勇者爆発バーンノギワカバーン   作:I-ZAKKU

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 ゆゆゆいのホームページがもう少しで無くなってしまうの、何だか物寂しいものだな……
 壁紙とアイコンのダウンロード、スクショは済ませたか、ルーテナント


『千景も自分の力を信じてやれ!』

 車の中にいる時に別の車が後ろからぶつかってくるのと何ら変わらないであろう衝撃と、続け様にロボット諸共地面に落下した際の衝撃が、私の全身を大きく揺さぶった……。

 耐え切れずコックピットの中で倒れ伏しても頭の中が、目に見える物全てが、ぐわんぐわんと揺れ動き続けるのは変わらなかった。

 

 ……ロボ鳥のコックピット内で吐いてしまった物だって、倒れ込んだ際に身体中にベッタリと付着してしまって気持ち悪い……臭いもまた、それを誘発されて頭の中がよりおかしくなりそうだった……。

 

 ……それ……より…も……

 

『ぐ、ぬぬぬぅ……な、なんてことだ…。いきなりしくじってしまうとは……』

「はぁ、はぁ、はぁ…!」

 

 化け物が……きっと、間違いなく、人間を喰い殺すような化け物が、私に襲いかかった……その瞬間の恐怖がこびり付いてしまって、全身の凍える様な寒気と震えが止まらない……。歯がガチガチと、さっきからずっと、鳴り止まない……!

 

『ち、千景……怪我は、無いか…?』

「う………ぁぅ……」

 

 聞いていたはずだった……さっぱりわからない、怪しくて変としか言いようがない巨大ロボットから、世界が今まさに未曽有の危機に瀕しているって……。

 でも!! あんな……あんな気味の悪い……創作物の世界にいるとしか考えられないような化け物が…! 人間を生きたまま貪る様にあの巨大な口で、肉を千切り、骨を砕き、内臓をすり潰し、噴き出した血を啜る……返り血に塗れた姿を一目見ただけで、化け物がそういう奴らなんだって簡単に理解出来てしまった。こんな事が現実にあって良いはずがないのに!!!

 

『……マズイな……奴らめ、まだ我々を狙っているぞ』

「っ!!?」

 

 あんな体当たり1回で許すような存在なんかじゃない。怖くてモニターなんか見れなかったけど、そこに映っているのは今度こそ確実に私を殺そうと向かって来ている化け物の群れに違いない……。

 

「ひぅ……っ!」

『千景! 操縦を………できそうにないか、仕方ない……!』

 

 翼が空気を叩く羽ばたきの音が聞こえる。それに合わせて機体も浮かび上がって、青い鳥は再び空へと舞い上がった。

 巨大な化け物の突っ込みを避けて、宙を羽ばたく。真下の地面が大きく砕いて抉かれる轟音が響く中、私はその要因から距離を離されていく。

 

『本領は発揮できないが、貴様ら星屑に遅れを取るノギワカバードの翼では無い!!』

 

 だけどその時に鳥ロボットの内部にいる私が感じた速度は、あの神社からこの場所に来る時の速度とは雲泥の差でしょぼい……。命が懸かっている状況なのに、その辺にいるカラスが飛ぶのと大して変わらない速度でしかなかった。

 

 そう……このまま化け物が襲い続けてくるようならば、遅かれ早かれ追いつかれて今度こそ殺される……。

 見たくもないのに、それでもそこにいないでと……ありえるはずのない光景を縋って、震えながら無駄にデカいモニターの端を一目見て……

 

「う…ああぁあぁあああ……!!!」

『っ、くぅっ…!! 啖呵を切ったものの、やはり……』

 

 機体が無理に傾いた影響でコックピット内が大きく揺れた。さっき一瞬見えた化け物の噛み付きを間一髪で避けたんだ………間一髪で……。

 

 なんで……なんで………。何なの…あの化け物……。

 世界が未曾有の危機だって言うんだったら、あんなのが今、世界中に現れているって……そういう事なの……?

