勇者爆発バーンノギワカバーン   作:I-ZAKKU

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 ゆゆゆ10周年で創作意欲が沸き上がったので、エイプリルフールネタだった本作を復活させました。
 準備はよろしいか、ルーテナント


『私は誇り高きノギワカバーン。乃木若葉とは一切合切関係は無い』

 西暦2018年7月30日……この私、乃木若葉は我々が本拠地とする丸亀城の石垣の上から瀬戸内海を見渡していた。

 

 私自身に課したルーティンというべきだろうか。

 青く広がる広大な海と、その果ての……聳え立つこの土地を包む巨大な植物の壁。その光景が、私の目に映る。

 

 映れば、その次には必然的に定めた誓いが頭に浮かぶ。あの壁は人々を守る聖なる存在だが、同時に我々の世界が数多なる命と共に奪われてしまった証でもあるのだから……。

 

 奪われてしまったのなら取り返さなくてはならない。取り返しのつかないものなら何としてでも報いを受けてもらわなければならない。

 その誓いを思い出すために、私はこうしてこの場に立っている。

 

 今でも鮮明に思い出せる……あの日の恐怖を。絶望を。怒りを。

 

(あの日から三年……か)

 

ガシャーン! ガシャーン! ガシャーン!

「………」

 

 

 背後からの重々しくて独特な金属質な音を響かせる、空気と世界観を壊しかねない足音で、思いにふける私の意識は呼び戻される。

 

 そうして鮮明に思い出す…………あの日かつてないほど頭の中を真っ白に染められた、どう考えても異常で、明らかに理不尽で、完全に理解不能で、徹底的に間違っていて、総じて何もかもが狂っていた……焦り戸惑い衝撃を。

 

 ちょっとしたトラウマを掘り起こしてしまいげんなりしかけている間に、後方の高い場所からパシャリと聴き慣れてしまったカメラのシャッター音が鳴る。振り返り、そして見上げた先には、謎の蒼い巨大人型ロボットの掌の上に座ってスマホを構えた私の幼馴染、上里ひなたが……。

 

「高いアングルからの海を臨む美少女若葉ちゃん……実に絵になる一枚です! ありがとうございますノギワカバーンちゃん! 若葉ちゃんの秘蔵画像コレクションがまた一つ充実しました♪」

『ふふっ、文字通り手を貸しただけだがひなたに喜んでもらえて何よりだ。ひなたらしい、こちらの胸も温かくなる良い笑顔だ。お前もそう思わないか、若葉?』

「もう、いやですねぇノギワカバーンちゃんったらぁ! うふふふふ♪」

「……ひーなーたー……! ワカバーン……!」

 

 物心つく前から一緒にいる幼馴染のひなただが、彼女の訳のわからない写真の趣味は未だに受け入れられるものではない! 消させようとスマホに手を伸ばそうと思うも、地上からおよそ7メートル離れた高所にいるひなたに手を伸ばしたところで届くはずもなく、苦虫を嚙み潰したような表情を作るだけの私にひなたは勝ち誇ったように笑う。

 

「これで手が出せませんね? ノギワカバーンちゃんの力を借りた私はもはや無敵です」

「くぅぅ……! ワカバーン貴様! 仮にも乃木若葉を名乗るのなら、ひなたの頼みとは言え人を辱めるような行為に加担するなどあってはならないことだろう!?」

『何を言う若葉。ひなたや千景、みんなが笑顔でいられるのならば私の名誉などどうでも良い。そもそも私は誇り高きノギワカバーン。乃木若葉とは一切合切関係は無い』

「嘘をつくな嘘を!」

 

 それが偶然だとしてだ、あってたまるかそのような偶然!! ノギワカバーンなどと耳にする度に恥ずかしくなる名前と尊敬する我が祖母譲りの口調、私の髪型そっくりな頭部の分際で関係が無いなどとよく言える!

