の千景はなんだか機嫌が悪いな……』
「…………」
「ち、千景様…! お顔が少し……その、怖いです……」
……花本さん、そういう風に見えるとしても私は何も悪くないわよね……この非常識なスクラップがそうさせているんじゃないかしら……!?
「こ た え な さ い」
『ま、待て! 話す! 話せばわかる! だからそんなに怖い顔をしないでくれると助かる……!』
……ようやく、まともに話をしてくれる気になったみたいね。
……にしても、こいつロボットのくせに感情と表情が妙に豊かね……。
ロボットはわざとらしくゴホンと咳払いをしてから、急にまじめな表情を作って……
『私は!! 清廉なる誇り高き血潮と魂を宿す神の使者!! 次元の壁を突き破り、
(イラッ……)
……なんだか不思議と神経に障る名乗りのせいで、私のイライラは増していく。
「神の……使者……! 勇者…ノギワカバーン……様!」
……そしてそんな私とは対照的に、またしても花本さんは目をキラキラと輝かせて……。いいのかしら……勇者と言うより、大魔王の側近みたいな名前だけど……。
『単刀直入に言う。千景、そして美佳……今、この世界は未曽有の危機に立たされている!!』
「「…………え?」」
その非常識ロボットは……非常識な名前と同じく、私達にそんな馬鹿げた言葉を言い放った。
『人類を憎む神が動き出したのだ。奴は化け物の群れを放ち人々を』
「…………いい加減にして……。もう、本当に…頭がおかしくなる……」
『………』
「千景様……」
「世界に未曽有の危機? 冗談のセンスがあまりにも酷すぎじゃ……」
『冗談などではない』
「っ!」
嫌にはっきりとした声色で、私の言葉に割り込むようにそう言った。
その言葉が宿していた迫力通り、ロボットの表情は真剣そのもので……さっきまでのふざけた態度とは全く別物だった。
『……この村は、類い稀なる幸運に恵まれているだけだ。もう既に、世界中で奴らの襲撃は始まってしまっている……』
「世界中…って……」
「奴らって……いったい何を……」
『……これ以上は、ここで呑気に説明していられる場合ではない』
不愉快ロボットは片膝を立てて、私に対して跪き手を差し出す。そしてその胸元のハッチが開き……
『さぁ、私の中に乗ってくれ』
誘い……私の頭はついていかない。世界の危機が冗談ではない……? それでロボットは私に一体何をさせたいの……?
何をさせたいのか全く分からないけど、だけど……これが冗談でも悪ふざけでもないことだけは、なんとなく、嫌と言うほど理解できた……できてしまった。
『お前の力を借してくれ……!』
本当に意味が分からないけど……ただ分かることは一つ。このロボットは……本気だということだけ……。
『私と共に……世界を守ってくれ!! 勇者、郡千景よ!!』
「……っ!」
……真剣に、私の目を見てくれた存在なんて、いなくなったはずだったのに……
「………ふざけないで」
『……千景……』
「…………力を借せなんて……こっちは何も知らないんだから……嫌に決まってるでしょ」
……本当に、ふざけないでよ……
「……時間に余裕が無いんでしょう。後でちゃんと説明してもらうわよ……」
……自分で言っていて意味が分からないけど、自然と私の脚はロボットの方に歩いていく。
『千景……恩に着るぞ!』
「千景様……!」
うるさいうるさいうるさい……どうせ家出してこれからどうするのかを考えていたところだったのよ。だからこれはただ、気が変わっただけ。こんなふざけたロボットに勝手に話を進められていることに腹が立ったから、後で徹底的に文句を言いたくなっただけ。それだけなんだから……。
だけど……馬鹿ロボットに歩み寄ろうとした私を、ふと見えない何かが引いたような気が……。それに、私の心の中でも何かが忘れないでと焦燥感をゆっくりとなぞるかのような……置いていかないでと……。
「……ちょっとだけ、待って」
少し逸れて、独りぼっちのそれの元へ。あのデカブツのせいで落としてしまったままだった、錆びた刃物を再び拾い上げた。
元々私の物でも何でもない、この忘れ去られた神社にあったものだけど。罰当たりかどうかはあれだけど……持っていくことにした。他ならないこの刃物がそう言っているように感じて……。
『……もしやそれは、大葉刈ではないか』
「……知ってるの? 大葉刈って……日本書紀の?」
『詳しいな。さすがは千景だ』
「……あなた私の何を知っているのよ……」
『さてな? さぁ、そろそろ私の中に乗ってくれ千景』
……乗る……かぁ……。正直こんな得体の知れないロボットに乗れって言われて、気が進むわけがないでしょう……。でも雰囲気的にも私がこいつの中に乗らない選択肢がどこにもないのって……
……本当に、嫌々ながら、私は差し出された大きな手の平の上に乗る。そのままゆっくりと胸元のハッチのところまで動かされ、四つん這いで這って中に入り込んだ。
「…………これって……」
入ってすぐに、窮屈さとは無縁の空間があった。中央にはコックピット。如何にもなロボットの操縦席と、妙に目を引くデカい紫のレバーが……。
半分流れに身を任せて操縦席のスティックを握ってみる。するとこの空間全体が淡く青く照らされ、正面の巨大なSFチックなモニターが映し出される。そこには崩れた社と、こちらを見上げている花本さん……外の風景がそのままハイビジョンで私にも見えていた。
「……どこのどんなテクノロジーで作られてるのよ……」
