ガンダムSEED Vasuki   作:きおう

12 / 14
強行撤退作戦-3

 目の前の戦場で幾つもの命が爆炎に飲み込まれていく。

 そんな地獄のような状況にキラは改めてこの任務が、戦いがいかに困難であるかを思い知らされた。

 ヴァースキの指示で先遣艦隊旗艦モントゴメリの行方をムウと探す中、二人で何機ものジンを相手取らなくてはならない。

 手負いを増やす作戦も艦隊を壊滅させる絶好の機会を逃すまいと無理攻めをするザフトの動きを止められず、コクピットをビームで貫くしかなかった。

 未だなれない人を殺した感触に心が軋みそうになるも、自らの意思で引き金を引く。

 

『無理をするなよ、坊主。俺達もアークエンジェルに戻れるように気を付けてくれよ』

 

 メビウス・ゼロのガンバレルでジンを沈めながらムウが声かける。

 

「まだ、大丈夫です。ムウさんも残弾に気を付けてください」

『こっちもヴァースキたちのおかげで余裕はある。あいつらみたいにはいかないが、連携して突破するぞ!』

「了解です!」

 

 互いを狙う敵を墜としあうように相互援助しながら何とかキラは、ジンに囲まれながらも必死の抵抗を続けるメビウスを二機を見つけた。

 

「間に合えっ!」

 

 スラスターを噴き、追い抜きざまにビームサーベルでジンを一機両断しながら飛び込むストライク。

 射撃からはシールドを構えて庇い、背後からメビウス・ゼロが仕留める。

 なんとか窮地を救えたメビウスのパイロットから先遣艦隊の状態を手短に確認する。

 

「残りは、モントゴメリだけ……」

『艦隊で必死に旗艦を守ったんだろうさ。よし、座標もカワセに送れた。あっちからならアークエンジェルにも届くだろう』

「あとはモントゴメリと接触できれば」

 

 ストライクのモニタにメビウスから受領したモントゴメリの座標データが映る。

 しかしレーダー上にはまたザフトのMS部隊が飲み込まんとばかりに近づいている。

 二人が警戒しながらも会話できているのはメビウス周辺にいた敵が艦艇ごとモントゴメリに向かっているからだ。

 

『支援砲撃のお膳立てはできているんだ、無理に突っ込むのだけはやめてくれよ。オレがヴァースキにどやされる』

 

 逸る気持ちが声音に出ているのを感じ取ったムウが抑える。

 強面男に怒鳴られる光景が浮かんだのか苦笑するキラ。

 少しは冷静になれたようだ。

 

「了解です。いきましょう」

『ああ。二人もついてきてくれ』

 

 ムウがメビウス二機を引き連れるようにキラのストライクに続く。

 背後からジンを撃墜しながらようやく先遣艦隊旗艦に接近できた二人。

 煙と炎を噴き出しながらも主砲を撃ちながら直掩機数機となんとか宙域を維持しているありさまだったが、まだ艦は生きていた。

 また一機、重突撃機銃を構えた敵機を撃ち抜きながらモントゴメリに声かけるキラ。

 

「こちらアークエンジェル、ヴァースキ隊所属 キラ・ヤマトです! モントゴメリ聞こえますか!?」

『ストライク。こちらモントゴメリ艦長、コープマンだ。まさか、()の部下が君のような子とはな……』

 

 何とかつながった通信に、キラは呼びかけた。

 

「もうすぐ艦砲射撃が始まります! それに乗じて撤退してください!」

『アークエンジェルが向かっているのか? すぐに退避して彼らに撤退するように――』

「アークエンジェルたちは撤退中です。その途中で援護射撃をするんです! それまでは僕たちが支援します!」

 

 言いながらまた一機、ブリッジを狙ったジンを撃破する。

 通信機越しにモントゴメリから感嘆の声が届く。

 

「時間がありません、早く撤退を!」

『今、アークエンジェルは撤退していると言ったな。それは――』

『坊主! 避けろ!』

 

 ムウの叫びに咄嗟にシールドを構えたキラ。

 直後、長距離からの射撃がストライクに直撃した。

 

『バスターか!? ストライク、大丈夫か!?』

『坊主!』

「だ、大丈夫です……!」

 

 機体にダメージは無いが今のでシールドを失った。

 しかもニュートロンジャマーの影響もあって狙撃地点に潜む敵Gの位置が掴めない。

 第二射がストライクの脇を通り抜け、モントゴメリの装甲が吹き飛ぶ。

 

「大丈夫ですか!?」

『ああ。航行に問題はないが、脱出艇がほとんどやられたようだ』

「そんな――!」

 

