ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#230「準英雄と死霊電話」

 

 

「俺が最厄地に向かうに当たって、連合王国から必然、戦力の提供が打診された」

「メラン殿は最初、それを断っておりましたな」

「ああ。これは俺のやらなきゃならないコトで、連合王国に手を貸してもらうような話じゃないって思ってたからな」

「ですが、そう言われてハイそうですかと引き下がれる連合王国でもなかった、と」

 

 カプリは顎をさすり、「はは〜」と得心している。

 新時代の英雄。

 鯨飲濁流に対抗できる貴重な戦力。

 遠い異国の地で、万が一にも失わせるワケにはいかない。

 それが大国の判断だった。

 加えて──

 

「今の北方大陸(グランシャリオ)には、圧倒的に英雄が足りてない」

「そこで白羽の矢を立てられたのが、読めてきましたぞ。準英雄級とされる人材ですな?」

「そうだ。ここにいるレッドフィールド支部長と、明後日の朝に合流する予定になってる二名を含んだ計三名を、俺と同じ戦場に立たせて()()()計画が立てられた」

「──まったく。実に舐められた評価だが、他ならぬウチの団長との比較結果だ。査定は甘んじて受け入れるよ」

 

 ベロニカがイラッとした顔で、二本目のタバコに火をつける。

 その苛立ちには、俺も少なからず賛同の気持ちだった。

 なにせ連合王国は、事後報告の形で今回の遠征メンバーを決めて来たワケだからな。

 

「まぁ受け入れるしかない。なにしろウェスタルシア王国との調整の結果だって手紙にはあった。なんでもウェスタルシア王国は、向こうから一名、こっちと一緒に最厄地に行くヤツを認めるのを入国の条件にしたみたいだ」

「で、それならトライミッドも、頭数を増やさないワケにはいかないと」

 

 俺とそのウェスタルシア王国の準英雄だけでは、何が起こるか分からない。

 トーリー王とザディア宰相の考えとしては、ウェスタルシア王国が自国の脅威となりかねない俺を暗殺しようとしている可能性すら考慮して(ほぼほぼ無いと思うが)、要人警護も兼ねて自国の人間を選定したのだろう。

 

 相性が良いとはお世辞にも言えないベロニカが選ばれたのは、この女がただの素行不良騎士ってだけでなく。

 実は刻印騎士団のなかでは、アムニブス・イラ・グラディウスに次ぐ戦闘能力を持っているからだと思われる。

 

 もう一人に関しても、たしかに能力値に不安は無い。

 トライミッド連合王国が誇る立派な準英雄だ。

 

「先輩。どうして私たちじゃダメなんでしょうか?」

「たしかに。メラン殿下との相性などを考えれば、即席のフォーマンセルではなく、群青卿の仲間である我々が選ばれて然るべきなのでは?」

 

 フェリシアの質問に、ゼノギアが「いえ、私は出来るコトなら今回の目的地はなるべく辞退させていただきたいのですが……いえ、もちろん、メラン殿下が望まれるのでしたらこの私などに否応などあろうはずも──」と。

 何やらひとり、葛藤と決意に揺れ動いているものの。

 

「申し出はありがたいけどな? 悪いが今回、俺が仲間を連れて行くつもりは最初から無かったよ」

「それは、どうして?」

 

 真っ直ぐなフェリシアの真っ直ぐな質問。

 声はいつも通りだが、俺には分かった。

 もしかすると、ベロニカも気づいたかもしれない。

 

 少しキレてる。

 

「……一人ずつ理由を言っていくぞ?」

「はい」

「まずカプリだけど」

「ふむ?」

「カプリには祐筆として、ララヤレルンでの内政、事務仕事全般を任せてる」

「そうですな。ワタクシがいなくなれば、空いた穴を埋められる者がララヤレルンにはいない! これは困りました……」

「次にゼノギアだけど」

「……」

「ゼノギアには五つ子の世話があるし、連合王国との強いパイプがある」

 

 宰相ザディア、トロイメライ家のテレジア然り。

 

「あと、ゼノギアほど責任感が強くて留守を任せられる男もいない」

「メラン殿下……!」

「じゃあ、私は? 私はどうなんです?」

「フェリシアは、分かるだろう?」

「分かりません。口に出して言ってみてください」

 

 頑として譲らぬ語調に、場の空気がピリリと張り詰めたのを皆が感じ取る。

 俺は一拍、間を置いて、

 

「俺にもしものコトがあった場合、後を託したいのはフェリシアだけだからだ」

「……………………ふぅん」

 

 ふぅん、て。

 納得したような、そうでもないような。

 望んだ答えとは違ったけれど、これはこれでアリだ、みたいなリアクションでフェリシアが姿勢を直す。

 しかし返事は無い。

 

「……他に何か、言いたいコトはあるか?」

「いいえ。話を遮ってすみませんでした。続けてください」

「今日は雨でも降るんでしょうか」

 

 テレジアがボソッと、遠回しに湿度の高さに言及した。

 努めて無視する。

 

「──っていうワケでだ。人選の理由は皆にも大方伝わっただろう」

 

 空中に浮かぶ文字列に、②準英雄選定が踊り出す。

 

