勇者爆発バーンノギワカバーン   作:I-ZAKKU

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 ブレイバーンが放送されてもう1年になるとは……2期はまだなのか、ルーテナント


『これが私達の秘奥義! 千景ッ斬ーーー!!』

 巨大な人型の駆動機械……人型のロボット。

 ゲームやアニメ、漫画などの創作の世界で活躍する男子たちの憧れの存在……アニメはおろかテレビにも疎い私が知っているロボットとはその程度のものでしかなかった。

 

 だがその程度の中身でも、巨大な人型のロボットなんてものは現実的ではないと十二分に理解していた。所詮はフィクションの産物であり、男子たちはこういった有り得なくも壮大であるがゆえに惹かれているのだと、気にも留めたことなど一度たりとも無い。

 

 

 …………ところがあの日、世界中が漆黒の闇に包まれたあの日、私たちは邂逅した……。

 無我夢中で謎の力と刀を手にして憎き醜悪なる敵と戦い、窮地に追いやられ、あわや絶体絶命となった時に姿を変えて現れた……アイツは……。

 

「……………?????」

 

 謎の人型ロボット。大体9、10メートルはあるかといった非現実的な存在はこの世界に顕現することとなったのだ。

 

「若葉ちゃん! 若葉ちゃーん!」

「………っは!? い、いかん……もってくれ、私のメンタル…! 幻覚なんかを見ている場合では…………???」

 

 あまりにも大きすぎるショックに放心した私をひなたの声が呼び戻した。そうして雑念を振り払おうと自らの頬を叩き、もう一度この現実を直視すべく前を向き、そいつを見て、再度放心状態に陥ってしまう……。

 

 当然理解など追いつかなかった。最初の鳥の姿であれば理解はできずとも、仮にも神秘的な翼をはためかせていたように見えたアレの事を多少良い目では見れていただろう……しかし、その神秘的な鳥とやらから一変してアニメの中のような超合金ボディの人型ロボットになるなど意味不明にも程がある。

 

 ……いや、そもそもとしてだ、この際100歩譲ってロボットであるのを受け入れたとしてだ……

 

 月の光を煌びやかに反射する蒼穹の如き装甲も、大きくも穏やかに靡く純白の衣も、この人型ロボットの胴体の設計や格好についてはまだ良かった……。それについて不平不満を叫んだのは後に、私たちに専用のアプリ機能と戦装束を与えられた日の話だから今この時に置いては無関係である。

 

「幻覚……じゃ…ない……? ない…のか……?」

 

 ただし、髪型というか金色の頭部は初めから既視感しかなかった……。カチカチに固まっているアレは完全に私の前髪の分け目の形と長さの比率が異常なまでに似ていた。後ろで結えている髪に当たる所も、そこから後ろに垂らした髪も、このロボットには似通った形で髪の毛ではなく硬質な金属で形造られている。

 

「………スゥ……はぁ〜……」

 

 そしてその大きな手に固く握り締められている、長さにして5メートル以上はあるであろう巨大な刀剣……。腰元にはそれを納める相応の大きさの鞘を携えて、悠然と佇むその姿……

 

「お、お祖母様を模したロボットか…?」

「若葉ちゃんです」

「………いやちょっと待て」

 

 私だ。私ではないが、私だった。私ではないが、あれはロボットだった。だがしかし私はロボットではない人間なのだ。頼む信じてくれ。

 

「纏われている温かくて安らげるオーラからして、あれは若葉ちゃんです」

「いやいやいやいや待ってくれ……!」

 

 ……認めたくないという気持ちが強く、祖母という別の可能性に擦り付けたものの、それはひなたの真っ直ぐな視線と口調で否定される。

 

「……あの凛々しい面持…顔の彫り…………ロボット若葉ちゃん……」

「そんなわけ……! そんな……そんな………!」

「…………」

「…………だ……誰なんだ……ここに歪んだ、デカい鏡を置いた奴は………?」

「あ、認めたんですね……」

 

 …………何故なんだ………なぜ、一体どうして………?

