ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#017「夏の探索と横取りの獣」

 

 

 土器とジャムの作成に集中するあまり、気がつけば夏と思しい季節がやってきた。

 鈍色の空にもうっすらと太陽の明かりが増していき、地上に降り注ぐ天使の梯子が美しい。

 気温も心なしか二、三度程度で保たれているような気がする。体感なのでテキトーだが。

 

 なんにしても、本当になんて過ごしやすい季節だろうか!

 

「冬に向けた仕事は、あと何があったかな……」

 

 顎に手を当て考える。

 今日、俺は地味に暇だった。

 冬越えに向けた対策は、今回かなりのペースで順調に進んでいる。

 火、水、食糧、道具、拠点。

 どれも油断しているワケではないが、着々と準備を整え中であり、冬が来るまでには恐らく万全と呼べる体勢を構築できる見込みだ。

 

「さすがに環境がいいからな。火と食糧さえ尽きなければ、どうにかやっていけるはずだ」

 

 夏に期待していた果物類も、次々に実ってきている。

 川沿いに実る例のベリー。

 山にはプラムだかリンボクだか、なんかそんな感じの実が生りかけている木もあった。

 どれもまだ青そうだったので採ってはいないが、食べ頃になったら真っ先に採りにいくぜ。

 

「心残りと呼べる仕事と言えば……」

 

 仕上がりがイマイチなまま放置している土器類。

 しかしこちらは、何分コスパが悪いためにモチベーションが上がらない。

 乾燥させるだけで一ヶ月弱も要するのに、結果は火にかけてからじゃないと何とも言えないからな。

 排出率が激渋なソシャゲガチャでもあるまいし、やっていける気がしない。

 

 それと同じ理屈で、湖での釣りも当初より大分やる気が減っている。

 

 俺はどうも、長時間座りっぱなしでひたすらに獲物を待つというのが、性に合わないらしい。

 限界サバイバーとして鍛えられた思考回路が、つい時間を無駄にしていると訴えてくるからだ。

 

「罠の方が、コスパいいしな」

 

 最近は川に網籠タイプの罠も仕掛けているので、ワカサギ釣りに敢えてこだわる必要がないというのも大きかった。

 川の魚とエビども、まんまと引っかかりやがる。

 ああいう罠は〝かえし〟の部分を作るのに時間を持っていかれるが、一度作ってしまえば繰り返し使えるし、放置している間に別の作業もできる。

 ま、それでもかかってなかった時は本当にどうにもならないんだが。

 

「でも、慌てるほどの危機感は正直ねーや」

 

 山と森に仕掛けている陸の罠では、イタジリスの他に小型のカンガルーっぽいウサギもかかるようになった。

 足の長さと結構な跳躍力から、俺はホッキョクウサガルーと名付けている。

 味はイタジリスと違い、特に独特な風味はなく肉が筋っぽい。

 ま、食糧であることに変わりはないわな。

 そんなワケで、俺は今日久しぶりに、自由に過ごす時間を送ろうと思う。

 ぶっちゃけ、夏だからこその精神的余裕だ。

 さて、そうと決まれば話は早い。

 

 

「山と森、どっちを探索しようかな」

 

 

 実を言うと、山も森もここまで本格的な探索はしてこなかった。

 どちらも深入りすると、獰猛な野生動物に遭遇する気がしたからだ。

 だって山にしろ森にしろ、狼や熊の潜む環境だろう?

 それに、たとえ動物でなくとも、この世界には突然動き出す奇怪な植物も存在している。

 そのため、ヤツらが好まなそうな、比較的開けた空間のみ探索して来た。

 

 が、今日は勇気を出して未踏領域──山か森か、どちらにしても深いところまで足を運んでみたい。

 

 もしかすると、生活を向上させられるさらなる何かを見つけられるかもしれないし、危険な存在が潜んでいるんであれば、以降は特定の注意と警戒が必要になる。

 

 ……自由に過ごすと決めておいて、なんだかんだ思考がサバイバルに染まっていくのは、もはや職業病のようなものを感じて非常に遺憾であるが。

 

 俺は自嘲の笑みを零しつつ、肩を竦め、最終的にどちらにしようかなの歌で行き先を決めた。

 

「──鉄炮撃ってバンバンバン、と!」

 

 行き先は山になった。

 

「どうでもいいけど、やっぱこういう時に出てくる自分の日本人らしさに、魂の存在を感じちゃうなぁ」

 

 ちなみに、この歌は大変地域差の激しい歌なので、俺は数種類ほどのバリエーションを知っている。

 鉄炮を撃つ他にも天国に行ったり地獄に行ったり、柿の種や赤とんぼを呼んでみたり。

 ああいうの、誰が考えて広まるんだろうね? 人類の集合無意識?