「言うまでもないが、ここにいるレッドフィールド支部長も、明後日の朝に合流する二人も、それぞれがそれぞれの予定を持ってるし、内の一人は特にスケジュールの調整が必要な高貴な身分の人間だった」

「ウェスタルシア王国側から迎えを出していただけるというコトは、つまりあちらもあちらで、ドラゴンを飛ばすための調整に時間を要したワケですな」

「そうなる」

 

 ウェスタルシア王国自体は、西方大陸(ゾディアス)の中北部に位置しているから。

 この十一ヶ月で真面目に船や馬を使って旅に出ていたとしても、土地勘の有無に関わらず普通に〝待っていた方がマシ〟なタイムロスになっていただろう。

 

 ヴォレアスから〈大雪原〉、メラネルガリアに帰った時に費やした時間なんか普通に四、五年かかったワケだし。

 

 仮に今そこでニックの肩に止まっている夜天銀月(アリオト)を空の便に使ったとしても、たぶん一年(十八ヶ月)はかかるんじゃないかと計算していた。

 途中途中の休憩や、西方大陸(ゾディアス)で待ち構える各種トラブル。

 

 東方大陸(フォルマルハウト)とはまた違って、西方大陸(ゾディアス)は常秋の超大陸だし。

 

 恐らく渾天儀世界で、最も中世ヨーロッパ風ファンタジーな光景が広がっているだろう。

 まだ本の知識でしか想像できてないけど、ゴブリンとかリザードとかにも遭遇する可能性大。

 

 俺、未だにゴブリンって見たコト無いんだよな。

 

 遭遇できたら、ちょっとだけ感動するかもだ。

 閑話休題。

 

「他に何か質問があるヤツはいるか?」

「私は特には。強いて言えば、ご武運をお祈りしております」

「そりゃどうもありがとう」

 

 一番質問して来そうなテレジアから社交辞令を言われたところで、話題を次に進める。

 ニコは人界同盟とか最厄地遠征とかには驚いてはいるが、それらは部族に直接関わりのある話ではないので特に質問も無いんだろう。

 ギルベルトとクリスはそれぞれ細かい確認事項を持ってそうだが、シュロス組は他のヤツらと違って会議の後でも質問の余裕がある。

 

 明後日の朝、どこにドラゴンが降り立つのか。

 俺が不在の間、護衛の仕事はどうすればいいのか。

 

 たぶんそんなところか。

 

「んじゃ、ここからは明後日の朝以降、俺がしばらくララヤレルンを離れてる間の話だ。今から死霊を出すが、そんなに身構えないでくれ。特にレッドフィールド支部長」

「チッ」

 

 名指しで釘を刺すと、ベロニカは不快げにしながらも片手を上げて了承のポーズを取った。

 何の前置きも無しに死霊を出すと、この女はノーシンキングで燃やそうとする恐れがあるからな。

 これから皆に紹介する死霊は特別なので、いきなり消滅させられたら堪ったものじゃない。

 

 召喚。

 

「……これは」

「キノコ、ですか?」

「どう見ても人型だが」

「凍ってますね……」

「ああ。菌糸人類(マイコノイド)の凍死体だ」

 

 俺が使役する死霊なので当たり前だが。

 喚び出したのはアンデッドのマイコノイド。

 ゼノギア、フェリシア、カプリが「あ」と気がつく。

 その通り。

 

「コイツは壮麗大地(テラ・メエリタ)にいた菌糸人類(マイコノイド)で、見ての通り今は俺の支配下にある」

「殺して死霊術の虜にしたのか」

「いや、向こうで死んでたのを拾っただけだ」

 

 エンディア無きいま、壮麗大地(テラ・メエリタ)の死霊は徐々に数を増やしている。

 俺はユリシスに頼まれて、定期的にそいつらを引き取っていた。

 だから拾ったのも、コイツ一体だけじゃない。

 

「まぁこの菌糸人類(マイコノイド)が具体的に何て種族名なのかは分からないんだが、コイツらにはちょっとした驚異的な能力があってな」

菌糸人類(マイコノイド)の特殊能力と云うと、たしか精神感応などでしたか?」

「そうそう。コイツの種族は特にそれが凄くて、離れた位置にいる仲間ともコミュニケーションが取れるみたいなんだ」

 

 空気中に漂わせた微量の胞子。

 地中に張り巡らせた菌糸のネットワーク。

 それらを通じて、遠距離での意思疎通も可能にする『菌界ネットワーク』を構築できる稀有な菌糸人類(マイコノイド)

 

「驚くべきは、コイツら異種族とも意思疎通を図れるんだよ」

「異種族とも? では、それは──」

「我々とも会話ができるんですか?」

 

 北方では見慣れない姿形の種族だからだろうか。

 ニコとニックが疑わしげにアンデッド・マイコノイドを見た。

 

「会話っていうより、どっちかっていうと思念の伝達って感じだけど、慣れれば会話より早いかもしれない」

「で? そのキノコをどうするつもりなんだ?」

 

 ベロニカがさっさと消せと言わんばかりの様子で、結論を促した。

 言われるまでもない。

 