 3年が経った今となっては、見慣れてしまった物ではある。しかし3年の年月が過ぎようとも、あれが欠片も理解できない異様な存在である事は、ただの一度として覆るような物では無いのだ……!

 

『よくぞ……よくぞ恐怖を乗り越えて私の想いに応えてくれた……ありがとう千景』

「っ!」

 

 機械仕掛けの声を聞いた瞬間初めて、こいつがあの謎の青い鳥である事に理解が追いついた。それからもう1つの声も……

 

『………別に、そんなんじゃない。暑苦しい説得ばっか聞き飽きたってだけよ……』

 

 あの時片翼を失った青い鳥の側にいた、見知らぬ黒髪の少女と同じ声……それがあのロボットの中から聞こえてくる。

 直前にあいつが、青い鳥が千景と呼んだ少女に語りかけていた言葉が脳裏を巡った。共に征く……共にあの化け物と戦おうと鼓舞していた言葉が。

 

『フッ。お前というやつは、相変わらずつれないな。それはそうと、この私の操縦方法はわかるか?』

『………それは……頭の中が、変な感じ……』

 

 確かめるように小指から順に1本づつ指を折り曲げ拳を握り、そしてゆっくり開く。ロボットはグーとパー2つの動作を交互に繰り返しながら、彼女は不思議で困惑している声色で言葉を紡ぐ。

 

『ここのどのボタンを押せばいいのかとか、こっちのスティックを動かすとあなたがどんな動きをするのかとか……自分の手足の事みたいにわかる……。どうなっているの、これって……』

『うむ、まさに我々の想いは今1つとなった! 一応の懸念点は精密で複雑な操作をコントロールできる腕前を千景が有しているかだが』

『……』

 

 刹那、空気が断ち切られた。手の平の開閉を止め勢いよく刀を素振りしたことによって。

 

『この程度のテクニックなら、問題ないわ…。今までにプレイしてきた鬼畜ゲーの操作の感覚で、多分なんとかなる……』

『頼もしい。そう言ってくれると信じていた!』

「………ッ!!」

 

 その一振りは目に見えない闇が吹き飛び、光が溢れ出すかのような爽快感のような物を私に感じさせた。

 ふざけた外見だ。間違った存在だ。それなのに私は感じてしまった……得体の知れないものではあったが、安心感というものを、確かにこの胸の中に……。

 

『若葉よ、後は私たちに任せてくれ』

「え……」

『奪われてしまった大勢の命……決して忘れぬ彼らの痛み、涙……その報いを受ドンッ

 

 一言一句を噛み締めながら言葉を紡ぐロボットだったが、その最中小さく前屈みに。その直後、地面から小さな爆音が。

 

 ロボットが勢い良く、強く地面を蹴って駆け出したのだ。爆音はその勢いによるもの……地面が砕けはしたものの、瞬く間にロボットは宙を漂う化け物へと肉迫していた。

 

「っ!? 速い…っ!」

『ちょっ、おい千景っ、まだ私が喋っている途中……』

 

 人間よりもはるかに大きいサイズのロボットに、前方の化け物もまた、群れを成して突進する。人々の命を喰らう口を開き、鋼鉄すらも問答無用で噛み砕かんとする殺意を放ちながら。

 

『こいつらを……』

 

 走り抜けるロボットと化け物が衝突する直前、ロボットは地面を蹴り上げて、跳んだ。正面から襲い来る化け物の群れを跳び越えて、空中でその身を捻り……

 

『斬る!』

 

 巨大な刀剣が複数の化け物を一瞬で、纏めて一刀両断の下に斬り伏せた。

 目にも留まらぬ光の如き一閃が再び……いや、釘付けであった。悪しき化け物を斬り裂いたその姿に……もはや、あいつの人を揶揄うような見た目など気にしなくなるほどに……。

 

 着地の瞬間、ロボットは剣を振るった姿勢から流れるようにして体を回転させ、あの体勢からしっかりと両の脚で地面を踏み締めて静止する。

 その身のこなし、刀捌きに一切の無駄は無く、まるで洗練された剣技が舞を踊っているかのようだった。

 

