ガンダムSEED Vasuki   作:きおう

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アルテミスにて

 アルテミスに入港し、ドッグへと固定されたアークエンジェル。

 会議のためのブリーフィングルームに集まる数少ない正規軍人のクルーが見つめるモニタ内には、隣の区画に入る強襲揚陸艦の姿があった。

 

「ブランリヴァル。アークエンジェルと同じMSを運用する専用艦」

「そして、搭載されたMSの内一機は、月で開発されたGの兄弟機……でいいのかしら?」

 

 護衛役としてアークエンジェルに着艦した三機のMSのパイロットたちへと艦長のマリュー・ラミアスが視線を向ける。

 

「グラナダの工廠と軍産複合体で共同開発されたMS……といえば聞こえはいいが、要は廃棄された試作フレームをリサイクルして服を着させただけの玩具といったところだな」

 

 どこか皮肉気にMS隊の隊長、ヴァースキが答える。

 威圧感ある金髪オールバックを構えた風貌に大尉という階級章、そして戦いぶりに少し気後れしているらしい女性陣に対し、ムウは軽口を叩いてみせた。

 

「そして、後ろの二人のは鹵獲ジンの改造機と。アンタら本当にナチュラルかい?」

「少なくともコーディネイターではないな。ただの旧い人類(オールドタイプ)だ」

 

 オールドタイプという言い方を皮肉ととらえるクルーの中で、アンタらと複数の物言いをしながらムウの眼は隊長の男だけを捉えていた。

 前線を知らないマリューらはMSを動かしている事実に驚いていたが、ジンに乗っていた二人は着艦時には額に汗を浮かべ、疲労をのぞかせていたがヴァースキは汗一つかいていない。

 アークエンジェル側で唯一戦場での経験を積んできただけあって目の前にいる男の異常性を見抜いているようだ。

 

「アンタ、『月の野獣』だろう?」

「月の野獣?」

 

 異名らしき言葉に反応したMS隊の面々に反して発した本人以外は心当たりがないのか、アークエンジェル組は首をかしげる。

 当の本人はおもしろいことを言う奴だと喉を鳴らした。

 

「それは人違いだな、『エンデュミオンの鷹』。『月の野獣』ヤザン・ゲーブルは現在収監中だ」

 

 ヴァースキと、嫌いな渾名で返されたムウの射貫くような視線が交差する。

 

「その名前で呼ぶのは勘弁してくれよ。悪かったな、奴と似た匂いを感じたんだ」

「オレも戦いが好きだからな、同類なのは確かだ」

 

 何かの確信をもったのか、肩をすくめて謝罪を口にするムウにヤザン大尉と似ている(・・・・)ことは肯定するヴァースキ。

 完全に蚊帳の外にいたマリューだが、独特の空気感が霧散したところで咳払いをし話を本題へと促した。

 

「あなたたちのおかげでアルテミスに入港できました。ですが、補給をはじめいくつか問題があります」

「さしあたってはアークエンジェルの扱いだな」

 

 ヴァースキがマリューに喫緊の課題を指摘した。

 何しろアークエンジェルは着の身着のままといっていい状態でヘリオポリスを脱出し、まだ正式に軍へ引き渡されていない。当然識別コードも未登録。さらに大西洋連邦が秘密裏に開発を進めた代物だ。

 つまり敵なのか味方なのかわからない艦が連合内とはいえユーラシア連邦の基地内に停泊している状態だった。

 ブランリヴァルのエスコートで入港できたが、アルテミス内は基地司令の権限下に従わなければならないだろう。

 

「司令のガルシア少将は俗な輩と聞く。連合内とはいえ所属が違う艦をただ見逃すとは思えんな」

「……ないと言い切れないのが、厄介ですね」

 

 基地司令はユーラシア連邦の所属で野心家、しかも横暴な俗物として一部では有名な男。

 自分の地位向上を狙って大西洋連邦の新兵器を所属不明機としてデータの抜き取り、最悪拿捕あれることも考えられてしまう。

 アークエンジェルの面々はブランリヴァル側に考えがあるとみているが、不安があるようだ。

 