「ララヤレルンにはコイツらを設置していく」

「設置?」

「試しに後で使ってみて欲しい。とりあえず今ここにいる皆には、それぞれの家と職場、拠点に一体ずつコイツらを置いてもらう」

「拒否権は」

「もちろん構わない。けど、今日からそいつは情報弱者の謗りを免れなくなる」

「……ムカつく男だ」

 

 ベロニカがとうとう面と向かって、毒吐き始めた。

 どうせベロニカがアンデッド・マイコノイドを使うのは当分先になるだろうに、そんなに気に食わないか。

 

「気持ちは分かるけどな。でも、コイツらは俺の死霊だから、何かあったらすぐにコイツらを通じて俺へ連絡が取れる」

「北神様と?」

「死霊術師と死霊は念話ができるからな。そして、俺には異界の門扉もあるから──」

「遠く離れた場所に行っていても、すぐに帰って来られる」

 

 カプリが後半を代弁してくれた。

 

「そう。俺は必ず応える。緊急性がなくても、何か相談事項があるだけでもいい」

「なるほど……」

 

 段々とアンデッド・マイコノイドの有用性に気がついて来たのだろう。

 ギルベルトとテレジア、カプリが顕著に反応を示した。

 

「どれくらいの遠隔疎通が可能なのでしょうか?」

「俺宛てなら無制限。それ以外の相手なら、今はララヤレルンの設置場所に限られる」

「将来的には、他国にも根を伸ばしますかな?」

「どうかな。許されるなら設置場所を増やしてもいいけど」

「すぐに父に打診しておきます」

 

 話の早いヤツらばかりで大いに助かる。

 

「……これまでも遠隔でリアルタイムに念話をする手段はありました。けどそれは、一部の魔術師とかに限られていたのに」

「超常の知識が無い市井の民にさえ、これは問題なく使える……」

「ハッ! 問題がない? 受け入れられると思うのか? この死霊術が」

「見た目の薄気味悪さは事実ですが、そのあたりは何か布を被せるなど工夫次第といったところでしょうなぁ」

「バレたら大問題だ」

「だとしても、今は別に大衆に使わせる予定なんか無い」

 

 話が飛躍しかけたので、脱線を戻す。

 

「俺がいない間、皆にはいつも通り過ごしてもらって欲しい。だけど、もし何か急ぎの連携が必要になったりしたら、自由にコイツらを使ってくれ」

 

 もちろん、アンデッド・マイコノイドによる菌界ネットワーク以外にも、俺は死霊を残していく。

 

「ララヤ以外の七つの都市部には今のまま七万の死霊を残す。国境や周辺警備には、それ用の死霊を別途配置してるし、ニコたちには三柱の獣神を預けた」

「先輩のもとに残る死霊は、大丈夫なんでしょうか?」

「問題ない。まだ万単位で残ってる」

 

 バケモノめ。

 ベロニカが再度、毒吐いた。

 しかしそれでも、不安はあった。

 

「……今のところ、鯨飲濁流の行方は依然ハッキリしないままだ。鉄鎖流狼や、グリムランドの動きも分からない」

「メラン殿下。備えは充分していただけました」

「我らが群青卿が、ララヤレルンに充分に心を砕かれているのは皆も理解したでしょう」

「それでも、言わせてくれ」

 

 何かあったら絶対に俺を呼ぶコト。

 変な気遣いや躊躇はしないでいい。

 ただ事実を即座に伝えて欲しい。

 

「ヤツらが此処へ来たら、必ず俺が殺す」

 

 宣誓は、ゾッと恐怖を誘ったかもしれない。

 やや顔の青ざめた何人かに申し訳なく思いながら、俺はアンデッド・マイコノイドを送還した。

 

「さて! 話はだいたい終わりだ。まぁ何事も無ければそれに越したコトはないんだ。明後日の朝までに急ぎの用事があったら、それぞれ手短によろしく頼む。俺はシュロスにいる。レッドフィールド支部長は──」

「酒場だ」

「……だそうだ」

 

 支部所じゃないんだ。

 恐らく全員がそうツッコミを入れたくなった瞬間だったが、勇気のあるヤツは一人もいなかった。

 副支部長のフェリシアは諦めているし、俺は明後日の朝までこれ以上ベロニカの機嫌を損ねたくない。

 

 ポン、と手を叩いてギルベルトに合図を出す。

 

「それじゃ、すっかり待たせちまったな。昼飯にしよう」

「メニューは何でしょうか?」

「メインは白貂鼠(カリュオネス)の丸焼きとなっております」

「数は?」

「一人一匹ご用意しております」

「食べ切れるかしら……」

 

 食の細そうなテレジアが肩を竦めると、ゼノギアが言った。

 

「もし無理そうだったら、この子たちが食べますよ」

「そうね。食べ盛りだものね」

 

 ホムビヨンは人の何倍も食欲がある。

 

(しっかし、家族みたいな会話だな……さっさと結婚すればいいのに)

 

 またしても全員、そう思ったに違いない瞬間だった。

 

 

 

────────────

tips:アンデッド・マイコノイド

 

 要するに固定電話。

 

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