『お…おお……! なんと傾らかで無駄の無い操縦技術……! いきなりこれとは驚いた……流石は千景だ……!』

『……本当に……倒せた……私が、化け物を……』

 

 これを成した少女の呆気にとられた呟きが、誰の耳にも確かに聞こえた。彼女にとっては今の一瞬の動きにではなく、化け物を倒したという事実だけが衝撃的だったようだ。

 

『……こんな奴らに怯えていたなんて……』

『そうだな…と言いたいところだが、慢心はするな。奴らが残虐な化け物だということを決して忘れるな』

『……………』

『だがしかし、油断しなければ問題は無い! お前の洗練されたテクニックを以て、思う存分奴らに正義の鉄槌をかましてやれ!』

『……ふん、言われなくても!』

 

 その言葉を皮切りにして、辺りを漂う蛭のような不気味な化け物共が一斉にロボットへと襲いかかる。異質な存在であるこのロボットが一番の脅威であることを、奴らも察知したようだ。

 

 空に蔓延るその数は優に数十を超えており、その威圧感も半端な物ではない。ましてや明らかにスケールが違う、別格の存在感を放っている、ロボットよりも巨大な化け物も3体ほどいる。

 そんな傍から見るまでもなく絶望的と言える状況でも、このロボットと少女は臆さず怯まず、地面を蹴って飛び出した。

 

『はぁッ!!』

 

 接近した化け物を刀の一閃が薙ぎ払い、続く一撃は真っ正面から敵を打ち砕いた。続けざまに襲いかかる2体の敵を身を捻りながら躱し、斬り伏せる。

 着地と同時に再び地面を蹴って縦横無尽に辺りを駆け巡り、敵の背後へと素早く回り込み、飛び掛かっては斬り掛かる。

 

「速い……っ! あの巨体で動きも俊敏だ……!」

「………!」

 

 疾風の如き立ち回りで敵を翻弄する。鮮烈な光の軌跡を描きながら弧を描く剣先もまた、見惚れるほどに流麗で美しいものだった。

 

 蛭のような化け物を瞬く間に10体ほど葬り去り、地面に着地した後ロボットは上を見据える……醜悪な気配を放ち続ける、はるか上空を這って蠢く巨大な蛇のような化け物を。

 

『いつまでこちらを見下ろしたままでいるつもりだ? なあ千景?』

『……ええ、そうね……引きずり下ろすわよ!』

 

 そう言い合ってロボットと少女は、互いに息を合わせていた。先程と同様、初速から最高速の勢いで大地を駆け出し、

 

『あそこが良い! 行け、千景!』

『あなたも、ちゃんと付いてきなさいよ!』

 

 地面を蹴り、太く聳え立った大木へと跳ぶ。十分な助走から織り成された跳躍で、あの巨体からは想像もできないほどに高く飛び上がった。

 

『千景っ!』

『わかってるわ……よっ!』

 

 強靭な身体で大量の葉を突き抜け幾つもの枝をへし折りながら、ロボットは空中で、更にその大木を蹴る。

 9メートルはある巨体から放たれた蹴りであるにも関わらず、大木自体は折れもせず、ただそれなりに大きく揺れただけだった。

 だがロボットは、その勢いと速度を殺すことなく、更なる加速を得て空中の巨大な化け物へと駆け抜けていた。

 

「三角跳び!? あの巨体で……!?」

 

 その身のこなしは、まるで猫のようにしなやかで軽やかだった。

 

「っ、駄目です……! あれではまだ……!」

 

 だがしかし、空高くにいるあの怪物にはまだ、高度が足りていなかった。このままではあの怪物に刃が届かない。むしろ他の蛭のような化け物に取り囲まれて襲われるだけ……あのロボットであれば空中でも恐らくは切り抜けられたであろうが、結局はあの蛇のような化け物には届かない……そのはずだった……しかし、

 

『お出迎え、ご苦労様……!』

 

