ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#228「明後日の朝に」

 

 

 そして昼になった。

 朝っぱらからバダバタ動き回ったおかげで、ララヤ・シュロスには集めたかった顔ぶれがきちんと集まっている。

 

 広めの会議室では長方形のテーブルを囲んで、全員が着席したところだった。

 

 一部、身分と立場の関係で立ちっぱなしのヤツもいるけど。

 まずは、そう──

 

【ララヤ・シュロス】

 領主メランズール・ラズワルド・アダマス。

 その背後に、近衛騎士クリス・クレイコート。

 一番下座の壁際に、執事ギルベルト・フォーミュラー。

 

 まずは招待主である俺と、その臣下(仮)みたいな立場にある二人がいて。

 右の席には、祐筆のカプリが優雅に座っている。

 

 この四人はシュロスを家にしている者たちだ。

 次に左の席には、

 

【刻印騎士団ララヤレルン支部】

 支部長、ベロニカ・レッドフィールド。

 酒臭さが半端ないが、意外にも足組みなどはせず行儀の良い姿勢で火傷顔(フライフェイス)が腰掛け。

 その斜め前に、カプリの横という形で副支部長、フェリシア・オウルロッドが続く。

 

 この二人はシュロス組に次ぐ実質的な治安維持機関──統制側の人間になるため、上座に近い。

 俺としてはフェリシアに一番手前に来て欲しいが、まぁ……ワガママを言っても仕方がないだろう。

 

【アトリエ&ケヒト】

 フェリシアの前には錬金術工房責任者兼治療薬院責任者を兼ねる、テレジア・トライ・トロイメライ。

 隣から香ってくるあまりの酒臭さに明らかに辟易している様子だが、彼女にはゼノギアを差し置いて上座に座ってもらった。

 

 だってゼノギア、今のところ別にララヤレルンに何も貢献はしてないし。

 強いて言えば連合王国からの人足たちに、日々の祈りの場などを提供しているくらいだ。

 

 物流のトロイメライを実家に持つテレジアとは、財源周りで今後とも懇意にしたいため、このような位置関係が妥当となった。

 

【ララヤ教会】

 神父、ゼノギア・チェーザレ。

 個人的にはテレジアの隣か真ん前に座らせてみたい気持ちもあるものの、順番的にはここでフェリシアの隣にゼノギアが来る。

 今日もテレジアからの視線に目が泳いでいて、俺は大変愉快だ。

 

 その後ろには、ゼノギアの手伝い係、五人のホムビヨン。

 

 法衣や修道服を身につけ、それぞれミニチュア版の聖職者みたいで可愛いらしい子どもたちが、無表情で立っている。

 五人は現在、ゼノギアに仕えながら日々情操教育を受けているらしい。

 

 で、ゼノギアの真向かいに……

 

【領民暫定代表】

 雪豹人(エンシア)のノタルスカ兄妹。

 ニコ・ノタルスカとニック・ノタルスカ。

 巫女頭のニコが着席し、その膝の上には置いてくれば良かったのに仔犬(ドゥーべ)を抱きかかえている。

 妹の背に控えるニックの肩には仔梟(アリオト)が止まっていて、仔馬(ミザール)だけ気配を辿るに朝のキャンプ地か。

 

 恐らく二人なりに、この部屋のなかでそれなりの存在感を出すために、二柱を連れて来たのだろう。

 

 身分は一番低いが、〝自分たちは群青卿のお気に入りである〟と無言のままにアピールする構えだった。

 

 部屋のメンツを見渡しても、この二人が最も野性味が強い。

 

 そんな二人というか獣神に対して。

 正体が獣神だとは分かっていないのか、ギルベルトが唇の動きだけで「なぜ屋内に獣を……」と呟いている。

 下手したら雪豹人(エンシア)に対して言ってるようにも聞こえるので、口に出してなくて本当に良かったが。

 カプリには読唇術で笑われている。

 

 俺はメラネルガリアの兵装院とか、自由民時代の傭兵マナー講座でちょっとだけそれとなく分かるってなくらいなのに、吟遊詩人はさすが言葉に親しむ人種だ。いや、器用すぎる気もするけど。

 

「さて」

 

 場の空気を見計らったカプリが、よく通るテノールで注目を集めた。

 

「それでは、時間も来たところですし皆様もお集まりになられたようで。群青卿閣下には我らを召集した理由を、そろそろご説明いただきたく存じますな」

「ハッ! と言っても、どうせそっちの連中はもう大方察してるんじゃあないのか?」

 

 ベロニカがタバコに火をつけ、俺から見て右側。

 奇しくも〝壮麗大地(テラ・メエリタ)組〟が偏った席を指して、煙を吐く。

 嫌な女だ。

 暗に右側と左側で群青卿からの信頼度に異なりがあると、ベロニカは指摘している。

 

 事実だから否定はできない。

 

 が、今日の席順はギルベルトが決めたものだし、俺に他意はない。

 

「レッドフィールド支部長は座席に不満が? なんなら席替えでも?」

「師匠」

「チッ」

 

 俺からの提案。

 フェリシアからの嗜め。

 ベロニカは舌打ちして背もたれに寄りかかる。

 嫌味を続ければ、まるで駄々をこねる子どもみたいな扱いをされると危険を回避したのだろう。

 本人は認めないだろうが、今のもフェリシアに言わせれば、〝わざわざ自分と弟子とを分けて座らせたのが気に入らない〟──そんな感情が理由の大部分を占めるのだろうし。

 