 戦車や戦闘機……軍隊でもない限り、人間がどうこうできるような存在じゃない。それなのにそんな頼りになる軍はおろか、銃や武器を手にしているような人だって、今この場には1人も居ない……ただただ一方的に、あの化け物に一人残らず蹂躙されて、みんなが物言わずのあの肉片と同じにされるだけだ……。

 

 じゃあ私は………終わっちゃうってこと…なの……このまま……。

 

「いや……いや…いや……嫌ぁ……!」

 

 こわいこわいこわい……! 死ぬのは……怖い……!!

 これからも生き続けて、いったい何の意味があるのって思い続けてきた。それでもこんな最期は……死ぬのは嫌だ……!

 

『落ち着くんだ千景! 恐れることは悪い事では無い……だが』

「……ッ! うるさい!!!」

『…………』

「乗るんじゃなかった……! こんな変な奴の言葉なんかに……!」

『言葉以前に乗っているのは機体にだろう』

「黙ってよ!!! つまんないし!!!」

 

 私は……私はただ……! 生きて…………たった、たったそれだけの事しか……求めて、ないのに……!

 

「なんで……なんでこんなところに……もう嫌……もう……!」

『………カチッ

ノギワカバーン!
デレレレレレレレテレレレレレビュォオオオウデッデーン!

 

 突然コックピット内に轟くKYロボットの名乗り。その後に続く、少しレトロな感じのBGMが、またしてもこの場の空気にちょっかいをかけようとしていた。

 目を閉じて耳も塞いで、蹲って、そうやって私は嘘みたいな現実から、逃げ出した。

 

その痛み忘れること無かれ~♪ 心伝う涙を刻み込め~♪

 ……しかし回り込まれてしまった。

蒼き決意 紅き願い 交わりし時は今~♪

 もう考える事すら怖くて仕方がないっていうのに、頭の中を大音量がガンガン燃える誇り高き我が魂 叫びが天を貫き星を断つ♪

 そもそもコイツが私をこんな所に連れて来なければこんなこt愛する仲間と力を合わせにはならなかった! この漆黒の世界に光を取り戻せ~♪全部コイツ勇気を胸に宿し飛び出せ!ノギワカバーうっっさいッ!!!!

 

「さっきから何なのよこの歌は!!!」

『千景!!』

 

 我慢できずに顔を上げ、声を荒げた直後に騒音はピタリと止む。けれどもモニターの画面が切り替わり、そこに映し出されていたのは真っ直ぐに私の顔を見据える、あのロボットの顔だった。

 

「っ…!」

『目を背けるな!! 私を見ろ郡千景ぇ!!!!』

 

 私だけに向けられた、強く、身体中を震わせるほどの声量を浴びて、私の体はビクッと固まってしまう。目を背けるなというこいつの言葉通り、私は絶えずこちらを見つめるロボットの顔から目を逸らせずにいた。

 

「ぅ……く…」

『………』

 

 その次に感じるのは、化け物への恐怖とは別の大きな不安……。この瞬間の大声とじっと見つめる視線は、沈黙は、居心地の悪さは……あの村に居た頃幾度となく浴びせられてきた罵声とゴミを見るのと同じ視線を想起させてくる。

 

 このロボットは今、言うことを聞こうとしない私を責めようとしているんじゃないかって……どうしようもない不安は育まれる。たまらず私は言い訳を、責任を押し付けようと、再び逃げ腰の姿勢になっていて……。

 

「な、なによ……!? わ、私が…悪いって言うの!? し、仕方ないでしょ……あ、あんな化け物が、目の前に集まって……来たら……」

『……そんなわけないだろう。バーテックスも人の死も、千景への精神的なショックを考慮していなかった私のミスだ』

「…………え……?」

『すまなかった……当然じゃないか。千景はまだ戦いも知らない、ただの小学生でしかないというのに……』

 

 それが、ただ一途に私の目だけを見つめていたこいつの言葉……何で言う通りにしないのか的な、思っていたのとは正反対の言葉。

 私のやったことはこいつが思い描いていた物とは全く違っていたであろう、情けない姿しか晒さなかったはず。うだうだと弱音を吐き続ける姿に呆れ果てて怒りを覚えるのが普通……これまでに私をなじってきた人達はみんなそうだった……。