 噛み付き襲いかかる化け物が接近した時、ロボットは空中で体を捻らせ、その顔面に着地した。

 ……そう、着地したのだ。化け物の顔面と歯を砕き、潰しながら……そして巨大な質量によって化け物の肉体が弾け飛ぶ瞬間にまた、ロボットは跳び出していたのだ。

 

「なっ…!? う、嘘だろ……!?」

 

 忍者が水面の上を走る時、足が水中に沈む前に反対の足を前に出すのを繰り返すという、明らかに無理がある技を聞いた事があるが、この時目にしたのはそれと同じ様なものだ。空中で自身より小さな怪物が潰れるよりも早く跳ばねばならぬのだから……

 だが、彼女たちはそれを繰り返した。1番上にいる怪物目掛けてではなく、周囲の小さい化け物に向かって跳ぶ。踏み付けて潰して、加速しながら別の化け物に向かって跳ぶ。距離を狭めつつ、邪魔な敵を葬り去りながら、そうしてロボットは最後の蛭のような化け物を潰し、跳び上がった。

 

「届いた……!?」

 

 大蛇よりも空高く。

 

『これで……っ!』

「行けーーっ!!」

 

 遥か高くに到達したロボットは、大蛇も計算外だったに違いない。迎撃すべく小さい化け物よりも獰猛な牙を剥き出しにし、上から向かってくるロボットへと対峙する。

 

 鞘から抜き出された銀色に光る巨大な刀剣の刃が、振り下ろされる。

 

『落ちろッ!!』

 

 ロボットすらも呑み込める程大きな口を顔ごと断つ。刃はそのまま胴体も尾も一直進に通り抜け、大蛇の体を真っ二つに斬り裂いた。

 

「………!! 本当に、やってのけた……あの怪物を、倒したのか……!!?」

 

 ……あの時の胸の高鳴りは凄かった。適うはずがないと、私が一目見ただけで戦意を喪失したあの怪物を、その身2つで斬り伏せてしまった。勇猛果敢なるその姿は、まさに英雄と呼ぶに相応しいと……。

 

『まだだ! 奴が仕掛けて来るぞ!』

『っ!』

 

 しかし、その巨大な化け物はまだ残っている。

 大蛇を斬り裂いた直後、まだロボットが空の中を落下している最中、再びあいつら目掛けて巨大な矢が飛んできたのだ。

 

『ぬうっ…!』

 

 地上に立っていた先程はあの猛スピードで飛んできた矢を逆に正面から真っ二つにするという神業を見せたが、今回は自由落下中の空中。それも攻撃に気づいたとはいえ、体勢的に無理があった。

 反応して飛びかかる矢に刀剣を当てることはできた。今回ばかりは矢を斬り捨てるまではいかず、防ぐことはできてもその衝撃はロボットの手から刀剣を弾き落とした。

 

『くっ、しまった……!』

『よそ見をするな! 敵はもう一体いるんだ!』

『っ!』

 

 あいつの言葉通り、空中で武器を失ったロボットに迫る、最後の怪物。ムカデのように長くて気持ち悪いトゲを有したそいつが、そのトゲをロボットに向けて突き放った。

 

 ロボットはその刺突に合わせて手の平を向け、防いだ。薄く青く輝く障壁を展開して。

 

『ノギワカバリアー!』

「おおっ! ………ん?」

『ホントにその名前、どうにかならないの……!』

 

 ………あの時は聞き間違えたのかと思ったが、そうではなかったのだな、コレが……。

 

 ………まぁ、何はともあれ奴らの攻撃は防げた。だがトゲはバリアに突き刺さったまま、勢いを付けロボットごと大きく薙ぎ払って飛ばした。

 受け身を取りながら地面に降り立ったロボットだったが、その手には当然武器がない。そしてあろう事か、あの薙ぎ払いによって刀剣が落下した地点とは離れた場所に降り立ってしまったのだ。

 