 ………ではその正体が何なのかと聞かれたら、あまり考えたくはないのだが……。非常に遺憾なこと故に。

 

『だいたい、若葉が本当に本気で写真を撮られるのが嫌だと言うのなら、ひなたに直接言えば良いだけの事だろう。いつも嫌がったり恥ずかしがる素振りこそすれども強くは言わないなどと………流石にちゃんと伝えれば、ひなたも自分の欲求よりも若葉本人の意思を尊重するはずだろう?』

「………………ソウデスヨーイヤデスネーワカバチャン」

「今の間は!? 露骨に目を逸らされたが!? 感情が全く込もってもないが!?」

『アッハッハ! 結論、良いではないか。写真なんてシンプルでわかりやすい幸せな思い出なんぞ、いくらでも残しておくべきだ』

「あうぅ……わ、若葉ちゃん……もしかしなくても本当に嫌なんですか? 私にとっては大事で、幸せな思い出が……」

「ゔぅ……い、嫌と言う訳では無い……のだが……」

『では決まりだな! 我々の勝利だ、ひなた!』

「はい! コレクション活動継続の言質ゲットです! やりましたねノギワカバーンちゃん!」

「しゃ、釈然としないぞ貴様等…!!」

 

 声を荒げたところで、掌の上にいるひなたと仲睦まじく巨大な指先でやんわりとハイタッチをする奴に言いくるめられてしまった言葉は覆らない……。顔を赤らめ改めて、3年前のあの日からできてしまった妙な存在との繋がりを振り返り、深いため息こぼすのだった。

 

 

 忘れもしない3年前のあの日……絶望が空からやってきた日、そいつも空からやってきたのだ。

 

 

勇者爆発バーンノギワカバーン

Bang Hero Bang Nogiwakaburn

 

伊予乃ミュージック Presents 

うた ノギワカバーン

 

燃える誇り高き我が魂♪
<会いたかったぞ、千景! 
叫びが天を貫き星を断つ♪
<今、この世界は未曽有の危機に立たされている!!
愛する仲間と力を合わせ漆黒の世界に光を取り戻せ!
<私の中に乗ってくれ!
勇気を胸に宿し飛び出せ!ノギワカバーン!
<行くぞ千景ぇえええええええ!!!!
一閃!千影!きらめく刃が悪を打ち倒す♪
<バーテックス! 貴様等の悪逆無道もこれまでだ!
旋回!敵を翻弄しろノギワカバード!
<この胸に宿る我が魂と千景でお前達を倒す!
明日を掴むはお前の勇気だ♪
<これが私達の秘奥義! 千景ッ斬ーーー!!
CENKEI CENKEI ノギワカバーン!

 

勇者爆発バーンノギワカバーン オープニングテーマ【千景(せんけい)】ノギワカバーン 神世紀元年2月3日配信開始

 

<今日から君も千景と同じ、勇者だ!

 

勇者爆発バーンノギワカバーン

Bang Hero Bang Nogiwakaburn

 

 遡って語るとしよう……三年前の2015年7月30日の夜、世界各地で爆発するかのように広がり襲い掛かった、絶望の螺旋を。

 

 当時の私は小学5年生。その時はたまたま私達の小学校は修学旅行の時期であり、地元の香川県から島根へとやってきていたのだ。

 だがその日は日本中が断続的に起こる地震に見舞われてしまい、私達の修学旅行も災害という非常事態から避難するためにとある神社へと移動した。その地震が後に起こる想像を絶する悲劇の前兆など、知る由もなく……。

 

 その時点では多少の不安こそ胸の内を燻りはすれども、そこまで大事になることは無いだろうと楽観視していた者がほとんどであり、むしろ修学旅行中に起こった意外なハプニングを珍しいイベントとして受け入れて楽しむ者すらもいた。

 私だって状況その物を楽しんでいたわけではないが、この状況になったからこそ訪れた機会によって今まで壁を感じていたクラスメイトと話せたりもできたんだ。

 