 

 不安や未知への恐怖に押し潰されている私の心境を想い、心配して気遣って……そんな風になっている意味が、一瞬理解できなかった。

 

『それでも千景。私はお前に無理難題を押し付けているわけではない。お前ならできる……否、お前にしかできないからこそ、千景の力を貸して欲しいのだ……この世界の未来を守るためにも』

「……なんで、私なの……? あ、あんただって今言ったでしょ……! 私はただの小学生でしかないのに……あんな化け物、普通は軍隊とかがなんとかするはずでしょ……!?」

 

 さっき考えたことをこいつにも直接言ってやったけど、だからってここにはその頼もしい軍隊なんてものは来ていない。無意味な言葉だけど、少なくとも私がどうこうする必要があるのか、言い訳にはなるんじゃないかって思っての発言だった……。

 

『軍隊か……そう考えるのは自然だ。だが残念ながら、それは無意味だ』

「……っ、無意味って……ここに来るのが間に合わないから!?」

『根本的に、奴らに人類が生み出した兵器は、例え核兵器であろうとも通用しない』

「…………え……?」

『ここに来る前に最初に言っただろうが、奴らバーテックスは人類を憎む悪しき神が、その殲滅の為に産み出した怪物なのだ。人の手によって生み出された物が、神が創り出した存在を超えることなど、言いたくは無いが不可能としか言い表せない』

 

 ……言い訳の答えが齎したのは、徹底的な退路の破壊……。人類にとって最悪な、絶望的でしかない事実を突き付けられただけだった。

 兵器なんて人間にとっては最大の力で、宇宙からの侵略者を迎え撃つゲームでも大活躍どころかお約束で…………それが、効かないって……無意味って……。

 

「…………終わってるじゃない。そんなの……」

 

 絶望を前に消沈しきった私はもはや、モニターから目を背ける気力すらも湧かなかった。大きなモニターに映る、諸悪の根源大馬鹿ロボットの顔……それはふと見えなくなった。

 

 

『違う。始まりなんだ』

 

 

 画面が切り替わって、再び外の光景が映し出されたから。

 

 

 1人の女の子が立っていた。

 

 

『千景にも聞こえないか? 私には聞こえてくる……決して朽ちぬ、暗黒に包まれたこの世界を照らして晴らす。そんな輝きを秘めた、希望の蕾の息吹が!』

 

 

 さっき私とロボットが突っ込んだ建物の中、そこにいる他の人達をあの化け物から護るかのように彼らの前に立ち、眼光に決意を宿す。

 絹の様な金色の長い髪を夜風に靡かせながら、少女が固く握り締めている左手には……刀の鞘。右手には、絶望の渦中でも煌めく、美しく輝いた刀。

 

「…………!」

『綺麗な輝きだろう? 不安なんぞ掻き消してくれるほどに』

 

 その言葉通りだった……完全に消えたわけじゃない、絶望は、恐怖は、今も私の心を蝕んでいる。でも名前も知らない少女が宿す鋭い眼光と、まるで生きているかのようにも見える神秘的な刀を見ている間は……

 

『神の創り出した存在に立ち向かわなければならないが、人の力ではどうしようもない……となれば、こちらも神の力を使えばいい』

 

 化け物が1体、少女へと向かって行く。少女は右手の刀を振るうのではなく、逆に刀身を鞘に収めて化け物を見据える。

 

『コックピット内のスピーカーの調整良し。説明を頼んだぞ、ひなた。こいつの解説はお前の役目だ』

 

 

 

それは古の神の王が持つ神器。単純で、ゆえに美しい。比類なき殺傷力を持つ、冥府に由来する1本の刀

 

生大刀

 

 不思議な雰囲気を纏う別の少女が聖なる言葉を紡いだ瞬間、光が迸るかのような一閃が飛ぶ。鞘に収まっていたはずの刃が、神速で振り抜かれ放たれた居合切りがまさに、今、この絶望の世界を変えた。

 

 それを受けたのは、散々人の命を食い荒らしてきたであろう化け物。その大きな血と白色の肉体に一直の線が走り……真っ二つに両断された。

 声にならない断末魔の鳴き声を上げて、人喰いの化け物は小さな粒子となって……消滅した。

 

 ………化け物を……倒した……?