 再び怪物は上空からロボットを見下ろす。ロボットが刀剣を探しに走り出せば、即座に上からそのトゲで襲いかかってくるであろう。

 それに先程から巨大な矢を飛ばす怪物も、武器がなければ対処は厳しい……少女の焦りを含んだ声が聞こえてきた。

 

『ちっ……他に武器は…!? ガトリングやライフルやミサイルみたいな、遠距離用の装備は無いの!?』

『……いや、そういうのは無い』

『じゃあ空にいる敵をどうしろと!?』

『…………おお、そうだ! ピッカーンと閃いた!』

 

 突然に、本当に今妙案を思いついたような明るい声色のロボット。何やら分からぬが、私もひなたも少女も、緊張感に包まれながらその中身をそっと期待した。

 

『たった今何気なくノギワカバリアーが使えたが、千景と繋がり合っている今であれば、先程消耗し切った霊力も供給され回復している……つまり』

「え? 乃木若……?」

『……なんか変なボタンが出てきたんだけど……何よコレ、押せばいいの…?』

『ッ! ハアァァーーー!!』

 

 唐突にロボットは気合いを込めるように叫んだ。その瞬間、ロボット全体を包む青いオーラのような物が、シュインシュインと力強く音を立てながら湧き上がった。

 その状態で両手を合わせ、その形のまま腰元に構えて……その手の中で眩い青い光が。

 

『ノ~』

『ギ~』

『ワ~』

『カ~』

 

 蓄積された霊力(エネルギー)が……

 

()ァアアアア!!!!』

 

 青い輝きは、両手から解き放たれた。その閃光は上空へと昇り、ムカデモドキに直撃し、周囲の空気を震わせながら眩い光の軌跡を残していった……。

 

「「『……………』」」

 

 怪物は昇華するように消し飛んだ。木っ端微塵に吹き飛ばされて……まるで初めからそこにいなかったかのように跡形もなく消え去ったのだ。

 

『よし!』

「おい!!? 何をおかしな技に人の名前を当て嵌めている!!? なんだノギワカ波って!!?」

「あー、えー……多分、別の方がモデルですので…若葉ちゃんはあまり気にせずとも……?」

『…………もう、何も言うことは無いわ……なにも……』

 

 ……あのバリアといいこれといい、その他といい、私の胸がパチパチするほど騒ぐ羞恥心はここから始まった。

 

『……残すは……』

 

 ……兎にも角にも、あの怪物は仕留めたのだ。これで残っているのは、あの巨大な矢を放つ固定砲台のような怪物のみ……

 そして今度こそロボットを破壊しようと、矢は形成を始めている。

 

『……刀は……どこ……!』

『弾かれた位置からして、恐らくは向こうの森の中だ。とはいえ回収しに向かえばその間にあっちの人々が襲われてしまうだろう』

『ねえ、さっきのかめはめ〇、もう1回できるでしょ……! あれで…』

『いや、あの技は霊力を多く消耗してしまう。後の事を考えればできるだけ連発は避けたいところだ』

『できるだけって、でもそれ以外に打つ手は無いじゃない! 刀が無い、他に武器も無いんじゃ……』

『武器ならあるが?』

『は……?』

 

 あっけらかんと 、ロボットはそう答えた。

 

『……いや、あなたさっき、そういうのは無いって……』

『銃火器のような遠距離用の武器はな。というか持っているのは私じゃない。千景、お前が持っているんだ』

『わ、私が……?』

 

 少女の戸惑う様子が、私にも伝わってきた。本当に心当たりなど無かったのだろう。

 だが次の瞬間、ロボットの中で何かがあったのか……外にいる私やひなたには、彼女の顔は見えない。

 

『…………まさか……これの事……?』

 

 しかしその表情の変化が起こった事だけは伝わる声が、聞こえてきた。

 

『正直私は失念していたので助かった……千景がちゃんと拾ってくれていなかったらより霊力を使わざるを得なかったからな』

 

 ロボットは腰元の鞘を掴み、構えた。刀剣の無い鞘なんぞ、ただの細長い物体でしかないのだが、徐々にそれが赤い輝きを帯び始めた。

 

