ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚 作:所羅門ヒトリモン
ところで、魔法使いが使う魔法についてだが。
俺は昔から『その魔法使いがどんな魔法を使うか』で、『その魔法使いがどんな人生を歩んで来たか』が、だいたい推測できるんじゃないかと考えている。
たとえば、俺がよく使う“
火力が弱い。
温度が高くない。
着火しても、全然燃え広がらない。
そういう“
もちろん、それが悪いワケではない。
むしろ、羨ましいとすら思える素晴らしいコトだ。
世の中の魔法使い全員が、火災や戦火を識っているとか、そっちの方が嫌だし。
だが、魔法としてのリアリティ。
存在を生み出すという観点で考えると。
やはりそういう“
これは魔法の長所でもあり短所でもある。
時と場合によっては、本物を用意した方が役立つ場面もあるからだ。
もっとも、魔法に一長一短があるのなら、人間にだって〝向き不向き〟はある。
誰だって、生きていれば好きなコト、得意なコト。
何かしらの場面や分野で、自ずと『適性』を獲得していくものだし、そのヒトの人生でしか到達できない心境、能力の成長方向、人生観だって千差万別。
魔法は自我から垂れ落ちた一雫の存在証明。
つまり、
「──“
(でっっっか)
フェリシアが唱えた動物呪文によって、川岸にはいきなり、体長五メートルはあろうかという怪物的な牛が登場していた。
綺麗に湾曲した半月型の角を備え、ゴツゴツに隆起した筋肉と、大地を踏み砕く凶悪な蹄を持つ〈渾天儀世界〉の猛牛。
森林や草原に棲息し、
(──え、こんなのと遭遇した経験があるの?)
思わずポカンと間の抜けた顔を浮かべ、少女の背中を見る。
フェリシアは鳥羽の外套を翻し、真っ直ぐに杖を、
「やって!」
「ブモオオォォォォォォォォォォォォッ!!」
巨大な野牛が川の中に突進する。
だが、フェリシアの生み出した
バッッッ、シャアアァァァァン──ッ!
バッッッ、シャアアァァァァン──ッ!
バッッッ、シャアアァァァァン──ッ!
豪快な水飛沫が上がり、川の流れは大きく変えられた。
……てっきり、俺は“
「やりました! どうですか、メランさん!」
「すごかった。フェリシア、君は動物系が得意なのか?」
「はい! 私、村生まれなので!」
「なるほど」
では、村娘っぽいって所感は、あながち間違いでもなかったのか。
すごい村だったんだな……
「ちなみに、他にはどんな呪文を?」
「動物系ですか? えっと、そうですね。“
「すっご」
俺は動物系の呪文は使えない。
使うと、長年の狩りのせいか、肉モドキが生み出される。
もしくは、野生の掟に従って、人間に歯向かう危険な猛獣が出てくる。
きっと俺の頭の中には、『動物=食べ物or害獣』の図式が強く刻み込まれてしまっているからだ。
動物魔法は基本的に、意思を持った仮初の魔力生命を生み出す魔法だし、使えるヤツは少ない。
フェリシアはかなり、稀有な才能を持っている。
「牛と梟と狼。全部使役できるのか?」
「使役と云われると、ちょっと違います」
「ん?」
「私は調教師じゃないので、動物を意のままに操れたりはしません」
ひとしきり暴れていた
フェリシアは苦笑して、そっと杖を撫ぜる。
「私の村は、開拓村だったんです。森の中には危険な動物がたくさんいて、男の人は皆んな、しょっちゅう危ない目に遭ってました」
「……まぁ、あんなのがいればなぁ」
「アハハ。なので、私は覚えているだけなんです」
動物たちが天敵を襲い、日夜生存闘争を繰り広げるその獰猛性を。
「記憶の中の彼らは、幼い日の私にとって掛け値なしにモンスターでした。だから、さっきもイメージしたんです」
「イメージ?」
「もしあの森の
それはきっと、
「師匠にはよく、諸刃の剣だって叱られてるんですけどね」
えへへ、と。
フェリシアは困ったように笑いながら、杖をしまった。
なるほどな。
それはたしかに、魔法使いとしては危ないかもしれない。
「自分の中のイメージを超えた敵には、通じない魔法の使い方だ」
「やっぱり、メランさんもそう思いますか?」
「ああ。だってそれ、自分が負けると思ったら負けちゃうだろ」
「うっ!」
グサァッ、とフェリシアは矢でも刺さったみたいに胸を抑える。
自分でも分かっている課題って顔だ。
だったら、俺の方からはとやかく言わない。
良い師匠にも恵まれているようだし、フェリシアもまだ若い。
成長の見込みは充分にある。
「けどまぁ、実力は現状でも充分に一人前だよ」
「え?」
「刻印魔法じゃない通常の魔法で、アレだけの手札を持ってるなら、リンデンじゃすぐに引っ張りだこになれるぜ」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、本当だ」
喜ぶべきか憐れむべきか。
ルカの狂ったような喜悦の声が聞こえてくる。
きっとバンバン仕事を振ってくるぞ……
「あ、でも」
「はい!」
「次からは、もうちょっと加減を覚えてくれな?」
「えっ?」
「いや、水飛沫……ほら、めっちゃかかっちゃったからさ……」
「──っ! す、すいません!」
フェリシアは慌てた顔で「わわわっ!」と狼狽えた。
仕方がないので、腰に吊るしておいた携帯用の暖気灯を点火する。
いやはや。まさか俺が濡れるとは思わなかった。
(このくらいなら別に、そう大したコトはないけど、川の水って後でちょっとだけ臭くなるんだよな……)
帰ったら念入りに洗濯しなくては。
「とりあえず、時間はまだ余裕があるし、次行こうか」
「ぅ、はい!」
フェリシアは若干申し訳なさそうにしながらも、少しだけ肩の力が抜けた様子だった。
成功体験は大事だよな。
その調子でガンガン仕事を片付けていこう。
「次は、