 

『……見事だ』

「…………!」

「………この…力は……!」

「若葉ちゃん!まだです!」

「っ! うぉおおおッ!!」

 

 ……モニターに映るその少女から目が離せない。恐るべき化け物を一刀の下に斬り捨てた少女は、尚もまた他の化け物共を見据える……次に葬り倒す、敵として。

 その化け物も、今度は複数体同時に少女へと襲いかかる。化け物にとっても恐らくイレギュラーな展開……その芽を潰すべく、確実に彼女を殺そうとする意思を持って……。

 

 ……恐ろしさは……恐怖は、不思議と無かった。あんな小さな女の子が世界中を襲っているらしい化け物に狙われていても、その毒牙に掛かるなんて思えなくて……。

 彼女のことは何も知らないのに……名前も生い立ちも……どんな子なのかだって……

 

 あんな化け物にやられるなんて思えない……だって……

 

「………………」

 

 化け物の数が増えたことなんて物ともせず、次々にそいつらを彩やかに斬り伏せるその姿が……すごく………すごく……

 

 …………………すごく直近でどこかで見たことがあるような………あの子の金色の髪の毛。というより髪型。あと金色!

 

『おーっと!?』

「っ!?」

『またかこいつ! 全く、いつまで経っても本当にしつこい奴め!』

 

 そういえば私たちだって未だに化け物に狙われていた! ロボットの焦り声で、私にも不安と焦りと恐怖が甦る。

 でもそれは、結果的には一瞬だった。空を羽ばたくロボットは即座に降下し始めて、化け物を倒した刀を持つ少女が居る方へと羽ばたきだした。

 

「っ、あれは先程の鳥……ってお、おい!! 化け物をこちらに引き連れて来るな!!」

『乃木若葉! そのまま鬱陶しいこいつも何とかしてくれー!』

「は、はあぁーー!!?」

 

 壊れた建物の中を通過し、化け物もその後ろを飛んでくる。その間に巻き込まれる形になった彼女は突然の厄介事の押し付けに困惑しつつも、その化け物も難無く両断した。

 追い掛けて来るやつがいなくなり、ようやく恐怖から逃れられる……絶えず飛び回っていたロボットも羽ばたくのを止めて、ボロボロになった建物の中に降り立った。

 

『ぜはぁー…ぜはー……! た、助かったぞ若葉…! 流石は由緒正しき乃木の血を引く人間だ! うげほっ、げほっ……!』

「なっ!? ………な…なんだ何なんださっきから貴様!!? それに何故私の名前を知っている!!? お前は何者なんだ!!? あの化け物も、いったい……!!」

『つ、疲れた……もう翼が上がらん…………若葉、一遍にそんな言われても困る……少し呼吸を、整えさせてくれ……』

「…………それに、お前もいったいどうしたんだ、ひなた……この刀の事を何故知って……」

「…………やはり……この感覚……でも……」

「くそっ……! わからん事だらけだ……!」

 

 このヘンテコロボットは真っ先に刀を持っている女の子に話したけど、初対面とは思えない距離感で近付いた。

 名前らしきものを言ってた……彼女の事を知っているの……? 若葉って言うの、彼女は………若葉……乃木……若葉…………ノギ…ワカバーン……。

 

「………あんたが、ノギワカバ……?」

「な、何故今度は疑問符を浮かべているんだ……? 知っているんじゃないのか……」

「……若葉ちゃん、2つの声が違います。どうやら機械音声のような声と女の子のような声はそれぞれ別人が発しているみたいです……」

「………2人いる……ということか?」

「………そう……あんたがノギワカバ……なのね……!」

 

 ………ロボットと人間を比べるのは馬鹿げてるけど、似ている……そっくりだ……この馬鹿と!!

