ガンダムSEED Vasuki   作:きおう

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投稿順番がおかしいですが、プロローグ的な話を二話ほど投稿します。
こちらは宇宙世紀サイドになります。


U.C.0093.04.xx

宇宙世紀0093.04.xx

 

 高級感のあるラウンジの一角、カウンター席を二人の軍人が陣取っていた。

 

「……盆過ぎての鯖商い。我々は軍人ですが、この宇宙ではそう見えているかもしれません」

 

「宇宙に上がってすることが御守り、ですからな」

 

 品のいい音楽を背景にグラスの中身を手元で揺らしながら、金髪をリーゼントにした男はつまらなそうにぼやいた。

 第二次ネオ・ジオン抗争とも、シャアの反乱とも呼ばれる戦いの終結からおよそ一か月、月のグラナダは平穏そのものだった。

 連邦軍の基地には緊張と無縁の空気が漂い、士官用のラウンジのあちらこちらでスーツや軍服姿の老人たちがつまらない話に花を咲かせている。

 

「あと一月早ければ。ヴァースキ大尉はそう思われていることでしょう」

 

 のんきなお偉方を眺めていた、黒い片眼鏡をかけた紳士然とした老軍人はカウンター席の隣に座る男へと裸眼を向ける。

 ヴァースキと呼ばれたリーゼント男は心情を問われたせいか不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「3年前、大尉はシャア・アズナブルと矛を交えていますからな。再戦を心待ちにしていたことでしょう」

「まさか、こうもあっさりと終わってしまうとは思わなかった。それも行方知らずときている」

 

 3年前の宇宙世紀0090年。ヴァースキは連邦議会議長に引き抜かれ、暗躍を始めたシャア率いるネオ・ジオンと一年戦争時代の遺物をめぐり二度にわたって戦いを繰り広げた。

 軍歴ではその戦いしか記録にないが、軍籍を洗う(ヴァースキを名乗る)前にも戦った経験があるのは公然の秘密となっている。

 グリプス戦役時、戦いができると思想組織(ティターンズ)に懐いていた彼は、当時エゥーゴに所属していたクワトロ・バジーナと名乗っていたシャアと交戦している。

 金ぴかのMSを駆るクワトロを大気圏に叩き落としたこともある。

 だが、再開したシャアはグリプス戦役時よりも動きに迷いがなく、ヴァースキを含むエース級が複数人がかりでもなお一人で圧し続けるという、恐ろしい実力を見せた。

 ヴァースキの仮面を捨て、野獣(ヤザン)本来の動きとなっても、腕一本をとるための血路を開くのが精一杯というのは、彼の実力を知る誰もが驚いたものだ。

 そんな大劣勢な戦いだったが、当の本人は楽しくて仕方がなかった。

 あれほどの機動戦はそう経験できるものではない。

 遺物をめぐる戦いのあと、再び宇宙に消えたシャアが隕石を落としたと聞き、連邦とネオ・ジオンの戦いの匂いは彼の中の獣をくすぐった――のだが、蓋を開けてみればこの結果だ。

 ネオ・ジオンとの戦いはロンド・ベルが前面に立ち、隕石落としからわずか十日で終結。

 シャアは三度消息不明となった。

 

「小官にお呼びがかかったのは終結後、しかもこの御守りのためにですからな」

「ゴップ議長、いえ元議長の月視察にはそれなりに人や物がいるのでしょう」

 

 今、月には連邦議会議長を退いた老人が、連邦議員の視察に帯同し訪れており、ヴァースキたちは地球から月までの護衛を仰せつかっていた。

 このゴップ議長が0090の戦いでヴァースキを戦いに赴かせた上司にあたる。

 当然、彼の本性を知っているし、戦いを求める姿勢も把握されている。

 

「議長もお人が悪い。せめて残党狩りならよかったのだが」

「しかし、地上勤務の大尉が上がるには相応の名分が必要ですからな。せめてもの議長の計らいでしょう」

「どうだろうな」

 

