ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

189 / 344
#189「昔話の後で深まる絆」

 

 

 十六番、十番の謎は解明された。

 古代圏の王、闇人の正体。

 神代圏ではなく古代圏と呼ばれる由縁。

 薔薇男爵の観劇によって、四つ残っていた謎のうち二つが解き明かされた。

 

「さて。皆様の疑問もあとは二つばかり!」

「次は九番……古代圏が菌界である理由ですが、これもまた黎明の民の偉業ですね……」

「偉業?」

「ええ! 彼らは終末の巨龍と戦ったのですぞ? しからば当の巨龍が、古代圏にブレスを吐かない理由がありましょうや?」

「終末の龍咆哮……それにより古代圏は、〝風化〟する手前まで追い込まれたのです」

「──なんだって?」

 

 風化。

 それはつまり、岩などが悠久の時の中で風に吹かれ続け、スポンジのようにスカスカの状態になったり、ヒビだらけになったりするアレか?

 壮麗大地(テラ・メエリタ)に封印されている終末の巨龍は、だとすると()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふむ? 古代圏の遺跡や環境に、しかしそのような様子は見受けられませなんだが?」

「はい。どれも菌類に覆われて……」

 

 カプリの怪訝に、フェリシアが追従するように頷きかけて、ハッとした。

 ユリシスと薔薇男爵が頷く。

 

「聡明なお嬢さん。その通りです」

「古代圏は今もなお形を保っています……それは菌界が持つ極めて強い生命力と繁殖力を利用し、終末を相殺したためです」

「……なんか、どんどん非常識な事実が明らかになっていくな」

「ゆえ最初に述べました! 荒唐無稽であると!」

「ですが、もちろんカラクリはあります。英雄様は人としての自我を保っていた時、最後に古代圏の〈龍穴〉に細工を施したのです……」

 

 複数の霊脈が結びつき、結合点となった箇所では星の存在力──霊的真髄(エッセンス)が燐光として確認される場合がある。

 壮麗大地(テラ・メエリタ)では恐らく全域で、地中深くから立ち上ってきた揮発光を目撃できるが、本来これは逃げ場を求めた星の血液。

 結晶化(物質化)している時点で極めて希少な純粋魔力資源で、外界では超超貴重なもの。

 〈龍穴〉というのは、言わば油田的な性質も持ったパワースポットを指す。

 

 そして、古代圏は壮麗大地(テラ・メエリタ)中の霊脈が結びつき交差している〈大龍穴〉の真上にあって、六千年前までは尋常ではない揮発光が噴出していたんだろう。

 

「英雄様はたしか、因子操作……? などとおっしゃっていましたね」

「菌界の生物を改造し、終末にすら抗えるほどの異常な生命力と繁殖力を備えさせ、後はエサを与えたのです! まさに生命の冒涜!」

「とはいえ……そのおかげで古代圏は形を保ちました……あそこの遺跡には菌糸が蔓延っていましたね……?」

「俄かには信じがたいですけど……」

「浸食道の植物を、人為的に作り出したみたいな話か……?」

「……生態系の破壊とかは、大丈夫なのですかな?」

「元にしたキノコは、神代でのみ生きられる種のようですから……」

 

 たとえ古代圏の外に胞子が舞っても、根付く心配はない。

 ユリシスはご心配なく、と楚々と笑んだ。

 

(……なるほど)

 

 引き攣る頬を抑えられない。

 それくらい、つくづく常識外れな話だ。

 古代圏が菌界に覆われているのは、巨龍の攻撃に抵抗するため、神代の菌類を異常成長させたためだったようだが。

 

(まあ、峡谷の底に昇降機(エレベーター)もあったしな……)

 

 ロスト・テクノロジーが遺伝子操作などの域に到達していても、不思議はないのかもしれない。

 何しろ、神代の王国だったワケだ。

 一部の技術力が神域に到達していても、納得するしかないだろう。

 九番の謎も解明された。

 

「……ハァ。じゃあ後は、七番だけど」

「太古の盟約とは、どういうものなのですかな?」

「盟約ってコトは、やっぱり他の〈領域(レルム)〉と……?」

「……お察しの通りです」

「太古の盟約! それは吾輩ら精霊圏と獣神圏との間で結ばれた和平協定!」

「やっぱりか」

 

 古代圏がもはや、狂える王を戴き言葉を交わす者がいない以上。

 巨龍圏は最初から論外であり、壮麗大地(テラ・メエリタ)で残っているのは精霊圏と獣神圏しかいない。

 

「さっきの観劇で、過去に〈領域合戦〉とかいう争いをしてたみたいだったけど」

「ええ! あれから獣神圏とは、長らく非戦の取り決めを結んでおります!」

「互いの〈領域〉を侵犯せず、拡大を目論まずに停滞を保つなら……」

「巨龍封じの協力に免じて、不干渉を約束するという内容です!」

「ん? 巨龍封じの協力?」

 

 観劇では、巨龍は斬撃王の手で封じられたと謳っていたが。

 精霊圏も獣神圏も、実は巨龍の封印に何らかの形で協力していたってコトか?

