ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚 作:所羅門ヒトリモン
ドラゴンに運んでもらって、空から西のウェスタルシア王国まで行く。
「けど、どうして今なんだ? って不思議に思うヤツもいるよな?」
俺の目的と行かなきゃならない事情は分かっても、ここまでの説明ではタイミングに関する
そもそも『躰』に関しては、墓所の在り処が十一ヶ月前から分かっていた。
本当ならとっくに回収に向かっている予定だったし、実際、そのつもりで計画だって立てていた。
では、それがどうして今になるまで機を待たなきゃならなかったのか?
「理由は単純だ。目的地に問題があった」
「問題? と言うと、目的地はウェスタルシア王国領とおっしゃっていましたから……」
「まさか、入国を拒否されていたのでしょうか?」
「仮にもウチの団長に並ぶ英雄なら、実質、ドラゴンみたいなモノだしな」
「カプリ様から旦那様は、東方でドラゴンスレイを成し遂げたとうかがいましたが……」
「正確には封印です」
ドラゴンを擁するウェスタルシア王国が、その噂を耳にして、すんなり群青卿の入国を受け入れるはずがない。
テレジアやニコ、ギルベルトの反応は当然の推察だった。
だが不正解だ。
「ウェスタルシア王国から〝待ってくれ〟って言われたのは合ってるよ」
「しかしながら、目的地の問題というのは、そのような政治的な話ではありませんでした」
祐筆であるカプリは、もちろん事情を把握している。
「メラン殿が再び
「で、俺が答えると、その場所が今じゃウェスタルシア王国の辺境の方の土地だってのを、親切にも教えてくれたんだ」
「信頼できる西方大陸人の直接証言をもとにし」
ただし、その情報源となった西方大陸人──
「ちょうど十一ヶほど前、ウェスタルシア王国からトライミッド連合王国へ密使として参られていた御仁ですが、〝無理だ〟とおっしゃったのです」
「……無理?」
「十一ヶ月前、俺たちも同じ反応をした」
だから話を聞いた。
ゼノギアがあの時のコトを思い出して、唐突に挟み込む。
「〝誓い申し上げる。文明の光。いと聖なる光の炉。偉大なるカルメンタ様。我は貴方の永遠の信奉者であり、悪魔の敵である〟」
「……ゼノ?」
「すみません。どうしても堪え切れず」
「……いったい何なんです?」
カルメンタリス教の神父が祈りの定型句。
聖句を唱えたために、連合王国出身者が不吉なものを感じ取り出した。
無理もない。
咳払いをして再び注意を集める。
「ウッウン。俺が向かおうとしていた場所は、最厄地だった」
「──最、厄地……!?」
「世界三大禁忌の!?」
どよめきが会議室を満たす。
まつろわぬ民であるニコやニックですら、戦慄を禁じ得ない。
世界三大禁忌、最厄地とは。
それほどに知名度を持つ渾天儀世界の厄ネタだ。
( ま た か よ ! )
って思いもあるけれど。
「一番可哀想なのは、現在進行形で領土を呑み込まれてるウェスタルシア王国だ」
「領土を呑み込む……!?」
「ではそれは、もしや……!」
「名を口にするのはやめましょう! アレは神出鬼没。下手にこの場で言及すれば、次はここへやって来るかもしれません」
「──ッ!」
ゼノギアの制止に、誰もが口を噤んだ。
なので、俺もここでは控える。
とはいえ、皆の共通認識としてその最厄地が、
移動するスピードは、かなり遅遅としたものらしいが。
「要するに、俺の目的地もそこに呑まれちまってる」
「唄うたいの身としては、吸い込まれてしまったとここは表現したいところですがな」
「ハッ! どっちにしろ、触れたらおしまい、逢ってしまったらおしまい、その手の怪異と同じルールの異界だ」
入ってしまった者がどうなるのか?
〈目録〉は多くを語っていない。
ただ、〝神に呪われた地〟とだけ記している。
(──そう。
ゼノギアが強い拒絶反応を示すのも納得の曰くだ。
現在の世界宗教カルメンタリス教の信徒としては、絶対に見るのも聞くのも避けたいはずである。
いったいどんな地獄なのやら。魔物の楽園か?
