ガンダムSEED Vasuki   作:きおう

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デブリでの拾い物

『妙なものを拾ってきたようですな』

「連合軍が展開していないはずの宙域で撃破されたザフトのMSにザフトの救命ポッド。近海の情報収集にはうってつけ……というのは表向きの話だ」

 

 グリプスのコクピットでヴァースキはココノエとのみ通信を開いていた。

 ココノエも艦長室でモニタに見える範囲では彼しかいない。

 救命ポッドの中身についてはアークエンジェルクルーに任せており、二人の関心はMSの方だ。

 

「調べたところ、このジンはあきらかにビーム兵器での破壊痕がみられている」

 

 取得した画像データを拡大し、破壊されたジンの胸部を見せる。

 コクピットが見事に焼き切られている。

 

『この切断面は確かにビームサーベルの溶断痕に見えますな』

 

 ココノエも認める。

 この強行偵察型のジンはデブリ帯でビーム兵器を装備した何者かによって撃破されたのだ。

 

『しかし、現状ビームサーベルは連邦軍機(・・・・)を除くと、G兵器かナイトシーカーにしか搭載されていない』

 

 今、ビームサーベルを装備しているMSはほとんどが彼らの本来所属している地球連邦軍の機体であり、特にミラージュコロイド制御となるとロールアウト前後のGシリーズやジン・ナイトシーカーぐらいのものだ。

 つまり地球連邦軍の息がかかっていない機体はストライクかザフトに強奪された四機のみ。

 だが何事も例外はある。

 

『ミノフスキー粒子は?』

「かすかにだ。ニュートロンジャマーで誤検知した可能性もある」

 

 ヴァースキの口調はその可能性を否定していた。

 あの場ではザフトの軍艦はなく、ニュートロンジャマーが機能していないことは確認済みだ。

 あくまで可能性の提示であり、ココノエもそれは理解していた。

 

『議長の予感が当たりそうですな』

 

 意味深な笑みを浮かべる通信相手に同意するヴァースキ。

 ビーム兵器を運用できるMSなど宇宙世紀であれば民間軍事会社や武装集団でも手に入る程度には普及していた。

 何らかの形でこの世界でU.C.世界のMSが流れている可能性は否定できない。

 事実であれば地球連邦軍の大きなアドバンテージが失われるに等しい事態だ。

 そして困ったことにそんなことをしでかしそうな連中に二人とも覚えがある。

 

『回収したサンプルと画像はブランリヴァルで解析をさせましょう。座標データの送信もお願いする。あとは早くこの宙域から出るべきですかな』

「小官も同意見です。……この奥で何かをしている奴がいるかもしれないからな」

 

 ヴァースキは破壊されたジンの記録画像を眺める。

 ユニウスセブンという戦争が拡大する原因となった地でビーム兵器を持った奴が潜んでいる。

 それも御同郷かもしれない。

 そいつらが何者であれ、果たしてその地の意味を知っているのだろうか。

 戦いが一筋縄ではいかなくなる予感に、指揮官としては危惧しつつも一兵士としては乱戦の予感に血が騒ぐのを感じていた。

 

―――――

 

 ココノエ艦長との密談を終え、グリプスのコクピットハッチが開く。

 ヘルメット片手に格納庫へと飛んだヴァースキは一角がざわついているのが目に入った。

 例の救命ポッドかと下りようとして顔をしかめた。

 ピンクの長髪をした見慣れない少女がいた。

 またガキが増えたと彼は内心ぼやくが、少女ラクス・クラインの立ち位置を聞きさらに相貌が鋭くなるのであった。

 コクピットへととんぼ返りしたのは言うまでもない。

 

『さらに厄介なことになったようだな、ココノエ艦長』

「宇宙世紀から飛ばされたことに比べれば、と言いたいところですが、この件は一艦長の手に余りますな」

 

 ヴァースキからの緊急通信を受けた後、ブランリヴァルの艦長室の主であるココノエは自らの上司筋の老人と通信をしていた。

 ふくよかな体格の老人は豪奢な部屋でくつろいでいたらしく、机に置かれたGOPPと銘柄の刻まれたケースに入っていたであろう葉巻を燻らせている。

 月との通信、アークエンジェルがしたくてもできない長距離通信を、ブランリヴァルはひそかに行っていた。

 

『プラント議長の娘、しかも本人も有名人。連合の連中が知ればその身を欲するだろうな』

「あまりよろしくない事態になりかねないかと」

 

 ヴァースキが拾ってきた少女、ラクス・クラインはプラント最高評議会議長シーゲル・クラインの一人娘。

 地球のインフラを破壊した張本人の愛娘だ、コーディネイターが憎くて仕方ないであろう連合軍、特にブルーコスモス派閥からすれば政治的な意味以上の価値を持って招き入れるだろう。

 彼らの扱い方は間違いなく戦争の激化を招く、それを懸念するココノエに議長は葉巻を灰皿に置く。

 