 

「いやまぁ、アンタらが古代圏に手を貸してたとしても不思議はないけど、獣神圏まで?」

「ハッハッハッ! 意外ではないのです! ヤツらは自称自然霊! 自分たちを食い荒らす獣の傍若無人には、いつだって怒り心頭ですからな!」

「英雄様が終末の巨龍の世界を斬り裂いた際に、どうやって淡いの異界までドラゴン・オブ・ドラゴンを追い込んだと思われますか……?」

「え? それはその……自然に吸い込まれていったとかなんじゃ……」

「残念不正解!」

 

 フェリシアが薔薇男爵にビシと指を指される。

 

「冷静に考えていただきたいですが、巨龍の重さ、マジ半端ないですからな! 封印してなお! 影がこちらに残るほどに!」

「世界に伸し掛かる超質量……物理的にも概念的にも、あれを幽世に落とすには複数の〈領域〉による押し合いが必要でした」

「ヨキ様の一撃で致命傷を負い、ようやく精霊圏と獣神圏、二つの〈領域(レルム)〉と互角!」

「そうか……格が対等な場合……」

 

 〈領域〉は純粋な力勝負になる。

 古代圏、精霊圏、獣神圏VS巨龍圏。

 三つの世界との法則の押し合いに負けて、ドラゴン・オブ・ドラゴンは淡いの異界に追い落とされた。

 なんてスケールなんだ。

 

「クソ、ガチで神話の戦いじゃないか……」

「怪獣バトル」

 

 カプリはもう感情が追いつかないのか、無表情になって楽器を爪弾いていた。

 俺とフェリシアは引き攣った苦笑いで顔を見合わせる。

 

「太古の盟約か……じゃあ、アンタらは今でも獣神圏と停戦状態なんだな」

「そういえば、昨日お話を伺った時にも、〈領域〉を出られないのは獣神圏も同じだっておっしゃってましたね」

「ええ……()()()

 

 そこで、ユリシスが声音に硬質さを含ませた。

 美女の眼差しが鋭く細まり、愁眉が強まる。

 

「ですが、かつての盟約も、じきに破られるかもしれません……」

「獣神圏に潜むリュディガー・シモン! あの老魔術師は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「「「……!?」」」

 

 巨龍復活を目論むリュディガーを、巨龍封印に協力したはずの獣神圏が庇護する。

 それは、太古の盟約が破られる可能性を大いに示すものだと。

 薔薇の異形が「ああっ、なんたる! なんたる!」と嘆いた。

 長きに亘った停戦非戦。

 裏切りの脈動は、残念だがすでに始まっている。

 精霊女王の深い目が、俺を真っ直ぐに見つめた。

 

「皆様の疑問、わたくしどもへの不信……できる限りの誠実さは見せたつもりです……」

「あ、ああ」

「では、改めてお願い申し上げますね……?」

 

 壮麗大地(テラ・メエリタ)の平穏を守るため。

 六千年前の英雄譚、斬撃王ヨキと黎明の民の献身を無為にしないため。

 リュディガー・シモン。

 ()()()を。

 

「一刻も早く、この地から取り除いてはいただけませんか……?」

「協力は惜しみませぬ! 盟約が破られたその時には、吾輩らも大いに戦いましょう!」

「でも、できればそうなる前にと……わたくしはどうしても願ってしまうのです」

 

 英雄様の功績を穢したくないから。

 ユリシスの言葉は、口にされずとも俺たちに伝わった。

 

(この水精はたぶん……)

 

 いや、それを思うのは差し出がましい。

 六千年分の想いなど、当時を知らない者が勝手に推し量るようなものじゃない。

 なので答えは端的に。

 

「分かったよ」

「……ふふ。ありがとう、ございます……」

 

 互いの立場を弁え、目的のみに専心する。

 二日目の最厄地は、そうして夜を深めて。

 人と人ならざるモノとが、確かに心の歩み寄りを見せて終わるのだった。

 

「では、今日はもうお疲れでしょう! 敵も休みなくは動けない! ささ、フルーツはいかがですかな?」

「わぁ」

「北方ご出身の皆様のために、冬橘などもご用意いたしますぞ!」

「……ひょっとして植物であれば、何でも生み出せるので?」

「さぁて、どうでしょうか!? まぁ薔薇が一番得意ではありますが!」

「綺麗な食べ物をありがとうございます、薔薇男爵さん」

「──フ。なんのなんの!」

「食糧が無料で、しかも無制限で手に入る……」

 

 薔薇男爵、菜食主義者にとっては理想の精霊かもしれなかった。

 

「美味しいお水もありますよ……?」

 

 ユリシスが負けじと(?)飲み水をくれた。

 ゼノギアがいないのが残念だった。

 

 

 





tips:龍穴

 霊脈と霊脈の結合点。
 星の血液が交差し、稀にぶつかり合って〝流れ〟から溢れると、それは逃げ場を求めて揮発光(結晶)となる。
 土地によって有色の場合もあれば無色の場合もあり、発見できた場合は子々孫々に渡って富を築き上げるコトも可能。
 高名な魔術師や世界各国から、魔力資源を求めて莫大な金銭が支払われるだろう。
 壮麗大地(テラ・メエリタ)は禁足地のため、誰も一攫千金のチャンスを知らない。
 知ったとしても、生きては帰れないのが欲の自業自得となるが。

【評価】
【感想】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。