「詳細は実際に、行ってみなけりゃ分からない」
「い、行ってみなけりゃって……!」
「行ってしまったら、二度と戻っては来られないのでは!?」
「──
カプリが誇らしげに「フフン」と鼻を鳴らす。
フェリシア、ゼノギア、カプリを除いた面々は知らないが。
「まぁ心配は要らない。俺には脱出のアテがある」
「例の世界破壊とやらか」
「そうだ。群青卿の旗が何の紋章かは皆も知ってるよな」
森羅斬伐は同じ最厄地である
「中の事情がどうなってるかは知らんから多少手こずるコトはあるかもしれないけど、斧さえ使えるなら最後には何も問題無い」
断言すると、右側の席からは苦笑と納得の気配。
左側の席からはベロニカを除いて、「マジ?」という半信半疑の気配が。
ベロニカは最初から最後まで、「ケッ!」という感じで変わらない。
「つーワケでだ。ウェスタルシア王国には無理でも構わんから案内頼むって話をつけるために、連合王国にはいろいろ調整をしてもらってた。
その調整に
フェリシアに視線を投じると、羞恥心から復帰したフェリシアがコクンと頷く。
それと共に、空中にエルノス語の綺麗な文字列が並び出す。
「ひとつは皆も知っての通り、
トライミッド連合王国からメラネルガリア、ティタノモンゴット。
ダークエルフと巨人の国に使者を送って、会談の準備に勤しんでいる。
というのも、あの最悪の吸血鬼、闇の公子とも呼ばれる鯨飲濁流が復活してしまったから。
人界危急の大事のため、手に手を取り合って抗おうという目的で。
「……あいにく、鯨飲濁流復活から一年は経つっていうのに、同盟の
ベロニカがやれやれとタバコをふかした。
「こら師匠! ……もう! お行儀が悪いですよ!」
「うるさい」
「メラン殿下のおかげで、幸いメラネルガリアとの国交は早期に始められたと聞きましたが」
「始められただけで、どうも難航しっぱなしで」
トーリー王とザディア宰相に泣きつかれて、俺はメラネルガリアに異界の門扉を繋いだ。
だけど、そこには十年以上前の祖国の姿(=廃墟)がよりうらぶれた状態で残されていて、俺の知ってるダークエルフは姿を消していた。
まさか滅亡しちゃったのか!? ともちろん震え上がった俺だったが、今現在のメラネルガリアはどうやら遷都していたらしく。
連合王国が把握していた遷都後のメラネルガリアに、改めて顔繋ぎ要員として足を運ばなきゃならなかった。
で、そこで向かった新生メラネルガリアなんだが……
「ぶっちゃけ、俺の顔パスが全然効かなかったんだよな」
「元王族が聞いて呆れる」
「仕方ないだろ? あれから十年以上経ってるし、クーデター後のメラネルガリアだ」
旧い体制だった黒色信仰の貴種はほとんど絶え。
新しい体制では、かつての社会で低い身分だった者たちが上に登り詰めた。
連合王国からの使者と一緒に訪問した俺の相手をしたのは、ミルクチョコレート色の肌の褐色ダークエルフだった。
それも、貴石貴族には何かしらの恨みを抱えてそうなヤツで、田舎出身でもあるのか王子様の名前なんてまったく知らない。
外からやって来た不審な自称
「一応、俺の友だち……今のメラネルガリアでも女王の近くにいるはずのヤツらに、報告はしてくれるって話はついてるんだけどな」
「そこから先が、なかなか進まないようで」
「なんだったら多少は荒っぽくても構わないと思って、死霊でも潜り込ませようか? って提案はしたんだ。でも」
「ああ……父から聞きました。陛下が断ったみたいですね」
国家間の信頼を結ぶのに、最初にそんな手段を取ったら不要な疑念を持たれる。
あくまでも正式に、礼を尽くして手を取り合うのが理想だと。
あるいはそれは、俺と関わる上での国防を意識した態度も含んでいたかもしれない。
自分たちは誠意を持って接している。
だからそちらも誠意を頼むと。
「本格的に差し迫ったら頼むって言われて、その後はずっと音沙汰無しだ」
「あら。でも最近、やっと進展があったらしいとも私は耳にしましたよ?」
「お、本当か?」
テレジアからの嬉しい情報に、安堵の声が一斉に漏れる。
「あまり詳しくは聞いていませんけど、例のメラネルガリア側の対応者──代官? がひどく平謝りしだしたとか」
「ああ……」
たぶん、ようやくあの双子の耳にも情報が届いたのかな。
「じゃあ残すはティタノモンゴットだけど、こっちはメラネルガリアに比べて輪をかけて大変だって聞いてる」
「ティタノモンゴットの王が古代からの生き残りで、エリヌッナデルク時代の遺恨をかなり引き摺ってるとか」
新生メラネルガリアみたく、交渉の席に着く以前の問題ではなくて。
交渉の席に着けたは着けたんだけど、相手からめちゃくちゃ怒鳴られまくってるみたいなトラブル続き。
長命種と短命種の種族差異やら、単純なデカさの違いやら。
キレた巨人に怒鳴られたら、エルノス人はたまらない。
ティタノモンゴット側の言い分としては、同盟のための談合を開くのは構わない。
ただし、場所は絶対にティタノモンゴットで開催するし、
そもそも大魔を復活させた不手際はオマエたちにあると主張し、過去の遺恨もあって、いっそ従属国となれとまで叫んでいるようだ。
国交ってめっちゃ大変だね。
俺、心底から王族やめて良かったー、って思っちゃったよ。
そのうち他人事でもいられなくなるんだろうけど……
「こんな感じで、トライミッド連合王国も忙しかったってのがまず一点」
ウェスタルシア王国との調整も重ねながらだから、本当に大変だったと思う。
テーブルの真ん中に、①同盟交渉難航の文字が回り始める。
「二点目は、俺と一緒に最厄地に行くヤツらの選定だな」
「え、そんな可哀想な人が?」
クリスが思わずと言った様子で反応し、「し、失礼しました!」と慌てて口を塞いだ。
全員の視線が真っ直ぐ俺の背後へ集中するが、クリスよ。ちょっと失言だったな。
「……まぁ、クリスの言う通りなんだが。普通だったら俺だって行きたくないけど、幸か不幸かこの部屋のなかにその一人がいる」
「ハッ! 可哀想とは言ってくれたものだ」
「えっ、師匠が!?」
そう。今回の旅、俺の同伴者にはララヤレルンからベロニカが選ばれた。
おー、おー、睨んでる睨んでる。
クリスが完全に失言を後悔し出したのを哀れに思いながらも、俺は続けて言った。
「理由は何個かある。それとついでに、俺が留守のあいだのララヤレルンについても、皆には話しておこうか」
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tips:
トライミッド連合王国、メラネルガリア、ティタノモンゴットの三カ国間で始まっている同盟交渉の議題。
鯨飲濁流復活の報を受けて早急な協力体制の構築が望まれているも、同盟はなかなか締結の目処を見つけられていないようだ。
今はまだ連合王国だけが、東境のグリムランドから立ち上る静寂で不穏な空気に焦燥を強めている。