 議長の下で戦っていた間に、散々手のひらで踊らされた男は毛無の眉間にしわが寄ったままグラスの中身をあおった。

 片眼鏡の紳士もグラスを揺らしながらその様子を面白そうに眺めている。

 

「そろそろですかな」

 

 しばらく他愛のない会話に興じた後、時計を確認すると、二人がグラナダに降り立ってから数時間になろうとしていた。

 まもなく政治家たちのグラナダ市内の視察が終わることだろう。

 別の都市へと移動するであろう議長一行を護衛するために、母艦に戻らなくてはならない。

 

「肩の凝る警護の続きへと行くとしよう」

 

 ヴァースキはわざとらしく肩を回しながら、休憩時間は終わりだと席を立とうとした時だった。

 

「何だね、あれは?」

 

 窓際に屯する高官たちが騒いでいる。

 彼らが向ける視線の先は基地の外、月の地平の先に宇宙が広がっているはず。

 しかし、その暗い世界に眩い彩色が帯のように広がっていた。

 

「あれは、虹?」

「いやまさか。オーロラではありませんか?」

「月での任期は長いが、あんなものは見たことはありませんな」

「私は月は久しぶりですが、こんな光景が見られるとは」

 

 口々に異様な光景の正体を探ろうとするも、どこか緊張感に欠ける。

 オーロラは大気がほぼない月で、はっきりと目にできた例はない。

 ましてや虹は空気中の多量の水分が光を反射したもので、真空である宇宙空間で発生することはありえない。

 これは何かの発光現象であり、軍事基地としては光景をただ見ているだけでは困るのだが。

 

「先のアクシズをめぐる戦いでも虹のような光を見たという話がありましたな」

 

 能天気な連中はさておき老大佐は現象よりも、その光の出所を探るように目を細めた。

 さらに異常事態は続く。

 

「おかしいな、ダカールとの通話が途絶えたぞ」

「弊社のフォン・ブラウン工場とも通信できていません」

 

 ラウンジで会談していた連中が通信機が突然通じなくなったことに気が付き困惑しだした。

 控えていた連絡役も促されて外部にかけようとして首を振るだけ。

 グラナダとは月の反対側にあるフォン・ブラウンとでさえ通信ができていないらしい。

 

「ミノフスキー粒子漏れが?」

「月面は有線通信網が伸びているはずだが……」

「まさか、ネオジオンの残党では?」

 

 ようやく少しは危機感を持った連中をよそに席を立った大佐は大尉へと声をかける。

 

「これは、急ぎ戻ったほうがよさそうですな」

「……」

「大尉?」

 

 ヴァースキ大尉はラウンジの窓、光を静かに見つめている。

 まるでその正体を知っているかのような、確信を持っているような目だ。

 事実、何度も見てきた光だと、戦歴からくる勘が彼に言う。

 一月前、地上から見上げた地球を離れるアクシズが放った光。

 それだけではない。

 彼は間近の戦場でも、幾度も目にしてきた。

 

「グリプスで見た、Zの光……いや、イングリッドのガンダムも見せていたな」

 

 かつての戦場でニュータイプが乗るガンダムが見せた光。

 アクシズの光も、ガンダムから放たれたと実しやかに噂となっている。

 ゆっくりと光が消えていく中、その視線は光源を捕えようと鋭くなるが、ただ光が宇宙の闇に溶けていくだけだった。

 再び宇宙が静寂に戻っていくのを一瞥し、彼はラウンジの出口へと向かう。

 

「ココノエ艦長」

 

 あとを追ってきた大佐へ開いた口元は楽しそうに歪んでいた。

 

「MSの準備が必要だ。整備士の手配をお願いする」

「何か、勘づかれたのですな?」

 

 ああ。と笑うヴァースキ。

 実のところ、正体は分かっても何が起きているのかは分らない。

 だが、獣じみた勘が言うのだ。

 戦いが、戦闘が起きると。

 それで十分だった。

 

 

―――――

 

「艦長、グラナダ司令部からです。月周辺の連邦艦隊との通信が軒並み途絶えているそうです」

 