「あはは、なんかわたし、乃木さんのイメージ変わったかも」

「だよねー。普段からビシバシ厳しい感じかなーって思ってたのになんだか面白いし!」

「うんうん、それからさっきのあたふたしてた時の乃木さんって可愛かったし!」

「かわっ!?」

「そうなんですそうなんです! 若葉ちゃんってばちょこっと不愛想に見えてしまうところがあるんですけど、そんな時でも割と結構可愛らしい悩みで悩んでいたりするんですよ~。この前なんかお土産で貰ったプリンがとっても美味しくて、どこに行けば同じ物を買えるんだろうって、真剣になって頭を悩ませていたなんてこともあったんですから♪」

「ひ、ひなた!!? そ、そんな事わざわざ話さなくたって……!!」

「「「あはははは!」」」

「う、うぅぅ~!」

 

 ………仲良くなることができた。思い返してみてもその瞬間は楽しくて、幸せで胸が温かくなったんだ………。

 

「ねえ乃木さんと上里さん! 修学旅行が再開したら、よかったら一緒に色々見て回ろうよ!」

「い、いいのか…?」

「だって私たち、もう乃木さんと上里さんと友達だし!」

 

 ………彼女達は私とひなたに、笑いながらそう言ってくれたんだ……。

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして、

 

「───それにしても困りました。若葉ちゃんがクラスの人気者になってしまったら、もう私に構ってくれる余裕が無くなってしまうんだって思うと……私は若葉ちゃんにとってはもう、過去の女として捨てられてしまうのでしょうか……」

「な、なにを言うんだひなた!? そんなわけないだろう! 例えこれからどんな人間に会おうとも、何があろうとも、ひなたは私にとって一番の友達だ!」

「うふふ、冗談ですよ冗談。ちゃーんと分かっていますから───」

 

 その瞬間、地面が激しく揺れ動く。あの日頻発していた地震の中でも特段、立っているのさえ困難な程の大きな揺れがこの地を襲う。

 その時私とひなたは既にクラスメイト達とのお喋りは止めていた。神社の外に出て夜風に当たりたかったから……だから、目の当たりにした。

 

「…ふーっ、ひどい揺れだ……大丈夫かひなた!?」

「…………怖…い……」

「え? ひなた…?」

 

 この目で、星々を。ひなたと共に。

 

「……何か…すごく……怖い、ことが……」

 

 ひなたの様子は普通じゃなかった。ただならぬ雰囲気を身に纏うひなたを前に思わず息を飲んだが、ひなたの視線の先は私を映してはいなかった。

 その視線の先の星々を私も見上げた時、言葉を失った。

 

 蠢めいていた。私達が生きるこの世界を見下ろしながら、不規則に。

 星々は悍ましさすら覚える程に、果てしなく巨大な厄災の世界を、そして空をも覆い尽くすかの如く蠢いていたのだから……。

 

「──ッ!?」

 

 声にならない叫びを上げた次の瞬間、星々は【化け物】へと姿を変え、【絶望】へと名前を変え、この世界へと降り注いだ。

 

 その姿は恐ろしく白く、口と歯のような器官のみが顔面を占めていた、化け物だったんだ。その口と歯を以てすれば、人間なんぞたった一口で喰い殺せるほどの巨体で……それが獰猛な勢いで、私達が寝泊まりするはずの神社の神楽殿に殺到した。

 ……この時の私は理解が欠片も追いついていなかった。現実離れしすぎたこの光景を目の当たりにした結果、ただただ茫然とその場に突っ立っているだけで、

 

「……………なん…だ、あれは……?」

 

 疑問の声だけをその場に零すだけ。動かなかった。動けなかった。頭の中が真っ白になったようで、この現実が何を齎そうとしていたのか、全く考えることができなくて……

 

 

 そんな私とひなたの存在に知ってか知らずか、二匹、三匹と……この世の存在とは思えぬナニカは、その巨体と口で神楽殿の屋根や壁を壊し、そして……

 