 艦体はすでに装甲が限界を迎え、満身創痍に近い。ブリッジや主機関をやられていないのが奇跡なくらいだ。

 その状態で脱出艇を失えばいよいよ宙域を損傷した戦艦で脱出しなくてはならない。

 キラは少しでも射撃を逸らそうとコンソールを操作した。

 ストライクから数個の小さな物体が放出され、モントゴメリの前に並ぶと一気に膨張し、MSの姿を象るバルーンへと姿を変える。

 ヴァースキの指示でマードック軍曹が装備させた防御、攪乱用のダミーバルーンだ。

 そして期待通り、バスターの長距離射撃は目標を外れ、ダミーへと直撃し仕込まれた爆雷が目くらましとなる。

 

「これで時間を稼げるはずです、逃げてください!」

『しかし、我々の任務はアークエンジェルを支援することだ。撤退を見届けるまでここを動くわけにはいかん』

「アークエンジェルにはブランリヴァルが附いています! 今はフレイのお父さんを連れて撤退してください!」

『まて、坊主!』

 

 感情的に、フレイの父を守ろうと説得し始めたキラをムウが割り込んだ。

 ここは戦場、規律が緩くなっているアークエンジェルはともかく、正規軍である先遣艦隊にそれは通じないと。

 モントゴメリのいる宙域まで来たのは通信不良の中での伝令役をするためだ。

 ジンへの攻撃が散漫になり始めたストライクを庇いながら、メビウスゼロからムウがコープマンへとブランリヴァルからの指示を伝えた。

 

『モントゴメリ、フラガ大尉です。ブランリヴァルより先遣艦隊の撤退指示と再合流場所を伝えます!』

 

 ムウが先遣艦隊へ指示を伝え、艦長が了承するのを聞きながらキラは、戦場の理屈を思い知らされた。

 でも、彼らは撤退してくれるんだと、また合流するとの言葉を聞き、なんとか約束は果たせると少年の心に安堵が浮かぶ。

 それが戦場では隙となるとも知らずに。

 モニターの端で何かが光り、メビウス二機が爆発した。

 さらにモントゴメリの主砲に光が幾条も突き刺さり、盛大に火を噴き上げた。

 引火した炸薬により、艦首がはじけ飛び、船体が前後に割れる。

 

「そんなっ!?」

 

 通信機からブリッジでの混乱と怒鳴り声が嫌でも聞こえてくる。

 幸い、ブリッジは無事なようだがこれ以上はもたない。

 キラは必死に射撃手を探すと、ジンとは違う白いMSが急接近してきた。

 右手にはビームライフルが構えられている。

 

『ザフトの新型! だがビームライフル持ちだと!?』

『……クルーゼか! 坊主、逃げろ!』

 

 ムウが警告するがキラはMS、シグーを牽制すべくビームライフルを連射した。

 しかし新型は潜り抜け、加速を続け間合いをぐんぐんと詰めていく。

 

『狙いはストライクか……!?』

 

 護衛をほぼ失い、大破寸前まで追い込んだモントゴメリの撃沈を引き連れてきたジンに任せたのかその機動は明らかにストライクを目指している。

 MSの性能はともかくパイロットの差は歴然、万に一つでも今のキラでは勝てないだろう。

 援護に回りたいムウだが、ここにきて増えたジンを取りこぼすわけにもいかない。

 

『くそっ、なさけねえ!』

 

 ままならない状況に思わず苛立ちが漏れるがすぐにやれることに集中する。

 雑魚を落とすべくメビウス・ゼロのガンバレルを展開された時、二人のコクピットに警告音が鳴り響いた。

 直後、待ち望んでいた大出力のビームの光が、戦場に到達した。

 モントゴメリに群がるジンたちはローラシア級1隻と光に呑まれ、爆散した。

 

「ムウさん、艦砲射撃です!」

『来たか! 撤退したいところだが――』

 

 さらに数発、艦砲から放たれたビームと大口径の実弾が駆けていく中、クルーゼの乗るシグーだけは回避機動を取りながらなお近づいてくる。

 彼を振りきらなければ離脱は無理だ。

 

「でも、ムウさん。モントゴメリは――」

『その必要は無い』

 

 さらにモントゴメリの状況をみてキラは敵を下げるべきだと進言しようとして、コープマン艦長が遮った。

 

『航行はできる。この援護射撃がやむ前に我々も離脱する』

「でも――くぅっ!」

 

 ついにクルーゼに至近距離にまで近づかれた。

 どちらにせよこの敵を退けなければ離脱できないことはこの場の共通認識だ。

 そこに隙を作れる援軍が現れた。

 