「そこはココノエ大佐に伺うしかないわね」

「大佐はガルシア司令と話をしておられるそうですが……」

「よろしいかな」

 

 そこにブリーフィングルームのドアが開き、片眼鏡の男が入ってきた。

 

「こ、これは大佐!」

 

 ブランリヴァル艦長の突然の登場に部屋にいた全員が敬礼を向ける。

 特に慌てた様子が見えるナタルへ片手をあげ、ココノエ大佐は各員に手を下ろさせた。

 通信で相対するとばかり思っていたのか、艦長自ら来たことに少なからず驚いているようだ。

 

「艦長がわざわざこちらにお越しになるとは」

「何、アルテミス司令部に出向いた帰りです。それに用心棒として軒下は気になるものですからな」

 

 ヴァースキだけがフランクにココノエを迎える。

 

「では司令部は?」

「手土産が効いたというべきか。アークエンジェルには、私の許可なくアルテミス司令部は干渉できないことで話はついています」

 

 ドア越しに聞いていたのか、ヴァースキの意図を汲んだのか、基地に入港する際の懸念が払拭されたことをココノエが伝えるとアークエンジェルの一同からは安堵したようだ。

 

「その、手土産というのは?」

「手柄です。ガルシア司令が上げられる別の」

 

 さて、とココノエはアークエンジェルの面々に向かい合う。

 迂遠な物言いなきもしたが今後のことを優先するためにマリューたちは言葉を待つ。

 

「すでにヴァースキ大尉から聞いていると思うが、我々は月面のグラナダ基地からアークエンジェル護衛を名目に派遣されている」

「ハルバートン提督の要請だとか」

「もともとヘリオポリスでの開発計画をザフトが掴んでいる可能性を閣下は指摘されていたが、戦力を回すにはアラスカやプトレマイオスとは折り合いが悪かったようで。それを見かねたグラナダが手を差し伸べた……そんなところだ」

 

 グラナダ基地は地球連合軍ではあるが、各国家から独立した指揮系統を持つ軍事基地だ。

 ザフトとの開戦後に整備されたこの基地に関しては機密事項が多く、高級将校でも一部を除いて全容を知る者がいないとされる。

 その部隊がMSを独自に開発、運用するなど機密の一端を目にしたものの、マリューにとっての恩師が頼りにしているという事実は、彼女にとって信頼するに足る話だった。

 

「我々の任務はアークエンジェルを第八艦隊と合流させることにある。そこまでは貴艦は我が艦と行動を共にしていただく」

「了解いたしました、大佐」

 

 ココノエの紳士然とした振る舞いにも、安堵を覚えているようマリューに対しムウは警戒を完全には解けないようだ。

 

「しかし、グラナダといえば連合が極秘工廠を併設させた基地。それが表立ってザフトと戦闘をしてよいのですか?」

「機密扱いであったのは、グラナダが将来のMS運用に向けた試験を行うためだ。運用されることになるMSの開発計画が掴まれた時点でその意味を無くす、では納得がいかないかね?」

「正直に言えば、納得がいきませんね。ですが、今は置いておきましょう」

「なかなか直球な物言いですな、艦長」

 

 ヴァースキが笑うが、ココノエも気分を害したようすもない。

 

「フラガ大尉の言うように、今は時間が惜しい。まずはアークエンジェルと残されたストライクが第八艦隊との合流地点にたどり着くことを考えたい」

 

 彼は目線で促すとナタルがモニタを切り替える。

 映像はブランリヴァルの副長との通信とアルテミスから月までの宙域図だ。

 

「我々は月方面へ針路をとる。すでに第八艦隊も、受け入れの準備と代替のクルーを乗せた先遣艦隊を派遣する手はずだ。合流後、貴艦らは第八艦隊護衛の下、地球へと降下してもらう」