 そもそも名前!!! 名前名前名前名前!!!! これってどう考えても関係者でしょう!!! 関わりがあるでしょうそもそも知ってたし名前!!! 隠す気あるのこの地上最強の化け物馬鹿は!!!? 無いんでしょうねというか隠すような理由も無いし意味無いし!!!!

 

「何なのよこのロボットは乃木若葉ァアアア!!!!」

 

 全部出た……溜まりに溜まった鬱憤が全部。

 彼女、乃木若葉の表情はピタリと固まって、みるみるうちに見るに堪えない間抜け面に変わり……

 

「……………………………………………………………………………………………知らないのだが!!!!!?

 

 爆発した。

 

「いきなり何を訳の分からん事を言うんだ貴様!!!? ロボットなんぞどこにいる!!!? 貴様の様な怪しい鳥と化け物しかおらんではないか!!!?」

「訳の分からんのはそっちでしょう!!!? こんなポンコツ、作ったのは誰!!!? 完っ全に頭がイカれてるとしか思えないんだけど!!!?」

『怪しい鳥だと……ポンコツ…だと……!? イカれてる……私がか……!!? 何故そんな酷い事を言うんだ千景ぇえーーーっ!!!? 若葉ぁあーーー!!!?』

「………なんですか……これは………?」

 

ぞわっ

 

「「『「……!?」』」」

 

 邪悪な闇……そんな言葉が相応しい空気が、瞬時に重くのしかかる。身体中で沸騰していた熱が一瞬で冷めて、凍りつくような寒気が私を……私たちを覆い尽くした。

 

「……化け物共が……まだいるのか……!」

「若葉ちゃん!!」

「分かっている! 私が皆を守る……この不思議な力で!」

「っ、ちょっと!!」

 

 乃木若葉は冷や汗を流しながらも勇ましい事を言いながら建物の外に飛び出した。意味も無く彼女の背に手を伸ばしかけるも、その腕は再び……震えていた。

 

「………化け…物……」

 

 ここからでも見えていたから。私が馬鹿鳥と一緒に突入する時、ここの入口を壊していたから外が丸見えだった。

 

 乃木若葉が言っていたように、外にはあの白い化け物がまだまだたくさんいた……。空をうようよ漂って、支配して……その中の複数体が一箇所に集い、粘土をこねるかのように混じり合っていた。

 

 大きく、大きく……歪に、不気味に……合体していた。進化していた。

 口と歯だけの怪物から、ムカデのように細長く気持ち悪いトゲを有したものに。

 体表が角のように硬質化して隆起したものに。巨大な蛇のようなものに。

 

「…………馬鹿な……! こんな怪物、どうやって倒せと……!」

 

 あの乃木若葉が戦慄していた……化け物を何体も倒していた彼女ですら……。

 それもそのはず、威圧感がまるで違う。纏う雰囲気があの白いのとは桁違いだ……まともに立ち向かう事すら馬鹿らしく思えてくる。正真正銘、絶望しか感じられないのだから……。

 

『っ、ひなた!! ここにいる皆を連れて離れろ!!早く!!!』

「……っ!? は、はい!!」

『千景!! あの敵は眼前の若葉ではない……ここにいる我々を狙っているぞ!!!』

 

 大きな緊張感と焦りを孕んだ声にハッとして、モニターに映るそいつを見る。化け物たちの中央に聳え立つ壁……そう錯覚してしまいそうになるほど一際デカい怪物の表面には、鋭くこれまた巨大な矢のような物が形成され始めていた。

 キリキリギリギリと不快感をかき集めたような異質な音を立てながらより大きくなる怪物の矢は、まさに建物内の私たちに向けられていた。

 

『走れ!!!』

「皆さん!! 言う通りに逃げて!!」

 

 叫び声が響くと共に、こいつからひなたと呼ばれた女の子は他の人たちと一緒に外に駆け出した。あんな物が隠れる場所なんてないここに撃ち込まれたらどうなってしまうかなんて分からないはずがない。みんながみんな、恐怖に恐れ戦きながら必死になって逃げ出した……。

 

『おい!! こっちだデカブツめ!! 撃てるものなら撃ってみるがいい!!』

 

 三度、羽ばたきそんなとんでもない事を言い出す馬鹿ロボット。明らかに目立つ様に空中を移動しているから、あの化け物を煽っているとしか思えない!!