『……さあ、力を込めろ!! 共にその力を解放するぞ!!』

 

『これが……武器……。役立たずの、無意味な刃なんかじゃない…!!』

 

 少女の声はどこか力強かった。そして鞘から、赤い輝きが解き放たれた。その光は鞘全体を包み込み、やがてそれは形を変える。

 5メートルの刀剣を収める鞘はより細く丸みを帯び、しかし巨大なあのロボットに並ぶほど長くなる。その先端には、紅蓮の炎のような紅き輝きを宿した鋭くも大きな刃が出現していた。

 

 深紅の大鎌を携えてロボットと少女は……

 

『大葉刈。我が永遠の友の魂よ』

『……死者をも冒涜する呪われし神の刃……だったわね。なんだか物騒な……でも』

 

 深く繋がり合う。

 

『『人殺しの化け物共に与える報いとしては、ふさわしい武器よ!!』』

 

 大地を蹴り、醜悪なる化け物へと駆ける。俊敏な動きで瞬く間に距離を狭め、奴から巨大な矢が放たれる。

 そんな攻撃が二人に届くはずがないのだ。大葉刈に込められた霊力の赤い輝きが、刃に触れた矢を一瞬で塵に変え……その勢いのまま、化け物の懐に入り込んだ。

 

『これが私達の秘奥義! 千景(せんけい)(ざん)ーーー!!』

 

 大きく大鎌を振り回す、その軌跡はこの目を以ってしても見えなかった。刹那、巨大な化け物の全身に無数の赤い線が走り抜ける。

 縦に斜めに横に、縦横無尽に……刃に付着した魂無き穢れた命の雫を払うよう大鎌を回し、石突を地面に付いた時、巨大な化け物は無数の小さな肉片となって、バラバラに崩れ落ち、消滅した。

 

 ここにいた、たくさんの命を奪った化け物が……全ての化け物が倒された。あいつに……彼女たちの手によって報いを与えられて。

 

「な……なんなんだ、あのロボットは……」

 

 安堵するよりも先に私は、この時になってようやく、麻痺していた感覚が元に戻りかける。

 化け物……バーテックス。そして突然青い鳥の姿で現れた、この異質な存在であるロボット……これまでの私の常識を覆す存在に戸惑い、固まってしまう。

 

「……あれは……あの方は……」

 

 そんな過去1番の戸惑いを感じる私とは違って、ひなたは……ひなたはまたしても、私の知らない彼女の異質な雰囲気を纏っていた。

 巫女としての力を開花させていた彼女は、神によって告げられた言葉を紡いでくれた。教えてくれた。

 

 

 

 

奇蹟の機巧(カラクリ)、次元を超えて弱きを助け悪を挫く。燃えるような熱い感情(パトス)を突き動かすのは高潔で勇敢なる戦士の魂

 

「ひ、ひなた……お前、また……」

 

気高き誇りを神聖なる翼に込めて、安寧秩序を唄い、快活自在を願い、世界を羽ばたく蒼き渡り鳥。彼女たちの想いが交差する時、希望の光が闇を斬り裂き天を貫く

 

「…………説明口上…長くないか…? この刀の時よりも……」

 

絶望に染まる世界を変えるべく、天地創造を統べる神器……改め【神機】 その名は勇者──

 

 

 

 

『ノギワカバーンだ!』

ノギワカバーン!デレレレレレレレテレレレレレビュォオオオウデッデーン!コノイタミワスレルブチッ!

『だから一体何なのよこの腹立つ歌は!?』

『は、腹立つ!?!?!? なんでそんな心にも無い事を言うんだ千景ぇえーーーッ!!!?』

 

 

 

 

「何なんだこのロボットはァアアア!!!!」

 

 

 

 

 あの悪夢が始まった日から、今日で3年……。

 この訳の分からん奴と出会ってしまってから、今日で3年……。

 

 私はまだ、この先の未来で自分の身に何が起こってしまうのか、何も知らない……知りたくない……。

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