『何をしている、貴様ら! 撤退しろ! 走れ走れ!』

 

 怒鳴り声とともに大出力ビームが連合とクルーゼの間合いを切るように駆け抜けた。

 

『ヴァースキさん!』

『泣かせる登場じゃないの! 坊主、なんとかジンを振り払って離脱するぞ!』

 

 大型砲を乗せた突撃艇を駆り、グリプスが現れたのだ。

 

―――――

 

 サブフライトシステムの機能を持つ移動砲台『バストライナー』。

 ブランリヴァルから借り受けた砲台の上に立ち、大型ビーム砲を操作しながら宙域に突っ込んできたヴァースキ。

 彼は状況を判断したのか、自動操縦に切り替えるとクルーゼの白いMSへと飛び掛かった。

 手にした通常タイプのビームライフル、その銃口を微調整しながら釘付けにするように機動を制限すべく乱射するグリプス。

 応じる白いMSもビームを放つも一発のみ。

 避けながら追い詰めることなどヴァースキには造作もないことだ。

 

「なるほどな!」

 

 手数の少なさの理由にすぐさま思い当った彼は、さらに加速し間近に迫ったシグーのビームライフルの射線をギリギリのところで左腕ではじいた。

 直後にはライフルから放たれたビームが明後日の方向の暗闇へと消える。

 

『どうやら、読まれていたようだな! 野獣の勘とはやっかいだ』

「言うじゃねえか、兄ちゃん!」

『異邦の獣に首を突っ込まれては、困るのだがね!』

 

 皮肉なのか、悪態なのか。

 接触回線で届いた男の声はヴァースキを余所者と呼んだ。

 

「面白いこと言う奴だな!」

 

 興味深げに笑うヴァースキだが、問答をしている暇はない。

 グリプスは飛び退くと同時に敵のビームライフルを持つ腕を撃ち抜く。

 支えを失い宙にこぼれたビームライフルを左手で掴むと牽制射を残して一目散に離脱した。

 

「フラガ、ヤマト! 撤退だ! これ以上は辿り着けなくなるぞ!」

 

 ブランリヴァルとアークエンジェルからのビーム砲の合間を縫うバストライナーに飛び乗るとまだモントゴメリのそばにいる二人に呼び掛けた。

 逃げる前にジンを数機、まとめて撃ち落としながら軌道を大きく曲げ、ついて来いと言わんばかりに戦場に背を向けた。

 戦場にできた大きな隙にキラが慌ててストライクのスラスターを全開にし後を追う。

 モントゴメリはすでに反転し、宙域を離脱していくのを確認しながら彼らは戦線を一気に離れていった。

 

「離脱できたが、回収限界距離までギリギリだな」

『助かったぜヴァースキ』

「こいつがなかったら、オレも貴様らの回収までしようとは思わなかったがな」

『ああ、こんな切り札まで用立ててくれたあの艦長にも感謝だな』

 

 アンカーで牽引されるメビウス・ゼロのコクピットでムウがバイザーを上げて汗をぬぐう。

 

「それで、モントゴメリも離脱したんだな」

『ああ。まずは俺達からは離れて、本隊からの要員を待つとよ』

「そうか」

 

 モントゴメリの意図を読んだヴァースキはそれだけ言うと黙った。

 わずかな沈黙の後、今度はキラが二人に回線をつないできた。

 

『ありがとうございます。ヴァースキさん、ムウさん』

「何がだ、ヤマト」

『二人のおかげでモントゴメリが撤退できました。……フレイとの約束も守れました』

 

 バストライナーに固定されたストライクの中でキラは今度こそ安堵した表情を浮かべていた。

 彼はそのフレイの父とも話をしたらしい。

 

『別れる前にフレイのお父さんが言っていたんです。『フレイを頼む』って』

「……」

『また合流できるまでアークエンジェルを守ることができれば、フレイを守ることにもなると思うんです。僕、それまでは頑張ります』

『坊主……』

 

 子供は純粋だと大人は思った。

 聡いはずの少年でも父親の子を思う心に裏がないと思ったのだろう。 

 祈るようにストライクの頭部を後ろに向けるキラとは対照的にヴァースキとムウは確信していた。

 再び合流することはないことを。彼らはアークエンジェルとキラ(・・)のために任務を果たすであろうことを。

 

 

 その後、見事に死に花を咲かせたモントゴメリの最期をアークエンジェル内で受け取ることになるのはわずか数時間後の事だった。




シグーのビームライフルは月でのザフト敗北の原因を知るクルーゼが準備させた試作品です。
これもヴァースキさんたちが来たことによる小さな影響でしょうか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。