 

「ばっ…何挑発してるのよ!!? 本当にこっちを狙ってきたら……」

『他の者たちが狙われる方がマズイだろう!! それに私に攻撃が向いても避ければそれで済むこと……っ!?』

 

 こいつの挑発に化け物は何の効果も無かったのか、形成されている矢は私たちには向けられていない……その代わり、他の人に……必死になって逃げ惑う人たちに絶えず定められて……

 

『チィッ…! 私よりも力無き者を狙うか外道め!!』

「っ!?」

 

 彼女は全力で羽ばたき彼らの元へと向かう。その時私の身体には風を切る音が直接耳に……そして空気が触れていた。

 密室空間であるはずのこいつのコックピット……閉じ切っていたハッチの入口は既に開いていて、逃げ走る彼らの前に到着すると彼女は大きな声で言い放つ。

 

『……降りろ!! このまま中にいれば危険だ!!!』

「あんた、何を!」

 

 顔は見えないけど、その声音は純度100%必死で……モニターの正面に写る、矢を向ける怪物の纏う雰囲気が……夥しい殺意に変わる。

 

『早く!!!!』

 

 その声に後押されて、震えていた腰が上がり足が動く。

 

「あぅっ…!」

「……っ!? やっぱり女の子が……! 大丈夫ですか!?」

 

 開かれたハッチから転がり落ちて、地面の上にうつ伏せに倒れてしまう私をひなたという女の子が駆けつけて、体を起こしてくれた。

 

 あいつは……

 

『我が身に宿りし霊力よ!! 人々を、友を護り抜く盾となれ!! ノギワカバリアーー!!!!』

「名前もう少し何とかならなか──」

バッキィイイッッ!!!!

 

 絶望的にありえなくダサいネーミングセンスへの文句を言いきる前に、一瞬で空気が穿たれ、捻じ切られた。目視できないスピードで飛ばされた破滅の矢が放たれて、鼓膜が破れるかと思える程の耳を劈く破裂音が、強烈な風圧が襲いかかった。

 

 化け物が放った巨大な矢は、止まっていた……いいえ、違う……。ふざけた名前を叫んだ時に出現した薄い青色の障壁みたいな……名前通り、バリアーらしきものに突き刺さっていた。

 それでも矢は、獰猛な勢いは止まっていない。絶えず火花が飛び散り、少しずつ空いた間隔でバリアーにヒビが走る歪な音まで聞こえて、バリアーにより深く、くい込みだしているのだから……

 

『ぐっ、あぁあああ……!! これが、今の私の限界……なのか……それでもォ!!!!』

 

 気迫が、巨大な矢の迸る勢いを抑え込んだ……それと同時にバリアーまでもが粉々に打ち砕かれた。

 目にも留まらなかった射出時の威力ではなくなっているけれども、それでもまだ十分な破壊力を持っていた矢は、私たちの壁になっていたあいつに直撃して、その巨体を痛烈に弾き飛ばして………

 

「ノギワカバーン!!!?」

「わかっ!!…………え、乃木若……ばーん…………そんな呆けている場合では!!!」

 

 吹っ飛んで、地面に叩き付けられた。激しく土煙が舞い上がるほど、地面がその勢いで抉れるほど……。

 思わず私と女の子は倒れ伏すあいつの元に走って……

 

『う、ぐ………よかった、千景もひなたも、みんな無事か……』

「……ば、馬鹿……! 私なんかよりも自分の心配を………!?」

「………ひどい……!」

 

 絶句してしまう。より息苦しく、心臓の鼓動が嫌にハッキリと聞こえるほど大きくなっていた……。

 矢の直撃を受けて、吹っ飛んで……普通の人なら数十人と束になっても受け止められずに全員がバラバラになってしまうほどのダメージ受けた彼女は………

 