 連邦軍基地に停泊しているココノエが艦長を務めるブランリヴァル。

 ブリッジに戻ったココノエとヴァースキに早速副長から異常事態の報告が入る。

 

「ゴップ議長たちは?」

「基地内のシェルターです」

「なら、しばらく我々はここで待機だな。各員にいつでも出られるよう出港準備を指示しろ。MS隊も出撃準備の上で待機だ」

「はっ。総員、出港準備。MS隊にも出撃準備を!」

 

 副長が指示を各部に出す中、ココノエは艦長席に腰を下ろすとヴァースキに手元の電子ペーパーを見せる。

 一時間ほど前の月周辺の連邦軍の配置に赤い×とMIAの文字が重なっている。

 副長の言うようにグラナダ市外の部隊とは途絶しているようだ。

 

「さて、艦隊と連絡がつかないとなると、グラナダ基地から哨戒のための艦隊が周辺に派遣されることになるでしょう」

 

 電子ペーパーを操作するとグラナダ基地から各方面へと矢印が伸びるが、ブランリヴァルの艦隊は軍港から動く様子はない。

 

「我々は議長たちの護衛ですから、別命があるまで基地から動けません。……大尉はMSデッキで待機されますか? 状況は随時共有させます」

 

 ココノエから出されたのは命令ではなく、提案。

 大佐を示す階級章を付けた彼が大尉であるヴァースキに伺いを立てるのも不思議な光景だが、彼らは護衛対象のゴップ議長を介したつながりであり命令系統に組み込まれたわけではない。

 いわば、ヴァースキはブランリヴァルの居候だ。

 お互いに提案し、お願いをし合う関係。

 軍内での階級を無視した異常事態だが、その関係を彼らの上司は同士と呼び、ヴァースキも立場を弁えていることをココノエは理解している。

 

「小官はMSデッキに下ります。この事態だ、我々にもお呼びがかかるだろう。……情報は戦術モニタに」

「ええ。ここの戦術モニタとリンクさせておきます」

 

 リアルタイムで情報が動く電子ペーパーを手に、ヴァースキはブリッジを退出してMSデッキへと向かった。

 その道中にも事態は大きく動く。

 中でも敵の存在が分かったのはパイロットスーツに着替えた直後、出撃した哨戒艦隊からの速報が電子ペーパーに映し出される。

 

「MSと……MAなのか、これは。見たことのないタイプだな」

 

 グレーのMSと戦闘機のようなMA。

 MAはインコムに似た武装を四基備えたセイバーフィッシュのような趣で、一方のMSは特徴的な一つ目でジオン系ではないかと付記されている。

 確かに一つ目に頭部のブレードアンテナはザクやゲルググを彷彿させる。

 高い機動力を生む背部のスラスターは翼型と外連味があるのは()()()意匠だ。

 しかしヴァースキには違和感があった。

 MAもMAも武装が実弾主体なのだ。

 

「今どき民間組織でもビーム兵器を携行できるぞ」

 

 月に攻め込むような連中が用意した明らかな新型が、ビーム兵器を携行しないなど考えにくい。

 通信を遮断し、ニュータイプの光などという異常現象まで再現して見せるという下準備をしておきながら、あまりにもお粗末だ。

 どんな考えがあってのことなのか。

 

「議長はアナハイム社のグラナダ工場がシャアに協力していたと言う。地球や他の都市との分断が目的ならうなずけるが……」

 

 ジオンというのは、地球による宇宙の支配からの独立が目的だが、非協力的な相手には容赦がない支配欲の持ち主でもある。

 地球と月の分断と占領を足掛かりに連邦に反旗を翻すのは分からなくもない。

 だが、つい一ヵ月前の抗争と連動しなかった連中がこんなところに今更攻め込むだろうか。

 最大の旗頭、シャアを失ったこのタイミングで動きだすという意図が読めないのが最大の違和感だった。

 

「そこは、上の連中にまかせるか」

 