呆れて物も言えないことばかりだけど、ここは正直興味あるかも……。
『千景、覚悟を決めたのであれば操縦席のレバーを引いてくれ! 最高速度マッハ1、超高速飛行形態に変形する!』
……サラッととてつもない事を言ってくるわね……マッハ1の超高速飛行形態って……レバーって、明らかに目立つこれの事かしら……そっとデカいレバーに手を伸ばして……
『違うッ!!』
「っ!?」
『その最終兵器の【満開レバー】を使うにはまだ早い!! 反対側の青いレバーを引くんだ!! 車のレバーと同じぐらいのやつ!!』
「さ、先に言いなさいよ!?」
最終兵器をこんな分かり易い所に設置しておくんじゃないわよ!! ……ていうか向こうは機体内部の事なのに分かるものなの……? だったらそこにいる私の様子も全部…………きも。
『気持ち悪いと思っているような顔をするな!! いいから早く引けレバーを!!』
「ああもううるっさいわね!! 引けばいいんでしょ引けば!! はい!!」
『形態変形! ノギワカバーーード!!!』
変な掛け声と一緒に、ガシンガシンって金属が鳴り響く。だけどその機体の中にいるはずの私には全くその音に見合う振動とかは何も感じなかった。すぐにその金属音は鳴りやんだ……次の瞬間……
「え……ええぇえええええ!!!?」
「っ!? は、花本さん!? どうしたの!?」
機体内部にも響き渡る花本さんの驚愕に満ちた叫び声。たまらず操縦席から身を乗り出して、モニターに映る花本さんを凝視した。
「の、ノギワカバーン様が……麗しい青い鳥の姿に……」
「……そ、そんなことになっているの……?」
『これこそがノギワカバーン超高速飛行形態。その名もノギワカバードだ!』
「そのまんますぎるでしょ……」
やっぱりこいつのテクノロジーは完全におかしい……ゲームや漫画の中から飛び出てきたって言われても、そうなんだって信じてしまうかもしれないわ……。
『……美佳よ』
「っ、は、はいっ!!」
『これから私と千景が赴くのは、奴らの蔓延る死地だ』
「そんな……!?」
「ちょっ……!? 何よそれ! こんなタイミングでいきなり……!」
このっ!! 乗った後でそんなことを言いだすなんて卑怯よ!! そりゃあ最初に世界の危機とか言ってただろうけど、わざわざそこに突っ込まなくたっていいでしょうが!!?
『先ほども言った通り、この村は奇跡的に被害を受けることはない……だからお前の身の安全は保障されている』
「で、ですがノギワカバード様……! ノギワカバード様と千景様は……!」
『ノギワカバーンでいい……案ずるな美佳』
そしてこのおたんこなすロボットもとい鳥は、ムカつくほどさわやかな声で言った。
『私には千景がいる。千景には……このノギワカバーンが付いているのだからな!』
「ノギワカバーン…様……!」
何処をどう聞いたら安心できるのよそれは!!!!?
『また会おう、美佳……発つぞ千景ぇえええ!!!!』
「こんのぉ……すっとこどっこい馬鹿バード!!!!」
激しい感情に突き動かされ、目一杯スティックに力を込める。瞬間、大気を切り裂く轟音が。
せり上がる感覚と共にモニターに映る景色がみるみるうちに空の物へと……風を切り、雲を突き抜け、目まぐるしいスピードで空を飛んでいる……
何と言うか……直前まではかなり不快感があったのに、爽快感が……すごい……
「…………!」
『空を飛ぶのは初めてか、千景?』
「……悪い?」
『いいや』
……でも、いつか飛行機に乗ってみたいっていうささやかな願いは、昔あったわね……。飛行機じゃない、こんなロボ鳥の中に入って空を……なんて、あの頃の私が知ったらどう思うだろうか……。
『不安か?』
「……どこかの馬鹿が、死地に行くなんていうからよ……」
『……それはすまない。しかし、実感は無いだろうが、本当にこの地球上で安全な場所というのはごく僅かしか残されていない……』
「…………」
『世界中で大勢の人が、今、この瞬間も惨たらしく殺されているんだ……』
結局、こいつの言う未曽有の危機とやらもまだ分かってはいない。だけどそれはきっと、事実で、今の言葉も本当の事しか言っていないんだと思う……。
『……だが、私は言ったはずだぞ千景?』
「?」
『千景には、このノギワカバーンが付いていると! 私がお前の側にいる限り、奴らに千景には指一本とて触れさせん!』
「……そうね……危なくなったらあなたを囮にしてさっさと逃げたらいいだけよね」
『はっはっは! そうだ、私の身体は硬くて頑丈だからな!』
……本当に、変なやつ……。
『……このまままっすぐ飛ばしてくれ……我々が向かう先は……島根だ。高知から島根まで、直線距離でおよそ160キロ……我がノギワカバードの翼を以ってすれば10分もかからず辿り着ける』
「島根県…? どうしてそこに」
『そこにいる、千景と同じ勇者、乃木若葉と合流する』
私と同じ勇者……そういえば、こいつの言う勇者、というのは何なのかしら? RPGの勇者と同じとは考えにくいけど……
その勇者である郡千景、乃木若………………
「ノギワカバ!!!? ちょっと!!? ノギワカバって、明らかにあんたと関係……!!!!」
『さぁ行くぞ千景ぇえええええええ!!!! ノギワカバードウィング、全力全開だあああああああああ!!!!』
「最後まで言わせなさいよぉおおおおおおお!!!!」
世界全てが大きく変貌を遂げる悪夢の始まりのその日、私は彼女と出会ったのだ。