ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#014「朝日の光、移動」

 

 

「──ハッ!?」

 

 気がつくと、冬が終わっていた。

 朝、太陽の光を頬に感じ意識が浮上する。

 

「光……熱?」

 

 つまりは、極夜ではなくなった。

 体に被さっていた雪を払い落とし、俺はいったいどういうことだ? と困惑する。

 

「たしか……俺は林で──」

 

 食べ物を探していた。

 そこまでは覚えているのだが……

 

「え? あれ?」

 

 あたりを見回すと、そこは記憶にある林とは似ても似つかない、非常に荒涼とした景観に変わってしまっていた。 

 (くずお)れた木々の残骸が、まるで墓標のように雪原に倒れ伏していたり、バラバラになっていたり。

 まるで、このあたりだけが、なにか酷い天変地異にでも見舞われてしまったかのように惨憺たる様子。

 特に、一番驚きなのは、あのオバケツリーまでもが見るも無惨な姿で雪晒しになっているコト。

 屋久島の屋久杉を連想させる程度には立派な木だったのに、半分以上も幹と枝が吹き飛んでいる……

 

「な、何が起こったんじゃああ!?」

 

 状況から察するに、俺は林の中で力尽き、冬が終わるまで眠っていたということになるんだろう。

 でも、それってあり得ることなのか……?

 俺が眠っている間、なにか凄まじい災害が起こったことだけは間違いなさそうだが……

 

「ハリケーンとか、雪崩とか……」

 

 けど、それだけの事件が起きて、普通、なおも眠っていられるものだろうか?

 つか、無事でいられるの?

 

「ダークエルフは、冬眠性の種族だった?」

 

 もしくは、あまりにも寒すぎる環境だったため、天文学的な確率で自然とコールドスリープのような状態に陥っていたとか?

 

「──分からん。けど、めちゃくちゃ怖いな!?」

 

 俺は「ヒィィっ」と青ざめ、急いでその場を離れた。

 何が起こったのかは分からないが、とにかくヤベェことだけは分かる。

 もしかすると、冬越えの前に出会ったゴールデンレトリバー級のカエルみたいに、なにかとんでもないバケモノが現れ、林をこんなふうにしてしまったのかもしれない。

 そう考えると、またも異世界ファンタジーだ。

 

 ここは本能的直観に従って、逃げるが吉と見たね。

 

 知らん間に冬が終わっていたのは、喜ばしくもあり、困惑の方が大きかったり、何だか何とも言えない感慨だが、とにかく太陽の熱が地上に降り注いでいるのは素晴らしい。それだけは、素直に頷ける。

 基地の状態を確認したら、急いでこの場所から立ち去るべきだ。

 

「そうだ。石斧!」

 

 足元を探し、幸運にもすぐに発見した。

 

「よかった」

 

 こんな意味不明な状況でも、苦労して手作りした道具があると妙に安心する。

 ホッと胸を撫で下ろし、急ぎ基地へ走った。

 

 ……そういえば、腹はなぜだか空いていない。

 

「あれ、おかしいな……」

 

 意識を手放す前は、あんなに腹が減っていたのに。

 眠っている間に、体調がリセットされたみたいな感覚だ。

 もしや、これが冬眠の効果なのだろうか?

 冬眠明けの動物は、普通、かなり腹を空かしていると思うのだが……

 

「……ひょっとして、ダークエルフの特別な体質?」

 

 寒冷地に異様に強いし、きっと、そういうこともあるんだろう。

 さすがダークエルフ。

 ホモサピエンスとは一味も二味も違う驚異の種族だ。

 

 

 

 

 

 

 

 基地に着くと、案の定、基地は崩壊していた。

 

「ま、ですよねー」

 

 来る途中で想像できていたので、特段驚きはない。

 林があんなことになっていたのだ。

 俺が作ったハンドメイド・ベースなど、ひとたまりもなく台無しになっていると容易に推測がついていたぜ。

 

「けど落ち込みはするぜ……」

 

 自然の猛威か、ファンタジー的な災害か。

 何にせよ、眠りにつく前までの苦痛はハッキリ覚えている。

 あれだけの冬が到来して、たかが木造のテントが、長期間放置されたまま無事であるはずがなかったのだ。

 精魂費やし苦心した分、だいぶショッキングな光景だが、いいかげんこういう時の切り替えの重要さも十分身に染みている。

 

 基地は、基地跡地となった!