『…………翼をやられたか……なんて…ことだ……!』

 

 右の方の翼が、根元から丸々千切れて無くなっていた。

 ……もう飛ぶことなんて絶対にできない……それどころか逃げることも、動くことも……これまで力強く威勢のいいことを言い続けてきたこいつはもう、何もできない……。

 

 私も今度こそ、もう終わりなんだって……こいつがいなかったら私なんて何もできないし、こいつだって……諦めて……。

 

『これでは超高速飛行形態(ノギワカバード)は……串に刺され炭火で焼かれる前の鶏肉も同然じゃないか……!』

「……とり…肉………は……? 焼き鳥………」

「若…バード……」

 

 どうにもならなさすぎて感じる恐怖すら麻痺していた時に聞こえた馬鹿丸出しな例えは、私の頭の中を真っ白にした……いやホントもう、馬鹿すぎて……。

 ……絶望的でしかない悲痛なムードだというのに、全然それに相応しくないふてぶてしいこいつの態度が………もう、本当……頭の中がおかしくなる……!!

 

 真っ白になった頭の中は徐々に、絶望による漆黒ではなく、マグマのような真っ赤に彩られた。

 

「こんな状態になってまであんたは!!! 何なのよあんたは!!!? 余裕なの!!? そんなボロボロのくせになんでふざける余裕が残ってるのよ!!!? …………」

「お、落ち着いてください…! それよりも、今は逃げることだけを……」

「…………余裕が……」

 

 ………避難を促す少女の声……聞こえなかったわけじゃない。だけどそれは反対側の耳を通り過ぎるだけだった。

 

 こいつは馬鹿だ。疑いようがないほどの世紀の大馬鹿だ。

 馬鹿みたいに一直線上を突っ走る。ハキハキとし過ぎた声に裏付けされている言葉も行動も馬鹿のそれだ。

 

 それでもこの馬鹿は、この絶望的な状況に瀕しているにもかかわらず……欠片も怯えてなんかいなかった……。それを思わないほどの馬鹿……出会った時から気持ち悪いぐらい感情豊かなこの馬鹿はそこまでの馬鹿だった……そうとまでは思わなかった……

 

「………余裕が……あるの……?」

 

 曇り1つない硬質な瞳がそれを物語っていたから……。

 

『余裕がある……か。ははっまさか、翼が千切れたんだ。そんなわけがない…………などと簡単に諦めるのは、私の性に合わなくてな』

「……ノギワカ……バーン……」

『……たった一つ、この絶望的な状況を丸ごと覆す方法が残っている』

 

 出会った時から揺るがない曲がらない真っ直ぐな瞳はただ、私だけに向けられていた。

 

 

 

『もう一度私に乗るんだ。今度こそ、私と共に奴らと戦う……それしか道は無い』

 

 私なら、この絶望的な状況を変えられると……それだけを信じている……ずっと。

 

「……私が……どうやって……そんなの……だってあの化け物は、倒せないんじゃ……」

「ひなた!!!」

 

 幼いながらも勇ましい声の主が、人々に襲いかかろうとする白い化け物を斬り裂いているのが見えた……。

 

『倒せるさ。千景も勇気をその胸に宿すことができれば、彼女のように』

 

 どくん、心臓が強く高鳴る。それは期待か、不安か、恐怖なのかはわからない……。

 

「お前たち! 早く逃げろ!!」

「若葉ちゃん…! ですが、この方が…!」

「っ、翼が……! 何とかならないのか……!?」

 

 私なんかがって思いはずっとある……できるわけがないって思っている。だってもし私がノギワカバーンの頼みを聞いてこいつに力を貸したとしても、肝心のこいつはもう……こんな有様じゃ……

 

「あんたと一緒にって……あんたはもう、翼が……」

『損傷を受けたこの身は形態変形の際に霊体化している。元の体、メタルボディのノギワカバーンには何ら影響は無い。そもそもノギワカバードは端から戦闘には不向きな飛行形態でしかなかったのだが……』

