ガンダムSEED Vasuki   作:きおう

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強行撤退作戦-1

 声にならない少年の叫びが格納庫に響いた。

 

「ふん、縮んどるな」

「ヴァ、ヴァ……スキさん!?」

 

 股間を抑えて蹲るキラの肩を掴んだヴァースキがその顔を覗き込む。

 思いのほかしっかりと握られたらしく、少年は涙目だ。

 周りの面々も痛そうな表情をする中、セクハラまがいのことをしたとは思えないほど、ヴァースキは冷静な上官としての口調をしていた。

 

「まだ出撃前だ、焦るな」

「ヴァースキ、さん……」

「あの生意気な嬢ちゃんに何を言われたのかは知らんが、最優先はこの艦を守ることだ。それを忘れるな」

「でも、あの船が……」

「戦場はな、ほどよく冷静でなければ死ぬ。まずは貴様自身が死なんことを考えろ」

 

 キラはヴァースキの奇行が自分を落ち着けるためだと気が付いたのか、反論を飲み込み話を聞く。

 

「今回の任務は、正直難しい任務だ。何しろ今のオレ達は少数勢力だからな、できることは限られる。せいぜい敵を攪乱し、オレ達に引き付けることぐらいだ。分かるな?」

「はい……」

「フン、分かればいい。引き際を弁えるなら連れて行ってやる」

「隊長!?」

 

 ゴーグルをかけたガタイのいい男、カワセが声を上げるのをヴァースキは視線で黙らせた。

 

「できるな? ヤマト」

「わかりました」

「よし、搭乗! すぐにシグナルは出るぞ!」

 

 ひょこひょことステップを踏むようにストライクへと向かうキラを見送り、自らもグリプスのコクピットへ身を飛ばすヴァースキ。

 機体を立ち上げる中、カワセとバレンスタインが通信をつなげてきた。

 

「隊長、あの子は大丈夫なんですか?」

「ああいう奴は自分を追い込んで無茶をする。適度に任務の引き際を覚えさせなければならん。議長に叱られたくはあるまい?」

 

 それになとヘルメットをかぶりながらヴァースキは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「あいつはどこかに化けるスイッチがあると見た。今後のためにも生き延びてもらわなければな」

 

 モニタの向こうでは二人の部下が困惑している。

 確かに訓練もなくMSを乗りこなす才能の高さは見てきたが、キラは民間人の子供だ。

 望んで乗っていたわけではないのだから、月にたどり着けばお役御免ではないのか。

 そう言いたげな二人だがヴァースキは何かを感じているらしくその笑みは確信めいていた。

 

「貴様らも人の心配してる場合ではないぞ。空間機動での乱戦だ、心して行け」

「了解!」「了解です、隊長!」

 

 出撃シグナルが発せられると戦場へと向け、MS四機とMA一機がアークエンジェルから飛び立つ。

 

「中尉! 留守は頼んだぞ!」

『ええ、お任せください』

 

 艦隊前方に展開する三機のMS、フィーリウス隊に艦隊防空を託し、ヴァースキのグリプスが先頭を行く。

 

『MS隊、ブランリヴァルより30秒後に接近する敵に対してECMを展開します。以後の通信はレーザー回線を使用してください』

「了解した。各機、聞いたな。通信はレーザーバンドコード110を使用する」

 

 ヴァースキの指示に各機がレーザー通信を作動させる。

 同時にミノフスキー粒子濃度の推測値が後方で急激に上昇し始めた。

 かなりの濃度だ、アークエンジェルのアンチビーム爆雷も合わさればザフト側はMSによる有視界戦闘しかできなくなるだろう。

 対してブランリヴァル側のビーム兵器は万全で、艦隊の自衛策は強固。

 あとは物量を捌けるかだが、それはヴァースキたちの仕事だ。

 持ち場が近づいてきた。

 

『隊長、まもなく攪乱ポイントです。しかし、これはーー』

 

 索敵を担当していたバレンスタインが絶句するほどの惨状。

 数十機はいるジンの群れ。

 しかし味方の反応は少ない。

 彼らのカメラアイには連合の艦艇とメビウスの残骸がいくつも映り、動いている機体を見つけたかと思えば次の瞬間には炎を噴き上げ、仲間と同じ末路をたどる。

 そんな光景が広がっていた。

 

『手遅れか!? くそッ!』

「なかなかに厳しい戦場だな」 

 