 

「敬礼!」

 

 亡き友の変わり果てた姿に黙祷を捧げ、俺はツゥゥ──っと涙を頬に流す。

 

「──よし。敬礼終わりッ」

 

 さあ、使えそうな木材は落ちてないかな?

 

「お、これなんかいい感じ。これもいいな」

 

 細長くも丈夫そうな二本の丸太を雪の奥から引っ張り出し、状態を検分。

 うん、二本ともかなり使えそうだ。

 

「冬が終わった以上、早いとこ次の冬に備えとかないといけないからなぁ」

 

 冬は恐ろしい。

 あんな飢えの苦しみは、もう二度と味わいたくない。

 寒さもバカにならないし、正直、冷静に考えれば考えるほどに、どうして自分がまだ死んでないのか分からないくらいだ。

 ので、

 

「いざ行かん、新天地!」

 

 今度はもっと食糧の豊富な場所で、なるべく早いうちに冬越えの対策をしよう。

 そのためには、スピーディーな移動を可能とする賢い策が必要となる。

 

「そこでだ」

 

 俺は考えた。雪に足を取られるなら、スキーをすればいいじゃない。

 要はかんじきの発想である。

 丸太を薄く、平らに切って、樹皮の紐で足に結びつければ、たぶんだが即席のかんじき、ないしスキー板が作れるはずだ。

 ストックには、そこらの枝をポキリと折って、いい感じの棒を代用。

 こちらは大した加工も必要ないので、用意は簡単な見込み。

 強いていえば、雪に刺し込む用の先端部分を、やや尖らせとくくらいか。

 

「せええぇぇぇぇいッ!」

 

 さっそく石斧を振るい、道具作りに取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 ──そして数刻後。

 

「できたああぁぁぁぁッ!」

 

 俺は作り終えたスキー板に足を通し、テスト走行を行なっていた。

 ストック作りは即座に終わり、時間がかかったのは、やっぱり平らな板の作成と、靴紐の加工。

 特に靴紐は、ちょっとやそっとじゃ切れないようにしなきゃいけなかったため、何度もねじってロープ状に工夫する手の込みようだ。

 足座に開けた小さな穴の部分にぐるぐる結びつけて、装着するときは爪先と踵、足首に固く結びつける。

 

「……発進!」

 

 ぎこちないながらも、俺はゾリゾリと滑雪移動を試した。

 

「うーん……」

 

 滑っていると言えば滑っているし、滑っていないと言えば滑っていない。

 やはり素人作ゆえか、平らと言っても完璧な平らではないし、なだらかな凹凸がスムーズな滑雪を妨げている。倍速で言えば1.2倍。

 ただ、歩くのは多少簡単になった。

 単純に足の面が増えたため、体重が分散されて足が雪に沈み込まなくなったのである。

 とはいえ、これは……

 

「……間抜けな足枷をつけてるみたいだな」

 

 歩きやすくはなったので、一応の移動速度向上という目的は叶っている。

 だが、期待していたほどのスピードではない。

 これなら、ちょっと頑張って早歩きするのと大差ない……

 理想はあのカエルみたいに、スイスイ進んでいきたいのに。

 

「──待てよ?」

 

 氷の上だったら、ワンチャンあったりする?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハハハハハハハ──! 1.5倍速! ヤベェ、止まれねー! 誰か助けてー!」

 

 ガハハハハ。

 川の氷面をツルツルと滑り、俺は制御不能な運動エネルギーのなか、激しく転倒した。

 

「痛ぅぅ……!」

 

 ケツが痛ぇ。

 アイススケートの要領で、どうにか上手くイケないものかと期待したが、普通に失敗した。

 よく考えたら、アイスバーンとか超危険だ。

 なので堅実に、地味ではあるものの、ここは無いよりマシな1.2倍速を移動方法として採用するか。

 

 ま、何事も欲張っちゃダメだってコトですね。

 

 急がば回れとは、昔の人は本当によく言ったもんである。

 

 

 





tips:スキー

 楽しい。
 が、慣れないものにとっては少なくない危険も伴う。
 実施するときは、十分に注意しよう。

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