 ギルベルトが申し訳なさそうにしている。

 

 俺は気にするなと目だけで語り、本題を開始した。

 

「レッドフィールド支部長から指摘もあったが、たしかにこの場にいる面々で事前知識に差があるのは事実だ。

 だけど、今日この場でその差は無くなる。一部、あまりに荒唐無稽で上手く咀嚼できない話もあるかもしれないけど、無理して分かろうとする必要はない。

 それぞれがそれぞれ、自分たちにとって大事なポイントだけ押さえてくれるだけで問題はないってのを、最初に注意しておく」

 

 今朝、トーリー・ロア・トライミッドから一通の手紙が届いた。

 

「陛下から! では、ようやく……!」

「やっと、その時が来たんですね?」

「そうだ」

「期日はいつですかな?」

「明後日の朝になる」

 

 ゼノギアとフェリシアに頷きを返し、カプリの確認に端的に回答。

 

「もう頭出しはしておいたから、俺が明後日の朝からしばらくララヤレルンを留守にするのは皆いいな?」

「ええ。でも、その理由はまだ聞いていませんね」

「北神様が何処に向かうのか、何をしに出かけるのか。我らにもお教えいただけるのでしょうか?」

 

 テレジア、ニコにも頷きを返す。

 

「もちろん、そのために集まってもらった」

 

 結論から言えば。

 

「向かう先は西方大陸(ゾディアス)のウェスタルシア王国領。目的はあるモノの回収だ」

「ぼかしましたわね」

「明言は避けさせてもらう。ただ、ここにいる顔ぶれなら少し考えれば何となく察しはつくはずだ」

「そうですな。とりあえず、メラン殿を英雄たらしめているチカラの根源。その欠片のようなモノだと思っていただければ良いかと」

「……なるほど。つまり、ビックリトンデモ案件というワケですか」

 

 エル・ヌメノスの尼僧の遺体。

 彼女の『躰』が安置されている墓所の在り処。

 ビックリトンデモ案件と言われれば間違いなくそうなのだが、秘紋が不服げに手の甲で歪んでいく。

 が、

 

「俺にとって、これは人生を懸けた旅の目的だ。俺自身の存在意義って言っても過言にはならない」

「……そ、そこまでですか」

 

 続く発言に、秘紋が分かりやすく機嫌を直したのが曲線の変化で分かった。

 照れて恥ずかしくなったのか、服の内側にまで引っ込んでしまう。

 するとそこで、ニコが挙手をした。

 

「北神様の行動の是非については、我らは推し量りようもありません。

 ですが、西の大陸に向かうのであれば、かなりの時間がかかるのではありませんか?」

 

 異界の門扉も、開錠者が一度足を運んだところにしか望んでは開けられない。

 海を越えるならば、また船上の旅か。

 トライミッド連合王国には優れた造船技術があって、優秀な船乗りたちもいる。

 ならリュディガーを追いかけた時と同様、もう一度巨人の船に世話になるか?

 

 いいや違う。

 

 首を振って言う。

 

「西には、空から向かうから時間はかからない」

「……そ、空から?」

「! 先輩、もしかしなくても私の出番ですねっ?」

「残念だが違う」

「え」

 

 変身飛行少女フェリシアが、我が意を得たりとばかりにパァァと顔を輝かせかけたが、すぐにビシリと固まった。

 苦笑。

 

「いやさすがに、フェリシアに俺を空輸してもらうのは無理がある」

「バカ弟子が。どれだけの距離があると思ってるんだ」

「フェリシアさんの飛行能力を疑うワケではありませんが、体力が保たないでしょう」

 

 ベロニカが呆れ返り、ゼノギアがトドメを刺す。

 少女は顔を赤くして俯いた。

 俺の役に立てるチャンスだと思って、早とちりしてしまったのだろう。

 

「あー、コホン。それで空からってのだが、ウェスタルシア王国から()()()が迎えに来てくれる手筈になってるんだよ」

「ほほぅ、ガイド? それが、明後日の朝に?」

「ああ」

「どういった方なので?」

 

 カプリが何だか、すでに察しのついてそうな眼差しで肩を竦めた。

 もったいぶっても仕方がない。

 

「──ドラゴンだ」

「……は?」

 

 背後からクリスが、間の抜けた声で唖然とした。

 しかし事実である。

 

「案内人を務める使者は、ウェスタルシア王国の王妃であり財相でもある──」

 

 ガブリエラ・ベルセリオン。

 旧姓はゴールデンハインドと云うらしいが、

 

「聖剣王ベルーガ・ベルセリオンとその竹馬(ちくば)の友だという近衛と同じく、彼の国でたった三人しかいない『ドラゴンライダー』の一人が、龍に乗ってララヤまで来る」

 

 ドラゴンの名は、黒龍イリス。

 ウェスタルシア王国では間違いなく、最強戦力に数えられるだろう。

 そして今現在の人界で、恐らく唯一、人と共生している純龍である。

 人に手なずけられた、唯一の星の最強種。

 

「俺は、そのドラゴンに運んでもらって、西方大陸(ゾディアス)に行くんだ」

 

 

 

────────────

tips:ドラゴンライダー

 

 渾天儀暦6028年、荒ぶる獣に騎乗できる人間はウェスタルシア王国に三人だけ。

 黒龍イリスの主人である近衛と、その主君である聖剣王、王妃のみ。

 彼らは幼少の砌から、固い結束で結ばれている。

 

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