ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#175「古代圏のランドマーク」

 

 

 最初の一体は斧で弾き飛ばした。

 続く二体目はカプリを狙ったので首根っこを掴み下へ放り投げる。

 しかし、ジャガーマンは上からドンドン数を増してくる。

 

「落ちてくるヤツは私にお任せを!」

 

 ゼノギアが一度に三本の矢を番えて、後続を撃ち落とし始めた。

 片膝を着き、腰を低くしての狙い撃ち。

 技巧は崖を駆け下りてくるジャガーマンを、次々に空中へ縫い止める。

 しかし、完全には流れを止めきれない。

 円盤に着地してきた豹頭猿は、狂える眼で俺たちに襲いかかって来た。

 

 カプリを背中にし、フェリシアと二人。

 

 ゼノギアを守りながらジャガーマンを相手取る。

 が、狭い昇降機内では当然、満足に得物を振るえない。

 俺は斧を、フェリシアは短剣を。

 もちろん、手っ取り早いのは俺がまとめてジャガーマンを凍り付かせるコトだ。

 

 だが、それをすると昇降機の進行方向。

 

 すなわち崖の側面に氷像の障害物を作ってしまい、上まで辿り着けない。

 何も無ければ問題なく頂上に到達する昇降機も、強い衝撃や高い負荷がかかれば所詮は遺跡だ。

 こんな高度まで昇ってしまって、途中で壊れて真っ逆さまとかなったら笑えなさすぎる。

 ではどうするかと言えばだが……

 

「三人とも。驚くかもしれないけど、安心してそのままでいてください」

 

 昇降機に残っていたジャガーマンを三体とも蹴り飛ばし、指を鳴らす。

 

「ッ、先輩っ、なにを?」

「!」

「異界の門扉!」

 

 カプリが叫んだ通り。

 俺は昇降機の進行方向に、大きめの(ドア)を作って開けた。

 繋げた先は〈大雪原〉

 

「ッッッ、寒ッ……!」

「落ちてくるっていうなら、そのまま純白の闇の中にご招待だ」

「驚きました! まさか異界の門扉を、このように開けながら動かせるとは……!」

「俺も初めてやりましたけど、もともと何処にでも作れるものです。ちょっと集中力は要るみたいですが、やろうと思えばやれなくはないみたいですね」

 

 開いた門扉の座標を移動。

 聞こえてくるのは、ジャガーマンたちの情けない悲鳴。

 密林暮らしの怪人どもには、雪と氷の絶景は未知なる地獄だろう。

 頭上からの奇襲は、これで完全に防いだ。

 後はこのまま、上に到着するまで門扉を開いたままにすればいいだけだが……

 

「どうなってるんだ……? その身体能力!」

「「「Kyyyyyyyyyyyyyyyyyyyrrrrrッッ!!!!」」」

「ジャガーマン、迂回して来ます!」

「なんたる曲芸ッ!」

「ですが、横から来る分には──!」

 

 フェリシアが「“夜梟(ノクトゥア)”」によるバードストライクを。

 その反対側を、ゼノギアが冷静に大矢を番えて撃ち落とした。

 後続のジャガーマンは、それでも崖上の僅かな凸凹を頼りに大きく迂回を続けて来たが、それゆえに俺たちまでの距離が空いてしまい七面鳥撃ち。

 

 やがて、キノコに寄生された狂乱の豹頭猿は、一体も姿を現さなくなる。

 

 昇降機が無事にてっぺんに着いた。

 門扉を閉め円盤を降りる。

 

「……いったい、なんだったんだ?」

「分かりません。しかし、尋常のジャガーマンではなかったのでしょう」

「頭にキノコが生えておりましたし、白眼も剥いていましたからな」

 

 字面にするとマヌケなイメージになるが、実際の光景はバイオでハザードなクリーチャーチックだった。

 あれではもはや怪人ではなく怪物である。

 人間の定義が泣くぞ。

 

「……もしかすると、あのジャガーマンたちは峡谷に棲む菌糸人類(マイコノイド)たちの罠だったのかもしれません」

「ん、そうなのか?」

「エルダースで聞いたコトがあるんです。寄生生物の中には、寄生した相手をゾンビのように変えて操る種もいるって」

「なるほど? じゃあ、アイツらはああやって峡谷を抜け切った俺たちみたいなヤツを、最後に落下死させるために?」

「理にかなってはいますな。自分たちの力だけでは倒せなかった強敵も、これだけの高さから落とせば報復は確実でしょう」

「……それが本当なら、この地の菌糸人類(マイコノイド)はかなり狡猾ですね」

 