『第八艦隊にアークエンジェルを引き渡す前に身柄をブランリヴァルに移したまえ』

「では?」

『ラクス・クラインの身柄は地球連邦が預かる。ブランリヴァルに乗艦させてしまえば、実質連邦軍の管理下だ。連合の連中も下手に手出しはできまい。その後、連合とプラント相手に身柄の扱いについて交渉となるだろう』

 

 とはいえ、連邦政府の元に入ったところで、ただプラントへ帰れるわけではない。

 外交交渉によっては連合に引き渡される目もある。

 その場合も条件を引き出すことで幾分か扱いはよくなるだろう。 

 だが今後を考えると、プラントに帰還できるよう交渉を進めたいのが彼らの口に出さない本音だが。

 

「承知いたしました、議長」

『そろそろ先遣艦隊とも通信可能な距離になるだろう。おそらくザフトの襲撃があるだろう。手札の切り方は君に任せるが、警戒はしてくれたまえ』

 

 モニタが暗くなり、艦長室に静寂が訪れる。

 しばらく思案気に手を組んだ後、ココノエ艦長は副長に方針を伝えるべく通信スイッチを切り替えた。

 こうしてアークエンジェルのあずかり知らないところでラクス・クラインの扱いは決定した。

 

―――――

 

 ヴァースキは、人生幾度目かとなるストレスを意識する日々を過ごしていた。

 

「どうした、ヴァースキ。お姫様の相手は疲れるか」

 

 食堂でからかうようにムウから声をかけられ、不機嫌そうに言葉を返す。

 

「フラガ。俺はいまパイロットで最も必要なものを嫌でも意識している」

「そりゃなんだい?」

「忍耐」

 

 素っ気なく出てきた単語に噴き出すムウを憮然とした表情で睨む。

 

「まあ、お前さんと相性悪そうだもんな。あのお姫様は」

 ムウが言うお姫様とはヴァースキとキラが保護した少女、ラクスだ。

 彼女の扱いが決まり、ブランリヴァルに移送したいところだったが、ココノエが気を使い、女性の多いアークエンジェルにしばらく乗艦してもらうことになっている。

 その間の事情聴取と監視を兼ねたお目付け役をヴァースキが直々に仰せつかっていた。

 

「姫様か。まさか、お守りを二度もすることになるとはな」

「連合が誇るMSパイロット教官は子守の経験があるのかい?」

「上官筋の義娘の警護をしばらくな。……あいつの方がはるかにましだったがな」

 

 粗野に振る舞う男の意外な過去にムウは興味深げに笑う。

 色々と怪しい男とムウに思われていたヴァースキだったが、色々とほろ苦い人生を送っているらしい点で、人間性の信用を勝ち得てしまっていた。

 

「あ、ヴァースキさん。そろそろ時間ですよ」

 

 隣で休憩していたキラが時計を指さす。

 ここ最近は休息時にヴァースキと一緒に過ごす時間が増えている少年。

 ずいぶん懐かれたなとムウはこの状況も面白がっていた。

 コーディネイターとナチュラルに分け隔たりないところも、彼のクルーからの信用につながっていた。

 

「ああ。悪いが食事を受け取ってきてくれ。今日は姫への聴取もやるぞ」

「わかりました」

 

 席を立ち、しばらくしてキラは食事のトレーを持って戻ってきた。

 困ったことに同年代の少女だからと世話役に選ばれた赤髪の少女、フレイ・アルスターがコーディネイターに嫌悪感を示して食事を運ぶのを嫌がったためキラとお目付け役のヴァースキが食事を持っていく役目も受けている。

 とはいえMS隊隊長でもあるヴァースキのことを気遣いキラが率先してやっているのだが。

 どこか浮世離れした少女を相手にした後、上官の強面が数割増しになるのだ。

 フレイを除いた誰もが彼に同情していた。

 

「さて、食事も済んだことですからな。今日は救難ポッドで保護されるまでを伺いたい」 

 

 一時間後、ラクスに割り当てられた部屋で食事を終えた彼女にヴァースキは尋ねた。

 

「そうですね……」

 

 しばらく考えるそぶりを見せた後、ラクスはゆっくりと口を開いた。

 

「わたくし、ユニウスセブンの追悼式典の代表を務めさせていただきましたの」

「追悼式典……」

 

 改めて自分たちが水を掘り当てたのは、そういう場所で、その死を悼む人がいるのだと再認識して表情が暗くなるキラ。

 一方のヴァースキは顔色一つ変えずに促しラクスは続きを話す。

 

「式典のためにユニウスセブンの近くまで視察に来ていたのですが、地球軍を名乗る方々の船が臨検すると接近してこられまして」

「座標は?」

「デブリが左舷に見え始めていました。予定ではこのように回るルートと伺っておりましたが座標までは……」

「なるほどな。その後、あなたを脱出ポッドにのせて逃がしたと」

 

