ビームサーベルを三本、再度展開してグリプスへと飛び込んだイージス。
しかし、その連撃の悉くが届かない。
ライフルを投擲した青いGに徒手空拳で、適格に光刃を避けられていく。
「なっ――!」
『子供の間合いだな!』
埒が明かないと距離を開けようとした瞬間、狙いすましていたかのようにグリプスの右手がバックパックに伸びる。
「っ!? くっ!」
機体を急上昇させ、抜かれたビームサーベルを避ける。
『避けたかっ!』
獣の声が戦場に響く。
喜色を含んだ声はアスランの胸中に激情を芽吹かせるのに十分だった。
「お前は、戦争を楽しんでいるのかッ……!」
『青いな、小僧。こんな子供に頼ってばかりとはザフトも底が浅いな』
「ナチュラルが平和を踏みにじったせいだ!」
この敵に対してもはや怒りを抑えることは不可能だ。
母を殺され、平和のために軍人となることを決意した彼にとって、目の前の獣の言動のことごとくが、許し難い。
しかもキラを誑かし、利用している。
野蛮なナチュラルそのものである獣への怒りをぶつけるようにビームサーベルを突きだした。
「お前たちナチュラルはっ! この戦争で無関係な人間が何人犠牲になったと思っているんだ!」
『…ク』
アスランの言葉に、息を吐く音が通信機からこぼれる。
『クク、フフフハハハハ! こりゃ良い!』
グリプスから返ってきたのは、嘲笑。
ビームサーベルを後退して避けたところを狙い撃ったビームも回避し、グリプスのパイロットは吠えた。
『貴様ら思想組織こそ、戦争が何かを知らんようだな!!』
「何ッ!」
『連合のブルーコスモスどもも、ザフトも同じだと言ってるんだよ!』
グレネードを腕部から放ちながら、コクピットの中でヴァースキが指弾する。
「戦争にもルールがある」とは一年戦争に従軍した際に聞いた言葉だが、正義を掲げた連中に限って通用せんものだ。
ジオンといい、ティターンズといい、自分に知性や正義があると思っている輩は、何もできない民間人を目的のために殺戮してもいいと考えている。
しかも自省もせず、相手を糾弾するのだから質が悪い。
イージスのパイロットは
こういう連中が戦場を、戦いを汚す。
思想もなく、戦争ではなく戦闘を好むヴァースキは、そんな連中を理解する気もなく蔑んですらいた。
『貴様らザフトがばら撒いたニュートロンジャマーによって地球人口の一割が餓死や凍死した! その多くが、貴様の言う戦いとは無関係な民間人だ!』
「ッ!?」
『ヘリオポリスでも二千もの中立国の市民が死んだぞ。 G兵器を狙い侵攻した貴様らのせいでな!』
正義感ではなく、戦いを天地とする男のポリシーからくる指摘。
それだけに着飾らずに唾棄された言葉に、思わずアスランの操縦する動きが鈍る。
嘲笑いながらもその声音には確かな呆れと嫌悪が感じ取れたからだ。
『おまけに中立国の避難民やプラントの遭難者を乗せたアークエンジェルも、貴様らは沈めたいそうだな!』
「プラントの遭難者?」
『
「黙れ!!」
ビームライフルを連射しながらイージスは横に飛ぶ。
MAの残骸を巻き込んだグレネードの爆発が、細かなデブリとなって背中に降りかかる。
額に浮かぶ玉のような汗が、アスランには冷たく感じた。
集中力を欠いてはならないはずの敵が吐く、その言葉が鋭く、心に切り込まれていく。
母を殺した連合と、自分が同類。
そんな恐ろしい考えが頭に浮かぶ。
「お前たちが核を使わなければ!」
振り払うようにアスランは叫び、ビームサーベルを四本、展開する。
先に核兵器を使用し、ユニウスセブンを破壊したのは連合。
地球での市民の犠牲はその結果でしかない。
「お前たちがG兵器など作らなければ!」
ヘリオポリスへの襲撃も中立であるはずのコロニーで連合軍がG兵器を開発したせいだと。
罪のない民間人の死も、ザフトのせいではないと心から叫ぶ。
ビームサーベルを構えた右腕は往なされるが、即座に出力を上げた脚部のビームサーベルで蹴り上げる。
ついに腕を掠めるも可動式バーニアで機体を上昇させて回避したグリプスからは、呆れ声が届く。
『正義を語るやつってのはやはり視野が狭いものだな!』
右腕の塗料を焦がした敵機はいつの間にか、投擲したはずの長銃身ライフルを握っていた。
誘いこまれたとアスランが気が付いた時には遅かった。
引き金が引かれ、ビームがイージスの足元を過ぎ去る。
『ぐあっ!?』
「しまった、イザーク!?」
激高のあまり、僚機の存在を完全に忘れていた。
ナイトシーカー二機と戦闘していたはずのデュエルは、爆散こそ免れたが、咄嗟に構えたシールドごと腕を飛ばされ胸部も激しく焼き付いていた。
何度呼び掛けても返事がなく、沈黙している。
逆に二機の敵も損傷こそあれど、再度襲いかかるだけの余裕があった。
「くそっ!?」
動きを止め漂うデュエルを庇うためにジンを牽制するも、今度はグリプスが手漉きになる。
『これで……ッ――』
突如、グリプスからの通信が途切れた。
直後、大出力のビームが幾条も宇宙を駆けた。
発射源からは二隻の足つきが現れ、高速で旋回しながら艦砲を連合の先遣艦隊の方角へ向けている。
グリプスはイージスを、アスランを一瞥すると僚機を連れて母艦へと引き下がっていった。
追撃したくとも中破したデュエルと意識不明のイザークがいる。置いてはいけない。
『アスラン、大丈夫ですか!?』
反対方向からブリッツが近寄ってきた。
彼も足つきに向かう小隊を率いていたはずだが、単機だ。
「すまない、イザークを合流させられなかったばかりか……」
『ッ!? イザーク!?』
損傷したデュエルに気が付いたニコルが慌てたようにブリッツを動かす。
『クッ……ナチュ、ラ……め……』
意識を取り戻したのか、力を振り絞るように怒気が通信を介して届く。
『イザーク、無事だったのですね』
『早く、行け……! 逃げたナチュラルを、追え!!』
『イザーク、撤退命令です。敵の合流は阻止できました。あとは体勢を立て直して敵本体との合流前に叩きます』
『また、失敗か……くそっ!』
怒りに震えるイザークの声を聞きながら母艦へと二人はデュエルに肩を貸すように牽引する。
イージスのコクピットの中でアスランは、敵の言葉を反芻しないよう別のことを考えようとしていた。
そして敵の言葉に引っ掛かりを覚えた。
「歌の上手なコーディネイター、……まさかな」
婚約者である少女を思い浮かべ、即座に否定したがその事実を知るのは数時間後のことであった。