ガンダムSEED Vasuki   作:きおう

2 / 14
C.E.70.06.02

 C.E.70.6.2 エンデュミオン・クレーターでの戦いは混迷を極めていた。

 地球連合軍の鉱山資源基地であるエンデュミオン基地に侵攻したザフトの艦隊を第3艦隊が迎え撃つ形となった戦線はMAメビウス・ゼロとMSジンを中心に推移していた。

 圧倒的な性能差によりジンが善戦するメビウス・ゼロを葬り、第3艦隊も甚大な損害を被っていた。

 このままザフトに大敗を喫するかと思われたとき、転機が訪れる。

 第三勢力が介入してきたのだ。

 

『くそっ、なんだコイツら!?』

『ナチュラルごときがMSを開発していたのか!?』

 

 MSはザフトにしかない。

 そう思っていたジンのパイロットたちは突然現れたMSに驚愕し、そのまま謎のMSが放ったビームに貫かれ次々と炎に包まれていく。

 ジンには装備されていないビームライフルを装備した角ばったMSは、ゴーグルをかけたような表情の見えない顔をザフトと地球連合に向け区別なく襲い掛かる。

 

『くそっ、何だこいつら!?』

『どっちの味方なんだ!』

『ナチュラルもコーディネイターもないのか!』

 

 一撃で装甲を貫くビーム兵器を持つMSに、連合もザフトも悪態をつきながら迎え撃ち、三つ巴の戦いに突入していた。

 その主役は間違いなく第三勢力だ。

 そんな状況を地球連合の艦隊司令部は見過ごすことをしなかった。

 

「基地を放棄する。だが、奴らにくれてやるつもりもない」

『まさか、サイクロプスを?』

 

 提督の言葉に何かを察したMA隊の母艦をまとめるビラードは顔を青くする。

 サイクロプスはエンデュミオン基地で採掘されるレアメタル採掘用の機材でマイクロ波によって氷を融解する機能をもつ。

 原理は電子レンジに代表される水分を振動させるというもの。

 だが人に向けて使えば、人体の60%を構成する水分が加熱され破裂する非人道的な兵器と化す。

 逆転の一手としてその非人道兵器の使用に提督は踏み切ったのだ。

 

『しかし、サイクロプス上空は乱戦で友軍も多く展開しています。我々の被害も甚大になります』

「この際だ、ザフトと不明勢力を一気に殲滅するには多少の犠牲はやむをえまい」

 

 ザフトと第三勢力、どちらも地球連合を戦力的には圧倒している。

 両勢力に挟まれた戦況が連合にとって最悪なことを悟っていることもあり、ビラードも強くは反対できず、サイクロプスによる基地もろとも敵を殲滅する作戦はすぐに実行された。

 結果、不明勢力の艦隊はその大半を失い、ザフトもMSの半数近くが消滅した。

 同時に地球連合の艦隊もその三割近くを失う代償を払ったが、艦隊司令部は安いものだと割り切った。

 これで不明勢力は戦闘不能になり、ザフトもMSとMAの戦力差を考えても痛み分けに持ち込める。

 

 そう考えていた。

 

 不明勢力の増援が現れるまでは。

 

 

―――――

 

「おいおい、マジかよ」

 

 メビウス・ゼロに乗るムウ・ラ・フラガはただでさえ悪い戦況が最悪に転がり落ちたと感じていた。

 味方もろとも壊滅させたはずの不明勢力のMS。

 それが追加で現れたかと思えば、あっという間に旗艦が轟沈した。

 しかもたったの三機でだ。

 白のMSはゴーグル頭のサイクロプスで壊滅させた機体に似ているが、一機は明らかに違う。

 まるで人間のような二つのカメラアイを持ち、V字の角を冠した青いMS。

 ジンへと飛び込んでいくMSの動きは他とは一線を画していた。

 

『くそっ! ハイドがやられた!』

『敵機は――!?』

『後ろだ!』

 

 ビームライフルでジンを撃ち抜くと、その爆炎に紛れ、次に姿を見せたときには別のジンがビーム刃に背後から切り裂かれていた。

 ザフトを襲ったかと思えばメビウス・ゼロに矛先を向け、展開されたガンバレルを潜り抜けビームでコクピットを貫く。

 組織的な動きで三つ巴の状況に持ち込んできた最初の連中とは違う、一機のMSが両陣営を襲い喰らい付くさまはまるで獣だと、ムウは戦慄した。

 

『なんだよ、あれ』

『本当にMSなのか?』

 

 狂ったように火線を飛ばすザフトのMS達を容易く葬る獣のようなMSの実力に周囲は圧倒され、メビウス・ゼロのパイロットたちはパニック映画を見ているような非現実性さえ覚える。