『それまでの護衛はブランリヴァル、および二個MS小隊が担当します。基本的にはヴァースキ隊がアークエンジェル護衛を務め、フィーリウス隊は艦隊の対空監視に回ります』

「それと、フラガ大尉にもアークエンジェルの防空を担当してもらう」

 

 ココノエ艦長が方針を、副官が部隊配備を説明する。

 そこにナタルが戦力が抜けていると、指摘する。

 

「大佐、ストライクは?」

「Gは本来、護衛対象となっている。しかもパイロットは民間人だと聞いていたが?」

「ヴァースキ大尉たちがいるとはいえ、次はザフトも戦力を向けてくると考えられます。戦力は多くあるべきーー」

「邪魔だな」

 

 ヴァースキがナタルの言葉を切り捨てた。

 

「確かにセンスのあるパイロットだ、戦力に数えてもいい。だが、貴様らが友人の盾にと無理に徴用したのだろう? おまけに、今は戦いへのモチベーションも低いとも聞いた。そんな奴を護衛対象にのせて出撃させるのは相手にプレゼントを贈るようなものだ」

「たった七機のMSとMAで、奪取されたG4機と艦隊戦力を相手にするかもしれないのですよ? ストライクを投入しないのは合理的ではありません」

 

 上官への態度は崩さぬようにしながらも、責めるような視線を向けるナタル。

 が、前線での経験が豊富なヴァースキはそれを鼻で嗤う。

 戦場知らずな小娘だと。

 

「これは図上演習ではないぞ、少尉。実戦とはパイロットの磨いた力を競う場だ。性能だけでものを語らないことだな」

「しかし!」

「バジルール少尉、我々はGの護衛も任務だ」

 

 さらに反論しようとしたナタルをココノエが抑えた。

 任務はあくまで新型兵器と新型艦の護衛だと責任者に言われてしまえば、押し黙るしかない。

 

「しかし、貴官の言い分もわかる。ストライクを操縦した民間人に協力の意思があれば予備戦力として備えてもらう。よろしいな?」

「はっ。申し訳ございません」

「大尉も、それでよろしいですな? 彼に協力の意思があれば、MS隊隊長として目をかけていただきたい」

「……仕方ありませんな」

 

 ココノエの折衷案にナタルは頭を下げる。

 ヴァースキも引き下がったが、実のところストライクが出ようが出まいがそこまで影響はないというのが彼の見立てだった。

 足を引こうが先の戦闘のようにGを一機、それなりに足止めできるだろう。

 しかし、あのパイロットは相手と戦う覚悟がないどころか、むしろ嫌がっている。

 ストライクから降りた少年を一目見てそう見立てていた。

 そんな奴が戦場に立たつなど、戦場への侮辱だと彼は考えていた。

 彼にとって戦いは命を懸ける舞台で、覚悟のあるやつが立つ場所であり、それを持たないものが立つのは邪魔も同然と考え、嫌悪感さえ抱いている。

 一方で理由はどうあれ自ら戦場に立つ意思があれば認めるし、ガキであれ使ってやるとも考えていた。

 

「さて、航行中はブランリヴァルとリンクをつないでおいてくれたまえ。戦術もこちらで処理し、共有を行う。これで協力者の負担も減るだろう」

「了解いたしました。」

 

 この艦は正規クルーがザフトの襲撃により失われ、人手が足りていないのを民間人、特に学生が手伝うことで回っている。

 まるで伝説の強襲揚陸艦の様相だが、果たして彼らにもどこまでの覚悟があるのか。

 品定めをするような彼の眼をよそに出港に向けた会議は進んでいった。




月の野獣 ヤザン・ゲーブル
ムウ・ラ・フラガがエンデュミオンの鷹と呼ばれる原因であるエンデュミオン・クレータでの戦いで戦場を荒らした地球連合軍の大尉。
地球連合軍第7機動艦隊旗艦を沈めた罪で軍法会議にかけられ懲役刑でグラナダ基地に収監中。
あくまでムウはMA越しにヤザンの野獣のごとき気配を認識しただけで直接の面識はない。
よく似た気配を持つヴァースキをこの件から怪しんでいた。
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