 外敵を殺し、その肉を苗床に変える最後の手段。

 繁殖力が強い菌糸人類(マイコノイド)ならではの、あるいは菌糸のように張り巡らされた罠。

 

「種の存続と生存のためにか。生物としては、間違っちゃいない戦略なんだろうな」

「ですが、やはり人間的ではありませんね」

「ジャガーマンたちには、気の毒なコトをしちゃいました」

「仕方ありますまい。どのみち、ヤツらは食人種族。正気を保っていようがゾンビに成り果てていようが、ワタクシどもは襲われていたでしょう」

「俺もそう思います」

 

 フェリシアの肩をポンと叩いて、気にするなと慰める。

 

「何にせよ、追い討ちが無いってコトはさすがに打ち止めだ」

「思わぬハプニングでしたが、ついに着きましたね」

「古代圏の台地。正史の国遺跡……」

 

 デカい。

 最初の印象は、端的にそれを避けられない。

 壮麗大地(テラ・メエリタ)最小の〈領域(レルム)〉と頭の中にあっても、実際に間近にする古代圏のランドマークはとてつもなく大きかった。

 

 菌毒に覆われた緑化国遺跡。

 

 谷底と違うのは、大気を漂う胞子の霧が薄緑よりも濃紫の割合が多いコト。

 そして、何をおいても一番に目を引くピラミッドがあるコト。

 メソアメリカの古代都市、テオティワカン。

 世界遺産にも登録されていた太陽のピラミッドを、エジプトのギザの大ピラミッド並に大きくしたような壮大な外観。

 キノコ化してはいるが偉大な神を象ったと思しい像なども置かれていて、かつて隆盛を誇ったコトが一目で伝えられる。

 

「リュディガー・シモンは、あそこにいるのですか……」

「精霊女王たちの話が本当ならですけど」

「でも、魔術師が遠大な企みを実行するには、かなり打って付けの〝場〟でしょうね」

「神殿規模の祭祀場。アレだけの規模だと、儀式化のための設備は古代レベルでも整えられていると思います」

「ふむ。魔術師が好みそうな場所ではあると……」

「引き続き気を抜かず、注意して進みましょう」

 

 遺跡の中枢に向かって、警戒しながら移動を再開する。

 ピラミッドまでの道は、菌樹の森と化した都市を通っていくほか無いようだ。

 それ以外の道は道なき道を行くコトになり、無駄な時間と体力を損なう。

 亡者の念を増動員し、今度は範囲も拡大。

 先ほどのジャガーマンのような不意の襲撃が起こらないよう、半径三百メートルほどの警戒網を展開する。

 

 百メートル東にジャガーマン・ゾンビ──待機状態なのか静止しているため無視。

 七十メートル南に菌糸人類(マイコノイド)──こちらに近付いてきているため逆方向に誘導。

 二百八十メートル北西──ピラミッド方向、()()()()()()()()()()

 

「……多数?」

「? メラン殿下?」

「どうしました、先輩?」

「……よく分かりませが、この先に五十人以上の人間がいます」

「五十人以上……?」

「それは、まさか現地人というコトでしょうか?」

「いや、たぶんだけどそれは違う」

 

 なぜなら、人影は全員、ローブに杖の典型的な魔術師姿で陣を構築しているらしい。

 

「魔術師が陣……?」

「術式のための儀式陣でしょうか?」

「──いえ、そうではありませんな」

 

 カプリが風を手繰ったのか、耳に手を添え音に意識を集中していた。

 目を閉じていた羊頭人(シーピリアン)は、やがてゆっくり目蓋を開ける。

 

「……()()()()()()()

「! なんですって?」

「メラン殿の言う通り、この先に攻撃を警戒している魔術師たちがおります」

 

 陣形は防衛陣形。

 

「いずれも、かなり年若い少年少女の声です」

「……!?」

 

 

 

 





tips:正史の国遺跡

 正史黎明神代。
 はじまりの紀と呼ばれる時代から壮麗大地(テラ・メエリタ)に流れ着いたとされる、古代圏のランドマーク。
 古代メソポタミアやアステカの都市遺跡。
 エジプトのピラミッドをも思わせる景観が広がり、そのいずれもが今では菌毒に犯され抜いている。
 かつては偉大な繁栄があったのだろうが、名は疾うの昔に忘れ去られた。

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