 もっとも、すぐに自分たちも獣に食われる物語の登場人物だと気づかされるが。

 

『ひっ!?』

 

 ムウの乗るコクピットにまた一人仲間の断末魔が聞こえた直後、メビウスを葬った獣にジンの機甲突撃銃が放たれる。

 

「あの白いジンは……クルーゼか?」

 

 ザフトの白いMSがライフルで牽制しながら接近し、抜刀した重斬刀を右腕に構えた。

 すれ違いざまに振るわれた斬撃に青いMSもビームサーベルで迎え撃つ。

 一撃で離脱した新型ジンの持つ実体剣は半ばから溶断されるもすぐにライフルを構え射撃する。

 その後を追い、青い獣はデブリと化した艦艇やMAの残骸を縫ように機動戦へと突入した。

 おそらくジンのパイロットはクルーゼだとムウは存在を感知していた。

 彼の能力と新型の性能でやっと戦いになるあたり、あのパイロットとMSも化け物だ。

 新型のハイマニューバと名付けられたジンがデブリの合間から撃ちこまれる実銃弾を左腕部のシールドで弾きながら青いMSは追撃する。

 シールド先端から放たれたミサイルがデブリと化したMAを吹き飛ばし、クルーゼの行く先を阻む。

 

「ぞっとするね。あの戦いに割り込んでいくってわけか」

 

 デブリの雨を搔い潜った白い軌跡と、それを追う青い獣の狩りの動き。

 MS同士の高機動戦を初めて目にし、思わず感嘆の色が籠る。

 ビーム兵器を持たない状態ではさすがのクルーゼも分が悪いのか、銃火器をばらまきながら距離をとっている。

 一方の青いMSもクルーゼ相手だと他を気にしている余裕はないのか、一対一に終始している。

 もっとも、MSもMAもわずか数機しか残っていないが。

 ともかく、これ以上戦場を蹂躙される前に青い奴を仕留める必要がある。

 基地に映る反応を見ると、白いMSが敵がいないのをいいことに二機とも降下し、サイクロプスで自壊した鉱山基地を調べている。

 占領か、サイクロプスの確認のためかはわからないが、とにかく青いやつが単機でいる今しかチャンスはない。

 

「……」

 

 ムウは何故かクルーゼの存在を感知することができる。

 感知できた白いジンの存在から、持ち前の空間認識力を生かして二機の戦闘機動を読む。

 艦の残骸でできたデブリ帯を抜けた先へと回り、ガンバレルを展開し、その時を待つ。

 ビームサーベルにライフルを溶断され咄嗟に離脱するジンハイマニューバを追う青い機体はムウに対して背を向けていた。

 チャンスとなったデブリ帯を抜けたタイミング、完全な意識外からの同時多角攻撃だ。

 しかし着弾寸前に気が付いたのか機体を翻し、回避される。

 

「……冗談きついな。まさに野獣だ」

 

 動きだけなくパイロットの感も獣並みだ。

 顔をしかめながらメビウス・ゼロを飛ばし、こちらに向かってくるMSと相対する。

 振りかぶられたビームサーベルはそのまま行けば直撃コース。

 即座にアンカーをドレイク級の残骸に打ち込み、振り子の要領で機動を無理やり変えることで回避、すぐさま上面に展開した二基のガンバレルから実弾砲を叩き込む。

 直前にシールド先端から飛び出したミサイルで一基破壊されるが、もう一基の二門は確実にMSを捉えた。

 

「どうだ!?」

 

 連合とザフト、十数機を犠牲にしてようやく入った一発。

 確かな手ごたえを感じてアンカーを引き抜き、旋回した先を睨む。

 煙が晴れ、姿を現したのは、ムウのメビウスを見上げている青いMS。

 左腕部、ヘビを模したエンブレムの入ったシールドが割れ、青い腕が見える。

 与えたダメージは、それだけだった。

 MSのマスクで見えないはずの口が笑っている、絶望的な状況の中でムウにはそう見えた。

 

―――――

 

「さすがにヒヤリとした」

 

 ヴァースキはコクピットの中で獰猛な笑みを浮かべていた。

 MAから飛び出た、二基のインコム。

 一基を破壊し、もう一基も射線から避けたはずが見事に修正された。

 咄嗟にシールドで庇ったが、これがビームだったら腕を奪われていただろう。

 相手はかなりの手練れだ。それも空間戦闘のセンスは派手な白のザクもどきと同等。

 これほど腕のいいやつが火力不足な旧時代的MAのパイロットとは実に惜しい。

 

「貴様とはMSで機動戦もしてみたかった」

 