「きゃああああああああああああっ!!!!」

「っ!!?」

 

 恐怖一色に塗りつぶされた、たくさんの人の声が混じり合った、絶望の悲鳴が……

 そこで私の呆けていた意識は覚醒した。反射的に悲鳴が聞こえた神楽殿の方に意識と目を向ければ、恐怖に怯えた様子の人々が叫びながら、弾かれたように外へと逃げ出している。

 その中の一部の人の顔や衣服には、一目見ただけで背筋が凍るほどの、恐ろしい赤色が付着していて……。

 

「!! みんな!!!」

 

 私は神楽殿へと駆け出した。外へ逃げ出した人々の中には知っている顔もあったが、全然足りなかった……。あの中には私とひなたのクラスメイトや担任と引率の先生が居るはずだったのに……。

 そこに、あの得体知れない化け物が入り込んだのであれば……守らなければ、と……そう思ったんだ。

 

 友達を……

 

 

 

 

 

 守らなければと、そう思って駆け込んだ神楽殿の中で目にしたものは……地獄だった。

 先程外へ逃げ出せずにいた罪なき人々が、複数の白い異形の化け物によって喰いつかれ、貪られ、血肉をまき散らされる……残虐の限りを尽くして殺される、そんな地獄……。

 

「………………あ……ああ……」

 

 つい先刻まで立って歩いて、生きていた頃の形は無かった……。辛うじて残っていたのは、夜の闇と差し込む月の明かりに照らされた、赤黒い肉片……。

 それを目にした時、心臓に冷たい刃物を突き付けられたように全身に怖気が走る。心臓が跳ね、鼓動が加速した。

 

 その惨劇を引き起こした、返り血に染まった化け物の口から咀嚼されていたそれが落ちた時

 

「あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"あ"!!!!」

 

 一瞬の間に頭が真っ白になったと感じていたのもつかの間、今度は視界が真っ赤に染まった。

 

 化け物が落とした血に染まったそれとは……私とひなたの友達になってくれた、変わり果てた姿の彼女達だったんだ。

 

「うああああああああああああああっ!!!!」

 

 ……無謀にも私は化け物共に向かって走った。友達を殺した奴らが憎くて、怒りに満ちて。これ以上の虐殺を止めたくて。

 走りながら奴らに破壊された神楽殿の木材を手に取って、その内の1体に突き刺した。が、化け物は全く怯まず、効いている様子が無い。そのままその化け物に虫けらの如く弾き飛ばされ、そこにあった祭壇を壊しながら叩きつけられた。

 

「…う……く…」

「う、うわああ……!!」

(逃げ…ろ……! みんな……)

 

 全身に走る痛みに堪えるも、体が満足に動かないし声だって掠れて出なかった。にもかかわらず化け物共の正面には端に追いやられ、逃げ遅れてしまった怯えるクラスメイト達が動けずにいた。

 

 絶望的な光景、苦痛で動けない体、霞みゆく意識……そんな中で、その声が響いた。

 

「若葉ちゃん! 手を伸ばしノギワカバード・タックーーー!!!……て……?」

 

 入り口の前に立ち、真に迫ったひなたの声を遮って……誰かが私の名前を口にしたと思ってしまった……。

 

『うおおっ、ひ、ひなた…!?退がるか伏せるかどっちかするんだ!! 早く!!』

「えっ……えっ………………ゑ!?!?!?」

 

 ひなたのあんな素っ頓狂な声を聞いたのは初めてで……。そんなひなたは後ろを振り返ってぎょっとした直後、もう一つの声に従いすぐさま身を小さく屈めた。

 次の瞬間、神楽殿入り口を巨大な青い翼がベキベキと破壊しながら突っ込み……

 

『今度こそ!! ノギワカバード・タックルーーー!!!』

 

 今まさに、クラスメイトを食い殺そうとする化け物に猛スピードで体当たりをかましたのだ。

 

(……は……なん……鳥!?)