 

 閑話休題。

 

 ──それにしても、山というのはどうしてこんなに歩きにくいのだろうか。

 

「クソッ、早くも後悔してきたぞ」

 

 ズボリズボリと雪に足を埋めながら、俺は山の中腹を登っていく。

 森の中もそう大した違いはないんだろうが、山は傾斜があるため確実に歩きにくさが段違いだ。

 下りは登りより余計に気をつけなければならないし、こればっかりはいくら慣れようとも悩まされるだろう。

 物理的な障壁は、如何ともしがたい難題だ。

 

「……」

 

 黙々と山道を登っていく。

 やがて、俺は周囲から段々と木々の影が減っていくことに気がついた。

 それほどの高さを登ってきたつもりはないが、どうやらこのへんで森林限界らしい。

 もともと寒い土地なので、これ以上は高木が育ちたくとも育たないのだろう。

 雪化粧に紛れ、黒々とした岩肌もところどころに覗き出す。

 

「……なんも無いな」

 

 雪以外には何も目ぼしいものが見当たらない。

 俺は少しだけ下山し、今度は別経路から山を探索することに決めた。

 帰り道が分からなくならないよう、もと来た道をまっすぐ途中まで戻り、そこから斜めに再度山を登っていく。

 すると、しばらくして妙なものを発見した。

 はじめは雪かと見間違えたが、ふわふわと空気中を漂い重みがない。

 風に流されどこまでも飛んでいく白い綿毛。

 

「……羽毛か?」

 

 どうやら近くに、鳥がいるらしい。

 俺はじっと周囲の様子をうかがった。

 もし鳥がこの付近に巣を作っているのであれば、卵をいただいて帰りたい。

 鳥の卵は栄養に優れるというし、鳥自体もタンパク質の塊だ。ああ、親子丼が食べたい。

 

「ジュル……」

 

 ついヨダレが口内を潤した。

 そんな俺に、幸運の女神はニコリと微笑んだのか、少し離れた視線の先に『巣』があるのを確認する。

 

 宙に舞っていた綿毛の色の通り、やはり白い鳥だ。

 

 周囲の雪と岩肌に紛れるかのように、白い体毛と少しの黒斑が特徴的である。

 見た目はずんぐりむっくりとした風体だが、おそらく防寒のための羽毛が厚いだけで、実際の肉量はそうでもない。

 どことなくキジのような雰囲気。

 巣には卵があるのか、自身のカラダで巣全体を覆うようにして座り眠っている。

 

(──チャンス)

 

 俺はすかさず石斧を握り込んだ。

 慎重に近づいていき、起こさないように石斧を振りかぶる。

 もちろん、親鳥も獲れるなら獲る心意気だ。

 しかし、獲れる確率は限りなく低いだろう。

 今は手頃な石もないし、パチンコなんて便利な道具も作っていない。

 確実に鳥肉を狙うなら、気配を感じさせず遠距離からの不意打ちがベスト。

 石斧を持ってのそりのそり近づくなど、十中八九悟られて逃亡される。

 足元にはどうやったって音を立てる雪があるのだから。

 

 なので、俺はできたら親鳥も仕留めて、無理だったら素直に卵だけ持ち帰ろうと考えていた。

 

 ──そして。

 

「?」

 

 鳥が目を開け、案の定こちらの存在に気がついた時──

 

「ッ、おぉお!?」

 

 俺の目の前を、何か大きなものがシュッ! と通り過ぎた。

 鳥はそれに連れていかれ、あまりの勢いに巣もが破壊される。

 卵がベチャリと割れて落ちた。

 

「俺の卵ォ──ッ!?」

 

 そんな慟哭をあげる俺を尻目に、鳥を仕留めたソイツは「アン?」とでも言いたげな様子でこちらを振り向く。

 

 しなやかな肢体。

 優美な身のこなし。

 白い体毛はここいらで見かける動物に共通の特徴なれど、グレーの斑と黒靴下、薄青の瞳はどれをとっても目を引いた。

 

 体長およそ1.5〜2メートル。

 

 カナダオオヤマネコやユキヒョウにも似たその四足獣は、絶命した鳥を口に咥え、完全に俺を見下ろしていた。

 野生の眼差しが暗に告げる。

 

 ──この獲物は俺様がもらった。テメェはそこらへんの石でも齧ってな!

 

 ライバル出現の瞬間であった。

 

 

 

 




tips:ノタルスカヤマネコ

 動物界・尋常道に分類される中型のヤマネコ。
 ノタルスカ山に棲息する希少種。
 肉食および魚食性であり、ウサギ、ジリス、カエルなどの小型動物や水棲生物を獲物とする。
 だが、稀に中型の獲物も襲うため、トナカイなども彼らの捕食対象。
 縄張り意識が強く、普段は単独で活動している。
 北方大陸ではその優美な身のこなしから、美獣として有名である。

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