 レーダーを埋め尽くすように広がる赤い点を不敵に確認し、例のごとく長射程のフェダーインライフルを構え引き金を引くヴァースキ。

 まずは手近なジンを二機、ビームで貫くと爆炎に気が付いたザフトのMS小隊が突っ込んでくる。

 一機、バズーカを装備している機が構えると収束した光が砲口に見えた。

 

「ビームバズーカか!」

 

 咄嗟にレバーを操作しグリプスの機動を振ると、砲弾と化したビームが横を通過していく。

 回避した勢いそのままにペダルにのせた足に力を籠め、懐へと一気に踏み込む。

 ライフルを装備した二機が牽制するが、当たらない弾など意に介さずビームサーベルを振り払った。

 

『おい、あた――!』

 

 接触した瞬間の断末魔とともに溶断されたジン。

 味方の死に遅れて再度射撃してくるジンどもも一機をバルカンで牽制しつつ、もう一機に接近し腕を切り飛ばす。

 腕を失ったジンを蹴り飛ばして銃口を向けると庇うように、さらに増援のジンが割り込む。

 次々湧いて出る新手に、しかしヴァースキはコクピットでニヤリと笑うと遠巻きにライフルを構えるジンの腕を逆に撃ち、接近して重突撃銃を奪うと機体を翻した。

 背中を見せたグリプスを追うそぶりを見せる数機のジン。

 そこを死角からジン・ナイトシーカーの放ったビームが穿ち、爆発した。

 

「各機無理に撃墜を狙うな、まずは手負いを増やせ! 敵は仲間をカバーする動きしかできなくなる」

 

 ヴァースキは奪ったライフルでジンの頭やスラスターを撃ちながら味方に指示を出す。

 了解と返した二人のナイトシーカーが散開し、多角的な動きを取り始める。

 一機が敵機の四肢を奪い、カメラを潰し、スラスターを撃ち抜いていく。

 動きが鈍くなったところをカバーに入ろうとすれば援護の機体もつられて鈍くなるもの。

 それでも攻撃するなら、すかさず別角度から別の一機が仕留める。

 一方で引き下がるなら深追いをせず、あくまで敵戦力の攪乱に徹する。

 その動きは牙と嗅覚を備え、獲物を連携で仕留めるまさに猟犬の動きだった。

 

『やるじゃないの、アイツら。坊主も殺さなくていい、とにかく撃ち続けろ』

『わ、わかりました!』

 

 ムウもガンバレルを展開し、グリプスたちに気を取られているジンを撃破する。

 一方のストライクはビームライフルで可能な限り四肢を狙う。

 うまく敵戦力を削ってはいる。

 しかし敵もビーム兵器を投入するなどこちらを仕留めるべく動いてきている。

 長期戦は避けたいところだとヴァースキは弾切れをおこしたライフルを捨て、フェダーインライフルを再度構えた。

 

『隊長! メビウスを二機確認! モントゴメリもそこにいる可能性が!』

『ブランリヴァルよりレーザー通信受信、艦砲射撃の目標座標データの確認要請です』

「了解した! ヤマト、フラガ。メビウスから残存艦隊の座標データを聞き出し、ブランリヴァルへ送信しろ」

 

 バレンスタインの探知した情報とカワセから届いた指示を共有させながら、二人にヴァースキは確認を任せる。

 

「オレ達は引き続き暴れて敵を攪乱する。各機、艦砲射撃が始まったら引き揚げろ、撤退できなくなるぞ!」

『まかせとけ! お前らも気をつけろよ!』『わかりました、ヴァースキさん』

『了解しました』『了解です、隊長』

 

 ジン・ナイトシーカー二機がビームライフルでザフトを牽制しながら隊が二つに分かれる。

 ストライクとメビウスゼロがMAへ接触、援護すべく突貫していくのを背に、グリプスはビームライフルのエネルギーパックを取り換える。

 走査した情報を整理し、敵の動きを再度確認する。

 

「残りのMSは十四機、半分は先遣艦隊に向かう動きか……オレ達を無視して先遣艦隊に戦力を向けるつもりか」

 

 攪乱の効果が薄くなってきている。

 しかし三機で戦線を拡大するのは愚策、何より彼らの攪乱はGどもを足止めすることにある。

 その本命が釣れたようだ。

 

『隊長、イージスとデュエルです!』

「かかるぞ! 戦力を削りながら二機を抑える!」

 

 部下の応諾を確認し、ヴァースキはココノエに通信を送ると機体を敵陣へと走らせる。

 見えるのはG二機とジンの小隊。

 どうやら敵も気が付いたようだ。

 ニヤリと長銃を獲物へと向け、引き金を引いた。

 