『せいやぁーーっ!!!』

 

 その青い鳥は奴ら人を食らう化け物に引けを取らないほどの大きさを持っていた。

 なおかつその巨大な鳥は化け物に突っ込むとそのまま上昇し、壊されかけた屋根を化け物諸共突き破り、その人を食らう怪物を神楽殿の外へと弾き出したのだ。

 

 それによって屋根は天井ごと完全に大破してしまい外が丸見えになるも、その瞬間の衝撃や風圧が巻き上がるも、破片木片が辺り一面に散らばるも……そんなことはどうでもよかった。まだ中に残っている他の化け物も、私やクラスメイトではなく外へと飛んだ巨大な鳥へと注意を向けていたようだった。

 

「ぅ……い、今のは………っ、若葉ちゃん!!」

「……ひ、ひなた……」

 

 ひなたも。状況の理解を後回しにし、私の側まで駆け寄ってくる。私の方もたった今の予期せぬ衝撃的な出来事に全身を包み込んでいた痛みも忘れ、落ちかけていた意識も完全に呼び戻されていたのもあって、彼女の手を借りて壊れた祭壇の上から何とか立ち上がることができた。

 

 その後は無意識…というよりも反射的に、私もひなたも空を見上げていた。漆黒の夜空の中に旋回する神秘的な青い影を、私は茫然と眺めていて……

 

 ひなたは……

 

「…………わかば…ちゃん……」

「……ああ……」

 

 それを見ながらポツリと、私の名前を零していた。だからこちらはひなたの手をそっと握りしめてやると、向こうもギュッと強く握り締めてきた。

 

「………っ」

「………あの鳥は……一体…?」

「…………わかりません………ただ……」

 

 ………この直後のひなたの表情……その後の自信と確信に満ちた、ひなたの口から発せられた一言……

 

「とても心強い存在であると、私は思います!」

 

 あの時には疑問に思う余裕はなかったが、今思い返してみればそれは、一致していなかった。

 

 私とひなた、この場にいる逃げ遅れた人々にも留まらずあの化け物共までも、ここにいる全ての存在が謎の青く巨大な鳥に注目していた。鳥は翼をはためかせながら真下にいる私達に………否、化け物共に無残にも殺されてしまった人の血肉を見て……

 

『…………ぇ』

『……くそッ!! 間に合わなかったのか……!!』

「!? 喋った…だと……?」

 

 その鳥からは二人分の声が聞こえた。一つはその体の内側から小さくて意図せず零れ落ちただけだったのだが、それは紛れもなく人間の……それもまだ幼い少女の声で。もう一つは嘴から機械に掛けられたかのような、少し歪な声。しかし力強くて逞しさを覚える、どことなく敬愛する私の祖母を思わせる雰囲気を感じさせてくれた。

 とは言えもちろん、その時の私は空を飛ぶ鳥が人語を解すなんて事態に驚くだけが精一杯。ひなたは心強い存在と言っていたが、私には到底理解できることは何もなかった。

 そんな鳥は私の頭の中で絶えず湧き出る疑問に答えるはずもない。その代わりそいつは怒りを、私が先ほど宿した物とまったく同じ物を言の葉へと宿していた。

 

『……許さん……許さんぞバーテックス!! 貴様等の悪逆無道もこれまでだ!』

「バー…テックス……?」

『覚悟するがいい! この胸に宿る我が魂と千景でお前達を倒す!!』

 

 そいつは化け物共を指してそう言った……バーテックスと。強い怒りと、あいつがその胸に宿す使命感を激しく燃え上がらせて。

 

「チカゲ……?」

 

 鬨の声を叫ぶ。

 

『征くぞ千景!! 形態変形だ!!』

 

 

 

 

 

『………千景?』

「………ん…?」

 

 しかし、なにも起こらなかった。

 

『……ほ、ほら、早くしないか…! さっきのレバー、アレを元に戻すだけでいいんだ…!』

「…………」

「…………」

『ち、千景ぇーーっ! まずいぞ! 奴らがジワジワと近づいてきているーーー!!』

 