 ヴァースキは宙域図を広げた電子ペーパーを眺める。

 ラクスが指し示いた航路の周辺で連合軍が作戦行動をとったという話は無い。

 もっとも、ココノエ艦長がグラナダ経由で調べた範囲でしかなく、情報網は完全ではないが。

 

「たまたま航海していた連中か、どこからか情報を仕入れたブルーコスモス派の動きでしょう」

「やはり、わたくしの乗っていた船は」

「撃沈、でしょうな。生きていても、捕虜といったところかと」

 

 まず全滅だろうがなとヴァースキは内心で断定する。

 もしブルーコスモスの思想に染まった派閥であれば、民間船であれコーディネイターの船を沈めるだろうし、後ろ盾が後ろ盾なのでもみ消しも容易い。

 それを抜きにしても彼女の父は、地球のインフラを破壊し十億もの人間を殺したと言われるプラント最高議会議長、シーゲル・クライン。

 地球に住むナチュラルからしたら、その娘はブルーコスモスでなくとも殺したくなるだろう。

 彼女を乗せていた船の乗員もそれを理解していたのだろう、シーゲル・クラインの娘を守るためにすぐさま脱出ポッドで逃がした。

 護衛などではなく、戦場で会えなかったのが残念だと心の中で称えるヴァースキ。

 しかし表情にはおくびにも出さず質問を続ける。

 

「脱出ポッドで宇宙(そら)に放り出されたあなたをザフトはMSを派遣し捜索した。結果として強行偵察型のジンにあなたは発見されたはずだが、どうです?」

「ザフトのMSからの信号を探知したことは覚えております。ですが、その後のことはわたくしにも分かりませんの」

 

 ヴァースキが最も知りたかったジンを沈めたMSの情報は持っていないようだ。

 まっすぐに見返してきているラクスの目に動揺はないのだから隠し事もないだろう。

 それにしても堂々とした娘だと彼は思った。

 保護した民間人への事情聴取だが、これは実質的には尋問だ。

 しかも敵の軍艦に一人、おまけにヴァースキというこの艦一番の強面軍人を前にしているにもかかわらず。

 初対面で挨拶されてから何度か顔を合わせる中、無邪気で能天気な女としか思わなかったが、それだけではないかもしれん。

 そこからいくつか質問をし、聴取は一度終わりにすると告げると、ラクスが質問をしてきた。

 

「あの、ヴァースキ様。わたくしはどうなるのでしょう?」

 

 やはり自分の立ち位置を理解しているらしい、と表情を見て評価していると二人の間に立っていたキラも不安そうに顔を覗く。

 

「あなたの身柄は一度、小官の所属する月のグラナダ基地の預かりとなる。その後、帰還のための手はずをプラントと調整することになるでしょうな」

「あの、ヴァースキさん。グラナダというのは、地球連合軍の本部なんでしょうか」

 

 彼女の身を案じているのだろう、キラが問うと彼は肩をすくめた。

 

「プトレマイオスにある本部の大多数とは別の派閥だ。少なくともブルーコスモスのような連中はいないから安心しろ」

「そうですか……」

 

 ホッとしたように息を吐くキラにラクスが微笑む。

 

「キラ様はお優しいのですね」

「あ、いや、僕は……」

 

 優雅な所作で振り向かれてドキリとしたらしいキラの顔が赤らむ。

 初心な反応を見せる少年と少女のやり取りに鼻を鳴らし、電子ペーパーへと興味を移すヴァースキ。

 

「それに、ヴァースキ様もとてもお優しい御方ですわね」

「は?」

 

 しかし少女は今度は強面男にも笑顔を振りまいてきた。

 

「ヴァースキ様は、キラ様がわたくしを案じてくださっているのを気にかけられたのでしょう?」

「勘違いされては困りますな。小官は部下の士気が下がっては困ると考えたまでです」

 

 彼にしてみれば部下のケアをするのは戦場で使い物になってもらう必要があるからだ。

 

 戦場は兵士が持てる力を発揮できるかを試す場面の集合体だ、一人では戦いはできない。

 

 それを知っているからこそ、ヴァースキは味方となる面々には注意を払う。

 すべては戦いを楽しむため、それ以上でもそれ以下でもない。

 だがそれが少女には優しさに見えていた。

 

「それは常に周りに気を配られているということなのでしょう。優しい御方でないとできないことだと思いますわ」

「ヴァースキさんは優しい人ですよ。色々と気遣ってくれるんです」

 

 最近懐いてくるキラにも同意され、ラクスは無邪気な目をヴァースキに向ける。

 やはり能天気なガキなのではないか、と面倒くさいとはっきり感じながらガキどもの押し問答に付き合わされた。

 地球連合軍第八艦隊から派遣された先遣艦隊との通信成功と報告が上がるのは子守から解放されてからだった。

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