 

―――――

 

 

「各機、獣だ!」

 

 イージスのパイロット、アスランはグリプスがライフルを構えたのに気が付き、射線を切るように滑らせる。

 デュエルと六機のジンも警告を受け、咄嗟に動く。

 しかし動きの遅れたジンが二機、ビームに撃ち抜かれて爆炎と化した。

 

『ナチュラルふぜいが!』

 

 出鼻を挫かれ、デュエルからイザークの怒号が飛び、ライフルを乱射するも敵は散開し宙を切る。

 直後、デブリがいくつも爆散し周囲に破片が飛び散った。

 

『くそっ、どこだ!?』

 

 レーダーが乱れる中、見失った敵を各機警戒する。

 

『隊長! ここは我々が――』

 部下のジンの右肩がはじけ飛ぶ。

 残骸と闇に紛れていた改造ジンことナイトシーカーがライフルを構え飛び出してきた。

 

「ハイド!?」

『自分は大丈夫です!』

 

 爆散を免れたジンにもう一機が右を守るようにナイトシーカーへと重突撃機銃を向ける。

 体勢を立て直しながら部下が作戦継続を促してきた。

 

『イザーク隊は足つきを!』

『くそっ、ジンを好き勝手使いやがって!』

「っ!?避けろ!」

 

 アスランが叫んだ直後、後方から姿を現したグリプスがジンをビーム刃で貫いた。

 

『あ、え……?』

 

 突然仲間を狩られ、まるで飛び出してきた肉食獣に出会ったかのように腕を失ったジンが動揺する。

 そのまま抵抗もできずにビームサーベルにコクピットを命ごと溶断され消えた。

 

『貴様らァッ!!』

 

 ナチュラルにいいようにされ、激高したイザークがデュエルを青い獣へ突撃させる。

 その姿をデュアルアイで見上げていたMSは刀身を消し、長物――ニコルの報告にあったサーベルとライフルを合一させた武装を振り回し射撃体勢になる。

 歌舞伎じみた動きに全員の眼が向く中、アスランだけは周囲を警戒する。

 そして気付いた。

 

「まて! イザーク!」

 

 ビームライフルをデュエルの後方に浮くデブリへと放つ。

 暗闇からナイトシーカーがビームを回避するように姿を現した。

 しかも別方向からもう一機が現れ、ジンへとビームが放たれる。

 

『何っ!?』

「こいつらはやはり他とは違う!」

 

 五機目の部下を失いながらアスランは状況が悪いことを悟った。

 敵は三機でローテーションを組み、囮と狩人を繰り返している。

 しかも青いG、グリプスは性能もだが、パイロットもクルーゼ隊長が警戒するほどの化け物だ。

 敵の連携に意識を向けるとグリプスに、グリプスを警戒するとジンに狙われる。

 もはやアスランの小隊が獣を狩り、イザークの小隊が足つきを撃沈するという当初の予定を完全に遂行することは不可能だ。

 

「イザーク! 敵を分断する、俺は獣のGをやる! ドナルドはニコルと合流しろ!」

『了解!』

 

 一機残ったジンをニコル率いる別動隊との合流に向かわせ、自らはジン・ナイトシーカーを牽制しながらグリプスへと突撃する。

 あの獣を仕留めるには隙をついての大出力ビーム砲、スキュラしかない。

 当てられなくとも敵は先遣艦隊と自分の母艦を守らなくてはならない以上、この装備を警戒するはずだ。

 デュエルが二機のナイトシーカーへとライフルを放つのを横目に、イージスは四肢のビームサーベルを展開する。

 見ればまっすぐに急接近する青いMSも長銃身のライフルからビームサーベルを発振した。

 迎え撃つべく、飛び込もうとし、

 

「!!?」

 

 眼前に彩色光が広がった。

 それがビームサーベルと気が付くより早く、持ち前の反射神経で機体を捻り紙一重で躱す。

 回避した。にもかかわらず、機体が衝撃に揺れた。

 

『よく躱したが、その後が教科書通りだ! ビームサーベルを消すなど!』

 

 接触回線から恐ろしい声が響いた。

 心の底から戦いを楽しんでいる、そんな声だ。

 鈍い衝撃に飛ばされかけたアスランの意識は一気に覚醒した。

 ビームサーベルを再度展開し、グリプスへと再度飛び込んだ。

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