 再度三基のインコムもどきを展開し、実弾兵器を構えるMAへとビームライフルを構える。

 第一目標である敵旗艦は沈め、基地はすでに自爆で吹き飛んでおり高出力EMPの再使用は不可能と判断できる。

 調査に下ろした部下からもそう報告を得ている。

 楽しい戦いだったが、すでに掃討戦に移行しており、これ以上この戦場を長引かせる必要もない。

 撤退部隊を回収したブランリヴァルから発艦した後続のMS隊も間もなく到着する、名残惜しいがここで終わりだ。

 

「もちろん、貴様もだ」

 

 ライフルの照準をわずかにずらしながらヴァースキは言う。

 コクピットを狙って放たれたビームは、白いジンハイマニューバの肩と翼を溶かし、弾き飛ばす。

 Eパックも残り少ないのだがな、と二機に狙いを定めなおす。

 その時だ。

 

『ヴァースキ大尉、戦闘中止命令です』

 

 ココノエ艦長からの通信が割り込んできた。

 

「中止だと? どういうことか?」

 

 水を差され、その声には威圧感がこもる。

 しかし艦長は圧される様子もなく説明を続ける。

 

『グラナダの地球連邦臨時政府は地球連合軍との間で停戦に合意しました。作戦中の各員はグラナダ基地へ帰投するよう司令部からの命令です』

「……」

 

 地球連邦の臨時政府という言葉に、連邦ではなく連合を名乗る地球の組織名が飛び出しさすがのヴァースキの表情にも怪訝な色が浮かぶ。

 

『士官用ラウンジにてゴップ議長がお待ちです。まずはこちらへのご帰還をお待ちする』

 

 表情が読まれたのか、上司である議長の名前が出る。

 見ればすでにMSとMA、彼らの母艦が戦場から離れていき、後退を示しているであろう発光信号が各地で上がっている。

 どうやら水入りとなったようだ。

 

「仕方ありませんな。ヴァースキ隊、これより帰投する」

『周辺宙域はクリアです。お待ちしている』

「了解した」

 

 通信を切り、二人の部下を呼び寄せながらヴァースキは撤退する二つの艦隊を眺める。

 MAを擁していた数隻が月面に沿って移動し、一隻残ったMSの母艦は月から離れる方向に動いている。

 それぞれの艦隊にはO.M.N.I.E、ZAFTと異なるエンブレムが掲げられていた。

 戦いの中で把握していたことだが、MAとMSは別の勢力の兵器だ。

 しかも連邦もジオンも関係ない連中、片方が連合と言う奴だろう。

 グレーや白のモノアイのMSどもに感じていたジオンらしくないという違和感は、当たっていたようだが、同時にヴァースキたち地球連邦軍こそが二つの勢力の戦場を荒らしたようにも感じられる。

 

「議長はどこまで把握されているのか、問いたださなくてはな」

 

 二機の白いジェガンと合流したヴァースキは連合とやらとの停戦のフィクサーであろう老政治家に説明を求めるべく、母艦へと戻っていった。

 一連の連邦軍の動きにより、グリマルディ戦線は終結することになるのだが、ヴァースキはまだ知らないことである。




原作漫画を知らない方に機体の説明 と妄想を

・ヴァースキ専用ガンダムMk-II
ヴァースキが宇宙世紀0090の一年戦争の遺産を巡る戦いの中でゴップ議長の依頼でアナハイムエレクトロニクスより新造された。0090当時としても旧式だが各部が見直されており推力も15%効率アップと性能は原型機よりも向上している。
当時はフルアーマーユニットを装備していたがシャアとの戦いで喪失、ほぼ損傷のなかったMk-II本体を終結後も任務によっては使用し続けている……という妄想です。
原作漫画ではフルアーマーユニットをパージしてシャアにウミヘビを仕掛けるシーンぐらいしか戦闘場面がないのが寂しいですが、出力15%アップしているのでジンを相手取る分にはパイロット込みでこれぐらいやってほしいです。
帯でヤザン専用とでかでかと書かれていたのは有名な話です。


・ジム・ナイトシーカー宇宙戦仕様
ヴァースキの部下が乗る白いジェガン頭のMS。
大元はジムIIをベースにした地上での空挺強襲作戦用の機体で、ジェガンのパーツを組み込むことで宇宙空間での戦闘が可能なように改修されている。
ジム・ナイトシーカー+ジムII+ジェガンという複合機で、ヴァースキ曰く継ぎ接ぎのおもちゃだが性能は悪くないとのこと。
余談ですがヴァースキ機はジムIIIベースにジェガンA2やR型っぽいパーツを組み込んだ豪華仕様。
原作漫画では最後はほとんど出番がなかったので、3年後も地上で使いながら今回の任務で久しぶりに宇宙に上がった……という妄想です。モブですが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。