 この事を今考えたところで結論はでないとなれば、あとは司令部が考えることだと思考を切り替えた。

 ヴァースキが好むのは戦争(・・)ではなく戦闘(・・)なのだ。

 このMSとMAを動かす相手にどう戦うか、が優先すべきだろう。

 

「アンマン方面の艦隊がMA、エアーズ、フォン・ブラウン方面の艦隊がMSと遭遇。敵はかなりの規模とみていいな」

 

 いずれの艦隊も遭遇した敵と交戦し、撃破に成功しているがまだまだいるようだ。

 どうやら艦隊だけでなく拠点まで構えているらしい。

 いつの間にとは思うが、どうせ分からないことは置いておく。

 

「グラナダの艦隊の目的は敵の殲滅ではなく他の都市の状況確認にある。敵の拠点を叩くのは俺たちかもしれんな」

 

 ブランリヴァル隊の使命は連邦議会要人の護衛だが、基地にいる間はグラナダ基地が担う。

 多くの艦隊も出払っている今、限られた戦力の中で余剰ともいえるヴァースキたちに敵を叩く任務が下る可能性が高い。

 未知の相手との会敵は楽しみである一方で、部隊長としては目的を達成するために情報の精査が必要だ。

 先行する艦隊の収集したMSとMAの特徴、配置の確認を進める中、ついにその命令が下ることになる。

 

『ヴァースキ大尉。第16、20、24哨戒艦隊が敵拠点の一つと思しきポイントでMS数機を残して壊滅、撤退しています。我々は現時点で議長護衛の任務を一時停止し、残存部隊の救援と当該ポイントの敵の排除に向かう』       

「了解した。しかし、三個艦隊が壊滅とは」

 

 グラナダ司令部からの指令を伝えてきたココノエにすでにコクピットに座ったヴァースキは率直な感想を口にした。哨戒レベルとはいえ3個も揃えば6隻の戦艦と12個のMS小隊の大戦力だ。

 すでに別の敵拠点と推測される、旧世紀にローレンツと名付けられたクレーターに派遣された艦隊は損害はあるが制圧間近との情報が来ているだけに少なからず驚きがあった。

 

『どうやら敵は自爆覚悟で戦略級のEMP兵器と思われるものを使用したようです。この手の兵器をジオン残党が使用した例はありませんな』

「拠点もろともやる連中となると手早く済ませんと俺たちも危険だ。ヴァースキ隊は先行したいが、どうです?」

『MS隊を一個先行させようとしていたところです。貴官らに出てもらえるなら、助かる』

「ああ。まかせてもらおうか」

 

 ヘルメットをかぶりながらヴァースキは獣のように笑う。

 機体の動力炉は力を巡らし、リニアシートの周りに周囲の光景が映し出されている。

 部下二人含め、出撃の準備は万全だ。

 あとは発艦許可が下りるのを待つだけで、それを出すのはココノエ艦長。

 もはやカウントダウンを数えるだけの段階になっていた。

 

『ブランリヴァルはこれより出撃します。大尉には発艦速度まで加速次第、出撃していただく』

「了解した」

 

 モニタからココノエが消えると、二人の部下と通信画面をつなぐ。

 

「バレンスタイン、カワセ。味方ごと自爆できるような連中が相手だ、時間をかけては死ぬことになる。敵旗艦、もしくは司令部の破壊が第一目標だ、難しい任務だが優先順位を間違えるな」

『了解です、隊長』

『了解しました』

 

 程よい緊張感を持った二人の部下から返答が来るのと同時に発艦準備のシグナルが灯った。

 部下の乗る白いジェガン顔を従え、深青のMSが動き出す。

 

「さて、時間との勝負だな」

 

 カタパルトにMSの足が固定されツインアイは開かれた宇宙へと向けられる。

 気に入らない機体だが、3年も乗れば多少は慣れてきた乗機の中でヴァースキは笑う。

 

『ヴァースキ・バジャック、ガンダムMk-II出るぞ!』




原作漫画ではフルアーマーパージこそしたものの、多分無事だったであろうMk-II本体をお持ち帰りしたと脳内でイメージしてください。
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