ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#111「瓦礫街の住人」

 

 

 トライミッド連合王国は、エルノスの三種族による王国だ。

 

 エルフ、ドワーフ、ニンゲン。

 〈渾天儀世界〉じゃ中つ星とも呼ばれる中枢渾天球(センタースフィア)に、〈崩落の轟〉以前から棲んでいた原住種族たち。

 巨大彗星の衝突によって、宙にて回る八つの〈廻天円環帯〉から、多数の種族が舞い落ちる前。

 エルノスの三種族は、この星で最も栄えた人類の代表だった。

 三兄弟三姉妹の神話も有名で、彼らは自分たちを世界神の直系によって作られた種族だと昔から信じている。

 しかしまぁ、神代はとっくの昔に過ぎ去り、栄光に輝いていた古代も大戦によって終わり。

 北方大陸(グランシャリオ)に棲息するエルノス人は、〝連合王国〟という形で南部に落ち延びた。

 

 だからかは分からないが、この国の住民は異種族への警戒が、中央諸国の人々に比べると強いように思われた。

 

 リンデンに暮らす人々も、ダークエルフの俺を最初に見た時は、それはもう大騒ぎ。

 ぶっちゃけ八年経った今でも、都市の上層から中層。

 『年輪街』では、未だに慎重な目つきで見られるし。

 下層と郊外、『瓦礫街』くらいじゃないと、友人と呼べる顔見知りも一気に少なくなる。

 自由民というだけでも、ただでさえ胡乱な人種と判断されやすいのに、そのうえ遥か昔に国交の断絶したメラネルガリア人……ダークエルフなんて、彼らからすれば、もはやほとんど未知との遭遇に近かったのだろう。

 

 自由民としての許可証も、発行してもらうのにずいぶん時間がかかった。

 

 ダークエルフであるという点の他にも、俺は祝福保持者でしょっちゅう怪奇現象を頻発させたし、「頼むからどっか行ってくれ」と何度言われたか分からない。

 

 ま、それでも粘って、最後はリンデン側の根負け。

 

 だいたい半年、九ヶ月くらい過ぎた頃になって、担当官のザックから「これ以上居座られて、本格的にアンデッドを引き寄せられても困る」と。

 リンデンに看板を構える『聖銀』の秘宝匠、シルバー何某が作った〝銀のタリスマン〟と一緒に許可証を渡された。

 以来、俺は肌身離さずカルメンタリス教のお守りを首からぶら下げて、青の眼を晒したままリンデンでの生活を送っている。

 仮面なんてもう、十年はつけていない。

 

 このお守りがあるおかげで、俺は祝福を隠さずとも、亡者の念等を近寄らせない生活を得た。

 

 だが、お守りは所詮お守りで。

 本当に力のある死霊を退け切れるほどの効力は、さすがに持たないらしく、たまにではあるが偶発的に、死者の霊があちら側から現れてしまうコトもままあった。

 なので、ゴーゼル親方が(ジゼル)から必死に俺を遠のけようとしたのも、あながち間違った反応とは言えない。

 あの通り、ジゼル自身は優しい娘なので、俺のコトを半ば同情心と一緒に庇ってくれたりもするが、他の大半はゴーゼル親方と同じように俺を煙たがる。それで正解だ。

 

 それでも、リンデンはやはりメラネルガリアとは違うのだろう。

 

 俺のようなはぐれ者に、とことん排外的って態度を取り続けるコトはしなかった。

 もともと単一種族だけでなく、複数種族による混成国家だからか。

 この国じゃハーフも多いし、他種族と共存するコトが人々の心に、無理なく受け入れられている土壌がある。

 ダークエルフがエルフの近縁種と考えられているのも原因かもしれない。

 多少の時間は要してしまったものの、俺の人柄や能力を知った人々とは、以来普通に交流させてもらっていた。

 リンデンはそういう意味で、とても良い街である。

 

 けれども。

 

「へっへっへっ、来たな魔物野郎」

「有り金置いて、さっさとこの街を出ていきやがれ」

「今なら大怪我はしないで済むぜ?」

 

 どこの街にもこの手のバカは現れる。

 自由民が住めるのは街の宿屋か郊外の瓦礫街。

 素性の怪しい胡散臭い連中が一箇所に集まる場所だし、身分がお世辞にも高いとは言えない連中の巣窟だから、彼我の実力差も読めないバカが高確率でポップする。

 

(んで、こういう頭数だけ揃えりゃ、余裕で他人から金を毟り取れるだろうってタカを括ってるようなヤツらは、大抵ロクな覚悟も済ませちゃいないんだよな……)

 

 時刻は夜の十九時。

 あたりは暗がりで、街灯型の暖気灯がうっすらと遠くの方で光っている。

 俺の仮屋は、ここからもう少しだけ先を歩いた、リンデンの一番外縁。

 さてはコイツら、俺だったら重罪には問われないだろうと、楽観でもしているのか?