 先ほどの力強く威勢のいい叫びとは真逆の焦り慌てふためく情けない声………私もひなたも目を点に変えてからバサバサとせわしなく羽ばたく鳥を見ていた。

 

「…………なんなんだ、アレは……」

「…………えーっとぉ……さぁ…?」

『わーーっ!?』

 

 そうこうしてる間に化け物の内の一体が血塗られた真っ赤な歯を、巨大な口を開きながらあいつに襲い掛かった。悲鳴を上げながらもより強く羽ばたき上昇することで、間一髪でその噛みつきを避けはしたが、正直に言って登場時の凛々しさはその瞬間死んでしまったのではないかと思えてしまうほど無様な有様で……。

 

「……ひなたはさっき、アレが心強い存在と言っていたような気がするが……」

「………言いましたけども……その、勘と言うか……」

『ギャーーッ!!?』

 

 とてつもない肩透かし感……。心の中でそっと、何故かアレと姿を重ねてしまった祖母に謝ってしまうほどだった。

 

『千景ーーっ!! 早くっ、早く変形をーーーっ!! この状態はスピードしか取り柄がないんだーーーっ!!』

はっ、はっ、はっ……!』

『どうしたんだ千景!? 千景ぇーーっ!!?』

『……………なにを、言ってるのよ、あんたは……?』

「えっ……」

『ち、千景……?』

 

 そこで聞こえた、その鳥から聞こえるもう一つの声。完全に震え切っている弱弱しいその声は、今となっては激しく同意できる……この場にいる誰よりも正常な反応をしていたのだと。

 

『……なんなの、こいつら……化け物……! しかも、あの…落ちてるの……人の…て、あし………』

 

 彼女ははっきりと目にしたのだ。あいつの内側からであっても、高解像度のモニターがバッチリと映してしまったらしい。あの口にするのも憚られる、化け物共が人々の命から生み出した肉片を……。

 私の場合は激しい怒りが勝っていたが、彼女の場合は残酷な光景の衝撃の方が勝ってしまっていた。それもこの場に到着したのとほぼ同時、ほとんど唐突に……だ。

 

 そして更に、注目の的になっている鳥の内部にいた彼女も同じく、奴らの注目の的だった。口を夥しい血に染めた、彼女の心のたった今恐怖を刻み込んだ張本人が狙いを定めているのだと……。

 

『人を……ハァハァ……食って……ハァ…ハァ……ゔっ、!!』

『ちっ、千景ぇえーーーっ!!? あーーーっ、私のコックピットーーーッ!!』

 

 ……今だからこそ思う……この時の彼女には本当に酷だったのだと。半ば無理矢理この場に連れてきたあいつが自分の胸の内側で戻されたとしても、それはそれで相応の報いを受けてしまったのだと……。

 

『き、気をしっかり持つんだ千景……! でなければ我々二人とも、ここで単なる無駄死にで終わってしまうぞ!?』

『かはっ、はっ…! ケホッ…!……む、むり……無理に決まってる……!!! あんな化け物、人間がどうこうできるわけが……!!』

『頼むから、今は操縦桿を…!』

「っ、いけない!」

 

 ひなたの緊迫に満ちた声が響き渡るや否や、時既に遅し。狂ったように、壊れたようにその場で羽ばたく鳥目掛けて化け物が死角から突っ込んでいき、

 

『うぎゃあああーーーっ!!!』

 

 鳥は、撃沈した。

 

 …………本当にすまない……。いくらあのような緊迫した状況だったとはいえ、あいつへはともかくあなたにも酷い悪態をぶつけてしまったこと……今一度ここで謝罪させてもらう。

 

「な……何をしに来たんだあの鳥は!!?」

 

 

 少なくとも私が化け物共ではない方の、あの謎の存在に対して初めて抱いた感情は、あまり良いものではなかったのだ……。

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