「霊…体……?」

「メ、メタル……? 初めて言われたぞそんなこと……!?」

「あ、いえ……多分若葉ちゃんのことではないのかと……」

『生憎と詳しく説明している時間は無いが、私の事は大丈夫だ。何も心配はいらない』

「…………!」

 

 戦えると、ノギワカバーンは言ってくる。

 胸元にあるコックピットへのハッチはさっき私が抜け出した時から開いたまま……そこに私を誘っている。

 

『共に征こう千景! 恐れることは何もない!』

「……これは……鳥の内部が…機械……? ロボット……?」

 

 私が最初にこいつに乗って、操縦桿を握りしめて空を飛んだ時、不思議な感覚が身体中に湧き上がっていた。

 知らないはずの、どこをどう動かせばこの未知のロボットを動かせるのかなんかも私自身の手足を動かすような感覚で理解できていた……。このロボットと一体になって、私は空を飛んだんだ。

 

「……っ! またあの矢が来る……!! 逃げろみんな!! 逃げろぉおおおお!!!!」

 

 私なら何かを変えられる……こいつと、ノギワカバーンと一緒に……

 

 ───本当に気味が悪い

 

 ………私なんかが……

 

 ───阿婆擦れの娘が

 ───生きてる価値なんかないのに

 

 ………何が……できると……無価値な、私なんかが……

 

 戦う少女たちの声が聞こえる。化け物が言葉にせずとも嘲笑う気配も……それでも……

 

 

 

『……それでもなお、お前の心に影が巣食うままだというなら……私が好きな言葉を1つ、千景にも教えよう』

 

 

 

 私の心は

 

 

 

『余計なことは考えるな! お前の感じるがまま、思う存分動けばいい!』

 

 

 

 

なせば大抵、なんとかなる!

 

 

 

 考えるのをやめた

 

『だから、後は──』

 

 恐ろしいや怖いなんて考えない。私なんかなんて考えない。

 

『千景も自分の力を信じてやれ!』

 

 私を信じてくれるような馬鹿に励まされたなんて、考えてやるものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの瞬間の出来事は、きっと生涯忘れることはできないだろう。

 聳え立つ巨大な化け物の放つ威圧感に圧倒され、敵わないと悟ってしまった私はどうにかして生き延びることだけを考えていた。戦ってもどうにもならないのだから、せめて……

 

 しかし、逃げられなかった……動けない者がそこにいたから……彼女たちを置いて、私だけ逃げることなどあってはならぬ。無意味な壁にしかなっていなかっただろうが、私は動けない彼女たちの前に立ち、破滅の矢を待ち構えた……。

 

 

 全てを壊す化け物の矢が放たれ、瞬きをする間もなく私たちの眼前に飛んできた。瞬間

 

 

キンッ

 

 銀色の閃光が空を裂く。透き通った鋼が軌跡を描く。

 

 一瞬だった。見えなかった。何が起こったのかなんて理解出来たのは、その音が聞こえてから数秒後のことだった。

 

 私たちの後方でそれが猛スピードで地面に着弾した轟音が……全く同じ音が2つ同時に響いたのは。

 

「………!?」

 

 見えなかった……そのはずだったが私の両眼には、今でもあの瞬間が焼き付いている。恐ろしい速さで迫り来る矢が私たちを飲み込む直前、巨大な刃がそいつを縦に真っ二つに斬り裂いたのを。ふたつに分かれた矢は私たちの明後日の方向に流れて行ったのを。

 

「………今の……何が起こって……」

『……そう、それでいい。それでこそお前も誇り高き勇者だ』

 

 驚き戸惑う私の上を影が覆って、射し込む月の明かりが途切れたからか、反射的にゆっくりと顔を上げた。

 

 

『懺悔は聞かぬぞバーテックス。このノギワカバーンと千景が貴様らに報いを与えてやる!!』

 

 

「………?????」

 

 

 

 何故そこにロボット風の私の頭があるんだって……頭の中が真っ白どころか宇宙色に染められたのは、生まれて初めてのことだった。

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