 まぁ自由民なので、それほど間違っちゃいない認識ではあるが、たとえリンデンの司法が裁かなくとも、俺自身が自衛も兼ねて殺しにかかるとは思わなかったのだろうか。

 

「いやまあ、殺さないけどさ」

「はぁ? なにぼやいでんだオマエ」

「ビビってないで、いいから金だけ置いてけよ」

「こっちは三人がかりだ。勝ち目はないぜ」

「あーはいはい。いいからいいから」

「……あ?」

「ごちゃごちゃ言ってないで、掛かってこいよ。売られたケンカは買う主義だ」

「ハッ! バカヤロウが!」

「ったく。忠告はしてやったんだがなァ!」

 

 粗野な顔をしたみすぼらしい男たちが、剣を抜いて飛びかかって来る。

 意外なことに、その剣筋は迷いが無い。

 暗所での戦闘に慣れているのか。

 俺のように夜目が効くワケでもなかろうに、一人目の男がまず狡猾に足を狙い、続く二人目が喉元を狙う。

 三人目はそんなふたりの背後から素早くこちらの背後に回り、

 

「えいやー」

「「「ぶァっ!?」」」

 

 三人まとめて両刃斧(ラブリュス)の薙ぎ払いで吹っ飛んだ。

 

(……いや、うん)

 

 ニンゲンの野盗崩れ三人くらい、トロールに比べれば物理的に軽いんだよね。

 ちょっと自分でも驚くくらい簡単に宙を舞ったもんだから、テニスみたいな感覚になってしまった。

 三人は手応え通り、完全に気絶している。

 

「やっべ」

 

 これじゃあまた、瓦礫街の番兵さんに小言を言われてしまう。

 とりあえず、こんな時のために常に持ち歩いている麻縄でふんじばっておくが、朝まで放置したらたぶん凍死されるし……

 

「犯罪者はこれだから……」

 

 頭を掻き、嘆息。

 仕方がないので、ズルズルと三人を引きずり番屋のもとへ。

 暖気灯の明かりが強まり、仄かな暖気が大気を充満する。

 

「む。そこのオマエ、何を──って、またアンタか」

「お疲れ様です。いやぁ、すいません。そうなんですよ」

「分かった分かった。後はこっちでやっておく。あーあー、ひでぇなこりゃ」

「骨、だいぶイッちゃいましたかね?」

「分からんが、まぁ、泡は吹いてなさそうだから大丈夫だろ。自業自得だしな」

「そう言ってもらえると助かります」

「仕事終わりか? いつもと斧が違うな」

「あ、ええ。今年もまた、冬一番のトロール退治で」

「そうかそうか。そりゃ疲れただろう。帰ってゆっくり休むといい」

「ありがとうございます。それじゃ、また」

「おお、またな」

 

 番兵さんにペコリと頭を下げて再び帰路へ。

 よかった。

 今日の番兵さんは理解のある番兵さんだった。

 リンデンじゃたまにこんな風に、俺は面倒なのに絡まれる。

 絡まれた以上、きちんと潰すのが世のため自分のため。

 でも、少々力加減を誤って、ちょっと過剰防衛みたいな状態にしてしまうコトが幾度か続き、番兵さんや衛兵さんたちには「もう少し、こう、なんというか、手心というものを……」と苦い顔でたしなめられていた。

 彼らも俺が魔物野郎と謗られているのは知っているので、温情的な目線が多くはあるのだが。

 

「でも、最近はまた新入りとかも、増えてきたみたいだしなぁ……」

 

 斡旋所でもそれらしい声は聞こえてきた。

 さすがに八年も経つと、要所要所で人員の入れ替わりなどが行われていく。

 言動には引き続き、注意をしないといけないな。

 気を緩ませると、うっかり本当に人死にを出しかねない。

 せっかくいい立場を築き上げてこられたのだ。

 リンデンにはもうしばらく、居心地のいい街のまま住まわせてもらいたい。

 確証は無いが、この都市には〝探し物〟も眠っているらしいし……

 

「ま、見つかる気配は今のところ、まったく無いんだけどな」

 

 ガハハ。

 何とか言ったらどうなんだ秘紋よ。え?

 言葉が無いのは分かっているけども。

 

「ふぅ……それはそうと、金が無いのはどうするか」

 

 トロール退治で手にした収入も、ついさっき泡のように使ってしまった。

 斧のメンテナンスが終わるまで、代用の両刃斧で無茶をするワケにもいかない。

 財布には二日分くらいの日銭しか残っていないし、こりゃ明日も斡旋所に行かないとヤバそうだ。

 良さげな肉体労働が残っているといいのだけれど。

 

 

 

 

 

 





tips:自由民

 その街に一定以上の期間滞留している非市民。
 正式な市民権を持たず、戸籍管理もされない非国民のようなものだが、その分、市民としての義務(納税)などからも一部解放されている。
 ただし、だからといって野放図にのさばっているワケではない。
 適切な役場への登録は必要で、自由民として認められるには、その街の担当官から許可証を発行してもらう必要がある。
 担当官というのは言うなれば、入国審査官のようなもので、極度に怪しい者は当然、治安維持のため門前払いを受ける宿命だ。

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